霧の忍刀七人衆の扱いが悪いです。
色気の「い」の字もありません。
内容で、判りにくいところがありましたので、修正を加えております。
目が覚めた時、とてつもない疲労と激痛があった。
なにがあったのか。
自身の体を見ると、全身に何種類もの傷があった。
刺創、裂傷、挫傷、場所によっては爆傷や銃創らしきものもある。
よくもまあ生きているものだ。
男は大分時間を掛けて倒れた姿勢から何とか座位に持って行き、
…気の循環がうまくいかない。
男は焦らなかった。
男はまるで石仏のように、そこにあり続けた。
男は回想する。
男は生まれ、師に師事して
拳を捨てようともした。
迷いを払ってくれたのは友と強敵であった。
恐るべき怪人とも戦った。
1人では戦う事も出来なかったが、友のおかげで倒す事も出来た。
世界の常識を疑うような超人たちとも知り合い、そして共闘した。
男は老い、己の後を追うもの達に常にその背中で語り続けた。
男はさらに老い、友を失い、山に籠った。
若いころから自給自足の生活には慣れている。
時々やってくる猛々しい若者たちの相手をしながら、時間はゆっくりと過ぎて行った。
いつしかその生活にも終わりはくる。
じっくりと体は動かなくなり、床につく時間が増えた。
古傷がじくじくと痛み、眼はかすみ、耳は遠くなった。
男は老いを楽しんでいた。
ゆっくりと人生の終焉に向かう。
男の人生は完成しようとしていた。
死を前にして、男の前には異形の群れが見えていた。
お互いを相食む戦人の群れ。
殺し、殺されを延々と繰り返す修羅の世界。
それを前にして、なお男は穏やかな笑みを浮かべた。
「オレはそちらには行かんよ。
お前達は人が制御しなければならない感情の力だ。
オレはずっとお前達と付き合ってきた。
死んだとしても、お前達と共にあり、しかして取り込まれはせん」
異形の群れは男に近付く事も出来ず、ただただ手を伸ばす。
その様は、恐ろしさと共にあわれさを感じるものだった。
蜘蛛の糸にすがり、釈迦尊の慈悲を乞う地獄の亡者の如く。
その者達に憐れみとも、友愛ともつかないまなざしを送り、男は1つため息をついた。
それが、男の最後だった。
男は長い眠りから目覚めた。
特殊な気の循環法により、一応の回復を見た男は、立ち上がって己の体を確認した。
「ふむ、若返っているのか?…」
その体は、男本来の体よりも大分若い、と思われた。
大体40歳丁度くらいだろうか。
近くに会った、これは食器だろうか、磨き上げられたぴかぴかな面には己の顔が映って…いなかった。
「これは、誰だ?」
そこに映っていたのは己ではなかった。
年齢と共に増えて行った皺も、戦いによってついたさまざまな傷も、そこにはなかった。
男はかつてはがっしり目のあご、太いまゆ、がっしりした鼻、笑うと意外に愛敬があると揶揄された眼、そういう「厳ついがどこか親しみやすい顔」の造りをしていた。
今の顔はどうか。
髪は黒々とし、切れ長の眼、細い眉、鼻梁はすっきりと通り、頬はまあ回復したばかりであり薄くこけており、唇は薄い。
かつての自分とは正反対の優男、といったところか。
舌先が額に付いたのは驚いたが。
それに。
頭の中に奇妙な記憶がある。
「これは…」
どうやら、若返った、などというものではないらしい。
これはまずいことになった、自分はこの人物の体を乗っ取ってしまいでもしたらしい。
まだまだ前途ある男性の心はどこに行ってしまったのか。
男は何とも申し訳ない、そんな気持ちになった。
もっともその後、この体の持ち主がどうなったかを思い出し、その人物の外道さに辟易したのではあるが。
男はすっかり細くなってしまった体を億劫そうに持ち上げ、残っている記憶を頼りに生活を始めることにした。
この体の持ち主は
どうやら戦いでずたずたになったらしい体を使えるようにしなければ。
ゆっくりと体を動かし、こわばった腱や衰えた筋肉を万全に動かせるよう調整していく。
