ログ・ホライズン~マイハマの英雄(ぼっち)~   作:万年床

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マジでお待たせしましたな第十七話。戦闘シーンがマジで書けなくって四苦八苦しておりました。

今回は四話以来のソウジロウ回。構成としては過去→現代。ただ前回よりはシリアス分は薄いはず。また、構成の都合上いくつかのシーンがカットされております。そのため若干ぶつ切り感があるかもですがご容赦を。

ちなみに色々カットしておきながら文字数は過去最高の7800字w……まあ、時間がかかった原因の一つなんですがね。


第十七話 誓いを胸に、ソウジロウ・セタは衛兵と相対す。(やはり俺が〈西風の旅団〉の副長なのは間違っている。 その7)

 イサミとドルチェが八幡に相談した翌日、〈ヤマトサーバー〉の掲示板に一つのスレッドが出現していた。

 

【ソウジロウ・セタファンクラブ、メンバー募集中】

 

 条件不問、ソウジロウとのお散歩などの定期イベントあり、その他規約などが羅列されたスレッドは、初めは単なる釣りだと警戒されてほとんど書き込みがされることはなかった。

 しかし、その一時間後。〈西風の旅団〉が運営するギルドのホームページにも同様の文言が掲載されたことにより、そのスレッドは一気に信用度を増し、多くの女性プレイヤーが殺到することになる。

 なにせ〈アキバの街〉でも人気・実力ともトップクラスのプレイヤーだ。加えて、いつでも女の子に優しいその言動は、知らぬ間に多くのソウジロウファンを獲得していた。

 ファンの一部はすでに〈西風の旅団〉のメンバーとなり、すでに同じギルドで活躍していた。しかしその入団条件の厳しさゆえ、大多数のソウジロウファンは〈西風の旅団〉に入ることが出来ず、ソウジロウとろくに接することが出来ない現状をただただ嘆いているだけだった。

 そんなところに投げ込まれた、ファンクラブという大きな餌。恋に飢えていた女性プレイヤーが殺到したのは、ある意味必然だったのかもしれない。

 多くの情報ツールで拡散された情報を受け、ソウジロウ・セタファンクラブへの加入希望者は、募集開始から半日で三ケタに、三日後には三百人に迫りつつあった。

 これだけの事態である。〈西風の旅団〉内でも、ここ数日はその話題で持ちきりだった。

 自分たちもこのファンクラブに入るべきなのか。これのせいでソウジロウとの時間が更に奪われるのではないか。そもそもこれは一体誰が募集しているのか。

 先日までの不和が嘘だったかのように、〈西風の旅団〉のメンバーたちは一丸となり対策を練っていた。なにせ、このままだとライバル(ソウジロウのファン)が大きく増えてしまうのだ。

 内輪揉めを続けている場合じゃない。まとまらなかったはずのメンバー同士の意思は、その一点において統一される。

 彼女たちがまず行ったのは、自分たちもファンクラブへと参加すること。本当に設立されるかはともかくとして、もし実際にファンクラブが誕生してしまった場合、所属していなくては何が起こっても介入することもままならないだろうからだ。

 そして次に行うべきなのはこのファンクラブの発起人を探し出すことだった。

 ギルドのホームページすら使って募集している以上、これは少なくとも〈西風の旅団〉内部の人間のしわざであるということだ。しかも、ホームページに手を加えられる者はごく一部のメンバーに限られている。

 動機。手法。技術。権限。性格。

 恋する乙女たちが行った、あらゆる角度からの検証で浮かんできたのは

 

 

 

 

 

 〈西風の旅団〉サブギルドマスター・八幡の名前であった。

 

 

 

 

 

 アキバを出たソウジロウたち採取部隊の二パーティー十二人は、〈スモールストーンの薬草園〉へと足を運んでいた。

 〈スモールストーンの薬草園〉は、かつてのヤマトの盟主であった〈ウェストランデ皇王朝〉の皇王の一人により作られた薬草園である。賢王として名高い彼は、疫病に苦しむ民のために自らの所有する別荘の庭園で薬草の栽培を行い、多くの領民の命を救ったのだ。

 もっとも〈ウェストランデ皇王朝〉が滅んで久しい今ではかなり荒廃が進んでおり、植物系モンスターが多数徘徊するゾーンとなっている。

 その成り立ちから、この〈スモールストーンの薬草園〉は薬草系の素材アイテムが豊富である。それに加えて、疫病対策と並行して行われた飢饉対策の田畑も併設されており、食材系の素材アイテムを多く採取できるゾーンでもあるのだ。

