ログ・ホライズン~マイハマの英雄(ぼっち)~   作:万年床

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意地で今週中に仕上げた第二十七話。今回は〈西風の旅団〉メンバーを除いたログ・ホライズン側の登場人物紹介となります。なお、かなりざっくりです。

第二十六話投稿後、「ログ・ホライズン~マイハマの英雄(ぼっち)~」とかいう作品が、日間ランキングの12~18位ぐらいに三日間ほど居座っていたようです。その結果、お気に入り件数の増加と共に、作者へのプレッシャーが増大しましたw今後も頑張ります。

今回のお話は、タイトルで分かるようにアカツキ視点です。まあ完全なるゲスト出演ですがねwそして最後に少しだけ、誰も得しないであろうコーウェン公爵視点のお話がくっついております。実は、作品的にはこっちの方が重要な場面だったり。今回は、小説部分が8000文字、登場人物紹介が4000文字という謎の大ボリュームです。というかこれ過去最長……。


第二十七話 暗い森の中で、アカツキは“目の腐った〈暗殺者〉”に遭遇する。+第二章開始時点登場人物紹介@sideログ・ホライズン

『主君。今のところ、周辺に異常は見られない』

 

『分かった。僕と直継もこのまま進むから、アカツキさんは引き続き周辺警戒をよろしく』

 

『……わたしのことはアカツキと呼び捨てにしてほしいと、何度も言っている』

 

『……そ、そのうちね』

 

 暗い森の中。シロエとの念話を終え、アカツキは深いため息をつく。大恩人たるシロエを主君と仰ぎ始めて数日、いまだにシロエはアカツキのことを"さん"付けで呼んでくるのだ。

 それでは上下の別がつかない、と何度もアカツキは抗議しているのだが、シロエは(かたく)なに呼び捨てを(こば)んでいた。

 シロエの性格、と言えばそれまでなのだろうが、アカツキにはそれが少し不満だった。もっとも、最近ではアカツキからの"主君"呼びを受け入れてくれたようなので、そこには満足しているが。

 

(それにしても、今日の森はなんだか雰囲気が悪いな。なんとなくヒリついた感じがする)

 

 アカツキは、枝から枝へと飛び移りながら移動していた。

 アカツキがシロエたちのパーティーに加わって数日。最近〈アキバの街〉周辺でのPK(プレイヤーキル)行為が増えてきたこともあり、アカツキは先行偵察を買って出ていた。

 今のところシロエたちは、幸いにしてPK(プレイヤーキラー)には遭遇していないが、それはアカツキのこの先行偵察に()るところが大きい。

 数日の間で研ぎ澄まされた感覚。今の森の雰囲気は、アカツキのその感覚に警戒を訴えていた。

 

(んっ!?あれは……?)

 

 視界の端で、何かがちらりと動いた気がした。とっさに木の幹に身を潜め、アカツキはその方向へと目を凝らす。

 

(いた!人数は……4人か)

 

 アカツキが見つけたのは、4人の〈冒険者〉たち。構成は、〈守護戦士〉(ガーディアン)が1人。〈盗剣士〉(スワッシュバックラー)が1人。〈妖術師〉(ソーサラー)が1人。〈森呪遣い〉(ドルイド)が1人。

 非常にバランスがいいパーティーだ。 伏兵がいるかもしれないので、現在のところ4人パーティーとは断言できないが。

 問題は、彼らが敵なのか敵ではないのかである。

 

(あの連中、何かを待っているようだけど……一体何を待っているんだ?)

 

 前方の4人組は、明らかに周囲の様子を(うかが)っている。しかも、潜んでいるのは街道沿いの森の中のようだ。

 自分では判断が付かない。そう思ったアカツキは、シロエの判断を仰ごうとメニュー画面を開いた。

 

『主君』

 

『どうしたの?アカツキさん?』

 

 相変わらずの"さん"付けに、アカツキは軽く頬を膨らませるが、今は文句など付けている場合ではない。

 アカツキは、把握しているだけの情報を手早く伝え、シロエからの返答を待った。

 

『……なるほど。可能性としてはPKが一番高そうだけど、もう一つだけ可能性があるね』

 

『可能性?』

 

 シロエからの返答は、アカツキの考えを肯定するものであったが、どうやらそれ以外の可能性を思いついたようだ。

 やはり主君と自分とでは頭の出来が違う。そう考えながら、アカツキはシロエの言葉の続きを待った。

 

