Fate/The third ~Who's That Guy~   作:ネイキッド無駄八

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 感想欄の親切な方の教えによって、喜び勇んでdビデオの登録をしようとしたところ、『クレジットカードじゃないと決済できますぇ~~ん』と言われてしまいました。
 四号は大人しくDVDレンタル開始を待ちます。ちくせう。
 では、偽りの戦端第二幕、はじまりはじまり。


偽りの戦端 Ⅱ

 戦いの始まりは、突然だった。

 

 

 

 「――――――ッ!!」

 

 

 

 号令もサインも一切無し。

 合図の類をひとつも見せることなく、黒衣の暗殺者たちは一斉に仮面の戦士へと突貫した。

 

 「ぬっ……!」

 

 即座にアサシン達の動きに対応して迎撃の構えを作った3号。

 しかし、その程度のことは折り込み済みだったのであろう。

 アサシンらはその技巧の限りを遺憾無く発揮し、3号を強襲した。

 

 「……フッ!」

 

 一番槍を務めたのは暗殺者らの中でも最も饒舌だった一人、ザイード。

 流麗な足捌きで以て3号に瞬く間に肉迫し、得物の短刀を隙のない動きで無駄なく振るう。

 

 「フン、なかなか疾いな。素早さだけなら、褒めてやってもいいが……!」

 

 しかし、余裕の台詞でその素早い短刀を捌き続ける3号。

 確かにザイードの動きは洗練された物ではあったが、次々振るわれる短刀は仮面の戦士に掠りもしない。

 

 突き込まれれば、半身をずらし。

 左右に振り抜こうとすれば、刃が届く前に尽く手刀で迎撃され。

 跳躍と共に上段で叩き落とされれば、カウンター気味にアッパーで顎をカチ上げられた。

 

 「グウッ……!」

 

 苦悶の声を伴って、たまらず吹き飛ばされるザイード。

 かろうじて空中で受身を取り、何とか着地の姿勢を取ったアサシンの一体へと向けて、3号は追撃を試みんとする。

 

 ――――しかし、

 

 

 

 

 

 「―――我らを」

 

 

 「―――忘れているのではあるまいな?」

 

 

 

 

 位置にして、三時と九時の方角。

 声が聞こえた瞬間、ザイードとは別のハサンが二体、3号を左右から挟撃したのだ。

 片や、二メートルを優に超える程の背丈の見上げるほどの大男が、その巨腕を振りかざして。

 片や、ローブを目深に被った痩せ型の男が、携えた曲刀を逆手に構えて。

 

 タイムラグ無しの同時攻撃が、3号へと襲いかかる―――!

 

 

 

 「見くびるな。その程度の奇襲、気取られていないとでも?」

 

 

 

 金の瞳が煌き、銀の鎖が踊る。

 

 

 「グアッ……!?」

 

 

 曲刀持ちのローブは、腹に突き刺さるようなサイドキックを叩き込まれて木っ端の如くに吹き飛ばされ、

 

 

 

 「ば、莫迦な……!!」

 

 

 巨漢の拳は、交差した両腕で悠然と受け止められていた。

 

 

 

 「二人同時ならやれるとでも思っていたか? つくづく、甘い見通しだ……ッ!」

 

 

 

 ――――ドズン――――

 

 

 「……ッ!? グ……ゥウ……!」

 

 

 膂力のみで巨漢の腕を撥ね退けた3号は、態勢を崩した巨漢アサシンのガラ空きとなった腹めがけて渾身のボディブローをぶち込んだ。

 ハサンの中でも豪腕とタフネスが自慢の大柄なアサシンは、己より遥かに小柄な仮面の戦士の前に、身体をくの字に折ってたまらず膝をつく。

 

 

 しかし、それだけでは終わらなかった。

 

 

 

 「………………ッッ!!」

 

 

 

 残心を解く3号の頭上、完全な視界の外から音もなく急降下する()()()影。

 アサシンの十八番である隠形と敏捷を最大限に発揮し、更に『百の貌のハサン』の真骨頂である物量でもって仕掛けた二重の囮の末の本命の奇襲。

 完璧なコンビネーションでもって些かのタイムラグも無しに放たれた三閃の短刀に、

 

 

 ――――殺った―――――!

