問題児たちが特異吸血鬼と共に箱庭に召喚されるそうですよ?―終焉なる真祖は月神の末裔!?― 作:問題児愛
「………黒ウサギ殿」
「はいな、何で御座いましょう」
サラは倒壊した壁から戦場を一瞥し。
「………何だ、
至極失礼な物言いで、十六夜を指差した。
黒ウサギはあややと苦笑いしてウサ耳の裏を掻く。
「まあ、彼に関してはまた後程ご説明するとして―――そろそろ、審議決議が受理される時刻。黒ウサギがそれを知らせますので、サラ様は都市内の魔獣掃討作戦に加わって指揮をとってください」
「う、うむ。心得た」
サラは額を拳で軽く叩き意識を切り替える。
黒ウサギは白黒に彩られたギフトカードから〝
箱庭から力を得た黒ウサギの髪は薄い光を放つ緋色に変わり、やがて炎のように燃え上がり始める。ヒョコヒョコとウサ耳を揺らした黒ウサギは、〝アンダーウッド〟全域に届くような声で宣言した。
「〝
「――――GYEEEEEEEEEEYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaEEEEEEEEEEEEEYYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAaaaaaaaaa!!!」
え?とウサ耳を疑う黒ウサギ。
彼女が審議決議の宣言をしている最中、巨龍は雷雲を撒き散らして〝アンダーウッド〟へと急降下し始めた。身動ぎ一つで大気を震撼させる龍は〝アンダーウッド〟の僅か100m頭上を通過し突風を巻き起こす。
「何っ!?」
不意を受けたように十六夜は声を上げ、巨龍が巻き上げた暴風に搦め捕られる。それは何も十六夜だけではない。
〝アンダーウッド〟で戦っていた飛鳥も、ジンも、ペストも、巨人も、魔獣も、敵味方の区分なく、あらゆる者を空へと巻き込んで吹き飛ばす。
その暴威に、サラは瞠目したまま固まっていた。
「都市が………戦場が、全て空に………!」
「サラ様、危ないッ!!」
暴風に吸い込まれそうになるサラの手を黒ウサギが握り締める。
ほんの数瞬だけ空中に身を投げ出したサラだったが、その目の前で幾人もの同士が為す術もなく飛ばされていく惨状に血が凍った。
此れが最強種―――龍の純血かと戦慄するが、真に恐ろしいのはそんなことではない。
この程度の突風など、巨龍にとっては術技ですらない。
巨龍にとって今の飛翔は―――
審議決議が受理された以上、敵の行動に危害を加える意思がなかったのは明白。
空を翔るだけで天地を揺るがすこの力こそ、神々の箱庭で〝天災〟と称されたもの。
人智を超えた巨体は都市も戦場も、獣人も精霊も幻獣も魔獣も巨人族も人間も、全てが平等に有象無象であると嘲笑うように天空へと巻き上げたのだ。
「馬鹿な………こんなことが………!?」
サラは軋む大樹の幹に縋りつき、天に還る巨龍の姿を畏れるように仰ぐ。
視界に入るのは落下する瓦礫や残骸。悲鳴を上げて落下する仲間たちと巨人族。
それがまるで塵芥のよう。
「た、大変なのです!助けに行きましょう、サラ様ッ!」
「……………」
「サラ様ッ!!!」
黒ウサギに手を握られ、ハッと顔を上げる。
「………すまない。急ごう、黒ウサギ殿!」
己の頬を叩いて喝を入れる。
炎翼を放出したサラは黒ウサギと共に、落下する同士達の救出へ向かうのだった。
――――――――――
―――〝アンダーウッド〟上空。吸血鬼の古城。
古城の中は閑散とした空気と誇りに塗れていた。
長年放置されていたにも拘わらず石造りの外観が風化していないのは、城全域に結界が張られているからだろう。
此処は休戦されたゲームの舞台袖。
城門から玉座の間へ続く長い回廊。
無人の筈だった吸血鬼の
「殿下ー!何処行ったのー!?」
クルリクルリとステップ踏んで回りながら、回廊の階段を上って行く黒髪の少女。
ノースリーブの黒いワンピースを着込み、腰にジャケットを巻きつけて靡かせている。一見して愛らしい少女のようだが、腰に下げている革のベルトには何本もの短刀を備えて非常に物騒だ。
「殿下ー!おじ様ー!ゲームが休戦になったけど、続きはどうするのー!?」
「………殿下ー!!殿下殿下でんかでんか、で・ん・かー!!!」
幼くも風鈴のように涼やかな声が回廊に木霊する。しかし探し人の反応はない。
