ログ・ホライズン~マイハマの英雄(ぼっち)~   作:万年床

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遅れてごめんなさいな第三十二話。先週中の投稿のはずが、1日遅れてしまいました。本当に申し訳ありません。11巻を読む時間を計算に入れていなかったのが最大の敗因。

さて去る6月23日13~21時の間のことですが、なんとこの作品が日間ランキング1位にいたようです。正直仕事上がりにランキングを見たときは、どんな冗談だと思いました。この作品を読んでいただいている全ての方に感謝を!!今後も出来るかぎり頑張りたいと思います。

そして今回はイサミ回。出来るだけコメディに寄せようと粘ったのが、今回の敗因その二。ふたたびイサミのキャラが崩壊気味です。視点はほぼイサミ、最後にちょろっとだけ八幡視点があります。文字数はおよそ8800文字となります。文章がうまくまとまらなかった+推敲不足なので、本日夜に軽く修正する予定です。


第三十二話 訓練に訪れたフィールドで、イサミはPK現場に行き当たる。  

 ミチタカに頼んでいた修理も無事に終わり、イサミの愛刀である〈会津兼定〉はようやく手元に戻ってきた。衛兵によって砕かれたはずの刀身は、新品同様の状態にまで復元されており、むしろ砕かれる前よりもきれいかもしれない。

 こういうところはゲームだな~とは思うものの、これに関して言えば、当然イサミには何の不満もない。輝きを放つ刀身を眺めながら、イサミは満足げな表情を浮かべていた。

 

「イサミー、訓練に行くよ~」

 

「はいはーい!今行くー」

 

 折角だからもう一度磨いておこう。イサミがそう考えていたところに、ナズナから声が掛かる。自分が思っている以上に時間が経っていたことに気付き、〈会津兼定〉を鞘に納めたイサミは、急いで立ち上がった。

 

 イサミとソウジロウが死に掛けた先日の衛兵との一件は、多くのメンバーに不安を抱かせた。もし再びなにかが起こったら、そのとき自分たちはしっかりと対応できるのだろうか。そう考えたナズナの発案で、〈西風の旅団〉を挙げての戦闘訓練が、本日行われる運びとなっていた。

 〈西風の旅団〉のメンバーは、大半がレベル90に達している。加えて、〈大規模戦闘〉(レイド)産の装備を持つ者も多く、質に関しても最高水準に近い。

 しかし今の〈エルダー・テイル〉は、ゲームではなく現実だ。男勝りのメンバーも多いとはいえ、〈西風の旅団〉は基本的にほとんどが女性である。例外はソウジロウとドルチェくらいのものだ。

 そのため戦闘を怖がるものが多いこと、戦闘に習熟するにも多くの時間がかかること、その2点が予想された。

 

 加えて重要なのが、このギルドに集まっているメンバーの大半が、ソウジロウを好きだということだ。

 ソウジロウに守ってもらうのもいいが、それ以上にソウジロウの力になりたい。そう考えた恋する乙女たちは、ナズナの提案に一切の意義を唱えなかった。

 イサミにしても、衛兵との一件で自分の力のなさを実感したばかりだ。訓練に賛成するい理由こそあれ、反対する理由などなにもなかった。

 

 

 

 

 

 そんなこんなで、アキバ近くのフィールドゾーンへと出向いた〈西風の旅団〉の面々は、訓練の内容の確認を行った。

 最初は低レベルモンスターから、そして慣れてきたら徐々に高レベルモンスターを。方針の共有も終わり、早々に訓練を開始した〈西風の旅団〉の面々だったが

 

「ぎゃああ――!でっかいイノシシが突っ込んでくる――!!」

 

「落ち着いてキョウコちゃん。これだけレベル差があるんだから、喰らってもダメージなんてほとんどないわよ」

 

 生身で行う初めての戦闘。モンスターと相対しなければならないという恐怖に、一部のメンバーが恐慌を(きた)していた。

 現実世界で見るイノシシですら、はっきり言うと相当に怖い。そしてこの世界のモンスターであるイノシシブタのサイズは、現実のイノシシの優に1.5倍はある。いくら低レベルだとはいえ、現実世界ではイサミと同じ高校生であるキョウコが怖がるのも当然だと言えた。

 

「イサミちゃ~ん。そっちに行ったわよ~」

 

 キョウコをなだめていたドルチェから、今度はイサミへと指示が飛んでくる。キョウコを突破したイノシシブタは、どうやらこちらへと猛突進してきているようだ。

 

(猪突猛進!イノシシだけに!!)

