孤独のグルメ 微クロスオーバー   作:minmin

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あんな領域展開を見たら書くしかなかった。反省してない、またやる


第三十六話 東京都新宿区のマリナーラとマルゲリータ

 

『ええ、ええ。では、どうぞよろしくお願いします』

 

 慣れないイタリア語での会話を終えて、パソコンでのビデオ通話を切ると、どっと疲れが押し寄せてきた。相手はイタリアで多くの店を展開している大手鞄商、今回扱うのはちょっとした高級外車くらいの値段がする逸品ともなれば仕方ないが、やはり英語より緊張してしまう。

 

「イタリア生粋の家具職人と鞄職人が手掛けた、世界に1つしかないデスク・トランク、か……」

 

 デスク・トランクとは要するに「持ち運びできる机」だ。収納時はちょっとした棚のように完全に箱型になっているが、中身は折りたたみ式などになっていて、展開することでどこでも机へと早変わりすることができる。最近では数年前にルイ・ヴィトンが新発売して話題になった。アレも結構いいお値段してたからなぁ……。

 好事家とはどこにでもいるもので、今回の品を購入したのは日本人だ。以前服を仕立ててもらった日本人テーラーさんがナポリで店を構えており、そこに大手鞄商のクッカリーニさんが販売を委託し、中々売れずに困っていたところを日本人繋がりで輸入雑貨商の俺に話が回ってきた、という流れだ。人の縁なんて、どこでどう繋がるのかわかったもんじゃないな。

 

 しかし、ナポリか……最後に訪れたのは何年前だったろうか。ナポリと聞けば日本人の多くがナポリタンを連想するんだろうが、実はナポリにナポリタンはない。日本発祥の料理らしい。先程のクッカリーニさんとの雑談でも話題に上がったが、やはりナポリといえば、最近日本でも専門店が数多く出てきたナポリピッツァだろう。美味しかったあなぁ、本場のナポリピッツァ、スイカおじさんの店……いかん、思い出してたら

 

 

 腹が、減った。

 

 

 

 

「店を探そう」

 

 ナポリピッツァが食いたくて、仕方ないんだ。勢いよく立ち上がって、椅子を蹴飛ばす勢いで外に向かう。大都会東京だ。適当に歩いても、ナポリピッツァを食べられる店は見つかるだろうけど、さて、どの店で食うか……

 

「そういえば、ナポリには『真のナポリピッツァ協会』があるんだよな……そこのロゴマークを掲げてる店で食べれば間違いないってやつ。確か日本にもあるんだっけ」

 

 まあ、スイカおじさんの店みたいな例外もあるけど。そう思いつつスマホで調べてみると……あったあった。へぇー、日本のは2006年設立なんだ。結構新しい。認定店、全国各地にあるんだなあ。もちろん、東京にもいっぱいあるぞ。近場は……この店か。店に向かって歩き出しながら、店の概要を見てみる。なになに……

 

 

『ナポリピッツァはアメリカの具がたくさんのったいわゆる“ピザ”とは違い、生地本来の美味しさを味わう料理です。ですのでナポリで実際に食されているピッツァも具材が何種類ものっているものは少なく、マルゲリータやマリナーラのような非常にシンプルなものが主流です。当店のメニューもシンプルで伝統的なナポリピッツァを取り揃えております。初めて来店される方はナポリっ子になったつもりで生地の美味しさを味わってください』

 

 いいじゃないかいいじゃないか。こういうのでいいんだよ、こういうので。今日の俺は東京在住のナポリっ子だ。生地の美味しさ、味わってみようじゃないの。

 

 

 暫く歩いていると見つけた、真っ白なピザ職人が真っ赤なピッツァをあのでっかいスコップみたいなやつにのせた、真のナポリピッツァ協会のマーク。地下に降りていく階段の、ちょうど真正面で目に入るように掲げてある。左手には電光のでっかい「PIZZERIA」の文字。これは期待できるんじゃないの。

 店に入ってまず思ったのが、広い、明るい、綺麗、だ。60席くらいはかるくあるんじゃないのかこれ。店のどこからでも、大きな明るい茶色のピザ窯がよく見える。ちなみに本場のピッツェリアのピザ窯やピザの生地を仕込む台が石製で床から直接生えているのは、なんでも財産として盗まれないためなんだとか。恐ろしいナポリ。

