無口で無表情   作:マツユキソウ

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お久しぶりです……更新が遅くなって申し訳ないです。



『今回のお話注意点』

・過去編です
・エリアは出てこないよ?
・サブタイトルのネーミングセンスのなさ


過去の出来事!あの日あの時、何を思う①

あの時の戦いの中、西の異民族の騎士たちが抱いていた気持ちを言葉で表すのなら「圧倒的」が最も適切であろう。

 

 

 

帝国を三方で囲んでいる異民族の内の一つ、西の異民族。

独自の製法と帝国にも負けず劣らない技術で武具を作り出す西の異民族は、幾度となく帝国の侵略を防いでいた。

そんな西の異民族の軍隊は、全身を甲冑で覆った騎士と呼ばれる者たちで構成されており、突撃槍による騎馬戦を最も得意としていた。

彼等の厚い鎧と盾は、嵐の様な帝国の銃撃をいとも容易く跳ね返し、彼等の突撃はまるで一つの生き物の様に帝国の兵たちを飲み込んでいった。

圧倒的な勝利で帝国を追い返している騎士たちであるが、死者が出ない日はない。

運悪く鎧の隙間に銃弾が入り込み死ぬ者もいるし、落馬してそのまま後続の味方に踏み潰される者もいる。

勿論、後者の場合は味方を巻き込んでの大惨事になるので、騎士になる者たちが一番初めに訓練するものは乗馬からだ。

「一人が落馬すれば味方二百人が死ぬと思え」。

新米騎士たちが耳にタコができるほど聞かされた言葉である。

二百人は少し言い過ぎなような気がするが、自分のせいで味方が死ぬなど絶対にあってはならない事である為、新米騎士たちは今一度心を引き締めて訓練に励むのであった。

 

そして、西の異民族は昔から仲間を大切にする民族であった。

とある人物の教えによるものも大きかったが、千年前から帝国という強大な脅威にさらされてきたからこそ、仲間と連携して戦わなければ勝利はないということがわかっているからこその思考であった。

その為、西の異民族は死者を大切にする民族でもある。

しかし、先祖が眠る墓地の場所は帝国の領土と隣接している場所……つまり、墓地が戦場になってしまう可能性があるのだ。

死者が眠る場所を戦場にしてはならないという民族全員の思いから、墓地の前、帝国との国境に強固な防衛拠点を作り、騎士の中でも選りすぐりの者たちを配置した。

 

 

そんな拠点の中を、赤髪の少女が駆け抜けていた。

全身に甲冑を着けているにも関わらず、息切れ一つしないで周囲を見渡しながら駆け抜けている少女は、赤い甲冑も相まって赤き稲妻の様であった。

そんな必死に走っている少女を見た他の騎士たちは「おっ!我らが紅のヴァルキュリー様は今日も隊長の面倒ですか」「全く、せいがでますなぁ」等と言いながら笑い合っていた。

自分を馬鹿にしたような言い方に、少女は特に怒る気はしなかった。

これがこの隊の特徴である為だ。

「どんな時でも笑顔を忘れるな」それがこの隊の方針であり、いつも隊長が言っている事だったからだ。

だから少女も、今自分にできる精一杯の笑顔で彼等に言葉を投げる。

 

「アルドさんたちも、そんな所でエビルバードの群れみたいにピーピー鳴いてないで武具の手入れでもしてきなよっ!! 今日から革命軍の人たちがこの拠点に来るんだから、そんな汚らしい鎧じゃ笑われちゃうよ?」

 

少女に言われた騎士たちは一瞬黙り込み……再び笑い出す。今度は先程の笑い声より数段大きく。

 

「ははっ、ちげぇねえな。よっしゃ、ルキアちゃんに言われた通り、俺らは武具の手入れでもするか。革命軍の仲間に笑われるなんざこの隊の恥だぜ」

 

アルドと呼ばれた短髪で丸眼鏡を付けた男が、他の騎士たちを連れて自分たちのテントへと歩いていく。途中、アルドは振り返ってルキアに親指を立てた右手を掲げて、ニカッと笑いかけた。

その様子を見たルキアも同じように親指を立てて笑うと、隊長を探しに拠点の中を駆け回るのであった。

 