 

 頭に浮かんだ冗談に笑いを(こら)えながら、イサミは刀を上段に構える。迫ってくるイノシシブタの姿はたしかに怖いが、それでも衛兵の剣の一振りに比べれば何程のこともない。

 

「ちぇすとーー!!」

 

 ドルチェが言うように、イサミとイノシシブタではかなりのレベル差があるのだ。イサミは慌てることもなく刀を振り下ろし、一刀の元にイノシシブタを斬り捨てた。

 

(ああ……ごめんね~)

 

 もっとも、慌てることはないとは言っても、モンスターとはいえ生き物を倒すことにはいまだに抵抗を覚える。唯一の救いと言えるのは、倒したモンスターは死体とはならず、ポリゴン粒子となって散るだけということだろうか。

 

「ごめんイサミ!ありがとっ!」

 

「どんまいどんまい。次はいけるよ!」

 

 こちらに謝ってくるキョウコに、イサミは励ましの言葉を返す。

 たしかに失敗かもしれないが、キョウコは最前線で敵の突撃を受け止めているのだ。逃げ出さずに踏みとどまっているだけでも、女子高生としては破格の勇気だと言えた。

 

(ウチも〈大災害〉初日は、局長やカワラに大迷惑かけちゃったからな~)

 

 全てが変わってしまったあの日。〈大災害〉から経過したのは、いまだほんの数日に過ぎない。そうであるはずなのに、あの日のことはもう遠い過去のように感じられた。

 ゴブリンを怖がってろくに刀を振るえず、それどころか戦闘中に転んだりもした。そんな自分が、今は慌てることなく冷静にモンスターを仕留めている。

 それが良い影響なのかは断言できないが、この世界での密度の濃い日々は、確実にイサミに変化を与えていた。

 

「みなさん。調子はどうですか?」

 

「お疲れーソウジ。慣れないなりにみんな頑張ってるよ。そっちの用事はどうだったん?」

 

 イサミたちはそのまましばらく訓練を続けていたが、なにせ今までに経験のない、生身を使っての戦闘だ。2時間ほどで精神力の限界を迎えたメンバーたちは現在、思い思いの場所で休憩を取っている。

 所用で遅れていたソウジロウが合流したのは、ぼちぼち休憩も終わろうかというそんな時間だった。少し離れたところから聞こえるソウジロウとナズナの話し声に、イサミはそちらを振り向いた。

 

「知り合いに何人か当たったんですが、〈第8商店街〉のカラシンさんから、ちょっと有力な情報がもらえました」

 

「へぇ~さすがは若旦那。単なるナンパ野郎じゃないね」

 

 ソウジロウとナズナの会話に上っている人物、〈第8商店街〉のカラシンと言えば、イサミでも知っているアキバの有名人だ。

 第1位の〈海洋機構〉、第2位の〈ロデリック商会〉。そしてそれに次ぐアキバ第3位の生産系ギルドが、カラシンの率いる〈第8商店街〉である。人数面では上の2ギルドに水を空けられているものの、それでも〈西風の旅団〉とは比べ物にならないほどの規模を誇るギルドだ。

 また、他の生産系ギルドと比べて多くの商人プレイヤーを抱えており、生産系ギルドの中ではもっとも販売に力を入れているギルドでもある。

 そんな〈第8商店街〉だが、実のところ最初は生産系ギルドとして設立されたわけではない。チャット(おしゃべり)好きなメンバーが、カラシンを中心に集まって設立したチャッター(おしゃべり)ギルド。それが本来の〈第8商店街〉なのだ。

 それゆえにギルドマスターである若旦那・カラシンの顔は非常に広く、本人曰くフレンドリストはほぼ上限に達しているらしい。

 

「ええ。それで八幡のことなんですが……」

 

 ソウジロウの口からその名前(・・・・)が出た瞬間。イサミは、無意識に〈一騎駆け〉を発動させていた。

 

「局長!その話!ウチにも詳しく!!」

 

「うわっ!?ってイサミか。……アンタどんだけ必死なのよ」

 

