問題児たちが特異吸血鬼と共に箱庭に召喚されるそうですよ?―終焉なる真祖は月神の末裔!?―   作:問題児愛

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第十話 地上にて権利を賭けて勝負―――大浴場で一息

 ―――〝アンダーウッド地下大空洞〟大樹の地下水門。

 翌日の朝。十六夜に提案された戦いが行われていた。

 

「―――――DEEEEEEeeeEEEEEEEN!!!」

 

 地響きを上げて巨大な手足を振り回す紅い鉄人形―――ディーンは白い小さな人影を追い回すように暴れているが、一向に捕まえられない。

 相対しているペストは大河の水面近くまで浮遊しながら、疲れたように溜め息を吐いた。

 

「………まだ続けるの?いい加減飽きちゃったわ」

 

「……ッ、この………!一気に押し潰しなさい、ディーン!」

 

 ディーンの肩に乗っていた飛鳥は、痺れを切らしたように叫ぶ。

 紅い鉄人形は右の巨腕を砲筒のように構え、雄叫びと共に打ち出した。

 

「DEEEEEEeeeEEEEEEEN!!!」

 

 伸縮する鋼、神珍鉄の右腕が砲弾の如き速度でペストに迫る。

 ペストはその一瞬だけ黒い風を巻き起こし、悠々と旋回することでそれを避ける。左の巨腕も同じく伸縮するが結果は同じだ。

 ディーンの両腕が伸びきったところを見計らい、ペストは鉄腕を足場に急加速して飛鳥の胸元に飛び込んだ。

 

「はい、終わり」

 

 ドンッ、と突き飛ばす音。途端、為す術もなく空中に投げ出される飛鳥。

 バシャァァァァン!!!と水飛沫を上げて大河に落ちると、逃げるように精霊群が霧散していく。その下には、飛鳥が岩に掴まりながら浮かんでいた。

 ペストはディーンの肩に座り込み、飛鳥をつまらなそうに見下す。

 

「もう、決着でいい?流石に五回も同じことを繰り返したら飽きてきたわ」

 

「………っ……!」

 

 大河に流されないよう、必死に岩にしがみつく飛鳥。

 ペストが言う通り、この戦いは既に四回も仕切り直していた。他の四戦も結果は同じで、飛鳥がディーンから落下して敗北するというもの。

 大河に下半身が浸かっているディーンは、巨躯の手を差し伸べて主人を救い出す。

 

「………ありがとう、ディーン」

 

「DeN」

 

 無骨な返事をするディーン。

 ペストはフワフワと飛鳥の元に近寄り、心底小憎らしい笑顔で告げた。

 

「それで、どうするの?まだ続ける?あんまり続けると苛めっぽくて嫌なんだけど」

 

「………いいえ。もう、十分よ」

 

 あっそ、と笑顔のまま素っ気なく言い捨ててその場から離れるペスト。

 軽い足取りでジンの下へと戻ったペストだが、迎える言葉は称賛ではなかった。

 

「ペスト。これは相性の悪さを克服するためのものなんだから、飛鳥さんを直接狙うだけじゃなくディーンとも戦わないと、」

 

「私も初めはそのつもりだったわ。………でもあの赤い人、拍子抜けするぐらい隙だらけなんだもの。あれじゃ狙ってくれと言っているようなものよ」

 

 告げて水辺に座り込み、足でパシャパシャと水を跳ねさせるペスト。

 

「改めて向かい合ってみて思ったけど………あの赤い人、ほとんど普通の女の子よ。アレでよくも私のゲームで生き残れたものね。逆に感心したわ」

 

 悠然とした笑みと皮肉を飛鳥に向ける。

 

「………でも、そうね。あの紅い鉄人形を強化している彼女のギフトは、確かに脅威よ。それは認める。(たくま)しくて硬くて速くてしかも伸縮自在。強化済みの状態じゃ、神霊化した私でもちょっと倒す方法がないぐらいには厄介よ。其処は認めてあげる」

 

 彼女が神霊として巻き起こした死の風も、あの紅い鉄人形には通用しなかった。其処に飛鳥のサポートが加わればディーンの力はさらに高まる。

 ペストも、その一点だけは認めてはいた。

 

