ログ・ホライズン~マイハマの英雄(ぼっち)~   作:万年床

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なんとか書き上がった第二十一話。ようやくこの話を思いついた時に、一番最初に浮かんだシーンまでたどり着きました。

そしてお気に入りが900を突破いたしました。まだまだ書き進めていくつもりですので、これからもよろしくお願いいたします。

今回も基本は八幡視点。最後の部分だけ他者視点が入ります。時系列としては、第十七話と第十八話の続きとなります。ちなみに戦闘シーン多めですが、上手く書けている気はしないw文字数は7500文字ほどなので、ちょっと多いくらいに収まっております。


第二十一話 どこまでも、比企谷八幡は変われない。 後編

「さって、どうするよ?セタ」

 

 いまだ立ち上がってこない衛兵を見やりながら、八幡はソウジロウへと声をかける。

 ソウジロウと直に顔を合わせたのは茶会のオフ会以来、つまりは二年以上ぶりだ。……もっともその時は現実世界だったわけで、生来のコミュ障も手伝ってあまりしゃべることが出来なかったのだが。

 

「いつもどおりで行きましょう」

 

 しかしソウジロウから返って来たのは、その二年間と〈西風の旅団〉を脱退してからの一年間、どちらも全く感じさせないものだった。

 いつもどおりに、ソウジロウが防いで八幡が攻める。戦士職と武器攻撃職という、それぞれの役割(ロール)に忠実な役割分担。ナズナをして茶会最強と言わしめたコンビネーションプレイ。

 それは空白の期間など関係ないという、ソウジロウの宣言でもあった。

 

「……了解」

 

 だから八幡は、ただソウジロウへと承諾の返事を返し、その手に刀を握った。

 たしかにあの時の自分は逃げたかもしれない。しかしそんなことは、ソウジロウにとっては関係ないのだろう。であるならば、今の自分に出来るのは目の前の衛兵()を倒すだけだ。

 

「……HPの管理は私がどうにかしてやる。後は八幡とウジ野郎、お前ら二人がどうにかしやがれ」

 

 そこへ声を掛けてきたのはくりのんだった。面倒くさそうな表情と口調ながらも、彼女もすでに準備は完了しているようだ。

 

「……くりのんさんって、八幡と仲良かったんでしたっけ?」

 

 くりのんの姿にソウジロウは驚いているようだが、無理もない。くりのんが八幡やソウジロウに回復を行うなど、ほとんど記憶にないことだ。

 

「はっ、ちょっとこいつには借りがあってな。そんだけだ。……来るぞ!!」

 

 話を強引に打ち切ったくりのんは、後ろへと飛び退(すさ)って距離を取る。その視線の先には、大剣を構えなおした衛兵(死神)の姿があった。

 

「んじゃまあちょっくらやるか」

 

 しかしその姿を認めてなお、八幡の心は落ち着いていた。

 ゲーム時代の常識で考えれば勝てるわけがない。それどころか自分たちは、この世界の生身での戦闘にすらまだ習熟していない。それでも

 

「ええ。行きましょうか。……〈西風の旅団〉ギルドマスター、ソウジロウ・セタ。推して参ります!!」

 

 ソウジロウとの二人なら、どんな敵にも負けない。そんな気がしたから。

 先手を取って仕掛けてきたのは衛兵側からだった。

 なにせこちらは、イサミたちが逃げ切るまでの時間稼ぎが目的だ。積極的に攻勢に出る必要がない。

 自らへと真っ向から振り下ろされた大剣を、ソウジロウは軽く身を捻るだけで回避する。衛兵が態勢を整えなおす間もなく、次の瞬間には八幡の〈アクセルファング〉が衛兵へと直撃していた。

 軽くよろめく衛兵だったが、すぐに大剣を構えなおす。向けられた視線から、八幡は自分にも衛兵の敵意が向いたのを感じた。

 

(さって。これで逃げるって選択肢もなくなったか)

 

 だが、それは狙い通りでもある。もしソウジロウがやられてしまってもすぐにイサミへと衛兵の手が及ばないように、八幡はイサミ以上に衛兵のヘイトを稼がなければならないのだから。

 

(それに……。ちっ!)

