どうしてこうなった?   作:とんぱ
<< 前の話 次の話 >>

62 / 86
※キメラアント編はいつもよりダークな表現が多くなりますので苦手な方は注意してください。



キメラアント編
第六十話


 キメラアント。それは第一種隔離指定種に認定されている非常に危険な蟻である。

 摂食交配という特殊な産卵形態をとる蟻で、女王が摂食した生物の特徴を次世代に反映させることが出来る。

 より強い生物の遺伝子を取り込むことで種の保存を図ろうとするあまり、気に入った種が絶滅するまで摂食を続けることすらある。

 

 そして最も恐ろしいのが爆発的な繁殖力だ。

 女王が王を産むと、その王は巣から旅立つ。女王は巣に留まって一定周期で王を産み続ける。そして王は放浪しながら様々な生物と交配し、次世代の女王を孕ましていく。

 この連鎖を止めない限りキメラアントは増え続けるのだ。あまりに増え、あまりに多種多様な遺伝子を取り込む為、外見だけではキメラアントと判断出来ない程に変化することすらある。

 

 そんな危険な蟻だが、人間社会を脅かすような危険度ではない。

 どれだけ貪欲で獰猛な蟻だろうと、どれだけの生物の遺伝子を取り込み次世代を強化しようと、蟻は蟻だ。女王蟻の大きさは10cm程度。次世代も捕食した種の大きさに多少の影響はあれど、極端に変わることはない。摂食する種もそれに応じた大きさの生物だ。同じ昆虫類や、小さな鳥や小さな哺乳類などが精々だろう。

 

 獰猛な蟻に殺された人間という事例もあるにはあるが、それは無数の蟻によって病気などで弱って身動きが取れない者が犠牲になるくらいだ。

 健康な人間が正常な判断で動けば殺される前に逃げることくらい出来るだろう。気付いた時には数千万の蟻に囲まれていたとかならば話は別だが。

 それはキメラアントでも同じだ。多種多様なキメラアントの中には人間を殺す毒を持った蟻もいるだろうし、数が集まれば人間1人程度食い殺すことは可能だろうが、それだけだ。

 どれだけキメラアントが危険だろうと人間社会を脅かすことはないだろう。個体としての人間を屠れたとして、種としての人間に影響を与えることは出来ない。

 そう、それが普通のキメラアントへの認識だ。いや、認識ですらない。蟻が人を脅かすなどと考える人がどれだけいるのか。

 

 ……だが、その蟻が、キメラアントの女王が、体長2mを超える常識では考えられない大きさだったならばどうだろうか?

 前述した通り、キメラアントは摂食した生物の遺伝子を取り込み次世代に引き継ぐ。この時産まれてくる次世代はキメラアント内での常識的な大きさだ。

 つまり女王の体長である10cmを超える次世代はそうはいない。いても精々数cm大きい程度だ。

 

 では女王の体長が2mならば? 女王が2mでも次世代は10cm程度か?

 否。次世代も女王の大きさに応じた大きさで産まれてくるに決まっている。

 そして体長2mを超えるキメラアントの女王は、人間を捕食することが出来るだろうか?

 出来る。出来てしまうのだ。平均的な人間の大きさを凌駕する肉食の虫が、動物は捕食して人間は捕食しない等という都合の良い話があるわけがない。

 

 普通に考えれば2mを超えるキメラアント等IFの話だろう。空想上の生物だ。

 だが、それは実在していた。キメラアントと同じ性質を持った蟻が、体長2m以上という驚異的な大きさで存在しているのだ。

 

 それは暗黒大陸からやって来た外来種だった。

 何故暗黒大陸にいた種が、内側の、人が支配する領域へとやって来たのかは分からない。

 だがそんなことは問題ではない。問題なのは、人を捕食する程の大きさのキメラアントが、内側の世界に、それもよりにもよってNGL内に流れ着いてしまったということだった。

 

 ネオグリーンライフ。通称NGL。それは機械文明を全て捨てて自然の中で生活しようという団体。

 その理念に則って国内には一切の機械類が存在しないと言われている。外部からの機械の持ち込みも完全に制限されており、国境付近にある検問所では国内に入る者に厳しい検査を行っている。

 もし意図的に文明の利器を国内に持ち込んだ場合極刑を受けることすらある。NGLではそれ程まで徹底して機械文明を排除していたのだ。

 

 自治国での通信手段は主に手紙、交通手段は主に馬という時代の流れを遡っているその国は、全てを自然のままにという理念で活動している。

 以前NGL内で強力な伝染病が蔓延したことがあったが、それすら“自然のままに”と受け入れ、国際医師団の入国を拒否していた。

 伝染病が凶悪な生物からの被害に変わっても同じだ。例え何が起ころうとも外部に頼ることはないだろう。それは外部へと情報が流れるのが非常に遅いということでもあった。

 

 そんな国に巨大キメラアントの女王は流れ着いてしまったのだ。

 巨大キメラアントが巣を作り、周囲の人間を襲い捕食し続けようとも、NGLに生きる人々はそれを脅威と思いつつも、自然の流れとして受け入れ外の国に助けを求めない。

 女王が流れ着いた場所がNGLのような鎖国的な国ではなかったなら、もっと早くに巨大キメラアントの情報が世界中に広まっていただろう。

 NGLだからこそ情報が出回ることがなかった。そして気付き始めた時にはもう遅かった。既に女王は悠々と巨大な巣を作り、人間や様々な生物を捕食し続け多くの次世代を産み出していたのだ。

 

 しかも女王は人間を非常に好んでいた。女王にとって人間は味・質ともに最高の餌であり、その為既に大量の人間がキメラアントによって捕食されている。

 それはキメラアントの次世代に人間の特徴を反映した蟻が産まれているということだ。

 そう、人間に取って最大の武器、その最たる特徴は知恵。2m大の蟻が人間と同等の知恵を持つ。これは最早恐怖以外の何ものでもない。

 

