問題児たちが特異吸血鬼と共に箱庭に召喚されるそうですよ?―終焉なる真祖は月神の末裔!?―   作:問題児愛

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第六話 地上にて初日の作戦会議

 コホン、と咳き込んで黒ウサギは進行を開始する。

 

「それではゲームの方針を―――と言いたいところではありますが。その前にまず、サラ様からお話があるそうです」

 

 何?と首を傾げる一同。

 サラはその場で立ち上がり、周囲を見回す。

 沈鬱そうな顔で深い吐息を漏らしたサラは、

 

「………今から話すことは、この場だけの秘匿(ひとく)として聞いて欲しい。決して口外しないように心掛けてくれ」

 

「………?はい、わかりました」

 

 ジンが代表して返事をする。同席した全員が静かに頷いたが、サラの大仰な言葉に誰もが不審そうに眉を(ひそ)めている。

 サラは瞳を閉じたまましばし考える素振りを見せ、改めて切り出した。

 

「まず一つ目。〝黄金の竪琴〟が奪い返された際に、〝バロールの死眼〟も同時に盗み出されたようなのだ」

 

「バ、〝バロールの死眼〟が!?」

 

「本当なのですか!?」

 

「ああ。凡百の巨人には到底使いこなせる代物ではないが………これによって巨人族はより強大な戦力を得ることになった。死眼に対してはまた別の対策を練らねばならない。そのつもりでいてくれ」

 

 此処で一度言葉を切る。サラはより一層沈鬱な顔になり、

 

「そしてもう一つ。ゲーム休戦前に北と南から緊急の連絡が入ったのだが………それによると、魔王の出現は〝アンダーウッド〟だけではないらしい」

 

「………は?」

 

「北の〝階層支配者(フロアマスター)〟である〝サラマンドラ〟と〝鬼姫〟連盟。そしてお前達もよく知る、東の〝階層支配者〟である〝サウザンドアイズ〟幹部の白夜叉様。―――以上三つのコミュニティが、同時に魔王の強襲にあっている」

 

 一斉に、息を呑む音が会議室に響いた。進行を任されていた黒ウサギも半口を開いて絶句している。

 飛鳥は小声で隣の席の十六夜に尋ねる。

 

「偶然じゃない、わよね。これってつまり複数の魔王を統率しているより強大な魔王が、〝階層支配者〟を倒すために動いている………そういうこと?」

 

「そういうことだ………けど、なるほど。そういう事なら逆に納得した点もある」

 

「何?」

 

 サラが反射的に問う。十六夜は組んでいた両腕を解き、身を乗り出すようにして問い返す。

 

「サラって言ったな。お前が元〝サラマンドラ〟の後継者だったというのは本当か?」

 

「………そうだが、それが何か?」

 

「じゃあ一月前に〝サラマンドラ〟が開いた誕生祭で、魔王が現れた事は聞いてるか?」

 

「当たり前だ。出奔したとはいえ故郷のコミュニティが襲われたのだぞ」

 

 むっと眉を顰めるサラ。

 しかし十六夜は一層緊迫した顔になり、同席した全員の顔を素早く見回してから、

 

「じゃあ、その元身内として聞いておきたいんだが………その魔王の手引きをしたのが、〝サラマンドラ〟自身だという話は聞いてるか?」

 

「なんですって!?」

 

 割り込むように声を荒げて席を立つ飛鳥。

 問われたサラは奥歯を噛み締めるように顔を(しか)めつつ、首を横に振った。

 

「………それについては初耳だ。しかし、父上ならばやりかねないだろう」

 

「父上?お前とサンドラの?」

 

「ああ。あの人は同士が死ぬことになろうと、コミュニティに有益だと判断したらどんなことでもやらせる人だ。………もし誕生祭でサンドラが命を落とすことになったとしても、自分が就任し直せばいいと思っていたに違いない」

 

「で、ですが〝サラマンドラ〟の前頭首は病に()していると、」

 

「あの父上が病程度に冒されるものか。どうせ幼いサンドラを矢面に晒し、自分は安全な裏で手を引く算段でも立てていたのだろうよ」

 

 フン、と吐き捨てるように告げるサラ。

 黒ウサギはウサ耳をへにょらせ、消沈したように問う。

 

「で、ではサラ様のお父様は、一体どのような利益を望んでそんなことを………?」

 

「さあ?しかし万が一にも父上が本当に病に臥しておられるというならば………サンドラが一人前だと周囲に知らしめるために魔王を招いたというところだろう。………まあ、その辺の事情はそこの少年の方が詳しいのではないか?」

 

 サラが十六夜に視線を移す。十六夜は難しい顔で答えた。

 