 

 八幡の思考は、横薙ぎに飛んできた衛兵の攻撃に中断を余儀なくされる。

 八幡とソウジロウの双方を巻き込むように振るわれたその一撃を、八幡は後ろへと大きく跳ぶことで回避した。

 より近い位置にいたソウジロウはとっさにしゃがみ込むことで避けたようだが、態勢を崩されてしまっている。その隙を見逃さずにソウジロウへ向かって叩き付けられた一撃に、八幡はとっさに飛び込み、大剣を横から刀で殴りつけることによって強引に逸らす。

 

「すみません!」

 

「いい。それより集中しろ!」

 

 ふざけた強さだ。自分の腕に強烈な痺れを感じながら、八幡は心の中で毒づく。同時に、これを先程まで一人で避け続けていたというソウジロウにも驚愕する。

 たった今攻撃をもらいそうになったのは、八幡が合流したことによる一瞬の気のゆるみ、それに加えて八幡をカバーしなければならないという思いのせいだろう。

 ソウジロウの表情が引き締まるのを見て、八幡は自分も気合を入れ直す。

 次の斬撃は斜め上からだった。しかしその斬撃をソウジロウはあらかじめ予測していたかのような動きでかわし、その流れのままに衛兵へと斬撃を加えた。さらにそこへ、八幡が投擲したナイフが襲い掛かる。

 

「〈アトルフィブレイク〉!」

 

 相手の神経節を狙い打ちにするこの特技は、数秒間の麻痺と移動速度を低下させる追加効果の二つを併せ持つ。本来遠距離タイプの〈暗殺者〉(アサシン)が相手との距離を保つのに利用する特技だが、近接戦においても一瞬の動きの遅れを生み出すことが出来る。紙一重の攻防が続くこの状況では効果的だろう。

 そこからの戦況はは戦前の予想に反し、八幡たちの方へと傾いていった。

 先程よりも鈍くなった衛兵の攻撃を、完全に見切ってかわすソウジロウ。ソウジロウが作り出した隙に、的確に攻撃を叩き込む八幡。まれにかすめた攻撃で減ったHPは、くりのんの施した(反応起動回復〉(リアクティブヒール)で瞬時に回復する。

 衛兵の突出した攻撃力も、当たらなければ意味を持たない。

 三人の〈冒険者〉の前に、無敵かと思われた衛兵は苦境に立たされ、無限かと思われたそのHPは徐々に減少し始めていた。

 

(((勝てる!)))

 

 誰も声には出さなかったが、三人の間にその確信が広がる。しかしそれと同時に、八幡は何かが心に引っ掛かるのを感じていた。

 

(……なんだ?俺は何かを忘れている?)

 

 思考が逸れたせいで、八幡の思考が一瞬鈍る。そして押されているとはいえ、衛兵はそんな隙を見逃すほどには甘くはなかった。

 

(しまった!?)

 

 気付いた時には八幡の眼前に衛兵の大剣が迫っており、すでにそれは回避不可能であった。

 

「八幡!!」

 

 だがその攻撃は、済んでのところで割り込んだソウジロウによって受け止められ、八幡の鼻先で停止する。目の前でギリギリと音と火花を飛ばす刀と大剣に我に返った八幡は、あわてて衛兵へと一撃を見舞った。

 

「すまん!」

 

 衛兵から距離を取りながら、八幡はソウジロウへ謝罪する。今の一撃、ソウジロウが割って入らなければ、もしかすると八幡は死んでいたかもしれない。先程自分が集中しろと言ったはずなのに、なんという体たらくだろう。

 

「いえ。それよりこのまま押し切りますよ、八幡!」

 

 そのソウジロウの一言を聞き、八幡は開き直った。衛兵の攻撃はソウジロウが何とかしてくれる。自分は自分の役目を、敵を倒すという〈暗殺者〉の本分を果たそうと。

 ここから戦況はさらに大きく傾いた。自分へ向かってくる攻撃を一切気にせず攻め続ける八幡と、自分への攻撃と八幡への攻撃を的確に捌いていくソウジロウのコンビネーション。

 時にソウジロウのヘイト値を抜きかねないほどの勢いで繰り出される八幡の攻撃に、先程までの倍近いペースで衛兵のHPが減り始めていた。

 それに加えて、衛兵からの攻撃もほとんど当たらない。避けて、逸らして、受け止める。敵の行動を先読みでもしているかのようなソウジロウの動きは、衛兵を完全に凌駕していた。

 

「〈(みそ)ぎの障壁〉!」

 

