今回のように過去のお話がメインになっている回は、サブタイトルに(やはり俺が〈西風の旅団〉の副長なのは間違っている その○)という文言が入っております。
「八幡、〈放蕩者の茶会〉が解散することになりました……」
ようやくログインしてきた八幡に、ソウジロウは先程シロエから聞かされた話を告げる。
「ああ、俺も昨日シロエさんから聞いたよ」
それに答える八幡の声も、普段に比べるとどこか沈んでいるように聞こえた。
「ボクはもっとみんなと色々冒険をしたかったのに……」
ソウジロウは25人いる茶会のメンバーの中でも、入ってからの日が浅いメンバーであった。それでも、茶会の仲間達との日々は楽しかった。
猪突猛進なムードメーカ兼リーダーのカナミ、自分の面倒をよく見てくれたシロエやカズ彦、落ち着いた立ち居振る舞いで皆を見守るにゃん太、やたらと話しかけてくるナズナ・沙姫・詠の三人、そして自分と一番歳が近い捻くれ者の八幡。
みんなで行った様々な冒険は、ソウジロウにとっては何事にも代えがたい、最高の時間だったのだ。
「俺だって楽しくなかったとは言わないし、残念な気持ちがないわけでもない。だがな、その感情は茶会の『みんな』がいたから生まれた感情だ。『みんな』じゃなくなったのに続けても、それは『本物』じゃないだろ?」
八幡の言葉を聞いたソウジロウは、もしかすると目の前の友人は、自分以上に茶会の解散を残念に思っているのかもしれないと感じた。それほどに八幡らしくなく、そして八幡らしい言葉だったからだ。
「……そうですね。確かにみんながいたから楽しかったんですよね。なのにメンバーが減ったからって人を入れたり、残ったメンバーだけで何かをやるっていうのは間違っているのかもしれないですね」
ソウジロウの言葉にいつもの調子が戻ってくる。元々前向きで明るい、茶会のムードメーカーの一人でもある少年なのだ。
「決めました!」
キッと八幡を見据えて、ソウジロウは語り始める。
「八幡、ボクは自分のギルドを立ち上げます!!」
「茶会のように、みんながみんなを思いやって明るく楽しく過ごせる、そんな最高で最強のギルドを目指します!!」
そんなソウジロウの宣言を聞いた八幡は
「……そうか。頑張れよ」
立ち直った様子のソウジロウに、エールを送る。
「だから、八幡。ボクが作るギルドの最初のメンバーになってください」
「はぁっ!?」
自分の言葉に対して驚いている様子の八幡に、ソウジロウは畳み掛けるように話を続ける。
「ボクはご存知のように前衛バカです。シロエ先輩や八幡の様に色々考えたりすることが出来ません。そんなボクでは解決できない問題が立ち上がった時、きっと八幡の力が必要になります。それに……」
一旦言葉を区切ったソウジロウは、八幡の腐った目を見つめる。
「ボクが八幡と一緒にやりたいんです!お願いします!!」
未だ困惑した様子の八幡に、ソウジロウは深々と頭を下げる。ソウジロウが頭を下げたくらいで、この友人がその孤独体質を捨ててくれるかは分からない。ただ、ソウジロウが想像する最高のギルドには、絶対に八幡の存在が必要なのだ。
「…………」
「……………………」
「……………………はあっ、分かったよ。お前がギルドを立ち上げるのに協力してやる。だからさっさと頭を上げろ」
いかにも渋々といった様子で同意を告げる八幡に、ソウジロウは頭を上げて目を輝かせる。
「ありがとうございます、八ま「ただしいくつか条件がある」
「……なんでしょうか?」
お礼を言おうとしたところを遮られたソウジロウは、八幡の言葉に問い返す。
「まず一つ。俺が辞めたいと思った時には好きに辞めさせてくれる事」
「それは当然です。八幡が嫌なのに引き止めるような真似は絶対にしません」
八幡が出した最初の条件に、ソウジロウは即答する。嫌がるメンバーを無理やり引き止める、それは〈放蕩者の茶会〉の流儀でもなければ、ソウジロウの目指す最高のギルドの流儀でもない。
ソウジロウが頷くのを確認した八幡は、さらに話を続ける。