「まあな。此処で話を聞くまで、俺もそう思っていた。マンドラの奴も、あの様子だと本気でそう思っていたんだろうよ。………けどどうやら、話はそんなに簡単じゃないらしい」

 

「と、言いますと?」

 

「そもそも考えてみろ黒ウサギ。誕生祭を襲った〝黒死斑の魔王(ブラック・パーチャー)〟―――ペストの目的は、()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 ハッと息を呑む黒ウサギ。

 

〝黒死斑の魔王〟が欲したのは太陽の主権と復讐。ましてや太陽の星霊を封印するという極めて希少な〝主催者権限(ホストマスター)〟を彼女は持っていた。

 

「誕生祭のメインホストはサンドラ。白夜叉はゲスト扱いで〝サウザンドアイズ〟の主力も連れてきていない状態だった。………もしかしたら誕生祭そのものが、白夜叉を倒すために仕組まれたものだったのかもしれない」

 

 十六夜の推理に、ジンもハッと気がついたように声を上げる。

 

「そ、そうか!白夜叉様が狙われた同時期に、南の〝階層支配者〟が襲われて討たれていたというのも………全て主犯が同一だと考えたら―――!」

 

「そう。つまり連中―――仮称〝魔王連盟〟とでもいうべき敵は、〝階層支配者〟を各個撃破できるように、同時攻撃を仕掛けているんだろう。………そして魔王側が有利にゲームを進められるように、手引きしている組織もいる」

 

 スッと十六夜の視線がサラを貫く。この発言には流石のサラも肝を冷やした。

 サラは不安そうに問い直す。

 

「少年。お前は此度の一件、父上が主犯だと………そう言いたいのか?」

 

「いや、そこまでは分からん。此処まで半分くらい状況証拠だし、何より動機が不明だ。そもそも他の〝階層支配者〟を(おとし)めることに何の意味があるんだ?」

 

 うーん、と本気で考え込む十六夜。

 一瞬ホッとしたサラだったが、追い打ちをかけるようにフェイス・レスが告げる。

 

「………サラ様。現〝階層支配者〟は〝サラマンドラ〟・〝鬼姫〟連盟・〝サウザンドアイズ〟の白夜叉。これに加えて休眠中の〝ラプラスの悪魔〟の四つでよろしいですか?」

 

「うん?ああ、そうなるかな」

 

「もし前者の三つが崩壊すれば、全ての〝階層支配者〟が活動不能になり、上位権限である〝全権階層支配者(アンダーエリアマスター)〟を決める必要が出てきます。敵の狙いはそれではないでしょうか?」

 

 何っ?と一斉に声が上がった。

 サラも、ジンも、黒ウサギでさえも知らない様子で小首を傾げている。

 

「以前、〝クイーン・ハロウィン〟に聞いたことがあります。〝階層支配者〟が壊滅、もしくは一人となった場合に限り、暫定四桁の地位と相応のギフト―――太陽の主権の一つを与え、東西南北から他の〝階層支配者〟を選定する権利を与えられると」

 

「た、太陽の主権の一つと、暫定四桁の地位だと!?」

 

「そ、そんな制度があるのですか!?」

 

 声を荒げて問い返す黒ウサギとサラ。

 

 ―――箱庭を巡る、太陽の主権。

 数多の修羅神仏の徘徊する箱庭では、それぞれの星に所有権、つまり主権が存在する。

〝ペルセウス〟が所持していたアルゴルの魔星がその一例だろう。星の主権を所持していれば、絶大な力を持つ星霊・神霊を召喚し従えることが可能となる。

 最も多くの神仏が宿る太陽の主権は、二十四に分割することでその座を分散している。

〝黄道の十二宮〟に記された白羊・金牛・双子・巨蟹(きょかい)・獅子・処女(おとめ)・天秤・天蠍(てんかつ)・人馬・磨羯(まかつ)宝瓶(ほうへい)・双魚の十二星座。

〝赤道の十二辰〟に記された鼠・牛・虎・兎・龍・蛇・馬・羊・猿・鶏・狗・猪の十二辰。

 これら二つの天体分割法を用いて作られたのが二十四の太陽主権である。

 

「私も何を授かったかは知りません。しかしクイーンの話では、就任した前例は白夜叉と初代〝階層支配者〟―――レティシア=ドラクレアの二名だけだと伺っています」

 

「レ、レティシア様が〝全権階層支配者〟………!?」

 

 更に声を荒げて驚く黒ウサギ。この反応にはむしろフェイス・レスの方が驚いた。

 

「………〝箱庭の貴族〟ともあろう者が、〝箱庭の騎士〟の由来を知らないのですか?」

 

「く、黒ウサギは一族的にぶっちぎりで若輩なので、あんまりにも古い話は………」

 

