無口で無表情   作:マツユキソウ

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皆さん、明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします!!



『お知らせ』
黒マントはオリジナルキャラ!


違和感

『どうした? 私はここだぞ』

『私を殺すのだろう? それとも、尻尾を巻いて逃げるか?』

 

挑発的な文章と共に、エリアが黒マントを見下ろす。

何も感じない表情からは想像が出来ない程の強い殺意を受けながら、黒マントは自分が間違った選択をしたことを悔やむ。

エリアを結界で隔離して、彼女が影から出したティーンを消した所までは良かった。

しかし、その消し方が不味かったらしく、彼女の逆鱗に触れたのだ。

当たり前だ。

ただでさえいきなり現れた正体不明の存在に殺すと言われ、自分の影の一部となったティーンをなぶり消されたのだ。

それは、自分が可愛がっていた子犬を、理由もなく見ず知らずの者になぶり殺さることと同じ、加害者側からしたら面白いかもしれないが、被害者側からしたらちっとも面白くない。

もし黒マントが被害者側だったら、加害者を許すことはないだろう。言い換えればそれは、エリアも黒マントを許さないということだ。

黒マントの実力はかなりのものだ。しかし、数の暴力には勝てない。

約千人の影近衛兵と、その主であるエリアに、たった一人で勝てるだろうか。まず無理だろう。それは、撤退にも言えることだ。

もしも黒マントが逃げようとすれば、エリアは確実に追って来る。無防備になった背中を見逃しはしないだろう。

ならば、黒マントに残された道はひとつ。

 

「ふふっ……イイわ!!最高よっ!! 一発で仕留めてあげる」

 

黒マントが高らかに笑い、地面を強く蹴ってエリアに向かって突撃する。

エリアを殺せば終わる。

影の主であるエリアを倒せば、全て終わる。幾ら影の兵士をだそうが、エリアが死んでは唯の影に戻ってしまう。

そう思っての全力疾走。全力攻撃。

エリアと黒マントの距離は約50メートル。その間にはエリアが影を使って作り出した兵士が三百程いる。

突破は容易ではない。

しかし、この数の追ってから逃げるより、自身の速さを生かした攻勢に転じた方が良いと判断した。

 

「遅いわ!!そんな木偶の坊たちでは、私を捉えることはできないぃいいい!!!」

 

次々に襲いかかってくる影の兵士の攻撃を躱しながら、変則的な動きでエリアに迫る黒マント。

主の元へは行かせまいと、自身の身体を使って道を塞ぐ影の兵士の身体を突き破り、返り血の様に影を浴びた黒マントは、とうとうエリアの目前まで迫った。

 

「これはっ!躱せないでしょうっ!!!」

 

黒マントはエリアに向かってナイフを投擲。

エリアの上半身は鎧で、首元はゴルゲットで守られているが、黒マントのナイフは容易く鎧を貫く切れ味と威力を持っている。

(見た所コイツの鎧は普通の物……帝具というわけではないだろう。なら、私のナイフは貫ける。)

黒マントの思惑通り、エリアに向かって投げられたナイフの全てが、彼女の着ている鎧を貫いて深く刺さった。

その光景を見た黒マントは、フードの中で小さく笑い……瞬間、自分の目を疑った。

 

『なる程な』

「嘘……でしょ」

 

黒マントの目の前には、何事もなかったかの様に立っているエリアがいた。

しかし、エリアの首元や左目、身体の至る所にナイフが刺さっている。

常人であれば死んでいる傷を負っているにも関わらず立っているエリアは、冷たい瞳を黒マントに向けて書いた。

 

『どうした?まだ戦いは始まったばかりだ。何を怯える。先程まであんなに楽しそうに私の手駒を消したろ』

「ひっ……」

 

いつの間にか刺さっていたナイフが消え、美しい顔に戻ったエリア。

しかし、彼女からは禍々しいまでの覇気が溢れ出す。

無表情で無口、自分の気持ちを表すことがないエリアから放たれるソレは、彼女の唯一の感情表現なのだろうか。

しかし、これ程の覇気が果たして人間に出せるだろうか。あのエスデス将軍ですら出せないのではないか。

そんな覇気を間近で当てられた黒マントは、恐怖でその場に座り込む。

(この力は予想外すぎる……こんな力聞いてない)

黒マントは、とある人物にエリアの実力を聞いていた。

だが、その中にこんな力があるなんて聞いていなかった。

これではまるで、人の皮を被った化物ではないか。

(いや、コイツは化物なのかもしれない。そう感じたから……あの方はコイツを消すように……)

黒マントの全てがエリアから逃げろと警告する。

だが―――

 

「だからこそ、お前は――――ここで私が殺す」

 