『アカツキさんの話を聞く限り、彼らが誰か、もしくは何かを待ち伏せしているのは、多分間違いない』

 

 無言で聞くアカツキに、シロエは言葉を続ける。

 

『ただし。アカツキさんからの情報では、ターゲットが〈冒険者〉だとは断言できない。モンスターかもしれないし、もしかすると……』

 

 言いにくい内容なのか、シロエは言葉を濁した。

 しかし、アカツキだとて別にバカというわけではない。濁した言葉のその先を洞察したアカツキは、シロエの考えに若干の恐怖を覚えた。

 

(……つまり主君は、〈大地人〉がターゲットになる可能性があると言っているのか)

 

 正直なところ、アカツキの頭の中には全くなかった可能性だった。

 〈大地人〉とは、つまりはゲーム時代のNPCのことである。NPCに攻撃してやろうなどという発想など、そうそう浮かぶものではない。

 しかし、現実となってしまったこの世界ではどうであろうか。

 基本的に〈大地人〉は、〈冒険者〉やモンスターよりも弱い存在だ。例外なのは、エリアス=ハックブレードやイズモ騎士団に代表される〈古来種〉(こらいしゅ)、そして一部の〈大地人〉兵士くらいだろう。

 つまり〈大地人〉とは、〈冒険者〉やモンスターよりも倒すのが容易な相手なのだ。……〈大地人〉は死んだら生き返らない、という事実に目を(つむ)ればであるが。

 

『……主君。そのもう一つの可能性、どれくらいの確率だと思う?』

 

『そんなに高くないとは思う。でも、起きないと断言できないくらいには可能性がある……かな?』

 

 アカツキの言葉は、自分では気づかないうちに真剣味を帯びていた。それを受けて、シロエの声も自然と低くなる。

 そして、その言葉に含まれたシロエの感情は、アカツキを黙り込ませるのには十分だった。

 シロエとアカツキ。両者が黙り込んだことで、アカツキの周辺から一時的に音が失われる。静かになった森の中で、アカツキの耳が異音を捉えた。

 

(……この音は?)

 

 アカツキの後方から聞こえてきたのは、重たい車輪の音。その音は、東側から〈アキバの街〉へと迫って来ていた。

 思わずそちらへ視線を向けたアカツキが見つけたのは、何台もの馬車。どこか遠くの地方からアキバへとやって来たのだろう、〈大地人〉の隊商(キャラバン)だった。

 しかし、モンスター対策には十分なその護衛たちも、〈冒険者〉が相手となると十分とは言えないだろう。

 

(レベル22、レベル24、レベル19。レベル25。これでは……)

 

 自分の潜む横を通り過ぎて行った隊商の傭兵たち。そのレベルを確認し、アカツキは舌打ちした。

 先程見つけた〈冒険者〉たちが、もし〈大地人〉狙いの夜盗もどきであった場合、この隊商は確実に全滅する。そして、運んでいる荷物を全て奪われるだろう。

 視線を動かして〈冒険者〉パーティーの様子を確認すると、あちらも馬車の立てる音に気付いたようで、なにやら慌ただしく動き始めている。シロエが告げた最悪の可能性、それが(にわ)かに現実味を帯び始めていた。

 慌ててシロエへ報告しようとしたアカツキの視線の先で、

 

「えっ!?」

 

 〈冒険者〉パーティーの一人である〈森呪遣い〉(ドルイド)に、幾本もの矢が突き立った。

 その異様な光景に、思わず声を漏らしたアカツキだったが、〈冒険者〉パーティーの驚きはその比ではない。意表を突かれたことで、全員が完全に動きを止めていた。

 その混乱に乗じるように、さらにもう一本の矢が飛来する。とどめとばかりに放たれたその一撃は、パーティー唯一の回復役(ヒーラー)をポリゴン片へと変換し、大神殿へと強制送還した。

 慌てた様子の〈盗剣士〉(スワッシュバックラー)が、アカツキが潜んでいたのとは反対側の森を指さしている。最後の一本で、ようやく相手の居場所を掴んだらしい。

 

『主君、緊急事態だ』

 

 一方アカツキは、すでに動き始めている。

 大体の位置は、最初の攻撃ですでに割り出していた。木の葉や枝で身を隠しながら、相手に気付かれないように接近する。

 念話が、声に出さずとも行えるのは幸いであった。シロエに状況を伝えながら、アカツキはそのことに感謝する。……まあ、誰にというわけでもないが。

 

(いた!……なっ!?)