「でも肝心のマスター本人があれじゃ論外。どんなに強力な駒を持っていても、自衛手段のない人形遣いなんて怖くもない。あれじゃ魔王は勿論、その辺の幻獣を相手にするだけであっさり死んじゃうんじゃない?あの赤い人」

 

 飛鳥を見つめ、より一層の皮肉を込めて微笑む。

 ジンは言いたい放題のペストを咎めるように眉を(ひそ)めた。

 

「ペスト、言い過ぎだ。もう少し言い方が、」

 

「やぁよ。それにあのヘンテコ男の狙いは、それを自覚させる事でしょ?なら私は十二分に役目を果たした事になるわ。それ以上の気遣いを求められる筋合いなんてないもの」

 

 そうでしょ?と悠然とした笑みを浮かべ、視線を主賓室の窓へと向ける。

 主賓室は丁度、サラが様子を見に来たところだった。

 戦いの様子を主賓室から眺めていた黒ウサギは目礼だけで挨拶し、苦笑いを浮かべた。

 

「サラ様………その、見てました?」

 

「ああ。揺れの原因を知りに来たんだが………なるほど、腕試しの最中だったのか」

 

「YES。明日に備えて、地下大空洞をお借りしております」

 

 ふむ、と相槌を打って眼下を見るサラ。しかし彼女が見たのはペストや飛鳥ではなく、ディーンの不揃いな足跡だった。

 

「(あれが神珍鉄の鉄人形………伸縮自在の鉄巨人。しかし神珍鉄でできているのならば、()()()()()()()()()()()………これはあの娘のギフトか?)」

 

 ディーンが伸縮した際の不揃いな足跡を見つめ、物思いに(ふけ)るサラ。

 一方の飛鳥は、全身から水を滴らせて俯いたまま、川辺で立ち竦んでいた。

 

「飛鳥さん………」

 

 心配そうに呟く黒ウサギ。

 一方の飛鳥は、数々の暴言にも返す言葉がなく、ペストを見返すしかない。

 この後で如何にフォローを入れるべきかと黒ウサギが悩んでいると………眼下の空洞を、ズカズカと大股で歩く十六夜の姿が黒ウサギの視界に入った。

 その両手には、バケツらしき大きな容器を一つずつ持っている。

 黒ウサギは壮絶な悪寒に襲われた。

 

「い、十六夜さん………?一体何を、」

 

「さて。私にはバケツを持っているように見えるが」

 

 二人は訝しげに小首を傾げて見つめる。

 十六夜がただのバケツを持って川辺を歩いているだけなのに………黒ウサギは十六夜の一挙一動に対して、ウサ耳を逆立てるほどビンビンに警戒していた。

 

「な、何で御座いましょう………ものすッッッッごい嫌な予感がするのですが………!!!」

 

 ジリ、と窓際から後退(あとずさ)る黒ウサギ。

 十六夜は川岸に座ると無表情のままバケツに川の水を汲み上げる。なみなみと満ちたバケツを両手に提げた十六夜はやはりズカズカと大股でペストとジンへと歩み寄り、

 

 

「―――――手が滑ったあああああああああああああッ!!!」

 

 

 バシャァァァァン!!!と、ペストとジンに全力で水をぶっかけた。

 ついでに黒ウサギにもぶっかけた。

 

「って何でですかああああああああ!!?」

 

 下方からぶっ飛んでくるバケツ一杯分の水弾。それを辛うじて避ける黒ウサギ。

 ふふん、と冷や汗を流しながら自慢げに見下ろす黒ウサギ。

 しかし隣にいたサラは、全身びしょ濡れで立ち尽くしていた。

 ちなみに至近距離で水を浴びたジンとペストは、余りの水の勢いで後方に三mほどぶっ飛んでいた。

 ペストが憤怒の視線を向けながらユラリと立ち上がる。

 

「………何のつも」

 

「手が滑ったから仕方がないな!」

 

 ビシッ!と有無を言わさぬ笑顔で親指を立てる十六夜。

 しかしその目が笑っていない。ジンは笑顔のまま真正面から睨まれて思わず竦んだ。

 

