問題児たちが特異吸血鬼と共に箱庭に召喚されるそうですよ?―終焉なる真祖は月神の末裔!?― 作:問題児愛
まあ月夜の過去編が多めになりますが。
プロローグ
その日は雷雨の伴う最悪の天気だった。
金のツインテールを揺らしながら駆ける少女―――ライムは、この悪天候の中、死神の指ならぬ、〝銀の弾丸〟から逃げ回っていた。
雷雨のため、自慢の霧化は封じられて逃げ惑うしか生き残る術は残されていなかったのだ。
「待て!ヴァンパイア!」
「待てと言われて待つ阿呆がおるか!」
銀の弾丸の入った銃口をライムに向けながら疾走する男。
その男の黒スーツの胸元には〝十字架〟のバッチがつけられている。
それは吸血鬼を狩るもの―――〝
「ハッ!我々はプロの吸血鬼ハンターだ!逃げられると思うなよ、ヴァンパイア!」
そう言って黒スーツの男は己に背を向けて逃走するライムの頭に照準を合わせトリガーを絞る。
ガァンッ!
その銃声と共に〝銀の弾丸〟は放たれ、瞬く間にライムの頭に吸い込まれるように飛翔していく。
「………っ!」
死弾の接近に気づいたライムは咄嗟に左に跳躍してこれを躱す。僅か数センチのところを、死弾が通過していった。
それをライムは紅眼で確認して冷や汗を流す。あと数歩跳ぶタイミングを間違えれば、確実に自分の頭を撃ち抜かれていたのだろう、と。
プロの腕前は異常だ。ライムは左右にジグザグに走って照準を合わせられないようにしているにも拘わらず、頭の中心を確実に狙ってくる。
その辺の素人が賞金欲しさに撃ってくる弾丸とはわけが違う。
ライムは冷や汗を流しながら十字路を右折して路地裏に入った。男はその背中を追う。
「………あ?」
男は路地裏に入ったが、既にライムの姿は無かった。
男は盛大に舌打ちして路地裏を散策する。
拳銃片手に慎重に確認していく。
「……………チッ、」
男は結局ライムを見つける事が出来ず再び盛大に舌打ちしてその場を後にした。
一方、ライムは―――――マンホールの中に息を潜めていた。
男の濃厚な血の匂いが消えたのを確認してガコン!とマンホールの中から出てくるライム。
「―――――ふむ。行ったか」
辺りを警戒するようにキョロキョロと見回しながら路地裏を突き進むライム。
路地裏を抜けると小さな公園がある場所に出た。
ブランコと滑り台、砂場くらいしかない小さな公園だった。
「………彼処なら隠れられそうだな」
ライムが目をつけたのは―――無数に穴が空いた球体状の岩塊。
そこへ向かって歩を進めると―――黒光りする怪しいモノが視界に映った。
そう。それは―――――拳銃の銃口だった。
「―――――っ!?」
「来たなヴァンパイア………!食らいなッ!!」
ガァンッ!
銃口から〝銀の弾丸〟が火を吹き、一直線にライムの額を撃ち抜かんとする。
ライムは咄嗟に右に上体を傾けて間一髪で死弾を躱す。だが頬を掠めたのか、ジュッ!と肌が焼けるような音を立てて彼女の頬は焼け爛れた。
「チッ、躱されたか………!」
男は舌打ちして岩塊の穴から出てきてライムに殴り掛かる。
「………っ!」
焼け爛れた左頬を打たんとするその拳をライムは右脚を軸にして回し蹴りを繰り出し弾く。
その際に男の視界に彼女のスカートの中身の黒いナニかが映り、
「(………ふむ。黒か―――――って何ヴァンパイアとはいえ女の子のスカートの中身を見ちゃってんだ俺!?)」
男は真っ赤になった顔を腕で隠しながら数歩後ろに下がる。
その行為にライムは眉を顰めて怪訝な瞳を男に向ける。
「……………」
「見てない!俺は何も見てないぞ!ヴァンパイアの穿いてる黒い下着など俺は―――――ってハッ!?」
ご丁寧に内容を吐露してしまったことに俺は青ざめた。
その表情を見たライムは―――ニヤリと笑って男をからかった。
「ほほう?人間。御主は我がスカートの中身に興味がおありか?」
「な!?い、いや。別に………興味なんかねーよ!」
「本当にか?」
「本当だッ!」
「ホントのホントにか?」
「……………本当にだッ!!」
「今の間はなんだ?」
「あ?―――――っ!?あ、いや。これは………その、」
ライムに指摘されて言い淀む男。
ライムは今のうちに紅い双眼で男の情報を探る。
容姿は茶髪の短髪で切れ長の目を持ち瞳は黒い。身長はライムより40cm程高く、長袖長ズボンの―――学生服を着ている。
そして何より―――学生の男の胸元には〝十字架〟のバッチは無く、〝組織〟の者ではないことが分かり、ホッと胸を撫で下ろすライム。
一方、学生男は敵意が全く感じ取れないライムを訝しく思っていた。
「………おいヴァンパイア」
「なんだ?エロガキ」
「誰がエロガキだ!ってお前の方がガキだろ!ロリっ子吸血鬼!」
「フン、見た目で判断されては困るぞエロガキ。我は何百年と生きる吸血鬼を統べる王にして―――真祖であるぞ?頭が高いのだよ人間のエロガキ!」
「エロガキエロガキ言うなッ!―――ってハア!?真祖だと………!?」
「声がデカイし五月蝿いぞエロガキ!そうだ!我は真祖だ!先に言っておくが―――姫ではないぞ?」
「―――――な!?」