その場にわずかに溜まっていた雨水をすすり、食せる木の実を食べ、ゆっくりと「仏」から「人」になっていった。
男は数年を掛け、己の魂とそこにこびりついて離れない技を、その肉体に刻んでいった。
肉体は非常に優秀だった。
元の持ち主は「忍」というものであったらしい。
男も忍は知っていたが、男の知っている忍とこの世界の忍は余りにも違いすぎた。
男から見ると「妖術使い」とか、「サイコパワー」と言った方が分かりやすいようにも思える。
もっとも、この肉体に残っている忍術に使用される力、「チャクラ」は大きく減じているようだ。
体の奥に残る疲労感は失われたチャクラを肉体が感じているのだろうか。
それも数年間の修行により、ほぼ感じることはなくなっている。
チャクラは相も変わらず少ないが、「気」の運用によって、男がかつて40代だった頃の力は取り戻せているようだった。
相貌も20代と言ってもいいほどの艶を取り戻していた。
どうやら本当にこの体は優秀だ。
元の持ち主はどうしてあんな…
男はそう考えて、それはせん無き事、と思い直した。
この世界に存在している以上、今を懸命に生きなければ。
男は自身が住む掘立小屋から出て、修行をするために森に入っていった。
ある時、1人の忍が男の元を訪れた。
深夜、休息場所を求めて明かりのついていた男の掘立小屋を見つけたのだそうだ。
「いやあ、助かりました! 今晩は野宿かと思っていましたから!」
大分元気な男のようだ。
昨今ときおり見かける忍の中では身体能力が頭一つ抜けている。
それなりの強さを認められている忍なのであろうと男は思った。
「困ったものですよ! なにせオレは身体能力だけが自慢ですから!
忍術なぞ全くできんのですから、野宿は面倒でしてなあ!」
忍はその職業とは程遠い能天気さでそう言ってのけた。
男はさすがにポカンと呆れるしかなかった。
「あなたは何故こんなところに?」
忍は男にそう聞いてきた。
隠すような事でもない。
「修行のためですよ。
オレは格闘家ですから」
「格闘家…ですか?」
忍は不思議そうな顔をした。
今のご時世は忍術全盛期。
忍術、幻術に付随して体術がある。
チャクラの運用が人の強さを決める。
体術ですらそうだ。
チャクラを用いない格闘技術など、とうの昔に消滅していた。
しかし、
「ぜひ一度お手合わせ願いたい!」
忍は男にそう願い出た。
忍はチャクラの運用が致命的に下手であった。
辛うじて体術におけるチャクラの運用が巧みである、それだけだった。
今、忍の所属する木の葉隠れの里において、忍は他の忍者から侮蔑され、鼻で笑われる存在だった。
忍が弱い訳ではない。
実際、忍と上忍が戦ったとして周囲の者達が予想する以上に戦ってのけるだろう。
しかし、いま忍は下忍の地位しか与えられていない。
彼は忍術が使えないからだ。
忍のこなしてきた任務は100を超え、Dランクのみならず、単独でCランク任務を任される事も多い実力者だ。
そこから上に行くためには、忍術を鍛えこむか、さらにあと一歩、なにか自分自身だけにしかないものを体得するしかなかったのだ。
忍は格闘家を名乗る男、彼から何か吸収できないか、そう考えて試合を申し込んだのであった。
男は忍の眼を見た。
燃える意志。
後において火の意志と呼ばれる、木の葉隠れの里の忍の進むべき道、忍道を表現する言葉。
男はうっすらとほほ笑むと、
「ええ、ぜひに」
そう言った。
「ありがとうございます! あ、申し遅れました、オレの名前はダイ! マイト・ダイです!」
忍・マイト・ダイは、
「…オレは、り、いや、そうですね、
終生の師と仰ぐ男、青柳虚とこうしてであったのである。
「がはっ! ま、まいった!」
「やはり、一点を見る事が多いですね、集中するのは良いのですが、全体も観ないとフェイントや、相手の意図を理解できませんから。
後は呼吸法です。