 無害な植物を装ったモンスターなどもおり決して油断していい場所ではないものの、レベル帯は決して高くはない。そのためソウジロウたちにとっては、比較的安全に食料集めを行えるゾーンでもあったのだが……

 

「いくよ~お師匠!!」

 

「むむっ!やりますね、カワラさん!!」

 

 食料もぼちぼち集まり、ソウジロウはドルチェからアキバへの帰還を提案されていた。しかし、まだこの世界での体の動かし方に慣れないというカワラの言葉に、しばし考え込む。

 昨日の内に戦闘は経験していた。しかし今日の戦闘では、昨日のゴブリンと比べてモンスターのレベルが高かったこともあり、多少の戦いにくさを感じた。

 早急にこの世界での戦闘に慣れなければならない。そう判断したソウジロウは、食料採取の延長を決めた。ただし主目的は戦いに慣れることであり、前衛後衛の連携を含めた集団としての戦い方を確認することだ。

 ソウジロウ率いる二パーティーは、それぞれソウジロウとカワラを壁役として戦域に展開。冷静な判断力を持つドルチェが両パーティーのメンバーをサポートすることにより、パーティー間の連携も同時に確認していく。

 しかし戦闘に慣れてくるにつれ、いつのまにかその訓練はソウジロウとカワラの勝負へと変わっており、どちらがより多くモンスターを倒せるかを競い合っていた。

 

「おっ!セタの坊主じゃねぇか。お前らも食料集めか?」

 

 二人の競争は、突然掛けられた声によってようやく中断される。

 

「ウッドストックさんじゃないですか!はい、ということはそちらも?」

 

 声の聞こえる方へと振り向いたソウジロウの視線の先にいたのは、ひげ面のドワーフ。アキバの中堅ギルド〈グランデール〉のギルドマスターであるウッドストックであった。

 初心者やギルド未所属のプレイヤーに対して色々とケアを行っていた彼は、ギルドの規模に比して知名度の高い、アキバの有名プレイヤーの一人だ。また、その知名度の高さゆえに顔も広く、特に中堅クラスのギルドとは強いネットワークを持っている人物でもある。

 〈アキバの街〉の五大戦闘ギルドと呼ばれる〈西風の旅団〉だったが、その構成人数は百人にも満たない中堅ギルドだ。それゆえにウッドストックとは、ゲーム時代からちょくちょくと話すことが多かったのだ。

 

「ああ、まあな。うちみたいな何でも屋ギルドは、あんまり食料アイテムを持ってないんでな。ギルマスとして、仲間たちの食料を確保しにきたってわけよ」

 

 ゲーム時代から変わらないウッドストックの世話好き加減に、ソウジロウは苦笑する。ウッドストックがあの〈黒剣騎士団〉を脱退したのも、エリート主義ゆえに低レベルプレイヤーを疎んじるギルドの姿勢を嫌ってのことだったはずだ。

 

「坊主。そっちはどうだよ?お前んところは女ばっかだし、この状況じゃ大変だろ?」

 

 本当に世話好きである。こんな状況下で、自分のギルドだけではなくよそのギルドまで心配するその様子に、ソウジロウは尊敬の念すら感じた。

 初心者プレイヤーを助けるためにと、あの混乱の中を迷わず森へと繰り出したクラスティ。仲間の食料を得るためにモンスターと戦い、他人すらも心配するウッドストック。

 こんな事態の中なのにも関わらず、ソウジロウの知り合いの大人たちは、誰かのために動いている。ゲームの世界に入れたことをただ喜んでいた自分と比べて、なんという違いだろうか。

 

「そうですね。今のところは大きな問題は起きてないですけど、こんな状況ですし、なにが起きてもすぐに対応できるようにしておかないといけませんね」

 

 ウッドストックに答えながら、自分がアキバを離れたのは軽率だったのではないかという懸念が、ソウジロウの脳裏を()ぎる。ナズナに後事を託してきたとはいえ、この場所はギルドホールから、守るべき仲間から離れ過ぎている。

 ソウジロウは、いくつかの情報交換を済ませてウッドストックと別れた。ただ、ウッドストックに別れ際に言われた一言。

 

「八幡のやつはまだ戻ってきてないのか?」

 

 という、クラスティと同じような台詞には閉口したが。

 

(そういえばウッドストックさんは、あの時のPvP大会の〈暗殺者〉(アサシン)部門の準々決勝で、八幡と戦ったんでしたね……)

 