 

 それは兎も角、これは一体どういうことなんだろうか。ネットで見る限り、そうとうな人気店のはずなんだが……お客がほとんどいない。俺より先に店にいたのは、サラリーマンらしきスーツの……あれ、もしかしてこの前お宅にお邪魔した野原さんか?と、お防さん?頭は剃ってないし、長髪気味だけど。あれ、確か「五条袈裟」っていう良いやつじゃなかったっけ。袈裟を着た塩顔のイケメンが、ガラガラの店内でナイフとフォークでナポリピッツァを食べてるとかいうシュールな光景が広がってる。

 

「あ、すいません。マルゲリータとマリナーラください。あとエスプレッソ」

 

 注文を取りに来た店員さんも、なんだか怯えてるような気がする。あの額に縫い目のあるお坊さん、実はどっかの危険な新興宗教の教祖とかだったりするんだろうか。野原さんは……コーヒー片手に足を組んで謎のポーズを決めている。まあいいや。パッと食ってサッと出てしまおう。

 ソルトフェイスなお坊さんは、ピッツァを扇形に切り分けて、くるくる巻いてからフォークで刺して食べている。日本人には見慣れない食べ方だが、本場ナポリの人もそうするらしい。けど俺は──

 

「お、おまたせしました。ま、まるげりーたとまりなーらです」

 

 若干震えている店員さんからピッツァを受け取ると、鼻いっぱいに香ばしい小麦の香りがぶわっときた。味のメインであるトマトソースに負けない香り。これは凄い。2つを見比べてみると、マルゲリータ方がマリナーラより若干トマトの赤みが強い気がする。トマトが違うのか、それともソースのレシピの違いでこうなるのか。まあいいや、御託は後だ。

 

「いただきます」

 

 言うが早いが、手でマリナーラをざっくばらんに大ぶりにちぎって、ソースが内側に来るようにちょっと折り曲げ気味で口の中にまるごと放り込む。

 

「あっっふゅい」

 

 熱い。もちろん熱い、熱すぎる。 五郎

 

 でも、美味い。本場ナポリピッツェリア直伝の、熱々のうちに口の中に放り込んで火を吹きながら食べる、という荒々しい食べ方をしているのに、旨いじゃなくてしっかり美味い。生地が旨くて、小麦が旨い。その上にシンプルなトマトとニンニクのソースが加わって、豪華な美味いが仕上がってる。一緒に食べてるはずなのに、まるで小麦をおかずにトマトを食べてるみたいな感じさえする。

 マルゲリータの方は、トマトの鮮烈な赤に、モッツァレラチーズの白。バジルの緑がもう見た目だけでも美味しい。俺は今、イタリアはナポリを目で食っている。同じように大きめにちぎって口の中に放り込むと、こっちはチーズのコクと旨味のおかげで一気に主役級の食べ応え。マリナーラが主食とおかずなら、マルゲリータはコース料理のメインディッシュみたいな満足感だ。その味の濃さに生地もしっかり負けずに支えている。そしてしっかりアツアツ。急いで食べるのがもったいない、ならぬ、急いで食べなきゃもったいない、だ。うおぉぉん。俺の胃袋は今、イタリア男の情熱のように燃えている。

 

「ごちそうさまでした」

 

 まあ、イタリアでも北部と南部で全然気質が違うから、イタリア男が皆ナンパしてるみたいに言うと怒られるんだが(東京人と大阪人くらい違う)

 

 その後、突然野原さんが踊りだしたり、お坊さんがなにもない場所に向かって「領域展開!一般人が、2人同時に!?」とか叫びだして、店内が大騒ぎになるのだが……それはまた別の話だ。

 

 




「呪術廻戦」よりピンチャンのボケの方。
「野原ひろし昼飯の流儀」より、自分を野原ひろしだと思いこんでいる一般人。

……ではなく野原ひろしと羂索でした。

ちなみにクッカリーニさんもとある漫画の登場人物です。なんの漫画か当ててみてネ!
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