問題児たちが特異吸血鬼と共に箱庭に召喚されるそうですよ?―終焉なる真祖は月神の末裔!?―   作:問題児愛

48 / 60
四巻突入です。


十三番目の太陽を撃て―――月殺しの復活
プロローグ


『ギフトゲーム名〝SUN SYNCHRONOUS ORBIT in VAMPIRE KING〟

 

 ・プレイヤー一覧

  ・獣の帯に巻かれた全ての生命体。

  *但し獣の帯が消失した場合、無期限でゲームを一時中断とする。

 

 ・プレイヤー側敗北条件

  ・なし(死亡も敗北と認めず)

 

 ・プレイヤー側禁止事項

  ・なし

 

 ・プレイヤー側ペナルティ条項

  ・ゲームマスターと交戦した全てのプレイヤーは時間制限を設ける。

  ・時間制限は十日毎にリセットされ繰り返される。

  ・ペナルティは〝串刺し刑〟〝磔刑〟〝焚刑〟からランダムに選出。

  ・解除方法はゲームクリア及び中断された際にのみ適用。

  *プレイヤーの死亡は解除条件に含まず、永続的にペナルティが課される。

 

 ・ホストマスター側 勝利条件

  ・なし

 

 ・プレイヤー側 勝利条件

  一、ゲームマスター・〝魔王ドラキュラ〟の殺害。

  二、ゲームマスター・〝レティシア=ドラクレア〟の殺害。

  三、砕かれた星空を集め、獣の帯を玉座に捧げよ。

  四、玉座に正された獣の帯を導に、鎖に繋がれた革命主導者の心臓を撃て。

 

 宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します。

        〝          〟印』

 

 

「な………何、このゲーム………!?」

 

 文面に記された内容のデタラメ加減に耀は絶句した。

 凶悪なペナルティもそうだが、レティシアがゲームマスターという事実に言葉を失う。

 

「危ない、避けて!!」

 

 ハッと樹霊の少女・キリノの声で飛び退く。

 二人のすぐ傍に二つの岩塊らしきものが落下したのだ。

 落盤にしては不自然な勢いで落ちてきた二つの岩塊を不可解そうに見つめる。しばし岩塊を見つめていた二人だが、どう判断するにしても情報不足。

 今は地上に出るべきだと、耀が背を向けた刹那。

 岩塊から巨大な触手が伸び、キリノを捕縛した。

 

「きゃあッ!!」

 

「っ、キリノ………!?」

 

 しまった、と後悔するが遅い。見れば岩塊は十本の巨大な触手だけでなく四本の脚を生えさせ、その巨躯を移動させ始めていた。

 更にもう一つの岩塊はその全身から激しい熱を振り撒き、全長二十尺はある火蜥蜴となって灼熱の吐息を撒き散らして家屋を焼き払う。

 

『お、お、お嬢ッ!岩石が化け物に!?』

 

「………火蜥蜴と………触手の化け物………!?」

 

 二体の怪物は体格こそ巨人族に劣っているが、その存在感は巨人族に匹敵する。

 助勢が必要だと判断した耀は周囲を見回して仲間を探すが、誰も見つからない。

 焼け落ちた大樹の根の残骸と落盤から逃げ惑う〝アンダーウッド〟の住人達を一瞥した耀は、意を決した面持ちで三毛猫を腕から降ろした。

 

『お、お嬢………!』

 

「………三毛猫。私があの二匹を引き付けるから、飛鳥達を探してきて」

 

『そ、そやけど、あんな化け物を二匹も相手するやなんて………!』

 

「大丈夫。無理はしない。キリノを助けたら私もすぐに合流する。それに、私には月夜から貰った異能(ギフト)があるから平気。―――行って!」

 

 言うや否や、旋風を巻き上げて飛翔する耀。

 歯を食い縛りながらも、背中を向けて走り出す三毛猫。

 夜空に輝く青白い稲光が〝アンダーウッド〟を包んだのは、その直後だった。

 

――――――――――

 

 

「―――――GYEEEEEEEEEEYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaEEEEEEEEEEEEEYYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAaaaaaaaaa!!!」

