一筋の光すら見えない暗闇が、周囲を覆いつくしている。
見回してみても、何も見えない。 辺りに何があるのか分からなければ、この空間がどこまで続いているのかも分からない。
こんなに暗いのは僕が目を閉じているからなのだろうか。
問いかけても答えは返ってこない。
それとも僕は光を失ったのか。
答えは返ってこない。
静寂だけが存在を主張し、僕の声などはまるでかき消されてしまっているようだ。
何に? 分からない。 そもそも、本当に声を出せているかすら怪しいものだ。
とにかく行動を起こそうと腰を上げるようとすると、驚いた。 まるで体を動かすという感覚が感じられない。
必死に足を動かそうとしても、腕を、頭を、胴を動かそうとしても、決して動いてはくれない。
感覚がないのだ。 そもそも動いているかすら分からない。 例え動いていたとしても、この暗闇の中で見定めるのは不可能だ。
だんだんと恐怖が襲ってきた。 ここはどこだ、とか、早く元の場所に戻してくれ、という焦燥に駆られる。
そうだ、そもそもこれは夢なんだ。 多分今は、夢の中で金縛りのようなものにあっているだけ。
もうすぐすれば、夢は覚めて、元の楽しい日常に戻る。
そう、あの少女と一緒に過ごすべき──過ごすべき、何だ?
記憶にノイズが奔る。 確かに覚えている。 この淡い紫色の髪の少女を、僕は知っている。
だけど、分からない。 声も、顔も、手の小ささも、いつもはふざけているけど、本当はやさしくて頑張り屋なところも、全て知っている。
そのはずなのに、分からない。 名前も、声も、顔も、性格も、塗りつぶされるように消えていく。
誰だっけ、この娘。 見たことはある。 でも分からない。 いや、会ったことなんて無かったはず、なのに何で知ってるんだ。
そもそも、僕は誰だ。 この世界にいきなり召喚されて、プロデューサーって呼ばれることになって、そして、そう、そうだ。 女神とかいうのに、プロデューサーをやれっていわれたんだ。
そこで、僕はあの女の子と一緒に頑張ろうって決めて、自己紹介をしたんだ。
そう、えっと、僕の名前は──プロデューサー。 あれ? 違う。 僕にはきちんと名前があるはずだ。 プロデューサーって名前が。
そうだ。 僕の名前はプロデューサー。 間違いない。 だって、皆そう呼んでたんだ。 僕のことを。
あれ? 皆って誰だ? さっきは思い出せたはずなのに。 いや、思い出せたってなんだ。
僕はなんだ? どうしてここにいる? なにをしている? なにを忘れている? なにを覚えている? 何も分からない。 分からないんだ。
自問自答を繰り返すたびに、疑心暗鬼に堕ちていく。 そんな僕をあざ笑うかのように、暗闇が僕に迫ってきた。
おしつぶされそうになる。 やめてくれ。 ぼくにはまだ、いっしょにいたいひとがいたはずなんだ。 だから──
「…お姉ちゃん」
「……」
「…お姉ちゃん!」
「…えっ…あ、あぁ、なぁんだネプギアかぁ。 驚かせないでよ」
「また、手、握ってたんだね」
「…うん。 こうすれば、ひょっとしたら、起きてくれるかもーって思って」
「…お姉ちゃん」
「分かってるんだ。 あの時、私がわがまま言わなければ、きっとこうならなかったんだろうなって」
「自分を責めてちゃダメだよ。 ほら、クマできてるよ。 今日はもうお休みしよう?」
「…もうちょっとだけ、いさせて。 そうしたら、私も寝るから」
「…分かったよ。 でも、早めに来てね」
「うん。 ありがとう、ネプギア。 おやすみ」
「お休み、お姉ちゃん」
「……ぷろでゅーさー。 早く、起きてね。 まだ、たくさん、一緒にゲームとか、したいから。 お願い。 …お願い」