座禅でならば完璧に出来るようになっているのですから、後は修行次第ですね」
「はい!」
あれからダイは事あるごとに虚の所に稽古を付けてもらいに来ていた。
虚の持つ格闘技術はダイにとって目からうろこの落ちるようなものが多くあった。
チャクラを先頭に用いる技術が隆盛を極める中、消滅していった戦いの技術。
それを虚はしっかりと継承していたのである。
忍として体術にその根幹を置くダイにとって、虚の教えはまさに宝の山であった。
虚から彼の流派を学び始めてから5年。
元々ポジティブであったマイト・ダイは、そこに「自信」というものが加わり、より忍として、拳士として熟成されていた。
そこにはもう1つ、虚が授けた「3つの奥義」のおかげでもあるのだが。
不完全ではあるものの、ダイはその奥義を使いこなしつつあった。
チャクラの運用は致命的に下手であったダイだが、それだけにチャクラの流れに隠れてしまい、忍として優秀であればある程気がつかないもの、生命が持つ本来の力「気」を扱うことに関しては極めて優秀であった。
ダイが忍として習得した術は「八門遁甲」のみであったが、さらにそこに「気」の流れを集約することで、近接戦であれば巨大な召喚動物すら屠ってのけるだけの力をダイは身に着けていた。
もっとも、そのダイをして未だに勝てない、と言わしめる虚の力はいかほどのものか。
「気」と「八門遁甲」第3門・生門を開いての試合ですら虚に碌に「気」を使わせる事無く破れている。
もっとも、その為にダイは自身の強さがすでに上忍の上位レベルにすら食い込みつつある事を知らない。
己の力に気づいていないからこそ、虚の師事に従っているとも言え…それはない。
ダイは良い意味で「愚直」であった。
そのダイだからこそ、虚は己の全てを持ってダイを鍛え上げたのだろう。
ダイは己の命を燃やしつくす時が来た、と感じた。
敵は霧の忍刀七人衆。
霧隠れの里の最精鋭である。
霧隠れの里では「蟲毒の法」のごとく、忍同士を殺し合わせてより強い忍を作り上げようとする試みがなされていた。
その中から生き延び、名を上げたものたちでつくられた虐殺のチーム。
より多く、むごたらしく殺すために7人のシリアルキラー達は理念なく結束、無類のチームワークを誇っていた。
里に従うのも、その方がより殺す事が出来るため。
殺す事が出来ないのならば、里の民を殺すことでその殺戮欲を満たすような危険人物達の集合体。
それが忍刀七人衆。
ダイはそんな危険な相手に対し、たった1人で仁王立ちし、引く様子もない。
己が後ろには未熟な下忍が3人。
さらにうち1人は己の息子、マイト・ガイ。
この場でダイに「引き下がる」という選択肢はなく、またあったとしても選択しないであろう。
そう、こここそがダイの「青春」を燃やす場である。
ダイは息子達に声をかける。
「良いから逃げろお前達!
オレが時間を稼ぐ!」
最愛の息子たるマイト・ガイは父のその言葉にひどく驚いた。
父は体術こそ優れているが忍術はからっきしだ。
その父が、霧隠れの最精鋭と戦って無事でいられるとは思えない。
「逃げろって…父さん!
相手は上忍連中で、しかも忍刀七人衆だぞ!
父さん1人で止められる相手じゃない!」
悲痛な息子の声を、父は背中で受け止めた。
「オレには師より授かったこの拳と、『八門遁甲の陣』がある!」
「!!? でもそれは!」
「…自分ルールだ」
「!」
「今こそ…
自分の大切なものを、死んでも守り抜く時!!」
虚は彼方に己が弟子の命のきらめきを見た。
「…使いますか、『死門』を」
生き急ぐ若者たち。
時代、と言えば聞こえはいいが、死に急ぐ事で、その人を愛する者達の悲しみはいや増すばかり。
そう、
弟子、マイト・ダイには息子がいる。
ダイ曰く、オレに似ず、才能のある子だと。
ダイがここで死ぬのなら、その息子はどうなるのだろうか。
そしてオレ自身の悲しみは。
虚はふらりと立ち上がり、
