問題児たちが特異吸血鬼と共に箱庭に召喚されるそうですよ?―終焉なる真祖は月神の末裔!?― 作:問題児愛
―――時は少し遡り、十六夜はヴェーザーと戦闘を繰り広げていた。
「しゃら、くせえ!」
襲い掛かる数多の水柱と岩塊。十六夜は気合い一閃、拳で撥ね除ける。
ヴェーザーは撒き散らした障害物の陰から潜み寄り、十六夜の懐に潜り込む。それに気が付いた十六夜は岩塊を足場に跳び離れて距離を保つ。
瞬く間に瓦礫の平野と化した対岸の街。ふっと十六夜は足を止めてハーメルンの街を見た。
ヴェーザーは警戒しながらも、十六夜に問う。
「どうした坊主。余所見とはらしくねえ」
「………飽きた」
「は?」
「飽きた。殴ったり殴られたりするのも新鮮だけど、なんか思ってたより単調でつまんねえ」
ゴキッと首を鳴らす十六夜。その身体は全身の至るところに細かい傷が付いているものの、致命的な一撃は最初の一打しかない。
ボロボロになって肩で息をしていたヴェーザーは、呆れたように構えを解き、巨大な笛を肩に担いで問う。
「そんなこと言ってもお前………じゃあ、どうすんだよ」
「んーそうだなあ―――――よし、じゃあこうしよう!お前の取って置きを、俺が真正面から叩き潰す!」
「取って置きだぁ?」
「おいおい誤魔化すなよ。懐に飛び込む度に狙っていた、隠し玉の事さ」
「何?」
「このままじゃ埒が明かねえ。だから互いに全力の一撃で決着を付ける。面白そうだろ?」
ヤハハと笑う十六夜。それとは対照的にヴェーザーの表情は険しい。
十六夜はスッと表情を消し、
「真剣な話、他の連中が気がかりなんでな。否が応でも乗って―――」
刹那、ズドォオオオンッ!!と膨大な力のぶつかり合いと取れる轟音が鳴り響いた。
「なっ、」
十六夜とヴェーザーはハッとして上空を見上げる。
そしてその上空では―――我らがメイド真祖の幼い金髪の少女と。
我らが
黒い風の竜巻と灼熱の炬火がぶつかり、
その一撃一撃から生まれる衝撃波(・・・)は、大気を裂き、大地を抉り、ハーメルンの街を粉々に粉砕していく。
これが神霊同士の戦いなのだと、二人は息を呑んで見つめた。
「ハハ、戦いの余波(・・)だけでこれかよ………!」
「………マスターと互角の人材が参加者側にいるだと………チッ。こいつはやべえな」
「ああ。たしかにヤバイ。だが俺はお前を行かせないぜ?通りたきゃ―――俺を倒していきな!」
「カッ、悪党染みた台詞を吐いてんじゃねえよ坊主。仕方ねえ―――――OK。死ね糞ガキ」
ヴェーザーは己の霊格を全解放した。
魔笛を掲げ、頭上で円を描く様に乱舞し始める。
それに応じて、立っているのも難しい程の地鳴りと震動が襲う。
今までの揺れとは比べ物にならない地殻の変動は、徐々にヴェーザーの魔笛の切っ先に集まっていく。
乱舞する魔笛に、地殻変動級のエネルギーが収束していく。
徐々に揺れが収まっていく中、十六夜は腰を落とし、右腕を引き絞る様に後ろへ下げる。
腕力だけでなく、全身の駆動をフルに使った、生涯初めての全力に心が踊る。
「よしよしいいぞ………!かなり期待できそうだ………!!!」
互いに次の一撃の為、身体を後方に捩る。
大地の揺れが収束されると同時に―――必殺の一撃はぶつかり合った。
――――――――――
一方、飛鳥とラッテンの戦いも終わりを迎えようとしていた。
(………ああ。コレは少しずるいわ)
飛鳥は耳元で響く魔笛の向こうに、嘗て捨ててきた世界の夢を見ていた。
幼い頃から彼女が抱いていた、籠の外の世界。
壁を越え、海を越え、国境を越え。
亡くなった両親と姉妹と一緒に、何に縛られる事もなく笑顔で走り回る私。
叶う事の無かったハロウィンの夢を、失った家族と共に見る。
捨てた世界の残響が、耳の奥を擽る。 なるほど、コレは正に魔笛だと頷く。
〝Trick or Treat!!〟と口にしてはしゃぐ私を、静かに見つめる私。