学生男は絶句した。まあそうなるのは無理もない。
目の前にいるどう考えても姫みたいな吸血鬼が、姫ではなく真祖と名乗っているからだ。
それに驚くことはそこじゃない。それは―――
「待て!お前が真祖だと!?いや、ありえない!吸血鬼の真祖は―――姫もろとも滅んだって聞いたはずだ!」
「ふむ?滅んだ………か。じゃあ目の前にいる我はなんだ?只の吸血鬼にしか見えぬか?」
「見える」
「……………ぬぅ」
ガクリ、とその場に両手と両膝をついて項垂れるライム。只の吸血鬼に見られたことが余程ショックだったのだろう。
学生男はそんな彼女に苦笑を零すが、目の前にいるのが真祖であるなら、吸血鬼の根源は断たねばならない。
そう決断した学生男は―――項垂れるライムの頭に銃口を押しつける。
「………お前が真祖なら好都合だ。悪いがこのまま死んでもらうぞ」
「……………」
対してライムは無言で下を向いたままでいる。
学生男はさらに怪訝な顔を見せる。
「なんで抵抗しないんだよ。お前は死ぬのが怖くないのか?」
「………どうだろうな。だが―――」
スクッと立ち上がったライムは、学生男が握っている銃の頭を掴んで―――自分の胸元に押し当てる。
学生男はその行為にギョッと目を見開いて驚愕した。
「な!?お前何をやって………!?」
「我を殺したいなら心臓を狙え。頭を撃たれた程度では我は死なぬよ」
「―――――っ!?」
学生男は再度絶句した。それもそのはず、ライムが自らの胸元に―――心臓のある部位に銃口を押しつけているからだ。
そしてもう一つは―――彼女が見せる覚悟の瞳。そう。死を覚悟した瞳で彼を見つめていたのだ。
学生男はスッと目を細めて問いかけた。
「………何でお前は俺を殺そうとしない?真祖なら人間の俺を殺そうと思えば何時でも殺せたはずだ!」
「そうだな。殺そうと思えば殺せるよ。だが……………我は人を殺したくない。我が命を狩ろうとする〝組織〟の連中であろうと―――御主であってもな」
「………え?」
「人を殺して何の意味がある?愉悦感や達成感か?いいや、そんなものは生まれはしない。生まれるのは―――人を殺してしまった悲しみと罪悪感のみだ!」
「何を言って………」
「詭弁だと思ってもらっても構わぬ。戯れ言を抜かすなとも虚言を弄するなとも………だが此だけは言おう。我はどんなことがあっても―――――人を殺さないと」
ライムは断言して言い切る。その表情には、瞳には嘘偽りのないまっすぐとしたものだった。
言い切ったライムは目を閉じて生か死か、学生男に委ねる。
学生男は彼女の完全に無防備な姿を見て驚きを隠せない。
それもそのはず、胸元に銃口を押しつけている状態にも拘わらずに、目を閉じてその場で静止しているからだ。
学生男はこのままトリガーを絞って彼女の胸板を、心臓を撃ち抜くかどうか、悩んでいた。
「(………俺は親父から吸血鬼は〝悪〟と教えられてきたが―――――本当にそうなのか?)」
目の前の彼女を見て、学生男の気持ちは揺らぎ始める。
「(コイツは人間を殺したくない、と言っていたがまさか―――親父達が誰一人欠けることなく吸血鬼狩りから帰ってきたのはその為か!?)」
そう。彼の父は〝組織〟のリーダー格のような存在で、毎夜毎晩〝組織〟のメンバーを引き連れ、吸血鬼狩りを行っている。
その戦果は凄まじく、彼らに見つかった吸血鬼達は一人残らず殲滅されているらしい。
唯一、彼らから逃げ延びられているのは―――目の前の彼女くらいだろう。
「(―――――はぁ。なんだか馬鹿らしくなってきた。俺は……………無罪のヴァンパイアを殺すなんて出来ねえよ)」
学生男は左手でボリボリと茶髪頭を掻くと―――拳銃を胸の裏ポケットに仕舞った。
それを察したライムは目を開けて怪訝な瞳を向けた。
「―――何故我を殺さない?絶好の機会を与えてやったというのに」
「ハッ!お前が俺を殺さなかったみたいに、俺にもお前を殺さない理由があるんだよ」
「………ふむ?それで我を殺さなかった理由とは何であるか?」
「………内緒だ」
「ぬ、」
「ぬ?じゃねえよ。内緒ったら内緒だ!」
学生男は頬を若干朱に染めて顔を背ける。
その様にライムは不思議に思い小首を傾げる。
学生男はチラチラと彼女を見て―――ポン、と金髪頭に手をおいてわっしゃわっしゃと撫でる。
「まあそういうことだ。それで、お前の名前はなんて言うんだ?」
「うん?我の名か?」
「ああ。そうだ」
「……………ふむ」
名を訊ねられたライムは、うーんと暫し考えて―――
「我が名はライム。ライム・ストーン・クイーンだ。宜しくであるぞ、エロガキ」
「エロガキ言うな!俺の名前は
「………エロガキ」
「エロガキ言うなっつっただろうがぁあああああッ!!!」
ズドゴォオオオオンッ!!!
「うぎゃぁあああああんッ!?!?」
胸の裏ポケットから拳銃を取り出した衛は―――ライムの金髪頭に遠慮無用に奔らせる。
ライムはその一撃に断末魔のような絶叫を上げるのだった。
過去編と言っても二巻のプロローグで紹介した〝少年〟との出会いになります。