ログ・ホライズン~マイハマの英雄(ぼっち)~   作:万年床

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ここからは再投稿版最新話となります。

戦闘回!と前回のあとがきで宣っていた訳ですが。うん、僕の筆力だと無理な気がするw

長さも何故か過去最長の7500文字超になっちゃったんですが、その理由はあとがきにて!!

ちなみに誤って削除してしまったのは、この疲れが原因の可能性が濃厚w

また、今回から改行を少し増やしてみたので、多少画面が真っ黒じゃなくなったと思うんですがどうでしょうか?

最後に設定の若干の変更について。原作最新9巻により、〈放蕩者の茶会〉のメンバーの名前と人数が27人で確定したため、6話で記載していた茶会の人数を25人→28人(27人+八幡)に変更させていただきます。設定ミス、誠に申し訳ないです。


第九話 しぶしぶながら、比企谷八幡はお金を稼ぐ。 後編

 翌日、八幡は戦闘経験とお金を同時に稼ぐため、いくつかのクエストを受注して〈マイハマの都〉を離れた。

 

(いや、別に人が多いところから一刻も早く離れようとしてるわけじゃないからね?ほら、時は金なりって偉い人も言ってたし。……前から思ってたけど、この格言おかしくね?金よりもよっぽど時間の方が貴重だと思うんだけど?)

 

 移動時間を無駄にしないよう、八幡は移動中も積極的にモンスターに戦闘を仕掛けていた。

 時に遠間から弓で敵を射倒し、時に間合いを詰めて刀で斬り倒す。昨日の戦闘経験を受け、八幡の戦闘はすでに手慣れた物となりつつあった。

 

(どうにか低レベル帯のモンスター相手なら、楽に戦えるようになってきたな。俺よりでかいのが大量にいるせいで、未だにちょっとビビるけど)

 

 現実世界における比企谷八幡は、慎重な少年であり、同時に大胆な少年でもあった。

 

 あの完璧超人の姉の方こと、雪ノ下陽乃をして"理性の化け物"と言わせしめ、奉仕部の顧問である平塚静にリスクリターンの計算に関しては信用できると揶揄(やゆ)されたこともある。

 普通なら調子に乗るような場面でも冷静に。しかし、リスクがリターンに見合えば時に自分すら平気でBETする。

 

 二人の女性に指摘されたその傾向は、この世界においてはより顕著(けんちょ)であるのかもしれない。

 

 敵の動きを冷静に観察し、間合いを取るべき所では間合いを取り、距離を詰める時は大胆に詰める。一般的な日本人と同じく、戦闘というものには全く無縁であったはずの少年は、急速に世界に順応しつつあった。

 

(う~ん、やっぱり難しいな……。動き自体は勝手に頭に浮かんでくるし、特技を出すのも普通に出来るようになってはきたが、自分が思ってるような戦い方が、なんかこう出来てないんだよな~)

 

 もっとも本人はそんなことには気付いておらず、頭の中で、実際の戦闘でと試行錯誤を繰り返していた。

 その到達目標は、ゲーム時代の自分の動き。

 強さよりも巧さ、力よりも速度、一撃よりも手数。王道ではなく邪道、勇敢ではなく卑怯、正面からではなく(から)め手。

 それが"八幡"という〈暗殺者(アサシン)〉の流儀(スタイル)なのだ。

 

(お、あれがクエストの討伐対象のゴブリンの群れか。ひいふうみい……7匹か。う~ん、レベルが30前後の奴らばっかりとはいえ、ちょっとソロだと面倒かもしれんな。……つうかリアルゴブリン超グロい。肌とか超緑色だし、あいつらピッコロさんの親戚か何かなの?)

 

 しかし、この世界はすでにゲームではない。

 ゲーム時代は有効であった手が使えなくなっている可能性があるし、逆にゲーム時代は有効ではなかった手が使えるようになっている可能性もある。

 

(さって今回はどう攻めてみるか。単なる白兵戦も射撃戦も慣れてきた。だったら次にやってみるべきなのは、セオリー外の動きってところだな……)

 

 八幡は背中に装備していた弓を手元に構え、更に矢筒から矢を数本取り出し、あらためて敵の立ち位置を確認する。そしてその直後

 

「「「「「「「!!!!!!!」」」」」」」

 

 瞬きすらも許されないような一瞬で、八幡の姿はゴブリン集団の中央にあった。

 〈ガストステップ〉。短い距離を瞬間移動に近い高速ダッシュで移動するその特技で、完全に敵の意表を付くことに成功した八幡は、すかさず弓を構える。

 

(……距離は至近、細かく狙いを定める必要もないな)

 

 避けようもないほどの近距離で放たれた〈ラピッドショット〉による弓の連射は、狙い違わず7体のゴブリンへと突き刺さり、クリティカルヒットした2体をポリゴンの光へと変えた。

 

(残り5体!)

