問題児たちが特異吸血鬼と共に箱庭に召喚されるそうですよ?―終焉なる真祖は月神の末裔!?―   作:問題児愛

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第十二話 地上にてそれぞれの戦場へ―――吸血鬼と人狼Ⅰ

 ―――〝アンダーウッド〟大河下流・大樹の根本。

 翌日、十六夜達は大樹の根本にある大広場に集まっていた。

 ゲーム攻略に向けて参加者を募ったところ、非加盟のコミュニティから十数匹ほどの参加者を集めることが出来たらしい。十六夜は広場に集まった大鷲や翼人種などの幻獣を楽しげに眺めつつも、何処か口惜しそうな表情をしていた。

 

「ったく、どうして春日部はこうもタイミングが悪いんだ。幻獣と出会う絶好のチャンスじゃねえか」

 

「ま、まあまあ。出会いは星の廻り合わせともいいますよ?耀さんも何時か出会うべきお方と出会って、己を高める時が来るのですよ」

 

 ふぅん、と気のない返事をする十六夜。

 

「こっちはヘッドホンを強奪されてまで順番を譲ったのになあ。これは返してもらう時に、文句の一つでも―――」

 

「「「―――え?」」」

 

 ん?と黒ウサギと飛鳥とジンに振り返る。

 が、その視線の先に居た珍しい幻獣に気を取られ、すぐにそれどころではなくなった。

 

「アレって、鷲の頭に長い胴体………グリフォン?いや、胴体が羽毛に包まれてるし、胴体部分は馬?となるとヒッポグリフか?」

 

「y、YES!〝二翼〟の長である、鷲の翼を持つ怪馬でございます!」

 

「い、い、十六夜君が、気になるなら、その、挨拶してきても………!」

 

「おう、分かった。〝二翼〟のリーダーがいるなら丁度いい機会だ。これを機に御チビも顔を売っておけ」

 

「わ、わ、わっかりましたっ!ああもしもグリーさんと会ったら、呼びに来てっ!」

 

「りょ、了解なのですよ!」

 

 黒ウサギは不自然に敬礼し、二人を見送る。十六夜も敬礼で返し、ジンを連れて楽しそうにヒッポグリフの下へ走り去っていった。

 一方、残された黒ウサギと飛鳥は、冷や汗を掻きながら顔を見合わせている。

 

「………黒ウサギ。貴女、十六夜君はもう気にしてないって言ってなかった?」

 

「そ、それがその……こ、こ、壊してしまったという事を伝え忘れてしまって………!」

 

「こ、このお馬鹿ウサギ!それを伝えなかったら逆効果じゃない!!あの反応だと、ヘッドホンが返って来るものだと信じて疑ってないわよ!?もし春日部さんと合流した時、このことが知られてしまったら………!!?」

 

 あぅ、とウサ耳を萎れさせる黒ウサギ。

 二人は大量の冷や汗を掻きながら生唾を呑んだ。

 

「………盗んで、()めて、壊して、返す?ありえない、私なら絶対許せないわ」

 

「く、黒ウサギだって許せません」

 

「ええ。おかしいと思ったのよ。いくら十六夜君でも……ううん。十六夜君だからこそ、こんな不義理な事をして笑って許すはずないもの」

 

「ど、ど、どうしましょう………!?」

 

 狼狽(ろうばい)して半泣きになる黒ウサギ。

 飛鳥も苛立たしげに爪を噛んであれやこれやと考えたが、最後は頭を振って諦めた。

 

「………なるようにしかならないわ。これは二人の問題だもの。これ以上私達が介入して引っ掻き回すのは得策じゃないわ」

 

「で、でも、もしお二人が仲違いするようなことになったら、黒ウサギは………!」

 

「その時は私も協力する。それにジン君や年長組も………勿論、レティシアと―――月夜もこっちに取り込んでね」

 

 苦笑い交じりのウインクをする飛鳥。

 黒ウサギも少し安心したのか、腹をくくったようにグッと両手を握って頷いた。

 

「了解なのです!そうと決まればこんなゲーム、ちょちょいとクリアするのですよ!」

 