陶酔してしまいそうな甘美な夢に取り込まれる瞬間―――一つの約束を思い出した。
〝いつか俺達で―――俺達のハロウィンをしよう―――〟
(………。そうね。〝Trick or Treat!!〟は、その時まで取っておきましょう)
約束を胸にふっと陶酔から目を覚ます。気が付けば、演奏は終わっていた。
ラッテンは肩で息をしながら、困った様に笑っている。
「一曲分………という約束だったものね。夢は見られましたか、御客様?」
「………ええ。とても素敵な夢だったわ」
飛鳥の掛け値無い評価だった。何より、亡くなった家族の顔をもう一度見るような機会は、今後二度と訪れる事は無いだろう。思い出せる最後の家族の顔が夢の中の笑顔だというのなら―――それはそれでいいかもしれない。
パチパチと、気が付けば拍手を送っていた。
ラッテンは苦笑する。約束を破ってもう一曲奏でていれば、ラッテンは飛鳥を支配下に置けたかもしれない。しかしその様な無粋な真似を、魔王の配下である彼女の矜持が許さなかった。
何より、紅い鋼の巨兵―――ディーンの忠誠を揺るがす事は出来なかったのだ。ならこのゲームは彼女の敗北だろう。
ラッテンは膝を折り、流した鮮血と共に光の粒子となって消えていく。
「あーあ………負けちゃった。ま、さっきの一撃で殆ど致命だったんだけど。加えて全力の演奏とかやっちゃったもんだから………悪魔の霊格が保たなくなったみたい」
「……………」
「じゃあね、可愛いお嬢さん。ご静聴感謝します♪マスターによろしくね」
「此方こそ。素敵な演奏をありがとう」
トドメを刺すまでもなく、ラッテンは敗北を認めて風と共に消える。
カラン、と落ちた笛を拾い上げると、教会の向こうからジンの声がした。
「飛鳥さん!無事でしたか!?」
「ええ。ちょっと髪が乱れてるけど、それぐらいよ。それと―――はい。コレが真実のステンドグラスよ。貴方がそれを確保して」
「は、はい。でも飛鳥さんは?」
「魔王と戦いに行くわ。この子を連れてね」
飛鳥が指差すと、ディーンはズシリとした動きを見せた。
驚くジン達を尻目に、飛鳥は魔王の下へ急ぐのだった。
――――――――――
強大な二つの力のぶつかり合いは瓦礫の山をも吹き飛ばし、一帯は焦土と化していた。
ヴェーザーは、砕けた魔笛の尖端を静かな瞳で見つめて呟く。
「………おい坊主」
「なんだ?」
「お前、本当に人間か?」
ヴェーザーの言葉に、十六夜は肩を竦めた。
だが十六夜の右腕もボロボロだ。拳は砕け、肉は内側から爆ぜた様に傷付いている。背中から倒れ込んでいるところを見ると、打ち負けたのは十六夜の方なのだろう。しかし腕一本と引き換えに、敵の主力を砕けたのだ。成果としては申し分無い。
十六夜はゆっくりと立ち上がり、左手を掲げて続行を促した。
「さ、続けようぜ。笛が砕けてもまだ戦えるだろ?」
「………。いや、そうでもないらしい」
サラリ、とヴェーザーの身体が崩れ始める。
光の粒子となっていく両腕を見つめながら、ヴェーザーは一人呟いた。
「チッ。召喚の触媒が砕かれれば、そりゃこうなるよな」
「………消えるのか?」
「ああ。………あーくそ。くだらねえ挑発なんぞ乗るもんじゃない」
「つれない事を言うなよ。こっちは結構楽しかったし、なにより痛かったぜ?」
右腕を押さえながら、脂汗を流して笑う。右腕の損傷は其れ程に深いのだ。
徐々に存在が希薄になっていくヴェーザーに、十六夜は背中を向け、
「じゃあな。何度も言うが、楽しかったのは嘘じゃねえよ。真正面から俺と殴り合える奴なんて、今までいなかったからな」
「当たり前だ糞ガキ。お前みたいな人間がホイホイいてたまるかよ。………ま、達者でな」
ヤハハ!と笑って去っていく十六夜。
見送ったヴェーザーは独り、天を仰いだ。
「そうさ。お前みたいに傲岸不遜な人間は………前のマスターぐらいで十分さ」