 ウサ耳をへにょらせてそっぽを向く黒ウサギ。

 十六夜はやれやれと首を横に振りながら助け舟を出す。

 

「まあ………黒ウサギはぶっちゃけ〝箱庭の貴族(笑)〟だからな」

 

「その渾名(あだな)を定着させようとするのは止めてくださいっ!!」

 

 ウガー!!ウサ耳を逆立たせて怒る黒ウサギ。

 フェイス・レスは顎に手を当てたまましばし思案する素振りを見せ、

 

「………なるほど、〝箱庭の貴族(笑)〟でしたか」

 

「真面目な顔で便乗するのはもっと止めてくださいっ!!!」

 

 しっかり便乗してきた。そんなフェイス・レスに、飛鳥がムッとなって反論する。

 

「貴女、ぽっと出の癖に黒ウサギを分かったようなことを言うのはやめなさい。それに話の流れ的にはむしろ、〝箱庭の貴族(恥)〟でしょう?」

 

「ちょ、」

 

「それだッ!!」

 

「それだッ!!!じゃないですこのお馬鹿様あああああああッ!!!」

 

 スパパァーン!と久しぶりに(はし)る愛用のハリセン。

 フェイス・レスは三人の和やかなやり取りを見届けた後、

 

「………〝箱庭の貴族(恥)〟」

 

「これ以上引っ張ると本気でシリアスに戻れなくなるのでお願いだから止めてくださいっ」

 

 スパン、と疲れたようにハリセンで叩く。

 物足りない雰囲気ではあったが、フェイス・レスは気を取り直し、

 

「………〝箱庭の貴族(恥)〟」

 

「止めてくださいと言ってるでしょうこのお馬鹿様ああああああああ!!!」

 

 ズパアァァン!!と()の変態真祖を打ちのめした時のような激しい音でハリセンをクリティカルヒットさせる黒ウサギ。

 フェイス・レスは何事もなかったように話を再開する。

 

「………〝箱庭の貴族〟ともあろう者が、〝箱庭の騎士〟の由来を知らないのですか?」

 

「そっ、そこから再開されると黒ウサギ的には何とも反応しづらいのですが………恥ずかしいことに、初ウサ耳です。今回のゲームや主犯の手掛かりになるかもしれませんし、知っていることがあったら是非教えて下さい」

 

 ツッコミたいところをぐっと抑えてシリアスに先を促す黒ウサギ。

 フェイス・レスも引き際を感じたらしく、真面目に応対した。

 

「私も詳しく知っているわけではないので詳細は省きますが………〝全権階層支配者〟となったレティシア=ドラクレアはその権力と利権を手に、上層の修羅神仏へ戦争を仕掛けようとしたそうです」

 

「レ、レティシア様が戦争を………?」

 

 一斉に顔を見合わせる〝ノーネーム〟一同。温和でコミュニティの姉役を務める彼女からは、考えられない暴挙だ。

 まあ、姉役といえど月夜にとっては可愛い義妹として見られているレティシアだが。

 

「その戦争って………つまりそれは、魔王としてということかしら?」

 

「それは聞いていません。その後は戦争を阻止しようとした同族の吸血鬼達が革命を決起し、吸血鬼は同族同士の殺し合いの末に滅んだと聞き及んでいます」

 

「ど、同族同士の殺し合いを、レティシア様が………?」

 

「はい。これについては当時を知るクイーンの話ですから、まず間違いないかと」

 

 うっ、と怯む黒ウサギ。

 同族同士の殺し合いとは―――即ち、コミュニティの同士で殺し合いをしたということだ。今のレティシアを知る〝ノーネーム〟のメンバーとしては何とも信じ難いことだったが、黙して聞いていたサラは〝契約書類(ギアスロール)〟を取り出して得心がいったように頷く。

 

「そうか………第四の勝利条件である〝玉座に正された獣の帯を(しるべ)に、鎖に繋がれた革命主導者の心臓を撃て〟とは、当時の革命主導者を差し出して殺せ、という意味だったのかもな」

 

「そ、そうでしょうか?」

 

「それ以外にどんな解釈がある?〝獣の帯〟や〝砕かれた星空〟といった抽象的なキーワードと比べて格段にわかりやすい。ペナルティを受けていよいよ追い詰められた当時の吸血鬼達は、革命主導者を追い立てて殺し―――」

 

「―――結果、()()()()()()()()()()()()()。つまり〝革命主導者〟という言い回しは、魔王側側が仕掛けたミスリードということだな」

 

 ………ぬっ、と十六夜を睨むサラ。

 

「いいや、まだ分からん。この革命主導者とやらは今も箱庭の何処かで生きているのかもしれない。吸血鬼の一族は揃って長寿だからな。純血であれば不老という話も、」

 

