白銀の来訪者   作:月光花

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U-Zi様、むむまっふぁ様から感想をいただきました。ありがとうございます。

すごい久しぶりの更新なのに短いです。本当すいません。

では、どうぞ。



第10話 様々な変化

  Side シノン

 

 唐突だが、今まで生きてきた経験の中で命の危機に遭遇した事はあるだろうか?

 

命の危険なのだから、普通は滅多に遭遇などしないものだが、生憎オレの人生経験は普通からかなり外れていたらしい。

 

オレがあの世界、グラニデに生を受けて一番最初に目にしたのは、月明かりも差さない暗い夜の森だった。

 

なんで自分がボロ衣を纏ってこんな場所にいるのかなんてさっぱり分からず、頭の中にあるのは『シノン・ガラード』という名前だけ。

 

襲い掛かる孤独に本能的な恐怖を感じ、ただでさえ不安定な思考がダメ押しを掛けるように掻き乱されたのを覚えている。

 

だが、本当の恐怖、先程言った命の危機というのは、この後だった。

 

ガサッ! と近くの茂みの中から音が聞こえ、視線がそちらを向いた。

 

そこに見えたのは、暗闇の中で怪しく光る2つの瞳。

 

一瞬肩を震わせながらも、オレは何も考えずにその瞳をじっと見詰めていた。

 

だが次の瞬間、茂みの中から飛び出したウルフの牙がオレの左肩に食いつき、血飛沫と共に神経を焼き切るような痛みが襲い掛かった。

 

そこからの記憶は、出血多量と時の流れのせいもあって酷く曖昧だ。

 

覚えているのは、左肩と頭から流れ出た血で左半身を真っ赤に染めながら握っていた木の棒の感触と、顔面をグチャグチャにして横たわるウルフの死体くらいだった。

 

その後オレはどうにかして近くの村に辿り着き、血まみれで力尽きたところを教会のシスターに助けられた。

 

だが、助けられ治療を受けるまでの間、気絶しているはずのオレは不思議と赤黒く染まった木の棒を手放さなかったらしい。

 

……まあ、そんなことがあって、オレが生まれて初めて経験した感情は“恐怖”だった。

 

 

 

 

  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  

 

 

 

 

 「あぁ……」

 

意識が覚醒し、小さく声が漏れた。

 

視界に映った天井は見覚えの無いデザインをしていて、起こそうとした体は激痛を訴えるだけで動かず、ひどくだるい。

 

「あ、シノン君起きた? 体の調子はどう?」

 

真横から聞こえてきた声に首を動かすと、そこにはニッコリ笑顔でコンソールを叩くエイミィさんがいた。その隣にはクロノも立っている。

 

「……少し、体が痛い上に重いです」

 

「熱もあるし、あちこちがガタガタになってるからね……自分が気絶する前、何があったか覚えてる?」

 

そう言われてぼんやりとした意識の中で記憶を辿ってみる。

 

確か、フェイトとかいう少女を守ろうとして雷をぶった斬ろうとしたんだっけか? でも、魔力の瞬間放出量が足りなくて雷に押し負けそうになって……

 

……それ以降の記憶が曖昧だ。オレ、どうやって助かったんだ?

 

「……クロノ、何があったか簡潔に説明プリーズ」

 

「事が事だからモニター越しに見ていた僕でも上手く伝えられる自信が無いんだが……キミの右手にあるソレが力を与えたんだ」

 

溜め息を吐いたクロノの言葉を聞き、感覚の無い右手を眼前に持ち上げてみる。

 

「これは……」

 

右手の甲部分に発光を放つ物体があった。手の皮膚を内側から突き破ったように、融合しているように見えるそれは、ジュエルシードだった。

 

だが、宝石の色は底まで染まる青ではなく“真紅”。表面にはローマ数字のシリアルナンバーも刻まれていない。

 

「侵食……いや、融合してるのか?」

 

「うん。シノン君の右手と完全に同化してる。でも、状態は暴走するどころか完全に安定してるし、どういうわけか発動時の出力も数倍に跳ね上がってる」

 

「他にもリンカーコアと肉体の各所が検査前より『強化』されていた。いや、ジュエルシードによって『書き換えられた』というのが正しいかもしれない。命に関わる異常は見当たらなかったが、今は安静にすべきだ」

 

「そうするわ……てか、体も重いしな」

 

