問題児たちが特異吸血鬼と共に箱庭に召喚されるそうですよ?―終焉なる真祖は月神の末裔!?―   作:問題児愛

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第八話 地上にて今後の方針―――過去編・別れは突然に…真祖の姫君生誕

 ―――〝アンダーウッド地下大空洞〟大樹の地下水門。

〝ノーネーム〟一同はその後、前哨(ぜんしょう)戦の活躍と今後の戦果を期待され、〝アンダーウッド〟が誇る地下水門の主賓室へと案内されていた。

 大樹の中を削る様に掘り進められた道は、大樹の中心を螺旋階段のように下っていく。

 主賓室という割には移動が面倒くさいなーと思った飛鳥は、思わず愚痴ってみる。

 

「随分と道が入り組んでいるけれど………もしかして、樹の中に部屋を設けてあるの?」

 

「そうですよー常連さん。樹の根と幹に出来た大きな(こぶ)をくり貫いて、そのまま部屋にしたんです。皆さんを案内するのは、中でも特上の部屋ですのでご期待くださいなー♪」

 

 案内役を任されたキャロロは、(かぎ)尻尾を振りながら嬉々として彼らを部屋へと招く。

 飛鳥と十六夜は顔を見合わせ、楽しげな笑いを交わした。

 キャロロは主賓室のドアの前に立ち、

 

「はいさ、それではお立ち会い!此方(こちら)が大河を跨ぐ巨躯の水樹〝アンダーウッド〟が誇る大水門!二千体もの樹霊(コダマ)と水精達を観賞できる、最高主賓室でございます!」

 

 バタン!と扉を開く。すると主賓室の窓から吹き抜ける風が、川辺の薫る匂いと共に極少の精霊群を招き入れた。

 

「わぁ………!」

 

 実体を捉えられないほど小さな彼らだが、僅かに光る灯火がその存在を主張している。さながら蛍の光のようにユラユラと川辺で飛び交う彼らは、大河を跨ぐ水樹の景観をより一層に彩っているようにも見えた。

 飛鳥は両手の平に微精霊を迎えながら、黒ウサギに問う。

 

「もしかして、この光の一つ一つが精霊なの?」

 

「YES!精霊は霊格が高まるまで、粒子のように小さい存在なのです。メルンのように土地を開拓して霊格を高めるか、アーシャさんのように死後転生された者以外は、全てこの姿で生まれるのですよ」

 

 自信満々に説明する黒ウサギ。

 メルンが最小サイズだと思っていた飛鳥にとっては少々意外な話らしい。

 十六夜は二人が話している間に窓側へと移動し、大河を跨ぐ〝アンダーウッド〟の根と河口を眺めている。綺羅と光る景観を見つめるその表情は、喜びというよりはむしろ口惜しいというものに近かった。

 

「………参ったな。此処まで美麗な水景色だと、白雪姫じゃ勝ち目がない」

 

「へ?」

 

「ほら、少し前に白夜叉と水源開発を始めただろう?アレは白雪姫を(まつ)った社を造り、水路を開拓して、自由区画の景観も華やかにしよう―――っていうプランだったのさ」

 

「そ、そのようなプランが………」

 

 初めて聞く計画に驚く黒ウサギ。だがその話を聞いた黒ウサギ達は感動から一転、難しい顔になる。

 

「うむむ………そう言われると、確かに強敵です。〝アンダーウッド〟は下層でも三指に入る水の都。それをゼロから追い抜くとなると………」

 

「難しいわね。そもそも土地柄からして、南側と東側では差があるのではないの?」

 

「は、はい。南側は作物を育てるのに適した気候や、豊かな土地が溢れています。幻獣達でなくとも住みやすく心地好いでしょう」

 

「北側は都市部こそ大結界が働いて常秋の装いだが、未開拓地や箱庭外は極寒の土地らしい。それを補うために各コミュニティは切磋琢磨(せっさたくま)して、ギフトの製造や召喚を行っている。在籍しているコミュニティの意識レベルが高いからこそ発展し続けているんだろうよ」

 

「………だが〝アンダーウッド〟は、魔王に滅ぼされた後でもこれだけの復興を成した。俺達と同じ条件の相手に有利も不利もない。十年以内には、必ず追い抜いてやるさ」

 

 フン、と鼻を鳴らして宣言する十六夜。十六夜は宣戦布告するような瞳で、もう一度大空洞を睨む。

 飛鳥は備えられたソファに腰を下ろし、溜め息交じりに結論を出した。

 

「今言い出しても仕方がないわ。この件については腰を据えてゆっくり考えましょう。今はそれよりも、月夜と春日部さんと合流してレティシアを助けに行く作戦を練らないと」

 

「そ、そうですね。謎解きは十六夜さんにお任せするとして、今はその件を先に進めるのですよ!」

 

 黒ウサギも気分を入れ替えるように快活な返事で応える。

 十六夜とジンも、同じ席について話し合いに参加した。

 