「(さすがに手強い。第七門・驚門まで開いてなお押されるか!)」
ガイ達が逃げ去ってから30分。
驚くべきことにダイは未だ立って戦い続けていた。
八門遁甲の内第七門まで開けば、筋組織は断裂し始め、骨組織の崩壊、内臓の圧迫、内出血など早晩致命傷になる事も当然なレベルのダメージを追い続けながら戦うことになる。
そのダイがまだ立っていられる理由。
それは虚が教えた「気」の運用にあった。
気の力によって肉体を支え、チャクラの暴走に対して何とか肉体が瓦解するのを抑え込んでいたのである。
とはいえそれももうそろそろ限界。
とくに、西瓜山河豚鬼の攻撃によって、ダイのチャクラは大きく削り取られていた。
彼の持つ「大刀・鮫肌」は相手の肉体と同時にチャクラを吸収、使い手に還元する力がある。
鮫肌がダイの体を掠める度にダイのチャクラは削られ、 河豚鬼の力になる。
ダイの不幸は、八門遁甲の力に比して、七人衆を打ち破れるだけの体術の奥義を習得しきれなかったことにある。
ダイは何処まで行っても凡人であった。
「気」の運用には一定以上の才能があったが、格闘戦闘そのものの才はそれほど高くはなかったのである。
彼の強さは才能抜きで1から積み上げた基礎。
チャクラによって急速に上昇した身体能力に今まで積み上げたダイの基礎能力が追い付いていなかったのである。
「(やはり、手強い。 …ガイ、すまんな。 父さん帰れそうにない。 ガイ、強く生きてくれよ。 それが父さんの願いだ)」
ダイは命の使い時を決めた。
左手の親指を心臓の左、八門遁甲の最終門・死門に突き込もうとする。
そうすることで「体術奥義・八門遁甲の陣」は完成し、ダイの死が確定する。
「(師よ、おさらばです…)」
そう心の中で師である虚に最後のあいさつをし、襲い来る七人衆を前に最後の力を開放しようと…。
「そこまでにしておきなさい」
涼やかな声があたりを支配した。
ダイの左手を止め、更にダイに届かんとする七刀を余りにも自然に払いのけたのは、ダイの師匠でもある青柳虚その人であった。
まるで大樹のように悠然とした佇まい。
元からそこに在ったと思わせる、余りにも自然な雰囲気がそこにはあった。
一瞬の戦いの空気の空白地帯。
そこから意識を戻した霧の忍刀七人衆は大きく虚達より距離を取った。
虚をよく見て、眼を剥いたのは大刀・鮫肌 を構える七人衆の首領格・西瓜山河豚鬼。
虚に見覚えがあった。
大蛇丸に瓜二つだ。
しかし、余りにも雰囲気が違う。
自分の知るあの男はこんな清浄な空気を纏ったりしない。
「…貴様、何者だ!?」
河豚鬼は虚に問いかけた。
虚はふっと考え込み、
「青柳虚。 唯の『蛇の抜け殻』ですよ」
手にしていた、赤い鉢巻を頭に締めながら、虚はそう答えた。
虚と霧の忍刀七人衆との戦いが始まった。
七人衆は連携に優れる。
己が人を殺したい。
その利己的な思いが見事に噛み合い、信じられないほど強固な、おぞましい連携となって相手を苛むのである。
しかし、
「力任せの攻撃ばかりですね、隙が大きすぎます…」
虚にとってはまだ隙だらけに見えるらしい。
当然だろう。
強大なチャクラに支えられた彼らの攻撃は基本的に一撃必殺。
相手の隙など考えず、防御の上から叩き潰す事が出来るのだから。
だが、虚は彼らの連携の、針の穴を通すような隙間に入り込み、するりするりと避けていく、そして、
「そこっ! 鎖骨割りっ!」
断刀・首切り包丁 を持つ忍に対し、大振りの一撃の、そのわずかな立て直しに虚は自身の間合いに入りこみ、首の根元に振り下ろしの右拳を叩き込む。
一時的に腕がしびれ、首切り包丁を取り落とすことはなかったものの、刀の自重でガードが下がってしまう。
そこに虚の振り回しの左、鬼哭突きが入り、忍びは地面に倒れ伏す。
「いいですか、ダイ。
戦場全体を見る目、勘の目の重要さはこういった乱戦にも有効です。
どうせ何人いようと斬りかかってこれるのはせいぜい4人までです。