「やり過ぎだ馬鹿。空気を読めこの脳足りん斑ロリ」

 

 ―――といったところだろう。

 そんな有無を言わさぬ十六夜の気迫を受け、拗ねるように頬を膨らませてそっぽを向くペスト。その隙を突いた十六夜はガシッ!と二人を拉致。

 

「ちょ、ちょっと貴方………!?」

 

「手が滑ったからには仕方がないな!俺が責任を持って風呂まで運んでやるぞ!」

 

「ふ、………!?」

 

 サァと血の気が引いたように顔を引きつらせるペスト。

 二人を運び始める十六夜はその際、一連のやり取りをポカンと眺めていた飛鳥に視線を移す。

 

「………おい、お嬢様」

 

「な、何よ」

 

「何よも何も、そのまま全身濡れたままじゃ風邪を引くことはきっと間違いないからとりあえず風呂場まで直行するが異論は認めない方向なんでとりあえず同じように担ぎ上げるけど文句いうなよ分かったらしいなよし、行くぞ!」

 

 え?え?と飛鳥が混乱して首を傾げている間に担ぎ上げる十六夜。

 お子様二人と飛鳥を拉致した十六夜は、やはりズカズカと大股で大空洞を去っていく。

 主賓室で一部始終を見届けた黒ウサギとサラは呆気にとられながらもその奇行を見送る。水に濡れたまま呆然としていたサラだが、思い出したように質問した。

 

「………黒ウサギ殿」

 

「は、はい」

 

 サラは去っていく十六夜の背中を、濡れた髪を掻き上げながら指差し、

 

「………何だ、()()は」

 

「―――――………、」

 

 さて、何で御座いましょうね?とは流石に返せなかった。

 ポタポタと滴る音だけが響く絶妙に微妙な空気が敷き詰められる大樹の主賓室。

 それを壊すように、ドアの向こうからキャロロの元気な声が響いた。

 

「サラ様ー!大浴場の準備が出来ましたー!」

 

「ん?ああ、わかった。すぐに行く」

 

 ぶっかけられて濡れた全身を見下ろし、今さらながらに苦笑するサラ。

 黒ウサギはウサ耳をへにょらせて同士の無礼を謝罪した。

 

「うう………我々の同士がとんだ失礼を、」

 

「全くだ。このままでは大事な時期に風邪を引いてしまう。おかげで風呂に入らざるを得なくなってしまった。………だからこの詫びは、黒ウサギ殿に背中を流してもらうことで許そうではないか」

 

 偉そうな口ぶりと、少しの茶目っ気を込めて笑うサラ。

 黒ウサギはパッと顔を明るくして大浴場まで追従するのだった。

 

――――――――――

 

 ―――〝アンダーウッド〟葉翠の間・大浴場。

 大樹の西側を掘って造られた大浴場。やはり他の部屋と同じで樹をくり貫くことで造られている。

 樹の中をくり貫いてそのまま使っているため、杢目(もくめ)が全て繋がっている。外部から一切ものを持ち込まず大樹の幹を掘るだけで造られた湯殿は、不思議な一体感のある場になっていた。

 サラに追従して湯殿まで来た黒ウサギは、感嘆の声を上げた。

 

「わぁ………!」

 

「気に入ってくれたか?」

 

「YES!とっても素敵なのですよ!」

 

 ブンブンと両手を振りながら湯殿に入る黒ウサギ。

 しかしその直後、湯殿の奥から悲鳴のような声が上がった。

 

「い、痛い痛い痛いっ!ちょ、ちょっと、爪を立てないでって何度言えば、」

 

「仕方がないでしょう!人の頭を洗うなんて初めてなんだから、我慢なさい!」

 

 バシャン!とお湯を被せる音。

 何事かと思った黒ウサギとサラだったが、声は聞き覚えのあるものだ。湯煙の奥に見える人影を目指して突き進んだ先には、飛鳥とペストが仲睦(なかむつ)まじく―――

 

「ほら、次は身体よ。こっち向いて」

 

「や、やだ、」

 

