今回はゲーデサイドとシノンサイドの両方になります。
では、どうぞ。
Side Out
引越しと機材の運搬を済ませ、対策本部としての機能を発揮し始めたマンションの一室。
そこにはシノン、クロノ、エイミィ、リンディの姿があり、全員がそれぞれの端末を使って作業を行っている。
「性能の強化プラン? デバイスが自分から提案したんですか?」
「そうだよ。けど、いくら人工知能が搭載されてるインテリジェントデバイスでも、自分の強化プランを設計図にして改造を要求してくるのは初めて見たなー」
作業の合間に話していた内容が気になり、シノンは手を止めてエイミィの方を見る。
上方の整理をしていたエイミィも、何処か感心するような声で天井を見上げている。
その話の内容とは、守護騎士との戦闘で破損したなのはとフェイトのデバイス、レイジングハートとバルディッシュのことだった。
フレームだけでなく、コアユニットまでダメージを負った2機のデバイスは時空管理局の本局で修理を受けていた。
必要なパーツも揃っているので修理は数日で済むとのことだったのだが、その途中で2機のデバイスが突然パーツの追加と機能の拡張を要求してきた。
そのパーツとは『CVK792-A』と『CVK792-R』……ベルカ式カートリッジシステムと、それを用いた新形態の設計図を2機は要求した。
だが、レイジングハートとバルディッシュは元々ミットチルダ式のインテリジェントデバイス。
基本的な規格が全く異なるのはもちろん、繊細な構造をしているインテリジェントデバイスではカートリッジシステムを組み込んだことで発揮される出力によって大きな負荷が掛かる。
しかも、もし使用者が魔力の出力制御を誤れば、最悪デバイス諸共自壊してしまう可能性もある。
そんなわけで、2機の修理を担当していたマリエル・アテンザは当然反対した。
デバイスだけでなく、使用者まで危険に晒すような改造は技術屋として許可出来ないと。
しかし、デバイス達は食い下がった。
今のままでは主を守ることが出来ない。主の望みに答えるだけの力を発揮することが出来ないと。
結果、設計を可能な限り安全性を優先したものにする形で折れたのはマリエルの方だった。
実際、レイジングハートとバルディッシュを元に戻すだけでは守護騎士達に勝てる見込みは薄い。
勝率を上げるには、なのはとフェイトの技量の向上も勿論だが、どうしてもデバイスの改修が必要になってくる。
「そんなわけで、現在は見直した設計図を基に改修を行ってるんだって。バルディッシュの方はもう出来てるけど、レイジングハートはフルドライブの為のフレーム強化がまだ残ってるって……」
「僕も完成形の資料を見せてもらったが、凄まじい性能だったよ。まあ、本当に恐ろしいのはそのデバイスを持て余さないなのはとフェイトかもしれないが」
「持て余さないと言っても、それは技量や魔力などで見た話だろう。どれだけの才能を持っていても、アイツ等はまだ子供だ。幾ら相手がオーバーSの集まりでも、何の制限も無く持たせて良いモノじゃない」
エイミィとクロノの言葉に、シノンが溜め息を吐きながら窘めるように割り込む。
天才だろうが何だろうが、なのはとフェイトは紛うことなき子供なのだ。
ただでさえ、そんな子供に命を危険に晒すような戦いをさせているというのに、言い方は悪いかもしれないが強化した武器を何の戒めもなく渡すなどあまりにも無責任だろう。
言われた2人はハッとなっているが、シノンは時々管理局のメンバーとの間で起こる”こういう゛認識の違いに呆れることがある。
別に戦うことに反対しているわけじゃない。シノンも報酬と引き換えに自分を……自分の戦闘能力を対価に戦いに参加しているのだから。
だが、なのはとフェイトは違う。契約を結んだ関係ではなく、巻き込まれるような形で協力することになった民間協力者だ。
ならば、子供達の身柄を預かった管理局側には最低限の責任というものがあるだろう。