 人間が世界に繁栄したのは他のどの生物よりも知恵が優れていたからだ。

 強靭な肉体も、鋭い爪も牙も、尻尾や針といった特殊な武器の何1つもない人間は、身体能力という点では動物の中で下から数えた方が早いだろう。

 だが、それを覆すのが知恵だ。知恵という他の何にも勝る武器で人は様々な敵を打ち破ってきた。

 

 その知恵を、人間よりも遥かに強大な種であるキメラアントが手にする。

 ライオンのような強靭な肉体を持つキメラアントが。鳥のように空を飛ぶキメラアントが。様々な昆虫の特徴を強く受け継いだキメラアントが。

 それら人間よりも遥かに強大な肉体を持ったキメラアント達が人間と同じように考えて行動するようになるのだ。

 もし巨大キメラアントに王が生まれてしまえば、その数を爆発的に増やすことになるだろう。それは人間が種としても劣ることを意味する。

 数で利するしかない相手に、その数でも差がなくなってしまえば……。

 

 そうなれば人類の滅亡は冗談の一言では済ませられない現実的な物となる。個としてのポテンシャルで圧倒的に劣り、種としても劣り、数でも差がないとなれば人類に勝ち目はないだろう。

 あまりに増えすぎれば核兵器や貧者の薔薇と呼ばれる極悪な爆弾を使用したとしても駆除しきれなくなり、逆に人間にもそれら兵器の影響が拡散して大きな被害を被ることになるだろう。

 最悪、キメラアントによってそれらの兵器を奪われるという事態に陥るかもしれない。この未来はこのままキメラアントが増え続ければ現実のものとなる可能性は大いに含んでいる。

 

 もしそんな未来が訪れたら、キメラアントは人類の新たな厄災の1つとして挙げられることになるかもしれない。

 その未来に、まだ人類が存在していたらの話だが。

 

 

 

 

 

 

「皆! アイシャの部屋に来て!」

 

 早朝に響き渡るゴンの大声。

 それは食卓にいたキルア達を急かすには十分な程に切迫した思いが込められていた。

 

「どうしたゴン!?」

「アイシャに何かあったのか!?」

 

 朝食の時間が過ぎても何時まで経っても食卓にやって来ないアイシャを呼びに行ったゴン。そのゴンからこのような呼び出しがあればアイシャに何かあったと考えるのは至極当然だろう。

 そしてそれは的中していた。

 

「アイシャが何処にもいないんだ!」

「いないってお前……どっか出掛けてるとか、たまたま部屋にいないだけじゃないのか? その、朝シャンしてるとか、と、トイレとか……」

「兄貴が何を妄想してんのかはともかく、言ってることには賛成だぜ」

「ああ、私もそう思うぞ」

 

 アイシャが部屋にいない。別にそれは不思議なことではないだろう。ミルキの言うように部屋から出ているだけ。そう思うのが正しい考えだ。

 朝食に遅れているのも何かしらの理由があるだけだ。その内何事もなかったように普通に現れるだろう。

 キルアもクラピカもミルキもそう思っていた。……次のゴンの言葉を聞くまでは。

 

「オレも部屋に入ってアイシャがいなかった時はそう思ったよ。でもこれ見てよ」

「これって……な!? アイシャのパソコンが!?」

「……完全にブッ壊れているな」

「どういうことだ? 一体何があった?」

「後これ。机の上にあった手紙なんだけど……」

 

 ゴンはそう言って1枚の手紙をキルア達に見えるように広げる。

 キルア達が手紙を覗き込む。そこにはこう書かれていた。

 

 “しばらく留守にします。数週間は帰って来ることが出来ないかもしれません。何も言わず出ていくことを許してください。あと、シオンさんの結婚式には参加できないかもしれません。本当にごめんなさいシオンさん”

 

「……何だよこれ?」

「文面の通りだとすると、数週間は何かをする為に出掛けたことになるな」

「それだけなら別に問題はない。問題は、オレ達にも秘密にしていたことと、パソコンが不自然に壊れていることだ」

「うん、絶対に変だよね。だから皆を呼んだんだけど……何か分かる?」

 

 ゴンの問いかけに全員が考え込む。

 最近のアイシャの行動、態度、そういったアイシャに関するあらゆる情報を思いだして答えを導き出そうとする。

 ゴンは直感はともかく、物事を深く考えて理知的に答えを導き出すのが苦手だ。なのでそれが得意な彼らを頼ったのだ。まあ、ゴンはたまに殆ど考えずに答えを出すこともあるのだが。短所とも長所とも言えるゴンの特徴だった。

 

「……リィーナさん達がいないのは関係あるのか?」

「リィーナ殿とビスケがいないのはシオンを連れて天空闘技場にいるウイングに会いに行っているからだな。それならアイシャが秘密にする程のことではないと思うが?」

 

 そう、リィーナとビスケはシオンを連れてウイングに会いに行っていた。

 結婚とまでなれば色々と話し合うこともあるのだ。リィーナは孤児であるシオンの後見人として付き添ったのだ。

 ちなみにビスケはウイングをからかいに行っただけである。

 

「そうだな。しかもシオンの結婚式にも参加出来ないかもしれないと書いてある。あのアイシャが知り合いの結婚式への参加をすっぽかす程だ。よほどの何かがある」

「誰かに連れ去られたってのは?」

「……アレをか? 連れ去る? オレ達に気付かれないように? 音も気配も立てず? ……それってどうやるんだ?」

「…………悪い。考えつかないな」

 