沈み行く太陽と少年の背に、遠い日の面影を見る。
そんな執心がこの敗北を招いたのだと悟り、苦笑いを浮かべて静かに崩れ去るのだった。
――――――――――
また少し時を遡り、ルーナとレティシアはペストと対峙していた。
「ふふ。レティ姫。ペストに〝龍の遺影〟は通用しません。此処は―――」
「わかってる。元より………そのつもりだったからな」
レティシアはルーナよりもたらされた〝蕾〟のままの異能に、自身が手に入れたい力を願う。
「(私が、望む
スッと、レティシアは右手を掲げて宣言する。
「―――異能『
その刹那、レティシアの右手には―――何千度の灼熱の火球が造り出された。サイズは握り拳一つ分と小さめだが。
そしてレティシアは灼熱の火球をペストに目掛け放った。
ペストはそれを見て驚愕するが、咄嗟に己を中心に黒い風を球体状に造り出し、身を守った―――はずだった。
「―――――……………ぐ、あっ!?」
握り拳一つ分だったはずの火球は、黒い風とぶつかり、鬩ぎ合い―――瞬間。造り出された火球の千倍(・・・・・・・・・・・)に匹敵する程の特大の爆炎が巻き起こった。
ペストは完全には防ぐ事が出来ず、全身に痛烈な火傷を負ってしまった。
それもそのはず、黒死病は太陽の力が弱まっている時期に発生した疫病なのだ。それなのに太陽に弱い黒死病の黒い風で身を守ったのだからこうなってしまうのは必然であり、ペストの運の尽きだった。
ペストの視界が霞む。意識は朦朧とし始め、飛翔しているのが可笑しなくらいに―――瀕死の重傷を負っていた(・・・・・・・・・・・)。
「(プロミネンス――――太陽、の………恩恵……………!??)」
〝太陽の恩恵〟。ペストには最悪の相性であり、致命的な傷を負わせるギフトだ。
そしてこの灼熱の火球は後に―――神霊級を一撃で葬り去る強大なモノになることに、彼女は気付くことになるであろう。
対するレティシアはというと、
「……………ハァ、ハァ」
強力な異能の為、たった一度の使用にも拘わらず、疲弊仕切っていた。
レティシアが太陽の恩恵を使用しても何ともないのは、ルーナの、〝月の加護〟により太陽の光から守っているからである。
ルーナは肩で息をしているレティシアの金髪頭にポン、と手を置いて優しく撫でて労う。
「ふふ。お疲れ様ですレティ姫。私の出番がほぼ要らないくらいの戦果でしたよ」
「………ふふ、そうか。私は………役に、立ったのか?」
「ええ。其れはもう凄くです。この戦いが終わったら、飲ませてあげますからもう少し辛抱してくださいね?」
「ああ。わかった。私は………黒ウサギ達の元に行って身体を休めておくよ」
「はい。あとは私に任せてください。―――――〝――――様〟を討つのは私がやりますので」
「……………?う、うむ。気を付けるんだぞ?お
「はい」
ルーナとレティシアは頷き合うと、ルーナはペストの下へ飛翔。レティシアは黒ウサギ達の元に降り立った。
――――――――――
遂に最終ラウンドといったところか、ルーナとペストが対峙していた。
ルーナのヘカテーの恩恵のタイムリミットも残り僅か。
ペストの身体はほぼ限界に近い瀕死の状態。
互いにそれぞれの時間制限を前に、それでも二人は笑みを交わし合った。
「此でゲームセットです。ペスト」
「………そうね。ヴェーザーもラッテンも倒されてしまって、マスターである私も瀕死。絶望的な状況だわ」
ルーナの言葉に、ペストは苦笑して答える。
だがヴェーザーとラッテンは最後の最期まで己の為に戦ってくれた心優しき悪魔の同士。簡単に敗けを認めるわけにはいけない。
ペストはスゥ、と目を閉じて想いを秘め―――目を開けて宣言する。
「―――異能『
最期の悪足掻き、死神の死の恩恵を宿した風を―――否。嵐を吹き荒らせた。
