白銀の来訪者   作:月光花

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今更だけど明けましておめでとうございます。

相変わらずの更新速度ですが、他の作品共々今年もよろしくお願いします。

では、どうぞ。


第14話 第2ラウンド

  Side シノン

 

オレの斬撃と仮面の男の拳はお互い同じ場所を狙っていたことで正面から交わる。 

 

激突した拳と刀身はすれ違うが、衝撃波によって砂塵が舞い上がって間近にいる筈の仮面の男の姿も視界から消失する。

 

気配によって大まかな位置を予測したオレは即座に刀身を返して横薙ぎに振り抜く。

 

風切り音と共に斬撃が砂柱を斬り裂き、周囲の砂塵が吹き飛んで視界が晴れる。

 

だが、その先に仮面の男の姿は無く、砂の地平と青い空が見えるだけ。

 

間を置かずにその場から飛び退くと、真上からオレが立っていた場所に凄まじい速度で放たれた蹴りが突き刺さった。

 

撒き散らされる風圧と砂塵で僅かに目を細めるが、たった今出来上がった衝撃波の中心に向けて練り上げた闘気を纏わせた太刀を振り降ろす。

 

「剛……魔神剣ッ!」

 

唐竹に振り下ろされる剛剣と共に解放された闘気が大爆発を起こすように炸裂し、更に大きな衝撃波が起こる。

 

仮面の男の姿が砂煙に飲み込まれて数秒の静寂が流れるが、突如オレの四肢を拘束するように青色のチェーンバインドが出現する。

 

鎖の収縮が始まるよりも先に後方に飛び退いてバインドの範囲から逃れ、その直後に殺気を感じて身を屈める。

 

次の瞬間、胸元を狙って放たれた仮面の男の貫手が頭上を通過する。オレは太刀から右手を放して腹部目掛けて拳を放つ。

 

「くっ……!」

 

仮面の男は咄嗟に空いた左手で障壁を張って拳を受け止め、衝撃に逆らわず後方へと軽く吹き飛んだ。

 

オレは両手で太刀を握り直して追撃し、仮面の男も着地して即座に構えを取って迎え撃ってくる。

 

顔面を狙ったストレートと首筋を狙った袈裟斬りが打ち合い、衝撃で腕が弾かれる。

 

オレはそこから弾かれた反動を乗せて右薙ぎの斬撃を放つが、仮面の男は右脚を蹴り上げて斬撃を弾いた。

 

反撃するように仮面の男の左脚が跳ね上がり、オレの腹部を狙った横薙ぎの蹴りが迫る。

 

右薙ぎに振るった太刀を返す刃で左薙ぎに振るって蹴りを弾き、すかさず袈裟斬りを放って反撃する。

 

だが、仮面の男は勢いを殺さず独楽のように体を回転させ、弾いたはずの左脚の蹴りが今度はオレの左側から迫ってきて斬撃が弾かれる。

 

「ちっ……!」

 

思わず舌打ちが零れるが動きは止めずに太刀を地面スレスレの高さで振るって仮面の男の体を支えている右足を狙う。

 

しかし、そこを狙うと読んでいたのか仮面の男は右足全体のバネの力だけで真上に跳び上がった。足に力が入り辛い砂地の上だというのに、その跳躍は無駄な力が殆ど無い。

 

(身軽過ぎるだろ……!)

 

曲芸染みた動きに文句を言いたくなるが、仮面の男の動きは止まらず跳躍と同時に右脚の蹴りが下から顎をかち上げるように迫る。

 

振るった太刀を引き戻して刀身を割り込ませ、ギリギリで蹴りを逸らす。

 

しかし、下から救い上げるような蹴りを受けた瞬間に両腕を通して今までよりも一段と強い衝撃が走る。

 

ガアァァン!!

 

(重い……!)