 

 アカツキが見つけたのは、弓を構える黒い人影。しかし視界に入れた途端、その影がこちらの方へと頭を向けた。次の枝へと飛び移ろうとしていた体を抑え込み、アカツキはとっさに身を縮める。

 

 これでもアカツキは、己の"忍び"としてのスキルに自信を持っていた。

 〈暗殺者〉の特技には、敵から身を隠すためのものが多数存在する。それに加えて、サブ職業である〈追跡者〉の特技、気配を消す〈隠行術〉(スニーク)〈無音移動〉(サイレントムーブ)も使用可能であること。さらには遺憾ながら小さな己の体躯(たいく)

 こと忍び寄ることに関しては、自分は誰にも負けない。そう思っていた。

 そのはずだったのにだ。ようやく視界に捉えただけ、しかも相手の性別すら分からないような遠間(とおま)から気配を察知されるなど、アカツキにとっては屈辱でしかなかった。

 まさかアカツキも、ぼっちだから視線に敏感だった、などというアホな理由には思い至らなかったのだ。

 

 しかし忍びとは、耐え忍ぶ者である。あの〈暗殺者〉が敵か味方も分からない現状で、まさか私怨(しえん)に駆られて斬りかかるわけにもいかない。

 幸いにして、相手からは発見されなかったこともあり、アカツキはその場で身を潜めて待機する。

 

「こいつ!待ちやがれ!!」

 

 どうにか心を落ち着けたアカツキは、意外と近い位置から響いた声にぎょっとする。どうやら先程の〈冒険者〉パーティーのメンバーが、(くだん)の〈暗殺者〉へと接近してきているようだ。

 アカツキがそちらへと視線をやると、なぜかそこにいたのは本来後衛であるはずの〈妖術師〉(ソーサラー)一人だけであった。

 彼らのパーティーの残りメンバーは3人。装備が重く動きが鈍重な〈守護戦士〉が遅れているのは仕方がない。〈妖術師〉というのは、軽装で防御力が皆無な代わりに、意外に動きが素早いのだ。

 しかし、もう一人のメンバー。〈盗剣士〉の動きは、〈妖術師〉よりも速いはずだ。どうしたのかと様子を窺えば、〈盗剣士〉がいたのは〈妖術師〉のはるか後方。おそらくは、なんらかの行動阻害系の状態異常(バッドステータス)をもらったのだろう。

 

(この〈暗殺者〉……恐ろしい手練(てだ)れだ!)

 

 〈暗殺者〉が最初に〈森呪遣い〉を狙った理由は三点。

 まず一つ目は、相手の回復手段を奪うこと。これ自体は誰もが行う、いわゆるセオリーどおりの行動だ。一対多数の状況で相手にヒーラーが入れば、いつかジリ貧な状況に追い込まれて敗北してしまう。対集団戦における基本と言える。

 そしてもう一つ。二つ目の狙いは、ヒーラーを倒すことによって、状態異常(バッドステータス)の解呪を不可能にすることだ。足の速い〈盗剣士〉の動きを封じることにより、混乱した相手の分断を誘う。

 

 本来であれば、熟練の〈冒険者〉相手にこんな手段は通用しない。しかしそれは、この世界がゲームであればの話だ。

 現実の肉体を使っての戦闘というのは、冷静に行うのが極めて難しい。アカツキたちにしろ、ここ数日間の訓練により、ようやく慣れてきたところなのだ。

 これがあの〈暗殺者〉の三つめの狙い。文字通りに生命線を断つことによって、相手の冷静さを失わせることだ。

 

「くそっ!この人殺し野郎が!!」

 

 アカツキの一瞬の思考の間に、〈妖術師〉のHPはゼロになっていた。単体攻撃力最高を誇る〈暗殺者〉の攻撃に、〈妖術師〉の紙装甲では、数秒しか耐えられなかったのだ。

 回復職と遠隔攻撃職、パーティー戦闘の要となる二人を失ったこの時点で、すでに勝敗は決していた。

 

 仲間を失い逆上した二人は、仇である〈暗殺者〉を執拗(しつよう)に追いかけた。しかし〈暗殺者〉の方は、二人の攻撃を巧みにいなしながら距離を取り、弓での攻撃で確実に相手のHPを削っていく。