彼らのような大きな得物であれば同時に戦えるのは2人まで。
それに対処できれば後はどれだけスタミナがあるかですよ」
虚は七人衆を相手取るのみならず、この戦いを教材にして、ダイの修行に活用するつもりらしい。
その意図は歴戦の猛者である七人衆を怒らせる。
「我らをなめるなぁっ!」
怒りを以って己のようなものを振り回す忍。
奇妙なことに、刃に巻物が巻きつけてある。
これなれば回し受け出跳ねのけて…、そう考えた虚だが、不意に前の体の持ち主の記憶が蘇った。
確かこれは…「爆刀・飛沫」であったか。
武器に爆弾のついたもの、と考えるなら、受け流すのは悪手であろう。
虚は巨大な武器の陰に隠れるようにして身をかがめ、忍びの視界から消えうせると、くるりとしゃがんだまま回し蹴りを放つ。
両の足を刈り取るように放たれた蹴り、それに忍は対処できなかった。
足払いを喰らい、見事に点灯する忍。
すかさず虚は打ち下しの正拳で忍びに当て身を喰らわせ、戦闘不能に追い込んだ。
「これで2人…」
その瞬間、正拳を打ち下すためにしゃがみ込んだ虚に、忍刀七人衆の3人が一斉に襲いかかった。
彼らに仲間意識はない。
あくまで人をより効率的に殺し、その愉悦に浸りたいだけのシリアルキラーだ。
わざわざ自分がのされて敵の隙を作ってくれるとは。
これで人殺しの愉悦は俺のもの。
そう考えたのだろうか。
「長刀・縫い針」のチャクラ糸が虚をぬいとめようと襲いかかり、「双刀・ヒラメカレイ」はその秘めたる力を開放し、チャクラの斬撃を送り、「鈍刀・兜割」はその圧倒的な重さで虚を押しつぶそうとする。
その時、風が吹いた。
自然の風ではなく、また風遁の忍術でもない。
「ひゅう…」
男、青柳虚の呼気と共に体の周囲に空気の動きが出来ている。
そして、
3つの刀が虚の身に届くか、そう思った瞬間!
「竜巻旋風脚!!」
周囲に烈風が吹き荒れた。
虚の繰り出す回転蹴り、それは周囲に風を起こし、気圧の差すら作りだした。
その気圧の差は3刀を持った忍達を引き寄せ、
「ぐわあ~っ!!」
無数の蹴りの渦の中に引きずり込んだのである。
時間にしたら1秒かその程度の刹那だろう。
たったその時間で3人の手錬れが戦闘不能に陥ってしまったのである。
焦りを見せて「雷刀・牙」を以って切りかかって来る忍。
「馬鹿もの! まて!」
河豚鬼に声も耳に届いていない。
河豚鬼の指摘はもっともなのだ。
なぜなら、虚は竜巻旋風脚を打ち終えた後、空中にて既に構えていた。
両の手を、球を包むように、右の腰の辺りに構える。
そこから放たれるのは、
「波動拳!!」
チャクラに頼り切り、「気」の流れを感知する事の出来ないものには見えない不可視の一撃。
しかしダイにはしっかりと見えていた。
恐ろしいほどの力が凝縮されたその一撃を。
ダイはその光景を終生忘れなかった。
あれこそが己が目指すべき境地。
それをダイは戦場で初めて実感したのである。
霧の忍刀七人衆が最後の1人にして最強の男、西瓜山河豚鬼は己の愛刀、「大刀・鮫肌」を構えつつ考えていた。
確かにあの男は強い。
なぜあのような技を使い、忍術を使わないのか。
それは見れば分かる。
奴のチャクラが実感できるほどの薄いのだ。
奴は何らかの影響でチャクラの保有量が大きく減少したのだろう。
故に体術を鍛えこんだのだ。
疑問はそこではない。
あの清浄な雰囲気と裏腹に繰り出される不可思議な技。
あの化けもの、「大蛇丸」がどのようにしてその技を習得したのか。
…そろそろ霧隠れもおしまいかもしれん。
河豚鬼が霧隠れを見限ることにしたのは、虚と戦った後の事であった。
とはいえ、今はこの戦いに集中しなければ。
先に戦った男を鮫肌で削ったため、今の河豚鬼は通常では考えられないほどのチャクラを保有している。
これだけあるならば…。
河豚鬼は鮫肌の一撃に全てを込め、蓄えたチャクラを全て防御に回すことにした。