 

ビリビリと走る振動が感覚の残った左手から体へと伝わり、流し切れなかった衝撃によって両腕ごと太刀が上へと大きく跳ね上がった。

 

力を溜めるような動作は特に無かったはずなのに蹴りの威力だけが増した。

 

不可解な現象によって一瞬だけ驚愕で思考が固まるが、そのタネの正体を目にして再び思考が加速する。

 

仮面の男の右足……防御した太刀と打ち合った爪先の部分に見えた小さな障壁。恐らく魔力を纏うのに加えてピンポイントで障壁を張って強度を上げたのだ。

 

両腕が上へと跳ね上がり、仮面の男は持ち上げた右足をそのまま勢い良く振り下ろして無防備なオレの脳天に踵落としを放つ。

 

迫るブーツの踵を見ながら、集中力によって加速したオレの思考が即座に次の行動を叩き出して体を突き動かす。

 

(あんまりやりたくはないが……)

 

体の力を抜き、左右の肩と胸元の前方から背狼による魔力噴射を行う。

 

ボオォン!! という爆音と共に衝撃が体を襲い、急加速によって体を強制的に後方へと移動させた。

 

おかげで踵落としは空を切り、砂地に大きくめり込むだけとなった。

 

代償にオレは無茶な避け方をしたせいで内臓がシェイクされて強烈な吐き気に襲われるが、堪えられない程ではないのでひとまず無視する。

 

両手で太刀を握り直して仮面の男を見ると、追撃を仕掛けることもせず脚を振り降ろした位置から動かずオレを見ている。

 

仮面越しなので表情は一切分からないが、その様子はまるで目の前の光景に唖然としているようだった。

 

「……無茶をする。純粋な魔力を推進力にして肉体を強引に加速させるとは……剣の腕もだが、歳に似合わず随分と鍛え抜かれている」

 

「……いきなり何だ」

 

先程までオレを叩き潰そうとしていたくせに突然誉め言葉を並べてきた不気味な行動に眉をひそめるが、仮面の男は腕を組んで言葉を続ける。

 

「含むものは無い。純粋な賛辞だ。しかし、それ程の腕が有るのなら分かるだろう? 自分が不利であるということは」

 

「…………」

 

仮面の男の言葉に無言を返す。

 

それを肯定と受け取ったのか、さらに言葉は続く。

 

「もう一度だけ言う、()()()()()。守護騎士と戦っている少女の魔力は奪わせてもらうが、それ以上の害は加えないと保証する」

 

そこまで聞いたところで、少し離れた上空で爆発が起こった。

 

チラリと視線を向けると、炎と雷を漂わせた煙の中で睨み合うフェイトとシグナムの姿が見える。

 

フェイトはバルディッシュを手離さず握り締めてシグナムと対峙しているが疲労によって肩を上下させており、遠くから見ても今にも崩れ落ちそうだ。

 

このままだと、あと数分で決着が着くだろう。

 

「……限界か」

 

予想通りの結果ではあるが溜め息が僅かに漏れる。

 

手に握った太刀をゆっくりと鞘に納めて呟く。

 

「賢明な判断だ。このまま2人揃って敗れるよりもどちらか1人の犠牲で済む方が……」

 

「すまんな……」

 

仮面の男の言葉を遮るように声を上げる。

 

太刀の柄に手を添えて僅かに腰を落とし、ゆっくりと目を閉じる。

 

「……生かして捕らえるつもりだったが、余裕が無くなった」

 

自分でも変化が分かるくらいに冷たい声が出て、空気が変わる。

 

閉じた視界の中で思考を切り替え、息を吐いて目を開く。

 

弾かれたように両手を構えた仮面の男と仮面越しに視線が合わさったのが分かった。

 

 

「上手く防げよ。でないと……死ぬぞ」

 

 

呟きと共に一歩踏み込み、背狼の魔力噴射によって体が急加速する。

 

距離を詰めようとするオレを止めようと仮面の男が自分の眼前に障壁を展開するのが見えた。

 

「薄いな」

 

止まらず呟き、()()()()鞘に納めた太刀を抜き放つ。

 

地面を踏み締めると共にイメージ通りの斬線を辿って放たれた右薙ぎの一閃は青色の障壁を一瞬の抵抗を挟んで両断し、その先にいた仮面の男の胸元を斬り裂いた。

 

「なっ……!」

 

仮面の男が驚いたような声を上げるが、生憎と難しいことは何もしていない。

 

