どうしてこうなった?   作:とんぱ
<< 前の話 次の話 >>

35 / 86
第三十三話

 待ちに待った時が来たのだ。

 多くの修行法が無駄では無かったことの証の為に! 更なる弟子育成の理想を掲げる為に! 魔改造成就の為に!

 風間流本部道場よ! 私は帰って来たっ!!

 

 

 

 …………馬鹿なことを考えるのは止めにしよう。何故かこのフレーズの後に本部道場が粉微塵になるイメージが湧いてしまったし。

 

 それは置いといてだ。ふむ、感慨深いな。流石に14年近くも離れていると郷愁の想いが出てくるものだ。何せ132年というかつての長き人生の中、3分の1近くをここで過ごしているのだから当然とも言えるが。

 

 あまり変わっていないなぁ。私が居た時と同じジャポン風に建築された道場だ。

 でも建築から60年以上も経っているから多少は古びているし、よく見れば門の一部には新しい木材で補修した跡もある。変わっていないようで、それでもやっぱり多少の変化はあるんだな。

 少しそれが寂しいと思う私がいた。

 

「へぇ。ここが風間流の本部か。結構大きいのな」

「うん、すごい立派な門だね。それに奥に見える道場も大きいし」

「何でも1千人もの門下生がここに一同に揃って修行しているようだ。道場内の敷地も相当な面積になるだろう」

「千! すごいんだねー!」

 

 むふふ。何だか自分が褒められたように嬉しいな。

 もっと褒めてくれ。何だか身体がフルフルと震えそうだ。

 

「現在では世界各国に散らばる支部を合わせて10万を超える門下生がいるらしい。武術界で風間流の名を知らぬ者はいないとまで言われているな」

「ふーん。それだけいれば結構念能力者もいそうだな」

 

 私の時には10万もの門下生はいなかったな。確か6万とんで300人くらいだったか。リィーナや他の弟子たちが尽力してさらに増やしたんだろう。嬉しいことだ。

 

「支部長クラスは大抵が念能力者よ。当たり前だけど、それなりの実力がない奴に務められるモンじゃないしね」

「当然ですがこの道場にも念能力者はいるはずですよ。師範や師範代、それ以外にも風間流の門派でハンター試験に合格した人には必ず念能力を修めさせるようにしていますしね」

 

 あれから時が大分経つのでどれほどの念能力者がいるかは分からないが、少なくとも居ないということはないはずだ。

 

「そんじゃさっさと入ろうぜ。ここで修行するんだろ?」

「ええ。出来るだけ実戦形式で組手を行います。生死を分ける戦いではないのでそこまでの成果は望めませんが、それでも経験にはなるでしょう」

 

 実戦形式ではなく、緊張感溢れる実戦の方が身につくモノも多いだろうが、そこまで望むのは難しいだろう。訓練と頭で分かっていればどうしても緊張感は薄れてしまうだろうし。

 出来れば皆に念能力者との実戦を一度は経験してもらいたいけど、なにかいい方法はないものかな?

 

「組手か。皆アイシャみたいに強いのかな?」

「安心しなさいゴン。もしもそうだったら今頃この世の武術は淘汰されて風間流のみになっているわよ」

「どんだけですか私は」

 

 最近ビスケの私に対する扱いがひどい気がする。遺憾の意を示す所存である。

 

「ふむ。この門は一般の者でも自由に通っていいのだな」

「ええ。受付は門から入ってすぐ右手側にあります。入門の意思を持つ人は当然、見学希望者もきちんと受付で申し込めば道場内に上がることは許されています。もちろん冷やかしやマナーの悪い方には即退場してもらっていますが」

「詳しいんだなアイシャ。来たことあんのか?」

「……ええ、まあ。かなり昔のことですけどね」

 

 いけないな。ついつい色々と説明してしまった。だが、私が風間流を身に付けているのは皆が知っていることだし、まあ大丈夫だろう。

 

「では参りましょうか」

『おー!!』

「元気ねぇ。若いっていいわ~」

 

 その見た目に合わない年寄りくさいセリフは止めた方がいいと思うよビスケ。

 

 

 

「ようこそ風間流本部道場へ。本日はどのような――と、これはクルーガー様! ようこそいらっしゃいました! 本日は予定された日ではございませんが、どのようなご用件でしょうか?」

「ちょっとね~。リィーナいる?」

「はい。ですが本日は大切なお客様がお見えになられるようなので、お会いになられるかは少々伺ってみなければ……」

「ああ、いいのいいの。この子がそのお客様だから」

 

 どうもビスケは受付の人にも覚えられているようだ。何度もここに来ているのだろう。恐らく私(リュウショウ)が存命していた時よりも多く来訪しているのではないだろうか?

 リィーナとビスケの仲が良くなったのは本当に嬉しい。きっかけが私(リュウショウ)の死というのが何とも言えないけど……。

 

「こちらの方が? 大変失礼ですがお名前は?」

「アイシャと言います」

「アイシャ様。大変失礼いたしました。本部長より丁重にお迎えするよう仰せつかっております。只今本部長に連絡致しますので、こちらの客室にて少々お待ち頂けますでしょうか」

「はい」

 

 えっと、確かに今日到着するとリィーナには連絡していたけど、リィーナは私のことをどう伝えていたんだ?

 ……いや、まあ分かりきったことか。最重要人物とか何とか言って粗相のないようにとか言ったんだろうな。

 

 

 

「うわー。この部屋すごいね。これもジャポンの建築なの?」

「ああ。和室というらしい。部屋いっぱいに拡がる草の香りといい、紙のドアといい、独特のモノを感じるな。ジャポンではこれをワビサビというらしいぞ」

 

 侘び寂びね。ジャポンの美意識の1つだが、やっぱり世界は違えど生まれた故郷に似たこの空気は落ち着くモノを感じる。

 

「うっわ庭もあるぞ。それもかなりデカイな。さっきからカッコンカッコンとなっているのは何なんだ?」

「ふむ……。もしやこれがあのシシオドシか?」

「知っているのかクラピカ!」

「うむ。かつて文献で読んだことがある。シシオドシとは……。かつて獅子に出くわした商人がたまたま持っていた楽器を苦し紛れに鳴らしたところ獅子が商人の前から退散し、商人は九死に一生を得たそうだ。

 以来その音は魔除けや厄除けを秘めていると伝えられ、その時の音を模したモノがこのシシオドシから鳴る音だと言われている。もちろんシシオドシという名もこの逸話から付けられている」

 

 何だそのデタラメな文献は。獅子ではなく鹿(シシ)だ。元々は鳥獣威嚇の為のものだよ。……ん? あながち完全に間違っているとも言えないのか?