 

 

 確信的な手応えを持った三騎の暗殺者の凶刃が、仮面の戦士へと突き刺さり――――

 

 

 

 

 

 「――――トオッ!」

 

 

 

 

 直蹴り、直蹴り、直蹴り。

 

 

 

 刹那の間に打ち出された速射砲の如き三連蹴りによって、声もなく三騎のハサンは宙を舞った。 

 『追いながらにして追われる時、その敵は最も脆くなる』。

 孔子の言葉を引き合いに出したくなるような、そんな一幕。

 勝利を確信し、反撃が飛んでくる可能性など考えもしていなかったアサシンたちは全くの無防備でその一撃を受ける羽目になったのだった。

 

 

 「奇襲のタイミングが完璧すぎたのが、逆に仇となったな。そう来るだろうと踏んでいたタイミングきっかりでちょうど飛び込んできたものだから、目を瞑っていても迎撃出来たぞ?」

 

 「………………ッ!」

 

 

 右手の鎖を左手で手繰りながら、嘲笑うように3号は暗殺者らへと挑発を飛ばす。

 瞬く間に六騎の暗殺者を退けた仮面の戦士に対し、残りのアサシンたちは露骨に尻込みをしていた。

 いくら暗殺者のクラスが非力と言えど、敏捷と数に物を言わせた攻撃の悉くを眼前の仮面の戦士は事も無げにあしらってみせたのだ。

 それも、得物も無しの完全な無手、徒手空拳のみで。

 かなり白兵戦に長けた、更に言えば格闘術に相当の心得がある英霊に違いない。

 ただ、古今東西、名のある格闘家は数多居れどもこのような奇怪な仮面と甲冑に身を包んだ英霊はハサンの知識には存在しなかった。

 名のある格闘家では無いのかもしれないが、だとしたらマスターである褐色の少女はとんでもない英霊を掘り当てたことになろう。

 

 しかし、そんなことはどうであれ。

 口にはせずとも、百の貌のハサンは今やその全員が同じ思考を抱いていた。

 

 

 『このサーヴァント、かなり出来る……!』

 

 

 ――――ザリッ。

 

 そんな彼らへと向け、3号は一歩を踏み出した。

 覚えず、条件反射のようにハサンらは一歩を退く。

 傍から見ても明らかなほどに、黒衣の暗殺者の群体はたった一人の仮面の戦士相手に気圧されていた。

 軽く嘆息した仮面の戦士は、不意にその右腕を掲げる。

 そして、おいでおいでをするように指をクイクイと動かす。

 

 「あいにくだが、俺はその程度の人数相手にするくらい慣れっこなんだ。貴様らに比べたら、ショッカーの戦闘員の方がまだ骨があるくらいだ。まどろっこしいのは抜きにして、もう全員でかかってきたらどうだ」

 「――――!!」

 

 なぜならば、この男は仮面ライダーなのだ。

 多対一の戦いこそがライダーの戦いであり、無勢で多勢を下してこそがライダーの戦いなのだ。

 例えそれが、別の世界であっても。例え相手が、英霊であっても。

 仮面ライダーとして通すべき筋には、一切の揺るぎもなし。

 

 「どうした、来ないのか? それともこのまま、にらめっこでも続けているつもりか?」

 「……図に乗るな、仮面の戦士!」

 

 例え闇に紛れて寝首を掻く暗殺者と言えども、彼らなりのプライドはあるのだろう。

 これ以上の屈辱には耐えられないとばかりに、彼らはついにその決断を下した。

 

 漆黒の森を縦横無尽に駆け抜けるは、黒衣の暗殺者の大軍団。

 

 今こそ百の貌のハサンは正しく百の暗殺者の全てを投じて、仮面ライダー3号へと吶喊する。

 

 「……カアアアアッ!!」

 「……ぬうんっ!!」

 

 

  

墨を零したような闇夜の中、鈍の鎖と暗殺者の短刀が鋭い閃きを放つ。

 それを合図に、大混戦は幕を開けたのだった。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 「わあ……」