 ギルドを去った友人のことを思い出しながら、ソウジロウは〈アキバの街〉への帰路に着くのであった。

 

 

 

 

 

 ギルドホールへと帰り着いたソウジロウは、今後の話し合いを行おうとギルドのメンバーを招集した。ウッドストックから得たものも合わせて、早急に情報を共有しておいた方がいいと考えたからだ。

 しかし折り悪くイサミがサラを伴って外出していたため、ソウジロウはイサミへと念話を送った。

 すぐに戻るという返事を受け、ソウジロウたちはイサミの帰りを待っていたのだが、二人は一向に戻ってこない。少し心配になってきたソウジロウは、ドルチェをと一緒にイサミを探しに出かけることにした。

 このときドルチェが同行人であったことには特別深い意味はなかった。あえていうならば、フィールドから帰ったばかりで外出する準備ができているという、ただそれだけの理由からである。

 そして、イサミたちを探し歩いて辿り着いた街の路地裏。

 

「イサミさんっ!!」

 

  二人が駆けつけたその場所で見たものは、必死にイサミの名前を叫ぶサラ。驚愕の表情で固まる金髪の男性冒険者と、右腕を斬り飛ばされて尻餅をついている黒髪の男性冒険者。自らの武器である大剣を振りかぶっているアキバの衛兵。

 そしてその剣の振り下ろされる先には、折れた〈会津兼定〉の柄を握り締め、呆然としているイサミの姿があった。

 

〈一騎駆け〉(いっきが)!!」

 

 その姿を見た瞬間、ソウジロウは矢のような勢いで飛び出した。

 

(イサミさんの〈会津兼定〉が砕けるほどの一撃、正面から受けるわけにはいかない!)

 

 〈一騎駆け〉により大幅に引き上げられたその移動速度により、間一髪でソウジロウはイサミと衛兵の間へと割り込む。レベル90の〈冒険者〉を一撃で瀕死にする斬撃を、ソウジロウは衝撃を斜めに逃がすことで受け流す。

 

(くっ、なんて威力だ!完璧に受け流したはずなのに!?)

 

 しかしソウジロウとイサミを逸れたその一撃は、地面を大きく抉り、受けたソウジロウの腕を痺れさせていた。

 

(勝てない……)

 

 たった一撃。実際にダメージを受けたわけではないその一撃で、ソウジロウはこの戦闘の結末を悟ってしまう。

 プレイヤータウンの守護神たる衛兵は、〈冒険者〉を罰するという仕事の性質上、全ての〈冒険者〉よりも強く設定されていた。残念なことに、現実となったこの世界でも、その設定は有効のようだ。

 

「ドルチェ!!イサミさんとサラさんを連れて、急いでギルドホールへ!おそらくホールまで逃げ切れば、衛兵は追ってこられません!」

 

 であれば今できることは一つだけ。この場からイサミを逃がすことだけだ。

 

「で、でもソウちゃん。それじゃあアナタが……「いいから早くっ!!」

 

 続けざまに振るわれた衛兵の一撃。なんとか受け流しはしたものの、背後にイサミをかばいながらでは限界がある。

 いつもの丁寧なしゃべり方すらかなぐり捨てたソウジロウの叫びに、ドルチェはそれ以上なにも言い返さなかった。無言でイサミとサラに駆け寄り、二人を脇に抱えるとギルドホールへ向けて走り出す。

 ドルチェが走り去る足音を聞いたソウジロウは、ほっとしながら再び愛刀を構え直した。

 

「はっ、ははは。無駄だよ無駄。衛兵は一度対象にしたプレイヤーを追いかけ続けるんだ。俺の手を斬り落としたあの女をな!!」

 

 自分を斬った人間がこの場から去ったためか、自失から立ち直ったパッシータが、ソウジロウをあざ笑うように声を掛けてくる。だが、パッシータはすぐにその代償を支払うこととなった。左腕(残りのもう片方)という代償を。

 

「ぐわぁーーっ!!!てめえ正気かよ!何の躊躇(ためら)いもなくやりやがって!!もうゲームじゃねぇんだぞ!?」

 

 しかし両腕を失った哀れな男の叫びは、ソウジロウの怒りに油を注ぐだけでしかなかった。

 

「そうですよ……この世界はもうゲームじゃない……」

 

 どうやら衛兵は、戦闘行為禁止区域で他の〈冒険者〉に攻撃したソウジロウを、攻撃対象としたようだ。

 これですぐにイサミの元へと向かうことはない。懸案事項減ったものの、ソウジロウの怒りはまだ収まっていなかった。

 

