問題児たちが特異吸血鬼と共に箱庭に召喚されるそうですよ?―終焉なる真祖は月神の末裔!?―   作:問題児愛

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レティシアの過去編はカットさせていただきました。

原作でお楽しみください。


第七話 数十年前の真祖の過去Ⅱ―――城下街にて探索開始

「………どうかしましたか?」

 

「いや、どうもこうもお前が真祖だと?」

 

「………?おかしいですか?」

 

「ええ。おかしいも何も、その容姿で真祖を(かた)るのは無理あるんだけど」

 

 小首を傾げるライムに、それは嘘だろ、と譲と栞はツッコミを入れる。

 するとライムはムッと頬を膨らませて拗ねた。

 

「どうせ私は姫君にしか見えないですよーっだ!」

 

「いや。本当は姫君なんじゃねえの?」

 

「うん。私もそう思う」

 

 グサリ、とライムの胸に突き刺さる二人の言葉。

 ライムはガクリと床に両手両膝を突いて項垂れた。―――涙目で。

 その姿から嘘を突いてるようには思えないことを悟った二人。しかしライムをからかうネタになると考えた二人は、密かにほくそ笑んだ。

 

「………まあ、貴女をからかうのは置いといて。どうして正体をバラしちゃったの?人間だって嘘ついちゃえばよかったじゃない」

 

「そうだな。それは俺も気になる。なんでだ?」

 

 栞と譲は疑問を口にすると、ライムはフッと悲しそうな顔で話し始めた。

 

「それは………もう二度と、同じ(あやま)ちを繰り返さないためです」

 

「過ち?」

 

「はい。私はかつて、自らの渇きを潤す為に沢山の人間を襲い、生き血を(すす)り、彼らを吸血鬼に変えてしまいました。生きていくために必要とはいえ、沢山の人間を恐怖に陥れてしまったのです」

 

 それを聞いた譲と栞はゾッとした。目の前にいる穏やかな彼女が、無差別に人間を襲っていた時期があったということに。

 

「そのせいで私達吸血鬼を野放しに出来ないと考えた人間達が、吸血鬼を狩るために結集して私達吸血鬼と人類の戦争が始まってしまいます」

 

「………その結果は、人間側の勝利と?」

 

「はい。私は眷属達を守りながら籠城作戦で吸血鬼ハンターを追い払っていたのですが………ピタリと止んだ吸血鬼ハンター達の攻撃に安心してしまった私が油断した隙に城は焼かれ、眷属達は命を落としていってしまったのです」

 

「………酷い」

 

 口元を押さえて悲しげに言う栞。だがライムは首を振って否定した。

 

「いいえ、酷いのは彼ら人間ではなく私です。全ては自分の欲求に勝てなかった私が悪いのですから」

 

「……………」

 

「ですが私はこう思いました。―――どうして私じゃなくて眷属達(かれら)が殺されなければならなかったの?―――と」

 

 

―――――回想―――――

 

 

『―――どうして私じゃなくて、眷属達(かれら)を殺したの!?』

 

『ふん。それは貴様が二度とあんな真似を出来ぬようにするためだ、美しき真祖よ』

 

『………え?』

 

『どうだ?自らの行いのせいで消えるはずのなかった命がつまれる光景は?悲観に思ったか?絶望したか?』

 

『―――――っ!!』

 

 私は絶句した。眷属達が、元・人間の吸血鬼達が殺されたのは自分のせいだと言われて。

 だが確かにその通りかもしれない。彼らを吸血鬼に変えてしまったのは他ならぬ自分なのだと。

 

『……………っ、』

 

『くくく、泣いてる暇はないぞ?貴様は我々に包囲されているのだからなッ!!』

 

 (わら)う吸血鬼ハンター達。しかし私の耳には入らなかった。

 私が正気を取り戻したのは―――胸元に銀の刃が突き立った時だった。

 

『―――――ぁ、ぐっ』

 

『ほら、どうした?逃げないと死ぬぞ?』

 

『……………ッ!!』

 

『と言っても、貴様に逃げ場はないがな』

 

 胸元に突き立った銀の刃をさらに深々と刺し込む。

 

『く、ぁ………!』

 