 そして10分後には〈盗剣士〉が、その2分後には〈守護戦士〉が光の粒子となって散っていた。辺りに響いた怨嗟(えんさ)の声は闇夜へと飲み込まれ、後に残ったのは、死亡した〈冒険者〉たちのドロップアイテムのみであった。

 1人対4人で始まった奇襲戦は、数が多い方が勝つという戦闘のセオリーを簡単に(くつがえ)し、1人側の圧勝に終わったようだ。

 

 その光景をもっとも近くで見ていた〈冒険者〉、アカツキは戦慄していた。

 確かに〈冒険者〉パーティーの連携は、お世辞にも上手いと言えるものではなかったかもしれない。しかし、自分はあの状況で勝ちを拾えるかと問われれば、アカツキとしては素直にノーと言わざるを得ない。

 油断しているところへの奇襲、相手の心理を突いた作戦、間合いの取り方を初めとする巧みな戦闘技術。

 アカツキに出来るのは、その中でも辛うじて奇襲だけといったところであり、それもあのレベルで行えるかと言われればどうであろうか。

 話したこともない人物に、自分は何度鼻っ柱を折られればいいのか。そう考えていたところに、頭の中で声が響く。

 

『アカツキさん!大丈夫なの!?』

 

 そういえば、シロエとの念話を繋ぎっぱなしだった。かれこれ15分はそのままだったはずなのに、目の前の光景に集中していたアカツキは、シロエの声に生返事しかしていなかった。

 

『すまない主君。今、戦闘が終わった。これからそちらに合流を……』

 

 シロエに謝罪の言葉を告げ、合流場所を打ち合わせようとしたアカツキだったが、首筋に走ったヒヤリとした感覚に思わず身を固くする。

 冷たい感触のソレをチラリと流し見ると、月光に照らされた刀身が、青白く光っている。刀だ。しかも一目で分かるほどの、相当の業物(わざもの)である。

 

『アカツキさん!アカツキ!!どうしたの!!……直継(なおつぐ)!!』

 

 急に黙ったアカツキを心配して、念話の先でシロエが叫んでいた。しかしアカツキの現状は、シロエに返事をすることを許さない。

 接近に全く気付かなかった。警戒を緩めたつもりはなかったのに、シロエとの念話で生まれた若干の隙を突かれたのだ。

 完全に後ろを取られ、しかもおそらく相手は先程の〈暗殺者〉だろう。この状態での抵抗は無意味。そう判断したアカツキは、体から力を抜いた。

 

「……一つだけ聞く。お前、あいつらの仲間か?」

 

 アカツキに抵抗の意思がないのを察したのか、ようやく〈暗殺者〉が口を開く。

 男だろうというのは、体格から察してはいた。しかしその声は意外なほどに若く、おそらくはアカツキよりもいくつか年下、高校生くらいに聞こえた。

 

「違う。私は、偶然この場に居合わせただけだ」

 

 相手にどう受け取られるかは分からないが、アカツキからしてみればまぎれもない事実である。一切の後ろめたさも含まれていないその声は、周囲に凛として響いた。

 

「……そうか。悪かったな」

 

 幸運と言うべきか、相手もそれほどにはアカツキのことを疑っていなかったようだ。アカツキの返答を聞き、男は刀を納める。

 あれほどの戦闘の後だ。念の為、という意味合いが強かったのだろう。

 ようやく緊張状態から解放され、アカツキは深く息を吸う。気付かないうちに、呼吸を止めてしまっていたのだ。

 

「いや、こちらも隠れて様子を窺っていたんだ。そちらが疑うのも無理はないだろう」

 

 なにせこの状況下なのだ。男の警戒心は当然と言えた。そう答えながら、アカツキは男の方へと振り返る。

 そこにいたのは、やはり先程の〈暗殺者〉だった。

 プレイヤーネームは八幡。闇に紛れて良く見えなかった服は、深い青色のようだ。腰に()いた刀は、自分に突き付けられていた物だろう。

 八幡が身に着けている装備、そのどれもが強い魔力を感じさせる。少なくとも〈秘宝級〉(アーティファクト)以上、おそらくは〈幻想級〉(ファンタズマル)だ。

 強力な装備も目を引くが、それ以上に目立つがその瞳。八幡の眼は、死んだ魚のように腐っていた。

 

「あの……」

 