 ソウジロウとナズナがのほほんと会話していたところに割って入ったイサミは、その勢いのままにソウジロウの胸ぐらを掴み上げる。驚いたナズナが抗議の声を上げるが、正直今のイサミには、そんなことに構っている余裕はない。

 助けるだけ助けておいて、そのまま思いっきり逃げてくれたのだ。今度こそ八幡を捕まえて、もう一度文句とお礼を言ってやらなければならない。

 

「は、はいっ!数日前に八幡から念話があったそうで、カラシンさんになにか依頼をしたみたいなんですよ」

 

「用件は!」

 

 イサミの剣呑(けんのん)な目付きに、あのソウジロウが若干の恐怖を感じていた。そしてその迫力の余波を受けたせいで、ナズナですら若干腰が引き気味だ。

 衛兵よりもよっぽど怖い。2人にそう思われているなどとは露とも知らず、イサミは更にソウジロウを問い詰めた。

 

「それは流石に教えてくれなかったんですけど……いや、大丈夫ですって!居場所について情報は、ちゃんと聞いてますから」

 

「どこ!」

 

 八幡が今どこにいるのかは、イサミの情報収集能力ではさっぱり分からなかった。ソウジロウの襟首を掴むイサミの手に、思わず力が込められる。

 

「それで……八幡が今いるのは、〈マイハマの都〉らしいんですよ」

 

「マイハマ?なんでそんなところに……?」

 

 ソウジロウの答えに、イサミは困惑する。

 〈マイハマの都〉と言えば、ヤマトでも最大級の規模を誇る一大都市である。アキバからもほど近いその都市は、それこそグリフォンを使えば数十分でたどり着くことも可能だ。

 しかし、このイースタル地方最大の街とはいえ、〈マイハマの都〉にはギルドホールや大神殿が存在しない。〈冒険者〉がこの世界で生きるのに必須である2つの施設を欠いた〈マイハマの都〉は、拠点として使用するには色々と不便の多い場所だ。

 

(なんで副長は、わざわざマイハマに?……あ。そういえば、マイハマって現実世界では千葉なんだっけ)

 

 理由を考えていたイサミの頭に、ようやくそれらしい答えが浮かんできた。はっきりと本人から聞いたわけではないが、おそらく八幡が住んでいるのは千葉のはずだ。

 ネトゲで個人を特定されるようなことを言うなというのが本人の弁だったのだが、なにせ会話の端々に千葉の話が登場する。伊勢海老の生産量の1位が千葉であるなどと言われても、イサミからしてみれば、そういえば銚子港って千葉だったな~と思い出す程度のことでしかない。……そもそもプレイヤーネームが本名な時点で、個人を特定する情報もなにもないのだが。

 少なくとも、あの千葉好きぶりを(かんが)みるに、八幡がマイハマにいるというのはなかなかにあり得る話だと思われた。

 

「局長!ちょっとウチ、マイハマに行ってくるね!」

 

 情報を得たのなら、次にすべきなのは行動である。掴んでいたソウジロウの襟を離すし、イサミが〈鷲獅子(グリフォン)の笛〉を取り出した。

 

「えっ!?」

 

 しかし、今まさに笛を吹き鳴らさんとした瞬間に、背後から伸びてきた手がイサミの頭を鷲掴みにした。なお、別に鷲獅子(グリフォン)にひっかけたジョークではない。

 

「イ~サ~ミ~!あなたソウ様になんてことをーー!!」

 

「オ、オリーブ!?って痛い痛い!」

 

 イサミの頭を締め付けるている手の持ち主は、同じ三番隊の所属であるフレグラント・オリーブだった。ソウジロウに対するイサミの態度を見て、かなり起こっているようだ。

 しかしイサミの記憶がおかしくなったのでなければ、オリーブの職業(クラス)〈妖術師〉(ソーサラー)、つまり魔法攻撃職のはずである。戦士職(サムライ)であるイサミの防御力を、そうやすやすと突破できるものではない。

 ソウジロウへの愛ゆとでもいうのか、武器攻撃職もかくやというほどの力で頭を締め上げられたイサミは、あまりの痛さに苦悶の表情を浮かべた。

 孫悟空の緊箍児(きんこじ)って、きっとこんな痛さなんだろうな。薄れゆく意識の中でイサミはそんなことを考えていたが

 

