問題児たちが特異吸血鬼と共に箱庭に召喚されるそうですよ?―終焉なる真祖は月神の末裔!?―   作:問題児愛

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第九話 上空にて束の間の休憩―――目覚めて早々弄られる真祖

 ―――吸血鬼の古城・城下街。

 風化している瓦礫の山の中心で、陽気な声を上げるカボチャ頭―――ジャックは、連れ去られた子供達の面前に立ち注目を集めていた。子供達は獣人や樹霊(コダマ)や水精など、その多くが〝アンダーウッド〟で育った者達だ。

 瓦礫に腰をかけていた耀とガロロは、彼らの挙動に疑問を感じながらも静観に徹している。

 

「あのカボチャ頭………何をするつもりだ?」

 

「分からない。けど、子供達が楽しく協力出来るようにしたいって言っていたし、悪いことじゃないと思うよ」

 

 だといいんだがなあ、と半信半疑なガロロ。

 ジャックは一本の傘を取り出し、子供達の前に掲げて見せた。

 

「ヤホホ!さあて、皆さんお立ち会い!此処にありますは我が友の作りたる魔法の傘!高名なる睡魔・オーレ=ルゲイエ老の作り出した逸品でございます!」

 

 陽気に笑うジャックと、魔法の傘をクルクルと回すアーシャ。

 オーレ=ルゲイエの名前が出た途端、ガロロの顔が驚きに染まった。

 

「おいおい………オーレ=ルゲイエの傘だと………?」

 

「知ってるの?」

 

「あ、ああ。名前だけはな。聞いた話じゃ、様々な夢を見せる魔法の傘だというが………しかしあのカボチャ頭。あんな貴重品を何処で手に入れたんだ?」

 

 うーむ、と腕を組んだまま小首を傾げるガロロ。

 

 ―――二人は知らないが、オーレ=ルゲイエとはデンマーク付近に現れるとされる壮年の姿をした睡魔のことだ。

 オーレ=ルゲイエは虹色の絹の上着を着て眠っている子供に近寄り、二種類の夢を見せる魔法の傘を枕元に置いていくという。

 子供が良い子であれば、幸せな夢が見られる傘を。

 子供が悪い子であれば、悪夢を見せられる傘を。

 

 ジャックは両手を広げ、カボチャ頭を揺らして宣言した。

 

「ヤホホ!これから行う城下街の散策に協力してくれたのなら!このオーレ=ルゲイエ老の作った夢見の傘を、みんなにプレゼントしようと思います!」

 

「ふふ~ん、大奮発だぜ?」

 

 八重歯を見せながら笑うアーシャ。

 子供達はずっと暗かった顔を一転させ、明るい表情を見せ始めた。

 その中の一人が、挙手してジャックに問う。

 

「あの、カボチャ頭さん。その傘は好きな夢を見ることが出来るものですか?」

 

「ヤホホ?まあ、そう言えなくもありませんが………差し支えなければ、どのような夢が見たいか教えていただけますか?」

 

 カボチャ頭を傾げて問う。

 手を挙げた子供―――水精と思われる少女は、少し恥ずかしそうにはにかみながら、

 

「〝アンダーウッド〟に………旗が(なび)いている、夢が見たいです」

 

「……………?」

 

「〝アンダーウッド〟は今、〝龍角を持つ鷲獅子(ドラコ・グライフ)〟連盟の庇護下にあります。だから旗は宝物庫にしまってある状態で………本当なら、収穫祭が成功したら、その時に掲げるはずだったんだけど………収穫祭、駄目になっちゃったから」

 

 だから夢の中だけでも、〝アンダーウッド〟に旗を靡かせたい。そう言ってはにかむ少女と、同様に頷き合う子供達。

 ジャックは思わず黙り込み、反応が遅れた。

 見ていたガロロも、痛烈な面持ちで顔を背けた。

 耀はただ真っ直ぐに、その子供達の姿を真摯(しんし)に見つめ続けた。

 

「………ガロロさん。子供達にとっても、やっぱり旗印って大事なものなのかな?」

 

「ああ。箱庭の子供はみんな、コミュニティの旗印を見上げて育つ。己の旗に恥じぬ様に、己の旗に見合うようにと、旗を見上げて育っていく。………あの子達にとって収穫祭は、将来を左右するほど大事な儀式だったはずだ」