 

 戦闘におけるゲーム時との違い。

 視覚的な恐怖や視界の(せば)まりなど、様々な面でプレイヤーに違和感と不自由さを感じさせているソレは、敵であるゴブリン側にも大きな違いを与えているようだ。

 

(いくら不意を突かれたとはいえ、全員が混乱して統率を失っている。ゲーム時代だったら一気に臨戦態勢になって、プレイヤーに襲いかかってきていたはずだ)

 

 さらに攻撃を喰らった際の、明らかな(ひる)みが感じられる点。

 言うならば、プレイヤーにしろモンスターにしろ、総じて臆病になっているのだ。

 

(混乱から立ち直らせる前にもう1体仕留める!)

 

 矢筒から矢を補充した八幡は、敵が仰け反り(ノックバック)を起こしている間にさらに1体を射倒したが、次の瞬間には大きく横にステップしていた。

 

(あぶねぇっ!もう回復してきやがったのか……。が、(かわ)してしまえばむしろ隙でしかないな)

 

 最前まで自分がいた空間に振り下ろされた斧に、八幡は肝を冷やす。しかし一瞬で頭を切り替えると、地面にめり込んだ斧を抜こうと必死になっているゴブリンの背後に回りこみ、〈ステルスブレイド〉を発動。

 敵の背後を取ることで威力が大きく増すその一撃は、4体目のゴブリンを光の粒子へと変換した。

 

(残りは3体!……ちっ!)

 

 直後に振り下ろされた3つの武器を、八幡は後ろに大きく飛び退ることで回避。着地と同時に再度後方へと跳躍し、ゴブリンたちと間合いを取る。

 

(……残りは10秒か。それなら!)

 

 メニュー画面を確認した八幡は、特技を使用せずただ単に矢を放った。

 敵を倒すのが目的ではない、単なる牽制射撃。あるいは時間稼ぎ。

 こちらに向かって飛びかかろうとしていたゴブリンの足元に突き刺さった3本の矢は、その目的を違わず相手の動きを止める効果を発揮し、八幡に決定的な時間を与えてくれた。

 

(戦闘終了っと。……ふむ、ソロプレイで弓での接近戦なんてのは〈エルダー・テイル〉時代なら愚策も愚策だったが、こっちでならそれなりに有効なのかもしれんな。まあ、敵が自分よりも弱い時限定だろうが)

 

 再使用規制時間(リキャストタイム)の明けた〈ラピッドショット〉で残りの敵を一掃し、八幡は弓を背中へと収める。

 

 プレイヤーとモンスター、双方がゲームとは違う動きになっているのであれば、これまでの最適解がこれからの最適解であるとは限らない。

 これまで出来ていたことが出来なくなっているかもしれないし、逆にこれまで出来なかったことが出来るようになっているかもしれない。しばらくは〈冒険者〉たちの間で試行錯誤が続くことだろう。

 

(いや~、それにしても魔物(モンスター)相手だったら普通に正面から向き合えるんだけどな~。もしかして俺、こいつらとだったら友達になれるんじゃね?ほら、殴り合ったら友情が深まった!!ってのは漫画の中じゃ定番だし、ゲームの中でもそうな可能性が無きにしも……いや、やっぱないな。友達の顔を見たら殺そうとしてくるなんて、それどう考えても友達じゃないし)

 

 残念なことを考えながらも、八幡はその後もゴブリンの集団を倒し続け、気付いた時には受注したクエストを全て消化し終えていた。

 

 

 

 クエストを全て達成した〈マイハマの都〉への帰り道、八幡はその途中にある〈チョウシの町〉へと立ち寄っていた。目的の一つである情報収集を行うためだ。

 〈チョウシの町〉は現実世界でいうところの房総半島のあたりに存在する、〈大地人〉の町である。〈ザントリーフ大河〉の河口に位置し、漁業が主な産業となっている。まあぶっちゃけると千葉の銚子だ。

 規模としてはそれなりの大きさを誇る〈チョウシの町〉だが、自給自足が当たり前となっているからか、商店などの数は〈アキバの街〉や〈マイハマの都〉とは比べるべくもない。町全体で10軒あるかないかというところか。

 つまりそれがどういうことかというと……

 

(これだ、これだよ!俺が探し求めていたのは!人混みが少なくて、喧騒もひどくない。この適度に閑散とした感じ、まさに千葉だわコレ!!)