「じゃあそいつを探し出して殺すか?この馬鹿みたいに広い箱庭の中で、生死不明の吸血鬼一匹を探し出すのに、どれだけの時間がかかるんだろうな?」

 

 ぬぬっ、と閉口するサラ。

 十六夜はこの場での話し合いは終わったとばかりに立ち上がり、

 

「どちらにせよ、現状では情報不足が否めない。そこで提案だ。この場に残って巨人族から〝アンダーウッド〟を守る部隊と、敵の居城に乗り込んでゲームクリアを目指す部隊を編制する。〝龍角を持つ鷲獅子(ドラコ・グライフ)〟同盟なら空を(かけ)る幻獣も山ほどいるだろう?」

 

 言い終わった十六夜は、チラッとジンに目配せする。ジンも慌ててフォローした。

 

「それに(さら)われてしまった人達の安否も気になります。聞けば連盟の重役・〝六本傷〟のガロロ=ガンダック様も、同士を庇って攫われたと聞きました。今後の話は捜索隊を送り、その報告を待ってから再度話し合いの場を待つということで如何でしょう?」

 

 サラは頭ごなしに否定することはなく快諾の意志を示した。

 

「分かった。精鋭を選出し、二日後の晩までに部隊を編制しよう。その時は両コミュニティの力を借りる事になると思うがよろしく頼む。………あと心ばかりの持て成しではあるが、両コミュニティには最高主賓室を用意してあるから、そちらでゆっくり休んでくれ」

 

 促され、一斉に席を立つ。

 これで参加者による初日の会合はお開きとなった。

〝アンダーウッド〟の主賓室に向かうため、大樹の幹に釣り下がった水式エレベーターでゆっくりと下って行く〝ノーネーム〟一同。その際に、十六夜はポツリと呟いた。

 

「………お嬢様は、どう思う?」

 

「え?」

 

「レティシアが魔王となって同士を虐殺したって話だ」

 

 突然の振られた話に面食らう飛鳥。

 しかし、それでもハッキリと言い返した。

 

「昔はどうか知らないけど………今は私達が所有する、金髪のメイドさんでしょう?略奪されたままで黙ってなんかいられないわ」

 

「………そうだな。確かに黙ってはいられないな」

 

「それにレティシアのお義姉(ねえ)さんになっている月夜が、愛する義妹を略奪されて怒り心頭のはずよ。今頃は春日部さんと一緒に城内を探索していると思うわ」

 

「ヤハハ、それは違いねえな」

 

 うんうんと頷く飛鳥と十六夜。耀と月夜の二人が帰ってこないのは、その可能性があると思ったからだ。

 

「部屋に案内されたら、すぐにでも謎解きにかかりましょう。城内で頑張ってる春日部さんや月夜………捕らわれてしまったレティシアのためにも、休戦期間で謎を解かないと」

 

「YES!難解な問いではありますが、三人寄れば文殊の知恵と申します!我々四人で挑めば、きっと糸口ぐらいは見つかるのですよ!」

 

「うん。耀さんやレティシアを救うためにも、まずはこの謎を―――」

 

「―――いや、謎なら既に解けているが」

 

 ―――……は?とエレベーターで四人分の声が重なった。

 飛鳥は勿論、隣に居た黒ウサギも、先頭にいたジンも、案内役として追従していたキャロロも、一斉に疑問符を浮かばせて十六夜を見た。

 

「………ええっと、常連さん?貴方さっきサラ様に『情報が少ないから敵城に部隊を送れ』とかなんとか言ってませんでした?」

 

「うん?何だそんな風に聞こえたのか。俺は『情報が少ないけど、謎は解けたからゲームクリアしようぜ!』という意味で言ったんだが」

 

 ついでに救援部隊とか編制してくれたらいいな、的な。

 

「でもそんな風に誤解してくれたなら本当に万々歳だなー。もし何処かの馬の骨にうちの美髪メイドを隷属させられるようなことになったら、それこそ殺し合うしかねえもんなー。特にうちのメイド真祖様が先陣切って―――〝何っ?我が義妹を隷属させただと?御主ら、死ぬ覚悟は出来ておるかッ!!!〟って感じになー。いやあ、運が良かったな本当に!」

 

 白々しく明後日の方向を見ながら話す十六夜。

 キャロロは目をパチクリさせた後、スッと真剣な顔になり、

 

「………残念ですが、この件はサラ様にご報告を」

 

「全メニュー五割引きとは気前がいいな!」

 

「いやん、するわけないじゃないですか♪」

 

 十六夜の脅迫に、満面の笑みと冷や汗で返すキャロロ。

 黒ウサギ達は十六夜を悪どいと思う反面、頼もしさも感じながら、互いの顔を見合わせて苦笑いするのだった。

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