エイミィさんとクロノの説明を聞きながら、オレは情報のピースを1つ1つ繋げて内心でなるほどと納得する。

 

雷と拮抗していたあの時、オレはあの攻撃を打ち破れる魔導師としての力を一心に望んだ。そう、雑念など微塵も無いほど純粋に。

 

そして、そんなオレの願いをこのジュエルシードは察知し、叶えた。オレが望んだ魔導師としての力を具体的な形として実現させたのだ。

 

その実現の為に取った手段が、オレの右手と融合し、リンカーコアと肉体を雷を打ち破れるように最適化することだったわけだ。

 

恐らくジュエルシードが最適化したのは、オレの瞬間的な魔力放出量とその反動に余裕で耐える為の筋繊維と骨格の強化といったところだろう。

 

現在進行形で体のあちこちが激痛を訴えているのは、その最適化の反動だ。

 

普通なら体がズタズタになって終わりだが、ジュエルシードは皮肉なことにオーバーテクノロジーの産物、最適化の際に生じたダメージは最低限まで治癒されている。

 

引っ込めと思考の中で命令してみると、手の甲にあるジュエルシードはゆっくり皮膚の内側へと沈み、完全に姿を消した。

 

「……オレが寝てる間に何か進展はあったか?」

 

「結論だけを述べるなら、事件の犯人が分かった。名前はプレシア・テスタロッサ。あの黒い魔導師、フェイト・テスタロッサの母親だ」

 

空中に表示されたスクリーンに1人の女性が映し出され、詳しい情報が細かいスクリーンで区切られながら流れていく。

 

「……専門分野は、次元航行エネルギーの開発。魔導師としても卓越した能力の持ち主で、大魔導師とも呼ばれていた。けど、違法な研究と事故で放逐されてから行方が分からなかった」

 

「その大魔導師が何でジュエルシードを自分の娘に集めさせるんだ。新しい研究のサンプルにでもするつもりか?」

 

「使用目的についてはまだ不明だが、プレシア・テスタロッサが自分の娘にジュエルシードを集めるように命令したという証言は取れた」

 

「……証言って、誰から取ったんだ?」

 

「フェイトの使い魔のアルフだ。プレシアが事あるごとにフェイトを虐待することに耐え切れなくなって襲い掛かったらしいが、返り討ちにあって負傷した所を発見して話を聞いた」

 

アルフという名前を出されて頭に浮かんだのはジュエルシード6個を封印する前にぶん殴った犬耳の女。

 

戦った時間はほんの数分だが、あのフェイトの使い魔なら弱いとは思えない。

 

ということは、それを返り討ちにしたプレシアの強さも自然とわかってくる。

 

「それで? 今後の具体的な活動方針は決まってるのか?」

 

「最終的にはプレシア・テスタロッサの逮捕になるが、まずはフェイト・テスタロッサを保護する」

 

「保護ね~……あの子、簡単にはこっちに来ないと思うぞ?」

 

「キミの言うとおりだ。だから、フェイトに対しての対処はなのはに一任することにした。出された方法は、1対1の真っ向勝負だ」

 

「なるほど……まぁ、妥当だな」

 

これでも20年以上生きてる身なんで、何となく分かる。あの子、かなりの頑固者だ。あ、ついでに言うなら高町なのはも同じね。

 

アドリビトムのメンバーの中ならロイドやカイル、あとリオン辺りだろうか。

 

ベストな解決法を挙げるなら……力尽くで納得させる。アイツ等にはこれが一番だったな。

 

だが、今のなのはがフェイトと真正面からぶつかって勝てるかとなると、オレとしては正直難しいと思う。

 

2人が持つ魔導師としての才能は恐らく互角。いや、短期間での急成長を考慮するとなのはの方が上回っているかもしれない。

 

だが、実戦経験と積み重ねた鍛錬は明らかにフェイトが勝っている。この2つは僅かな才能の差を上回る要素だ。

 

生半可な訓練を重ねてもまず負けるだろうし、簡単に縮められる差でもない。

 

ならば、オレもこの体で今出来ることをやるとしよう。

 

「よいしょっと……」

 

横になっていた体を起こし、床に足を着ける。

 

それだけのことしかしていないのに、全身から凄まじい疲労感と筋肉痛に似た痛みが襲い掛かってきた。

 

