俺の青春ラブコメはまちがっている。 sweet love   作:kue

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ごめんなさい。これで完結にします。


最終話

 俺を見るや否や、相模は鬱陶しそうな表情を浮かべ、俺から視線を逸らしてフェンスにもたれ掛る。

 

「隼人じゃなくて悪かったな」

 

 図星を突かれたのか相模は肩をビクつかせ、さらに鬱陶しそうな色を強くして俺を睨み付けてくるがそんなものは俺にダメージなんて与えない。

 今は俺が圧倒的優位に立っているからな。

 

「なんか用」

「……本気で言っているなら病院に行くことをお勧めするぞ。もうすぐセレモニーだ。戻ってきてくれ。でないとセレモニーが始められないんだよ」

「……別にあたしいなくてもいいじゃん」

 

 結果的に奉仕部に依頼したことを後悔してるな。雪乃があまりに優秀過ぎる補佐であったがために相模の無能っぷりがいやがおうにも強調される。

 だがそれはよく考えればわかったはずだ。今回はこいつ自身が招いたミスだ。

 

「お前がいなくても準備は進むかもしれないがセレモニー自体はお前がいないと締りが悪いだろ」

「……みんな雪乃下さんの方が良いって思ってるじゃん」

 

 イライラする……昔の俺を見ているようでイライラしてくる。

 でもここでそのイライラを爆発させても何の意味もないし、むしろデメリットしかない。

 腕時計を見てみるがエンディングセレモニーが始まるまであと2分を切っており、スマホを見てみると雪乃からメールが来ており、あと5分で相模が来なければ保険を使うと書かれている。

 

「相模」

「なに?」

「あと5分だ。あと5分でセレモニーが始まるぞ」

「……今葉山君って有志だっけ」

「あぁ、そうだよ」

 

 有志を気にするよりも今自分が選択すべき選択肢を考えることが最優先事項だと思うんだがな……なんでこいつはこんな状況でも他を気にすることが出来るんだか。

 相模にタイムリミットを通告してから2分が経過したが一向にその場から動く気配はない。

 

「相模。早く戻ってくれ。でなきゃセレモニーを始められない」

 同じことを言うが相模はこちらを見ようともせず、ボーっと体育館の方を見ている。

 タイムリミットまであと1分を切ってしまった。

 …………これ以上、俺がこいつを待つ義理はないな。

「相模、これ見ろ」

 

 そう言いながらポケットからある封筒を取り出し、それを彼女の傍に投げつける。

 それを相模は拾い、封筒を開けて中身に入っている紙を手に取って書かれている内容を読んでいくが徐々に彼女の表情が青ざめていくのが分かる。

 

「な、なにこれ」

「そのまんまだ。文化祭が進行できないほどの問題が発生した場合、全ての権限を補佐役である雪ノ下雪乃に譲渡することに賛成か反対かを問うアンケート結果のコピーだ」

「こ、こんなアンケート知らない!」

「やったぞ……思い出せよ」

 そう言うとようやく思い当たることがあることに気づいたのか相模はショックを隠せないでいる。

「お前にはあの時、全く関係ない内容のアンケート用紙を配った。めぐり先輩がお前ただ一人だけに渡したのがそれだったんだよ。結果は……もう分かってるよな?」

 

 結果は過半数どころか数人を除いてアンケート内容は賛成を投票した奴で埋め尽くされ、反対を投票したのは数人だったので恐らく相模の友人が反対票を入れたんだろう。

 恐らくこいつの友人はこう思っていたはずだ……南ちゃんがそんなことするはずがない。ちゃんと文化祭実行委員長としての責任を最後まで果たしてくれる……そんな風にな。

 

 ――――その時、タイムリミットを超えたことを知らせるスマホのアラームが鳴り響く。

 

「時間切れだ。相模……現時点をもってお前は文化祭実行委員長じゃなくなった」

「ふ、ふざけないでよ! こ、こんなの……こんなの認められるわけが」

「確かに何も問題を起こしていなければ認められなかっただろうさ……でもお前はエンディングセレモニーをボイコットするという文化祭を進行できない問題を引き起こした……十分、そのアンケート結果は効力を持つ。過半数どころか9割の人間が賛成したんだ」