「あなたたちがボクの仲間にしたことも現実だ……!」

 

 サラを泣かせた。イサミに至っては命の危機に晒された。

 そんなことを許してしまったのは、ソウジロウにとっては我慢できないことだった。

 

(八幡は、自分を犠牲にしてギルドを守ってくれたのに……それなのに、僕は……)

 

 たとえ誰が敵であっても仲間を守る。そう誓ったからこそ、"あの時"にソウジロウ自ら八幡を除名した(・・・・・・・)というのに……。

 いまこうしているのも、言ってしまえば八つ当たりのようなものだ。自分への怒りの捌け口でしかない。

 ソウジロウは、パッシータの頭を掴んで無理やり立ち上がらせる。そして、自分へ剣を振り下ろそうとしていた衛兵の、その振るった剣先へと差し出した。 

 

「二度と、ボクの仲間に近づかないでください」

 

 攻撃対象ではないものに攻撃が当たりそうになったことにより、衛兵は慌てたように大剣を引き戻そうとする。

 しかし、勢いのついた大剣をすぐには止めることが出来ず、パッシータの鼻先すれすれのところでようやく停止した。

 

「ひぃっ!」

 

 イサミに右腕を、ソウジロウに左腕を。そして衛兵には殺されかけ、パッシータは完全に心が折れてしまったようだ。

 必死で逃げ出そうと走り出すが、両腕を失ったことで平衡感覚にも支障を来たしており、思うように動くことが出来ていない。

 

「パ、パッシータ!!」

 

 そんな相棒の様子を見たコーザは、慌ててパッシータの元へと駆け寄り、そのままパッシータを抱えるようにして逃げていった。

 

「さぁて、これで残りはあなただけですね」

 

 邪魔者(パッシータとコーザ)がいなくなり、これでようやく衛兵()に集中することが出来る。

 

(相手は圧倒的に格上。そしてヒーラーもいない。この状況でイサミさんがホールに逃げ切れるまでの時間を稼ぐには……)

 

 ソウジロウは、両手で持っていた愛刀・〈神刀・孤鴉丸〉(しんとう・こがらすまる)を右手一本に持ち替え、左手でもう一本の刀を抜き放つ。

 二刀持ちとなったソウジロウは、力強く地面を蹴った。

 間合いを取っても、衛兵は自由にワープすることができる。つまり間合いを取ることにはあまり意味がない。そして間合いを取れないということは、常に衛兵の大剣の攻撃範囲にいるのと同義である。

 

(だったら!!)

 

 だからソウジロウが選択したのは接近戦。それも大剣の利点を殺しつつ戦うことの出来る、超々近距離戦であった。

 衛兵も黙ってソウジロウを近寄らせはしない。迫るソウジロウ(標的)を両断せんと、真っ向から大剣を振り下ろしてくる。

 

(避けられない!?だったら!!)

 

 自らを完全に捉えていたその攻撃を、ソウジロウは左手に持つ刀で迎撃した。正面からでなく、その側面を殴りつけることによって。

 突如加わった横からの衝撃に、衛兵の振るった大剣はソウジロウを大きく逸れ、地面に着弾する。

 慌てて武器を引き戻そうとする衛兵だったが、その巨体はすでにソウジロウの間合いの内であった。

 

〈兜割り〉(かぶとわ)! 」

 

 衛兵が体勢を立て直す前、大剣を構えなおす直前に、まずはソウジロウが一撃を当てることに成功する。

 もっともダメージは微々たる物であり、その衝撃自体も衛兵の(まと)〈動力甲冑〉(ムーバブルアーマー)によって完全に吸収されていた。

 一瞬で体勢を整えた衛兵は、今度は横薙ぎに大剣を振るった。その一撃はソウジロウの技後硬直の瞬間を捉えていたが、しかしソウジロウはギリギリで両手を動かし、二刀を使って大剣を跳ね上げる。

 

 避ける。逸らす。受ける。そして攻撃する。

 

 ソウジロウによる二刀の防御術は、衛兵の攻撃を防ぎ続けていた。敵が大剣を振り下ろせば横へと避ける。避けられない攻撃は受け流して逸らす。逸らせない攻撃は二本の刀で受ける。そして隙があればこちらから攻撃する。

 本来であれば衛兵というのは圧倒的に格上の存在だ。レベルが違うしステータスが違う。攻撃力が違うし防御力が違う。

 そんな相手に対して、ソウジロウはひたすらに刀を振るい続けた。

 傍から見たら、その光景はさぞかし異常だったことだろう。なにせソウジロウは、かろうじて見えるか見えないか、そんな速度の攻撃を防ぎ続けていたのだから。

 

(不思議な感覚だ……。衛兵が振るう大剣。その辿る軌跡を、なんとなくだけど感じる……)

 

 今まで感じたことのない感覚。単なる錯覚なのか、高まった集中力の賜物なのか、極限の状態が生み出した奇跡なのか。

 ソウジロウはひたすらにその感覚を信じて動き続ける。

 しかし永遠に続くかと思われたその死の舞踏は

 

(しまった!!)