 アイシャを無理矢理連れ去る。操作系で操ることが出来ないアイシャを連れ去るには力ずく以外に方法はない。

 だがこの風間流本部道場で寝食している念能力者全てに気付かれないようにアイシャを倒して連れ去る。

 どんな実力者ならばそんなことが可能なのか。この場の誰にも見当はつかなかった。

 

「ケータイは?」

「ちょっと待て……駄目だ、電源を切っているな」

「探知出来ないの?」

「無理だ。電話に出てくれればその場所を調べることも出来るけど、そもそもそういった設備がない」

「パソコンが壊れているのは何でだ?」

「……アイシャが自分で出て行ったのなら、これを壊したのはアイシャか、アイシャがいなくなった後に誰かが壊したことになる」

「後者は考えにくいな。理由がなさすぎる」

「つまりこのパソコンはアイシャが壊したと考えた方が自然だ」

「それはパソコンを壊すことに意味があったということになるな」

「調べられるとアイシャにとって不利益になる何かが残っていた……」

「つまり……現在のアイシャの目的、あるいは目的地などの情報というのが妥当な線だろう」

「それだけオレ達に知られたくない、関わらせたくない何かにアイシャは関わっているわけだな」

 

 次々と情報を整理してアイシャの行動を推理していくキルア達。

 ゴンはそれを聞いてアイシャの想いを感じ取る。

 

「……きっと危険な何かだ。オレ達が関わったら死ぬかもしれない程の……。そうじゃなきゃ、オレ達に秘密にして勝手に行くアイシャじゃないから」

「……オレ達じゃ足手纏いだってことかよ」

「だが事実だ」

 

 ゴンの言葉にキルアが激高しかけるが、クラピカは冷徹に事実と断ずる。

 

「そうだな。オレ達が束になって掛かってもアイシャを倒すことはおろか、傷1つ付けることも出来なかった」

「……分かってるよ、んなことは」

 

 キルアだって理解している。アイシャと己の歴然とした実力の差を。

 いかに【神速/カンムル】にて圧倒的な速度を手に入れたとしても、それを覆す力をアイシャは持っている。

 圧倒的な初動すら見切る先読み。オーラ技術は大人と子ども以上の差がある。オーラ量に至っては、例えキルアが1000回攻撃を叩き込んでも無傷である程の差が両者にはあった。

 

「我々では足手纏いだから置いていった。つまり、アイシャじゃないとどうしようもない何かが起きている可能性が高いということだな……」

 

 クラピカの言葉に全員が息をのむ。それはゴン達には想像もつかないことだった。

 彼らにとってアイシャとは絶対の力だ。彼らの知る誰よりもアイシャは強かった。常識外れと言ってもいい。

 ゴンにとってヒソカよりも強く、キルアとミルキにとって家族の誰よりも強く、クラピカにとって幻影旅団よりも強い。

 そう思わせる力を持つアイシャ。そのアイシャが動かないとどうしようもない何かが世界の何処かで起きている。

 その何かを想像出来る者はこの場にはいなかった。

 

「少なくともオレ達を守りきる自信がないと判断するくらいには危険な事件が起きてるのか」

「そんな大事件ならニュースで流れているんじゃないかな?」

「いや、ここ最近のニュースでそんな情報は流れていないと思うが……」

「一応調べてみようぜ。もしかしたら今日のニュースで初めて流れていたのかもしれない」

「オレはアイシャのパソコンを調べてみる。もしかしたらデータを復元出来るかもしれないからな」

 

 そうして各々がそれぞれのやり方でそれらしい情報を調べた。

 だが、ニュースにも新聞にも、そして壊れたパソコンのデータの中にもそれに該当するような情報は出て来なかった。

 

「……駄目か。ニュースでやってんのはいつもと大して変わんないもんだぜ」

「パソコンも駄目だ。データが消されているとかなら復元も出来るが、物理的に壊されている。これじゃ復元は無理だ」

「念入りなことだな」

 

 有力な情報が手に入らないまま誰もが頭を抱えている。

 そんな時に、ゴンがある一言を呟いた。

 

「……キメラアント」

「……なんだって?」

「キメラアント? それは確か第一種隔離指定種に認定されている蟻のことだな」

「オレも知ってる。見たことはないけど変わった蟻らしいな。だがそれがどうかしたのかゴン?」

 

 いきなりのゴンの発言に誰もが疑問に思う。

 一体どうしてこの状況でそんな蟻の話が出てくるのかと。

 

「うん。前にレオリオから聞いたんだけど。グリードアイランドにいた時にさ、レオリオが受験の為に外の世界に戻った時があったよね」

「ああ、それがどうしたんだ?」

「その時にレオリオがアイシャに頼まれたんだって。キメラアントに付いて何か事件が起きていないか調べてほしいって」

『!?』

 

 何故アイシャがキメラアントに付いて調べてほしかったのか。それもグリードアイランドにいる時期にだ。別に外に出た時に自分で調べればいいだけの話だろう。

 キメラアントによる事件など、そんなこと普通は考えつかないし、調べようとも思わない。別に緊急の話ではないのだから。

 だからこそ怪しい。このキメラアントにこそアイシャ失踪の鍵があるのではないかと誰もが考えた。

 

「すぐに調べるぞ」

「オレのパソコンで調べよう。アイシャのと同じスペックだ。アイシャのパソコンに出来てオレのパソコンに出来ないことはない」

「……お前、たまに発想がストーカーのそれになるよな?」

「何でだよ!」

 

 想い人と同じ物を共有したいという考え自体はまだ微笑ましいかもしれないが、度が行き過ぎると危険ではある。

 まだミルキはそこまでのレベルには至ってはいないようだ。彼が道を踏み外さないことを兄弟として祈るキルアだった。

 

 

 

