問題児たちが特異吸血鬼と共に箱庭に召喚されるそうですよ?―終焉なる真祖は月神の末裔!?―   作:問題児愛

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耀の活躍がメインの話です。


第二話 合流と現状確認―――城での攻防戦

 ―――〝アンダーウッドの地下都市〟緊急治療所。

〝ノーネーム〟一同はお互いの無事を確認する為に治療所へ足を運んでいた。

 審議決議から半刻ほどで十六夜と黒ウサギ、そして飛鳥たちは合流できたが………耀と月夜、レティシアの姿だけが、捜しても見つからないままだった。

 

「………駄目だな。これだけ捜して見つからないとなると、春日部もレティシアと同じように何かしらの異常事態があったと考えていい」

 

「で、でも、春日部さんは空を飛べるのだから無事だと思うのだけど………」

 

「逆だよお嬢様。春日部は空も飛べるし五感も鋭い。なのに俺達と合流できていない。なら、そこには何か重大な理由があるはずだ」

 

 珍しく真剣な声音で説明する十六夜。飛鳥は大きく息を呑んで動揺を抑えようとするが、やはり隠しきれてはいない。

 飛鳥は確認を取り直すように十六夜へ顔を向ける。

 

「そもそも、レティシアが連れ去られたというのは本当なの?」

 

「ああ。そしてこのゲームがレティシア―――〝魔王ドラキュラ〟の主催するギフトゲームだってこともな」

 

 十六夜は学ランの懐から黒い羊皮紙の招待状―――〝SUN SYNCHRONOUS ORBIT in VAMPIRE KING〟を取り出して内容を読み上げる。

 一通り聞き終えた飛鳥は何とも言えない複雑な顔で首を振った。

 

「………出鱈目な内容ね」

 

「そうでもないさ。少なくともゲームとしての整合性は取れている。後は何点か黒ウサギに確認すれば………」

 

 と、そこで言葉を切る。黒ウサギとジンが捜索から帰ってきたのだ。

 

「十六夜さん、飛鳥さん!耀さんの行方が分かりました!」

 

「本当!?」

 

「YES………ですが、かなりまずいことになっているようです」

 

 苦々しい表情を浮かべている黒ウサギ。

 その腕にはボロボロになって気を失っている三毛猫が抱かれていた。何があったのか知らない十六夜と飛鳥だったが、黒ウサギの表情と三毛猫の状態から事態の深刻さを悟る。

 視線を黒ウサギに戻した二人は端的に問いただした。

 

「………春日部に何があった?」

 

 黒ウサギは一層深刻な表情になり、ウサ耳を垂れさせて答える。

 

「目撃者によると………耀さんは、魔獣に襲われた子供を助けようとして………」

 

「魔獣と共に回収された子供を追いかけ、空に上って行ったということです」

 

 黒ウサギとジンの報告に、二人は衝撃を受けたように息を呑んだ。

 全員が一斉に空を仰ぐ。その視線は遥か上空、巨龍と共に出現した古城に集まっていった。

 

「あの城に………春日部さん一人で乗り込んでいったというの!?」

 

「………はい」

 

 蒼白になる飛鳥。その隣で、十六夜も焦りを隠せず痛烈な舌打ちをした。

 如何に彼が強大なギフトを所有していても―――空を飛ぶことだけは出来ないのだ。

 

「………黒ウサギ。その話が本当なら、巻き込まれて行方不明になったのは春日部だけじゃないだろう?他のコミュニティはどう動くつもりなんだ?」

 

「それについて後程、〝龍角を持つ鷲獅子(ドラコ・グライフ)〟連盟を中心に会合を設ける予定です。聞いたところによると、〝龍角を持つ鷲獅子〟連盟の要人も行方不明になったとウサ耳に挟みました。早ければ明日にも救援隊を組むかと思われます」

 

「………ふぅん。組織の要人が、ね」

 

「あ。それとあの城に向かって()()()()()()()()()()が発生したともウサ耳に挟みました」

 

「………()()()()……?」

 

 飛鳥が首を傾げる。すると十六夜はそれの正体を察したのか、ニヤリと笑った。

 

「それなら春日部の心配は必要なさそうだな」

 

「え?それはどういう意味なの十六夜君?」

 

 怪訝な顔で問う飛鳥。十六夜は〝ああ〟と言って頷いて答えた。

 

「黄金の靄………それは恐らく()()()()()()()()()()()―――()()のことだろうよ。あの真祖様が春日部の救援に向かったってんなら俺達が慌てる必要もないな」