「もちろん、手は打ってあるわ。もしなのはさんとフェイトさんがこちらの指示を聞かなかったり無茶をしたら私の権限でデバイスを停止出来るようにしてあるの」
声のした方に全員が視線を向けると、そこには普段着姿で買い物袋を片手に持ったリンディの姿があった。
食材の買い出しに向かおうと微笑を浮かべるその様子は、管理局の提督ではなく一児の母と呼べるものだった。
主婦としての性なのか、食事の買い出しと調理は自分がする、と強い意志を持ったリンディの発言にクロノとエイミィが少々引き気味に了承してから、この家の食事は彼女に一任されている。
「ちょっと買い出しに出掛けて来るわ。シノン君、護衛をお願いできるかしら。報酬は晩御飯のビーフシチューでどう?」
「その報酬なら荷物持ちも引き受けないと割に合いませんね。了解です」
そう言って頷いたシノンは取り組んでいた作業を切り上げようと端末を操作し、リンディは微笑を浮かべながら、なのはさんのお家には連絡しておくわ、と言って電話を取りに行った。
シノンも端末を閉じて立ち上がり、その後を追う。
その途中、クロノの後ろを通り過ぎる際に「頼むぞ」と言われ、シノンは振り返らずに短く「ああ」と返す。
リンディは明るく振る舞っているが、彼女はクロノと同等かそれ以上の高ランク魔導師。守護騎士に襲撃される可能性はかなり高い。
護衛というのは、実際のところジョークでも何でもないのだ。
もちろん、リンディも全くの無力というわけではないが、現状で最高位の指揮官が易々と前線で暴れるわけにはいかない。
それらをよく理解しているからこそ、シノンは懐に仕舞ったヴェルフグリントを握り締めてリンディの後ろを着いていくのだった。
* * * * * * * * * * * * *
既に日が沈み始めて外の街並みに暗闇が訪れた頃、ゲーデははやてと一緒に居間で本を読んでいた。
「う~ん……みんな、今日は帰るの遅いな~」
ふと、読んでいた本から顔を上げたはやての視線を追うと、確かに時計には夕刻を過ぎつつある時間が記されている。
普段のシグナム達は外に出掛けることがあっても夕方には必ず家に戻ってはやてと一緒に夕食の準備を手伝う。
勿論、ゲーデはシグナム達が闇の書の蒐集に出ているせいだと知っているが、はやてはそれを知らない。
ある意味で一番の当事者でありながら一番の部外者となっているはやてにとって、最近のシグナム達には強い違和感を覚えるだろう。
普通なら問い質すのかもしれないが、八神はやてという少女は自分が持つ生来の優しさと長い間孤独な時間を過ごした経験から詳しい言及をしない。
結果、シグナム達も知らずの内にその優しさに甘えて今のような状況が出来上がってしまっている。
(アイツ等……これでは本当に本末転倒だろう……)
数日前までの自分も似たような状態だったので大きな声では言えないが、はやての命を救うなどと言う以前に、そのせいではやてに寂しい思いをさせてどうする。
はやての視界に映らないようにゲーデは小さく溜め息を吐き、キッチンの方へと目を向ける。
そこには、今日の夕食として用意した鍋料理の材料一式が置かれている。
だが、この時間になってもシグナム達が戻っていないことから恐らく夕食には間に合わないだろうし、2人だけで食い切れる量でもない。
なにより……
(はやてに寂しい顔はさせたくないな……)
決断したゲーデは本を閉じて立ち上がり、電話を取って番号を入力した。
そんな俺の行動にはやては首を傾げるが、ゲーデは微笑を浮かべて電話の応答を待つ。
そして少しの間電話越しの会話を行い、ゲーデはそっと受話器を置いた。
「はやて、外に出掛けるから準備をしてくれ」
「え、ええけど……兄ちゃん、何処に電話したん?」
「すずかちゃんの家だ。以前、はやてと一緒に夕飯を食べに来ないかと誘われてな。今訊いてみたら、迎えを送るから是非来てくれ、と言っていた」