 

 ぼっちに(比較的)優しい町だということだ。少なくともこの町であれば、八幡が人の多さに酔うこともなければ騒がしさに顔をしかめることもないだろう。

 しかし結局のところ、自分よりも年上に見えたら例えNPCであろうと話しかけられないという、決定的な欠点は解消されていないはずなのだが、八幡には一つ考えがあった。

 

(我に秘策あり!大人に気軽に話しかけられない?だったら子供に話しかければいいじゃない!!……ただ気を付けないと"事案"になっちゃうからね、その点だけは要注意でいかないとアカンね)

 

 ただ問題点が一つ。

 基本的にゲーム時代の容姿そのままなこの世界の〈冒険者〉たちであったが、何故か顔の雰囲気、特に目元が現実世界のそれに近いということだ。

 

(姉さん、事件です。腐った目の〈冒険者〉が、町の子供たちに片っ端から声をかけています。ってなる可能性が微粒子レベルどころか目に見えるレベルで存在するからね。ホント誰だよ、この世界に俺を連れてきた奴。なんでゲーム世界の素敵なお目々を採用してくれなかったんですかねぇ?……なお、ゲームの時も性格は腐っていた模様)

 

 とりあえず方針を固めた八幡は、あたりをキョロキョロと見回しながら町の通りを進む。しかし〈冒険者〉が怖いのか、もしくは八幡が不審なのか、通りを歩くNPCは八幡を大きく避けるように動いていた。……実際のところどうなのかは、調べない方が八幡にとって幸せであるだろう。

 NPCから向けられる視線に若干心を折られながらも、八幡は鋼のような精神力を発し、どこかに子供がいないかと探し続ける。

 

(あれ?俺ってば何か本当にもう不審者じゃね?俺もこんな奴が町中を歩いていたら絶対避けるし。なんならその後通報するまである。……ん?あの子は何だ?)

 

 八幡が見つけたのは、通りから少し離れた場所で今にも泣き出しそうな様子の子供。オロオロとしたその様子に妹である小町を思い出した八幡は、思わずその女の子に声をかけていた。

 

「どうかしたのか?」

 

 急に声をかけられたことに驚いたのか、少女はびくりとすると声の主である八幡に向かって振り向いた。

 

「っ!?……小町?」

 

 近づいたところに向けられたその顔に、八幡は大きく動揺した。雰囲気だけではなく、顔まで小町に似ていたからだ。

 

「……コマチって誰ですか?」

 

 恐る恐る言葉を返してくる少女の様子に、八幡ははっと我に返る。

 

(落ち着け、俺。我が家にあるパソコンは家族共用の物が一台と、俺の部屋の一台、合わせて二台だけだ。そしてリビングにあるパソコンに〈エルダー・テイル〉はインストールされていないし、俺がこの世界に放り込まれた時には、小町は家にいたはずだ。だからこの目の前の子供は小町じゃない。小町はこんな妙な事態には巻き込まれていないはずなんだ)

 

 見知らぬ〈冒険者〉である八幡のことを怖がっているのか、いまだに少女の顔には警戒している様子が伺える。

 

「あ~、すまん。お前の顔が妹に似てたモンだからついな。俺の名前は八幡、〈冒険者〉だ。」

 

 人は相手の名前を知ると少し警戒感が薄れるものである。妹に似ている気安さからか、八幡にしては珍しくスラスラと自己紹介を行う。というかそもそも自己紹介をする機会自体が(まれ)だったのだが。

 

「ハチマンさん……」

 

 たった今聞いた名前を口の中で繰り返す少女の様子に、八幡は表情を緩める。

 

「で、だ。聞いていいのか分からんが、なんでお前は泣いてたんだ?」

 

 八幡は若干警戒を弱めてくれた様子の少女に再度尋ねる。

 

「な、泣いてない!……ちょっと困ってただけだから」

 

 先程まで泣き出しそうだった少女の言葉に、八幡は苦笑を浮かべ、懐に手を入れた後に少女に向かって手を伸ばす。

 

「だったらこれはなんだよ」

 

 少女の目尻に溜まっていた涙を持っていたハンカチ代わりの布で拭った八幡は、少女の顔を見つめながら言葉を重ねる。

 

「こう見えても俺は、リアル|職業〈ジョブ〉はお兄ちゃんなんだ。まあ実際の兄妹じゃあないが、話しくらいなら聞いてやるし、俺で出来ることなら手伝ってやってもいい」

 

 顔に似合わず優しげな八幡の声色に、少女は驚いたように目を見開く。今まで生きてきた数年間、〈冒険者〉にこのような声をかけられたことなどなかったからだ。

 