 

 

 ―――飛鳥達は、神話の光景を見た。

 天地を揺るがす巨龍の雄叫びが〝アンダーウッド〟に響き渡る。

 人の言語野では理解できない絶叫はしかし、その絶対的な存在感を誇示している。

 鼓膜を突き破りかねないほどの雄叫びにあてられた飛鳥達は、驚嘆の表情のまま空を見上げていた。

 

「ジ、ジン君………今のは、」

 

「龍の純血種………!そんな、最強種が何で下層に………!?」

 

 絞り出した言葉に万感の畏怖が籠る。

 夜空を覆う分厚い雷雲から姿を見せたのは、全長を捉えられないほど巨大な龍の姿。

 背筋に奔る冷たい戦慄に震える飛鳥だったが、奥歯を噛み締めてそれを抑える。

 

「………ジン君。皆を探しましょう。十六夜君以外が心配だわ」

 

「は、はい」

 

「………ルーナなら〝私の義妹に危険が迫ってるッ!!〟って言ってレティシアを助けに行ったわ」

 

 ジンが頷いて返すと、ペストはルーナの情報を皆に伝えた。

 それに飛鳥がえっ、と瞳を見開いて問いただす。

 

「そ、それって本当なの!?」

 

「ええ。急に血相を変えて行っちゃったから止められなかったけれど………純血の吸血鬼さんの身に何があったというの………!?」

 

「と、兎に角こうしちゃいられません!早く此処を出て救援にいかないと………!」

 

 ジンは慌てたように皆に告げると、岩肌に辛うじて使えそうな階段を見つけた一同はすぐに走り出すが、その袖をペストが乱暴に引っ張って引き留めた。

 

「ジン、離れないでっ」

 

「ペ、ペスト?」

 

「―――来るわッ!!」

 

 ペストの緊迫した声。相次ぐように稲光を放つ夜空。雷雲から姿を見せた巨龍は雄叫びを上げ、鱗を散弾のように〝アンダーウッド〟へ撒き散らした。

 巨龍の鱗はやがて大蛇や火蜥蜴、五つ尾の大蠍に変幻。

〝アンダーウッド〟を取り囲むように産みおとされた魔獣を相手に、飛鳥達はギフトカードを掲げて臨戦態勢に入った。

 

――――――――――

 

 

「サラ様!ご無事でしたか!」

 

「黒ウサギ殿………いや、丁度良い。すぐ同士を集め帰郷の準備をしてくれ。私達が巨人族に打って出る間に、〝ノーネーム〟も避難を―――」

 

「それには及びません!もう間もなく〝SUN SYNCHRONOUS ORBIT in VAMPIRE KING〟は審議決議の受理によって仲裁されます!〝主催者(ホスト)〟からの反応はありませんが、最低でも一週間の猶予は得られるかと思われます!」

 

 ハッと赤髪を長く靡かせ、頭上には長く立派に生え育った二本の龍角を持ち、健康的な褐色の肌を大胆に露出した衣装を身に纏う女性・サラ=ドルトレイクは息を呑み、光明を得たような表情に染まっていく。

 

「そうか………!〝審判権限(ジャッジマスター)〟があればゲームを一時休戦することが出来る!」

 

「YES!なのでまずは〝アンダーウッド〟に居る魔獣の掃討をお願いするのですよ!」

 

 シュピン!とウサ耳を立てて答える黒ウサギ。

 反撃の糸口を掴んだサラはしかし、一転して不安そうな声を漏らす。

 

「それは構わないが、巨人族がもうすぐそこまで来ている。それはどうするのだ?」

 

「それについては―――」

 

「ぎ、ぎ、議長!!緊急事態ですッ!!」

 

 バタン!と息せき切って飛び込んできたのは、獣人の伝令。

 何事かと思ったサラは厳しい表情で伝令に問う。

 

「どうした?何か不具合でも?」

 

「そ、そうではありません!いえ、ある意味そう言えなくもないのですが………!」

 