「そうなん? けど、迷惑にならんかな~……」
「迷惑だと思ったなら迎えなんて送らないさ。それに、あの量は2人で食うには多過ぎる。せっかくだし、今日は友達の好意に甘えてみよう」
申し訳無さそうな顔をするはやての頭をポンポンと撫でて、ゲーデは出掛ける準備をさせる。
そして、自分の部屋へと車椅子を進めるはやての背中を見送って、ゲーデは静かに息を吐く。
(少し強引だが、今日はこれでどうにかなったか……)
ひとまずどうにかなったと安堵すると同時に、ゲーデの心の中には焦燥感にも似た感情が渦巻いていく。
いつまでもはやてを誤魔化せるわけはないし、闇の書の侵食は今もはやての体を蝕んでいる。
(やはり俺が……いや、今はシノンの調査を待とう。アイツの言う通り、まだ闇の書に関する情報が少な過ぎる……)
そう考えて思考を打ち切り、ゲーデは自分の部屋に掛けてあるロングコートとマフラーを取りに歩を進めた。
ちなみに、数分後にやって来た月村家の迎えのリムジンとメイドを見て、はやてとゲーデが驚きでしばらく言葉を失ったのは余談である。
* * * * * * * * * * * * *
Side シノン
マンションを出てしばらく外を歩き、オレとリンディさんはエアコンが程良く効いたスーパーに着いた。
寒空の下を歩いて冷え込んだ体が徐々に暖かくなっていくのを感じながら、オレはリンディさんの後ろを付いて歩く。
リンディさんは目当ての食材を見たり、手に取るなどして品質を確かめている。
その姿を目に映しながら、オレは周囲に感覚を広げて不審な人物や視線が無いかを数分の間を置いて確認する。
いくら何でもこんな街中、しかも店の中にいる人間を襲うような真似は流石の守護騎士もしないだろうと思いたいが、雇い主が目下追跡中の相手に期待を抱くというのも何か違うので念の為である。
「う~ん……シノン君、どっちを買った方が良いと思う?」
呼ばれた声に振り返ると、リンディさんが左右の手にキャベツを持って交互に見比べている。
はて? 今日はビーフシチューのはずだが、何故キャベツを手にしているんだ?
首を傾げてよく見てみると、すぐ近くに『本日特売!』と書かれたチラシが張られている。
なるほど、安い内に買っておくということか。今の時期となると恐らく出回ってるのは冬キャベツになるし、そうなると。
「…………こっちですかね。少し重くて葉が硬いですけど、熱を通せば良い甘さが出ますよ。ロールキャベツなんてどうです?」
「あら、詳しいのね。シノン君も料理するのかしら?」
「最近は全然ですね。昔はそれなりに出来てたんですけど」
アドリビトムに所属するまでマトモな拠点を持たなかったオレは基本的に自炊の生活が当たり前だった。
主に野宿をする時だったが、時には魔物や動物の肉などを、時には市場で売られている野菜や果物を買って調理していた。
生活の一部として当然のように行っていたことなので、調理の腕はともかく食材の知識はそれなりにある方だと思う。
そんな会話をしながら買い物を終えて、買い物袋を手に持ったオレはリンディさんの後ろを歩いている。
「今日は突然ごめんなさいね。シノン君もデバイスの調整中だったのに」
「いえ、もう殆ど終わっていたので問題無いです」
そう。実はオレのデバイスもちょっとしたアップグレードを行っている。
と言っても、レイジングハートやバルディッシュのような大規模な性能強化ではない。幾つか必要と考えたフォームを増やし、魔法を追加登録した程度だ。
「ところで、前に頼んだことなんですが……」
「ああ、管理局内部のデータベースで闇の書の情報を探したいと言ってた件ね。大丈夫、もう話は通してあるから数日中に行けるわ」
その答えを聞いてオレは心の中で安堵の息を吐く。
ゲーデと話したように、管理局に協力しているオレが今やるべきことは情報収集が最優先事項である。
皆を救いたい。
そう言ったゲーデの願いを叶えるために、今はとにかく情報が欲しい。