だが、このくらいで死にはしない。耐えようと思えば耐えられる。まあ、これからの戦闘も考えれば動けて4、5時間が良い所だろうな。

 

意識の中でちょっとしたスイッチを切り替え、体の痛みを強引に意識の外に追いやる。

 

「ちょ、ちょっと! シノン君、何してるの!?」

 

「休むより先にやることがあるんで、ちょっと行ってきます」

 

そう答えて部屋を出て、訓練室へと向かう。

 

後ろの方でクロノとエイミィさんが何か言っているが、足を止めずに進む。今は少しでも時間が惜しいんだ。

 

少々安定しない歩きで訓練室に入ると、そこではユーノ、レイジングハート、ヴェルフグリントの教導を受けてなのはが鍛錬をしていた。

 

まずヴェルフグリントが部屋に入ったオレに気付き、続いてなのはとユーノが飛行魔法まで使って慌ててやって来る。

 

「し、シノン君!? なにしてるの!?」

 

「そ、そうだよ! クロノから目が覚めたって聞いたけど、まだ安静にしてないと……!」

 

「まぁ、まずは落ち着け。やることやったら好きなだけ休む」

 

見るからに動揺しまくってるなのはとユーノの頭をポンポンと軽く叩いて落ち着かせ、ヴェルフグリントにバリアジャケットを展開してもらう。

 

「聞いての通り、オレも休んどかならん身なんだが、現状を聞いた限り、今お前の鍛練を途中で中断するわけにもいかなくなった」

 

そう言いながら、オレは腰に差した大太刀を抜刀し、矛先をなのはに向ける。

 

自然と頭が冴え、雑念の類が徐々に消え去っていく。

 

「デバイスを構えろ、高町なのは。鍛練工程をかなりすっ飛ばすが、オレが動ける限りの時間で、お前に必要なスキルを叩き込んでやる」

 

言われるまでもなく体は休める。

 

だが、その前にオレがやるべきことはやらなければいけない。

 

オレ自身、そこまで律儀で立派な人間じゃないが、怪我したのはオレの都合だ。高町なのはの鍛練を引き受けた以上、オレも途中で投げ出すつもりは無い。

 

使える限りの時間を使って、何が何でもこの子をフェイトに勝てるだけ鍛え上げる。

 

「……はい!」

 

どうやらオレの気持ちを理解してくれたようで、高町なのはは真剣な顔で頷く。

 

オレと高町なのはは飛行魔法で浮遊し、互いのデバイスを構える。

 

「素振りの型は頭と体の中に入ってるな? 悪いがゆっくり教えてる時間は無い。他のスキルは実戦形式で体に覚えてもらうぞ」

 

「わかりました……行きます!」

 

その会話を最後に、オレと高町なのはは訓練室の中を高速で飛翔した。

 

 

 

 

 

  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  

 

 

 

 

  Side Out

 

 地球とは異なる世界のある場所に、1人の男がいた。

 

殆ど明かりの無い薄暗い部屋の中、その男は椅子に座りながら黙って虚空を見ている。

 

そんな静寂の中、突然男の座る椅子の前に空中スクリーンが出現し、情報が流れていく。

 

「ほう……管理外世界に次元震を発生させるほどのロストロギアが流出したか。主犯はプレシア・テスタロッサ……確かヒュードラ事件以降行方が分からなくなっていたな。

今更事件の“真相”を騒がれても問題は無いが、余計な波は立てたくないな」

 

男が1人で話していると、薄暗い部屋の中で新しい人影が現われた。

 

顔と全身をすっぽり隠すフードのせいで外見的特徴はまったく分からない。ただ1つ分かることと言えば、フードの中から僅かに零れる桜色の髪だけだ.

 

「行ってきてくれるかな? プレシア・テスタロッサの対処はお前に一任する。その障害も同じだが、管理局員は殺すなよ」

 

その命令に対しての返答は無く、フードを着た男は身を翻すと共に暗闇に消えていた。

 

 




ご覧いただきありがとうございます。

とりあえず、ジュエルシードのおかげで主人公はちょっとしたスペックUPを果たしました。代償として現在体がボロボロですけど。

コレが大活躍するのは、もうちょっと先の予定です。色が変わってる理由も後から分かってくると思います。

あと、最後の会話をしていた人達の正体は無印編ではハッキリ出しません。

では、また次回。
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