ログ・ホライズン~マイハマの英雄(ぼっち)~   作:万年床

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苦闘の連続だった第二十二話。そして第一章最大の爆弾が投下されます。……これまたお気に入りの数減りそうな気がする。※最近ちょくちょく減ってる

こちらは減ることのないUAは、ついに5万の大台に乗りました。皆様に感謝を!!出来るだけこの勢いのまま突っ走ります。

さて今回はかなり実験的な試み。前半部分は、比企谷八幡視点の一人称となっております。俺ガイル未読の方には意味不明な部分もあるかもしれませんがご容赦を。まあ一人称で書くの自体がほぼ初めてなので、出来についてはお察しでお願いしますwただ、雰囲気だけは出せてるんじゃないかな~とは思っております。

文字数はかなり長めの9000文字超え。ただ、一人称にした結果増えたギャグやらなんやらの影響なので、内容自体はそんなに大したことありませんw

なお、この物語は「ログ・ホライズン~マイハマの英雄(ぼっち)~」で間違いありません。……多分。


第二十二話 そして、“彼”と“彼女”は再び出会う。 前編

「……ッキー。ねえ!ヒッキーってば!!」

 

 ここ数か月で聞き慣れた声と呼び方に、俺の意識は現実世界へ引き戻された。

 目の前に広がっているのは、いつもの奉仕部の部室。どうやら部活動という名の読書に勤しんでいる内に、居眠りをしてしまっていたようだ。

 

「ああ、すまん。昨日寝たのが遅くてな。で、なんの話だ?由比ヶ浜(ゆいがはま)の料理がどうすればいいのかって話だったら、俺としてはレンジでチンがおすすめだが……」

 

「それ料理じゃなくて、冷凍食品温めてるだけだし……。ってそうじゃなくて!!」

 

 どうやら俺の華麗なる推理(という名の当てずっぽう)は外れていたらしい。……関係ないけど、名探偵コナンファンの間での西の高校生探偵の扱いの悪さは異常。初登場時の推理は盛大に空振ったけど、あとはほとんど新一さんと互角ですやん。最初の印象って超大事。つまり、高一の春に自己紹介で噛むどころか自己紹介の機会すら奪われた俺がぼっち街道を歩むのは仕方がない。

 

「……今私たちが話していたのは、放課後の過ごし方についてよ。もっともあなたの場合は聞くまでもなかったかしら。えっと、ヒキオタくん?」

 

「お前もうそれ俺を罵倒したいだけだろ……。あと、夜更かししただけでオタク扱いってのは単なる偏見だろ!夜中まで勉強を頑張ってる全国の受験生の皆さんに謝れよ!」

 

 というか、中学時代の同級生ですらここまで悪辣な呼び方しなかったぞ。雪ノ下雪乃(ゆきのしたゆきの)、許すまじ!

 

「それは誤解ね。私は比企谷君が(・・・・・)夜更かしをしていたというからそう思っただけよ」

 

 どうやら俺の人格コミでの罵倒だったらしい。というかそれもう夜更かし関係なく、俺=オタクの図式が見え隠れしてるんですが……。

 とりあえず言われてばかりも癪なので、ここらで俺も反撃することにするか。

 

「そういうお前らは、普段家で何やってるんだよ?雪ノ下はどうせあれだろ?ほとんど勉強たまに家事。んでちょっと息抜きにパンさんのDVDやら猫の動画を見てるとかそんなんだろ?」

 

 今度こそ俺の名推理が火を噴いたらしく、雪ノ下は俺からすっと目を逸らした。……いや、名推理も何も自明だったわこれ。多分由比ヶ浜でも分かるやつ。

 

「それで由比ヶ浜はそうだな……帰ってからしばらくは飼い犬と、サブレだっけか?と遊んで、その後は母親の料理を手伝おうとして止められる。寝る前は三浦や海老名さんとメールや電話したりってところだな」

 

「なんかヒッキーに行動を読まれるのってムカつく……というかキモッ!なんで女の子の行動がそんなに読めるわけ?」

 

 うん。流石にこれは言われるかなと思ってた。妄想シミュレートなぞ、108あるぼっちの特技の一つに過ぎないんだけどな。

 ただあえて言わせてもらえるならば、こいつらの行動が読みやす過ぎるのが悪い。特に雪ノ下。こいつ一般的な女子高生からかけ離れているくせして、行動がワンパターンすぎるでしょ……。