 さらにそこへ、ナズナが合流したようだ。自らの周りに展開された水色の障壁で、八幡はそのことに気付く。

 ちらりと視線を送ってみたものの、何かくりのんと揉めているようだ。……まあ、くりのんが女性プレイヤーと揉めるのなど、元〈西風の旅団〉の身としてはよくある事でしかないが。

 

「〈一刀両断〉!!」

 

 八幡の攻撃で出来た隙に叩き込まれるソウジロウの一撃。〈武士〉(サムライ)の特技の中でも最高の攻撃力を誇るそれは、再び衛兵を壁へと叩き付けた。

 

「ナズナさんが来てくれたみたいだな」

 

「ええ。おそらくドルチェが呼んでくれたんでしょう」

 

 わずかに出来た時間に、八幡とソウジロウは一息つく。

 

(ドルチェさん、あいかわらずそつがないな。イサミを連れ帰ってるみたいだが、もうそろそろギルドホールに着いたころか?)

 

 衛兵への警戒はそのままに、八幡は軽く状況を再確認する。

 このままのペースで進めば、おそらくあと数分で衛兵を倒すことが出来るだろう。くりのんの〈反応起動回復〉にナズナの〈禊の障壁〉が加わった現状、多少の被弾すら許容範囲となった。加えてHP・MPともに残量は十分だ。つまり状況がこのまま推移すれば、自分たちの勝利は確実。

 そのはずなのに、八幡の頭には先程から何かが引っ掛かっていた。絶対に見逃してはいけないはずの、重要な何かを忘れているような感覚が。

 

「どしたん、ドルチェ?」

 

 そこに響いてきたのは、能天気なナズナの声。どうやらドルチェからの念話のようだ。

 イサミとサラを無事ギルドホールへと連れ帰ったというその内容に、念話を受けていたナズナとその横にいたくりのん、そしてソウジロウがほっと息をつくのが見えた。

 

(これでイサミの奴は大丈夫だな。……しかしサラってのは誰だっけか?)

 

 八幡もイサミの無事に安堵を覚えるが、もう一方の名前はピンと来なかった。

 

(いや、さっきイサミが言ってたホール掃除の〈大地人〉の名前か。あれ?俺ってばゲーム時代にあの娘に散々愚痴を聞かせちゃったけど、まさか覚えてないよね?……ん?〈大地人〉?)

 

 その時八幡の頭の中で、欠けていたパズルのピースが集まった。

 ゲームではなくなったこの世界。現実になった〈冒険者〉(自分たち)の肉体。〈チョウシの街〉で出会った〈大地人〉の少女・ベル。死んだらそのままかもしれないという状況。目の前の衛兵。その衛兵を倒さんとする自分たち。

 

(…………目の前のこの衛兵。倒してしまったら、殺してしまったらどうなる(・・・・・・・・・・・・)?俺たち〈冒険者〉にはまだ大神殿で復活できる可能性がある。確実ではないが、その可能性が。でも衛兵には、〈大地人〉にはそんな可能性があるのか!?)

 

 組み上げられたその事実に、八幡は愕然とする。

 ゲーム気分などとっくに捨てたつもりだった。もうこの世界は現実だと、ちゃんと認識していたつもりだったのだ。

 

(そのはずが、今の状況は何だ?勝てる?倒せるだと!?目の前のコイツは、ただ自分の職務を忠実に守ろうとしているだけなのに。もしかするとベルの親父みたいに、誰かの父親かもしれないのに。今の俺たちは、そんなことを一切考慮せずにコイツを殺そうとしていた……)

 

 自衛のためだと言い張ることは出来る。一時的に自分の心を納得させることは出来るだろう。しかし、殺した相手の家族から向けられる敵意に、果たして自分たちは耐えられるだろうか。

 自分やソウジロウ、ナズナにくりのんは割り切れるだろう。自分のため、ギルドのため、仲間のためと、己の感情に蓋をして過ごしていくことも不可能ではない。

 だが、あの優しい少女が、イサミがその事実に気付いた時、彼女はその事実に耐えられえるだろうか?自分が原因で起こった争いで、誰かを、誰かの家族を死なせてしまったという事実に。

 

(だったらどうする?俺はどうすればいい?)