『まあ、死を選ぶというのなら―――今ここで殺してやるぞ?』

 

 ニヤッと嗤う吸血鬼ハンターはさらに刺し込み、銀の刃の切っ先は私の背中を突き破り生えた。

 カフッと喀血(かっけつ)して、私の視界は揺らぎ霞み始める。

 その様子を吸血鬼ハンター達は満足げに嗤い、瀕死の私を見つめた。

 

『頭は俺に()らせろ』

 

『じゃあ私は首を』

 

『それなら僕は腹がいい』

 

『………脚だな』

 

『いいだろう。心臓は(わし)が殺るがな』

 

『………ぅ………ぁ……』

 

 ひんやりとした冷たすぎる銀の刃が頬に、首筋に、脇腹に、脚にあてがわれる。

 私は濃厚な死を感じ取り瞳を閉じた。瞬間、眷属達(かれら)との楽しかった思い出の日々が(よみがえ)る。

 

 

【―――主様!私の作った手料理は如何でしたか!?】

 

 

【流石は我が主だ。俺の剣術が全然通じないよ】

 

 

【まったく、居眠りは程々にしてくださいよ?女王様】

 

 

【………髪。綺麗で、羨ましい】

 

 

 ある時は可愛らしい少女の手料理を食べ。

 またある時は凛々しい青年の稽古を手伝い。

 はたまたある時は妖艶な女性の使用人に玉座で居眠りしている私を注意され。

 さらにある時は口数の少ない少年が私の髪を()いて呟く。

 

 だが楽しかった日々は、もう戻ってこない。私のせいで全てを失ってしまったのだから。

 私は死を受け入れようとした。けれど、眷属達を死なせてしまった罪を抱えたまま、私は死んでいいのだろうか?

 罪滅ぼしをするというのなら―――生きて償わなければならいのではないか?

 私はそれでは駄目だと否定して………生きる選択をした。そして、

 

『さあ、我らの悲願まで後少しだ!』

 

『真祖を殺して、吸血鬼の歴史に今度こそ幕を引いてやる!』

 

 吸血鬼ハンター達の銀の刃が、私の身体を貫くよりも速く、黄金の霧となって回避する。

 

『何!?』

 

 驚愕の声を上げる吸血鬼ハンター達。それは今まで私がそんな力を使用していなかったからだ。

 彼らは初めて目にした異能を前に、ただただ私を見送る事しか出来ないのだった。

 

 

『―――はぁ、はぁ………』

 

 致命傷を負っていたせいか、霧化はすぐに解けてしまった。

 それでも吸血鬼ハンター達から逃れることが出来てホッとした。

 

『(………血を飲めばすぐに復活できるけど、それじゃあ駄目!人間を襲っては昔の私に逆戻りしちゃうもの)』

 

 そう。自然に治るのを待つよりも血を飲む方が治りは早い。だがそれでは昔の自分に戻ってしまう。それだけは何としても避けたかった。

 とはいえ、このまま街を彷徨(うろつ)いていたら間違いなく吸血鬼ハンター達に見つかり、弱っているところを討たれるだろう。

 私は決心したように遠くで燃え盛る、私達の城を見つめ、

 

『………さようなら。私の愛した眷属達(ともたち)

 

 眷属達に別れを告げてこの場を後にしたのだった。

 

 

―――――回想終了―――――

 

 

「「……………、」」

 

「私は大切なものを全て失って、初めて気づきました。自分はなんて愚かな事をしてしまったのだろう……と」

 

 スッと瞳を閉じて悲しみを噛み締めた後、瞳を開けて譲と栞を見回し儚げに笑った。

 

「だから私は同じ過ちを繰り返さないように、吸血鬼であることは隠さず、人間を欺かずに生きていこうと決めたのですから」

 

「……………そう、か」

 

 ライムの過去と決意を知った二人は、彼女の言葉を一つ一つ噛み締めて―――手を差し出した。

 

「………え?」

 

 自分に差し出された譲と栞の手を見て、瞳を瞬かせるライム。

 まず栞がニコリと笑って告げる。

 

「吸血鬼は〝悪〟しかいないって両親から言われていたけど、昔の過ちを悔いて改心した貴女は悪い吸血鬼(ひと)じゃないよ」

 