 驚きの余り言葉に出来ない伝令。

 サラは訝しげに思いながらも、要件を伝えられずにいる伝令を叱責した。

 

「何があったのかは知らんが、緊急の知らせなら手短に伝えろ!こうしている間にも巨人族が―――」

 

 ―――迫っている、とは続かなかった。彼女が言葉を続けようとした、その直後―――本陣の窓に、()()()()()()()()()()()

 

「………は……!?」

 

 ドガシャァァンッ!!!と盛大に窓を破壊。続いて大樹を揺らす激動と衝撃。

 サラは途端に絶句した。瓦礫と埃を頭から浴びている巨人族の戦士はただ飛んできただけではなく、何か強大な力で武具を打ち砕かれ失神していたのだ。

 

「な………何が、」

 

 何が起こったのか分からない。そんな表情のサラ。

 隣の黒ウサギが非常に気まずそうな顔で助け舟を出した。

 

「え、えーっと………この巨人は恐らく、我々の同士が投げた者かと………」

 

「………()()()?」

 

 思わず聞き返すサラ。しかし黒ウサギから訂正の声は上がらない。

 サラは半信半疑になりながらも瓦解した壁から身を乗り出し、巨人族と〝龍角を持つ鷲獅子(ドラコ・グライフ)〟連盟が戦っている戦場を見下ろす。

 そこで二度目の驚愕がサラを襲った。

 ほんの数分前まで都市付近に追い詰められていた筈の〝龍角を持つ鷲獅子〟の戦線は―――外門までの退路を確保して余りあるほど、盛り返していたのだ。

 それも、たった一人の少年を先頭に据えて。

 

「まさか………あの少年が、巨人を此処まで投げ飛ばしたというのか!?」

 

 そんな馬鹿な!!?と声を荒げるサラ。

 狼狽するサラだったが、傍で控えていた伝令が黒ウサギの言葉を後押しするように付け加えた。

 

「議長。此方のウサギ殿は嘘を仰っていません。そして付け加えて申し上げるのなら、巨人族の侵攻はその少年一人で………ああ、いえ……その、はっきりと申し上げるのならば!少年一人で、巨人族を殲滅せんとする勢いでございますッ!!」

 

「………な、」

 

 伝令の剣幕に半口を開いて呆れるサラ。

 絶句した彼女が我に返ったのは、二体目の巨人が突き刺さってからの事だった。

 

――――――――――

 

「………ふぅん?ケルトの巨人族と聞いていたから、てっきり神群を指すものだと思ってたんだがな。これは考えを改めなきゃいけない。要するにお前達は〝巨大化した人類〟という幻獣の枠組みでしかないわけか。………しかし俺みたいなガキ相手にこの為体じゃ、今頃ご先祖様が泣いてるぜ?」

 

 パンパン、と不服そうに学ランの肩を払い巨人族の軍勢を一瞥する。

 その一挙一動に巨人族はおろか味方までもが動揺し後退した。

 彼の足元には打倒された数百の巨人族と破壊されて散乱した武具の欠片。飛び散る肉片は巨龍によって召喚された魔獣達のモノ。

〝サウザンドアイズ〟のグリフォン・グリーでさえ、そのデタラメっぷりに舌を巻いて呆然としていた。

 

『あれほどの実力者が………〝名無し(ノーネーム)〟のコミュニティに甘んじているのか………!?』

 

 巨人族を、魔獣を、〝龍角を持つ鷲獅子〟の同士を支配していた絶望を踏み砕いた少年―――逆廻十六夜は、不遜な光を瞳に宿らせて巨人族に吐き捨てた。

 

「一度だけ言う。今すぐ失せろ、木偶の坊。こっちは本気で収穫祭を楽しみに来たんだ。唯でさえ空飛ぶ()()()も相手しなきゃならんのに、余計な手間をかけさせるなよ」

 

 舌打ち混じりに罵倒する十六夜。

 その傲岸な物言いに、戦場の時が再び動き出す。

 十六夜の言葉を挑発と受け取った巨人族の軍勢は鬨の声を上げ、今一度〝アンダーウッド〟を目指して進撃を始めた。

 