闇の書とは一体何なのか、どういう意図をもって開発されたのか、そのどれかが分かれば何かしらのヒントを得られるはずだ。
とりあえず、データベースを調べられる目処が付いたということを後でゲーデにメッセージで伝えておくとしよう。
進展が出来たことはキチンと報告しなけばアイツも不安になるだろう。何せ家族の命が掛かっているのだから。
(とりあえず前に進むことは出来てるが、時間に余裕があるわけじゃない。八神はやての命は今も命の危険に侵されているし、守護騎士も動いている。時間を掛け過ぎれば手遅れになる可能性も……)
思考を巡らせてこれからの行動を頭の中で描き、リンディさんと他愛も無い話をしながら道を歩く。
だが、その途中……
『……っ!!』
……一瞬で周囲の空間を飲み込んだ結界の気配に必然と足が止まることとなった。
そして、間髪入れずに上空から風を切るような音が鳴り、3発の鉄球がリンディさんに迫る。
それに即座に反応したリンディさんは左手を突き出して障壁を展開し、防御の構えを取る。
だが……
「失礼します」
「え? ……きゃっ!」
即座にバリアジャケットを展開したオレがリンディさんを横抱きに抱えて跳躍し、その場を離脱する。
咎めるような目でリンディさんがオレを見るが、残念ながらアレは悪手だ。
直後、先程までリンディさんが立っていた場所から緑色のワイヤーが飛び出し、そこに立っていたであろう人間を捉えようと凄まじい速度で拘束陣を描いて収縮する。
「誘導弾は囮……!?」
オレの行動の理由を即座に理解してくれたようで、リンディさんは驚くように呟くだけで何も言わなかった。
そのままヴェルフグリントが空中に展開した魔法陣を足場にして上方へ跳躍し、ビルの屋上へと着地してリンディさんを下ろす。
「仕損じたか。出来れば初手で仕留めたかったのだがな」
そこには、少々の距離を開けて佇む女騎士、シグナムと呼ばれていた女性の姿があった。
そのすぐ後ろには展開中だった魔法陣を閉じる金髪女とそれを守るように立つ銀髪の大男がいる。
残る1人、ヴィータと呼ばれていたハンマー型のデバイスを持つ少女が見当たらないが、誘導弾の射程から考えて近くにいるのは確実だろう。
(リンディさん、通信は飛ばせますか……?)
(ダメね……あの金髪の女性が妨害しているみたい。でも大丈夫、クロノとエイミィなら私の指示が無くてもちゃんとやれるわ)
返って来たリンディさんの声は、揺るぎない信頼に満ちたものだった。
雇い主が大丈夫と言ったんだ。ならオレはオレの仕事をするとしよう。
「ヴェルフグリント、武装を出せ」
『了解しました』
リンディさんを守るように前に立ち、持ち上げた左手の中に光が集まってズシリとした重さを感じさせる。
手の中に顕現したのは身の丈を超す大太刀ではなく、鞘に納められた長過ぎることも短過ぎることもない標準の刀身の長さを持つ日本刀。
鞘に納めたまま柄に右手を添え、軽く息を吐きながら腰を僅かに沈める。
「最低でもSランクオーバーのベルカの騎士が4人か……まあ、やるしかないですわな」
「大丈夫よ、今度は足手纏いにならないわ」
オレの呟きに答えたリンディさんは微笑みながらその身にバリアジャケット……局内で着ている提督の服を纏い、足元にミットチルダ式の魔法陣を展開する。
それに反応して守護騎士達も構えを取り、数秒の沈黙を挟む。
「参る」
やがて、シグナムの呟きを引き金にオレとリンディさんは守護騎士達との戦闘を開始した。
ご覧いただきありがとうございます。
ゲーデとシノンの焦りやら不安やらを他所に、再びの守護騎士の襲撃です。
まあ、街中を管理局の提督とSSランクの魔力持ってる奴が歩いてたら普通は見逃しませんよね。
次回はようやく戦闘です。
シノン&リンディVSヴォルケンズの変則対決です。まあ、リンディって結界魔導師らしいから出来ること限られるけど。
では、また次回。