「イサミ」

 

 ぽんっと肩を叩かれた感触で、ふたたび意識と痛みが戻ってくる。

 

「キョウコ?助けに来てくれた……わけないか」

 

 振り向いたイサミの視線の先にいたのは、先程イノシシブタに苦戦していた〈守護戦士〉(ガーディアン)のキョウコであった。

 イサミにとってキョウコは仲の良い友人だし、キョウコから見たイサミも同様だとは思う。だが悲しいかな、キョウコの優先順位はソウジロウ>イサミなのだ。

 

「ソウ様になにしてくれとんじゃーい!…………あと訓練サボるな」

 

 キョウコが掴んだのは、頭ではなくその反対側。イサミの両膝をがっちりホールドしたキョウコは、その場でそのまま回転を始める。

 

「きゃああーーー!!」

 

 大回転中に突然足を離され、イサミは悲鳴と共に空を舞っていた。キョウコによる、全力のジャイアントスイングだ。

 〈守護戦士〉の攻撃力は、〈暗殺者〉(アサシン)〈盗剣士〉(スワッシュバックラー)などの武器攻撃職には遠く及ばない。しかし単純なパワーであれば、最重量装備が可能な〈守護戦士〉は全12職中でもトップクラスである。

 その〈守護戦士〉の腕力によって天高くぶん投げられたイサミは

 

「ギャフン!」 

 

 ギャグマンガのような声と共に、その勢いのまま、近くの小高い丘に不時着した。

 イサミにとって幸いだったことに、〈武士〉(サムライ)は全職中でも〈守護戦士〉に次いで2番目の防御力を誇っている。痛みはあるものの、目立った怪我はないようだ。

 

「う~……うへあ?」

 

 イサミは痛む頬をさすりながら立ち上がるが、その視線の先に尋常ならざる光景を見つけ、思わず声を上げた。

 震えている女性冒険者と、それをかばうように立っている男性冒険者。その2人を、6人の〈冒険者〉が取り囲んでいる。

 

(もしかしてこれ……PK?)

 

 目の前に広がる光景に、イサミは動揺した。

 アキバの治安が悪化し始めているというのは、イサミの耳にも入っている。突然異世界へと飛ばされてしまったことへの不安。元の世界へと戻れない苛立ち。味のない食べ物に対する不満。

 積もり積もったそれらの感情のせいか、最近のアキバでは〈冒険者〉同士のケンカが絶えない。そしてケンカ以上に問題となっているのがPK(プレイヤーキル)。〈冒険者〉による、他の〈冒険者〉への殺人行為である。

 

「イサミさーん!大丈夫ですかー?」

 

「お~いイサミー。生きてるかー?」

 

 立ち上がった姿勢のまま動かないイサミに、ソウジロウとナズナから心配そうな声が掛かる。しかし今はそれに返事をしている場合ではない。

 

「局長!みんな!援護してっ!!」

 

 まだはっきりとPKだとはっきりとしたわけではないが、もし本当にPKだとしたら。今にも攻撃を仕掛けようとしている6人組を見るに、すでに状況は差し迫っている。

 とりあえずは割って入って、勘違いだったら謝ればいい。そう考えたイサミはソウジロウたちに声を掛けると、〈会津兼定〉を抜き放って駆け出した。

 

〈百舌の速贄〉(ラニアス・キャプチャー)!」

 

 PK集団(仮)の1人、呪文詠唱中の〈妖術師〉(ソーサラー)に対して、イサミは通り過ぎざまに〈百舌の速贄〉(ラニアス・キャプチャー)を放つ。喉元に叩き込まれた神速の突きは、〈妖術師〉の詠唱を強引にキャンセルし、さらに一定時間の沈黙効果を付与した。

 〈妖術師〉の詠唱を止めることに成功したイサミだったが、PK(プレイヤーキラー)(と目される集団)はいまだに5人も残っている。そのまま勢いを止めずに突っ込んだイサミは、今まさに男性冒険者に切り刻まんとしていた2つの刃を、片方は〈会津兼定〉で、そしてもう片方は〈会津兼定〉の鞘で受け止めた。

 

「戦闘訓練なんて感じには見えないけど……。アンタたち、やっぱりPKが目的なの?」

 

