さて、コミック「西風の旅団」の5巻が発売されたわけですが、カワラが可愛すぎてワロタwウェブ連載版もちゃんと読んでましたが、やっぱりコミックでまとめて読むと感じが変わってきますね。
なおこの作品はいまだ西風1巻の途中ですwなにせ八幡側のエピソードはほぼ完全にオリジナルですし、過去話もまるっとオリジナル。原作を参考に書いてる部分って全体の4分の1もないんじゃあ……。ま、まあ原作に追いついてもアレだし多少はね?
(挙動不審で頼りなさげな姿と、レイドで大活躍する姿、どっちがあの人の本当の姿なんだろう……)
イサミは、ギルドホールのソファーに横になり、一本の刀を眺めていた。刀の銘は
レイドにおいてドロップするアイテムを誰に割り振るかを決めるのは、基本的にレイドリーダーの仕事である。今回その役目を担ったのは総指揮官の八幡であった。
面倒くさそうにアイテムのステータスを眺めてはさっさと団員たちに振り分けていた八幡だったが、一番最後に残った刀、今イサミの手元にある〈会津兼定〉を手に取ったその時だけ一瞬考えこむような素振りを見せた。
ただそのことに気付いたのはイサミを含めたほんの数人だけであり、軽く首を一振りしたのち、イサミへとその刀を手渡してきたのだった。
(〈会津兼定〉。新選組副長の土方歳三の愛刀の製作者として知られる刀工の名前。……そしてウチの初めての〈幻想級〉武器)
イサミは自分の頬が緩んでくるのを感じた。そのプレイヤーネームからも
父親の本棚にあった『燃えよ剣』を読んだのが最初だった。そこからは新選組関連の小説や歴史本を読みあさり、気付いた時には一端の新選組オタクとなっていたのだ。
この〈会津兼定〉は、イサミにとってはただの〈幻想級〉武器であるに留まらず、まさしく憧れの品であった。
(でもどうしてあの人はこれをウチにくれたんだろう。今回のレイド、ウチは大した活躍もしてないのに……)
もらえたのは嬉しい。すごく嬉しいのだが、イサミにはこの〈会津兼定〉をもらうような働きをした覚えはない。
そもそも、タンクの役目はレイド全体を通してほとんどソウジロウが担っていたし、カバーが必要な場面では二番隊のキョウコという
イサミがやっていたことと言えば、ボス戦で湧いた雑魚のタゲを固定していたことくらいだろう。それも八幡のあの援護付きでである。
(いくら考えても分からなくてモヤモヤする。……ああーっ、もう!」
「お、おう。ど、どうしたんだ。イサミさん?」
モヤモヤを振り払おうと上げたイサミの声。思わず言葉が飛び出したその瞬間にギルドホールに戻ってきたのは、まさかの
「えっ?は、八幡さん!?あわわ、す、すみません。大声出しちゃって!」
あまりにもなタイミングでの八幡の登場に慌てたイサミは大いに動揺し、上手く回らない舌を必死に回転させる。
「あ、いや。別に大丈夫だ。こっちも驚かせたようですまん」
女性を驚かせてしまったことにバツの悪さでも感じたのか、八幡の方も慌てた様子を見せる。
(恥ずかしい……)
最初の動揺が影響し、イサミは会話を再開させるきっかけを掴めずにいた。
「……………………」
もっともそれは八幡も同様と見え、何かイサミに話しかけようとしてはやめてというのを繰り返している様子が見える。
「……あのっ!八幡さんに一つ聞きたいことがあるんですけど!」
このまま続くかと思われた沈黙は、しかし意を決したイサミによって破られた。このあたりは八幡とイサミの間にある、圧倒的なコミュ力の差によるものだろうか。
「な、にゃんでしょう?……なんでしょう?」
しかし全く心の準備が出来てなかったのか盛大に噛んだ八幡の答えに、〈武士〉の情けでイサミは必死で笑いを
(あ~、もう!変に緊張してたのがバカみたい。あんなにすごい指揮が出来て、すごい戦闘が出来ても、この人はウチとそんなに変わらないくらいの歳なんだ。だったら聞くのを
恥ずかしがっている様子の八幡の姿に、イサミは自分の緊張がほぐれているのを感じる。だから
「八幡さん、何でウチにこの〈会津兼定〉をくれたんですか?そんなに目立つ活躍もしていないと思うんですけど」
今度は聞きたいことをしっかりと尋ねる。先程感じた疑問をストレートに、目の前の少年へと。
「え~と」
八幡は聞かれたことが意外だったのか、考え事をするように間を取った。
「…………まず大きな理由は、その武器が刀であったこと。〈西風の旅団〉には刀を使うプレイヤーは何人かいるが、そのうちセタとナズナさんはすでに
戦士職というのは敵の攻撃を一心に受ける
その差を補うため各戦士職には敵のヘイトを集める専用技が存在するが、それだけでは敵のターゲットを維持するのは難しく、それに加えて通常の攻撃でもヘイトを稼ぐ必要があるのだ。