数分ほど拠点の中を駆け回ると、巨木の枝の上で読書をしている一人の男が目に止まった。

ルキアは、その人物が自分が探していた隊長だとわかると、走るのをやめて歩いて近づいていった。

 

「はぁ……アセス隊長、やっと見つけましたよ!!」

「おっ、今日は昨日より五分ほど見つけるのが早いな」

「もうっ!! 別に私は隊長と毎日隠れんぼをしているわけじゃないんですからね!!」

「お~怖い怖い、流石はヴァルキュリー様だ」

 

木の枝から飛び降りたアセスは、肩を震わせて怖がる素振りをするが、ルキアの顔が鬼人の様な形相に変化していくのを感じ取り、咳払いを一つしてルキアに話しかける。

 

「あぁ~すまん!今のは冗談だ、それで、ルキアが来たってことは革命軍の奴等がもう少しでここに来るのか?」

「はい、あと一時間もすれば到着すると思います」

 

「そうか……」と呟いたアセスは、本を顔の上に乗せて黙り込む。

アセスが本を顔に乗せるときは、決まって何か考え事をしている時か、あまり言いたくないことをどうやって柔らかく伝えようか考えている時なので、ルキアは黙ってその様子を眺めていた。

憶測ではあるが、アセス隊長は革命軍の事をあまり良く思っていない様子なので、今回の場合は後者であると判断したルキアは、何を言われてもいいように気持ちの準備をしておくのであった。

 

「なぁルキア、お前は革命軍との同盟をどう考える?」

「最良の判断だと思います。今の帝国は最盛期より劣っているとはいえ、兵力や財力……兵の練度以外の全てが我々より優れています。その為、帝国の技術力を持ち、今も尚各地で増え続けている革命軍と同盟を組むことで、これからも起こるであろう帝国との戦いも幾分かは楽になると思いますから」

「ふむ……」

 

ルキアの意見を聞いたアセスは、彼女の考えは最もなものであり、これから起こる戦のことも考えた素晴らしいものだと思った。

ルキアが言った様に、昔に比べて帝国の力は衰えている。

それは単に、帝国の皇帝が何も知らない無知な子供であるが為と、その子供を騙し、自分の欲望のまま好き勝手に政策をしている大臣のせいだと革命軍から聞かされていた。

そして、そんな悪逆非道な大臣から帝国を救うべく立ち上がったのが我々革命軍なのだとも聞かされていたが、アセスにとっては決起の理由などどうでも良いことであった。

その理由は、「自分たち西の異民族は、昔から帝国と戦っていた」からである。

確かに、革命軍から聞かされた大臣の悪行には虫唾が走った。

だが、だからといって態々敵である帝国の民を助けようとは思わなかった。

「誰が好き好んで敵に塩を送るような真似をする」という考えの者が殆どであった。

だから、殆どが帝国の民や兵士で構成されている革命軍からの同盟依頼を、西の異民族は断ろうと考えていた。

しかし、革命軍の提示した革命が成功した後の領土の返還と、今後の戦いや若い者たちの未来を考えた西の異民族の長たちは、革命軍と同盟を組むことにした。

長たちが決めた事に文句はない。

しかし、アセスをどうしても不安にさせる思いがあった。

 

「ルキア、お前の意見は未来の事を考えたとても良いものだと思う。その事に俺から言うことは何もない……だが、俺はどうしても不安なんだ。革命軍と同盟を組んだ事により、更なる火種が、脅威が生まれてしまうのではないか……とな」

 

アセスはひと呼吸おいて静かに話しだす。

 

「お前も知っていると思うが、帝国にはエスデス将軍とブドー大将軍という英傑がいる。この二人と、二人が指揮する軍隊だけ別格の強さを持っている」

「つまり、その二人と軍隊を潰してしまえば、帝国の力は大きく削がれることになると?」

「まぁそうだな。だが、それが安易にできるほど奴等は弱くない。二人共帝具を所持しているし、エスデスに至っては危険種狩猟民族のパルタス族出身だと聞く」

「なっ!?アセス隊長が絶対に敵に回したくないと言っていたパルタス族の……」

「そうだ、彼等は数年前に北の異民族によって殆どの者が殺されたらしいが、彼等の身体能力は我々の遥か上を行く」

「確かに、パルタス族出身の者で帝具持ちとの戦いとなると、我々はかなりの被害が出ますね……隊長は、革命軍と同盟を組むことで我々が、エスデス将軍と戦う事になるということを心配して……」