「……キメラアントで調べてみても特に何もないな」

「普通にキメラアントの生態とかの情報だったり、過去に起きたキメラアントによるある種の絶滅とか、あんまり意味のない情報ばかりだぜ」

「ハンターサイトで調べようよ。ニュースになってないんだし、普通に調べても分からないかも」

「そうだな。オレもそうしようと思っていた。ライセンスを手に入れて良かったのはハンターサイトが利用出来ることだな」

「兄貴ならハンターサイトにも忍び込めるんじゃないの?」

「馬鹿言うな。そりゃ出来なくはないけど、バレる可能性がめっちゃあるぞ。ハッカーハンターなんて電子世界専門のハンターもいるくらいだぜ?」

 

 軽口を叩きながらもミルキは素早い動作でパソコンを操り情報を探る。

 そして見つけた。ハンターサイトにて、謎の巨大昆虫の足が見つかるという情報を。

 

「……! これか?」

「アルビオン大陸南の海岸にて謎の巨大昆虫の足が流れ着いているのが発見された……か」

「これとキメラアントとどういう関係があるんだよ。キメラアントは精々が体長10cmなんだろ?」

「これ……足の画像……すごく大きいよ。多分1m、ううんそれより大きい」

 

 ミルキが入金したおかげでヨークシンで調べられた謎の巨大昆虫の足の画像も見ることが出来た。

 それは明らかに既存の昆虫とは一線を画す巨大さ。足の節から計算して、優に2mは超えると推測される程のだ。

 

「おい、ちょっと待てよ。キメラアントってあの摂食交配の蟻だろ?」

「……そうだ。摂食した生物の特徴を次世代に反映させるという特殊な産卵形態だ」

「こいつ、この大きさ……人間も食えるぞ」

「人間を食べるキメラアント……それって」

 

 ゴンの危惧は正しい。それは未曾有のバイオハザードに発展する恐れがある大事件だ。

 昆虫の大きさを逸脱しないキメラアントだからこそ脅威とみなされないだけだ。それが根本から覆されてしまっているのだ。

 まだこの巨大昆虫がキメラアントだと確定は出来ないが、もしそうならば下手すればこの世界は蟻によって支配されるようになる危険性を孕んでいた。

 

「この足が発見されたのは……おい、まだ発見されてひと月くらいしか経ってないぞ」

「どういうことだよ? アイシャがレオリオにキメラアントの情報を調べてほしいと頼んだのは去年の12月のことだろ?」

「……アイシャは巨大キメラアントのことを足が流れ着く前に知っていたのか?」

「それって……未来を知っていたってこと?」

 

 そんな馬鹿な。だが、そう言い切れない何かがあった。

 巨大キメラアント。アイシャが動くには十分な大事件、しかも謎の巨大昆虫が発覚する前からキメラアントについて気にしていた。

 これらがゴンの意見を馬鹿に出来ないものとしていた。

 

「……いや、確かに可能性はある。前に聞いた時は眉唾物かと思っていたけど、マフィアの念能力者の中に予知能力者がいるって噂があった」

「予知能力者……可能とするのは特質系だな。有り得ない話ではない」

「アイシャは流星街出身だし、父親もマフィアだ。ヨークシンで未来の情報を聞いたってのはあるかもしれないな」

 

 なまじ頭の回転が早く理知的な為、推理が間違った方向へと進んでいた。

 だが、1番納得の行く推理とも言えるだろう。実はこの世界を漫画にしたものが別の世界にあってそこからキメラアントのことを知っていました、などと推理出来たら逆に頭がおかしい。

 

「じゃあアイシャがキメラアントのところに行ったんなら、オレ達も早く行こうよ!」

 

 ゴンが憤っていた。足手纏い扱いされたことに、子供扱いされたことに、そして何よりそう思われる程度の実力しかない自身に憤っていた。

 行ってもアイシャの邪魔になるかもしれない。でも、このまま待つこともゴンには出来そうになかった。

 

「行くっつっても、何処にアイシャはいるんだよ?」

「だから巨大キメラアントの所に――」

「――で、その巨大キメラアントは何処にいるんだ?」

「……あ」

 

 興奮して空回っていたようだ。キルアに指摘されてようやくそれに気が付いたゴン。

 

「ミルキさん、何か情報ない……?」

「待ってろ今調べてる……あった、これだ」

 

 ミルキが入手した情報ではNGLと東ゴルトー共和国に流れ着いた可能性が高いとのことだ。もっとも、キメラアントの女王が生きていたらの話だが。

 この2国ならば例え生きた女王が流れ着いたとしても外に情報が漏れることが非常に少ないのだ。2国とも鎖国状態と言っても過言ではない国だからだ。

 

「この2つなら……NGLだな」

「何で? 東ゴルトーの可能性もあるんだろ?」

 

 クラピカの確信めいたその選択にキルアが疑問を挟む。

 

「東ゴルトーは閉鎖的な国ではあるが、上層部は諸外国と一応の繋がりがある。未曾有の危機に陥った場合、これまでの政策や諸外国への対応など気にせず恥知らずに救援を求める可能性もあるだろう」

 

 クラピカが持ち前の知識による推理を働かせる。

 

「だがNGLは違う。あそこは機械文明を捨てて自然と共に生きるという理念を持っている。国内で何が起こってもそれを自然の理と言って享受するだろう。故に東ゴルトーよりも情報が外に漏れる確率が非常に少ない。さらにこの国には黒い話が付き纏っている」

「黒い話って?」

「表向きは自然保護を訴えるエコ団体だが、その実態は巨大な麻薬制作元という話だ。自然保護や機械文明脱却を訴えているが、それは麻薬を隠すためのお題目という奴だな。国民の殆どは末端の構成員で、その事実を知らずに過ごしている。ほんの僅かな上層部のみが裏で全てを牛耳っている。なのでNGLがキメラアントの被害に遭ったとしても情報を外に出すわけがない。末端の殆どは理念に則ってその災厄を自然の理と享受し、上層部は裏の顔を表沙汰にするわけにはいかないので諸外国に助けを求めることも出来ない」