戦士職がヘイトを集められなければ、敵の攻撃がヒーラーや攻撃職に行ってしまう。特にヒーラーが戦闘不能に陥ってしまうと、そのまま全滅ルートまっしぐらである。
「でも〈武士〉はウチ以外にもいますよね?なんでウチだったんですか?」
今回のレイドパーティーには、一~四番隊で合わせて4人の〈武士〉が参加していた。うち1人はソウジロウであるため、それを除いた3人がこの刀を手にする理由があったということだ。
「その理由は簡単だ。単純に3人の中で、一番イサミさんが上手かった。ただそれだけでしかない」
ふたつ目の理由。プレイヤースキル。
「え?でもウチなんてボス戦の雑魚のタゲを取ってただけで、全然大したことしてないんだけど……」
しかしイサミは、八幡に告げられた理由に納得がいかなかった。むしろ他の2人の方が自分よりも多くのモンスターを倒していたからだ。
「さっきも言ったように戦士職で一番重要なのは、仲間を守る盾となること。あの2人はそれをしっかりと理解せずに、攻撃職のように動いていた。イサミさんは状況を的確に見て、必要な動きをしていた。それは十分に大したことなんだよ」
敵を倒せるのが上手いプレイヤーなのではない。自分の仕事をしっかりこなす、MMORPGにおいてもっとも重要なのはそれだ。
イサミは雑魚のタゲを固定した上で、さらに攻撃力を上げようと努力と工夫をしていた。ただ数字だけを見ると他の二人に遅れを取っているように見えるかもしれないが、パーティーに対する貢献度で言えばイサミの方が圧倒的に上。
八幡にしてみればただそれだけのことであった。
この八幡の言葉を聞いたイサミは、モニターの前で自分の頬が赤くなるのを感じた。
ベテランプレイヤーとまでは言えないが、中堅プレイヤーと名乗ってもよいくらいには、この〈エルダー・テイル〉をプレイしてきたつもりだ。 しかしこれまでの数年間のプレイで、こんなにはっきりとプレイヤースキルを褒められたことはない。
リアルでは成績は平凡で運動神経は並以下。褒められるようなところが少ない自分を褒めてくれる人がいる。ゲームとはいえ、そのことが嬉しかったのだ。
「あ、ありがとうございます……」
何か言わないといけないとは思うものの、赤面したイサミには何も思いつかずただお礼を言うことにした。先程の八幡ではないが、これ以上話すと盛大に舌を噛みそうな予感がしたのもあった。
「で、だ。一応最後にもう一つ理由があってだな」
続きを告げる八幡の言葉に、イサミは耳を傾ける。
「新選組、好きなんだろうな~と思ってな」
「へ?」
イサミは、モニターの前でポカンとする。
新選組が好きそうだったから。
「いや、まずイサミさんってプレイヤーネームが局長の近藤勇の名前からなんだろうし、格好も新選組の陣羽織がモデルの装備みたいだし。しかも職業が〈武士〉だろ?」
確かにイサミは新選組が好きだ。というかマニアやオタクの域に達していると言っていいだろう。
「ま、まあそうですけど……。やっぱり変ですか?女なのに新選組が大好きって」
しかしその趣味は、女友達の誰にも理解されたことがなかった。彼女たちにとっては、新選組の強面な侍たちよりドラマに出ているイケメン俳優やアイドルたちの方がはるかに重要だったし、血生臭い幕末日本よりも綺羅びやかな中世ヨーロッパの方がよほど憧れの対象だった。
「いいや、全然。俺も新選組好きだしな。特に土方歳三、あの生き様は超ヤバイ。男じゃなかったら恋しちゃってるまである。正直この武器がドロップしたとき、自分の物にするか一瞬迷ったんだよな~。まあでも俺はこいつよりステータスの高い刀持ってるし、流石に貰えんわな」
でもこの人の前でだったら、友だちの前で見せるような姿は必要ないかもしれない。新選組の特集が組まれた歴○人を諦め、女子○生の最先端ファッションの特集が組まれたセ○ンティーンを買う。そんな下らない見栄を張らなくていいかもしれない。
「だよね!土方歳三すごいかっこいいよね!!ウチ、燃えよ剣から新選組が好きになったから思い入れが強いの!!」
だったら、思い切って踏み込んでみようと思った。取り繕わずに、まっすぐに。好きな物を好きとはっきりと言えるように。
「お、おう。いきなりテンション上がったな。つうかさっきまでと口調とキャラが変わってね?俺って一応サブギルドマスターのはずなんだけど……」
京都時代は冷酷な鬼の副長と呼ばれた土方歳三。一方で箱館戦争時代には「温和で母のように慕われていた」土方歳三。そのどちらもが歴史上に残る『本当』の姿である。
「いや~、今まで新選組の話が出来る人が父親以外にいなかったから嬉しくってつい。……ダメ?」