 多分勘違いとか伝え聞いたモノがどんどんと変化して最終的にそうなったんだろう。

 

「へ~。それはあたしも知らなかったわさ」

「さすがクラピカ。物知りだね」

 

 あれ? なんか間違いを指摘しにくい状況になってるんだけど? 今さら違いますよ、と言うのもなんだな。…………黙っとこっと。

 

「しっかしめっちゃVIP待遇だな。どうなってんだ?」

「うむ……。どうやらリィーナ殿……風間流の現本部長だが、その方はアイシャをかなり敬っている様子でな」

「なんでそんな凄い人がアイシャを敬っているの?」

「それは……分からん」

 

 だから言ったのにリィーナのおバカ! 私に対して敬意を払い過ぎだよ。皆の私を見つめる視線が痛い。何を考えているかオーラを見るまでもないよ。ビスケは……あ、知らんぷりしてる。ちくしょう。

 

 お、リィーナの気配が強くなってきた。走ってはいないようだけど、結構な速度で歩いているな。競歩でもしているのかと言いたくなる速度だ。

 既に部屋の前まで来ている。入室の声と共にリィーナが部屋に入って来た。

 

「失礼いたします。大変お待たせいたしました。アイシャさん、ようこそいらっしゃいました。

 そして皆様。本日は風間流合気柔術本部道場へようこそ。私が本部長を務めるリィーナ=ロックベルトと申します」

 

 おお、良かった! 私のことを先生と呼ばないかどうか少し心配してたんだよね。杞憂ですんだようで何よりだ。この子も日々成長しているんだなぁ。この調子で多少は師離れしてくれるといいんだけど。

 

「9月までの短い間ですが、よろしくお願いしますね」

「9月までなどと言わずにずっと居て下さってもよろしいのですが……」

「いえ、9月からはまた別の用事がありますからそうはいかないのです。気持ちだけ受け取っておきますね」

「左様ですか……。それで、彼らが修行に来た者たちですね?」

「ええ。左からキルア、ゴン、そしてクラピカです。クラピカとは以前会った事がありましたね」

「はい。キルアさん、ゴンさん、よろしくお願いいたします。

 そしてクラピカさん、でしたか。アイシャさんの裸体を覗き見たチカンヤローのことはよく覚えておりますよ」

「ああ、そう言えばあったわねそんなことも」

 

 ビスケの言葉が終わる前に脱兎の如く逃げ出そうとするクラピカ。だがその行動はキルアによって防がれていた!

 

 クラピカの動きはあの一瞬でよくぞここまでの反応を、と感心するほどのモノだ。だがクラピカの反応を上回るキルアの超反応! それはまさに電光石火とも言わんばかりだった。実際リィーナもビスケもあまりの反応の速さに驚愕を隠せていない。

 私の気のせいでなければキルアの身体から一瞬電気が走ったような気がしたんだけど?

 

「どこへ行こうというのかね」

「は、離せキルア! これは誤解だ! 離せば分かる!」

「話せば分かる……の間違いだろ? ぜってー離さねーよ」

「罠だ! これは罠だ! リィーナ殿が私を陥れる為に仕組んだ罠だ!」

「詳しい話を聞いてから判断させてもらうぜ。場合によってはレオリオにも話す」

「そ、それだけは止めてくれ! 奴に知られてしまったらもはや私の尊厳は御終いだ!」

 

 レオリオさんに対する皆の意識を小一時間問い詰めたい。

 

「ねえアイシャ。本当にクラピカがアイシャの裸を覗いたの?」

「まあ、不可抗力ですよ? 情状酌量の余地は大いにありますし、そもそも私は気にしてません。もう終わったことなんですが」

 

 リィーナを見ると計画通り、といった表情が見え見えだった。嘘は言ってないが、クラピカを陥れる為に言ったことは確かのようだ。やれやれ。

 

「キルア。クラピカは私の裸を覗き見てなどいませんよ」

「ほっ。アイシャ、すまないが説明してやってくれ」

 

 取り敢えずキルアのクラピカへの誤解を解くために説得しようと思ったが、ここでリィーナがトドメに入ってしまった。

 

「そうでしたね。入室の許可はおろかノックすらせずにうら若き乙女の部屋へ強引に入室し、更衣中の為に全裸であったアイシャさんを数秒間凝視しただけでした。

 更衣中と知っていたわけではないのでわざとではなく、確かに不可抗力と言えるでしょう。痴漢呼ばわりをして申し訳ありませんでしたクラピカさん。素直に謝罪いたします」

「ギルティ」

「違う! いや違わないが、今のは故意に脚色して伝えられている!」

「ダメだよクラピカ。女の子の部屋に勝手に入っちゃ」

「ゴン!? ゴンにまで言われてしまった……。もはや私に味方はいないのか?」

 

 なにこのカオス?

 キルアとゴン、そしてリィーナによって完全に物理的にも精神的にも逃げ道を防がれてしまったクラピカ。もはや絶体絶命か。

 

 だがそこに救世主が現れた。

 

「もうそれくらいにしときなさいリィーナ。クラピカは本当に故意にしたわけじゃないんだから。アイシャの部屋に入ったのもアイシャを心配してのことでしょ。少しの行き違いがあっただけよ。見られたアイシャ本人が許しているのにこれ以上追求する必要はないわよ」

「……そうですね。分かりました、正式に謝罪をさせていただきますクラピカさん。徒らに貴方の名誉を貶すような物言いをしてしまい真に申し訳ありませんでした」

「あ、ああ。分かってくれればいいんだ。私もノックをせずに入室したのが悪かったのだから。アイシャにも、リィーナ殿にも改めて謝罪しよう。本当にすまなかった」

「私はもういいと言っていますのに」

「私の気がすまないんだ。そしてビスケ、私を庇ってくれたこと感謝する。ありがとう」

「いいのよこれくらい。気にしないでね」

 