「まぁ、そんなところかな。お前たちの強さは知っているし、信頼している。だからこそ誰も失いたくないんだよ。俺に残されてるものは……もうお前たちしかいないからな」

「隊長…………」

 

アセスは優しく微笑むと、ルキアの頭を優しく撫でた。

傍から見ればその光景は、我が子を思う父の様であった。

 

「だっ大丈夫ですよ!!隊長と私の帝具があれば、エスデスなんて簡単に倒せますって!現に隊長は、エスデスとの戦いで引き分けに持ち込んだ訳ですし……じゃっじゃあ、私はこの辺りでしっ失礼しみゃす!!!」

 

アセスに頭を撫でられたルキアは、頬を赤く染めながら慌ててその場から走り去っていった。

走り去っていくルキアの背中を見送ったアセスは、巨木に立てかけてあった自分の槍を見る。

漆黒の柄とは対照的な白銀に輝く矛先は、所々返しが付いており、一度刺されば安易に抜けない作りになっている。

そして、この槍こそがアセスの帝具『ゲイボルグ』であった。

 

「ルキア……確かにエスデスとブドーは厄介な存在だ。だが、俺が心配しているのは今ある脅威じゃない、これから生まれるであろう脅威なんだよ」

 

ゲイボルグを見ながらそう呟いたアセスは、拠点の中央へと視線を移す。

そこには、六枚の翼を背中から生やし、鎧とドレスが合わさった様なものを着ている女性の石像が立っていた。

 

「エリアル様、どうか我らをお守り下さい」

 

アセスは跪き、頭を下げる。

この女性の石像こそが西の異民族が最も尊敬する人物であり、守り神的存在でもあった。

エリアルは始皇帝時代の人物で、帝国の将であるにも関わらず西の異民族と友好的な関係を築こうと奮闘された方だと聞かされていた。

そして、西の異民族の為に命を落とされた方だとも聞かされていた。

そんなエリアルを称えて石像を作り、彼女が言った「仲間とは家族と同じです。家族の為ならば、私はこの身を犠牲にしてでも守りましょう」と言う言葉通り、西の異民族は自分の家族の様に仲間を大切にしてきた。

そんな教えを残したエリアルであるが、彼女は英雄豪傑であったとも言い伝えられている。

言い伝えによると、エリアルの戦いは圧倒的で、それはまるで戦乙女(ヴァルキュリー)の様であったと言われている。

その為、西の異民族は最も優れた女騎士にヴァルキュリーという称号を与える。

 

「そういやルキアのヴァルキュリー祝いがまだだったな、今度隊の皆でお祝いしてやるか…………にしても、エリアル様に羽六枚は流石にないと思うぜ、ご先祖様たちよぉ」

 

そう言ってアセスは、帝具を片手にテントの方へと歩いて行った。

 

余談ではあるが、あの後革命軍が到着したことを知らせる為に、またも拠点内を駆け回っていたルキアが見た光景は、「となると盛大にやらないといけないな……あとでアルドに相談しておくか」等と何かをブツブツと呟きながら歩いているアセスであった。

 

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

 

「ルキア、帝国兵の数はどれくらいだ」

「はい、目測ですが歩兵隊が三百程かと」

「三百か……少なすぎるな。アルド、後詰めの可能性は?」

「俺もルキアと一緒に偵察してきたが、その可能性はかなり低いな」

「ふむ……ルキアとアルドは担当の騎馬隊の所で待機しておけ」

『はっ!』

 

ルキアとアルドは敬礼をした後、それぞれの持ち場へと走っていく。

その、無駄のない訓練された動きに見とれ、「革命軍もあれほどの練度になりたいものだ」と思っていた革命軍の女将軍は、アセスの咳払いで意識を戻されると、少しだけ頬を赤らめて自分の意見を提案する。

 