 

 目の前では、ゆっくりとではあるが衛兵が起き上がりつつある。何か手を打つのであれば、今しかないだろう。

 何を優先して何を後回しにするか。何を守って何を捨てるか。

 

(はっ!こんな世界に来ても、結局俺に思いつくのなんてこんな方法だけか……)

 

 そうして最後に残った考えに、八幡は自嘲の笑みを浮かべる。奉仕部員として過ごした一年間で、自分は確かに変われたと思っていた。ただ自分を犠牲にするのではなく、他者に助けを求めることも出来るようになったと。

 八幡は静かに武器を構える。

 

(結局俺は、あの時から全く変われていないんだな……)

 

 そして悔恨と覚悟の二つが込められた一撃は

 

「〈パラライジング・ブロウ〉!」

 

 無防備なソウジロウの背中へと振り下ろされた。

 

「な、なぜ……八幡……?」

 

 麻痺効果のある攻撃を喰らいその場に崩れ落ちるソウジロウを尻目に、八幡は返す刀で衛兵へと〈アサシネイト〉を放つ。立ち上がったばかりのところに振るわれたその一撃は、三度衛兵を吹き飛ばし、壁へと叩き付けた。

 

「ナズナさん!!」

 

 そして八幡は、少し離れた位置にいるナズナへと声を掛けた。

 

「八幡……アンタ……」

 

 もっともナズナはそれを察していたらしく、すでにソウジロウの近くまでやってきていた。

 

「セタの奴をたのんます。……ギルドホールに戻るまでの時間くらいだったら、俺がなんとかしますから」

 

「……わかったよ」

 

 八幡の言葉に、ナズナは何も言い返すことなく頷いた。

 

「ダ、ダメです……八幡……」

 

 しかし事情を全く把握できていないソウジロウは、当然納得できるはずもない。麻痺した体を必死に動かそうとしている。

 〈パラライジング・ブロウ〉による麻痺効果は、ナズナがソウジロウをギルドホールまで連れ帰るまではおそらくもたないだろう。いっそ縛り上げるかとも考えた八幡だったが

 

「もう面倒くさいから、ウジ野郎。お前はこれでも飲みやがれ!!」

 

 ナズナと一緒に寄って来ていたくりのんが、魔法鞄(マジックバック)から取り出したビンの飲み口をソウジロウの口へと捻じ込んだ。

 しばらく抵抗するように手足を動かしていたソウジロウだったが、ほんの数秒で完全に脱力し、寝息すら立てはじめた。

 

「……おい、くりのん。今セタの奴に飲ませたの、何?」

 

 あまりの効き目にドン引きした八幡は、思わず状況を忘れてくりのんに質問する。さらに言うなら、くりのんの持っているビンになんとなく見覚えがあるような気もしていた。

 

「ん~、これ?〈スノー・ホワイトの眠り薬〉とかっていう奴。なんかひさこちゃんにもらったんだよね~」

 

 実のところもらったどころか盛られたのだが、八幡はそんなことを知る由もなかった。それよりも重要なのは……

 

(やっぱりこの薬、昔俺がロデリックさんにもらった奴じゃねぇか!あの人、こんな危険なブツを平然と渡しやがって!!)

 

 ゲーム時代であれば睡眠のバッドステータスを与えるだけだったアイテムも、この世界では危険な睡眠薬へと早変わりである。願わくばこれが犯罪的な行為に使われないようにと、八幡は祈るばかりであった。

 

「っと。流石にもう起き上がって来たか。……じゃあ、ナズナさん。あとはよろしく」

 

 〈アサシネイト〉(とっておきの一撃)がクリティカルヒットしたはずなのに、やはり衛兵の耐久力は並ではないようだ。すでに自らが埋もれていた瓦礫からは抜け出し、立ち上がろうとしていた。

 

「……八幡。死ぬんじゃないよ!」

 

 ナズナは自分の持つあらゆる防御魔法を八幡へと投射しつつ、ソウジロウを背負った。

 

「……それはちょっと無理ゲーじゃないですかね?」

 

 そう答えながら八幡は、刀を構える。

 先程まではほとんどソウジロウが受けていた攻撃を、今度は自分一人でどうにかしなければならない。やれるのは、結末(・・)をどれだけ先延ばしに出来るか、ただそれだけだ。

 

「またね」

 

 最後にそう言い残すと、ナズナは自らに〈天足法の秘儀〉を使用し、加速したその脚でギルドホール目指して走り出した。振り返らずに、ただひたすらに。

 

「……んで?お前は逃げなくて良かったのか、くりのん?」

 

「はっ。お前一人だけだと、ナズナちゃんがホールに戻るまで時間稼ぎ出来ないかもしれないからな。もうちょっとだけ付き合ってやるよ」

 