 

「月夜が!?だけどどうして春日部さんが城に向かったなんて彼女が分かるのかしら?」

 

「………多分月夜には春日部の―――()()の位置が分かるんじゃねえか?レティシアが連れ去られそうになった時もアイツは危機を察したように現れたからな」

 

 そう。レティシアが連れ去られ(正確には巨龍に飲み込まれ)そうになった時に月夜(カノジョ)は現れたのだ。

 結果的にはレティシアを救えなかった彼女だが、あのタイミングで現れていたのだから十六夜の推測も(やぶさ)かではないだろう。

 飛鳥達ははそれを聞いて驚き、しかし同時に安堵した。

 

「………そう。月夜なら春日部さんを任せられるわね」

 

「ああ。魔獣程度なら我らがメイド真祖様でもどうにかなるだろうからな」

 

 ヤハハと笑う十六夜。だが彼は一つ矛盾点に気がつく。

 

「(………待てよ。俺の推測が正しかったらどうしてアイツは―――自分の娘の位置を把握できない……?)」

 

 仮に彼の推測が当たっていたとしても、月夜が自分の娘―――マリアの位置を把握できないのはおかしい筈なのだ。

 マリアは娘で眷属ではないけれど、むしろ娘の方が効果は強くできている筈だ。

 そこから十六夜はこう解いた。

 

「(もしかしたらアイツは………知っていながらも接触を避け続けていた……。自分の娘を―――()()()()()()()()………か)」

 

 そう。彼は知らないが月夜(カノジョ)は二度目になる自分の城に攻めてきた幾百、幾千の吸血鬼狩り(ジョーカー)の者達をたった一人で押さえ、自分の娘と娘の眷属を逃がしたのだ。

 そして、これを契機に彼女は自分の娘達との接触を避け続けて、さらに吸血鬼狩り(ジョーカー)の者達の狩りの対象を自分に向けさせていた。

 そうすることで自分の娘達に危害が及ばないようにした。姿を隠さずに逃げ回っていた理由もこれだった。

 自分の娘達との接触を避け続けていた彼女だが、本当は会いたくて堪らなく、それが出来ず凄く辛い筈なのだから。

 

「(自らを劣りにして、か―――ハッ。だとしたらアイツはとても良い奴じゃねえか。吸血鬼だからって理由で人間との共存さえ望んだアイツを殺そうとする〝ジョーカー〟とかいう組織のやり方はふざけてやがる………!)」

 

 ギュッと力強く拳を握り締めて怒りを抑える十六夜。

 スッと瞳を細めた十六夜は飛鳥達を見回して、呟いた。

 

「安心しな月夜。オマエを殺そうとする連中が現れたらその時は俺が―――いや、()()がぶっ飛ばしてやるからな」

 

――――――――――

 

 ―――〝アンダーウッド〟上空。吸血鬼の古城・城下街。

 絶体絶命だった。

 耀は風化して古ぼけた城の外郭に肩を預け、呼吸を整えるように深呼吸を繰り返す。しかし一呼吸する間もなく、城下の廃墟から這いずりながら近づく音が響いた。

 

「っ、またあの化け物………!」

 

 敵の気配を察知し、すぐにその場を離れる。

 背後からはグッチャグッチャと水気を含む不快な音を立てて近づく影。滅んだ城下街を徘徊していたのは、血塊と苔の集合体のような赤黒い怪物だった。

 形は人型で動きは速いが体は脆く、一体一体はそれほど脅威ではない。

 しかしそれが何百体も集まれば話は別だ。

 ましてや彼女が背に守るのはキリノ一人だけではない。

 魔獣に捕らわれていた、十人近い負傷者と子供がいるのだ。

 

「何処かに隠れるところは………!?」

 

「こ、こっちにあります!」

 

 キリノが指差す先に促され、外郭の傍にあった廃墟に身を潜める。散乱している瓦礫を掻き分け大きな亀裂の隙間に子供達を庇って座る。

 耀はやっとのこと呼吸を整え、背後の〝アンダーウッド〟の住人達に視線を向けた。

 

「………全員、無事?」

 

「う、うん」

 

「ああ。お嬢ちゃんのおかげで全員無事だ」

 

 キリノともう一人、年輩の獣人が礼を述べた。

 彼らもキリノと同じく魔獣に捕まったまま巨龍に回収され、古城の城下街に放り出されたのだ。命を失ってもおかしくない状況だったが、審議決議が受理されたことで主催者から参加者への干渉が禁じられ、無傷のまま降ろされたのだろう。