 その眼に見つめられると、なんとなく居心地が悪い。とりあえずは何か話かけようとアカツキが開けた口は、何を話したものかと考えた瞬間に、そのままの形で停止した。

 元来、アカツキという少女は口下手なのだ。間をもたせるための会話など、もっとも不得意とするところと言える。

 

「アカツキ!どこなの!!」

 

 近くからシロエの声が聞こえた。その声に安堵(あんど)を覚えたアカツキとは逆に、大きな声に驚いたのか、八幡がびくりと身を震わせる。この暗さではよく分からないが、心なしか顔色も悪くなったように見えた。

 

「じゃ、じゃあ俺行くわ。あんまり子どもは、夜遅くに外に出るもんじゃないぞ」

 

 慌てた様子の八幡は、アカツキに別れを告げ、何かに追われるかのようにその場から離れていく。

 

「私は子どもではないんだが……」

 

 アカツキの訂正の言葉は、そのあまりの速さに置いて行かれ、八幡の背中に届くことはなかった。

 

「アカツキさん!良かった、無事だったんだね。……ってどうしたの、その顔?」

 

 ようやく合流したシロエが、アカツキの顔を見て問い掛ける。時に中学生に間違われることもあるその顔が、フグのように大きく膨らんでいたからだ。

 

「……何でもない」

 

 事情を話してしまえば、シロエはともかく直継は確実に爆笑するだろう。愚痴ってすっきりするという選択肢は、シロエと共に直継が現れた時点で消滅した。

 それに今のアカツキには、それ以上に重要なことがあるのだ。

 

「主君。私のことは、先程までのようにアカツキと呼んでほしい」

 

 アカツキを心配して叫んでいたシロエ。その口から発せられていたのは、他人行儀な"アカツキさん"ではなく、"アカツキ"という呼び捨てのものだった。

 しっかりと聞いていたアカツキは、ここぞとばかりにシロエへと要求する。

 

「ぜ、善処します」

 

 シロエの答えは相変わらず煮え切らないが、今日のこれは大きな前進だろう。

 

(私を子ども扱いしたこと、許してやってもいいかな。……いや、やっぱり許せないけど)

 

 困り顔のシロエを眺めながら、アカツキは心の中で"目の腐った〈暗殺者〉"へと感謝の念を送るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「コーウェン様。これが行商人たちから上がってきた嘆願書(たんがんしょ)です」

 

 〈マイハマの都〉領主・セルジアッド=アインアルド=コーウェン公爵は、灰姫城(キャッスルシンデレラ)内の執務室で、数枚の書類を受け取った。

 そこに記されていたのは、ここ数日の〈冒険者〉の動向、その一端だ。

 以前とは明らかに様子の異なる〈冒険者〉。大多数の〈大地人〉をはるかに上回る力を持つ彼らの豹変は、〈大地人〉社会にとって、大変な危険を孕んでいる。

 そこへ来て、今回のこの嘆願書。〈アキバの街〉へと商品を納めに行った商人たちからの、兵士による警護の要請である。

 

「〈アキバの街〉周辺の治安は、これほどまでに悪化しているのか……」

 

 幸いなことに、現在のところ死者は出ていない。しかしすでに何人もの怪我人が出ており、傭兵が護衛についていた者ですら、荷を奪われるといった被害が出ていた。

 商人たちに対して、〈アキバの街〉には近づかないようにというお()れを出すのは簡単だ。しかし、彼らにだって生活がある。

 

 では、兵士を護衛に付けるか。実際問題として、これも難しい。

 兵士の仕事は、商人を守る事ではない!などというほど、このセルジアッド=コーウェンという男は冷たい領主ではない。問題は、兵士と〈冒険者〉二者の間に存在する、数によっても埋められない、圧倒的な実力の差だ。

 

 有り体に言ってしまえば、兵士を護衛につけたところで、怪我人が増えるだけの結果に終わる。そのことを承知している身として、商人たちからの嘆願を受け入れることは出来なかった。

 

(そういえば、少し前に〈チョウシの町〉の町長から来ていた報告書に……)

 

 どうしたものかと頭を悩ませていたコーウェン公爵だったが、ふと数日前に読んだ報告書の存在を思い出す。

 その報告書も、商人の被害についてのものだった。しかし、一点だけ他の報告書とは違う、特異な点があったのだ。

 

「〈冒険者〉に与えられた薬で、怪我が完治した……か」

 