「ええ。そのためにもまずは、〝アンダーウッド〟を守り抜きましょう」

 

――――――――――

 

 ―――ケッ!と勢いよく悪態をついて、十六夜は広場の芝生を蹴り上げた。

 

「………何だ、あの気位の塊みたいな幻獣共は。まともに取り合うつもりもない感じだったぞ。そもそも何で初対面の相手に『空も飛べない猿』とか『爪も牙もないみすぼらしい小僧』とか意味不明な罵倒をかけられたんだ?通訳が俺達を担いだのか?あれならまだ〝名無し〟と罵られた方がマシだったぞ」

 

「ま、まあ、ヒッポグリフは第三幻想種ですし、そういった自負があるのかも………」

 

 ジンは苛立つ十六夜を必死に(なだ)め鎮める。

 

 ―――このヒッポグリフとは鷲獅子(グリフォン)に馬を掛け合わせた高位生命(ハイブリッド)で、通称・第三幻想種と呼ばれる次世代の幻獣の名称だ。

 一つの因子を持つ獣や人類を一次生命。二つ以上の因子を持つ幻獣や親族を高位生命。

 そこからさらに進化を重ねた種を、第三幻想種と呼ぶのだ。

 

「それに以前、ドラコ=グライフの落とし種がこの付近にいるのではないかという噂があったらしく、彼はその候補の一人として挙がったとか。今やすっかりその気になって連盟内でも幅を利かせているという噂もあります。そういった誇りの高さがあんな態度を、」

 

「ハッ、違うな。アレは先天的な増長だ。自分を誇るわけじゃなく、他者を見下しにかかる類いのな。自分と同じ言葉を話さない者や、同じ姿ではない者を蔑視(べっし)している、一番質が悪いタイプだ。ましてや〝誇り高い〟なんて形容していい相手じゃない」

 

 何時になく声高に糾弾する十六夜に驚くジン。

 苛立ったまま黒ウサギ達の下へ戻る十六夜とジン。

 すると反対側から丁度、サラとグリーの二人(?)が此方(こちら)に向かっていた。

 

「………御チビ。あれが例のグリーって奴か?」

 

「は、はい」

 

 十六夜は小声でジンに確認を取る。

 十六夜達が帰ってきたのを確認した黒ウサギは両手を振って手招きをする。

 

「十六夜さん!こちらが(くだん)のグリー様ですよ!」

 

「ああ、分かってるよ。しかし連盟の議長様まで来ているのはどういう事だ?」

 

「何、大したことじゃない。お前にこのギフトを渡しておこうと思ってな」

 

 そう言って取り出したのは〝龍角を持つ鷲獅子(ドラコ・グライフ)〟連盟の旗印が刻まれた草編みのブレスレット。首を傾げながらも取りつけた十六夜だが、特に変化らしいものは感じられない。

 

「………えーと、議長様?」

 

「まあ待て。………どうだ、グリー殿」

 

「どうと言われても、私はもとより人語を理解しているのだがな」

 

 ギョッと十六夜は目を見開いた。こんな驚き方をする十六夜は極めて珍しく、思わず顔を見合わせる〝ノーネーム〟一同。

 十六夜は聞き違いかもしれないと、もう一度問いかけた。

 

「………グリー、って言ったな。もしかしてこの草編みのブレスレットは、」

 

「うむ。昔、ドラコ=グライフの通訳用にと、著名な詩人が編み上げて作った物らしい」

 

「な、なんと!通訳用のギフトですか!?」

 

 ウサ耳を跳ねさせて驚く黒ウサギ。話が通じず首を傾げる飛鳥とジン。

 十六夜は感心したように草編みのブレスレットを撫で回す。

 

「箱庭の詩人ってのは随分と器用なんだな………と、悪かった。自己紹介が遅れたな。俺は〝ノーネーム〟の逆廻十六夜だ」

 

「私は〝サウザンドアイズ〟の鷲獅子・グリー。先日の巨人族との戦いでは随分と世話になった。今日は互いに命を預け合う者として、共に力を尽くそう」

 

 凛然とした声音と態度で接するグリーに十六夜はしばし瞠目(どうもく)し、機嫌良く頷いた。

 