 紙一重のタイミングであったが、どうにか間に合ったらしい。相手の武器を受け止めたその体勢のままで、イサミは目の前の集団をにらみつける。

 周辺に満ちる濃密な悪意と、〈冒険者〉たちの殺意に染まった表情。目の前の連中がPK集団だと確信するには、それだけで十分だった。

 

(目が腐っているって点では、こいつらは副長と同じかもしれない。だけど副長の性根は、こいつらと違って腐ってない…………はず)

 

 卑怯な手段は平気で使うし面倒だと思えば全力で逃げるが、少なくとも八幡は、PKなんて真似は絶対にしない。そして〈西風の旅団〉のメンバーにも、PK行為を良しとする者など1人もいないだろう。

 

「貴様、〈西風の旅団〉のメンバーか?」

 

「そうだけど、それがどうかしたの?」

 

 所属ギルドなどこちらのステータスを見ればすぐに分かることだし、そもそも隠す必要もない。これで退いてくれれば儲けもの。そう考えたイサミは、正面に立つ〈暗殺者〉からの問いに首肯した。

 そのイサミの答えに、男たちは顔を見合わせる。

 多数の〈幻想級〉(ファンタズマル)装備に加えて、2人の攻撃を同時に(さば)く身のこなし。目の前の連中程度では、イサミ1人にすら苦戦するだろう。

 そしてさらに問題なのは、イサミが所属するギルドだ。アキバの5大戦闘系ギルドの一角である〈西風の旅団〉。そんなギルドを相手取る覚悟は、今の彼らには存在していないのだろう。

 

「イサミさん!大丈夫ですか!」

 

「イサミ!アンタ1人で先走るんじゃないよ!」

 

「イサミあなた、またソウ様に心配を掛けて!」

 

「はぁ……。イサミちゃんたら、似なくていいところばっかりハチくんに似ちゃって……」

 

 そのタイミングで、追い討ちをかけるようにソウジロウたちが合流する。先程まで訓練を行っていたこともあり、各々(おのおの)の手にはしっかりと武器が握られているし、休憩を取ったばかりで体のキレも悪くないように見える。

 援護を求めた自分の声は、ちゃんと聞き届けられていたようだ。頼もしい仲間たちに、イサミは心の中で感謝の言葉を送った。……もっとも、八幡に似ているというドルチェの言葉だけは心外であったが。

 

「"剣聖"ソウジロウ・セタ。それに〈西風の旅団〉の主力か。……分が悪いな。お前ら、ずらかるぞ」

 

 イサミ1人相手でも攻めあぐねていたのだ。他のメンバーまで合流してしまっては是非もない。6人の〈冒険者〉たちは、あっさりと撤退を選択した。

 

「ま、待ちなさい!」

 

「イサミさん!深追いはダメです!!」

 

 ソウジロウの鋭い一言に、イサミは足を止める。

 PKの阻止という当初の目的は達している以上、あえて追いかけるメリットは特にない。そして追いついたとしても、一体どうするというのか。PKを止めるためにPKをする覚悟など、今の自分にはまだないのだ。

 なんとか気持ちを落ち着けたイサミは、右手に握る〈会津兼定〉を鞘に納めようとする。

 

(あれ……?)

 

 しかし納刀しようとしても、なぜかしっかりと納まらない。不思議に思ったイサミは、自分の腰に差している鞘を確認する。

 修理が終わり、ようやく自分の手元に戻ってきた〈会津兼定〉。しかし今度は、その愛刀を納めるべき鞘に大きなヒビが走り、それどころか微妙に変形しているようだ。

 ギルドホールを出発する前は、刀身と同様に、新品のような輝きを放っていたはずだ。一体いつのまにこんな傷がついたのだろうか。

 

「あっ!?」

 

 そこまで考えたイサミは、思わず大きな声を上げた。思い返してみれば先程戦闘に割り込んだとき、とっさに鞘で攻撃を防いだ気がする。

 せっかく戻ってきた愛刀だったが、どうやらまた修理に出さなければならないらしい。判明した悲しき事実に、イサミはがっくりとうなだれた。

 

「あの……」

 

 こんなことなら、あの連中を捕まえて修理代を巻き上げるんだった。そんなことを考えたイサミだったが、すでに連中の姿は影も形もない。修理代は自腹で払わなければならないだろう。自分のお財布の中身を思い出し、イサミの気持ちは更に落ち込んだ。