 

 

 

 

 

 気にしないでね、ですか。ビスケもよくそのような言葉が吐けるものですね。

 私には分かります。これこそが真の罠だと。ビスケは『痴漢男』の四面楚歌の状況を利用したのでしょう。

 『弟子擬き』が周りから追求されている状況下になるまで何も口を挟まず、それどころか事の発端である私の言葉を補足までする始末。そうして『師匠泥棒』が追い詰められた所で救いの手を差し伸べるわけです。

 これで『下衆』のビスケに対する好感度は上昇するという寸法でしょう。流石はビスケ。抜け目無いことです。

 

 私としてもビスケが『カマ男』と恋仲になるのは好都合です。そうすれば先生は晴れて自由の身となり、私との蜜月の様な修行の日々が再び始まることとなるでしょう。

 もしビスケと上手く恋仲になるのなら今までとは違い色眼鏡なしで見てあげるとしましょう。

 聞くところによるとかなりの優良物件の様子。先生にさえ手を出さないのであれば特に言うことはありません。

 ですのでビスケの手助けをするのも吝かではありません。ビスケが『産業廃棄物』に救いの手を差し伸べた時にビスケのアイコンタクトに乗って話を合わせたように。

 

 ですが…………。今後も先生にまとわりつくというのであれば話は別です。

 今回の修行の話はある意味好機と言えるでしょう。この期に『竈馬』の考えが変わるよう行動するとしましょう。

 

 手始めに修行と称して徹底的に扱いてあげましょう。

 ふふふ。どこまで耐えられるか愉しみですね。3日保てば褒めて差し上げますよ。

 

「さて、こうして話をしているのも何でしょう。皆様は修行に来られたのですから」

「そうですね。では、案内してもらえますか」

「はい。こちらへどうぞ」

 

 ああ、こうして先生と言葉を交わしながら再びこの道場を行き交うことが出来るなんて! まさに夢のよう! 支部巡りを早めて帰ってきたのは間違いではなかったようです。

 

「アイシャさん、お身体の調子はいかがでしょうか?」

「ええ、特に問題ありませんよ」

「そうですか。何かあればすぐに仰ってくださいね」

 

 もう二度と、私に何も言わずに去ってしまうのはご勘弁願いたいのです。先生が死んでしまうくらいなら私が先生より先に死にます。死んで死者の念を生み出してでも先生を守ります。

 

「アイシャさん、お腹はすいていませんか?」

「いえ、お昼はもう食べましたから」

「そうですか。では夕餉はこちらで用意しましょう。本日は懐石を予定しています」

 

 先生はジャポン食がお好みでしたから今日は最高級の懐石を用意いたしました。

 新鮮な魚介類、特に生のサシミを好まれていたのでもちろんそれも用意しています。醤油とワサビも忘れずに。私も以前は生の魚など食べることは出来ませんでしたが、先生の好みなので食べだしたところ今では私も好物となりました。

 本当ならばジャポン酒もご用意いたしたいのですが、今の先生は未成年ゆえにそれもやめておいた方がいいでしょう。

 

「アイシャさん、喉は乾きませんか? 上質の茶の葉があるのですが」

「今は結構ですよ」

「分かりました。それでは後ほど時間を作り茶をたてましょう。良い茶菓子もありますのでお口に合うと良いのですが」

 

 茶の作法も同じですね。先生が来られたジャポン由来の文化なのでつい身につけてしまいました。こうして先生に茶をたてる機会が出来たので全く後悔はしておりませんが。

 

「アイシャさん、今日は日差しが強いので日の下に出るのならこちらの日傘をお使いください」

「い、いえ、そこまでしなくても。私の肌はあまり日に焼けない体質のようですし」

「せっかくの大理石の如く美しい白いお肌が荒れてはいけませんので。ああ、庭を散策するのでしたら是非とも私にもお声を掛けていただけますか?」

 

「(なあ、アレは本当にこの道場で一番偉い奴なのか?)」

「(残念ながらそうよ。本当に残念ながらね)」

「(風間流の本部長はとても立派な方と言われているが……)」

「(なんかアイシャのことすっごく気にかけてるね)」

「(違うのよ。こうじゃないのよ普段のこいつは……。アイシャが関わるとダメなのよ……)」

「(シオンといいリィーナさんといい、風間流ってのにはこんなのしかいないのか?)」

「(否定してあげたいけど、トップのこいつがこうなんだから何も言えないわさ)」

 

 先生との至福の会話中に何やら雑音が聞こえますが、まあいいでしょう。先生と共に居られるという至上の喜びの前では例え世界が滅ぶことさえ些細なことです。この程度の雑音くらい大目に見てあげるのが情けというものでしょう。

 

「さて皆様。ここが当道場の鍛練場の1つです。他にも大小併せて複数ございますが、ここが主道場となっております。本部門下生一同がここに集い朝の挨拶から修行の1日が始まります」

 

 一応は案内を兼ねているので他の面々の為にも敷地内の施設を周りながら説明をするとしましょうか。先生は全てご存知ですが、初めて来られる方が殆どのようなので致し方ないでしょう。

 中では門下生たちが稽古に励んでいますね。私がいなくとも弛んでいないようで何よりです。

 

『お疲れ様です! 本部長!』

「お疲れ様です。皆さん私たちに構わず鍛錬に集中してください」

『はい!!』

「へー、やっぱりこんだけいると熱気がすごいな」

「うん。迫力あるね。……なんかオレ達注目されてる?」

「そりゃそうよ。本部長のリィーナが直々に案内するなんて滅多にないことよ。注目を浴びない方がありえないわね」

 

 確かに。鍛錬をしている最中にもこちらをチラチラと注視してくる者もいますし、耳を澄ませば何やら雑音も聞こえますね。

 ふむふむ?

 

――誰だあの人たちは? 何故本部長が直接案内を?

――クルーガー様だ。周りの者たちはクルーガー様のお知り合いか?

――おい稽古に集中しろ。リィーナ様に知られたらどうなるか分かっているのか? お叱りだけではすまんぞ。

――むしろご褒美です。

――勇者がここにいた。オレはビスケたんに叱られたい。怒られるじゃなく叱られたい。

――誰だあの可愛い子。名前知りたいな。入門希望者だといいんだけど。

――おい今ロリコンがいなかったか?