 

「………そっか」

 

 と小さく相槌を打ち、子供達を見つめる耀。

 ジャックは子供達の顔を一人一人見つめ、快く頷くことで返した。

 

「………ヤホホ!ええ、勿論ですとも!しかしズルをして勝っても意味はありませんよ?この夢見の傘は良い子に幸せを、悪い子に悪夢を見せる傘。もしズルをして勝った子には、もれなくカボチャの悪夢が待っていますからねぇ?」

 

 指を鳴らし、キャンドルスタンドとランタン人形の使い魔を飛び交わせるジャック。

 悲鳴にも似た歓声を上げる子供達の姿を、目を細めながら見つめるガロロ。

 耀は収穫祭に来た時にグリーが話していたことを思い出していた。

 

『〝アンダーウッド〟が復活したことを、東や北にも広く伝えたいのだ―――』

 

 そう言って語る彼は、意気揚々と耀達を案内してくれた。

 収穫祭に訪れた時は、本当に楽しかった。

 活気に満ちた住人や催されるはずだったゲームの数々に、胸を躍らせていた。

〝ノーネーム〟を復興するための苗や種子を物色し、子供達のお土産をあれやこれやと飛鳥達と選んでいた時は、今までに経験したことのない時間だった。

 主催者に参加者、そして故郷を想っていた、多くの人達の想いを集めていた収穫祭は―――心無い者達によって、踏み(にじ)られた。

 それも己の手を汚さず、レティシアを利用するという悪辣(あくらつ)な手を使って、

 

「………好きじゃないな、そういうの」

 

 ボソリ、と言葉が漏れた。

 耀は勢いよく立ち上がり、隣に座っていたガロロの前に立つ。

 

「ガロロさん。ガロロさんは昔、ドラコ=グライフと一緒に魔王と戦ったと言っていたけど………もしかして〝階層支配者(フロアマスター)〟の一人だったんじゃ、」

 

「はは、まさか。〝階層支配者〟はドラコの奴で、俺はその参謀の一人。吸血鬼のことや〝全権階層支配者(アンダーエリアマスター)〟のこともドラコからこっそり聞いた話さ」

 

 謙虚な物言いながらも、何処か自慢げに話すガロロ。

 耀にとってはそれで十分だった。

 

「ガロロさんは、色々なことを知っている。だから私に教えて欲しい。魔王と戦うためのノウハウや、必要な知識を」

 

 耀の真剣な眼差しを受けたガロロは目を見開いて驚いたが、次の瞬間には厳しい表情を浮かべて耀を睨む。

 

「………駄目だな」

 

「え?」

 

「まずその考え方が駄目だ、って言ったんだよ。………いいか、耀お嬢ちゃん。そもそも『魔王と戦う』という考え方が間違っている。魔王のゲームを勝ち残るための定石はな、『()()()()()()()()()()()()()』を考えるのが大前提なんだぜ」

 

 耀は瞳を丸くして驚く。ガロロはやや前傾に腰かけて話を続けた。

 

「今から話のは、箱庭じゃ常識レベルのルールだ。耳の穴をかっぽじって聞きな」

 

「は、はい」

 

「まず、魔王のゲームには必ず二種類以上のクリア条件・ゲーム終了条件が提示される。この二種類とは―――

〝魔王を倒すことでゲームクリア〟

〝魔王を無力化することでゲームクリア〟

 ―――この二つだ。クリア数や時間制限を指定されない限り、一つクリアするだけで参加者側の勝利となる。もしも三つ以上の勝利条件が提示されている場合は、魔王側に有利なペナルティルールが敷かれている。()()()()()()()()()()。勝利条件が多いということは、それだけ参加者側が有利ということだからな。………分かるか?」

 

「うん」

 

 納得したように頷く耀。

 

 魔王の霊格にもよるが、〝参加者側の勝利条件の数〟と〝主催者側の勝利条件の数〟、それに加えて〝ペナルティの数〟は比例するものだとガロロは語る。

 

「さっき言った『如何にして魔王と戦わないか』というのはつまりそういう意味だ。魔王との直接対決なんて最後の最後、それも最終手段。そもそも、名のある魔王はその多くが最強種―――それも独自の世界を体現した真正の修羅神仏だ。下層・中層クラスの魔王でも大悪魔や神霊クラスがゴロゴロしてるっていうのに、まともに戦おうなんていうのは、本物の馬鹿かルーキーのすることだ」