 合流できた人数は耀を除いて七人。その内六人が耀よりも幼い子供である。

 そして彼らは今、城下街を徘徊する敵に追い詰められようとしていた。

 

「(………困った。キリノ一人だけだったら飛んで逃げられるけど、この人数はちょっと重量オーバー。頑張っても三人が限度だ)」

 

 他に捕まえられた者達がいることを計算していなかったわけではない。

 計算外だったのは、城下街の敵の襲撃だ。

 

「(あの赤黒い敵は、審議決議中にも拘わらず襲ってきた。つまりあの敵は主催者側の勢力じゃない。………なら、ゲームとは無関係にこの城に住んでいる怪物………?)」

 

 額から光る汗を滴らせ、状況を高速で整理していく。

 まずは現状の確認が必要だ。耀は逃げ込んだ建物の隙間から、城下街を窺う。

 

「(………ううん、それはおかしい。前提としてまず、このお城と街は吸血鬼の本拠か何かだったはず。あんな苔と植物の塊みたいな化け物が城下街を徘徊している筈がない)」

 

 ましてや此処は地上から何千mも離れた場所。元々群生していたものならばともかく、廃都となってから増殖したとは考えにくい。

 あれやこれやと敵について思考を奔らせる。

 その後ろで年輩の獣人―――乱れた毛並みの猫耳を持つ老人が呟いた。

 

「あの植物………多分、寄生種だぜ」

 

「………知ってるの?猫耳のお爺さん」

 

「ああ。間違いない。苔に見える部分は胞子で、生き物やその屍骸を苗床に繁殖する菌糸類だ」

 

「………?冬虫夏草みたいなもの?」

 

「おお、それだ。性質が似ていることから、冬獣夏草とも呼ばれている種でな。昔は〝アンダーウッド〟でも見かけられた怪植物さ」

 

 そう、と相槌を打つ。

 菌類なら胞子が飛んできたということも考えられるかもしれない。それに生物に寄生するというなら鳥が運んできた可能性も考えられた。

 

「筋は通る………かな。ありがとう、お爺さん」

 

「なぁに、この程度じゃ助けてもらった礼にもなんねえよ。あとジジイと呼ぶのはやめてくれ。俺にゃ〝六本傷〟のガロロ=ガンダックって名があるんだ」

 

 乱れた毛並みの猫耳を震わせて笑うガロロ=ガンダック。

 隣に控えていたキリノはその名前を聞いて瞳を瞬かせた。

 

「〝六本傷〟のガロロ………ま、まさか、〝六本傷〟頭首・ガロロ大老ですか!?」

 

「………知ってる人?」

 

「し、知ってるも何も、〝怪猫のガロロ〟と言えば〝龍角を持つ鷲獅子〟連盟の創設者の御一人!かつてはドラコ=グライフと共に、南側の秩序の為に戦った御方です!」

 

「おいおい、何時の話だそりゃ。今は連盟のしがない金庫番だぜ?」

 

 謙遜する素振りを見せながらも豪快に笑うガロロ大老。

 耀はガロロの笑いと猫耳を暫く見つめ、ふっと呟く。

 

「怪猫で金庫番………えっと、招き猫?」

 

「ちょ、」

 

「あっはっはっはっ!面白いなお嬢ちゃん!こんなむさ苦しいジジイ猫に誑かされて千客万来ってんなら、それこそ儲けもんってやつさ!」

 

 焦るキリノと、膝を叩いて笑い転げるガロロ。

 しかし笑いすぎたのだろう。すぐに傷を押さえてイテテと前屈みになった。

 

「………そういや、お嬢ちゃん達の名前を聞いてなかったな」

 

「わ、私は〝アンダーウッド〟のキリノです」

 

「春日部耀。よろしく、ガロロさん」

 

 キリノと耀は目礼して名乗る。

 二人が自己紹介すると一変、ガロロの瞳が激しく揺らいだ。

 

「―――()()()だと?」

 

「うん。………どうかした?」

 

「い、いや、何でもねえ。それよりこの状況をどう凌ぐ?残念だが俺は足に傷持ちだ。悔しいけど、猫騙しぐらいしか出来ねえぜ」

 

「うーん………それは本当に残念」

 

「そ、そもそも植物相手に猫騙しは、あんまり意味ないんじゃないかなあ………」

 