「ウオオオオオオオオオオッォォォォォォォ――――――!!!」

 

 先陣切って飛びかかる巨人族の戦士。その手には武器らしいものは握られていない。

 徒手空拳で掴みかかったのは、刃物が通じないと判断したからだろう。せめて動きを封じようとして掴みかかるが、圧倒的な俊足をもって十六夜はそれを掻い潜る。

 巨人の後頭部を踏み台に跳躍する十六夜。踏み台にされた巨人は顔面から大地にめり込む勢いで叩きつけられた。

 しかし空中に舞ったのは失策だ。

 彼も人間である以上、空を飛べないのは自明の理。

 巨人族はこれを勝機と判断し、四方八方から一斉に鎖を投げつけて十六夜を捕らえた。

 

「ウオオオオオオオオオオッォォォォォォォ――――――!!!」

 

 二重、三重、四重、五重と重ねがけされていく鎖の束。

 其処に巨人の剛力が加わり、中身を轢き潰すように軋みを上げる。

 幾重もの鎖で縛った十六夜に止めを刺そうと、背後に控えていた巨人が雷を放つ杖を掲げた。

 龍の放つ天雷には遠く及ばないものの、鉄を溶かすほどの熱量を放出する雷球。あれを放てば、仲間の巨人族も無事では済まないのは一目瞭然だ。

 しかし拘束している巨人族の鎖は一向に緩む気配はない。

 十六夜を捕らえた十人の巨人は―――己の命を賭す覚悟で、鎖を握っているのだ。

 

『い、いかんッ!!』

 

 我に返ったグリーは焦りの声を上げた。巨人族の瞳に、決死の覚悟を感じ取ったのだろう。四肢に力を込めて助太刀に踏み切る。しかし余りにも行動が遅かった。

 稲妻と杖を掲げた巨人は、同士の覚悟を一瞥して頷く。

 巨人族の命と誇りを乗せた轟雷は―――

 

 

「―――ハッ、なるほど。誇りの方は腐ってなかったか、木偶の坊―――!!!」

 

 

 ―――星を揺るがす一撃に払われた。

 十六夜を縛っていた巨人族の鎖は木っ端微塵に砕かれ、雷は右の拳にて霧散する。

 仮面を装着している巨人族だが、その驚愕は仮面の上からでも窺えた。

 人類の幻獣である彼らは同じ人類であるがゆえに、敵がどれほど規格外のデタラメ人間であるかが身に染みて分かってしまった。

 しかしそんな巨人族とは対照的に、十六夜の瞳は爛々とした喜色に染まり始めている。

 

「いや、木偶の坊は失礼だな。悪かったよ。―――同士の為に散る覚悟と、勝利の為に同士を殺す覚悟。そんなもんを見せられちゃ流石に馬鹿に出来ねえ。だがこうなると逆に、どうして巨人族(おまえたち)がこんな無法を働くのかを、問わずにはいられなくなるんだが………」

 

「―――……ッ、ォ、オオオオオオオオオオッォォォォォォォ――――――!!!」

 

 十六夜の問いかけを振り払うように雄叫びを上げて襲いかかる巨人の戦士。

 敵が襲いかかってくるなら応戦しないわけにはいかない。十六夜は仄かな疑問を胸の内へと仕舞い込み、巨人の胸元に飛び込んで鎧ごと殴り飛ばした。

 巨人の鎧は粉々に打ち砕かれ、勢い衰えずに後列を巻き込んで何百mと絡み合って吹き飛ぶ。

 敵の沈黙を確認した十六夜はそこで味方へと振り返り、〝龍角を持つ鷲獅子〟連盟にも不敵に問いかけた。

 

「ところで、味方側にも疑問なんだが………〝龍角を持つ鷲獅子〟連盟の同士諸兄らは、いつまで絶望している()()をしてるんだ?」

 

『な、何………!?』

 

 グリーを含めた数体の幻獣達にざわめきが広がる。

 幻獣の言葉が分からない十六夜だったが、その反応を見て意思疎通が可能だと悟り、芝居がかったような作り文句で扇動する。

 

