ログ・ホライズン~マイハマの英雄(ぼっち)~   作:万年床

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続いて第二話投下。

この作品は、このような形でサブタイトルの人物視点の三人称でお話を進めていきます。


第二話 覚悟する間もなく、イサミの戦いは始まる。

「はーっ!!」

 

 目の前のゴブリンを斬り裂こうと、イサミは〈武士〉の特技の一つ、〈兜割(かぶとわ)り〉を発動させる。しかし震える手で発動させたソレは、手で触れられるような位置にいるゴブリンから逸れ、足元の土を抉るだけの結果となった。

 地面にめり込んだ刀と、その衝撃に痺れた腕に呆然とするイサミに向かって、ゴブリンの手に握られた手斧が振るわれる。刃の所々が欠けたその手斧を大きく飛び退ってかわし、イサミはどうにか刀を構え直す。

 

(怖い怖い怖い。やっぱりゲームとは全然違う!?)

 

 自分の思い通りに体が動かない。戦闘に置いてこれほど不利な事はないだろう。急激に上がった身体能力に脳が、心が対応できていない。平静であろうとすればするほど、恐怖に捕らわれた心は焦りを増していく。

 

(どうしてこんなことになったの?うちはただゲームをしていただけのはずなのに……)

 

 イサミは、〈エルダー・テイル〉に新拡張パッケージ、〈ノウアスフィアの開墾〉が当たる今日という日を心待ちにしていた。大好きな局長であるソウジロウ・セタ、そして気心のしれた〈西風の旅団〉の面々と目一杯楽しもうと、何時間も前からログインして待ち構えていたのだ。

 

 それがどうしてこんなことになったのだろう。

 

 あるいはソウジロウの様に、こんな事態をただ無邪気に喜べる人間人間であれば良かったのだろうが、〈エルダー・テイル〉が現実になった?自分の肉体が〈冒険者〉になった?そんな現実は容易に受け止められる物ではない。

 それでも、いつもどおりの様子のソウジロウやナズナと会話を交わすことにより平常心が帰ってきた。その後にソウジロウにかかってきたカワラからの念話。その救援要請に答える為に現場へと向かっている間は全く問題がなかった。しかし……、初心者の〈冒険者〉を庇いながらすでに戦っているカワラ、迷わず助けに入るソウジロウ。二人に続いて戦闘に入ろうとしたその瞬間、無骨な武器を構えたゴブリン達の姿を見た時から、保たれていたはずの平常心は決壊した。

 

「イサミっ!!」

 

 森に響いたナズナの焦ったような声。そして自分へと迫る欠けた刃。

 一瞬の油断。考え事をしながら戦っていた事と、敵の攻撃を避けた先に樹の根が広がっているのに気付かなかった事。それによりイサミはよろけ、その隙を逃さずに振るわれたゴブリンの一撃が足へとヒットする。

 

「キャアァッ!!」

 

 イサミの足に命中した攻撃は、バランスを崩していたイサミにとっては駄目押しと言える物だった。地面へと顔から倒れこんだイサミは、思わず大きな声を上げる。

 

「イサミさん!!」

 

 転倒した拍子に上がったイサミの悲鳴に、イサミの近くで鬼神の様に愛刀を振るっていたソウジロウが振り返る。

 イサミに追撃をかけようと手斧を振りかぶるゴブリンを目にした彼は、自分の目の前の敵を一刀で斬り捨てると、地面を蹴り、イサミの居る所へと向かって跳躍した。

 ソウジロウからかけられた声に振り向いたイサミが見たのは、自分に向かって手斧を振り下ろそうとしているゴブリン、必死の表情で自分の所へと駆け寄るソウジロウ。そして…………。

 

 

 ソウジロウの後ろから飛んでくる一本の矢だった。

 

 

「き、局長!!」

 

 イサミが上げた悲鳴のようなその声に、ソウジロウは咄嗟に首を捻る。

 凄まじい速度と威力のソレは、横を向いたソウジロウの視線の先すれすれを通り過ぎ、今まさにイサミを攻撃せんとしていたゴブリンを一撃で吹き飛ばし、ゴブリンを捕らえたそのままにイサミの頭上を飛び越え、10メートルほど先の樹の幹にゴブリンを縫い止めてようやく静止した。

 イサミが知っているゲーム時代の〈エルダー・テイル〉、その記憶の中から呼び出された技の名前が思わず口から溢れる。

 

「〈アサシネイト〉?」

 

 "暗殺者の一撃"とも呼ばれる、〈暗殺者〉の基幹スキルにして切り札。以前〈西風の旅団〉に所属していた"彼"が好んでよく使用していた、武器攻撃職で最大の瞬間攻撃力を誇る特技である。

 

「大丈夫ですか!?」

 

 一瞬の自失から立ち直ったソウジロウが駆け寄ってくる姿を視界に収めながらも、イサミの心の中を占めていたのは全く別の人物だった。

 

「もしかして…………」

 

 

 

「副長なの?」

 

 

 

〈西風の旅団〉。かつてヤマトサーバーに存在した伝説の集団〈放蕩者の茶会(デボーチェリ・ティー パーティー)〉の一員であったソウジロウ・セタが、茶会の解散後に設立した戦闘系ギルド。茶会の流れを汲んだそのギルドには、放蕩者たちが数名参加した。

 腕利きの〈神祇官(カンナギ)〉であるナズナやチビロリ〈ドワーフ〉の〈施療神官(クレリック)〉の沙姫、〈召喚術師(サモナー)〉で〈死霊使い〉 の詠など、多くはソウジロウLOVEを理由に加入したが、その中でただ一人、男性でありながら参加したメンバーがいたのだ。

 茶会に於いてはその"特殊なビルド"により時に前衛、時に後衛と便利屋的な活躍をし、茶会のおぱんつ戦士・直継をして「もしかするとシロより黒いかもしれない……」と言わしめる黒さで参謀陣の一角を占めた。

 〈西風の旅団〉ではサブギルドマスターを務め、一年前に起こった"ある出来事"でギルドを去るまでの一年間で、女性ばかりの集団をヤマトサーバー内有数の戦闘系ギルドまで育て上げた。腐った目と捻くれた言動、後ろ向きな心を持った"彼"は、様々な〈大規模戦闘(レイド)〉を経験し、見てきたイサミの目から見ても、圧倒的な上手さを持つ〈暗殺者〉だった。

 

 イサミが副長と呼び、もしかするとソウジロウ以上に慕っていたかもしれない〈暗殺者〉。"彼"のプレイヤーネームは八幡(はちまん)と言った。




まだまだ文字数が少ないですが、この後徐々に増えてまいります。とりあえずはそのまま投稿しなおしておりますが、後々加筆修正するかもしれません。

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