「で、でもそれは文実だけであって他の人達がどういうか」

「文実はクラスの中での文化祭実行の準備を手伝う代表だ。代表の意見がクラスに反映される……民主主義なんてそんなもんだろ。代表の意見が集団の意見になっちまうんだ」

 

 チラッと時計を見てみると既にエンディングセレモニーが始まっている時間を過ぎており、雪乃から『もう保険を使うわ』というメールが来ている。

 相模はと言えばショックのあまり両膝をついてへたり込んでいる。

 

「お前は文実の皆を裏切っただけじゃない……お前を信じていた友人まで裏切ったんだよ」

「い、今から」

「もう遅い……雪乃が委員長として地域賞と優秀賞を発表してる。オオトリまでの開票作業を雪乃とお前にやらせたのもそのための準備だ…………もう何もかも遅いんだよ、相模」

 そう言った直後、相模の両目から大粒の涙が流れ出し、ポタポタと落ちていく。

「恐らく全員にはお前は体調不良だったかアクシデントにより保健室に運ばれたという事で通るだろ……平塚先生に感謝しておけよ。あの人がいなかったら何のフォローもなかったんだ……じゃあな」

 

 背を向け、扉を通って閉めようとしたその一瞬だけ、相模が泣いている姿が目に入ったが同情も何の感情も俺には浮かばなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 屋上から体育館の舞台裏へ戻ると既にセレモニーは終了し、片付けが始まろうとしていた。

「比企谷君」

 

 後ろから呼ばれ、振り返ると少し悲しそうな表情をしためぐり先輩と平塚先生の2人がいつの間にか俺の後ろに立っていた。

 

「うっす……無事終わったみたいですね」

「セレモニーはね……でも百点満点の文化祭じゃなかったかな……はぁ。私の所為だ……あの時、相模さんの提案をダメって言っておけば」

 めぐり先輩は優しい……でも今回のは明らかにあいつの自業自得だ。

「先輩の所為じゃないですよ……少なくとも俺は思います」

「比企谷。今相模はどこにいる」

「屋上です」

 

 先生は一言、そうか、とだけ呟き、体育館から出ていった。

 恐らく屋上にまだいる相模を回収しに行ったんだろう……ただ相模の友人二人が相模を見つけられなかったことが俺の中では少し意外だった。やっぱりその程度の付き合いだったという事か……まあ他人の交友関係に口をはさむほどれも交友関係が良いわけじゃないしな……いや、良いのか?

 

「比企谷君。ありがとうね。色々と」

「俺は別に……じゃ、俺も片づけてきます」

 

 めぐり先輩から離れ、片付けようとした時にふと由比ヶ浜と雪乃の姿が見え、俺もその近くへ向かうと2人と目が合う。

 

「お疲れヒッキー!」

「おう……」

「お疲れさま、八幡」

 

 並べられている椅子を持って運びながら雪乃たちと軽く話をするが正直、俺の頭の中ではその会話は通り抜けており、雪乃に告白するという事だけが大きかった。

 な、なんかやけに緊張してきた……。

 ふと片づけをしている時に相模と一緒につるんでいた文実の2人を見つけたがまるで相模のことなど忘れているかのように駄弁りながら片づけている。

 …………裏切りも切り捨ても同じもんか。

 

「文実。ちょっと集まれ」

 厚木の無駄にデカい声に文実が全員集まる。

「俺が見てきた中でも中々良い文化祭だったわ。この後事後処理があるがそれも頑張れよ。あと、打ち上げするのは良いが羽目を外しすぎんように。じゃあの」

 

 厚木の話が終われば再び文実は散り、片付けを再び始める。

 相模のことなど誰も覚えていないみたいだな……まぁ、自業自得だ。

 そう結論付け、俺は再び片づけに集中した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 片付けも終了し、終わりのSHRも終了したので解散のはずなんだが俺は用があるために奉仕部の部室へ向かって歩いていた。

 雪乃にメールはしておいたし……あとは……由比ヶ浜?