「見ての通り、敵は十人一殺の覚悟で挑んできた。その心構えはなるほど、紛れもない強敵のそれだ。見事と言わざるを得ない。………そんな仇敵の気構えを目の当たりにして、勇気の象徴を掲げる〝龍角を持つ鷲獅子〟連盟が、臆して怯む()()()()()

 

『………ぬぅ……!』

 

 ふふん、と鼻で笑って確信犯的に煽る十六夜。

 ぐぬぬ、と牙を向きながらも黙り込む連盟の同士。言い返そうにも言い返せずザワザワと幻獣達の群れに声が広がる。

 しばしその反応を窺ってきた十六夜だったが、スッと笑みを消して真顔になり、

 

「………いい加減に目を覚ませよ。この収穫祭は〝アンダーウッド〟の再起をかけた大祭だったはずだ。それを奴らは無法にも荒らし、お前達の悲願にケチを吐けた。同士や土地を傷つけ、誇りである旗に弓を引いた。これだけの屈辱を受けた〝龍角を持つ鷲獅子〟の同士の胸中にあるのは―――絶望ではなく、怒りであって然るべきだ」

 

 今度は半ば本気の侮蔑を込めて告げる。それは十六夜の本心でもあった。

〝龍角を持つ鷲獅子〟連盟はこれだけ誇りを踏み躙られ、吐き捨てられ、穢されたというのに………その仇敵を前にして、怒りを爆発させられずにいる。

 それがもどかしくてならなかった。

 

「これ以上動かないようならそれでもいい。それが〝龍角を持つ鷲獅子〟連盟の処世術なんだろうよ。―――けれど忘れるな。このまま仇敵を前に奮い立たずにいたのなら、お前達は〝名無し〟風情の背中に隠れて生き延びたと、後世まで嘲笑われ続けるんだってな」

 

『………ッ……言わせておけばこの小僧ッ………!』

 

『多少は出来るようだが所詮、爪も無ければ牙も無いみすぼらしい猿ではないかッ!』

 

『応よ!奴の拳は二十の巨人を砕いたが、我らの角はその倍は貫いてきたッ!決して劣るものではないぞッ!』

 

 十六夜の獰猛な扇動を受け、幻獣達から闘志と非難を込めた甲高い鳴き声が響く。

 しかし、既に己の騎手を失っているグリーだけは、事情が違っていた。

 長年連れ添った相棒を失った彼だからこそ、十六夜の言葉が深々と胸を抉っていた。

 

「(………故郷を傷つけられ、騎手を討たれたにも拘わらずこの為体………あの少年に笑われたとしても、致し方あるまい)」

 

 グリーは鷲の頭を上げ、獅子の背中を見た。

 其処に長年連れ添った騎手はもういない。連日の戦いで彼の騎手は流れ矢に当たって転落し、行方が分からなくなってしまった。

 相次ぐ凶報と戦いで麻痺していた怒りと喪失感が、徐々に臓腑の淵から湧き上がる。

 

「(連日の苦戦に続き、先ほどまでの覇気の無さ。こんな醜態が、獣王の一角を成す一族とコミュニティの姿でいいはずがない………!!!)」

 

 ―――鷲獅子の一族ともあろう者が、同士を失った悲しみより敵の脅威に屈していた。

 己自身を恥じるような怒りに包まれたグリーは、全身に宿るあらん限りの力で戦慄き、野獣のような雄叫びを上げて巨人族に突進した。

 

『オオオオオオオオオオオオォォォォォ!!!』

 

 人の言語野では同じ獣の鳴き声にしか聞こえないだろう。

 しかし、その雄叫びは、紛れもなく戦士の誇りを乗せた雄叫びだった。

 鬨の声を上げて一直線に突進するグリーは一切の小細工を用いず、竜巻のように旋風を渦巻かせて巨人族の武具を粉々に砕き、その巨体を撥ね飛ばす。

 その雄姿に、十六夜は感嘆の声を上げて称賛した。

 

「ハッ、流石は獣の王様!落胆せずに済みそうだ………!」

 

