この第一話は数カ月前に手慰みで書いた物をそのまま投稿しておりますので、お暇でしたらご一読ください。
第一話 こうして、比企谷八幡は〈大災害〉に巻き込まれる。
頬をなでる風に、
途端に入ってきた目を刺す「何か」。それは先程までカーテンを閉め切ってパソコンに向き合っていたはずの自分とは無縁だったはずの光、太陽の光であった。
「ここは……どこだ?」
ようやく眩しさに慣れてきた目で周囲を見回した八幡の目に写ったのは、アスファルトから伸びるツタに絡みつかれたビル群、そして狼狽した人々の姿だった。
「なんだよ、なんなんだよコレはっ!?」
「私、さっきまで部屋にいたはずなのに!?」
「う、運営はどこだよ?なんかのイベントだよな、これ!?」
彼らが口にしているのは、まさにこの瞬間に八幡の頭にも浮かんでいた疑問ではあるが、人々の姿は逆に八幡を冷静にさせた。
八幡は目立つことが嫌いだったし、それ以上に大騒ぎする人々は格好悪く見えた。別に格好つけたいわけでもないけれども……。
ぼっちとしてのなけなしのプライドを総動員した八幡は、動揺する心を押さえつけ現状の把握に努めることにする。
(俺の名前は比企谷八幡、総武高校2年生で奉仕部に所属。少しばかり濁った目がチャームポイントの小町の兄だ。ちなみに友達はいない。……いや、出来ないんじゃない、作らないだけだから。友達を作ると人間強度が下がるって偉い人も言ってたから!)
自分の簡単なパーソナルデータを心の中で確認した八幡は、目を閉じ、とりあえず今日の一日を思い返してみる。
(まず起床。その後小町の激ウマの朝食を食べたあと、小町に頼まれお使いという名のパシリに出された。まあ、受験生だしね?妹のお願いを素直に聞いてあげる俺、マジいい兄貴!!で、出かけた先で偶然にも
(今日は〈エルダー・テイル〉に新拡張パッケージ、〈ノウアスフィアの
(二人と別れた俺は小町から頼まれたブツを手に入れ、いそいそと帰宅した。なにせもう5年は続けているゲームのアップデートだ。帰宅後すぐにログインし、その瞬間を今か今かと待っていたはずなんだが……)
(目の前に広がる風景、騒いでいる人間、今の俺の格好、そして直前まで俺が一体『何を』やっていたか。ここから導き出される結論は……)
「……ここは〈エルダー・テイル〉の中で、見えているのは〈アキバの街〉ってことだよな」
八幡が呟いた言葉は、彼以外の誰の耳にも届くことなく拡散していった。
〈エルダー・テイル〉とは、「剣と魔法の世界」をモチーフとした、世界中で2千万人の愛好者を持つ20年の歴史を持つオンラインゲームである。八幡はそんな〈エルダー・テイル〉を5年ほどプレイしている、ベテランプレイヤーの一人なのだ。
実際はエルダー・テイルに似て見えるだけの全く別の世界かもしれない。もう一度周りの風景を確認しようと、八幡は閉じていた目を開いた。その途端に視界に広がったのは見慣れない、いや、モニター越しに何度も見たことのある物だった。
「これは……、〈エルダー・テイル〉のメニュー画面か?」
自分のプレイヤーネームである〈
(くそっ、ここが〈エルダー・テイル〉の中だってのはほぼ確定か!?これがラノベや漫画の中の話だったら、よくある設定だなって笑い飛ばすところなんだが、いざ自分がその状況に置かれると全く笑えんな。……今度材木座の奴に会ったら謝ろう)
(とりあえず今必要なのは、じっくりと考えることが出来る場所に移動することだ。現状ではあまりにも分からないことが多すぎる)
一度そこで思考を打ち切った八幡は、静かな場所へと移動するべく走りだした。モニター越しでしか知らないとはいえ、ここは〈アキバの街〉だ。〈ヤマトサーバー〉最大のプレイヤータウンであるこの街のマップは、八幡の頭の中に完全な形で入っていた。
移動を開始してすぐに気付いたのは、自身の身体能力の高さだ。八幡は現実世界でもそこそこに運動神経は良い方ではあるが、はっきり言って今のこの移動スピードは異常だ。
(冒険者としてのステータスまで反映されているってことか。しかしこの速さだったら、それこそ壁走りでも出来そうだな。んっ!?)
前方から自分の居る方へと向かってくる気配を感じ、八幡はとっさに廃ビルの影に隠れる。さらにメニュー画面を開き、特技の欄から〈ハイディングエントリー〉を選択する。
(さて、特技は果たして効果があるものか……。ふむ、どうやら効果があるようだな)
〈ハイディングエントリー〉の効果により透明化する自身の姿を確認した八幡は、身を潜めたまま、前方から迫ってくる気配を
(数は……3人か?とりあえずこのままやり過ごすか)
八幡は走ってくる3人の姿を視認した。しかし3人の声が耳に届きだし顔を確認できるまで近づいてきた所で、八幡は危うく声を上げそうになった。
「でも、カワラがこの辺の敵相手にピンチになるかな?」
少し気の強そうな少女の声と
「こんな時ですから、なにかトラブルがあったのかも」
優しげな少年(何故か壁を走っている)の声と
「なんつー所走ってんだよ!」
若干気怠げな女性の声。
(イサミとセタ、それにナズナさん!?)
『
(隠れて正解だったな。危うく鉢合わせするところだった)
現実となってしまったこの世界では、もっとも顔を合わせたくない人物たちでもあった。
三人は潜んでいる八幡に気づくこともなく、そのままアキバの街の外へと向かっていく。
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