――そんなことよりおうどん食べたい。

――子ども? 入門者か? リィーナ様が直接案内しているから権力者の子どもとか?

――カッコイイ……誰だろあの人。

――イケメンは死ね。

 

 …………何やら意味の分からないことを口走っている者もいますね。

 私たちに構わず鍛錬に集中しなさいと言ってすぐにこの有様。弛んでいないと思っていましたが、どうやら私の勘違いのようでした。少々喝を入れるとしましょうか。

 

「どうやら皆さん少々気が抜けているようですね。その様で乱取りをしても無駄に怪我をするだけで無意味でしょう。今日の残りの時間中は道場の周りを走っていなさい!」

『はい! 申し訳ありませんでした!』

 

 私の言葉に従い全員がランニングへと移動しました。おかげで鍛練場の中は私たち以外誰もいません。鍛錬に励んでいた者たちの方が多かったのですが、今回は連帯責任とさせてもらいましょう。

 

「おい、誰もいなくなったんだけど。オレ達の訓練はどうすんだ? また穴掘りか? それとも練か?」

「ご安心ください。あなた達の修行場はここではありません。この奥にあります」

「奥? ここにいた者たちが組手の相手ではなかったのか」

「当然でしょう。あなた達は念能力者を相手に組手をしたいのでしょう? 念能力者の存在は軽々しく公にしていいものではありません。それは風間流の門下生といえども同じことです。力を有するに値すると判断されない限りその存在は秘匿されています。

 つまり念能力者となった者たちの修行場はこことは違い秘匿された場所にあるのです。それくらい頭を働かせれば容易に想像できるでしょう。愚鈍ですねあなたは」

「そ、それはすまなかった……」

 

 ふ、この程度ですかこの『出歯亀』は。脳を使うことを忘れているんですか?

 

「クラピカにはとことん辛辣ねあんた……。気にしない方がいいわよクラピカ」

「疑問をすぐに他者に聞くのではなく自分で考えて答えを想像することですね。少しはない頭を捻りなさい」

 

 先生に指導されているのはこの『脳なし』だけでなくゴンさんとキルアさんというお2人もそうらしいですが、事の発端はこの『能なし』です。

 この『変態』が先生に弟子入りなどしなければこのようなことにはならなかったでしょうに。

 そもそも男が先生の裸体を見て何ら罰されずに生きているというのが既に問題なのです。

 故に私のこれはこの『変質者』への罰なのです。なんら問題はありません。決して私怨ではないのです。

 

 

 

「さあこちらです」

「この扉の奥に念能力者の修行場があるの?」

「ええ。あなた、ゴンさんと言いましたね。扉を開けてごらんなさい」

「う、うん。よっ……! あ、あれ? 開かないよこれ。ぐ、ぐぐぐ! はあっ! ダメだピクリともしないや」

「実は押すんじゃなかったりしてな」

「でも取っ手も何もないし…………。あ! もしかして」

 

 その言葉と共に纏をして再び扉を押すゴンさん。

 ほう、気付かれましたか。もしかしたら同じようなモノを知っているのかもしれませんね。先生もいることですし、教わった可能性も高いでしょう。

 

「よっと。やった! 開いたよ!」

「なるほど。念能力者にしか開かないようにした扉か。これなら確かに一般の門下生にも秘匿可能か」

「この扉があるこの部屋に入るのにも許可が必要となっています。このことはもちろん他言無用に願います」

 

 他の門下生はここで認められた者だけが奥義を伝授してもらえるのでは、と考えているようです。あながち間違いとは言えませんね。

 もっとも、念法は教えても風間流の最奥までは教えていませんが。

 

 それを教えるのは真に風間流を引き継ぐ資格を有していると断じられる者のみ。

 候補者は何人かいますが、その最たる者であるシオンも未だその域に達してはいません。シオン以上の腕前の持ち主も幾人かいますが、才能という一点でシオンに劣りますしね。

 あの子は切っ掛けがあったらもっと化けると思うのですが……。ウイングさんに発破を掛けてもらいましょうか?

 

「それでは参りましょう」

 

 ここから先が貴方の地獄ですよ『屑野郎』さん。ふふふふふ。

 

 

 

 

 

 

「せあ! しっ、ふ!」

「く、ちぃ! まだ、甘い!!」

 

 打突による体勢崩し、そこから体捌きを変えての柔を仕掛けてくるケンミ。打突にはしっかりとオーラを乗せており、容易に受ければこちらも無事ではすまない。

 何せこいつは強化系だ、オレよりも念能力歴は3年も短いが、特質系のオレよりも攻防力に対する比率は段違いに高いからそれなりの対応をしなきゃならねぇ。

 その対応を読んでの柔。なるほど、中々に念と合気柔術を組み合わせて攻撃してきやがる。だがまだまだ詰めが甘いな。柔に移る際にオーラと肉体に齟齬が生まれているぜ。

 

 その隙を突いて逆にオレが柔を仕掛ける。宙に舞い地に叩きつけられたケンミの顔面にたっぷりとオーラを乗せた踵を叩きつける。もちろん寸止めだがな。こんな所で殺人なんてする気は毛頭ねーよ。

 

「ま、参りました!」

「おう。まあなんだ。お前さんも大分一端になってきたぜ。だがまだまだだな。柔に移る時のオーラの動きをもっとスムーズにしないといけねーぜ。あれじゃ体幹が崩れて柔のタイミングがバラバラになっちまう。そこを突かれるとああいう風に簡単に返される。

 柔の動きに併せてオーラの攻防力移動をするんだ。これは自己鍛錬でゆっくり身体に馴染ませるしかない。頑張れよ、お前さんなら出来るさ」

「はい! ご指導ありがとうございますトンパさん!!」

 

 いいってことよ、と手をヒラヒラとさせながら返す。

 後輩が成長するのは先達であるオレの喜びでもあるからな。

 

「ははは。中々の指導っぷりだな。7年前のお前からは想像出来ないなトンパ」

「おいおい。それを言うなよランド。後輩に示しがつかなくなっちまうだろ」

 