「やだ、じゃないの。十六夜君の話が本当なら、貴女が生きた一五〇〇年代にはお風呂が普及してなかったって話じゃない。これを機に、お風呂大国の文化を知りな、さい!」

 

 バシャン!………と、実に仲睦まじく、飛鳥が一方的にペストを洗っていた。

 黒ウサギとサラは先客がいた事にも驚いたが、飛鳥がペストを洗っていることに尚のこと驚いた。

 

「え、えーと………飛鳥さんは、どうしてペストと湯殿に?」

 

 ピタッとペストを洗う手を止める飛鳥。

 少しだけ頬を染めて振り向いた彼女は、ポツリと呟く。

 

「………十六夜君に、脅迫されただけよ」

 

「きょ、」

 

「〝俺に剥かれて、俺に洗われるか。それとも二人仲良く風呂に入るか。どちらか選べ〟って言われて………抵抗したら本当に二人とも脱がされそうになったから、仕方がなくこうしてこの子を洗ってるのっ」

 

 言い終わった飛鳥は、一層頬を紅潮させて口を尖らせた。

 

「(さ、流石は最強問題児様………仲直りの方法も豪快なのですよ………!)」

 

 その手腕に半ば感心、半ば放心。そしてほんのちょっとモヤモヤっとする黒ウサギ。

 ペストは目に泡が入ったらしく、必死に目を掻いてゆすいでいる。

 

「あのヘンテコ男………!そのうち敗血症にでも(かか)らせて殺してやる………!」

 

「それ良いわね。今度私も手伝うわ」

 

 ゴシゴシ、とこすりながら涙目で語るペスト。

 洗い終わった飛鳥はそこでようやく黒ウサギ達に視線を向けた。

 

「あら、議長様もいらしたの?」

 

「ああ。しかし議長様はやめてくれ。素肌を晒し合う場所でその呼び名は堅苦しい。私の事はサラと呼んでくれて構わないよ」

 

「そう。じゃあ私も飛鳥でいいわ」

 

 二人は笑みを交わし、逃げようとするペストを捕まえて湯船に浸かった。

 飛鳥、黒ウサギ、サラは、ふやけたペストを放置し、人心地ついたように息を吐いた。

 

「飛鳥、だったな。随分と礼が遅れたが、この場で言わせてくれ。巨人族が出現した時に手を貸してくれてありがとう。あの時は本当に助かった」

 

「別に改めて言われることじゃないわ。魔王関係のトラブルを引き受けるのが私達の活動でもあるんだから。………それに巨人族を撃退したのは、私ではないでしょう?」

 

 むっと眉を歪ませて肩まで湯船に浸かる。

 

 濃霧に包まれた刹那に(はし)った影と金属音。次々と引き裂かれて絶命していく巨人族達。全身を返り血で濡らした、純白の騎士。

 

「フェイス・レス………彼女の名前って、本名ではないわよね?」

 

「YES!彼女はかの魔王―――黄金と境界の星霊〝クイーン・ハロウィン〟の寵愛(ちょうあい)者。この寵愛者達は与えられた騎士名を名乗ることが義務付けられているのです」

 

「彼らは空前絶後のギフトを与えられ、クイーンを守護する騎士となる。その騎士の一人がこの場に居合わせているというのだから、何とも心強い話だ」

 

 僅かな安堵と緊張を見せるサラ。

 飛鳥は面白くなさそうにフン、と鼻を鳴らしてそっぽを向いた。

 

「どんなに頼り甲斐があるといっても、魔王の手下でしょう?信頼していい相手とは思えないわ」

 

「いえ、〝クイーン・ハロウィン〟が魔王だったのは遥か遠い時代の話………ああでも、絶対的に安心できるお方ではないようですが。白夜叉様曰く、『箱庭の三大問題児』とまで称されるお方ですし」

 

「そうだな。私も幼い頃は『悪いことをしたら〝クイーン・ハロウィン〟に(さら)われるぞ』と乳母に脅されたものだ」

 

「ふふ、何それ。まるでナマハゲや雷様みたいじゃない」

 

「YES!この箱庭でもそれだけ恐れ敬われているということですよ」

 