「………シオリ?」

 

 譲も照れくさそうに頬を掻きながらライムに言う。

 

「まあ、あれだ。お前は悪い吸血鬼(やつ)じゃないしさ。寂しいなら俺達が友達になってやるよ」

 

「………でも、私は昔は最低だったんですよ!?さっきの私の話を聞いてどうしてそうなるんですかッ!!」

 

 ライムは意味が分からないと叫ぶ。あの話を聞かされたら普通は怖がるはずなのだから。

 栞は首を振ってそれに返した。

 

「それは昔の話でしょ?今の貴女を見ればとてもそんな風には見えないもの。それともこれから貴女は私達を襲うつもりなの?」

 

「そ、それは………で、でも―――」

 

 ―――と、それから先は続かなかった。

 なぜなら、譲がライムを抱き締めたからだ。

 

「………ユズル?」

 

「確かに昔のお前は恐ろしいと思った。だが今は違うんだろ?本当は俺達の生き血を吸いたくても我慢してんだろうし、なんと言っても正体をバラしたんだ。俺達が親父達にお前の事を話されるかもしれないリスクを背負いながらもな」

 

「……………っ、」

 

 ライムは震えた。もし彼らに自分の居場所をバラされたら、今度こそ吸血鬼ハンター達が時の果てまで追って殺しに来るかもしれない。

 だが譲は震えるライムの金髪頭をポンポンと優しく叩いて笑う。

 

「バーカ。俺も栞もお前の事は親父達には言わねえよ。せっかく知り合えた金髪美少女の吸血鬼ちゃんをあんな連中に差し出すかよ」

 

「ユズル………」

 

「お前は眷属を失ってずっと独りだったんだろ?寂しかったんだろ?なら俺達が友達になってやる。真祖だからって強くある必要はねえんだ。俺達に甘えていいんだからな?」

 

「―――………ユ、ズル……っ!」

 

 譲の言葉にライムは涙を溢れさせ、彼の胸で泣いた。

 背負っていた眷属達の死や罪悪感。孤独の辛さなどを仕舞い込んでいたものを胸の内から解放しながら。

 

「………っ、……………っ!!」

 

 そんな彼女の金髪頭を優しく撫でてあやす譲。だったのだが、

 

「―――ふむ。これは中々の感触だッ!!」

 

「………ふぇ?」

 

「やっぱりそっちが目的だったのね………!このド変態メガネがああああああああああッ!!!」

 

「グゴハァ!?」

 

 栞の渾身の蹴りが譲の首を打ちのめし、彼は吹き飛んでいった。

 その様子をキョトンとした顔で見つめるライム。

 栞がライムの下に駆け寄ると華奢な身体を抱き締めて忠告する。

 

「気をつけて、ライムちゃん!あれは度しがたい変態メガネだから、様子がおかしかったらすぐに逃げて!それか叩き潰していいから………!」

 

「へ?………あ、はい。シオリがそういうなら気をつけます」

 

 栞の鬼気迫る顔に小首を傾げるライムだったが、何となく察したのか苦笑で返した。

 譲はイテテと起き上がってライム達を見つめたが、栞の〝来るな変態!〟とでも言いそうな鋭い眼光に苦笑いを浮かべたのだった。

 

――――――――――

 

 ―――吸血鬼の古城・城下街。

 ヒュゥ、と湿った風が廃都を吹き抜ける。城の周囲を雷雲に包まれているからだろう。

 ガロロから吸血鬼達の歴史を聞いた耀は、彼の話を噛み砕くように何度も頷きながら、

 

「どうだい、耀お嬢ちゃん。俺の話は役に立ったか?」

 

「………うん。ありがとう、ガロロさん」

 

 耀が礼を述べると、ニカッと笑って返すガロロ。

 しかし共に話を聞いていたアーシャは、〝契約書類(ギアスロール)〟の文面を眺めながら小首を傾げている。

 

「私には分かんないなー。今の話のどの部分が謎を解く鍵になっているの?やっぱり、〝革命主導者〟ってのがキーワードなんじゃない?」

 

「ううん、それは全く関係ない………と言うより、今の話の全てが、()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 はぁ?と声を上げるアーシャ。