少女は拗ねたように艶やかな黒髪を揺らし、愛らしい唇を尖らせて頬を膨らませる。
すると玉座の間からクスクスと呆れたような苦笑いが漏れた。
「リン。殿下なら先ほど城下街の様子を見に行ったわよ」
古城の中心まで突き抜けている回廊を更に抜けた先。玉座の間で月の光を浴びていたのは、ローブのフードを深く被り、片手に〝黄金の竪琴〟を持った女性だった。
リンと呼ばれた少女はローブの女性に振り返ってむむっ、と後ろに手を組んだ。
「そっかー。じゃあ私とアウラさんの二人でお留守番?」
「そういうこと。………とはいえ、私たちはゲームの
ローブの女性―――アウラと呼ばれた女は、口元を上品に押さえたままクスクスと笑い続ける。リンは元気に頷いて玉座の間へと続く門を通った。
半円球形の天井は月の光が透過する水晶で飾られており、空間の中心となる場所に玉座が設けられている。
其処に座するのは此度のゲームの〝主催者〟―――レティシア=ドラクレアだった。
「ねえアウラさん。この金髪の子の様子はどうなってるのかな?」
「ずっと気を失ったままよ。もしかしたら開催中はずっとこのままなのかもしれないわ」
肩を竦めて応答するアウラ。
リンはスタタタタと玉座に駆け寄り、気を失ったまま腰かけているレティシアの前でしゃがみ込む。
「だけどこの金髪の子………本当に可愛いよね。こんな可愛い子が魔王だなんて、信じられないなー」
リンは好奇心旺盛な瞳を輝かせてレティシアを見る。
レティシアは連れ去られた時のメイド服とは打って変わり、黒いドレスに身を包んでいた。両手両足を玉座に鎖で繋がれている様は、魔王というよりも囚人である。
月明かりに濡れて綺羅と輝く金髪に、そっと手を伸ばすリン。
しかしその手を阻むように背中から声がかかった。
「―――止めとけリン。その魔王は疑似餌だ。触ると襲われるぞ」
ピクンとリンの指先が止まる。
声は幼く、少年のものだ。
リンは主人が帰ってきたのだと気づき、猫のような反射神経で振り返る。
「殿下!それにおじ様!」
『一々声を荒げるなリン。そう喚かなくとも聞こえておる』
続いて回廊の木陰から聞こえてきたのは、別人と思われる嗄れた老齢の声。陰に隠れているため姿は愚か男女の区別もつかないが、かなり年輩だと思われる。
殿下と呼ばれた少年はカツカツと靴音を城内に響かせながら玉座の間に入り、リンとアウラの前に姿を現す。
年齢は十歳から一、二歳足した程度。殿下という愛称の通り立派な身なりはしているものの、今は折角の正装を着崩している。
その着崩し方や特徴的な白髪を左右に跳ねさせている外見は、少年の子供らしさを強調しているようにも窺える。
だがしかし、爛々と光る金の瞳には、年不相応な物静かさが感じられた。
殿下と呼ばれた少年は三人を順次一瞥し、現状の確認をする。
「アウラ。リン。ゲームが休戦になったのは聞いたよな?」
「勿論ですわ」
「なら話が早い。アウラとリンは頃合いを見て巨人族と共に〝アンダーウッド〟を攻め落とす。タイミングは敵の主力が分散されるのを見計らって俺から知らせる。何か質問は?」
「はい!」
シャキン!とリンが指先を伸ばして勢いよく挙手。
質問を求めておいてなんだが、殿下は不服そうに眉を顰めた。
「………リン。今の作戦に複雑な個所はなかったと思うけど」
「えーっと、確認だけ。今の作戦って〝参加者の戦力が分散される〟ことを前提にしたものだよね?もし参加者が分散しないで一斉に逃げ出したら、どうするの?」
………むっ、と殿下の顔が意外そうに変わる。リンの質問が存外まともだったことに驚いたのだろう。
殿下は〝説明不足だったな〟と自省してから答えた。
「悪い、説明が足りてなかった。もし参加者が逃げ出すなら放置していい。俺たちの目的は新たな〝
「そっか。ならもし、参加者が一斉に巨人族を攻撃してきたら?」
「それはない」
即答する殿下。思わぬ切り返しにパチパチと瞬きをするリン。
確信を持って応答する主人に、リンは快活な返事で返した。
「うん、殿下がそう言うなら信じとく」
「おう、信じてくれ」
「でもさ、この金髪の子に触っちゃいけないのは何でかな?」
リンはレティシアを指差して残念そうに呟く。その様子はさながら、玩具にじゃれつくのを禁止されたネコのよう。
殿下は特徴的な白髪を揺らして呆れたように首を振った。
「いいからやめとけって。〝好奇心は猫をも殺す〟って