 

 クラピカの説明からキメラアントが流れ着いたのはNGLが最も可能性として高いと誰もが納得した。

 念の為ミルキがNGLへ行く為の船の確認をしている。ハッキングによって乗客名簿を調べているのだ。

 

「……あったぞ。アイシャの名前だ。行き先はミテネ連邦にあるロカリオ共和国。NGLの隣国だな。NGLに直接行くことは出来ないから、ここからNGLへと入国するつもりだろう。クラピカの考えは間違っていないだろうな、アイシャの行き先はNGLだ」

「……急ごう」

「ああ、アイシャがここを出たのが深夜だとしたら、もう半日以上経っている。早くしないと追いつけない」

「今ロカリオ共和国へ行く為の最速便を調べている。……良し、船のチケットも発行したぞ」

「こういう時は兄貴が1番頼りになるぜ」

「一言余計なんだよお前は」

 

 軽口を言い合いながらもこの兄弟は既に信頼し合っていた。かつての関係とはもう別物と言えるだろう。キルアにとって本当に気の許せる家族などアルカくらいのものだったのだが、今はそこにミルキも加わろうとしていた。

 

「……最後の確認だ。今回の事件に関わることは恐らく命懸けだろう。下手すればアイシャの足手纏いになりかねん。……それでも行くんだな?」

「うん! 絶対にオレ達を置いていったアイシャに一言文句言ってやる!」

「足手纏いになる? そんなのやってみないと分からないだろうがよ!」

「危機に陥った姫を助けるナイト。そんな夢みたいなシチュエーションを味わえるかもしれないんだぜ? ここで引くわけないだろ!」

「ふ、馬鹿な奴らだ」

「お前もだろクラピカ?」

「違いない」

 

 全員が笑い合う。だが、誰もが命の危険があると理解していた。そればかりかアイシャの足を引っ張ってしまう可能性も理解の範疇にあった。

 だがそれでもゴン達はアイシャを追いかけることを決意した。

 その判断がアイシャを救うのか、それとも窮地に貶めるのか……それはまだ誰にも分からない。

 

 

 

 

 

 

 ロカリオ共和国に到着したゴン達は国境に近いドーリ市でNGLに行く為の交通便を探していた。

 NGLは隣国であるロカリオ共和国とも国交がなく、その為定期的な交通便など有りはしなかった。

 だが、だからと言ってNGLの国境までが完全に封鎖されているわけではない。少なくはあるが、NGLに入りたいという者もいることは確かだし、NGLとしても完全に交流を閉ざしているわけではない。

 故に定期便はなくとも頼めばNGLの国境付近まで旅客を運んでくれる運送屋は少ないがあった。運送屋としては金さえ払ってくれればいいだけの話だ。別に運送屋がNGL内まで入るわけではないのだから。

 まあ、1日で10組近い客を乗せてNGLの国境まで案内したのは運送屋としても初めての経験だったが。

 

「すまない。ここならNGLの検問所まで運んでくれるとのことだが」

「ああ、あんた達もかい? 珍しいねぇ。あんなトコに何が有るって言うんだか」

 

 運送屋の運転手を務める男はまた同じような客が来たと不思議そうに肩を竦める。NGLへ行きたいという客など1年に数える程しかないのだ。それが1日で10組以上も客が来れば不思議に思っても仕方ないことだろう。

 

「今日だけで10組目だよ。いや、11組目か。たった今も同じ用件の客を乗せて出発しようとしてたところだ。相乗りでいいなら乗れるけど、どうする? もちろん金は1人ずつ払ってもらうよ」

「相乗りでも構わない、頼む」

「まいど。まあその前に相乗りOKか確認してくるよ」

 

 そう言って男は一度トラックへと移動していった。あのトラックにその先客とやらが既に乗っているのだろう。

 男の話からこれまでにも自分たち以外に9組のハンターがNGL内に入っているのだろうとゴン達は予測する。

 少ない情報を元にNGLに巨大昆虫が流れ着いたと判断した者達だ。相乗りすることになった先客も恐らく同業のハンターである可能性が高いだろう。

 だが、今日NGLを訪れたハンター達のどれだけが巨大昆虫をキメラアントだと理解しているのだろうか?

 それを理解せず、また実力も足りないハンターでは犠牲が増えるだけだろうとゴン達は危惧する。

 

「相乗りOKだそうだ。良かったな」

「そうか。……そう言えば、今日乗せた客の中にアイシャという女性はいなかったか?」

「女性も何人かはいたけど、どの客も名前までは聞いてないよ」

「黒髪長髪の女性だ。見た目は10代後半くらいだな」

「ああ、それならいたよ。まあその客があんたの知ってる人と同じかまでは知らないけど」

 

 それだけ聞ければゴン達には十分だった。

 元々目撃例がなくてもNGLまで入って調べるつもりだったんだ。アイシャと思わしき目撃例があれば尚更だ。

 

「それじゃ出発するとこだったからあそこのトラックの後ろにすぐに乗ってくれ。頼むから先客と諍いを起こさないでくれよ。何かあっても責任は取れないし、備品が壊れたら弁償はしてもらうぜ」

「分かった。こちらが相乗りさせてもらう立場だ。気を付けよう」

「……どんな連中かな?」

「十中八九ハンターだろうけど、実力や人柄は会ってみない限りには分からないな」

「強くていい人ならいいんだけど」

 

 ゴン達が若干の期待と不安を籠めてトラックに乗り込む。

 

「失礼する。今回は急な相乗りを承諾してもらい感謝する」

 

