さて、どうしたものでしょうか。
時刻は既に深夜一時すぎ。普通ならお仕事も終わって休んでいる時間帯です。
こんな時間まで仕事をしているのは、警備隊の皆さんか飲み屋だけでしょう……ま! 私もお仕事なんですけどね!!
流石、あの外道大臣が腐りに腐らせた帝国ですよ。人使いが荒すぎて困ります。
まぁ、その分たんまりとお金を請求するので良いですけどね。
私――エリアは、右手に持っていた指令書をチラリと見る。
そこには……
『帝国に仇なす凶賊ナイトレイドを狩りとれ』
何回も再読して確認しましたが、やはり同じ内容ですね。
ナイトレイドが現れたと言って出て行ったオーガさんと別れた後、直ぐに兵士の方から渡されたので、タイミング良すぎて偽の指令書かと思いましたよ。大臣直ぐに偽物の指令書とかでっち上げて作るから……話が脱線しましたね。
とりあえず、大将軍と陛下のハンコもあるので本物の指令書だと判断します。
さて、どうしたものでしょうか。
私は眼下で繰り広げられる戦いを静かに観察する。
帝都警備隊隊長オーガとナイトレイドのマイン&シェーレの戦いだ。
そうなんです。何故かオーガさんとマインちゃんとシェーレちゃんが戦ってるんですよ。
いや、原作と変わちゃってるよ……どうすんのこれ!?
本当だったら正義厨のセリュー&生物型帝具のコロちゃんVSマイン&シェーレだけど、セリューちゃんまさかのナイトレイド加入しちゃったからね……その代わりにオーガさんが戦う感じになったのかな。
この世界の神様もどうにか原作の流れを戻そうとしたのかな? 戻そうとした結果がコレならもう手遅れな感じするけど……。
そう、何が手遅れかっていうと……
「グッ……やはりナイトレイド……そう簡単にはいかねぇか」
「当たり前よ!! 私達を舐めないでよね」
そう言って片膝をついて悔しそうに顔を歪めるオーガさん。
その目の前では、まだまだ余裕そうなマインちゃん&シェーレのナイトレイド組。
ナイトレイド組が攻撃を食らったのも初めの一発だけで、見た所かすり傷さえ負っていない。
オーガさんは全身血だらけの満身創痍。何時倒れてもおかしくない状態ですね。
いやいやいや……オーガさんじゃ無理ですよね!! 私でもわかりますよッ!!
幾ら改心オーガさんでも帝具持ち二人――しかも凄腕の暗殺者を相手に勝てる訳が無い。
初めは持ち前の怪力と剣捌きで善戦してましたが、近距離でオーガさんの攻撃を受け止め受け流すシェーレちゃんと、的確なタイミングで援護射撃をするマインちゃん。
流石としか言えませんね。オーガさんの剣を受け止めるシェーレちゃんも相当ヤバイですが、もっとヤバイのはマインちゃんです。
あの子、絶妙なタイミングで援護してくる&正確な射撃で隙あらば殺しにくるからオーガさんすっごいやりにくそうでしたね……まぁ、それを紙一重で避けてたオーガさんも相当な手練ですけど。
って、すっごい冷静に見てましたけど、今回の戦いは色々と不味いんですよ。
死んでるはずのオーガさんの参戦とか、セリューちゃん不在とかも不味いけど、一番不味いのはこの戦いでシェーレちゃんが死んでないことです。
シェーレちゃんの死亡。それはナイトレイド側の初めての犠牲であり負けイベント、主人公タツミ君の心構えやレベルアップに繋がる重要な出来事なんです。
そりゃ、原作を知る私からすればシェーレちゃんが生きてて嬉しいですよ。天然美人お姉さんのシェーレちゃんの活躍がこれからもあると思うと私の無表情な顔もニッコリです。ま、表情は変わりませんが。
しかし。
『ナイトレイドを狩る』というお仕事をもらった身としては、楽観してるわけにも行きません。
前までは原作がーと言って手を出すのを躊躇っていましたがもう原作突入してます。
私も一応お仕事もらったのでそろそろ本気で働かないと私の立場がヤバインデスヨネ。
ザンクさんの件やアカメちゃんを逃がすとか失態続きなので、挽回しないと私が消されちゃいます。
それに、せっかく改心してくれたオーガさんをこの場で失うのはひじょーに困ります。
オーガさんのおかげで犯罪件数めっちゃ減ってるんで!!