 

「………はい」

 

 少ししょんぼりして頷く耀。

 

 ―――ガロロの言う通り、魔王と直接対決で勝つというのは常識的な話ではないのだ。魔王は至高とも言えるギフトの数々を所持し、恩恵を与える側の存在もいる。

 それほどまでに強大な霊格(そんざい)を砕くとなると、並のギフトでは歯が立たない。

 

 それを踏まえた上で、耀は何かに気がついたように呟く。

 

「でも、ガロロさんは〝階層支配者〟の隣で魔王とのゲームを生き残ってきた。ならその経験だけでも教えて欲しい」

 

 ぐぐっ、と迫る耀。

 

「ま、まあ………そういう事なら、教えられることも無いことはないが………」

 

「なら、お願い」

 

 ぐぐぐっ、とさらに迫る。

 ガロロは観念したように両手を上げて降参の意を表した。

 

「わかった、わかったよ。役に立つか分からんが、俺の教えられることなら教えてやる」

 

「………本当?」

 

「ああ。………でもな、耀お嬢ちゃん。全ての魔王に共通した戦い方なんて、本当に僅かしかねえ。そして魔王もそれは心得ている。つまり俺の戦い方は古い戦法だ。もしかしたら無駄な努力で終わるかもしれねえが………」

 

「ううん、それでもいい。私は、まず知るところから始めないといけないと思うから」

 

 ガロロもそれ以上は拒まず、ニカッと笑って快諾した。

 丁度その頃、ジャックとアーシャも子供達への説明が終わったらしい。

 巨龍に囚われたのは総勢五十四名。雷雲の取り巻く吸血鬼の廃都で、本格的な探索を開始するのだった。

 

――――――――――

 

 ―――吸血鬼の古城・黄道の玉座。

 正確には玉座の間に続く階段だが、殿下に撃たれて丁度丸一日が立ち、月夜は目を覚ました。

 

「………ぅ、ん………」

 

 月夜はゆっくり目を開けると、まず視界に入ったのは―――

 

「………御主。何をやっておる?」

 

「あ、起きたんだ!おはよー………じゃなくてこんばんはだね」

 

 ―――ノースリーブの黒いワンピースを着た少女・リンが自分の胸を揉みしだいていた。

 月夜はそれを冷めた視線で見つめるも、徐々に頬を紅潮させてリンの手を振り払った。

 

「ええい!何時まで我が豊満なる胸を揉んでおるっ!この胸を触ってよいのは愛する眷属(むすめ)達だけだッ!!」

 

「えー?結構感触が気持ちよかったから触ってたんだけど………駄目なんだ。残念」

 

 しゅん、と落ち込むリン。月夜はフン、と鼻を鳴らして問う。

 

「それで、ここは何処なのだ?」

 

「城の中だよ」

 

 リンが即答する。そう。月夜は気絶している間に吸血鬼の古城内に連れ去られていたのだ。

 そこで月夜はハッと気がついたように立ち上がる。

 

「………ッ!!そうだ、我は仮面の少年に襲われて―――」

 

「動かないで」

 

 リンが鋭利なナイフを月夜の首元に当てて牽制する。

 一瞬、冷や汗を掻いた月夜だが、すぐに余裕な笑みで言う。

 

「………生憎だが〝銀〟のナイフでは我を脅すには不充分であるぞ?」

 

「うん。知ってる」

 

 また即答するリン。この返しを不気味に思い、思わず後退して身構える月夜。

 通じないと解っていながら、自分にナイフを向けてくる意図が分からなかった。

 だがリンはナイフを仕舞うと、殿下から渡された銀の拳銃を取り出して月夜に向けて笑う。

 

「やっぱりこっちじゃないと効果がないのかー」

 

「―――――ッ!!?」

 

 月夜はその銃を見て嫌な汗を背筋に感じ取った。

 ソレは間違いなく、あの時自分の意識を刈り取った〝銀の弾丸〟が込められた銃だということを察したのだ。

 その反応にリンは満足そうに笑うと、銃を月夜に向けたまま続けた。

 