 

「あのっ!!」

 

「ふぇっ!?」

 

 予想される修理代の額に恐れ(おのの)いていたイサミは、突然掛けられた声に驚いた。

 思わずそちらを振り向いたイサミが見つけたのは、男性と女性の2人組。イサミが助けた〈冒険者〉たちだった。

 

「助けていただいてありがとうございました。彼と2人で狩りをしていたら、突然囲まれてしまって……」

 

「あなたが助けに来てくれて、本当に助かりました。僕1人では彼女を守れませんでしたから」

 

 2人の〈冒険者〉は、しっかりとイサミの目を見てお礼を告げてくる。

 ここまで真正面からお礼を言われた経験など、たかだか十数年のイサミの人生にはほぼ存在しない。

 

「え、え~と。ウチは別にそんな大したことをしたわけじゃあ……」

 

 最前までの落ち込みようはどこへやら。盛大に照れたイサミは、頬を赤くする。

 

「PK被害が増えてきているって話は本当だったんですね。……お二人は僕たちが責任をもって〈アキバの街〉までお送りします。道中の安全は保証しますよ」

 

「……すみませんが、よろしくお願いします」

 

 自分たちを心配してのソウジロウの提案に、2人の〈冒険者〉はうなずく。

 イサミの活躍もあって、とりあえずのところは撃退に成功した。しかし、いまだ連中が近くにいないとも限らないし、そもそもPK集団が彼らだけとは限らない。

 アキバに名高い〈西風の旅団〉が護衛してくれるのであれば、これ以上に安心なことはないだろう。

 

「それにしても……」

 

 ソウジロウと男性冒険者が道中の打ち合わせを始めるなか、女性冒険者からぽつりとつぶやきが漏れる。

 

「八幡っていう〈冒険者〉が死からの復活を証明したりしなければ、私たちはこんな目に合わなかったのに……」

 

 そのかすかな声は、偶然近くにいたイサミの耳にだけ届き、そしてそれ以外の誰にも届くことはなく消えていった。

 

 八幡が死からの復活を証明したことは、アキバに多くの良い影響を与えていた。今まで出ることの出来なかった街の外に繰り出して、訓練をしたり狩りをしたり。この世界に順応する〈冒険者〉を、すこしずつ増やしている。

 しかしその一方で、死からの復活が証明は、一部のプレイヤーに与えてしまったのだ。やはりこの世界はゲームなんだ、生き返るのなら殺してもいいんだという、おぞましい免罪符を。

 

(副長は、今どうしてるのかな……)

 

 そのことに責任を感じているであろう少年のことを思い、イサミの心は再び沈んでいくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 拝啓小町様。

 

「おい材木座。お前ちょっとあいつら引きずり回(カイティング)してこい」

 

「残念ながら八幡、それは出来ん!そんなことをすれば、我が死んでしまうからな!!」

 

 俺と材木座とレイネシア姫は現在 

 

「大丈夫大丈夫。死んでも生き返るから。……死ぬほど痛いけど」

 

「痛いのはいやじゃーー!!」

 

「お二人とも!くだらない口論をしている暇があるなら、もっと早く走ってください!!」

 

「お前も暴れんなって!うっかり落としちゃうだろうが!!」

 

 魔物の大群に追いかけられています。

 

「「「いやぁっ――――!死ぬっ――――!!」」」

 

……モンスターの生息域をいじりやがった奴が独身男性だったら、とりあえず平塚先生でも送り付けておいてください。敬具




というわけで、PK集団と初遭遇な第三十二話でした。そしてラストは暗い感じで終わらせたくなかったので、次回以降の予告的なものを放り込んでみました。

さてようやく俺ガイル11巻が発売されたわけですが、それに合わせてアニメ二期のBDも発売されておりまして、僕も特典小説にホイホイされて買ってしまいましたwとりあえずこの特典小説1巻、折本好きは必見だとだけお伝えしておきましょう。……ステマ?いいえダイレクトマーケティングです!

では次回以降について。執筆時間の減少と執筆速度の低下により、最近の投稿が少し遅れ気味となっております。目標としては7月2日なのですが、今のペースだと最悪7月4日ごろにずれこむかもしれません。可能な限り急ぐつもりですので、お待ちいただけますと幸いです。

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