 こうしてオレに軽口を叩いているコイツはランド。オレと同期で風間流に入門し、共に研鑽する仲間でもある。

 オレよりも1年早くにプロハンターになり、念に関しても一歩か二歩は先に行かれているな。

 性格は明るくサバサバしているので憎めない良いやつだ。オレのようなオッサンにもダチの様に接してくれるしな。

 

「ケンミ。次はワシと組手をするぞ。しばらく組手をした後は練をして今日は終わりじゃ。毎日のように言うが、点と纏を怠るなよ」

「はい! 分かりましたルドル師範代! よろしくお願いします!」

 

 ケンミの次の相手はルドル爺か。これまたケンミには荷が重いな。

 なんせルドル爺は本部道場でも3指に入る実力の持ち主だ。当然オレなど相手になるわけがない。

 一番歳食ってるだけのことはあり、後輩達の指導にも余念がない。リィーナ先生も信頼を置いている相手だ。ケンミじゃ勝てっこない……て、当然か。ケンミはこの中じゃ一番の新参だからな。

 

「トンパ、次はアタイと組手だ。休む暇はないぜ!」

「エイダかよ。能力は無しで頼むぜ」

「分かってんよ。そんじゃ行くぜ!」

 

 エイダ。女の癖に男勝りな言動が目立つ奴だ。

 こいつに発を使われるとオレじゃ勝つのは厳しすぎる。オレの能力は戦闘には使えないしなぁ。

 

「おら! 隙有りだ!」

「なろ! まだまだぁ!」

 

 こいつと組手するのはかなりしんどい。エイダは打撃を多く組み合わせて攻撃してくるからな。流石は心源流も習っていただけはあるぜ。おかげでエイダと組手をすると青あざだらけになっちまう。

 

「っし! しゃあ! 1本だろ今の!」

「まだや。トンパは凝で受身を取っとるさかい、1本とは言えんで」

「ち! 判定辛くねーかサイゾー」

「審判やさかいな。そらしっかりと見極めなあかんやろ。1本ちゅうのは相手を仕留めたってことや。あれじゃ無理やな~。油断しとったら反撃もらうで?」

「そういうこった、よ!!」

 

 サイゾーの言葉通りにすかさず反撃を行い寝技に持ち込む。流石はサイゾーだ。良く見てやがるぜ。こっちが投げられるのを分かって凝で受身したのを見過ごしてなかったか。

 しかしその方言はどうなんだ? ジャポン語なら分かるけど共通語だろ? わざわざ方言風に訳して喋らなくてもいいだろうに。

 

 まあいい、そんなことよりエイダとの組手に集中しよう。立ち技じゃ分が悪いが、こうして絞め技に持ち込めたのは僥倖だ。これを外すにはよほどの力量差がいるが、流石にそこまでの差はないからな。

 これでオレの勝ちだ! さっさとギブアップしないと落ちるぜ?

 

「う、ぐ、ぎ……らぁ!」

「ちょっ! 発は禁止って、ぎゃあああ!」

「はぁ、はぁ、ひゅー、み、見たか、アタイの勝ちだ!」

「アホか! 確かに実戦やったらそうやけど、こら模擬戦やで! あない大量の念弾ぶつけるアホがおるか! おいトンパ無事か!?」

「無事なわけあるか! 全身ボロ雑巾のようにされたわ!」

「そんだけ喋れたら大丈夫やな。あ~、でも結構やられとるな。おーいミズハ~。トンパ診たってや~」

「はい! と、トンパさん、だ、大丈夫です、か?」

 

 女神降臨。ミズハがいなかったらオレは1000回は死んでるね。

 

「ああ、こんなに傷ついて……。いま癒しますね」

「頼む。……あー、生き返る~」

 

 ミズハは強化系だがその能力を癒しの力にしている。この世界では珍しい回復系の能力者だ。大体念能力者ときたら自分を強くする為の能力を作ったりするもんだがな。

 ミズハは生来の優しさからか他人を癒す能力を作り出した。おかげでここでの怪我人は大いに減ったってわけだ。ミズハ様々である。

 

「もう! ダメですよエイダさん! トンパさんが死んでしまうところでしたよ!」

「い、いや悪かったって。でもこいつこの程度じゃ死なねぇだろ? リィーナ先生のシゴキに耐え抜いてきたんだぜ?」

「だからと言ってやって良いことと悪いことがあります! エイダさんは今日のおかずは一品抜きです!」

「そんな! ごめんってミズハ! それだけは勘弁してくれ!」

「謝るなら私ではなくてトンパさんにですよ!」

 

 ミズハはそのオーラを変化させて特殊な調味料を作り出し、それを食事に混ぜることで食材の効果を強化する能力も持っている。料理の腕も相当なもので、この場にいる全員の胃を掴んでいる。回復の能力といいもはや命を握っていると言っても過言じゃないな。おかげで本気でミズハを怒らせる奴はこの場にはいない。

 

「悪かったよトンパ。……しかしミズハはトンパに甘くねーか?」

「え!? そ、そんなことないですにょ!?」

「どもってるよミズハ」

「わ、私は、その、と、トンパさんのことを……」

「分かってるってミズハ。おいエイダ。ミズハに言いにくいこと言わせようとすんなよな。オレみたいなおっさんに惚れるなんてありえねーだろ。なあ?」

 

 ミズハは優しいからな。オレが傷つかないように言いにくいこともあるだろうさ。

 

「そ、そんなことはありません! と、トンパさんは素敵な人ですよ!」

「はは、お世辞でも嬉しいぜ。さて、もう回復は大丈夫だぜ。すっかり治っちまったよ。ありがとなミズハ」

「い、いえ! 当然のことをしたまででしゅ!」

「噛んでるよミズハ」

「ミズハさん! オレも治療してもらえないでしょうか!?」

「えっと、ピエールさん……? あの、これかすり傷程度ですよね? これは治療するまでもないですよ。それにあまり念能力に頼った回復をすると自己治癒能力が衰える場合もありますから多様は厳禁ですよ」

「そ、そうですね。ははは…………トンパぁぁぁ! ボクとも組手しようじゃないか!!」

「何でそうなるんだよ!? オレは休憩中だっての!」

 

 相変わらずミズハ一直線だなピエール。コイツがミズハに惚れているってのはもはや周知の事実だ。知らぬは本人とミズハのみだろう。どうしてミズハも気づいていないんだ?