 引き出しの中に仕舞っていたその書類を取り出し、コーウェン公爵はつぶやいた。

 それは怪我をした商人の娘が出会った、とある〈冒険者〉の話だった。〈チョウシの町〉を訪れていたその〈冒険者〉は、娘から事情を聞くと、高価な魔法薬を無償で渡したらしい。

 長く生きてきた人生の中で、そんな話は聞いたことがなかった。

 

 コーウェン公爵は、〈冒険者〉とはクエストによってしか動かないものだと認識している。だがこの〈冒険者〉は、クエストを受けたわけでもなく、何の見返りもなしに薬を与えている。

 だからこそこの報告書の存在は、コーウェン公爵の頭の中に残っていたのだ。

 

「名前は……八幡か」

 

 突如として行方が分からなくなった〈イズモ騎士団〉、彼らを頼ることが出来ない以上、〈冒険者〉に対抗できるのは〈冒険者〉だけである。だが、信頼できる〈冒険者〉など、〈自由都市同盟イースタル〉の筆頭領主である彼にしても、心当たりがない。

 もしかするとこの男ならば。そう思ったコーウェン公爵は、側近たちの意見を聞くべく、会議を招集するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

登場人物紹介@sideログ・ホライズン※参考資料:ログ・ホライズン資料集&loghorizon @ ウィキ

 

 

 

名前:シロエ レベル:90 種族:ハーフアルヴ 職業:付与術師(エンチャンター)/筆写師(ひっしゃし)

 

ご存じ原作主人公で、誰が読んだか通称"腹ぐろメガネ"。〈エルダー・テイル〉プレイ歴8年を数える大ベテランプレイヤーで、〈放蕩者の茶会〉(デボーチェリ・ティーパーティー)の元メンバー。現在ギルドには所属していない。

茶会のバスガイドの異名を持つほどの名参謀で、リーダーであるカナミのわがままに付き合わされ、いつも無茶な作戦を立てさせられていた。ただし、本人もその立場を気に入っていたようで、〈放蕩者の茶会〉は彼にとって良き思い出の場所である。

バスガイドの異名に恥じない、数多いプレイヤーの中でも屈指の知識量を誇る。しかし、それが原因で便利屋的に扱われることも多く、長年ソロプレイヤーなのも、そのことに嫌気がさしたからである。

同じ茶会出身の直継とは親友同士。〈大災害〉直後の直継からの念話の呼びかけに、すぐに合流を決意した。

現実世界では、東京近郊在住の大学院(工学部)生で23歳。本名は城鐘恵(しろがねけい)

 

本作においては、基本原作通りではあるが、当然ながら八幡とは知り合い。ぼっち、腹ぐろ、目つきの悪さなど、様々な共通点を持つ八幡には、少なからずシンパシーを感じている。それと同時に、自分よりも年下であるはずの八幡が自分と同じくらいに捻くれていることを、心配してもいるようだ。

第三章である『円卓会議結成編』ではかなりの出番がある予定だが、悲しいかな第二章ではほぼ出番なし。

 

 

 

 

 

名前:直継 レベル:90 種族:ヒューマン 職業:守護戦士(ガーディアン)/辺境巡視(へんきょうじゅんし)

 

誰が読んだか通称"おぱんつ戦士"。〈放蕩者の茶会〉(デボーチェリ・ティーパーティー)の元メンバー。

茶会の第一前衛(メインタンク)を務めたほどの凄腕であり、鉄壁の防御力と前線構築能力を誇った。下ネタばかり言っている直継であるが、茶会メンバーの中では比較的常識人であるらしい。

就職をきっかけに〈エルダー・テイル〉から離れていたが、仕事が落ち着いたことで久しぶりに復帰。しかし、それはよりにもよって〈大災害〉当日であり、この事態に巻き込まれることとなる。

同じ茶会出身のシロエとは親友同士。〈大災害〉直後に、シロエへと念話を送った。

現実世界では、東京近郊在住の(おそらく)会社員で25歳。本名は葉瀬川直継(はせがわなおつぐ)

 

本作においては、基本原作通りではあるが、当然ながら八幡とは知り合い。どことなくシロエに似ているため、八幡のことを結構気にかけていた。ただ、たまにシロエを上回る黒さを感じることもあり、八幡の将来をわりと真剣に案じてもいる。

第三章である『円卓会議結成編』ではかなりの出番がある予定だが、悲しいかな第二章ではほぼ出番なし。

 