 

「で、比企ヶ谷君。あなたはどんな放課後を過ごしているのかしら?どうせ一人で本を読んだり、一人でアニメを見たり、一人でゲームをしたりしているだけなのだろうけれど」

 

 珍しくやり込めたかと思ったが、こんなことでは雪ノ下雪乃を屈服させるには至らなかったらしい。再度飛んできた言葉の矢に対し、俺は反論の弁を持たなかった。……だって本当のことだし。

 しかしあっさりとそれを認めてやるのも癪である。どうにか誤魔化してやろうと俺は口を開いたのだが

 

「入るぞ」

 

 突如現れた平塚先生(乱入者)によって遮られる。

 

「平塚先生。入るときはノックをと……」

 

 おかげで雪ノ下の意識もそちらへと向いたようだ。平塚先生、マジGJ(グッジョブ)。……ちなみに俺はGJ部では紫音(しおん)さん派だ。天才なのに時々垣間見えるポンコツっぷり、どストライクです!

 

「しかし君はノックをしても返事を……ってこのやり取りももう飽きたな」

 

 さらっと平塚先生が話すが、ちょっと待って欲しい。飽きたって、やっぱりこの人わざとノックしてなかったのかよ……。

 雪ノ下も同様の結論に達したのか、こめかみを手で押さえている。ホントこの先生はちょいちょい子どもじみたことをしてくるよな。多分精神年齢は若いんだろう。あくまでも精神年齢は。

 そこまで考えたところで、平塚先生の首がこちらを向いた。

 

「……比企谷。今何か失礼なことを考えなかったか?」

 

 平塚先生のドスの効いた声に、俺の喉は発声能力を失ってしまったようだ。回らぬ舌を動かそうと努力はしたものの、結局はあきらめて必死に首を横に振ることで否定する。というか否定しないと必死まである。

 

「そうか。もしかすると抹殺のラストブリットまで喰らいたいのかと思ったが、私の気のせいか。……次はないぞ」

 

 そう言うと平塚先生は、上げかけていた右腕を下して力を抜いた。……怖すぎて小便ちびったらどうしてくれますのん?というか雪ノ下にしろ平塚先生にしろ、なんでナチュラルに俺の思考を読んでくるの?

 

「それで、平塚先生。何か私たちに用があったのでは?」

 

 俺たちのコント(※命がけ)が終わったのを確認し、雪ノ下が平塚先生へと用件を問う。ちなみに平塚先生が持ち込んでくる案件は、ほぼ例外なく厄介事だ。

 

「あっと。俺今日、妹がアレでアレなんで帰らないといけないんだった。つうわけでお先!!」

 

 厄介事なんぞには付き合っていられない。俺は自宅(約束された勝利の地)へと、逃げるもとい戦略的撤退を図った。

 しかし回り込まれてしまった。

 

「まあ待ちたまえ。今日は君たちに仕事を持ってきたわけではないんだ。ただ、たまたまこの部室の前を通りかかったら彼がだな……」

 

「「「彼?」」」

 

 平塚先生の言葉に、俺たちは三人そろって首を捻る。口にしたのが平塚先生である以上、"彼"というのは彼氏的な意味合いではなく三人称的な意味での"彼"であろう。間違いない。……ゲフッ!?

 

「……比企谷。次はないと言ったぞ」

 

 腹を押さえてその場にうずくまる俺に、平塚先生が声を掛けてくる。先生の右腕は限界まで振りぬかれており、そして振りぬかれたことにより最大限の威力を発揮した拳は、俺のみぞおちでその力を解放していた。……いや、マジで一瞬貫通したんじゃないかと錯覚したね。車に轢かれた時よりもよほど死を覚悟したわ。

 

「平塚せんせー。結局"彼"って誰のことですかー?」

 

 苦しむ俺をよそに、由比ヶ浜がのほほんとした声で質問する。お前は死にそうになってるクラスメイトを、もう少し心配しろ!