「ああ。今日は背を借りるからよろしく頼むぜ」

 

 ヤハハと楽しそうに笑う十六夜。どうやら機嫌が直ったらしいと安心していたジンだが、スッと十六夜が振り向き、

 

「おい御チビ」

 

「は、はい!」

 

「俺がいない間は、お前が指揮をとれ」

 

 ………は?と固まるジン。しかし十六夜は冗談を言う時の表情ではなく、

 

「お前は何だかんだで、今日まで俺達の戦いを見てきたんだ。もう全員のギフトや性質は熟知しているだろ?」

 

「そ、それは………」

 

「ましてや今の相手は、ペストとも相性のいい巨人族。積極的に参加して経験を高めるにはいい機会だ。………ってまさか、ビビッてないよな?」

 

 訝しげに問うと、ジンはブンブンと頭を振って否定した。

 

「だ、大丈夫です。地上は僕らに任せて下さい」

 

「よし、任せた。でも無理するなよ。御チビに死なれたら今までの苦労が水の泡だからな。………あと、議長様もありがとよ。話が出来るか出来ないかじゃ雲泥の差だ」

 

「気にするな。元々、鷲と獅子、グリフォンの三種にしか正常に働かない代物。こんな時でなければ取り出さない骨董(こっとう)品だ。適当に扱ってくれて構わないよ。………ああそれと、飛鳥にも渡すものがある」

 

「私?」

 

「黒ウサギ殿に聞いたぞ。何でも飛鳥自身は殆んど非武装らしいじゃないか。そんな装備で〝アンダーウッド〟を任せるわけにはいかないな!………ということで、昔作った作品を取り出してきた」

 

 作品?とさらに首を傾げる飛鳥。促されるままに両手を引かれ、サラが取り出した真紅のギフトカードを握らされる。其処から淡く紅い光が溢れたかと思うと、飛鳥の両手を包み込むように金属製の装身具が顕現した。

 

「これ………紅と蒼の宝玉がついた、籠手(こて)?」

 

「ああ。形状も手袋形のアクセサリーだから、そのドレスにも似合うだろうと思ってな。そちらの紅い籠手が〝紅玉の御手(みて)〟。蒼い籠手が〝琥珀(こはく)の御手〟だ。それぞれの中核を成す宝玉に特殊なギフトを埋め込んである」

 

 飛鳥は指摘されるまま、両手を包む籠手の小さな宝玉を覗き込んだ。

 

「紅玉には龍角の欠片。琥珀には水樹の種子。龍角や霊樹の種子は純度の高い霊格の塊でな。それを私が炎と水を放出する簡易ギフトとして仕上げたんだが………その、ないよりはいいだろう?」

 

「も、勿論よ。でも私だけ無償で貰うのは、」

 

「いやいや、無償じゃない。飛鳥達〝ノーネーム〟には〝アンダーウッド〟を守ってもらわなきゃいけないんだ。ならこれは、当然の支援だ」

 

 そうだろう?と朗らかに笑うサラ。出会った時よりもずっと柔らかい笑みに面食らう飛鳥だったが、これ以上の遠慮は逆に失礼だと悟り、一礼と笑顔で返した。

 

「………分かったわ。〝アンダーウッド〟は任せて」

 

「ああ。此方も飛鳥の友は任された」

 

 二人が頷き合うと同時に、集合の鐘が鳴り響く。サラは一転、慌てたように声を上げた。

 

「し、しまった!もうそんな時間か!?」

 

「あらあら、議長が遅刻?」

 

「うわー、問題児だなー!」

 

「いえ、十六夜さんにだけは言われたくないと思いますよ?」

 

 こっそりツッコミを入れる黒ウサギ。

 サラは三人を無視して踵を返し、議長席に向かって爆走するのだった。

 

――――――――――

 

 ライムとマリアは血塗(ちまみ)れの銀髪少女を抱きかかえて屋敷に戻ると、すぐにベッドに寝かせて治癒を行った。

 

「異能―――『大地の癒し(ヒーリング・ストーン)』!!」

 