 

 ソウジロウの左手に握られた刀が砕けたことによって終わりを迎える。強烈な斬撃の連続に、ついに耐久値が限界を超えたのだ。

 とっさに飛び退り間合いを取ろうとしたソウジロウだったが、一瞬の動揺は避けられなかった。ほんの僅かに遅れた回避動作。些細だが致命的なその隙を、衛兵は見逃さなかった。

 

「くっ!!」

 

 振り下ろされたその一撃は、完全にソウジロウを捉えていた。体勢は崩れており回避は不可能。迎撃も間に合わない。

 

(かわせない!?喰らう!?)

 

 それでも目を逸らさずに、ソウジロウは自分を殺すであろうその大剣を睨み続けていた。

 

(イサミさんたちは逃げられたかな……)

 

 自分の命が失われようとしている状況でなお、仲間のことを心配するソウジロウ。その眼前に迫る死の(あぎと)

 

「〈ステルスブレイド〉!」

 

 突如現れた〈冒険者〉によって強引に閉じられる。

 完全に不意を打ったその一撃は衛兵を吹き飛ばし、建物の壁へと打ちつけられたその巨躯は、周囲に大量の粉塵を撒き散らした。

 

「仲間を守って死に掛けるなんて、相変わらずの正義の味方ぶりだな。セタ」

 

 立ち込める土煙の中から聞こえるのは懐かしい声。

 

「はははっ、何を言ってるんですか。そちらの登場の仕方の方が、よっぽど正義の味方みたいじゃないですか」

 

 ほんの一年前までは毎日のように聞いていた、ソウジロウが親友だとすら思っている少年の声。その声を聞いた途端に、ソウジロウの顔に笑みが浮かんだ。

 

「はっ。こんな正義の味方がいてたまるかよ。女に泣いて頼まれたから断れなかったなんていう、情けないヒーローがよ」

 

 薄れてきた土煙の中に最初に浮かんだのは、特徴的なその両目。〈放蕩者の茶会〉(デボーチェリ・ティーパーティー)の二年間の活動期間。その間に一度だけ開かれた、メンバー全員集合のオフ会。そこで初めて見た、腐った瞳。

 

「こんな世界に来ても目は腐ったままなんですね」

 

 自己紹介では盛大に噛み、目はずっと泳いだまま。ゲームの中とは全く違うその様子に、カナミを始めとした茶会メンバーは大笑いしたものだ。

 

「ばっか。俺のチャームポイントが異世界に飛ばされたくらいでなくなってたまるかよ」

 

 その時は、自分とは全く違うタイプの人間だと思った。しかし、茶会時代の二年間と〈西風の旅団〉での最初の一年間、あわせて三年ほどを共に過ごして得た印象はその真逆。

 必要とあらば己すら切り捨てるその姿は、ある意味ではソウジロウの目指す姿のさらに先を行っていた。

 

「久しぶりですね。八幡」

 

 ソウジロウの目の前。完全に土煙の晴れたそこに立っていたのは

 

「俺は出来れば久しいままでよかったんだけどな」

 

 〈西風の旅団〉元サブギルドマスター、八幡の姿だった。




やっと主人公が合流しましたな第十七話でした。これマジで戦闘描写アカン気がする。というか冒頭のシーンもこれ大丈夫なんだろうか……。

さらに、本来原作ではこのシーンにサラの見せ場があったのですがあえてのカット。後の話で同じようなシーンを用意する予定です。ついでにソウジロウも若干チート気味になってますが、そもそもこの作品では一部旅団メンバーを結構強化しております。これも八幡が加わったことによる変化の一端ですね。ちなみに西風の旅団のホームページ云々の下りはオリジナル設定でございます。まあ一応あってもおかしくはないと思うんですよ。

さて次回以降について。第十八話は満を持しての八幡回となります。ただ、ちょっと難しい描写が多くなる予定なので、投稿が遅くなるとかもしれません。奇跡的に筆が進めば22~23日位、遅くとも26日には投稿するつもりにしております。

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