 そうしてクラピカが先にトラックの荷台へと乗り込み先客へと礼の言葉を掛ける。

 そこに乗っていたのは複数人の男女だ。だがその中でクラピカはたった1人の男にのみ注視した。その男もまたクラピカを見極めるように注視している。そして互いに思ったことは同じだった。

 

 ――強いな――

 

「いや、構わないさ。どうせお互い同じ目的のようだしな」

「そのようだな。同乗者があなたのような実力者で安心したよ」

「それはお互い様だ。オレの名前はカイト。あんたは?」

「私は――」

「――カイト!? いまカイトって! ……! やっぱりカイトだ!」

 

 自己紹介を返そうとしたクラピカに割って入ってゴンがトラックに飛び込んで来た。

 クラピカはゴンのその行動に驚くが、それよりもカイトという男がゴンに対して驚いていた。

 

「ゴン? ゴンかお前!? おー、でっかくなったな。というかお前、こんなところで再会するなんてな……驚いたぞ」

「それはオレもだよ! カイトとこんなところで出会えるなんて!」

「……ゴンの知り合いなのか?」

「らしいな。オレも話に聞いたことがあるくらいだけど」

「おい、積もる話は乗ってからにしようぜ。こうしてる間にもアイシャは先に進んでるんだぜ」

「あ、そうだった」

「おーい! もう出発しても大丈夫かー!?」

「こちらは大丈夫だ? そっちは?」

「私たちもこれで全員だ。大丈夫だ! 出発してくれ!」

 

 そうしてゴン達を乗せたトラックはNGLに向けて出発した。

 思いがけぬ人物と共に。

 

 

 

 

 

 

「――というわけなんだ」

「……なるほどな」

 

 久しぶりの再会を果たしたゴンとカイトはそれぞれの仲間たちを紹介してこれまでの経緯を説明し合った。

 

 カイトはカキン国の依頼であった生物調査が終了した後に、ヨークシンのサザンピースに持ち込まれた巨大昆虫の足に付いて知る機会が出来たのだ。

 そこから様々な情報を調べ上げていく内に、巨大昆虫の正体がキメラアントの女王である確率が高いことと、NGLにその女王が流れ着いている可能性があると踏んでこうして調査に来ているわけだ。

 

「その女性、アイシャと言ったか。迂闊だな。キメラアントと分かっていたならば1人で来るべきではなかった」

「そ、それは……」

 

 いくらアイシャの実力を知っているゴンと言えども、カイトのその言葉には反論することは出来なかった。

 それが正論だからだ。巨大キメラアントという存在の危険性を正しく認識するなら1人で討伐に行くべきではない。

 例えどれほどの実力を有していようと、予想外の出来事は起こり得るものだ。それが未知の存在が相手ならば尚更だ。

 

「それ言うならカイトだって1人で来てるじゃん。あんたの仲間には悪いけど、この中で強いのはカイト1人だろ?」

 

 そう、キルアの言うことも事実だ。カイトとチームを組んでいるメンバーは調査が主であり、戦闘に関してはからっきしである。念能力を使える者もこの中ではカイトのみだった。

 

「オレだってそれくらい弁えているさ。オレ1人だったらキメラアントの存在と危険性を確認したら戻って報告するつもりだったが……」

 

 そう、カイトとてキルアの言っていることは理解している。

 自分がそれなりに強いことも分かっているが、キメラアントの危険性や規模によっては1人では太刀打ち出来ない可能性が高いだろうと。

 なので1人だけでNGL内を調査して、キメラアントの有無とその危険性を確認したらそれをハンター協会へと報告するだけに留まるつもりだった。

 

「つもりだった、ということは今はそうではないということだな」

「ああ。お前たちが一緒なら話は別だ。どうやら全員かなりのレベルのようだしな。上手く行けば王が産まれる前に女王に辿り着けるかもしれない」

 

 カイトはゴン達を見てその実力の一端を理解したのだ。

 それはカイトの予想以上の実力だった。これなら予定を変更してキメラアントの中核まで攻め込んでも大丈夫だろうと思わせるくらいに。

 

 そしてそれはゴン達も同じだった。

 ゴンは念能力者になってからカイトと再会したことで、以前には分からなかったカイトの実力を肌で感じ取る。

 キルアやクラピカにミルキも同じだ。念能力者としての年季はそれぞれ己よりも上だとすぐに理解していた。

 

「じゃあ今回はオレ達でチームを組むとしよう。アイシャの助けになるには強い奴は多い方がいい」

「異議なし」

「私もだ」

「オレも」

「そっちからそう言ってくれると助かる」

 

 ミルキの提案は当然のように賛成された。

 時間がなかった上に、危険なことに巻き込むことが出来ないから風間流の誰も連れてくることはなかったが、仲間は多い方がいいに決まっている。

 カイトもその提案自体を喜んでいた。だが、そこにミルキがカイトに対して1つ忠告をした。

 

「それよりも、あんたは自分が感じている危険を1段か2段は上げといた方がいいぜ」

「カイトでいい。……お前たちは今回のキメラアントの一件に付いてどれだけ知っているんだ?」

「それについてはカイトと然して変わらないと思うぜ」

「? だったら何故?」

 

 カイトと然して変わらない情報量ならば、その危険性もカイトと同レベルの認識になるだろう。

 一体何処に違いがあるというのか? それが分からないカイトの問い掛けに、ミルキではなくゴンが答えた。

 

「アイシャがオレ達を置いて行ったのは、オレ達が一緒だと危険だと判断したからだと思う」

「……ああ、それで?」

 

 ゴンのその言葉だけでは危険度の認識を高める理由としては弱いだろう。

 それくらいならカイトだって理解している。体長2mを超え、人間すら食べる恐れがある巨大キメラアントだ。その危険度は推して知るべしだ。

 疑問が深まるカイトに今度はキルアがさらに困惑する説明をした。

 