「さて、現実問題として俺達には城へ向かうための足がない。これに関しては〝龍角を持つ鷲獅子(ドラコ・グライフ)〟連盟に協力してもらうしかないんだが………御チビは他に何か案はあるか?」

 

「案というほどではありませんけど、此処はグリーさんに頼むのが良いと思います。彼は耀さんを友人として扱っていますし、いざという時は手を貸してくれるはず」

 

「へえ?ってことはあのグリフォン、〝サウザンドアイズ〟支店で会った奴か?」

 

「YES!とっても友好的で理知的な方なのですよ!」

 

 ふむ、と腕を組んで考える十六夜。

 

「よし。そっちは黒ウサギに任せる。後は待機組と攻略組の編制だな。巨人との戦いが予想される待機組は、御チビとペストを中心にして、攻略組は俺が―――」

 

「―――私も行くわ」

 

 続きを遮るように言葉を挟む飛鳥。

 十六夜は思わず顔を上げて驚いたが、飛鳥は無視して話を続ける。

 

「黒ウサギはゲームには参加できない。だから巨人族の対処に残ってもらう。ジン君とペストは対巨人の力を持っている。残る私と十六夜君は、攻略のために空へ。………采配としては、これがベストでしょう?」

 

 真剣な顔で十六夜を見つめる飛鳥。十六夜は表情を消して様子を(うかが)う。

 彼が切り出す前に、飛鳥はさらに言葉を続けた。

 

「十六夜君。貴方が大一番のゲームで、私を危険から遠ざけるよう采配をしてきたことは………私なりに、気がついているつもりよ」

 

「……………、」

 

 十六夜は否定することなく、瞳を細めることで返す。

 

「結果として、それは正しかったのかもしれない。今回も十六夜君に任せるべきなのかもしれない。………でも今回は、既に春日部さんとレティシアの安否が分からなくなっている。月夜が救援に向かっているのが唯一の救いだけれど、状況が分からない以上なんとも言えないわ。多少無茶をしてでも敵地に乗り込まないと、助けられるものも助けられなくなるかもしれない」

 

 だから、私も連れていって欲しい。

 十六夜も無下には返せず、両腕を組んでしばし考えた後、ふっと飛鳥に問いかけた。

 

「………お嬢様は、どうしても連れていって欲しいと?春日部とレティシアのために?」

 

「ええ」

 

「そうか。でも俺は連れて行きたくない」

 

 十六夜は即答した。一瞬で場を凍らせるほどの鋭さと冷徹さで切り返すその声音は、一切の余裕を欠いて吐き出された。

 飛鳥は否定された怒りよりも、その緊張感に体を強張らせた。

 十六夜は前傾姿勢で飛鳥の顔を覗き込み、諌めるような静かな声を向ける。

 

「お嬢様の意気込みは買う。だけど俺は連れていきたくはない。もしも何かのトラブルで魔王―――もしくはそれに匹敵する未知の脅威と鉢合わせたら、お嬢様はその場でゲームオーバーだ」

 

「そ………そんなことないわ。私だって〝黒死斑の魔王〟を相手に、」

 

「あんなのは偶然と相性の産物でしかない。もしお嬢様とペストがまともに戦えば、それこそ勝負なんて成立する余地もねえよ」

 

「………な、」

 

 予想外に手酷く返された飛鳥は、言い返すことも出来ずに閉口した。

 十六夜はその場で立ち上がり、面倒くさそうに頭を掻きながら、

 

「でもお嬢様の気持ちや意気込みは分かるつもりだ。俺も身内がこれだけ好き勝手されて、黙ってなんていられない。連中には相応の報復をするつもりだ。………でもお嬢様と一緒じゃ、いざという時に動きが制限される可能性がある。それは避けたい」

 

「……………、」

 

 遠回しに「足手まといだ」と告げられ、奥歯を噛み締める。

 どう言い返せばいいのか分からず俯いていると、十六夜がニヤリと笑い、

 

「けど、もしも本当にお嬢様がペストと戦える実力があるなら、それは話が別だ」

 

「………え?」

 

「それに御チビとペストの急造コンビもまだまだ不安要素が多い。ぶっつけ本番が何度もまかり通るとは思わないしな。そういう意味でも、相性の悪いディーンと戦わせて経験値上げるのは悪い提案じゃないよなあ」

 

 含み笑いを浮かべて飛鳥を見る。

 飛鳥も察しがついたように答えた。

 

「つまり私が一人で………ジン君、ペストの二人と戦えというの?」

 

「ああ。もしお嬢様が一本でも勝てたら連れていくよ」

 

 頷いて返す十六夜は挑発的に飛鳥を見る。

 飛鳥は望むところだとばかりに腰に手を当て、ビシッ!と指差しながら言い返した。

 

「いいわ、望むところよ。十六夜君が間違っていたことを証明してあげる」

 