よし、やリますか。
私は一度伸びをする。
ぐるぐると両手を回してその場で屈伸――そのまま二度三度ジャンプして――バランスを崩してしまった。
あっ危なかった……私はなんとか両手をついて持ちこたえましたが、下手したらそのままオーガさんたちの所に落ちてました。
やっぱり先日の戦いで力を使いすぎて身体に異常が出てますね。
まぁ、何とかなる精神で頑張りましょう。ふぁいと私。
パンパンと自分の頬を両手で叩いて気合を入れた私は、そのまま時計台からジャンプしてオーガさんの目の前に降り立った。
☆☆☆
(あぁ、死んだな……)
迫り来る巨大なハサミ型の帝具『万物両断エクスタス』を目の前にし、オーガは静かに目を瞑る。
走馬灯のように今までの思い出が蘇るが、何故かここ最近のものが多かった。
充実しているからだろうか。改心したからだろうか。
オーガにはわからないが、沢山の思い出の中で二人の少女の姿が浮かぶ。
一人はエリア将軍。
無口で無表情な人形のような少女だ。殺戮人形と皆に恐れられているが、心優しき少女だとここ最近彼女と接してわかった。この弱肉強食の世界で強者でありながら弱者を思いやり、自身の罪と向き合っている彼女を、オーガは心の底から慕っていた。
もう一人はセリューだ。
オーガを慕い、逆にオーガも自分の娘の様に気にかけていた。正義という純粋な思いを胸に、日々民の為正義の為に警備隊として働く彼女。
しかし、オーガはセリューに帝国の闇を教えてしまい――彼女はナイトレイドに加入してしまった。
後悔はしていない。だが、セリューに悪い事をしたと思っている。
(結局……俺はセリューに自分の犯した罪を言うことができなかった)
それだけが、オーガの心残りであった。
そして、大罪を犯した自分がここで死ぬのも当然の報いだとオーガは覚悟を決める。
しかし、何時までたっても想像していた痛みは来なかった。
「…………っ!?」
不思議に思ったオーガが目を開けると、目の前には一人の少女が立っていた。
紫色の髪をツインテールに結び、白銀のドレスアーマーを着けた少女をオーガは一人しか知らない。
「えっエリア様」
オーガが目の前の少女――エリアの名を呼ぶと、自分の目の前に『どうも』『待機』という紙が落ちてきた。
「もっ申し訳ありません」
搾り出すように答えたオーガは、右手を強く握りこむ。
わかっている。負傷した自分が参戦したところで足でまといにしかならない。
わかってはいるが、悔しかった。
何が鬼のオーガだ。何が警備隊隊長だ……賊二人も捕まえられない己の力不足をこれほど恨んだことはない。
だからこそオーガは、自分の気持ちを抑え込むようにエリアの勝利を願った。
「まさかこんな所でこんな大物が現れるなんてね……ついてないわ」
「えぇ、同感ですマイン」
それにと付け加えたマインは、帝具『浪漫砲台パンプキン』をエリアに向けて叫ぶ。
「あんた! 私と髪型被ってんのよっ!!」
「「……」」
マインの甲高い声が辺りに響き渡る。
言ってやったと満足そうに頷くマイン。
一瞬の沈黙。
オーガは当然、味方のシェーレも呆気にとられてマインを見る。かけていたメガネがズレているのはお決まりな出来事だろう。
そんな何とも言えない空気の中、当事者であるエリアは無表情。
一枚の紙を取り出してマイン達に見せた。
『では、貴女が消えて下さい』
「ッ!? シェーレ!!」
「わかってます。マイン」
一瞬で戦闘態勢に入った二人は、前方にシェーレ。後方にマインという形でエリアと対峙する。
「っち、流石は殺戮人形ね。冗談が通じないわ」
「あ……冗談だったんですね」
「半分半分よ! 髪型が被っててムカついてたけどアカメを見逃してくれたから話のわかる奴かと……シェーレ!!」
何処からともなく大鎌を取り出したエリアが、シェーレに斬りかかる。
一気に距離を詰めたそのままの勢いでシェーレの脳天めがけて大鎌を振るったエリアだが、シェーレの帝具『エクスタス』によって防がれてしまう。