 

 

 

 

名前:アカツキ レベル:90 種族:ヒューマン 職業:暗殺者(アサシン)/追跡者(ついせきしゃ)

 

誰が読んだか通称"ちみっこ忍者"。ゲーム時代はソロプレイヤーであり、シロエとはその頃からの知り合いである。

無口な長身忍者というロールプレイを行っていたが、これは現実世界での小さくて童顔というコンプレックスが原因。腕前はシロエが認めるほどであり、特に忍者的な動きは職人芸である。

現実と異世界との間の身長の違いに苦しんでいるところを、シロエから譲ってもらった〈外観再決定ポーション〉に救われ、以降はシロエのことを主君と呼んでいる。

現実世界では、東京近郊在住の動物看護系の大学に通っており、20歳。

 

本作においては、基本原作通りであるが、八幡との出会いで多少の影響を受ける予定。ただし、ヒロイン化することは100%ないので、アカツキ派の方は悪しからず。……流石に、原作メインヒロインを()(さら)う度胸は、作者には存在しないのである。

 

 

 

 

 

名前:クラスティ レベル:90 職業:守護戦士(ガーディアン)/狂戦士(バーサーカー)

 

誰が呼んだが通称"インテリメガネ"。アキバ最大の戦闘系ギルド〈D.D.D〉のギルドマスター。

防御に比重が置かれた職業である〈守護戦士〉でありながら、盾を使わずに両手斧を使用するという攻撃的なスタイル。これは彼の所持する武器、幻想級両手斧〈鮮血の魔人斧(デモンアックス)〉の威力とHP吸収能力に()るところが大きく、戦闘中の姿は〈狂戦士〉に例えられるほど。

指揮能力も一流であり、〈ヤマトサーバー〉全体でも数名しか存在しない、レギオン(96人パーティー)レイドの指揮経験者でもある。

現実世界では、イェール大卒という超高学歴。本名は鴻池晴秋(こうのいけはるあき)

 

本作においては、基本原作通りではあるが、八幡とは知り合い。一年前の"とある"レイドの際に〈西風の旅団〉と共闘し、八幡とソウジロウの実力を高く評価している。他の皆様と同じく、第二章ではほとんど出番がない。

 

 

 

 

 

名前:ウィリアム・マサチューセッツ レベル:90 種族:エルフ 職業:暗殺者(アサシン)/|狩人

 

"ミスリルアイズ"の二つ名を持つ狙撃手(スナイパー)で、戦闘系ギルド〈シルバーソード〉の若き野戦司令官(ギルドマスター)

遠距離からの射撃戦を得意としており、〈大規模戦闘〉(レイド)では幻想級素材製の矢を惜しげもなく使用する。指揮官としても一流であり、一癖も二癖もある〈シルバーソード〉のメンバーをまとめ上げ、様々な〈大規模戦闘〉を踏破している。

現実世界では、友達の少ないいわゆるぼっちな高校生。その〈エルダー・テイル〉への情熱は、周囲の人間をドン引きさせるほどであり、プレイ歴2年ちょっとでアキバのトッププレイヤーの一人となっている。

 

本作においては、おそらく原作との乖離(かいり)がかなり出る予定の人物。八幡とは知り合いであり、ともに新進気鋭のギルドに所属していることもあり、強くライバル視している(ふし)がある。

PvP大会では決勝まで勝ち上がったものの、八幡との壮絶な射撃戦の末に敗退・準優勝。ただし、この時点のウィリアムはプレイ開始1年ほどであり、八幡とは経験と装備に大きな差があった。現在は、少なくとも装備については逆転している。第二章では、多少の出番がある予定。

 

 

 

 

 

名前:ウッドストック レベル90 種族:ドワーフ 職業暗殺者(アサシン)/調教師

 

〈アキバの街〉の中規模ギルド〈グランデール〉を率いる人物。"キャノンボール"の二つ名を持ち、〈鋼尾翼竜〉(ワイヴァーン)を相棒として空を飛び回っている。

元〈黒剣騎士団〉所属であるが、そのエリート主義に嫌気が差して脱退。〈グランデール〉を設立した。

中小ギルドの中ではちょっとした顔であり、横方向に広いネットワークを持っている。また、初心者やギルド未所属者へのサポートを行うなど、知名度は意外に高い。

 