 

「ダメですよピエールさん! トンパさんは治療が終わったばかりで体力が戻ってないんです。組手なら私が相手になります。トンパさんを傷つけないでください!」

「そ、そんな!?」

 

 オレの前に立ちはだかってピエールと相対するミズハ。

 恐らくその可愛い瞳には涙を浮かべてピエールをキッと睨みつけていることだろう。

 その効果は抜群だ。ピエールの戦意は一気に消沈していった。

 

「う、く……お、覚えていろよトンパ! お前のようなオヤジにミズハさんは似合わん! いつか決着を付けてやるからな!」

 

 言いたいことだけ言って去りやがった。何がしたかったんだあいつは?

 しかし助かったぜ。ミズハの言った通りオレの体力はかなり底を突いているからな。ミズハの回復能力は便利だが対象の体力を大きく消耗する欠点、制約がある。

 その制約を外してミズハ自身の体力を使用する事で対象の体力を損なわず治療することも出来るらしいが、それは最終手段だそうだ。頻繁にそんな事していたらいざという時にミズハの能力が使えなくなるからな。

 

「と、トンパさんはしばらく休んでいてくださいね。きょ、今日の夕食は精のつくものを用意しますから……」

「ああ、ありがとな」

 

 そう言いながらミズハの頭をグリグリと撫でる。年頃の女性に対して失礼な行為かもしれないけど、ミズハはこうされるのが好きらしい。ま、女のことなんてよくわからん。

 

「はふぅ……」

「こいつの趣味は理解出来へんわ……」

「あ? なんか言ったかサイゾー?」

「なんもあらへんよ。ただちょっとピエールが哀れと思っただけや。……あいつの名前のラストはルからロに変えたほうがええかもしれへんな」

 

 どういうこった?

 

「それよりもや。さっきの組手はトンパも詰めが甘かったで。念能力者相手に絞め技して速攻落とさな反撃喰らって当然やろ」

「う、分かってるって。次からは気をつけるさ」

 

 サイゾーの言う通りだぜ。実戦はルールのある試合じゃないんだ。絞め技極ったからって外す方法はごまんとあるだろうさ。エイダがやった反撃も実戦じゃ当たり前だ。絞めるなら即落とさなきゃな。

 

 まあいい。今日の訓練はあらかた終わった、後は反省点を洗い出しながら点と纏に努めるか。これを欠かしては立派な念能力者になれないからな。

 後は飯食って風呂入ってゆっくり休んで。同じように泊まり込みで修行してる仲間と話し込んで。そして明日に備えてぐっすり眠る。

 

 ああ、今日もいい1日を過ごせそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ってちげーよ! なんで充実した1日を送って満足してるんだよオレは!

 しっかりしろトンパ! お前の目的は何だ! ここで立派な念能力者になることか? そうじゃないだろ! お前の目的は夢や野望の為にプロハンターを目指している新人たちの希望に満ち溢れた顔が絶望に染まるのを見ることだろ!?

 こんな所で健全な生活をしながら鍛錬に励んでいる場合じゃないだろ!! なにマトモな人生を歩もうとしてるんだ!?

 

 クソッ! しばらくここに缶詰だったから思考が毒されていやがった! アブねー。危うく洗脳される所だったぜ。なんて場所だ風間流!

 だがどうする? こうして正気に返ったはいいが、ここから脱出するのは不可能に近い。出来たらオレはこんな場所にいるわけがない。

 

 昼はこいつ等と一緒にいるから抜け出す事は無理。特にルドル爺はここに住み込んでいるし、リィーナ先生からオレの監視を頼まれている。その目を欺くのは極めて困難だ。

 かと言って夜にこっそりってわけにはいかない。オレの部屋の周りには様々なセンサーが仕掛けられており、ある一定の時間が来ると自動でセンサーが作動する。

 センサーが発動するとすぐにルドル爺の持っているケータイに電波が送られるという仕組みだ。おかげで何百回と痛い目にあったぜ。

 

 もちろんルドル爺だって年柄年中この道場にいるわけじゃない。ここから出かける時もある。だがその時が好機になることはない。何故ならルドル爺は操作系。それも物体ではなく人間に掛けるタイプの能力を持っている。

 その能力は対象の行動の一部を縛るといったものだ。相手が死に関わるような操作や意識や動きを操作するタイプではない為比較的制約も軽く、また仕掛けやすい。

 そしてルドル爺は道場から離れる時必ずオレにその能力を使用する。縛る行動はただ1つ、オレがこの道場から出ようとする行動のみだ。

 これだけで詰んだ。もうどうしようもなかった。

 

 幸いルドル爺も常日頃からオレを操作するつもりはないようで、ルドル爺が外出しない時は特にオレに能力を使用することはない。

 だからオレが脱出する方法を実行するのはルドルの爺が道場にいる時だけ。そして昼間はさっきの理由でまず無理。夜はセンサーを誤魔化す方法がなくて無理。

 手詰まりだ。

 

 いや諦めるなオレ! ここで諦めたら御終いだぞ! ……と、思っても仕方ないか。何せオレは自分の念【箱庭の絶対者】の誓約を破ったことにより試験官になろうって気がさっぱりなくなってしまっている。

 新人どもの絶望の表情は見たい。だがそれには試験官にならなければならない。しかしオレは3年間は試験官になろうという気が起きない。

 

 クソッタレ!! あん時リィーナ先生にバレさえしなけりゃどうとでもなってたのによ!

 これも何もかもあの疫病神アイシャのせいだ! アイツがハンター試験を受験してなきゃこうはならなかったんだ!!