 そう、と返事をして飛鳥はブクブクと水泡を浮かばせる。

 サラは長い髪を掻き上げながら思い出したように問いかける。

 

「そういえば、飛鳥のギフトはどういうものなんだ?一見しただけではどういうものか分からなかったが、かなり特異なものなのだろう?」

 

「私?私のギフトは………〝威光〟というギフトなのだけど、知ってる?」

 

 ………何っ?と声を上げたまま瞳を丸くするサラ。

 黒ウサギも先ほどまでの楽しげな表情を消し、真剣味を帯びた表情で近寄る。

 

「飛鳥さん。そのことについて黒ウサギからお話がございます」

 

「………何かしら?」

 

「飛鳥さんが持つギフトは、決して弱い物ではありませんが………戦いに向いているとは言えません。様々なギフトを使いこなすその才能はむしろ、コミュニティを拡大していくことに長けた物。無理に魔王のゲームに参加せずとも………」

 

「………これをないものねだり、って言うのかな」

 

「へ?」

 

「私、箱庭に来るまで何かが不足してるなんてことなかったから。勿論、不満は慢性的にあったけれど。でも家は裕福だったし、学業だって人並み以上には出来ていたつもりよ。なのに箱庭に来てから……楽しい事と同じぐらい、歯痒い気持ちが増してきたわ」

 

 少し沈鬱そうな表情で呟く飛鳥。

 

「………レティシアについては正直、余り心配していないの。彼女が頼もしいことは分かっているもの。でも春日部さんは………その、最近悩んでいた様だし………だから、」

 

 どうしても、心配でならない。月夜が一緒に付き添っているのなら彼女の安らぎになるけど………もしどちらかがトラブルに巻き込まれて合流出来ていなかったら?

 其処まで聞いて、黒ウサギは何とも言えなくなってしまった。

 

「………飛鳥さん……」

 

 ブクブクと泡立たせながら湯船に沈む飛鳥。

 すると隣で話を聞いていたサラが、その肩にそっと手を置いた。

 

「飛鳥の友人は、春日部というのか?」

 

「え?………ええ、そうよ」

 

「では明日の探索で私は、その友人を優先して捜そう」

 

 ………は?と飛鳥と黒ウサギが声を上げた。聞き間違えたかと耳とウサ耳を疑った。

 しかしサラは力強く頷き、二人の顔を見つめ、

 

「その代わり、二人には〝アンダーウッド〟を守ってもらう。僅か数年しか在籍していないコミュニティと本拠だが、私にとっては第二の古郷だ。二人のように強力な戦力がいるのなら、憂いなく敵城に攻め込める」

 

 そう言って朗らかに笑うサラ。

 飛鳥は励まされたことに苦笑しながらも、その気遣いに少し肩の荷が降りたように頷いた。

 

「ええ、分かったわ。〝アンダーウッド〟は私が守るから………春日部さんをよろしくね」

 

「うむ、任された。我らの御旗と………私のこの、龍角に誓おう」

 

 己の立派な角を指差し、自慢げにコンコンと叩く。その仕草が可笑しかったのか、飛鳥と黒ウサギは吹き出したように笑い、湯殿は明るい声に包まれていった。

 

 しかし、一人だけ………ふやけていたペストだけは違った。

 天を仰いだペストは、敵城にいる彼女の事を思っていた。

 

「(………あの子は一人で何もかも背負い込んで、自分の身を顧みなかった。もしかして眷属を守るために一人で無茶してないでしょうね………)」

 

 もしそうだというのなら、彼女―――ルーナの身が危険だ。

 だけど自分の役目はジンと共に地上に残って相性がよい巨人族の掃討をしなければならない。

 本当は彼女も敵城に乗り込んでルーナの安否を確認しに行きたいところなのだ。

 それが出来ないペストは瞳を閉じ、

 

「(ヘンテコ男………ルーナの事、頼んだわよ。救えなかったとか言って帰ってきたら―――絶対に許さないから)」

 

 十六夜にルーナの事を委ねたのだった。

 

 ―――ルーナが敵の手に堕ちているという絶望的な事を聞かされる事も知らずに………。

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