 

 

 眼前で繰り広げられる殺劇演舞を、褐色の少女はただただ固唾を飲んで見守っていた。

 人ならざる者たちの戦いは正しく人外魔境の様相を呈しており、少女はまるで自分が立っているこの場所が現実では無く、さながら夢の中なのではないだろうかという感覚さえ覚えつつあった。

 

 

 五つの影が目まぐるしく飛び交いながら、次から次へと仮面の戦士へと突撃し、

 打ち出された拳が瞬く間に五つの影を吹き飛ばした。

 

 

 十の黒衣が十の短刀を閃かせて仮面の戦士に次々に切りかかると、

 十の蹴りがたちまち十の黒衣を蹴散らした。

 

 

 二十の暗殺者が二十の暗殺を試みれば、

 二十の拳と蹴りがひと息に二十の暗殺者を返り討ちにした。

 

 

 五十のアサシンが、五十の死の雨となって3号へと降り注げば、

 

 

 「――――ハアアアアアアッ!!」

 

 

 駆け抜けた疾風がそれら全てを余さずまとめて、一切合切成敗した。

 

 

 

 ただただ、歴然。

 ただただ、圧倒的。

 

 多勢相手にものともせず、孤軍奮闘する様はまさに疾風の如し。

 仮面の戦士は、ひたすらに強かった。

 

 

 「すごい……! これが、彼のチカラ……!」

 

 

 彼女の脳裏に浮かんだのは、とある言葉。

 島の男の子達が、よく遊びでなりきっていたもの。

 多分、あの子もそうだっただろう。

 弟のように可愛がっていた、あの子もきっと言っていた。

 誰もが憧れて、誰もが夢見た、その存在。

 

 

 

 『×××××××』

 

 

 

 彼女はその言葉を、しかし口にはしなかった。

 ただ、すこしだけ。

 ほんのすこしだけ、彼女はその言葉を口にすることを、なぜか憚られた。

 どうしてだろうと、彼女はその違和の正体を考える。

 やがて気づいたのは、目の前で戦い続ける彼の姿。

 

 (なんだろう……なんだか、あの人……)

 

 仮面の戦士は、依然として暗殺者たちの猛攻に真っ向から立ち向かっている。

 怖れなど微塵も窺わせず、ただひたすらにアサシンたちを蹂躙し続ける彼の姿。

 

 その戦いに、その背中にその姿に、彼女が見出した答えは――――

 

 

 

 「どうして、そんなに……」

 

 

 「――動くな」

 

 

 

 心臓が止まるかというほどの衝撃を、彼女は瞬間的に感じた。

 少女を凍りつかせたのは、囁くような脅しと、喉に突きつけられた短刀の冷ややかさ。

 背後から抱きすくめられるように動きを封じられた少女は、声を上げることも出来ずにその身を固くするほか無かった。

 首を回すことも叶わないその体勢ゆえ、少女には己を拘束している者の姿は確認できなった。

 ただ、背に所々感じる感触や、腕を後ろ手に捻りあげている手の感覚、更に聞こえた声の調子から、

 

 

 (女の人……!?)

 

 

 そういえば、先ほど包囲網を敷いていた暗殺者たちの中には、ひとりだけ髪を高く結わえたスレンダーな体型の女性が居たような、などと他人事のように少女は思考を走らせていた。

 やがて、暗殺者たちと大立ち回りを演じていた仮面の戦士も、少女の状況を見るや戦闘の手を止めて、ゆっくりと少女と女アサシンの方へと向き直った。

 

 「ご………ごめん……。捕まっちゃった、ハハハ……」

 「ハァ……、こうなるだろうと思っていたから、わざわざ挑発して俺の方へと目を向かせていたつもりだったんだがな。さすがはアサシンのクラス、『マスター殺し』は伊達じゃ無いということか」

 

 やれやれと肩を竦めた仮面の戦士は、抵抗する意思が無いのを示すようにお手上げのポーズを取ってみせる。

 じりじりとハサンたちが3号へと向けて距離を詰めていくのを見届けて、女アサシンはすっかり勝ち誇った様子で少女と3号へと宣った。

 