 

 …………落ち着け。今さらどうこう言っても仕方ないことだ。それよりもどうすればここを抜け出せるか。どうすれば新人たちの絶望が見られるかを考えた方が建設的ってもんだ。

 試験官になれないならどうすれば……。

 

 変装してもう一度試験を受ける? ダメだ。もしバレたらプロハンター資格を取り上げられるかもしれない。

 ……? あれ? 取り上げられても問題ないんじゃねーか? いや待て落ち着け。資格を失った者がもう一度試験を受けられるとは限らない。この辺は良く調べてからにしよう。下手をして資格を無くすと試験官にすらなれなくなる。

 

 そもそもここから抜け出せないと話にならないんだ。今は脱出方法を模索するのが先だ。

 

――この場の全員倒して無理矢理逃げ出す。

 

 無理。それが出来れば苦労はしない。そもそもオレの力で確実に勝てるのはケンミくらいだ。他のは良くて五分。ルドル爺なんて勝てる気がしねぇ。

 そもそもここの念能力者鍛練場は幾つもの班に分かれて修行をしているんだ。この班を倒しても他の班に邪魔されるのがオチだ。実現出来たとしても甚大な努力と膨大な時間を要するだろう。

 

――新たな念能力を開発して脱出。

 

 ……可能性は低い。

 オレの容量は現在の能力で一杯だ。修行により容量を増やしたり、使用している容量を抑えて空き容量を増やすことは出来るだろうが、どちらにせよ時間が掛かる。

 そもそもどういう能力で逃げ出せばいいのか。瞬間移動? 空を飛ぶ? 無理、放出系は離れている。操作系で誰かを操作。……可能かもしれないが、下手するとバレたら殺されるので却下。強化系、変化系では思いつく能力がない上にやっぱり得意系統から離れすぎだ。具現化系は……作ったモノに付与した能力次第ではありかもしれない。取り敢えず保留だな。

 

――信頼を得て自由行動を得る。

 

 無理……とは言い切れない。

 だがオレは既に自由行動を得た後に罰せられてここにいる。つまりは前科有りだ。もう一度信頼を得るには時間が掛かるだろう。

 

 

 

 結局どの方法も時間が掛かりすぎだぜ。何とか上手い方法はないものか……。

 

 そうして色々と脱出計画を思案している時だ。鍛練場の扉が開き中に誰か入ってきやがった。

 

「伝達!! リィーナ先生より大道場にて全員集合との事だ。急げよ!」

「了解!」

 

 大道場? 全員で模擬戦でもすんのか? それとも班毎に分かれてのチーム戦か? いや、多人数でのバトルロワイヤルもあるか。

 どちらにせよ面倒なことだ。だがリィーナ先生の言葉に逆らう奴がこの道場にいるわけがなく、またオレも逆らうわけにはいかねー。

 仕方ない。逃げ出す為にも今は疑われるわけにはいかんからな。しばらく従順に過ごすしかないか。

 

「模擬戦かな!? やっりっ! 今日こそアタイが優勝してリィーナ様に直接修行してもらうぜ!」

「そうと決まったわけじゃないだろ?」

「あー? んじゃ何だってんだよランド?」

「ふむ。……確かに抜き打ち試合とかありそうではあるか」

「だろだろ!」

「朝方リィーナ先生が特別なお客様が来られると仰っていましたから、それでしょうか?」

「きっとそうですよミズハさん! いやぁやっぱりミズハさんは聡明だなぁ」

「頑張れ、負けんな」

「何故ボクを励ますサイゾー?」

「ふむ。分からぬならそれがオヌシの為じゃ」

「ルドル爺まで。わけが分からないな?」

「何にしろ模擬戦だけは勘弁してほしいぜ。体力残ってねーよ」

「でもリィーナ様のことですから、それでも参加は強制でしょうね……」

「ケンミの言うとーりやろうな。『体力が減ってるから休ませてくれ、と言って聞いてくれる敵がいるわけがありません』とか言われんのがオチやで?」

「お前の声真似怖いくらい似てるんだけど? どうやってるんだサイゾー」

 

 等と他愛ないことを話しながら大道場に辿り着くルドル班。

 大道場ではあらかた他の班の連中も集まっており、オレ達は大分後からやってきたようだ。

 

 全員が揃って5分程待ったか。誰も私語をするものはおらず、静寂が場を支配する。

 当たり前だ。ここで無駄話をしてリィーナ先生の怒りを買った日にはどうなるかなんて全員が分かりきっている事だ。

 

 そうして総勢百余名もの念能力者が整列して待っていると、正面の扉がゆっくりと開いた。全員の予想通り、そこから現れたのはリィーナ先生だった。そしてその後ろには幾人かの人影が見え――

 

「――げえっ!? アイシャ!!」

 

 そう叫んだ瞬間オレは心は心底縮み上がった。

 正面を見るとリィーナ先生がオレを見ていた……それも顔は笑っているが目はちっとも笑っていねー。……何だか知らんがマジで殺されるかもしれん。

 

「さて、お待たせいたしました。本日は皆に紹介したい方たちがいます」

 

 そういって周りにいた連中が前に出る。

 アイシャ以外も見覚えがある連中だ。あいつ等今期のハンター試験にいた奴らだったな。確かキルアって奴以外はプロハンターに合格してるはずだ。

 そんな奴らがどうしてここに? 風間流で念を習うにしても門下生以外で本部道場の奥にまで来る奴なんて初めてじゃないか? 風間流ではないプロハンターが念を教わるならもっと別の場所でしていたはずだろ? それとも門下生にでもなったのか?

 

「彼らはここで念の戦闘経験を積むために来ました。本来なら門派に連なる者と許可を得た心源流の者以外は立ち入ることを禁止としていますが、彼らもカストロさんと同じく特別とします。では皆さん、自己紹介をお願いいたします」

 

 そうして全員が一歩前に出る。まあオレは自己紹介なんかされなくても全員知ってんだけどさ。しかしこんな所まで稽古に来るたぁ熱心なことで。オレには理解できないね。

 

「アイシャといいます。よろしくお願いします」

「クラピカという。私たちに思うところもあるかもしれないが、よろしく頼む」

「ゴンだよ……です。よろしくお願いします!」

「キルア。よろしくな」

 

「皆には彼らを交えて組手をしてもらいます。もちろん手加減をする必要はありません。彼らも念能力者ですから。もっとも、知られたくない能力もあるでしょうから、能力使用の有無は皆の一存に任せます」

 

 まあ確かに。例え同門とは言え自分の能力を秘密にしてる奴なんてそこら中にいる。オレだってそうだ。オレの能力を知ってんのはリィーナ先生くらいだ。

 もしかしたらルドル爺にはリィーナ先生が話してるかもしれないが、同じ班のメンツで知ってる奴は他にはいないだろう。いたら絶対からかう奴がいるからな。主にランドとかサイゾーとかエイダとかピエールとか。

 

「では初めに彼らの実力をある程度皆に知ってもらう為に1対1の試合をしてもらいましょうか。皆さん、我流ながらもこの者達はそれぞれ確かな実力を持っています。然と見届けるように」

『はっ!!』

「それではゴキ……クラピカさん、貴方からどうぞ」

「いま私の名前ではない何かが口から――」

「当方からは……トンパさん。前へ」

「えっ!? いや、あの」

 

 オレかよ~!! どう考えてもさっきの失言が原因としか思えねー! 今のオレなんてケンミにすら負けるんだぞ! せめて体力を回復させてからにしてくれ!