「でっでは、短期決戦という事で直ぐにでも突撃して殲滅しますか?」

「いや、我々は動かずに帝国兵の動きを見たい。革命軍の皆さんで拠点内から銃による攻撃をしてもらいたい」

「わかりました」

 

革命軍の将軍の意見を断り、銃撃してもらう様にお願いしたのには理由があった。

確かに帝国兵三百人など、この拠点の騎士と数日前に合流した革命軍の兵士、合計で約三万人の前では無力であろう。

しかし、油断してはならない。

いつも、数で圧倒する戦術を取る帝国が、今日に限ってそれをしてこない。

間違いなく何かあると感じたアセスは、相手の出方を伺うために遠距離からの攻撃をしてみて、どんな反応をするのか確かめてみることにした。

 

「鉄砲隊! 帝国兵三百に対して……攻撃開始!!」

 

革命軍の将軍の合図と共に鉄砲隊五千人による容赦ない銃撃。

鉄砲隊から発射された何億という弾丸は、無慈悲に三百という小さな帝国兵たちを飲み込み……そして。

 

「嘘……でしょ」

「ふむ……」

 

無傷であった。

あれだけの銃撃を受けておきながら、帝国兵が全員無傷なのには理由があった。

 

「やはり、前衛の帝国兵が構えているタワーシールドは特殊な素材で作られているようだな」

「そう……ですね。まさか我々の銃撃が全て跳ね返されるとは、あの大盾は帝具の技術を使って作られたものだと思います。アレだけの性能を持った盾を持っている部隊となると……」

「皇帝陛下直属の部隊か、もしくは少数精鋭部隊である可能性が?」

「はい、ここに来るのが私ではなく元帝国の将軍であるナジェンダさんだったら、彼等の装備を見て何か心当たりがあると思うのですが……すみません」

「いえいえ、気にしないで下さい」

 

頭を下げて謝る女将軍に対してアセスは頭を上げるように微笑んで言うと、何故か顔を真っ赤にしていた。

何故顔を赤くしているのか、どこか調子が悪いのだろうか? と疑問に思うアセスであったが、一つだけどうしても気になる事があった。

 

「シュリン将軍、あの部隊を率いているのはエスデス将軍だと思いますか?」

「それはないですね。エスデス将軍は守ることよりも攻める方を重視する方です。ですから、兵たちにあのような大盾を持たせる事はしないでしょう」

「言われてみれば……そうですね。ありがとうございます。少しだけ気が楽になりました」

「いっいえ!! お役に立てて光栄です」

 

エスデス将軍が率いる部隊でないという事がわかったが、だったらあの部隊の指揮は誰がとっている。

アセスは砦の上から眺めて指揮官らしき人物を探す。

しかし、目に飛び込んでくるものは、黒一色で統一された重装甲を着た帝国の兵士ばかりで、帝国の指揮官らしき人物はどこにも見当たらない。

いや、部隊の中央だけ、上からの攻撃にも耐えられるようにタワーシールドが掲げられていた。

あの場所に帝国の指揮官がいると判断したアセスは、注意深くその場所を観察していると。

 

「アセス隊長!! 帝国の将軍からこんな紙が……」

 

門の前を守っていた騎士が数枚の紙を持って現れた。

騎士の報告に少し違和感を覚えるアセスだったが、帝国の将軍が我々に接触してこようとしている事に驚き、紙に書かれている内容を確認しようと見たアセスとシュリンは、目を丸くして驚く。

 

そこには、『いきなりですが』『今すぐ拠点を放棄して撤退しろ』『そうすれば命だけは助けてやる』と書かれた紙が広がっていた。

 

 

 

 




はい、本当にお久しぶりです。
更新できなかった言い訳をさせて下さい。
私に任される仕事の方が中々に重要な仕事内容で、帰宅しても小説を書けない日々が続いていました。
何とかお盆休みを取ることができて速攻で仕上げたものなので、もしかしたら所々直す場合があるかもしれません。


はい!こっからは小説の内容になりますが、あんまり原作を通りに話を進めても面白くないと思って過去編を書いてみました。
今回のお話で色々とフラグなんかを仕込んだつもりです。
あと、察しの良い読者様達ならわかると思いますが、アセスさんたちの運命は……まぁ期待していてください?

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