「………そっかー。残念」
指を咥えてシュン、と肩を落とすリン。
そんな幼い二人のやり取りを隣で見ていたアウラは、笑いを噛み殺しつつも本題に戻るよう話を振る。
「では殿下。私とリンは地上に。この古城は殿下と彼―――グライアに任せてよろしいのですね?」
「ああ。グー爺もそのつもりでいてくれ」
殿下に促され、アウラはそっと回廊に視線を移す。すると木陰から先ほどの老齢な声とは違う、獣が唸る様な声が答えた。
『分かりました。………しかし殿下。一つ気になることが』
「何だ?」
『〝
進言を受けた殿下は瞳を見開き、虚を突かれたように言葉を呑んだ。
「………確かなのか?」
『あくまで風の噂でしかありません。しかし本物ならば由々しき事態です』
〝如何なされますか〟と問う。
ふむ、と一考する殿下。手を口元に当てたまましばし考えた後、
「………いや、今は捨て置け。仮令本物だとしても、所持者が変わってから数年もない。脅威としては微々たるものだし何より、情報も不確定だしな」
『はっ』
「だがもし〝生命の目録〟の所持者が目の前に現れたら全力で奪いにかかれ。最悪の場合は作戦を放棄してでも手に入れろ」
「あら、よろしいのですか?」
「構わない。〝生命の目録〟にはそれだけの価値がある。アレの価値に比べれば〝アンダーウッド〟の一つや二つ、天秤にかけるまでもない。殺してでも奪い取れ」
断固とした口調で告げる殿下。アウラは口元を歪ませて艶美な笑みで頷いた。
「承りました。私も戦利品の力を試してみたいと思っていたところです。………ふふ。丁度いい実験場になりそうですよ」
「戦利品?」
リンが好奇の視線を向ける。アウラはシアンブルーのギフトカードを取り出し、〝アンダーウッド〟から奪い取ったギフトを披露した。
「―――〝バロールの死眼〟。巨人族に伝わる最強の魔眼が振るう死の暴威。これを以て〝アンダーウッド〟を沈めて御覧に入れますわ」
「そうか。期待している」
殿下は頷いて踵を返す。それにリンが問いかけた。
「殿下?これから何処かに行くの?」
「ああ。そういやある人物から捕獲の依頼を受けていたのを忘れていたからな」
「捕獲?何をですか?」
「………
「「『―――………は?』」」
殿下の言葉に素っ頓狂な声を上げるリン達。
すぐさまリンが問いただした。
「え?吸血鬼の真祖を殿下が!?」
「そうだ。数ヵ月前に箱庭を訪れた外界の吸血鬼の真祖をな。しかもソイツは吸血鬼の弱点とされる殆んどが通用しない化け物だそうだ」
「な、それって本当に吸血鬼ですか!?」
「ああ。それは確かだ。俺に真祖の捕獲を依頼してきた人物は、その真祖の眷属だそうだからな」
それにリン達は絶句する。その理由は至極簡単だ。真祖を捕獲するように依頼した人物が、真祖の眷属―――即ち同士だったからだ。
殿下は懐に仕舞っていた銀色の砲筒―――否、銀の拳銃を取り出してリン達に見せた。
「そして、その人物からはその真祖を捕獲する用にこんなものを寄越してきた」
「………拳銃?」
「ああ。〝銀の弾丸〟が込められた銃だ。この〝銀の弾丸〟こそが唯一、真祖の
『意識を、ですか?その〝銀の弾丸〟で心臓を穿っても真祖を殺せないのですか?』
グライアの問いに、殿下は首を横に振った。
「いや。残念だが
『………そうですか。私が助力致しましょうか?』
「それに関しては問題ない。真祖って言われてるし、力は強大なんだろう?悪いが俺の獲物だ。手を出すなよ、グライア」
『はっ』
殿下が〝楽しみだ〟と笑っている様子に、アウラは苦笑いを浮かべつつ忠告した。
「真祖のお相手をするのは構いませんが、せめて顔を隠してからにしてください。貴方の存在を知られるわけにはいきませんので」
「分かった。その辺は気をつける」
殿下は承知して頷く。だがリンがハッとあることに気がつき声を上げる。
「ちょっと待って!その真祖の眷属に殿下の存在を知られてるんじゃ………!」
「それなら問題ない。俺が真祖を捕らえて奴らに差し出せば、黙認してくれるって言ってたしな」
「………そっかー。それなら安心………かな?」
「ああ。―――それじゃあ俺は真祖を捜しに行ってくる」
「はい。どうかお気をつけて」
殿下は〝ああ〟と返すと、自分の素顔を隠すために白銀の仮面を被って吸血鬼の真祖―――紅月夜の捕獲に向かっていった。