そして、足の止まったエリアをマインと帝具が狙う。持ち主の精神エネルギーを原料に、高出力のビームを二発撃ちだした。
狙った場所は頭と胴体。寸分たがわず撃ち出されたビームは、エリアに命中する瞬間――黒い渦によって吸い込まれた。
『暴食』
「厄介な能力ね。シェーレ!!」
「わかりました」
エリアの無防備な腹に、シェーレの回し蹴りが炸裂した。
天然キャラとはいえ、暗殺者養成カリキュラムを受けたシェーレの蹴りはかなりの威力があった。
篭手で防いだにも関わらず、数メートル吹き飛ばされたエリアが受身を取って立ち上がると――目の前に『エクスタス』を構えたシェーレがいた。
「すいません……」
お決まりのセリフを吐いたシェーレが、エリアの胴体めがけて『エクスタス』を振るう。両足に力を込めて左に攻撃を回避したエリアだったが、回避した瞬間またもマインがビームを撃ち込む。
ビームを黒い渦――『暴食で貪欲』で受け止めたエリアは、そのまま自身の影の中へと沈んでいった。
「何処に……マインッ!!」
「ちっ!!」
静かにマインの
『黒犬』
代わりに影で作った犬を二匹呼び出してマインとシェーレに向かわせた。
二匹の犬はマイン達を中心にしてぐるぐると一定の距離を守って取り囲む。
「このっ!!鬱陶しい!!」
マインとシェーレは黒犬達に攻撃を仕掛けるが、簡単によけられてしまった。
そして、また黒犬達はマイン達の周りをぐるぐると回る。
エリアも黙ってその様子を眺めている。
「かかってきなさいよ!!」
攻撃をしてくる気配が一切ない犬とエリアに、マインは苛立ちを覚えた。
(おかしい……エリア様がおかしい)
オーガはエリアの様子が何時もと違うことに気づいた。
何時もと同じように無口で無表情ではあるが、本調子でないことは確かだ。
でなければエリアが攻撃を食らうことなどまずありえない。
確かにナイトレイドの二人の連携は見事なものだ。しかし、だからといってあんな簡単に接近を許して攻撃を食らうなどありえないのだ。
それに、エリアの攻撃が何処か単調なのだ。
何時もの彼女ならもっと影を使って多種多様な攻撃を仕掛ける。対複数戦でも影を召喚してその差を埋めて戦うのに、今日に限ってそれをしない。
(とりあえず援軍を……ッ!?)
警笛を吹こうとしたオーガの元に、『エクスタス』を持ったシェーレが駆け出す。
援軍を呼ぶことに気づかれていた。
しかし、シェーレを見逃す黒犬とエリアではない。彼女よりも早くオーガの下にたどり着いた黒犬がオーガを庇うようにシェーレに飛びつく。その後ろではエリアが影を使って黒剣を形成してシェーレに放っていた。
「
その時だった。
シェーレの持っていた帝具が奥の手を発動した。
昼間と見間違うほどのまばゆい光が辺り一面を照らす。
強烈な光に何が起こったのかわからず目を瞑ったオーガが目を開けると――。
「すいません」
目の前にエクスタスを構えたシェーレがいた。
回避も防御も間に合わない。迫り来る巨大なハサミを前に、今度こそオーガは自身の死を覚悟した。
『影替え』
オーガの視界が一瞬暗転したかと思うと、見ている景色が変わった。
何時の間にか自分の前にはエリアが居たのだ。
オーガを庇う様に、ナイトレイドに背を向けたエリアの顔は何時も通り無表情。
だがおかしい。
何故戦いの最中だというのにエリアは微動だにしないのだろうか。
「あぁああっ!? そんなっエリア様ッ!?」
オーガは気づいてしまった。
どうしてナイトレイドは攻撃してこないのか。
どうしてエリアは動かないのか――自分に向かっていた攻撃が届かなかったのか。
オーガは自身の頬に付いた液体を拭って見る。街灯に照らされた液体は紅く輝き、生臭かった。
『退却しなさい』
ごぼりと口から血を噴き出したエリアが、無表情にオーガを見つめていた。
鳩尾を『エクスタス』の片刃で貫かれたまま。