 

「ああ、すまん。雑事で話題が逸れてしまったな。入りたまえ!」

 

 生徒が一人死にかけてるのは雑事ですかそうですか。若干やさぐれる俺をよそに、部室の扉が開かれる。

 

「は、八幡……」

 

 平塚先生が招き入れたのは、白い髪、暑苦しいコート、黒の指ぬきグローブという、中二患者御用達のフルセットを身にまとった太目な男子高校生。というか材木座(ざいもくざ)だった。

 

「なんだ中二か……」

 

 一瞬で興味を失った由比ヶ浜が、手元のスマートフォンへと目を落とす。ちょっと由比ヶ浜さん?あなた材木座くんに厳しすぎません?まあぶっちゃけ俺も興味ありませんけど。

 雪ノ下も俺たちとご同様に興味がないらしく、こちらも再び読んでいた文庫本へと視線を向けていた。……俺も昨日買った小説の続きでも読むかね。

 

「き、君たちはこういう時だけは統率が取れているな……」

 

 そんな俺たちの様子に平塚先生がちょっと引き気味だが、それは大いなる勘違いだ。俺も雪ノ下も由比ヶ浜も、面倒事(材木座義輝という男)に巻き込まれたくないという、生物ならば誰もが持っているいわば生存本能に従っているだけなのだから。

 俺たちにガン無視される結果となった材木座と言えば、なぜかうつむいてプルプルと震えていらっしゃる。お腹でも痛いのかしら?

 

「……はぁ。で、材木座?何の用だ?」

 

 とは言ってもブチ切れて暴走でもされたら面倒だ。ここはかつて(俺に)八幡大菩薩の化身と呼ばれていた心優しい俺が、話だけでも聞いてやろう。

 

「うおーん!ハチえもーん!」

 

「……前にも言ったが、その呼び方やめろ」

 

「ハチえもん、聞いてよ!あいつらひどいんだよ!」

 

 なぜ俺は毎度毎度学習できないのだろうか。少し甘い顔を見せた途端に、材木座がすごい勢いで泣きついてきた。ええい寄るな触るな、暑苦しい鬱陶しい。

 つうかこのやりとり、すっごい既視感(デジャブ)なんだが?

 

「ヒッキーって、なんだかんだで中二に優しいよね」

 

「おそらく同類として何か感じるものがあるのでしょうね」

 

 はいそこの外野二人は黙って。そして雪ノ下、さらっと俺とコイツを同類にするんじゃない。

 

「……それで?今度はどこの遊戯部さんにバカにされたんだよ?」

 

「なぜ我がバカにされたと、バカにしたのが遊戯部の連中だと分かった!?」

 

 材木座は驚いているようだが、そんなのは考えるまでもないことだ。

 まず、目の前にいるコイツには友達がいない。そもそも話しかけてくるような奇特な人間も、同級生にはほぼ皆無だ。そして基本人見知りのコイツに、上級生や下級生に知り合いがいる可能性も以下同文。となると、この間揉めた遊戯部の二人と何かあったのかと考えるのが、まあ可能性として一番高かったというだけだ。……うん。結局考えちゃってるね、俺。

 面倒なので無言で続きを促すと、材木座はやっとのことで事情を語りだした。

 

「今日のことだが例の二人と廊下で偶然相見(あいまみ)えてな、まあ当然というか必然と言うべきか、ゲームの話となったわけだ」

 

 とつとつとしゃべり始める材木座。というかいつのまにあいつらとお話するような仲になったの……。

 

「それでゲームにおける最高のジャンルは何か!という話題になったのだが……」

 

 そこから先がしゃべりにくいのか、材木座は言いよどんだ。まあゲームのジャンルなんて色々あるし、好みなんて千差万別だ。そもそもジャンルどころか各ハード間でも日々熾烈な争いが……いや、なんでもない。

 つまり何が言いたいのかというと、どのジャンルが最高かなんてのは、ケンカのタネにしかならないということである。

 

「連中はFPSこそが至高だと主張しよったのだ。た~しかに!FPSは面白い。銃を好きなだけ撃てるなど、現代日本ではまかり間違っても体験できぬからな。対人戦における駆け引きもまた楽しい。相手がどう動くのか、それを予測しながら自分は更にその上を行く。作戦が見事に(はま)った時など、確かに最高に楽しいと言えるかもしれぬ。……ただ芋スナ野郎だけは絶対に許さん」

 

「もうお前もFPS大好きってことでいいじゃん……」

 

 あと、スナイパーになんの恨みがあるのか知らんが素に戻ってんぞ。

 そういやこの話題って雪ノ下や由比ヶ浜には伝わってるのかしらん?っと俺は二人の方へと首を巡らせたが、案の定全く理解できていないらしく、由比ヶ浜はほへぇーっとアホの子丸出しな表情だし、雪ノ下に至っては多分これ聞いてない。

 なお平塚先生は普通に理解しているようで、うんうんと頷いている。……FPSに詳しい女性って、女子力的にどうなん?