ルーナはそれを見て驚きの表情を見せるが、すぐにスッと目を細めて笑い、真紅の鎌『紅月の鎌』を―――否。〝新月の鎌(・・・・)〟を振り翳して―――――死の風目掛けて一直線に飛翔する。
ペストは驚きながらも、両の掌で死の風を操り、ルーナにその風を吹かせる。
ルーナはその風を―――鎌で真っ二つに切り裂いた。
「なっ、」
「―――此で終わりです………!」
「―――――っ!?しまっ」
ペストは眼前に迫った死神の鎌に、思わず目を瞑った。此処で死ぬんだ、と。
しかし痛みは一向に襲ってこない。
ペストは不思議に思い目を開けると―――
「………ぇ?」
ペストの小柄な身体をルーナが抱き締めていた。新月の鎌を背にして。
ペストは敵に抱き付くなど何を馬鹿なことを、と呆れていると、ルーナが小声で囁く。
「―――やっぱり私にはペストを―――――〝――――〟様を殺せません………!」
「………ルーナ。貴女何を言ってるの?私は魔王よ。いいから殺しなさい」
「………私には殺せません」
「どうして?」
ペストの問いに、ルーナは涙を眼にいっぱいに溜めながら告げた。
「それは―――――貴女様は私の大好きな家族のような存在だからです………ッ!!」
「……………っ!?」
ペストは驚愕した。そして同時に思った。彼女は狡い子だな、と。
彼女は私にいつも笑顔を絶やすことなく振り撒いてくれた。
彼女は私が寂しい時はいつも寄り添ってくれた。
彼女は私が辛い時はいつも慰めてくれた。
彼女は自分の事より私の心配ばかりしてくれた。
私にとって彼女は―――妹のような存在だった。
そして彼女は―――――私に黒死病が
ああ。思い返してみれば、彼女に助けてもらってばかりだな。
でも、だからこそ私は―――八〇〇〇万もの怨嗟の声に、黒死病のせいで儚いその命を散らした彼女の―――――ルーナの為に、復讐を誓ったのだ。
喩えそれがルーナの望まない事だとしても。私は立ち止まることは出来ない。
もう後戻りは出来ないのだ、と。
私は、ルーナの震えている小さな身体を優しく抱き締め返した。
「………〝――――〟様!」
「ルーナ。貴女の気持ちはよく分かったわ」
「!!そ、それじゃあ………!」
「―――――だけどごめんなさい、ルーナ。私はもう後戻りは出来ないの。魔王に成ってしまった私には」
「―――――っ!?そん、な………!」
ルーナは小さな身体を震わせながら泣き出してしまった。
私はそんな彼女を見て、罪悪感に苛まれる。しかしそれを私は振り払って―――ルーナの背にある新月の鎌を手に取った。
それに気が付いたルーナは私を止めようと手を伸ばし―――
「―――――……………かはっ」
新月の鎌の切っ先は彼女の、ルーナの胸を―――心臓を貫いた。背中から胸へ深々と。
そして私はあの時とは違う―――故意でルーナを殺した。否。殺してしまった。
かはっ、と血塊を吐いたルーナは、私の顔を苦痛な、だけど悲痛な表情で見つめ、
「―――――どう、し………て……………?」
「ごめんなさい。私にはどうしても成さなきゃならない目的があるの。それを邪魔する者は誰であろうと容赦しないわ………喩え貴女であっても、ね」
ズボッ!と容赦無く鎌をルーナの身体から抜き取る。
その刹那、鎌によって塞き止められていた彼女の鮮血は、夥しい量の血飛沫となって彼女の身体から流れ出ていく。
「――――さ、ま」
私の名を零したルーナは私の胸に倒れ込み―――――やがて動かなくなってしまった。
そう。喩え不死の王であろうと、血を全て失ってしまっては簡単に復活することは出来ない。
加えて新月の、死の恩恵が宿った死神の鎌で心臓を刺されてしまえば、尚更復活は容易ではないのだろう。
私は動かなくなってしまった
「(―――待ってなさい、ルーナ。私は貴女の、貴方達の仇を―――――絶対に討ってみせるから………!!)」
決意を胸にして―――――眼下の参加者達に向かって死の風を奔らせるのだった。