 一人残ったくりのんに八幡は声を掛けたが、どうやら彼女はもう少しだけ付き合ってくれるつもりらしい。

 

(まあ回復(ヒール)しかしてもらってないし、俺が死んでもくりのんに攻撃がいくことはないか)

 

「さって。じゃあいっちょ頑張りますかね。……結末は決まってるかもしれんが、こう見えても俺はゴキブリ並にはしぶといぞ」

 

 刀を正眼に構え、八幡は見得を切るが

 

「潰されたら死ぬなんて、大層な耐久力だな」

 

 そこへすかさずくりのんが茶々を入れる。

 

「くりのんお前、空気読めないってよく言われない!?……いくぞ!!」

 

 どこまでも締まらないが、それが自分らしいのかもしれない。地面を蹴りながら、八幡は思う。

 ただイサミに頼まれたから。それだけの理由でここへと来たはずなのに、気が付いたらなぜかくりのんと二人で衛兵と戦っている。

 しかも負け戦は確実で、やっているのは単なる時間稼ぎ。自分に迫ってくる大剣は怖いし、かすっただけでも激痛だ。

 

(ああ~マジで逃げたいわ。まあ今更逃げても逃げられないわけだが)

 

 なぜソウジロウを置いて逃げなかったのかと問われれば、それはただそちらの方が各方面への被害が少なかったからとしか言えなかった。

 片や有名ギルドのギルドマスター、片やぼっちなソロプレイヤーである。もし本当に死んでしまった場合に悲しむ人の数など、比べるべくもないだろう。

 それに加えて……。

 

「くっ!?」

 

 避け損ねた一撃に、左腕が持っていかれる。

 そもそも今の自分は弱い。一年前ならいざ知らず、〈西風の旅団〉脱退後はほとんど更新していないこの装備は、今でも最前線で戦っているソウジロウと比べると旧式のものでしかない。

 それどころかこの一年間、こちらのアカウント(・・・・・・・・・)でログインすることもほとんどなかった。昨日と今日でかなり慣らしたとはいえ、未だにそこかしこに齟齬(そご)を感じている。

 

「ちっ!!」

 

 右腕一本に持ち替えた刀が、目の前で砕け散る。耐久力が限界を迎えたようだ。

 もう出来るのは、ひたすらに避け続けることだけ。敵の動きを見て、敵の動きを予測する。

 

(あとは死んでも生き返ることが出来るを祈るのみ、か)

 

 そしてその死の舞踏は、八幡の体を大剣が貫いたことにより終わりを迎えた。

 

 

 

 

 

「処刑対象二名……ロスト」

 

 役目を果たし、衛兵が戻っていくようだ。

 

(セタとナズナさんはどうにか逃げ切れたみたいだな……。んっ!?)

 

 薄れゆく意識の中、八幡は後頭部に柔らかい感触を感じた。

 

「八幡。お前、弱くなったんじゃねえの?」

 

 そして頭の上から響いてきたのはくりのんの声。八幡は何か言い返そうと口を開くが、もう言葉を発することが出来なかった。

 

「とりあえず大神殿には迎えに行ってやるから、さっさと生き返って来いよ!」

 

(美人の膝枕で死ぬってのも、なんだか悪くないかもな。……まあ相手はあのくりのんなんだけど)

 

 自分の体が光の粒子になっていくのを見ながら、八幡は思った。

 とりあえず今回のことで得た教訓で重要なのは一つだけ。たとえ異世界だろうが、死ぬときは痛い。それだけだ。

 

 

 

 

 

 ソウジロウとナズナがギルドホールへと転がり込んだその時。歓喜の声が沸き上がる中、イサミがみんなの無事を確認するために開いていたフレンドリスト、その八幡の欄から光が失われた。

 直後に響いた悲痛な叫びに対して、ナズナとドルチェは何も言うことが出来ず、ただただ己の無力を嘆くばかりであった。

 




ついに八幡死亡の第二十一話でした。こうなることはかなりの方が予想されていたとは思いますが、細部の展開などは読まれていなかったと思いたい……。

しかし今回もやたらと際立つくりのんの存在。シリアスクラッシュを簡単に出来るキャラなので、ついつい使っちゃうジレンマ。まあ元々好きなキャラではあるんですがねw

さて次回以降について。次回第二十二話は五月十二日の投稿を予定しております。現在構想段階ですが、おそらく〈ログ・ホライズン〉要素がかなり薄い話になる予定となっております。お待ちいただけますと幸いです。

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