恐怖心を押さえ込む。

ふらふらとよろめきながらも立ち上がった黒マントは、目の前の化物の心臓部分へとナイフの刃先を向ける。

 

 

 

しかし、時すでに遅し。

黒マントがエリアの目の前に来た時には、既に勝負はついていた。

黒マントの敗北という形で……

 

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

 

「お前は――――ここで私が殺す」

 

私の所まで来るのに体力を使ってしまったのか、ナイフを数本投げていきなり座り込んじゃった黒マントが、立ち上がり、本日何回目になるかわからない「お前殺す」発言。

わー……物騒。ムカつきます。

私を殺す理由があるなら聞きましょう。親を殺された! 仲間を殺された! 大切な家族を殺された! そういった理由で私を殺そうとするなら結構結構……私も死にたくないので相手してあげますよ。

でもね、理由も言えない奴に、しかも私の大切な手駒を散々痛めつけて消した奴に殺すとか言われたらね……怒ります。

だから、私も久しぶりにやる気スイッチが入りました。殺る気スイッチじゃないですよ?

戦うやる気スイッチの方です!

 

私は、自分の影の中に取り込んでいた「自分の意思を持たない」影を大量に放出して、一つの命令を出す。ついでに格好つけて召喚呪文みたいな事も書いてみた。

(近衛兵の姿になって、私を守れ)

その命令を受けた影たちは近衛兵の姿になり、何故か『オオオオ!!』という紙を大量に持って現れた影たちは、私を囲むように整列した。

 

いや……やる気があるようで結構ですけど、その大量の紙……私の発言何回分ですか……

あと、消える時にその紙は持ち帰ってくださいね。絶対に持ち帰ってくださいね。

 

でも、そのお陰もあってか、黒マントは影たちの姿にビビリ、突進という一番やってはいけない選択をして私の目の前まで来てくれました。

私が出した影たちへの命令は、私を守れというもの。黒マントを攻撃しろという命令ではないので、コイツが私に殺意むき出しで突進なんて馬鹿なことしなければ、影たちは何もしないでソコにいるだけの存在だった。

 

というか、黒マントを攻撃しろなんていう命令を出したら、コイツ以外の黒マントを着ている人たちも対象になっちゃうから出来ないのですよね。

それに、自分の意思を持っていない無の影には、単純な命令しかできないのです。

ティーンたちは本体が生き物だったので色々細かな命令ができます。時々生前抱いていた強い思いに引き寄せられて勝手な事をする時がありますけど……

 

まぁ、とにかく何もしないで影の消滅を待つか、朝を待つか、そのまま諦めて帰れば黒マントも無事でいられたのです。

別に逃げてくれる分にはそれで構いませんでした。そうしたら後日私が全力で、ありとあらゆる手を使って貴女の事を調べますけどね。

でも、逃げないで向かって来てくれて嬉しいです。

嬉しすぎて、ちょっとテンションがおかしくなった様な気がしますが、それ程嬉しかったのです。

仕事増えるのは嫌なのです。面倒事が増えるのは嫌なのです。なので、貴女はここで退場してもらいます。

 

私は両手を前に出し、黒マントを包むように広げる。

 

「何を……」

 

黒マントが怯えた声をあげる。

ふふっ、簡単なことです。貴女は先程影を浴びた。

それは死を意味します。

あの時、影を突き破る等という愚かな行為をしなければ……

 

私はそのまま両手を合わせ……両手の掌を外側に向けて一気に離す!

ブッズン。という聞けば不快になる何かが切れた音がする。

 

身体が半分になって死ぬなんて、あり得なかったのですけどね。

ふふ、この技を喰らって生きていたものはいない。って言えないのが残念です。

私がやった事は簡単。

黒マントが影を浴びた瞬間、影を奴の体内へと染みこませ……腕を広げるタイミングと同時にドパッと体内から切り裂きました。

 

断末魔もあげず、無残にも身体が半分に分かれて死んだ黒マントを見ながら、私は……って臭いッ!? 何この臭い!! 吐きそう!!

まるで腐敗した死体の様な臭いが、私の嗅覚を刺激して……腐敗した死体の臭い?

私は警戒しながら黒マントに近づき、着ているマントを脱がす。

所々色が変わった肌。浮き出た骨。腐って溶けた眼球。

案の定といいますか、最悪といいますか……黒マントの中身は、腐った死体でした。

長い髪や、胸の膨らみを見るに女性だったと判断できますが、これはかなりおかしな事になりました。

この人が死んだのは、身体の腐敗具合を見るにかなり前、なのに、先程まで動いていた。

死体が喋って動く。

こんな非現実的なことが出来るのは、帝具の力以外考えられないです。

でも、『死者の復活』等というヤバイ力の帝具は存在しないはず……

可能性としてはクロメちゃんが持っている死者を操ることが出来る八房型の帝具だけど、コイツには確かに明確な意思があった。とても操られているとは思えません。

なら、憑依系の帝具? ありえますね。正体を隠すために、死体に憑依して私を殺そうとした。

 

少し嫌な予感がするので私の影に命令を出しておく。

 

でも、一体誰が私を…………革命軍からの刺客、ナイトレイド、もしかしたらの転生者、異民族……あかん! 色々心当たりがありすぎて訳がわからない!!