 

「どうしたんですか? トンパさん、前へ」

「いや、実は体調が芳しくなくて」

「(あの蜚蠊を倒すことが出来たなら、貴方の先ほどの暴言を許しましょう。さらには自由への道も短くなると思いなさい)」

「しゃあ! オレが相手だクラピカ! かかってこい!」

 

 俄然やる気が湧いたぜ! 絶対負けるわけにはいかねぇ!

 そもそもコイツ念を覚えて半年足らずだろ? そんな奴に負けるわけがねえだろ。というか負けるとヤバい、下手すりゃ殺された方がマシな目にあうかもしれん。

 勝つ! 体力がどうのこうのじゃねー! 絶対に勝つ!

 

「それでは両者前へ。……始め!」

「はぁ!」

 

 なけなしのオーラを奮い立たせ、全力で練をする!

 心なしかいつも以上に練が強い。体力はとっくに限界だが、精神が肉体を凌駕しているんだ。行ける、今のオレは今までで一番強い!

 

「ふっ」

 

 え? ちょ? クラピカさん? 何ですかその練は? あなた念を覚えて半年経ってないんですよね?

 明らかにオレの倍以上あんぞおい! どうなってんだふざけんなよ!!

 クソッ! こいつハンター試験の前から念を覚えてやがったんだ! 実力を隠してやが――!?

 

 クラピカのあまりのオーラ量に驚き身を竦ませたオレは、クラピカから見れば隙だらけだっただろう。右手に装着してあった鎖でアッという間に縛られたオレは、そのまま引き込まれ強烈な一撃をもらって地に崩れ落ちた。

 

 意識を失う前に覚えているのは、リィーナ先生の養豚場に運ばれるブタを見るような目だった。

 

 ざんねん! オレの冒険はここで終わってしまった。

 

 




今回登場したオリキャラ達は今後出る予定は恐らくありません。ただの一発キャラ達ですのであしからず。
風間流では系統ごとの戦い方や攻防力を身にしみて覚えるため班分けは出来るだけ得意系統をバラけさせています。
一応大雑把にオリキャラ紹介。


・ルドル=ホフマン(62)男性:操作系
 トンパたちを指導する班の指導者。その実力は本部道場内で三指に入る。現在本部長後継の最有力候補とも言われている師範代。かつてリュウショウに敗北して風間流に門派変えをした。
 思慮深く、後輩の面倒見もよく、本部長のリィーナからも同門からも信頼されている。その為比較的若い人材を集めた班で教育している。
 その能力でトンパの逃亡を阻止している。実はリィーナに惚れており、叶わぬ恋と知りつつ独身を貫いている。



・ランド=グレーナー(21)男性:強化系
 トンパと同じ時期に風間流に入門した青年。明朗快活で、人を見た目だけで判断はしない好青年。以前美人の女性に惚れてしまい痛い目にあったことがある。
 風間流に入門したのも嫌なことを忘れたいためであり、その為かトンパが受けたシゴキと同じくらいの修行を自らに課していた。
 歳は離れていてもともに地獄をくぐり抜けたトンパの事を友人だと思っている。



・エイダ(19)女性:放出系
 スラムに暮らしていた孤児。その為か言葉使いがかなり荒い。スリで生活していたが、あろうことかショッピング中のリィーナとビスケを狙ってしまった。
 リィーナの言葉もあり、更生のため風間流と心源流に強制入門させられる。以来定期的に2つの流派を行き来していたが、現在は風間流に絞っている。
 本人は暖かい飯もあり、寝床もあるため現状を気に入っている。拾ってくれたリィーナに感謝しており、その強さに憧れている。
 多数の念弾を打ち出すのが得意。本人曰く数打ちゃ当たるとのこと。



・サイゾー(25)男性:変化系
 ジャポン出身。共通語をわざわざジャポンにある地方の訛り風に変換して話す変わり者。だがその実力は高く、ルドルとも幾度か引き分けに持ち込んだことがある。
 ノリが良く、ギャグもツッコミも両方こなせるルドル班でも貴重な人材。実はジャポンに伝わる暗殺集団ニンジャの元一員。いわゆる抜け忍だが、何故風間流にいるかは不明。
 なんでもアリなら班でもっとも強い。本名はサイゾー=キリガクレ。



・ミズハ=トロイア(18)女性:強化系
 ルドル班の肉体的にも精神的にも癒しの存在。生来から争いを好まない性格だが、その性格故に両親から心配されて護身術を学ぶ名目で風間流に入門する。
 強化系の能力で回復能力を作り、他人を癒す。料理も得意であり、調味料を作る際にオーラを変化させ混ぜ合わすことで食材の効果を高めることも出来る。その能力のためルドル班にいるが他の班から呼び出されることも多い。風間流で嫁・恋人にしたい女性V3を達成。
 本人は隠しているつもりだがオジコン&ファザコンであり、トンパが好みのどストライク。



・ピエール=カーペンター(22)男性:具現化系
 自他共に認める天才。精神性はやや危ぶまれていたが、僅か1年で風間流で念を学ぶまでに至った。念を学ぶ前に天狗になっていた鼻をリィーナによって木っ端微塵にされた。その為かリィーナが大の苦手。
 ボロボロになっているところをミズハに癒された為彼女に一目惚れ。彼女が甲斐甲斐しく世話をするトンパを毛嫌いしている。







※この小説はログインせずに感想を書き込むことが可能です。ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に
感想を投稿する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。