 

「それでは材木座。君はどのジャンルが最高だと主張したのかね?」

 

 ここで平塚先生が話に加わって来る。同じゲーマーとして、何か通じるものを感じたのかもしれない。まあ一人でゲーセン行ったりする人だしね。

 

「うむ。平塚教諭、よくぞ聞いてくれた!我が彼奴(きゃつ)らに対して挙げたのは、MMORPGよ!!」

 

 材木座渾身の主張は、超ウザいドヤ顔で行われた。これが漫画の世界であれば、今の材木座の後ろには集中線が描かれていることだろう。つまりマジでウザい。

 MMORPGというのは、マッシブリー・マルチプレイヤー・オンライン・ロール・プレイング・ゲームの略であり、大規模多人数同時参加型オンラインRPGというのが、ウィキペディア先生にも載っている一般的な和訳である。

 その名の通り、ネットワークを介して多くの人々が集まり、一緒に冒険したり話したりするRPGのことであり、日本においては、少し古いがファイナルファンタジーXIやファイナルファンタジーXIVが著名な作品だろう。

 

「しかし、一口にMMORPGといっても色々あるんじゃないか?基本無料だったり月額課金制だったり。たしかにゲームジャンルの一つと言えばそうだが、アレは各々(おのおの)で全く違ったゲームになっていると思うのだが……」

 

 平塚先生の言う通り、一口にMMORPGと言っても様々な種類がある。例えばスマートフォンで気軽に出来る基本無料のものであったり、月々の利用料金が発生するガッツリ系のものであったりと、料金体系からまず色々だ。

 操作方法も千差万別だ。アクション性の高いものや一般的なRPGチックなもの、そのどちらも存在するし、キーボード操作のみのものやゲームパッドで操作するもの、スマートフォンでタッチ操作するものなど、操作に使う道具すらそれぞれに異なる。

 まあつまり、MMORPGというのはゲームごとで全く違うものなのだ。

 

「いかにも。なので我は一例としてとあるゲームの名を出したのだ。そう、あの世界的に大人気のMMORPG、〈エルダー・テイル〉の名をな!!……それなのに奴らときたら、もう20年も前のゲームだとかおっさんしかやらないだとか言いたい放題しおって!」

 

 それで結局言い負かされて、俺たち(というか俺)に泣きついてきたと。

 いつもの俺だったら材木座の泣き言など歯牙にもかけないのだが、残念ながら今回はそうはいかないようだ。……あのガキ共、材木座だけならまだしも、よりにもよって〈エルダー・テイル〉をバカにしやがっただと!?

 

「その、えるだーている?って有名なの?」

 

 俺と材木座、平塚先生の会話が止まったのを察したのか、由比ヶ浜が声を掛けてくる。こいつ、こういった空気の読み方は本当に一流だよな。

 しかし〈エルダー・テイル〉ってやっぱり一般人には無名なのか……と、俺がちょっとショックを受けていると、なぜか代わりに雪ノ下雪乃が口を開いた。

 

「〈エルダー・テイル〉というのはアメリカのアタルヴァ社が運営する、MMORPGのことよ。いわゆる剣と魔法のファンタジー世界を舞台に、〈冒険者〉と呼ばれるプレイヤーがモンスターを倒したり商売をしたりする、といったところかしら。たしかもう20年くらいの歴史を誇っていたはずよ」

 

 え?これが少し前に、テレビゲームのことをピコピコって言ってた奴のセリフなの?それとも、ユキペディアさんにはそんな常識通用しないの?

 

「雪ノ下。お前、〈エルダー・テイル〉をプレイしたことがあんのか?」

 

 どうしても気になった俺は、雪ノ下へと直接質問することにした。このことをうっかり寝る前にでも思い出したら、不眠症になっちまうからな。

 

「いえ。以前姉さんから勧められたことがあっただけよ。ソフト自体もその時にもらったけれど、結局パソコンにインストールすらしていないわ。今の説明も、その時に少し調べたから知っていただけよ」

 

 俺の質問に対して、あっさりと答える雪ノ下。まあ雪ノ下がゲームなんて非生産的なことをするわけがないか。こいつがゲームを始めるとしたら、それこそパンさん関連かよほどの事情がある時だけだろう。

 