どれだけの威力があろうと、今の河豚鬼のチャクラ保有量は五影を上回る。
それが全て防壁となるのだ。
星の一撃さえ防いでくれよう。
それだけのものである。
河豚鬼は万全を期して虚に斬りかかった。
虚はいつもの如く構えていた。
左半身構え。
左足を前に出し、前後左右どちらにでも瞬時に動けるよう重心を配置する。
左腕はわき腹を守るように、右の拳はいつでも打ち出せるよう少し引いている。
「ダイ、今から
ダイは目を剥いた。
「な、なんと! てんに刃向うと言われるあの技を使われるのですか!」
この技は禁じ手である。
そう言われた、あの技を見せるという。
「君なれば習得できよう。
しかしてこれは禁じ手。
八門遁甲・死門と同じと考えなさい。
禁じ手が解禁される時、すなわち…」
「! 自分の大切なものを、死んでも守り抜く時!!」
この人は、そうか、自分を大切だ、そう言ってくれているのか。
ダイは己の評価が低かった。
亡くなった妻、そして息子であるガイ、この人たち以外に自分を評価してくれる人がいるとは考えていなかった。
師は、虚はオレに生きていてほしい、そう望んでいるのか。
ダイの目から滝のような涙が噴出した。
河豚鬼の振り下ろす大東・鮫肌の軌跡を見ながら、虚は気を練り切っていた。
「こおぉ…」
呼気と共に「力」がゆるり、と漏れ出す。
そして次の瞬間。
虚は河豚鬼の懐へと飛び込んだ。
河豚鬼としたら驚きだろう。
十分に威力と速さの乗った鮫肌の一撃。
その振り切りより早く虚は河豚鬼の懐に入り込んだのだ。
まるで瞬身。
いやそれ以上の隠密性を以って。
懐に入り込んだ虚はすでに右の拳を固め、深くしゃがみ込んでいた。
全身のばねを使い、拳を突き上げて行く。
「これが…」
拳は天に向かって上昇し、
「奥義!…」
河豚鬼の胸元から顎を打ち抜き
「昇!」
大人と子供ほどもある対格差の河豚鬼の巨体、それを、
「龍!」
天高く舞い上がる龍の如く吹き飛ばした!
「拳ん~っ!!」
これぞ、必殺を突き抜けた活殺自在の「昇龍拳」であった。
「気」の運用を極限まで高め、一瞬の無敵状態を作り出す。
決して相手は懐に入るのを阻止できない。
そして「気」の乗った強力な突き上げ。
天に拳を向ける邪拳とも言われたこの技を、虚はさらに昇華したのである。
高々と舞い上がった河豚鬼。
全てのチャクラは昇龍拳の前に吹き散らされていた。
そのまま落下し、地面に「どうっ」という音と共に叩きつけられた。
ここに、虚対霧の忍刀七人衆の戦いは終焉したのである。
この後、ダイのみならず、息子のマイト・ガイを弟子にし、虚の人生はより騒がしくなる。
そしてここから木の葉隠れの里と拳聖・青柳虚の関わりは増えて行く。
「なんであんたが!? いったい何を企んでいるの!?」
元の体の持ち主の弟子とひと悶着があったり。
「いや本当にそっくりじゃのォ」
「すいません、同僚が大馬鹿で…」
伝説の三忍と呼ばれる人たちが遊びに来るようになったり。
「ボクもガイ先生みたいに強くなれますか?」
ガイの担当する少年忍者にアドバイスを送ったり。
「もうオレこんなん嫌なんだってばよ!!」
迫害を受ける少年を保護したり。
そして。
「…アナタ何者?」
音隠れの里の襲撃、『木の葉崩し』のクライマックス、三代目火影・猿飛ヒルゼンと大蛇丸の決戦に割り込む1人の男。
大蛇丸と男・青柳虚。
向かい合ってみると余りにも似通っており、あまりにも違いすぎていた。
顔立ち、背格好、ふとした時に見せる細かい動き。
邪と聖、妄執と悟り、怒りと静温。
その光と影のようなもう1人に対して、虚はこういうのだ。
「青柳虚。 唯の『蛇の抜け殻』ですよ」と。
この作品は、「NARUTO」の2次を書く際に、もともと拙作「狐狸忍法帖」、「NARUTO×北斗の拳(仮)」との3パターンで考えていたものを短編として書いてみたものです。タグのSFはストリートファイターの略ですね。