 超音速の突進で十六夜の脇を駆け抜けた鷲獅子。その姿に奮起した幻獣達も続く形で雄叫びを上げ、士気高く巨人族へ襲いかかる。これなら巨人族とも対等に戦えるだろう。

 士気が逆転し、味方の混乱も治めた。

 このまま事が進めば、十六夜が巨人族を相手にする必要もないだろう。

 

「(これでゲーム中に〝龍角を持つ鷲獅子〟連盟の士気が落ちることは無くなったはずだ。後は審議決議の際に立場をはっきりしておけば、ゲームの主導権を握れるかな)」

 

 幻獣と巨人族の戦争が激化するその中心で、十六夜は無造作に空を見上げた。

 今も雷雲の中で蠢き続けている巨龍。それと―――黄金の渦の中心にいる金髪の少女。

 

「………まさか月夜の奴、一人であのトカゲに挑むつもりじゃねえよな………?」

 

 もしそうならば、早々に彼女の下へ駆けつけなければならない。

 彼女は愛しの眷属にして義妹のレティシアを飲み込んだ巨龍を、許すはずがないのだから。

 

――――――――――

 

 

「異能―――〝荒嵐の砂塵(ゴールド・ストーム)〟」

 

 月夜を中心に吹き荒れる黄金の嵐。これに巻き込まれた空飛ぶ魔獣は悉く塵と化す。

 それを見た他の魔獣は黄金の嵐に巻き込まれないように月夜から距離を取る―――が、

 

「逃がさぬ………!」

 

 月夜が両手を広げると、黄金の嵐は突如として威力を増し、範囲が拡大していく。

 月夜から距離を取っていた魔獣達も呆気なく呑み込まれて粉微塵になる。

 魔獣達も負けじと月夜に灼熱の吐息を吐き出すが、黄金の嵐に阻まれて届かない。

 魔獣達が唖然としていると、黄金の嵐の合間を縫って黄金の雷が奔り彼らを襲った。

 

「GYAAAAAAaaaaaaaa!!」

 

 断末魔のような絶叫を上げて黄金の雷に撃ち抜かれた魔獣達は次々と地上に落下していく。

 しかし月夜は魔獣を幾ら倒そうが、巨龍の鱗からまた新たな魔獣が産み出されてキリがない事ぐらいは知っていた。

 それでもこの持久戦を繰り広げているのは理由があった。それは、

 

「(………我の〝紅月の鎌〟で巨龍を打倒できるが―――レティシアが奴の中にいる以上、下手な真似は出来ぬな)」

 

 そう。彼女の目の前でレティシアは巨龍に飲み込まれたのだ。それは即ち、巨龍の中にレティシアが居ることは疑いようがないのである。

 それに、

 

「………巨龍ほどの敵を〝紅月の鎌〟で討ったら―――一体何れ程の時を眠らねばならない………?」

 

 魔獣なら兎も角、喩え真祖の吸血鬼である彼女だろうと巨龍を自力のみで討つことは出来ない。

 だが自身の鮮血 ()創造(つく)った〝紅月の鎌〟ならば、巨龍を討つことだって可能だ。―――時間を失う事によって。

 その失う時間(だいしょう)は斬る相手が強大であればあるほど長くなる。もし間違えて〝特定の殺害方法〟でなければ殺せない敵を斬ってしまった場合は最悪―――二度と目覚めることが叶わない状態に陥るだろう。

 流石に巨龍を斬って永眠とはならないだろうが、月夜には愛する眷属二人と旧友、この箱庭で出会った親友がいるのだ。彼らとのこれからの時間を失うわけにはいかなかった。

 

「(―――とはいえ、いつまでも嵐の渦中に閉じ籠っている訳にはいかぬな。我が愛しの眷属(むすめ)の様子が気になるからな)」

 

 月夜はそう思うと、黄金の嵐を解除して魔獣達が襲ってくるよりも早く自らを〝黄金の霧〟に変幻させて愛しの眷属―――春日部耀を捜しに向かった。

 

 巨龍が動きを見せたのはすぐあとの事だった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。