「カイトはオレ達全員を同時に相手して勝てると思う?」

「……まだお前たちの実力を詳しく把握してないから何とも言えないが、難しいだろうな。1人ならともかく、2人以上となると勝ち目が薄くなるだろう」

 

 カイトは自身でも1級の実力者だと自負している。そうでなければ危険極まりないキメラアントの巣窟と予測されるNGLを1人で調査しよう等とは思わない。

 他にそんなことを考えるのはこのNGLの危険性を認識していないか、自身の実力を勘違いしている愚か者のどちらかだろう。

 そのカイトですら今のゴン達相手に真っ向からぶつかってまともに勝てるとは思えなかった。1人ならまだ勝てるかもしれない。だが複数が相手となれば……。そう思わせる実力をゴン達から感じていた。

 

「そうか。1対1なら勝てるってのは悔しいが今回はその強さを期待しておくぜ。話を戻すが…………アイシャはオレ達と、オレ達と同等、そしてそれ以上の念能力者を含めた11人を同時に相手して無傷で勝つ実力者だ」

「……は?」

 

 カイトはミルキのその言葉の聞いて、その言葉の意味を良く理解して、自分の脳がイカレてないか何度か再確認する。

 

「いや、流石にそれは……」

「ついでに言うならアイシャと戦った11人の念能力者の内、1人は風間流の現最高責任者だ」

「あと、ネテロ会長と引き分けた実績もあるな」

「お互いに自分の負けって言ってたね」

「幻影旅団も殆どアイシャ1人で壊滅させたんだろ?」

 

 ゴン達の口から次々と出てくる情報を信じられない思いで聞いているカイト。これが真実ならばそのアイシャとはどんな化け物なんだ、と。すでにカイトの中でアイシャが人間の姿で想像出来なくなっていた。

 

「もう分かっただろ? そんなアイシャがオレ達を置いて行ったんだ。危険だから。守れないかもしれないからってな。まあこの辺りの理由はオレ達の想像だけど、大して間違っちゃいないだろうな」

「……なるほどな。分かった、正直理解しきれん所もあるが、想像よりも更に危険だと心しておこう」

 

 カイトもゴン達の話を信じていないわけではないが、アイシャという人物を見たことも聞いたこともない現状では鵜呑みにすることも出来ない。

 だが、ゴン達の話しぶりから今回の事件についての認識を改める必要があるという判断には達したようだ。

 

 

 

「着いたぞ。あれがNGLの検問所兼大使館だ。そんじゃな。こんな辺鄙なトコに来る機会がまたあるなら利用してくれ」

 

 NGLの国境付近まで運送してくれた男はそう言い残してドーリ市まで帰っていった。

 トラックから降りたゴン達の目の前には大きな川を跨ぐように繋がっている2本の大木があった。この大木をくり貫いて作った道を利用して検問としているのだ。つまりこの木の中を通って川を超えればそこはもうNGLということである。

 

 検問所に入ったゴン達を待ち受けていたのは厳重な検査だった。

 まだ国境間際にある検問所はNGL国内ではないので、そこには大量の機械が設置されており、その機械で徹底的に入国者の身体調査をするのだ。

 全てはNGL国内に文明の利器を入れない為に。

 

 金属類はもちろん、身に着けている物に石油製品ガラス製品化学繊維等が含まれていると天然素材の衣服へと着替えなければならない。

 体内に異物が埋め込まれているかどうかも様々な専用機器で調べられる。

 そうして厳しい審査を乗り越えられた者だけがNGLへの入国を許可されるのだ。

 

 結局入国出来たのは5人だけだった。

 入国出来なかった者達はカイトのチームメンバーの6人。その内2人は入国条件を満たしてはいたが、ゴン達からの情報により予想以上にキメラアントの危険性が高い可能性があると踏んで入国を取りやめておいたのだ。

 彼らはカイトに2週間経っても連絡がない場合はハンター協会に緊急連絡をするように頼まれて、ドーリ市で待機することになった。

 

「お疲れさま。どうぞお通りください。NGLへようこそ!!」

 

 検問所の所員の歓迎を受け、NGL自治国に新たなハンター5人が足を踏み入れた。

 

 

 

 

 

 

 巨大キメラアントの存在が一部の人間たちに発覚される前に、既にキメラアントの女王はNGL内で巣を築き上げていた。

 幾度か移動を繰り返し、気に入った土地を見つけた女王は大量の建築蟻を産み出して凄まじい速さで居城を建城したのだ。

 そこで女王は王を産む準備に取り掛かっていた。大量の人間を摂食し、その栄養を全て胎内にいる王に注ぐのだ。

 

 それだけではない。王が産まれるまで、王を産むために最も重要な自身を護らせる為に自らの忠実な兵たちを強化しようと試みた。

 

 “師団長ども集まれ”

 

 女王から師団長――キメラアントの階級の1つ。王と王直属護衛隊を除き、女王に次いで階級が高い――をキメラアント特有の信号で呼び付ける。

 女王が王を産むために作られた一室にて横たわりながら集まった師団長達に命令を下す。

 

 “これより私は王を産む準備に専念する!!”