 茶化し合う二人と、困りながらツッコミを入れるキリノ。

 だが、現状はそんな楽観できるものではない。耀とガロロがおどけているのは、緊張が子供達に伝わらないようにという配慮だろう。

 

「(でも冬獣夏草が屍骸にも寄生するとなると………菌の宿主は一体―――?)」

 

 再度作戦を練ろうと思考を奔らせた次の瞬間。

 グチャグチャと絶えず響いていた足音が、一斉に()()()()

 ハッと顔を上げるが、耀が違和感に気がついた時には既に遅かった。

 

「………まずい」

 

「え?」

 

「囲まれたっ!!逃げる準備を―――」

 

 ―――ガシャァアン!と窓から飛び込む音。見れば赤黒い人型の冬獣夏草が、此方に向かってゆっくりと鎌首を上げていた。

 互いの視線が合い、子供達の悲鳴が木霊する。

 耀は怯む事なく、茶色の瞳を紅く染め上げると敵の赤黒い胴体を蹴り潰し、その勢いで廃墟の瓦礫を吹き飛ばしつつ背後に向かって叫んだ。

 

「走って!!」

 

「は、はい!」

 

 耀が先導し、子供達は城の外郭沿いを走り抜ける。

 キリノはガロロに肩を貸して立ち上がった。

 

「悪いな、キリノ嬢ちゃんっ!」

 

「これぐらいへっちゃらです。すぐ合流して―――」

 

「―――PUGYAAAAAAAaaa!!!」

 

 ハッと振り返るキリノとガロロ。

 手負いの二人に目を付けた何体かの冬獣夏草が一斉に襲いかかる。耀は滑り込むように二人の前に立ち、烈風を巻き起こしてそれを凌ぐ。

 

「よ、耀さん………!」

 

「こ、のっ………しつこい!」

 

 両手で押し出すように回転を加え、壁に叩きつける。動きが止まったところで菌核を踏み潰して砕く。

 背を見せたのを好機と見たか、三体がその背後から飛びかかる。最初の二体は耀の腕に絡みつき、もう一体は人間大の大きさもある瓦礫を持ち上げて投げつけた。

 耀は捕まれたままの両腕を力任せに瓦礫へと叩きつけて二体の冬獣夏草の菌核を砕く。

 最後の一体が次の手を打つ間に、耀は懐に飛び込んで拳を胴体に打ちつけた。

 数秒にも満たない刹那の攻防。僅かな時間で繰り広げられたその豪快な戦いぶりに、ガロロは顔をヒクつかせた。

 

「と、とんでもねえな耀お嬢ちゃん………!冬獣夏草の菌核は鉄塊みたいに硬化してるんだぜ。よくもまあそんな簡単に砕けたもんだ。………本当に人間か?」

 

「ううん。私は人間じゃなくて今は―――吸血鬼だよ」

 

「は?吸血鬼だと!?」

 

「うん。月夜っていう吸血鬼の―――」

 

 そこから先は続かなかった。なぜなら―――子供達の悲鳴が響いたからだ。

 

「きゃぁあ!」

 

「―――っ!」

 

 しまった、と舌打ちして振り返る。先行して逃げていた子供達が襲われたのだ。

 耀は焦りの混じった声音で二人に叫ぶ。

 

「二人とも、歯を食いしばって!」

 

 は?と首を傾げるキリノとガロロ。

 耀は両手から風を放出し、旋風を巻き上げて二人を搦め捕って持ち上げた。

 

「きゃ、わ!」

 

「うおおおおお!?よ、耀お嬢ちゃん!コイツはグリフォンのギフトじゃねえか!どうしてアンタが、」

 

「舌噛むから黙ってて!」

 

 珍しく声を荒げる耀。それだけ余裕がないのだ。

 耀は素早く旋回して外郭沿いを疾走する。唇を噛んで鮮血()を飲み紅い瞳を怪しく光らせると、吸血鬼の力を十全に発揮させた全力疾走で向かう。だが悲鳴が聞こえたということは既に手遅れの可能性もあるのだ。

 最悪の事態が脳裏を過り、背筋に冷や汗を掻いていた耀だったが―――途端、聞いたことのある道化声が鼓膜を刺激し、

 

「――――YAッFUFUFUUUUuuuuuuu!!!」

 

 刹那、紅蓮の風が吹き抜けた。

 

「今の声………まさか………!」

 

 耀が外郭と廃都の交差路を左折すると、熱風が頬を撫でて行く。

 其処で暴れていたのはカボチャの幽鬼―――ジャック・オー・ランタンだった。

 瞬時に炭となった敵を巨大な両手で叩き潰すジャックは、高らかに笑い声を上げて子供達を誘導する。

 