「ああ~〈エルダー・テイル〉か~。私も陽乃(はるの)の奴にすすめられて一時期やってたな~。とはいっても陽乃がまだ総武高にいた時だから、もう二年くらい前の話だが」

 

 平塚先生の方は、プレイ経験があるようだ。この人だったらそもそもネトゲをやってても違和感がないし、雪ノ下さんならかなり強引に始めさせそうではある。

 二年前というと、まだ茶会が解散する前の話か。もしかすると〈アキバの街〉やフィールドで、すれ違うくらいはしてたかもしらんな。

 

「ん?そういえば八幡。貴様も〈エルダー・テイル〉をやっていたのではなかったか?」

 

 唐突に思い出したように、材木座が俺へと話を振ってくる。なんでコイツ、俺が〈エルダー・テイル〉をやってるの知ってるわけ?話した覚えなんてないんだが、と記憶を(さかのぼ)っていくと…………あっ。

 思い出したくもないのに思い出されるのは、俺と材木座との初邂逅の時の記憶。

 やたらと話しかけてくる材木座から、好きなゲームを聞かれたときに適当な感じで答えた気がする。……妙に食いつきが良いと思ったら、自分もプレイしてやがったからなのか。もしかするとその時にも言われてたのかもしれんが、興味なさ過ぎて完全に忘却してたぜ。

 

「ああ、一応もう5年くらいはプレイしてるが……」

 

 敢えて言おうとも思わなかったが、逆に敢えて隠す必要も感じない。俺は、おとなしく材木座からの質問を肯定する。

 

「5年!?」

 

 だがプレイ期間まで告げたのは、失敗だったかもしれない。由比ヶ浜の叫びに、俺は少し後悔を覚えた。

 

「ほむぅ。5年となると我よりもプレイ歴が長いな。我は剣豪将軍義輝の名で冒険しておるが、八幡。貴様のプレイヤーネームはなんというのだ?」

 

 この質問に正直に答えるのは簡単だ。しかし俺には、材木座のプレイヤーネームを聞いた時から嫌な予感がしていた。

 

「その前に材木座、一つ聞きたいことがあるんだが。……お前、ソウジロウ・セタってプレイヤーを知ってるか?」

 

 〈エルダー・テイル〉での、俺の数少ない知り合いであるソウジロウ・セタ。同じギルドに所属していたこともある奴なのだが、ほんの半年ほど前にあったPvP大会。その一回戦でセタと当ったのが、たしか剣豪将軍義輝って名前だった気がする。まあセタの奴に瞬殺されてはいたが。

 

「ほほう。流石はベテランプレイヤーだけのことはあるな。我が終生のライバルの名前を知っておるとは!しかしあの憎むべきハーレム男が、この話に一体なんの関係があるというのだ?」

 

 セタよ。お前、知らない間に変人からライバル扱いされてんぞ。……というかこいつ、どんだけ厚かましいんだよ。たしかに優勝プレイヤーと一回戦で当たったのは不幸な出来事だったかもしれんが、あんな惨敗っぷりでライバル認定とか。

 しかしこうなってくると、正直に俺のプレイヤーネームを告げるのは危険だ。

 なにせセタを知っているってことは、〈西風の旅団〉のことまで知っている可能性大であり、もしかすると〈エルダー・テイル〉における俺のお茶目な悪行の数々まで聞き及んでいるかもしれない。

 触らぬ神にたたりなしとも言うし、ここは全力で話題を逸らすとしよう。

 

「そんなことよりも材木座!俺たちが今やらなければならないのは、憎き遊戯部の連中、あいつらを締め上げることだろうが!!」

 

 俺はそう告げるとともに立ち上がり、遊戯部の部室がある特別棟の二階を指し示した。どのみちあのガキ共が〈エルダー・テイル〉をバカにしたことに対しては、制裁を加えてやらなければならない。話を逸らすネタにも使えて一石二鳥だ。

 

「そうであった!貴様のプレイヤーネームなど、大事の前の小事!とりあえずは奴らを屈服させねばな!……八幡が」

 

「……おいっ!」

 

 付け加えられた材木座の一言にツッコミながら、俺たち二人は奉仕部の部室を飛び出した。目指すは一乗寺下り松(いちじょうさがりまつ)、じゃなかった特別棟二階・遊戯部室。

 なんとか誤魔化せたことに安堵しつつ、俺は材木座と共に廊下を疾駆した。……なお、当然ながらこの姿は平塚先生に目撃されており、あとで拳とお説教を頂戴したのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(そういえばあの遊戯部の二人、なんて名前だったっけかな……)