 「随分と手こずらせてくれたが、我らの手にかかれば造作も無いこと。アサシン風情と侮ったが貴様の敗北よ、仮面の戦士」

 「別に、侮ったつもりは無いが。さて、この状況だが、これから煮るなり焼くなり、好きにされてしまうのかな?」

 「そうしたいのはやまやまだが、貴様相手に油断など間違ってもする気は起きぬ。マスターには申し訳ないが、ここは我らの独断で早々に始末させて頂く。貴様ほどのサーヴァントを落としたとなれば、戦果としては上々だ」

 「時間稼ぎも通用しない、と来たか。やれやれ、困ったもんだ……」

 

 右手の鎖を左手でクイクイと弄りながら、参ったねといよいよ投げやりな態度へと変わってきつつある仮面の戦士に、少女は喉元の恐怖も忘れて思わず金切り声を上げた。

 

 

 「ちょ、ちょっとお! そんなにあっさり諦めないでよね!? アナタけっこう強かったじゃない! だったら、このくらいの危機どうにかしてみせてよ!」

 「そうは言っても、状況が悪すぎる。俺が下手に動きを見せたら、瞬きする暇も無くお前の首と身体はお別れすることになるんだぞ。それでも構わないと?」

 「うわああああん! 絶対そんなのイヤよ! こんなどこかも分からないトコロで死ぬのはイヤ! アリマゴ島に帰してよぉ! おねがいぃぃい!!」

 「俺に言うな……。それこそ、聖杯にでも願ったらどうだ?」

 

 

 身も世もなく泣き出し始めた少女と、うんざりだと言わんばかりに肩を落とした仮面の戦士。

 それらを前に、いよいよ短刀を少女の肌へと喰い込ませ始めた女アサシン。

 

 

 「ヒィッ!?」

 「茶番もそこまでにしてもらおうか。さぁ、仮面の戦士よ。消滅する前に、何か言い残すことでも?」

 「……もはや突っ込むのも野暮かもしれないが、一応聞いておこう。貴様ら、こんな手で勝ち上がっていって誇らしいか?」

 「無論。それが我らの生業だ」

 「卑しいとは思わないのか?」

 「勝手に抜かすがいい。殺される方が悪いのだ。ここはルール無用の聖杯戦争だぞ? そんな負け惜しみは、犬にでも食わせてやるがいいさ」

 「ははは、それはその通りだ。これは一本取られたな」

 

 

 乾いた笑いを零す仮面の戦士と、もはや血管に到達するまで薄皮一枚のところにまで迫り来た暗殺者の短刀。

 小麦色に焼けた少女の喉が恐怖に浅く上下し、両目もきつく瞑られた。

 

 掛け値なしにのっぴきならない、絶体絶命のその状況。

 そこにあって、仮面の戦士は静かに告げた。

 

 

 「なら、最後にもうひとつだけ……」

 

 「なんだ? もう末期の言葉は済ませただろう? 今更なにも……」

 

 

 掲げていた両手はそのまま。

 もちろん、被っていた仮面によりその表情は窺えなかったのだが。

 万歳するようなその姿勢で、仮面の戦士はたしかに()()()

 苦笑するように、そう言い放ったのだ。

 

 

 

 

 

 「――勝てば”正義”、負ければ”悪”。そういうことで、いいんだろ?」

 

 

 

 

 

 

 ――――GYAAAAAAAAAOOOOOOOOOOOONNNNNNNN!!!!

 

 

 

 森の静寂に突如響き渡ったのは、鋼の獣の大咆哮。

 静まり返った闇夜の森を、けたたましく掻き鳴らしたエグゾーストが無惨に切り裂いていく。

 墨で塗りつぶしたような漆黒の森を、いっそやかましいまでのハイビームが容赦なく暴いていく。

 木々を薙ぎ倒し、跳ね飛ばし、吹き飛ばし、折り飛ばし――――――

 

 

 

 「がっ……、は……あ……ッ!?」

 

 

 「ぐ……お……おおおおっ……!?」

 

 

 「ぐああああああああああっ!!」

 

 

 

 

 