「ヤホホホ!呼ばれてないのにジャッジゃジャーン!!!大丈夫ですか、お子様達!」

 

「は、はい」

 

「それは重畳!こやつらは私が引き受けますから、其処の建物にお逃げなさい!」

 

 ヤホホホ!と陽気に笑いながら両手に提げたランタンを振り回し、業火を撒き散らすジャック。巻き込まれそうになった子供達は我先にと廃屋に雪崩れ込む。

 ジャックのカボチャ頭に乗っかっていたアーシャはそれを確認し、ボソリと呟いた。

 

「全員隠れたよ、ジャックさん」

 

「………解りました」

 

 一変、陽気な声に重さが増す。

 それと同時に、ジャックの霊格(そんざい)が肥大した。

 空洞の瞳には普段の穏やかな灯火はない。今にも敵を焼き尽くさんとする怒りの炎が、カボチャの頭蓋に宿っていた。

 

「―――〝ウィル・オ・ウィスプ〟の御旗を前にして、幼子を食い殺そうとするとは。何と無知。何という冒涜。我らの御旗が掲げる大義を知らぬというのか………!」

 

「………ジャック?」

 

 耀は遠くから呟くが、その声は彼に届いていない。明らかに普段の様子と違う。

 全身から陽炎を立ち昇らせているジャックはギョロリ、と敵を睨み、

 

「知らぬなら我が業火の中で知りなさい。後悔なさい。我らが蒼き炎の導を描きし旗印は―――〝ウィル・オ・ウィスプ〟の御旗は、決して幼子を見捨てはしないのだとッ!!!」

 

「おうさ!やっちまおうぜジャックさん!」

 

 パチン!とアーシャが指を鳴らすと、頭上に七つの業火(ゲヘナ)が宿るランタンが出現する。蓋を開くと同時に、荒ぶる炎が零れ落ちて膨れ上がった。

 耀の隣に控えていたガロロは蒼白になって叫ぶ。

 

「お………おいおいマジかよ!地獄の炎をそのまま召喚するなんぞ、そんじょそこらの悪魔に出来る芸当じゃないぞ!城下街ごと消し飛ばすつもりか!?」

 

「………?此処、危険?」

 

「超危険!逃げろ、耀お嬢ちゃん!」

 

 叫ぶや否や、地獄の窯が開いたように灼熱の嵐が吹いた。

 地獄の淵より汲み上げた業火が燃え散らすのは、雑草風情に留まらない。

 大地を焦土とし、大気を灼熱に変え、影も残さず敵を焼殺する。

 轟々と燃え盛る業火は城下街を呑み尽くす勢いで広がり、さながら悪魔の(かいな)の如く敵を絡めて焼失させていく。

 身近で見ていた耀も流石に焦った。

 

「わ、わわわ………!」

 

 急いで上空に逃避する。間一髪呑み込まれずに済んだが、尋常外の規模の術だ。

 

「ヤホホホホホホホホホホホホホッ!!!大・炎・上ッ!!!」

 

 灼熱の中心で、あの陽気な道化声が響く。

 カボチャ頭と襤褸(ぼろ)切れの身体を ユラユラと揺らしている様を見て、耀は初めて思った。

 ジャック・オー・ランタンは―――本当に、悪魔が生み出した眷属なのだと。

 その後しばらく上空で待機していた三人だったが、鎮火したのを確認してからゆっくりと地上へと降りる。そこでようやくジャックとアーシャは耀の姿を確認した。

 

「おや、彼女は………」

 

「あ、耀じゃん!何々?アンタも子供達みたいに捕まってたわけ?」

 

「………違う。捕まった人達を助けに来ただけ」

 

 ムッとなって言い返す。

 それを聞いたジャックは、少し驚いたようにカボチャ頭を揺らした。

 

「おや、()()は一緒ではないんですか?」

 

「………うん。月夜は―――」

 

 ―――一緒じゃない、と言いかけたその時。高速で飛翔してきた金髪の少女が耀にフライングボディーアタックしてきた。

 

「耀ッ!!」

 

「え?―――わっ!?」

 

 思わず吹き飛びそうになる衝撃に耀は何とか踏ん張って数m後ろに下がった程度に留まる。

 視線を下に向けると、金の御髪と漆黒のメイド服を着た少女―――吸血鬼の真祖にして耀の主・紅月夜その人だった。




長いので今回は此処まで。
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