 歩いていると向こうから手を小さく振っている由比ヶ浜が近寄ってくるのが見えた。

 

「お疲れ、ヒッキー」

「おう。お前も教室の方、お疲れさん」

「ありがと……相模んは結局」

「来なかったな」

 

 行き辛いのか、それともただ単に平塚先生と一緒に話しているのかは知らないが教室に相模の姿は見えず、その友人の姿も見えなかった。

 

「ヒッキーはどこ行くの?」

「奉仕部……ちょっと用があるからな。じゃ」

「待って!」

 

 渡り廊下に大きく反響するほどの由比ヶ浜の声が響くと同時に俺の手が軽く握られ、まるで引き止められたかのようだった。

 振り返ると目に映ったのは顔を真っ赤にした由比ヶ浜だった。

 

「ゆ、由比ヶ浜?」

「あ、あのね…………その…………あ、あたし……ヒッキーのことが好きです!」

 ………………。

「……悪い……俺は雪乃のことが好きなんだ」

「そう……だよね…………だったら最後に……お願い聞いてくれる?」

「……なんだよ」

「……キスして……それでヒッキーの想いを思い出に出来るから」

 

 そう言い、俺の手を握っている顔を赤くしている由比ヶ浜の手に入る力が強くなり、徐々に目を閉じた彼女が近づいてくる。

 …………俺は。

 彼女の両肩を軽く持ち、近づいてくる彼女を離すと由比ヶ浜と目が合った。

 

「悪い……一回デートしておきながら言える義理じゃねえけど……俺は」

「ははっ……流石ヒッキーだね。もしここであたしにキスしてたら叩いてたもん」

 

 そう言い、笑みを浮かべる由比ヶ浜だが今見えている笑顔は雪乃の家で見た時のような必死に悲しみを我慢し、無理に笑みを作っているように見える。

 

「行って、ヒッキー。ゆきのん待ってるから」

「…………ありがとな。こんな俺を好きになってくれて」

 

 そう言い、彼女に背を向けて俺は奉仕部へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「バイバイ……あたしの初恋」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 奉仕部の扉を開け、中へ入ると外の景色を見ている雪乃の後ろ姿が一番最初に入ってきた。

 既に誰が入ってきているのか理解しているのか雪乃はこちらを向かないので俺も何も声を出さずにゆっくりと彼女に近づき、そのまま後ろから抱きしめた。

 言うんだ…………俺が今まで抱いてきたこの想いを……。

 そう考えるが頭の中に俺を嘲笑うやつらの顔が見えてくるがそれと同時にあの日の晩、隼人が俺に言ってくれた言葉がそれを壊すかのようにより大きく反響してくる。

 

「雪乃…………迎えに来た」

「…………ええ。ずっと待ってたわ……貴方と出会ったその日から」

 

 雪乃はそう言うと俺の腕の中でくるっと回転して俺の方を向く。

 彼女と目が合ったことで最後の決意が付いた。

 

「雪乃…………好きだ」

 そう言うと同時に雪乃を強く抱きしめると耳元で雪乃が小さく笑う声が聞こえるとともに雪乃からも強く抱きしめ返される。

「やっと……言ってくれた」

 雪乃の手で俺の顔が優しく包まれ、目に涙が貯まっている雪乃の顔がよく見える。

「ずっと…………ずっと待ってた。あの日、貴方が助けてくれた時からずっと……待ってた」

「あぁ。待たせて悪かった……今まで待たせて悪かった。もう離さない……」

「ずっとずっと一緒よ……今まで待たせた以上に私を愛して」

「あぁ……おつりが来るくらいにずっと愛する」

 

 そう言うと同時に顔を近づけ、雪乃の唇に俺の唇を当てると柔らかいものが当たる感触がするとともに雪乃の目から涙がこぼれるのが分かった。

 ずっと……ずっとこれが欲しかったんだ。

 一度顔を離し、互いに少し見つめ合ってからまたキスをした。

 何度も…………何度も俺達はキスをし、互いを感じ続けた。

 やっと……やっと欲しかったものが手に入った……。

 我慢しきれず、俺はさらに強く雪乃を抱きしめて雪乃を貪る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――――ようやく俺の欲しかったものが手に入った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――――ようやく私が欲しかったものが二つも手に入った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 やはり俺・私の青春ラブコメが間違っていなかった。


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