だから、挙動不審で頼りなさげな姿と、レイドで大活躍する姿。公平な評価でイサミに武器を渡す姿と、新選組が好きそうだからという理由でイサミに武器を渡す姿。そのどれもが八幡の『本当』の姿なんだろう。
「……ああー、もう。分かった、分かったから。だからそんな声を出すのやめてくれませんかねぇ?うっかり惚れちゃうだろ!」
八幡の照れ隠しの台詞を聞いたイサミの頭に、ちょっとしたイタズラが思い浮かぶ。
「はいはい、分かりましたよ、
土方歳三と同じ、副長。この呼び方に、この少年はどのような反応を見せるだろうか。同じように照れるだろうか、そんな呼び方するなと怒るだろうか。それとも……
「え?なんで俺の脳内設定知っちゃってるの?サブマス任されてからこっち、実は心の中ではウキウキ副長気分だったのバレちゃってたわけ?銀河の歴史じゃなくて俺の黒歴史がまた1ページ開いちゃうんだけど?……え?冗談で呼んでみただけだったのに?こやつめ、ハハハ。……ごめんなさい。他のメンバーには出来れば言わないでいただけるとありがたいかな~と。……え?必死過ぎてキモい?いや、流石にこうもうちょっと言葉をオブラートに包んでですね。……え?これからも副長って呼んでいいかだと?いや、俺みんなの前でそんな呼ばれ方したら恥ずかしくて死んじゃうんだけど?というかこのやり取りですでにいっぱいいっぱいなんでマジで勘弁して下さい。……分かった、分かったから。副長って呼んでいいから俺の黒歴史をみんなにバラすのだけはやめて!土下座か?土下座すればいいんだな!?……くっそこうなったらセタの奴も巻き込んで局長って呼ばせてやるからな!」
地面に頭を擦り付けながら悪態をつく八幡の姿を見ながら、イサミは思う。
ソウジロウが目的で入ったこの〈西風の旅団〉だったけど、思っていたよりもずっと楽しくなりそうだと。
ソウジロウがよく口にする『最高』という言葉。彼の言う『最高』には、きっとこの副長の姿が含まれている。自分もいつかその『最高』に含まれるようになることが出来るだろうか?
未来はまだ分からないけれど、副長にもらったこの〈会津兼定〉。この土方歳三と同じ刀で、斬り開いていこう。自分の未来を、ギルドの未来を。
数々の
しかし劣勢や苦境に立たされた時、最後まで生き残り戦線を支え続けたのは別の隊。
目の腐った
八幡が〈西風の旅団〉を去るまでの数ヶ月間、彼らは『奇跡の三番隊』と呼ばれていた。
「そういや副長。なんで副長なのに、率いる隊は三番隊なの?」
「……笑わないか?」
「笑わない笑わない。……多分」
「おい!いま多分って言っただろ!……はあ、分かった言うから」
「よろしい!」
「なんで上から目線なんですかねぇ……?まあぶっちゃけて言うと」
「言うと?」
「る○剣好きなんだよ、る○剣。あれの斉藤一、ヤバすぎでしょ?牙突零式なんてリアルで何度も練習しちゃったからね?まあ、うっかり妹に見られてゴミを見るような目で見られたけど。……あ、多分その目だわ。モニター越しにお前が今してるその目だよ!!約束通り笑ってはないけど、世の中むしろ笑ってくれた方がいいこともあるんだからな!?」
……あれ?なんか若干燃えよ剣のステマになってね?な第十一話。ここからイサミさんが徐々にヒロイン化する……といいなあw本編内にフォロー入れられなかったのでここで語りますが、オチに使った斎藤一は史実の新選組では三番隊組長(隊長)を務めていました。
ちなみに八幡の口調ですが、前編が丁寧語で後編がタメ口なのは仕様です。前編時は明らかに八幡より年上なドルチェやオリーブがいたので、多分八幡ならちゃんとした話し方をするかな~とあんな感じに。いっそ後編も丁寧語にするかと思ったんですが、違和感しかござらん状態だったのでタメ口仕様に戻しましたwちなみにイサミの新選組うんぬんの辺りは公式では明言されていないオリジナル設定ですが、まあどう考えても新選組は好きだと思うので嘘設定にはならんと思われ。
十話について、八幡のレイド指揮はシロエから習ったものになるのか?というご質問をいただきました。これに関しては一部はイエスという回答になります。八幡の指揮はシロエを参考にしたものですが、シロエの
それに付随して。レイド指揮をソウジロウではなく八幡が取った理由は、この時点のソウジロウはレイド指揮が出来ない(というこの作品の設定)からです。なにせ茶会時代は前線バカだったはずなのでw
さてここからは次回以降の予定を。第十二話はおそらく4月2日の投稿となります。ただ急遽加わった話のため、現在誰の視点かも決まってない状態ですwお待ちいただければ幸いです。こ、今度はちゃんと一話で収まるよね?(フラグ)
……しかし今回あとがき長いな。