 マリアが瀕死の少女の頭に両手を(かざ)し、治癒を開始した。

 銀髪の少女は瞬く間に優しい緑の光に包まれて、痛々しい無数の傷が癒えていく。

 

『大地の癒し』は、元々ライムの異能であったが、マリアを守るために分け与えたモノの一つだ。

 自然の力を行使した治癒の異能で、死者は蘇らせられないが、生者であれば致命傷だろうと一瞬で癒せる強力な回復(ヒーリング)の異能。

 傷が完治したのを確認したマリアは異能を解除して、銀髪の少女の額に触れた。

 すると、

 

「―――ん、ぅん………」

 

 銀髪の少女がゆっくりと瞳を開けて目覚める。マリアとライムが彼女の顔を覗き込むと、ハッとして銀髪の少女は起き上がり―――ゴッチンッ!

 

「「「うぎゃああああああああああッ!!?」」」

 

 三人は同時に、同様の絶叫を上げる。

 それぞれが痛む額を押さえながら涙目で互いの顔を見合わせた。

 

「何をする!お陰で頭が割れるように痛いではないかッ!!」

 

「そう言う貴女もいきなり起き上がらないでください!そうすればゴッツン子しないで済みますから………!」

 

「お、お母様の言う通りです!………うぅ、おでこ痛いですよぅ……」

 

 キッと睨んできた銀髪の少女に言い返すライムとマリア。

 銀髪の少女はふむ、と考え込み、

 

「………確かにそうだな。済まない、急に起き上がってしまって」

 

 素直に自分に非があることを認めて謝罪した。

 その態度に、しっかりしているなと評価するライム。涙目のマリアの金髪頭を撫でてあやすことも忘れてはいないライムだが。

 一方、銀髪の少女は辺りを見回して、首を傾げた。

 

「………此処は何処なんだ?見覚えのない場所であるのはたしかなんだが」

 

「此処は私達吸血鬼の屋敷―――としている大きな家ですよ」

 

「ふむ、お前達の屋敷か?………私が知らないのも無理はないな」

 

 うんうん、と頷く銀髪の少女。だが、フッと真剣な顔になると、ライムの肩をガシッと掴んで激しく揺さぶった。

 

「貴様、私を拉致してどうするつもりだ!肝を喰らうつもりか!?」

 

「えっ?ち、違いますよ!貴女は血塗れで倒れていたんですよ!覚えてませんか!?」

 

「………私が、血塗れで?………どういう―――ッ!!!」

 

 ハッと思い出したように自分の体を見る………が、傷が消えていた事に瞳を見開き驚愕した。

 

「なっ、人間共につけられた傷がなくなって………!?」

 

「はい。貴女の傷なら私の娘が治しておきましたよ」

 

 何っ?と銀髪の少女は驚きの声を上げてマリアを見る。マリアは照れくさそうに頬を掻いて笑う。

 

「私の異能(ちから)はお母様のものです。だから私が誇ってよいものではありません」

 

「いや、そう謙遜するな。力が誰かのものであろうと、私を救ってくれたのはお前だ。ありがとう………本当に、なんてお礼をしていいか………!」

 

 頭を下げてマリアに感謝の意を示す銀髪の少女。マリアは両手を振って慌てていると、ライムがマリアの肩に手を置き落ち着かせる。

 

「ふふ、落ち着きなさいマリア。それに彼女の感謝の気持ちを無下にしてはなりませんよ。此処は素直に受け取るべきです」

 

「お母様………うん、わかった!」

 

 マリアは元気良く返事をしたあと、銀髪の少女に向かってにこやかに微笑んだ。

 一瞬、マリアの愛らしい笑顔に見惚れた彼女だったが、頭を振って誤魔化す。

 

「そ、そういえば自己紹介がまだだったな!私はシルヴィア・ワー・ウルフ・キングだ。お前達は?」

 

「私はライム・ストーン・クイーンです。そして私の娘の名は、」

 

「マリア・ストーン・クイーンです!よろしくお願いします!」

 

 シルヴィアと名乗った銀髪の少女は長髪を揺らして名乗る。ライムとマリアもそれに続いて名乗った。

 三人は顔を見合わせて笑みを交わしたのだった。

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