「……ホントに聞いてくれるの?」

 

 問い返してくる少女に、八幡は首を縦に振ることで返事をする。

 

「あのね、わたしのお父さん、この町で漁師をやってるの。それで毎朝お魚を採って、近くの町まで売りに行ってるんだけど……」

 

 

 

 それは今朝の話だったらしい。

 まず最初に〈マイハマの都〉に魚を届けた少女の父親は、その足で〈アキバの街〉へと向かっていた。〈ヤマト・サーバー〉最大のプレイヤータウンであるアキバは、この近辺ではマイハマに続いて人口の多い街だからだ。

 人が多ければそれだけ需要は大きく、つまり多く魚が売れる。

 少女の父親にとっては、マイハマからアキバというそのルートを回るのは毎日の日課であり、特にいつもと変わらない、日常のワンシーンのはずであった。……あくまでも彼にとっては。

 少女の父親の向かった先、〈アキバの街〉は残念ながら通常の状態ではなかったのだ。

 

 突如現実になった世界に対する絶望や怒り、怨嗟の声に溢れていたアキバは、同時に加速度的な治安の悪化を迎えていた。

 そんなところにやって来た、NPCの漁師の男。悪意の矛先が彼に向いたのは不幸な偶然の産物であったが、一種の必然でもあったのかもしれない。

 幸いなことに、少女の父親は命を奪われることはなかった。しかし彼に襲いかかった〈冒険者〉のパーティーは、積み荷であった魚を全て奪い、抵抗した少女の父親に大怪我を負わせていた。

 命からがら逃げてきた少女の父親は、今は少女の自宅で大怪我の痛みにうなされながら眠っているとのことだ。

 少女はそんな父親のために薬を買いに来て、店員から聞いた値段の高さに驚いて店を飛び出して来ていたのだ。

 

 

 

 

 少女から話を聞き終えた八幡は無表情だった。

 何も感じなかったわけではない。むしろその逆。怒りや憤り、心の中ではこの二つの感情が渦巻いていた。表情に出さなかったのは、ただ目の前の少女を怖がらせないようにと、理性が働いた結果でしかない。

 

「……悪かったな。こんなツラい話をさせちまって」

 

 渦巻く感情を抑え、八幡は少女に対して謝罪する。

 話していて、決して快いものではなかっただろう。何せ聞いていただけの八幡ですら、ただただ不快だったのだから。

 

「……大丈夫」

 

 そう言って首を横に振る少女の目には、再び涙が浮かんでいた。

 それを見た八幡は、自分の持つ〈ダザネッグの魔法鞄(マジック・バック)〉に手を入れると、一つの瓶を取り出した。

 

「……良ければコイツをお前の親父に飲ませてやってくれ。おそらく怪我はすぐに治るはずだ」

 

 八幡が少女に手渡したのは〈アクア・ヴィテ〉。サブ職業が〈調剤師〉であるものにしか作製できない、高レベル〈製作級〉(クリエイトアイテム)の回復薬である。

 

「こ、こんな高価なもの、もらえないよ」

 

 驚いた様子の少女は八幡に対してそのまま瓶を押し戻そうとするが、八幡は半ば無理矢理に少女に押し返す。

 

「別に構わん。まだ魔法鞄(マジック・バック)の中には何十本も残ってるからな。……まさかソロプレイヤー(ぼっち)なことが、こんなところで役に立つとは思わんかったが」

 

 少女はさらに(しばら)くの間葛藤していたようだが、八幡の真剣な目を見てようやく諦める。

 

「……ありがとう」

 

 泣きそうなか細い声でお礼を言う少女の姿に、八幡は思わず笑顔を浮かべて、少女の頭に手を伸ばした。

 

「よしっ!」

 

 小町にやっていたように少女の頭をなでる八幡だったが、この時心の中ではある決意を固めていた。

 

「さあ、とりあえずさっさとお前の親父に飲ませてこいよ。元気な姿、見たいだろ?」

 

 少し気持ちよさそうに頭を撫でられていた少女は、八幡の言葉に(うなず)くと、若干名残惜しそうにしながらも踵を返した。

 しかし数歩も行かない内に八幡の方へと振り向き、叫んだ。

 

「ベル!!」

 

「はっ!?」

 

 意味の分からない単語に、八幡はこちらも大声で聞き返す。

 

「わたしの名前!お前じゃなくてベルって呼んで!!」

 

 どうやら最初にした自己紹介に対する返事をしていなかったことを、今更ながらに思い出したらしい。

 