「そしてもう一つ、ギルドの運営なんかは俺が手伝ってやるし、メンバーの訓練なんかには協力してやる。だが、何か有った時に先頭に立つのはお前の仕事だ。お前がギルドマスターとして、メンバーを鼓舞して、守ってやれ。……例え誰が敵であったとしてもな」
「…………分かりました。どんなことがあっても誰が敵があっても、ギルドのメンバーの事は見捨てません。必ず守ってみせます!この刀に誓って!」
ソウジロウは誓った。この刀に賭けて、そして八幡との友情に賭けて。
「……ああ、分かったよ。よろしくな、ギルドマスター?」
「ええ、こちらこそよろしくお願いします。サブギルドマスター?」
「えっ!?それとこれとは話が違うくね?俺、そんな面倒な立場嫌なんだけど。……おい、ちょっと待て!お前本当に俺にサブマスやらせる気か?俺がぼっちでコミュ障なの知ってんだろ?おい、ちょっと何優しげな微笑みなんぞ浮かべちゃってんの?いや、引き受けないからな!いいか、絶対だぞ!!」
何か喚き始める八幡を尻目に、ソウジロウは微笑む。自分と八幡が居れば、最高のギルドが出来るだろう。〈放蕩者の茶会〉の面々にも負けない最高のメンバーを集め、共に〈大規模戦闘〉を戦いぬく、そんな最高のギルドが。
戦闘系ギルド〈西風の旅団〉。その産声は今、高らかに上がった。それは〈アキバの街〉に、そして〈ヤマトサーバー〉にその名を轟かせる、『最高の』ギルドの結成の瞬間であった。
そして現在。
「この度はボクが不甲斐ないばかりみなさんに怖い思いをさせてしまって」
地面に膝をつき、深々と頭を下げるソウジロウ。
「本当にごめんなさい!!」
見紛うことなき“DOGEZA”である。
「ボクがギルマスとしてもう少し考えてから行動すればよかったのに……」
あの日、八幡に誓ったというのに、自分はこの自体にただ喜ぶだけだった。守るべき、守らなければならないギルドメンバーの気持ちを慮ることなく、現実になった〈エルダー・テイル〉の世界を歓迎していた。ここが、ただ楽しいだけの世界ではなくなった事も考えずに。
「や……やめてよ、局長!」
そんなソウジロウに対して慌てるイサミだったが
「何でお師匠あやまってんの?」
脳天気なカワラは、先程まで自分が守っていた初心者プレイヤーに尋ねていた。まあ、今日初めてログインした彼女たちには分かるわけもないのだが。
「今はまだ、元の世界に戻れるかは分かりません。でも、きっといつか戻れるはずです!……多分」
「いやそれは言わなくていいだろ」
ソウジロウの言葉に思わずツッコミを入れるナズナ。ゲームだった頃の“いつもの”光景に、イサミはようやく笑顔を浮かべる。そのイサミの表情を見たソウジロウは
(いつになったら元の世界に戻れるのかは分からない。でも、戻れるその時までは、ボクたちはここで生きていかなきゃいけない。だから)
改めて心の中で誓う。
(ボクはその日まで全力で皆を守ろう。皆が笑顔でいられるように。だってここは、ボクと八幡が大好きな)
(〈エルダー・テイル〉の世界なんだから!)
自分の腰に差している刀を見つめ、ソウジロウは笑顔になる。やるべき事は多い。もしかすると自分だけでは対処出来ない事があるかもしれない。でも、自分には最高の仲間達がいる。みんなとだったらきっとどんな事態も乗り越えられるから。
(本当だったらここに八幡がいると、もっと最高だったんだろうけど……。んっ!?)
「きゃっ!?」
カワラが守っていた初心者プレイヤーから聞こえた悲鳴に、ソウジロウは現実に引き戻される。ソウジロウが向けた視線の先に居たのは、ガラの悪そうな金髪の男性〈冒険者〉。そして
「お取り込み中失礼させてもらうよ」
〈ヤマトサーバー〉最大の戦闘系ギルド〈D.D.D〉のメンバー達と、彼らを率いる“狂戦士”クラスティの姿だった。
徐々に文字数が増えてきた第四話。ただ、ここまでは後々改稿するつもりの対象に入っております。なお、この切り方ですが、クラスティさんの出番は一回お休みですw