とにかく、この事はオネスト大臣辺りに報告するのが一番得策でしょう。

あの人は最低の屑野郎ですが、一応帝国の大臣、色々と情報を持っているので聞いておいて損はありません。それに、悪知恵だけは帝国最強だと思っているので、こういった襲撃ももしかしたら……ッハ!?

私に刺客を差し向けたのは、大臣?

ありそうだけど、ありえませんね。

あの人は、一応私の実力をわかっている内の一人です。

もし大臣が私を殺そうとするなら、エスデスさん位の実力がある人を寄越すはずです。

っとなると、私に恨みを持っている人間の犯行かもしれませんね。

恨みを持っている人間ほどタチが悪いものはありません。これからも何回か襲撃があると見ていいでしょう。なるべく人通りが多い場所を歩いて、警戒しなければ……報告書を書くの面倒だし……

 

さーてと、セリューちゃんの裏切りと謎の黒マントによる襲撃の報告を、大臣にするとしますか。

あ、オーガさんにも言わないとなぁ。明日でいいか。

私は今まで放置していた影たちを消して、腐った死体に黒マントを被せる。

この死体がどこの誰かは知りませんが、明日丁重に供養するように言っておかないといけませんね。オーガさんにッ!!

私は何となく手を合わせ、後ろを振り返ると……そこには、大量の紙が散らばっていた。

 

ッフ。

 

 

 

まずは、この大量に散らばった紙の片付けからですね。

 

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

 

「グフフ、エスデス将軍の帰還と共に、帝都に蔓延る賊を一匹残らず駆逐して頂きましょう。そうすれば私の邪魔者はいなくなったも同然……グフフフ……おや?」

 

オネストが月明かりに照らされた中庭を横切っていると、前から少女がこちらに向かって歩いてくるのが見えた。

月明かりに照らされて、優しく輝く青紫色の髪をツインテールにし、白銀に輝くドレスアーマーを着た無表情な少女。

そんな格好をしている者は、この宮殿内に……いや、帝都内に一人しかいない。

エリア将軍だ。

美しい少女の外見をしているが、賊軍約三万を殺した実力を持っている。

そして、終始無表情、無口な為、何の感情もなく人を殺す殺戮人形と恐れられている。

オネスト大臣も真夜中に彼女と出会い、無表情で追いかけられた時は本気で逃げ回ったが、今回は違う。

何時も見せているいやらしい笑顔と共に、エリアに声をかけた。

 

「おやおや、エリア将軍ではありませんか。こんな夜中にどうしたのですか?」

 

オネストに声をかけられたエリアは、ピタリと歩くのを止めて周囲を見渡す。

まるで誰かを探しているか、周囲に誰かいないか確認する様に見渡すエリアに、オネストは首を傾げる。

(この前の様に、私に何か用事があって探しているのかと思いましたが、どうやら私ではないようですね)

そうと分かれば長居は不要。

 

「では、私はこれで、エリア将軍も早く寝たほうが良いですよ。夜更しはお肌の敵といいますから……グフフ」

 

エリアの横を通り過ぎて自室へと向かおうと歩きだしたオネスト。

しかし、エリアの青紫色の目が彼を捉える。

何か違和感を感じる。

 

「エリア将軍、私に何か用事でもあるのでしょうか?」

 

額から流れる嫌な汗をハンカチで拭い、自分を見つめるエリアに問いかけた。

――瞬間。

エリアが両手を広げ、オネストの前に立ち塞がる。

まるで、「ここから行っちゃダメ!」と行っているかの様に通せんぼをするエリア。

普段の彼女らしからぬ行動に、オネストは更に違和感を覚える。

しかし、何がおかしいのかわからない。

 

「では、私はこれで」

 

特に何も書いてこないのでそのままエリアの横を通り過ぎたオネストは、数歩歩いて立ち止まる。

何だ、この違和感は、自分は何か大変な過ちを犯したのではないのか。

(気のせいだ。疲れているのだろう……)

そんな気持ちを何とか押さえ込み、再び歩き出したオネストであった。

 

 

 






オネストが抱いた違和感の正体、読者の皆様ならすぐにわかると信じていますw





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