 

 女王の命令は1日に50体の人間を餌として自身に届けよというものだ。

 王を産む時期になると女王の食欲は増してくると言われているが、この大きさのキメラアントになるとその食欲も相応のものになっていた。

 このままキメラアントにとって順調に事が進めば、一体どれだけの人間が犠牲になるのか……。

 

 そして、女王の命令はそれだけではなかった。

 

 “もう1つ。人間どもの中に稀に生命エネルギーに満ち溢れた者が混じっているのを知っているな”

 

 女王は餌である肉団子――元が何であるかは言うまでもない――を食べた時にその違いを何度も味わっていた。

 明らかに通常の肉団子と比べて味が上質で生命エネルギーに満ちている肉が時折混ざっているのだ。

 部下に確認したところ、そう言った存在を見かけたこともあるらしい。部下たちはレアモノと言っていたが。

 

 とにかく、その存在を女王は欲していた。そのレアモノは餌として最高級のご馳走だからだ。

 だが部下からそのレアモノはそこらの餌よりもよっぽど手強いとの報告があった。それはやはり生命エネルギーに満ちていることが原因だろう。

 そして女王は考えた。人間に出来ることならば我々にも出来るのでは、と。

 

 女王は心の何処かで自身に薄くはあるが人間の血が流れているのではと思っていた。

 さらに思考が出来、知恵があり、強靭な肉体がある。人間などよりも優れた存在であるキメラアントだ。

 ならば人間に出来ることが出来ないわけがない。そう結論付けるのに大した時間は掛からなかった。

 

 だが、どのようにしてあのような生命エネルギーに溢れた存在に成ることが出来るかまでは女王には分からなかった。

 そんな女王にその生命エネルギーについて詳しく進言した師団長がいた。その師団長曰く、その生命エネルギーは念能力と呼ばれる物だ、と。

 

 【念能力】。それこそがレアモノと呼ばれる人間が扱う未知のエネルギー。

 それ自体は生物全てが持つエネルギーではあるが、扱うとなればそれなりの知識と技術が必要だ。

 つまり知恵なき生物ではまともに扱うのは無理だということだ。例えそこらの下等動物が念能力に目覚めたとしても、人間ほど念を操ることは出来ないだろう。

 

 “この者を見よ”

 

 だが、キメラアントはどうだろうか?

 もちろんただのキメラアントでは念能力を操るなど出来るわけがない。一般的な蟻と違えど、所詮は蟻に過ぎないのだから。

 しかし人間の特徴を反映させて産まれてきたキメラアントなら話は別だ。

 そう、人間最大の武器……知恵を身に付けたキメラアントならば、念能力を身に付けることも可能だということ!

 そしてその証拠を、女王の前に立つ1匹の師団長が見せつけた。

 

『おお……!』

 

 数多の師団長の前で1匹の師団長がその身にオーラを纏う。

 それをゆっくりとだが自在に動かして、その場の師団長たちを驚かせた。

 

 女王は人間を好んで摂食するようになったため、産まれてくる次世代キメラアントも人間の特徴を反映して産まれてくる。

 その次世代の中には元となった人間の記憶を全てではないが継承して産まれてくる者もいたのだ。

 記憶の継承には個人差があり、前世の名前を覚えている者もいれば、全く何も覚えていない者もいる。

 その中に、前世が念能力者であったキメラアントがいたのだ。彼は師団長として新たに産まれ、人間を捕獲している内にレアモノに出会った。

 その時に自身も念能力者だったことを思い出したのだ。そして一度思い出せば念能力を再び身に付けるのは簡単だった。

 

 “この力をお前たちも覚えよ。そして更なる上質な餌を私に献上するのだ”

 “はは!”

 

 そうして念能力を覚えた師団長による授与式――念の洗礼――を全ての師団長と兵隊長が受けることとなった。

 初めに念を覚えた師団長は、元となった生前の人間がたまたま念能力者であった為にキメラアントとして産まれ変わってもすぐに念を覚え直すことが出来た。

 だがそんなキメラアントは極少数だ。大多数のキメラアントの元はただの人間だ。そもそも記憶を継承していない者もいる。

 師団長クラスになると多くの者が記憶を多少ではあるが継承しているが、そこから階級が下がるごとに記憶の継承は少なくなっていく。戦闘兵や雑務兵――師団長や兵隊長の世話係の蟻――となると殆ど覚えていないだろう。

 

 とにかく、生前念能力者ではないキメラアントが大多数を占める為、念能力を覚えるのに最も手っ取り早い方法をキメラアント達は選んでいた。

 それが念の洗礼である。

 

 念に目覚めていない体に念による強力な攻撃を与えることで全身にある精孔を無理矢理こじ開けるという危険な方法だ。

 上手く行けば一瞬で念能力に目覚めることが出来るが、下手すれば死ぬ可能性もあるだろう。

 この洗礼で幾多のキメラアントが使い物にならなくなるだろうが、元々強靭な肉体を持つキメラアントだ。人間よりも生き残って念に目覚める確率は高いと言えた。

 

 そしてそれは当たっていた。全ての師団長は洗礼を乗り越え、兵隊長も半数以上が洗礼を乗り越えることが出来た。

 それは人間を超えるポテンシャルを持つ存在が、更なる力を手に入れた瞬間でもあった。

 

 ――ふふふ。これで我が兵は更なる力を手に入れた――

 

 女王は部下から送られた信号により洗礼の結果を知り内心でほくそ笑む。種全体を強化することは王を強化することに繋がるからだ。自身も部下から聞いた念の本来の目覚め方を実践しつつ、胎内で育ちつつある王を思って確固たる予感を覚える。

 

 ――我が王よ。其方は必ずやこの世界の頂点に立つ!!――

 

 




 原作と違い、師団長の中に念能力者がいたのは捕食されたNGLの裏の連中に念能力者がいたからです。まあ原作でもいたかもしれないけど。

 ここら辺から原作でも細かな日数経過が曖昧。なので当ssでもちょっと日数の進みは適当です。NGL入国後にカイト達がキメラアント探索に掛けた日数とか良く分からないのです……。NGL自体が地図で見た限り北海道よりは大きいと思うんですよね。で、キメラアントと遭遇したのが大体国の中央よりもやや西側。カイトが入国した国境は真東のはず。流石に1日以上は掛かっていると思うけど、そういう描写が少なすぎて分かんない(´;ω;`)







※この小説はログインせずに感想を書き込むことが可能です。ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に
感想を投稿する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。