 女アサシンを轢き飛ばし、その他モロモロのハサン全てをも木っ端にしたところで、鋼の獣はようやくその牙を収めた。

 それら一部始終を微動だにすることなく見届けた仮面の戦士は、やがてゆったりと歩みを進めた。

 光が霧散するかのように弾け、仮面の戦士は変身を解きながら、すっかりおとなしくなった己の愛機、『トライサイクロン』へと向けて歩み寄る。

 

 そして、その途中で――

 

 

 「……………………きゃぁぁぁぁああああああああ!!」

 「よっと」

 

 

 天高く舞った後に悲鳴と共に地上へと飛来してきた褐色の少女を、お姫様抱っこの要領で両手でもって受け止めた。

 はーっ、はーっと涙目で荒い息を吐く少女に、黒井は済まなそうな顔を作ってみせる。

 

 「空の旅は、楽しかったか?」

 「…………アナタ……、はーっ……、ぜー……、おぼえて、なさいよ……」

 「悪かったとは思ってるさ。ただ、お前だって()()()()()()()んだろう?」 

 「いくら事前に合図されてたからってねえ! 心の準備ってものが……!」

 

 ほう、と目を見張って驚きを表す黒井へと向けて、穏やかでない顔つきはそのままだったものの、

褐色の少女はやや得意げに顎を上げた。

 

 「”やれやれ、困ったもんだ”の時でしょ? 鎖を触るクセには気づいてたんだけど、あの時は他のケースよりも回数がちょっと多過ぎた気がしたの。違う?」

 

 抱えられていることに気づいていないのだろうか、腕の中で自信満々で自説を展開する少女に、苦笑と共に黒井は言葉を溢した。

 

 

 

 

 「やれやれ、困ったもんだな……」

 

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――

 

 

 

 「ねえ、聞いてもいいかしら?」

 

 

 激闘を終え森を抜けてみれば、そこは人気のない山道だった。

 未だ夜が明けないからだろう、車の一台ともすれ違うことのない悠々としたドライブを続けていたトライサイクロンの助手席で、褐色の少女はハンドルを握る黒井へと向けて尋ねた。

 視線は前方から切ることなく、片目だけをそちらへと寄越して黒井は返答する。 

 

 「なんだ?」

 「うん……」

 

 かと思えば手遊びを始め、なかなか少女は続きを口にしようとしない。

 それに特に構うことなく、黒井はハンドルを緩く切ってカーブを曲がった。

 普段の彼からしてみればのんびり走りすぎて欠伸が出るほどの速度ではあったが、なんとなく今は峠を攻めるような気分では無かったし、きっと助手席の彼女だってそうではないだろう、などとぼんやりと思いながら、あてのない運転を彼は続ける。

 やがて、ようやくその気になったのか、少女が訥々と言葉を紡ぎ始めた。

 

 「んーっと……。まずは、ありがとう。アタシのこと、助けてくれて」

 「気にするな。マスターを守るのは、サーヴァントとして当然の行いだ。そうしなければ、俺が困ることになるからな」

 「もう、そういう言い方はどうなの? じゃあ、アナタはアタシがマスターじゃなかったら、助けてくれなかったっていうの?」

 「さて、どうだろうな」

 

 なんとも言えない返答を返した黒井の眼前、山道はやや入り組んだコースを形作っていた。

 速度は落とさず、ハンドルを左右に切りながら難なくそれをやり過ごす。勿論、車体は少しもぐらつきはしない。

 少女の言葉が、更に続く。

 

 「マスターとか、サーヴァントとか……。アタシには分からないことだらけ。ううん、違う。分かっていることのほうが少ないや。いったいここがどこなのか、少なくともアタシの島じゃないことくらいしか、今のアタシには分かってない」

 「…………」

 「これでもアタシ、けっこう勉強は出来る方なんだよ? でも、この状況にアタシの知識はぜーんぜん役に立ってくれないんだ。なんか、自信無くしちゃうよ。世界は広いって、きっとこういうことを言うんだろうねー」

 「無理はないと思うぞ。今お前を取り巻く状況は、極めて特殊かつ異常だ。まともな人間なら、関わることなく一生を終えて然るべきことなんだ。理解できなくて、当然だ」

 「んー、そうなの、かな……?」

 