 耀は〝契約書類〟を全員に見えるように広げ、

 

「さっきも言ったけど、〝革命〟という言葉は当時の参加者を(だま)すためのミスリードであって、別の意味や解釈があるんだと思う。私が確認したかった歴史は、更にその前の話。この空飛ぶ城が、〝()()()()()()()()()()()()()〟という確認だけなんだ」

 

「………?どういうこと?」

 

「このゲームのタイトルだよ。〝SUN SYNCHRONOUS ORBIT〟を直訳すると、太陽同期軌道―――ええと、どう言えばいいかな。つまり太陽と特定の角度を保って飛ぶ、人工衛星の軌道を指す言葉になるんだ」

 

「じ、人工衛星ですか!?」

 

 突如として声を荒げるジャック。耀は意外そうな顔をした。

 

「………ジャックは、人工衛星を何か知ってるの?」

 

「え、ええ。私が箱庭に来たのは一九六〇年代の事ですから………い、いえ、そんなことよりも春日部嬢。人工衛星というのはまさか、この城が………?」

 

「うん。でも箱庭だと〝神造衛星〟っていう呼び方が正しいのかな?もしこのゲームタイトルが太陽同期軌道を意味するなら………このゲーム全体が、〝太陽〟や〝軌道〟に関係することを示唆しているんだと思う」

 

 おお、と感心したように声を上げるジャック。

 

「ヤホホ………ではもしかしたら、吸血鬼の一族というのは、遥か未来から来たのかもしれませんねえ」

 

「うん。それは私も思った」

 

 箱庭はあらゆる時代に通じている。吸血鬼の伝承が異なっている点も頷ける。

 それに環境の変化によって太陽の光が脅威となった一族や、それに伴う世界(ほし)の放棄。これらのファクターから考えても、箱庭の吸血鬼の一族は近未来よりの存在に思えた。

 

「(それに比べて月夜の場合は太陽を浴びても死ぬことはないから………過去の時代から来た吸血鬼だね。今度はあの子の過去も聞きたいかな)」

 

 話してくれればいいけど、と苦笑する耀。

 衛星について知識のないガロロだったが、耀の最後の言葉にピクリと反応を示した。

 

「〝太陽〟と、その〝軌道〟に関係するゲーム内容………か。とすれば耀お嬢ちゃんは、〝獣の帯〟を〝獣帯(ゾディアック)〟として読み解いているのかい?」

 

「ゾディアック?」

 

 アーシャとキリノが疑問の声を上げて互いの顔を見合わせる。

 ジャックはカボチャ頭をクルクルと回して二人に説明した。

 

「〝獣帯(ゾディアック)〟とは、〝黄道帯〟や〝黄道の十二宮〟を示す別称ですよ」

 

「こ、〝黄道の十二宮〟って………獅子座とか蟹座とかがある、十二の星座ですか?」

 

「ヤホホ、正解です!そもそも十二の星座とは、太陽の軌道線上を三十度ずつずらし、星空の領域を分ける天球分割法で―――」

 

 ―――ハッと、そこで言葉を呑むように切った。

 陽気に笑って答えるジャックだったが、何かに気がついたように思考を奔らせる。

 

「天球の………()()?まさか、」

 

「そう。第三の勝利条件〝砕かれた星空を集め、獣の帯を玉座に捧げよ〟が示す意味は、〝獣帯によって分割された十二の星座を集め、玉座に捧げろ〟という意味なんじゃない………かな?」

 

 最後は少し自信なさそうにトーンを下げる耀。しかし周囲からは、ゴクリと一斉に息を呑む音がした。

 

「ヤホホ………グッドですよ、春日部嬢!今の推理は多くのワードに符合します!」

 

「で、でも〝星座を集めろ〟っていうのはまだどういう意味なのか分からないし………」

 

「いやいや、それでも今後の方針を得るには十分な推理だったぜ!早速他の連中にも協力してもらおう!」

 

 膝を叩き、豪快に笑って音頭を取るガロロ。

 古城に囚われた彼らはゾディアック―――十二星座に関連する痕跡を探すため、城下街の探索へと乗り出すのだった。

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