「お、おう。分かった!じゃあな、ベル!!」

 

 そんな少女に、八幡は笑顔で言葉を返す。

 

「ありがとう、八幡!またね!!」

 

 笑顔で別れの挨拶を告げて走り去っていくベルの背中が見えなくなるまで、八幡は手を振り続けていた。

 

(俺はついさっきまで、この世界にいる〈大地人〉のことを単なるNPCだと思っていた。だが、もしかするとそれは間違っていたのかもしれん。あの少女、ベルは確かに〈大地人〉だったが、父親のことを思って流す涙、そして最後のあの笑顔。あれは紛れもない"本物"だった)

 

 八幡はあらためて先程の決意を固める。

 

(どこのバカがやったのかは知らんが、ベルの涙の責任はきっちり取らせてやる。正義の味方なんぞを気取るつもりはないが、人に危害を加えてのうのうと過ごしている奴をそのまま見逃してやるほど、俺は人間が出来てないからな)

 

 もちろん現実世界ではそんなことは出来なかった。下手なことをすれば国家権力であるところの警察に捕まってしまうし、それ以前に八幡自身にそんなことを実行できるだけの力がなかった。

 しかし今は違う。

 

(現実となったこの〈エルダー・テイル〉、いや、ベルたち〈大地人〉にとっては元々この世界が現実か。この世界でなら、俺はベテランプレイヤーだ。おイタをする跳ねっ返り共にはお仕置きをしてやらないとな……)

 

 この感情すらも、現実世界の八幡には浮かんでくることはなかったかもしれない。

 だが、八幡は自分のこの感情を肯定する。この世界はゲームとは違うかもしれないが、自分の大好きだった〈エルダー・テイル〉によく似た世界だ。

 そこで起こる"格好悪い"出来事を見逃すのは、〈放蕩者の茶会〉(デボーチェリ・ティー パーティー)のメンバーとしても〈西風の旅団〉の元サブギルドマスターとしてもありえない。

 カナミに知られれば頬を張られるかもしれないし、シロエにバレればあの三白眼で睨まれるかもしれない。ソウジロウに知られれば悲しい顔をされるだろうし、ナズナに知られればやっぱり頬を張られるかもしれない。

 

(とりあえずはアキバの辺りまで戻ってからか。マイハマからアキバまでの道のりっていうとルートは限られる。(くだん)の連中、もしかすると今日ベルの親父を襲った辺りにまだいるかもしれん。となると……)

 

 八幡は再び〈ダザネッグの魔法鞄(マジック・バック)〉に手を入れると、一つの笛を取り出した。

 〈鷲獅子(グリフォン)の笛〉。数ある茶会の生んだ伝説、そんな一つである戦いにより入手した〈翼持つ者たちの王〉(シームルグ)からの友情の証。空を飛べる幻獣・グリフォンを召喚し、乗り物と出来るこの笛は、多くのプレイヤーの憧れである。

 空高く響いたその音色に呼ばれてきたグリフォンに(またが)ると、八幡はグリフォンの首筋を軽く叩いた。

 

 一瞬の浮遊感、次の瞬間には強烈な空気の壁。風を突き破りながら空を進み、八幡を乗せたグリフォンはさらに速度を上げる。

 目指すは〈アキバの街〉。〈ヤマト・サーバー〉最大のプレイヤータウン。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……その地で訪れる自らの運命を、八幡はまだ知る由もなかった。




まず初めに謝らせていただきますが、この第九話を書き始めるまでの僕の頭の中にはベルという〈大地人〉少女の存在はなかったし、なんならオリキャラを登場させるつもりがなかったまである。

筆が勝手に動く。そんなホラーな初体験でしたw

しかし出来自体は(前半の戦闘シーンを除けば)悪くなかった感触。ただ、八幡は何企谷何幡状態な気がしないでもないし、加えてオリキャラ嫌いな方には本当に申し訳ないです。ちなみにベルと言う名前の由来は、まんま小町(美人)の英訳ですw

さてここからは次話以降の予定について。
第十話~第十二話までの三話は、どうもイサミ視点となりそうです。第十話は過去編、第十一話は日常話、第十二話はコミック版西風の旅団一巻の最後、あのエピソードへと入っていく予定です。
ここにはかなり話数を多めにかける予定なので、おそらくイサミ→ソウジロウ→ナズナ→八幡って感じになるかと思われます。
この作品にとっての最初の大きな山場となりますので、乞うご期待!?

しかし今までお気に入り登録していただいていた方と、評価をいただいていた方には本当に申し訳ありませんでした。今後はこのようなミスがないように気を付けていきます。

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