本作においては、基本原作通りであるが、八幡とは知り合い。規模的には中小ギルドに属する〈西風の旅団〉とも、それなりに親交がある。

PvP大会では、一回戦で八幡と対戦。装備の差は如何(いかん)ともし(がた)く、一回戦で敗退となる。他の皆様と同じく、第二章ではほとんど出番がない。

 

 

 

 

 

 

 

名前:カズ彦 レベル:90 種族:ヒューマン 職業:暗殺者(アサシン)/|騎士

 

〈放蕩者の茶会〉の元メンバー。ソウジロウに本当の意味での影響を与えられるのは、シロエとこのカズ彦の二人だけだと言われている。

茶会時代は、前衛部隊の攻撃指揮を務めていた。シロエと同じく、カナミにはかなり振り回されている。

現実世界での職業などは不明。年齢は30代前半であるらしい。

 

本作においては、原作であまり設定が出てきてないこともあり、かなり設定をねつ造もとい盛る予定の人物。八幡の近接戦闘の師匠でもあり、おそらく作中最強クラス。

PvP大会では準決勝で八幡と対戦。八幡が準決勝まで温存していた、ある"奥の手"の前に敗れベスト4。内心では結構口惜しがっており、密かにリベンジの機会を(うかが)っていたりする。

現在は〈ミナミの街〉におり、雪ノ下雪乃と行動を共にしている。

 

 

 

 

 

名前:KANAMI(カナミ) レベル:90 職業:武闘家(モンク)/料理人

 

〈放蕩者の茶会〉の元リーダーで、率いるというよりも散々に引っ掻き回していた女性。

ある理由で〈エルダー・テイル〉を離れていたが、〈西欧サーバー〉にて新キャラを作成して復帰。茶会時代は〈盗剣士〉(スワッシュバックラー)だった。

どんなことにも全力全開であり、周囲の人間が気付いた時にはすでに巻き込まれている。曲者ぞろいの茶会の中でも一際(ひときわ)異彩を放つ、いわゆるカリスマ的リーダーでもある。

現実世界では、ゲフンゲフン。※アニメ二期未視聴の方のために検閲されました

 

本作においては、八幡についての相談をナズナからの受けたことで、〈エルダー・テイル〉に復帰。〈西風の旅団〉脱退後の八幡に、大きな影響を与えている。このあたりは、海外編(notゴー・イースト編)としていつか描写する……予定。とりあえず言えるのは、八幡もシロエばりに振り回されたということである。

現在地は〈西欧サーバー〉。

 

 

 

 

 

名前:セルジアッド=アインアルド=コーウェン公爵 職業:貴族

 

〈自由都市同盟イースタル〉の筆頭領主で、〈マイハマの都〉の領主でもある。ちなみに現在のヤマトで公爵位を持つ家は、コーウェン家を含めても2つのみである。

若かりし頃は、亜人討伐で名を馳せた武人だった。剣を置いた現在は、〈マイハマの都〉を一大海運都市へと発展させるなど、政治・行政面で活躍中。

亡き妻に面影が似ている孫娘を溺愛(できあい)している。

 

本作においては、ある日を境に豹変した〈冒険者〉たちを、かなり強く警戒している。ただし、〈冒険者〉に対抗できるのは〈冒険者〉だけであることも認識しており、現在対応を模索中である。




というわけで、見える伏線な第二十七話でした。なお、アカツキサイドの話は、そんなに重要ではなかった模様。アカツキが書けるとテンション上がった結果が、この過去最長の文字数となりましたwちなみに、アカツキが先行偵察に出るようになる時期を、原作よりも少し早めております。ご了承くださいませ。

今回の登場人物紹介も、かなりざっくりです。執筆にあたり、前回と同じくloghorizon @ ウィキさんを大いに参考にさせていただきました。有志のみなさまに深い感謝を。※notコピペ

そして、現在活動報告にてアンケートを行っております。由比ヶ浜のキャラクターネームや、ヒロインの人数などについてご意見を募集しておりますので、お暇でしたらご覧くださいませ。

さて、次回について。申し訳ありませんが、ここら辺で1、2、3話を改定したいと思いますので、次回の投稿は6月7日あたりになるかと思います。そして、次回第二十八話は、登場人物紹介と改定前の1、2、3話をまとめたおまけ仕様。その日の内に、第二章開始となる第二十九話も投稿する予定です。

活動報告にて、進捗状況などはご報告させていただくつもりですので、お待ちいただけますと幸いです。

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