「ああ。精々頑張ってくれ」

 

 ―――勝てるものならな、と呟く十六夜。

 一方のジンだが、本人そっちのけで日程を決められていく流れに唖然としつつも、小さく握り拳を作って気合いを入れるのだった。

 

――――――――――

 

 ライムのそれからは、毎日が楽しかった。理由は、学校帰りに私の隠れ家に遊びに来てくれる少年少女の二人がいるからだ。

 譲は変態だが、面白い話や遊びを考えてくれた。

 栞はしっかりもので、愛らしい手芸や様々な衣装を持ってきてコスプレなどをした。

 着替えを譲に覗かれて、その際に顔を真っ赤にした栞の回し蹴りが彼のこめかみにクリティカルヒットしたけど。

 

 小学校での出来事を聞いて、学校って楽しそうだなあ、と思い始める私。

 ランドセルとかいうのに教材を入れて登校するそうだ。キョウザイって何?………餃子?

 小学校の修学旅行とかいうのに憧れた。何処か遠いところに遊びに行くそうだ。何処行ったのかな?………宇宙?

 運動会とかいう行事の話も聞いた。紅と白に別れて競い合う行事だそうだ。綱引き・かけっこ・騎馬戦・玉入れetc………楽しそうだなあ。

 

 

 ユズルが授業中に騒いで先生に怒られたり、ユズルが授業中に居眠りして先生に怒られたり、ユズルが授業中にお菓子を食べて先生に怒られたり………ユズル、悪い子。

 

 

 一方、シオリは成績優秀で、ボランティア活動にも積極的で、授業も真面目に聞いていて先生に誉められているそうだ………シオリ、偉い子。

 

 

 二人が卒業後、同じ中学に。高校も同じ学校に通ったそうだ。なんという偶然………それとも狙ってる?

 でも前々からユズルとシオリはお似合いだと思ってたし、くっつくなら私は嬉しいかな。

 ―――だけど、仲間外れみたいでなんか悲しいな………。

 そんな気持ちもあったけど、それでも二人と一緒にいる時間は楽しいでいっぱいだった。

 

 

 だけどそれは長くは続かなかった。ユズルとシオリが高校を卒業した後、私の下に来ることは―――なかった。

 

 

 解ってはいた。大人になれば彼らは忙しくなって私なんかを構ってる暇はないんだってことに。

 だけどユズルとシオリと一緒にいたあの時間が愛しいと思ってしまった私の心は寂れた。

 嗚呼、そうか。私は独りになるのが嫌だったんだ。寂しかったんだ。怖かったんだ。

 瞬間、私は眷属が欲しいと考えるようになった。でもそれは人を襲うことを意味していた。

 

「(それは駄目!私はもう人間を襲わないと決めたんだ。自分の都合で、人間としての生命を奪っては駄目………ッ!!)」

 

 そう。喩え孤独が嫌で、寂しくて、怖くても、私は人間を襲わないと決めたのだから、それを曲げるつもりはない。

 だが譲も栞もいないとそんな決意も揺らいできてしまう。人間を襲わずに、自分の孤独を癒す方法はないだろうか?

 私は考えて―――ふとある方法が思いついた。

 

「(―――そうだ!作れないなら、()()()()()………ッ!!)」

 

 眷属を造る。それが私の思いついた孤独を癒す方法だった。

 私はお義母(かあ)様に教わった魔術を行使して、自分の鮮血()から娘を創造(つく)った。

 

「……………?」

 

「(ふふ、私そっくりって変な感じだけど………孤独じゃなくなるからいいかな)」

 

 私は微笑して娘に抱きつく。私の感触ってこんなだったんだ。

 さらに娘の金髪頭を優しく撫でると、彼女は(くすぐ)ったそうに身を捩り、されど嬉しそうにはにかんだ。

 ………自分にそっくりだから髪型は変えた方がいいね。娘ということにするから―――姫カットがいいかな。

 そう決めた私は、娘の髪型をツインテールから姫カットにささっと変えた。

 

「(………あ、いけない。この子に名前をつけてあげなきゃね)」

 

 私は少し考えて、娘にこう告げた。

 

「貴女は今日から私の娘―――マリアです。いいですね?」

 

「………マリ、ア?それが、私の名前?」

 

「はい」

 

「………うん!分かりました、お母様!」

 

 元気に娘―――マリアは返す。私はマリアの金髪頭を優しく撫でて囁いた。

 

「―――マリア。決して貴女が私の―――だということは誰にも知られてはなりませんよ?」

 

「うん!気をつけます………!」

 

 にこやかに笑って返すマリア。私は再度マリアの金髪頭を撫でて笑う。

 こうして私とマリアとの生活が始まった。

 

 そしてこれが真祖(わたし)の力の弱体化の要因と―――不完全な吸血鬼(死なずの怪物)になるきっかけとなるのだった。

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