「今の貴女は囚われの身です。痛い思いをしたくないのなら大人しくしている方がいいよ?」

 

「くっ………そうは言ってもだな、」

 

「他の参加者が心配?」

 

「……………っ!!!?」

 

 リンの返しに月夜は驚愕した。それと同時に、これ以上ボロを出せば耀達もこの吸血鬼の古城(正確には城下街)に乗り込んでいることが彼女に知られてしまう。

 それだけはなんとしても避けるべきだと思い、月夜は口を(つぐ)んだ。

 黙り込む月夜にリンは問いかけた。

 

「このまま参加者側の情報を話してくれると嬉しいんだけど………そう簡単にはいかないかな?」

 

「当たり前だ。喩えその銃で脅されようとも仲間の情報を敵の御主に話すつもりなどないッ!!」

 

 キッとリンを睨みつける月夜。リンは残念そうに肩を落とした。

 

「………まあ、そうだとは思ってたけどね。幾らお馬鹿な貴女でも、仲間を売ったりはしないって」

 

「ぬ、誰が馬鹿だ!我は吸血鬼の真なる祖であるぞ!その我を愚弄するかっ!」

 

「そうやって自分の事を〝真祖〟って言っちゃってる時点でお馬鹿だと思うけどなー」

 

「ぐ………ぬぅ」

 

 (もっと)もな事を言われて言い返せずに唸る月夜。本当にリンの指摘は正しいため何も反論出来なかった。

 だが月夜はふとリンを見つめて、ニヤリと笑う。

 

「(我を見張っているのはこの小娘一人か。ならば好都合。我が〝魔眼〟で―――)」

 

「あ、ちなみに―――私を操って逃げようと考えても無駄だからね。対処法はしっかり心得てるから」

 

「……………ッ!!!!」

 

 まるで心を見透かされたようなリンの呟きに、月夜の表情は驚愕に支配された。

 だがまだ手はある。霧化ならば、と月夜は身体を黄金の霧に変えようとした―――が、ドピュッと月夜の顔に冷たい何かがかかった。

 

「……………?」

 

「言っとくけど霧化もさせないよ?ちなみにコレは水鉄砲で、さっき貴女の顔にかけたんだ。その意味―――分かるかな?」

 

「……………っ、」

 

 リンの言葉を理解した月夜は、悔しそうに顔を歪めた。

 水鉄砲―――即ち月夜の顔にかかった冷たい何かは、『水』だった。

 水に少しでも濡れてしまえば、霧化出来ない。その事は殿下から聞いていたため、リンは水鉄砲という形で月夜の霧化を防いだのだ。

 そして霧化が使えなくなった月夜に、逃げる術はない。恐らく月夜の異能の弱点を知り尽くしているリンの背後には、例の仮面の少年がいるはずなのだから。

 

「………くっ、」

 

「うん。悪いことは言わないから、逃げようだなんて考えないでね?なるべくコレで貴女を撃ちたくはないから」

 

 リンは水鉄砲ではなく銃を向けながら苦笑して言う。

 月夜はしばし考えて、観念したように答えた。

 

「………分かった。我も逃げられぬのなら痛い思いはしたくないからのぅ………御主の言うことを聞こう」

 

 本当は今すぐに愛する眷属(むすめ)の下へ戻りたいのだがな、と内心でつけ足す月夜。

 それにリンは嬉しそうな笑みを浮かべると、

 

「ありがとう。じゃあ早速だけど―――こっちに来て!」

 

「む?………う、む。分かった」

 

 リンに手招きされた月夜は恐る恐る彼女の下へ歩み寄る。すると、

 

「えい!」

 

「………は?」

 

 リンが突如として月夜に抱きついた。突然の事で間抜けな声を発する月夜。

 リンはムギュッと月夜を抱きしめて恍惚(こうこつ)とした笑みを浮かべた。

 

「わぁ!抱き心地も中々だねー!ますます貴女の事が気に入っちゃいました!」

 

「………いや、な?我と御主は敵同士ではなかったのか?」

 

「えー?今はそんなことは関係ないよ!うわぁ………髪も本当にサラサラで羨ましいなー!」

 

「……………、」

 

 リンの輝いた瞳を見た月夜は、これは何を言っても無駄だな、と悟り深い溜め息を吐くのだった。

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