 

 急速に浮上してきた意識の中で、八幡はその名を思い出そうと試みる。しかしその試みは、思い出せそうで思い出せないという、単なる徒労に終わった。

 八幡は諦めて目を開くが、しかしそこに広がっていたのは、見慣れた自分の部屋でもなければ奉仕部の部室でもなく、ここ二日で何度も見た〈アキバの街〉でもなかった。

 見渡す限りに広がる、広大な白い砂浜。驚きよろめいた八幡の足元で、砂の粒子がさらりと音を立てる。

 なぜか服は死ぬ寸前まで来ていた物ではなく、現実世界で散々に着慣れた、総武高校の制服であった。

 

(これが噂に聞く死後の世界って奴か?つっても地球で死ぬのと〈エルダー・テイル〉の世界で死んだ場合とじゃあ、おそらく違う場所になるんだろうが)

 

 本当に死後の世界だとすれば、あの世界では死んでも生き返ることが出来なかったということだ。そうでないならば、ここは生き返るまでの準備待ちの待合室のようなモノにでもなるのだろうか?

 分からないことだらけの頭の中をまとめようと、八幡は思考を続ける。

 少なくとも夢の中ではないだろう。なぜなら、八幡の生きた十七年間で、こんな風景は一度も見たことがないからだ。となるとやはり死後の世界か、と八幡は辺りを見回してみても、やはり白い砂浜が広がるばかりである。

 そして、こいつはどうしたもんかと見上げた空。先程から辺り一面を照らしている青白い光源を目にし、八幡は驚いた。

 そこに浮かんでいたのは、青い星。自分たち人間が暮らしているはずの、地球という惑星だったからだ。

 しばらくの間、八幡はアホの子のように地球を見上げていたが、空に見える地球、そして広がる白い砂浜、その二つの条件を満たす場所へと唐突に思い至った。

 

(月……なのか?)

 

 ようやく掴んだ答えらしきものに、八幡はハッとしてメニュー画面を開こうとする。

 

(メニュー画面が開けた!?ってことはやはりここは、まだあの世界の中なのか。現在地は……〈Mare Tranquillitatis〉!)

 

 〈Mare Tranquillitatis(静かの海)〉。月に広がるいくつかの海、その内の一つの名前である。そして同時にそれは、〈エルダー・テイル〉のテストサーバーの名前でもあった。

 〈エルダー・テイル〉の開発元である〈アタルヴァ社〉が運営する、全世界共通コンテンツの開発や、システムのアップデートについての研究を行うための場、それがこのテストサーバーの役割なのだ。

 場所が分かったのであれば、動き回るのをためらう必要もない。元の世界かあの世界へ戻るヒント、そのどちらかがどこかに転がっていないかを探そうと、空へと向けていた顔を下ろし、八幡は歩き出そうとする。

 しかしそこで八幡は、すぐ近くから自分を見つめている視線を感じた。ぼっちは視線に敏感なのだ。

 どうせ隠れるところもないのだ。こちらの顔を見られたついでに、相手の顔も見てやろうと思った八幡は、ぐるりと首を回した。

 

「あら。こんなところで奇遇ね」

 

 しかしそこにいたのは、すれ違った者の十人が十人振り返るであろう端正な顔立ち。背中まで流れる艶やかな黒髪。そして見慣れた総武高校の制服。

 

「比企谷君、あなたこんな世界に来ても目が腐っているのね」

 

 奉仕部部長・雪ノ下雪乃であった。




というわけで俺ガイル本編のメインヒロインの一人、雪ノ下雪乃参戦の第二十二話でした。一応前から考えていた展開なので、決して唐突な思い付きではありません。不快に思われた方は申し訳ないです。ちなみに雪ノ下の最後のセリフが書きたかったのが、大きな理由の一つでもありますw

今回一番苦労したのは、やはり八幡による一人語り。他の投稿者の皆様は、なんで涼しい顔でこんな難解なシロモノが扱えるのかが分かりませんw読者の皆様が読める程度に書けているといいんですが、どうでしょうか?とりあえず言えるのは一つ。……渡航、マジすげえ。

さて次回以降について。おそらく次回第二十二話で第一章完結となります。文章量によってはもう一話増えるかもしれませんがw投稿日は14日か15日くらいが濃厚です。お待ちいただけますと幸いです。

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