 下り坂に入ったことで、緩くブレーキを踏みながら運転を続ける黒井は、木々の間に見える景色に思いを馳せていた。

 ひとまず、山を抜けようか。そうして、落ち着ける場所を探そうか、と。

 そんな彼に、少女はひとつの提案をした。

 厳密に言えば、それは提案というよりか表明のようなものだったが。 

 

 「とりあえず、アタシは知りたいんだ」

 「”知りたい”?」

 

 そう、と深く首肯する少女へと黒井は反駁した。

 

 「知りたい、というのは、つまり」

 「”聖杯戦争”、だっけ。マスターとサーヴァントの、殺し合い……、であってるのかな? それもそうだし、それ以外にも、もっともっといろんなこと、アタシは知りたいよ」

 「……どうして、わざわざ危ない橋を渡ろうとする? ”ソレ”が内包する危険に気づかないほど、お前は馬鹿でもないだろうに」

 「だって、もう巻き込まれちゃってるんでしょう? なら、戦わなくちゃ。戦わなければ、生き残れないじゃない」

 

 戦いの基本は情報収集、というつもりでは無いのだろうが。

 『知ること』。それが彼女なりの戦い方、なのかもしれない。

 そして、それは或いは彼女の『根源』なのかも、しれない。

 

 「魔術なら、多少は心得もあるんだよ、アタシ。だから、知識を広げることはたぶんムダにはならない。ね、いいでしょう?」

 「そうなのか? どっちにせよ、お前が戦う気でいるのはこちらとしても助かる話だ。マスターが尻込みしているようでは、勝てるものも勝てなくなるからな」

 「ふふん、なら、決まりね」

 

 セーブしていた速度を、黒井は少しだけ上げた。

 トライサイクロンの白いボディを、雲の切れ間から差し込んだ薄い光が静かに照らしている。

 もうすぐ、夜が明けるだろう。

 

 「その手始めに、まず知りたいことがひとつあるな」

 「ん? なんだ?」

 「アナタの、名前」

 「……さっき、名乗っただろう。俺は、仮面ライダー3号……」

 「ううん、そうじゃないよ。聞きたいのは、本当の名前だよ?」

 

 

 

 黒井が横目で窺った先。

 

 優しい光が、小麦色の肌を柔らかに照らしていた。

 

 

 

 

 

 

 「シャーレイ」

 

 

 

 

 

 朝焼けの光の中、少女は己の名前を黒井に明かした。

 それだけ言って、微笑みながら黙って何かを待つ仕草をする褐色の少女。

 

 (いや、『仮面ライダー3号』も、立派な俺の名前なんだがな)

 

 それに応え、黒井もわずかだけ顔を少女――シャーレイへと向けて、己の真名を明かしたのだった。

 

 

 

 

 「黒井……。黒井、響一郎だ」

 

 

 

 

 

 満足そうに笑みを濃くしたシャーレイは、噛み締めるようにその名前を反芻する。

 

 

 「キュロイ……、クウロイ……、うーん、アナタの名前、呼びづらいね」

 「名乗らせておいて早々に失礼な奴だな。だいたい、そこまで言いづらくもないだろう?」

 「クーロ……、クロウイ……、ケリトゥグ!」 

 「なんでそうなるんだ……?」

 

 

 

 二人を乗せたトライサイクロンは、朝焼けの中を静かに走り去っていった。

 




 はい、というわけでアッサシーンでした。
 戦闘描写がいつまでたっても上達しません。誰かなんとかしてください。
 ところで、ステータスとか宝具とかを考えていたんですが、ライダーキックの名前が中々決まりません。どんな漢字を当てればカッコ良くなるものか、大いに悩んでおります。
 こんなんどうや? なんてのがあれば、遠慮せずにガンガン感想にでもメッセージにでも書いていっていただいて構いませんので、つまりは誰か助けてください。
 というわけで次回、ランサーvsセイバー、になるといいなあ。
 『惑わされるな! 黒子男の黄色い槍!』
 お楽しみに!(大嘘)
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