単純な話、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、というだけだ。

 

そして、殺す気で放った居合の一撃は斬り裂いた障壁によって威力を減衰させられたが、確実に傷を負わせた。

 

致命傷ではない。だが決して軽くはない傷だ。

 

あと一撃打ち込めれば確実に行動不能に出来るが、仮面の男は驚愕しながらも既に距離を取ろうとしている。

 

オレは居合いの斬撃を放った直後で追撃が出来ず、あと数秒で仮面の男は体勢を整える。

 

だから……少し無茶をする。

 

踏み込んだ右足の裏と背中から魔力を噴射。

 

脳からの電気信号で筋肉を動かすのではなく、ブースターを取り付けたように外部から強制的に体を動かして突き穿つような蹴りを放つ。

 

肉体の構造限界を覆すような動きによって体がギシギシと嫌な音を立てて痛みを訴えるが、完全に仮面の男の不意を突いた攻撃は胸元に付けた傷を正確に蹴り抜いた。

 

「が、はっ……愚か、な……!」

 

「ありがとよ」

 

強烈な殺意を宿した言葉に軽口を返すと、仮面の男はその場に倒れ伏す。

 

その数秒後、少し離れた砂地から砂柱が舞い上がった。位置的に考えてフェイト達の勝負に決着が着いたのだろう。

 

「マズイな。急ぐぞ……!」

 

『Accel Fin.』

 

出来ればこのまま仮面の男を拘束したいところだが、今はそれよりもフェイトの救出を優先すべきだと考えて太刀を納刀し飛行魔法で砂漠を駆ける。

 

さっきの強引な追撃によって痛めた体の各所が悲鳴を上げるが、時間が惜しいので無視する。

 

そして、飛行魔法で向かった先に見えたのは地面に倒れ伏すフェイトと近くで魔導書を広げるシグナムの姿だった。

 

しかも既に蒐集が始まっているらしく、フェイトの胸元から浮かび上がったリンカーコアから金色の魔力光が吸収されている。

 

「遅かったかっ……!」

 

間に合わなかった不満を吐き捨てながらフェイトの元へと真っ直ぐに飛び、両足の裏から背狼の魔力噴射を行ってさらに加速する。

 

噴射音に反応したシグナムがオレの姿を捉えてデバイスを構えるが無視してその隣を横切り、地面に倒れたフェイトを抱き上げて離脱する。

 

流石に対象が近くにいなければ蒐集は出来ないらしく、フェイトの胸元に浮かび上がっていたリンカーコアは体内へと戻っていく。

 

どうやらなのはのように全ての魔力を奪われるのは防げたようだが、フェイトは気絶したままで起きる様子が無い。

 

後ろからは即座に追跡を始めたシグナムが追い掛けて来ており、まさに想定していた最悪の結果に直面してしまう。

 

(アルフ、フェイトがやられた! 今何処にいる!)

 

(エイミィから通信貰ってソッチに向かってる! 後ろからザフィーラって奴も追って来てるけど)

 

近くで交戦していると聞いていたアルフに念話を飛ばすと、急いでいるような声ですぐに返事が返ってきた。

 

続いて念話を経由して通信の声が頭の中に響く。

 

(ゴメン2人共、クロノ君となのはちゃんが急いで向かってるけど間に合わない! もうすぐ転移の準備が出来るから指定した座標まで逃げ切って! )

 

(了解です……アルフ、転移座標で合流するぞ)

 

(あいよ!)

 

アルフの返事を聞き届けて念話を終え、送られてきた座標を確認してから背狼で方向転換して飛行する。

 

オレが急に逃げる方向を変えたことを不審に思ったのか、シグナムはさらに速度を上げて追い掛けて来た。

 

エイミィさんが指定した座標はオレとアルフの位置のちょうど中間。どちらか一方の到着が速過ぎても遅過ぎてもいけないので速度に気を付ける。

 

そして、数分程逃げ回った先でエイミィさんの言っていた転移陣と此方に向かってくるアルフの姿を視界に捉える。

 

同時に守護騎士達もオレ達が撤退しようとしていることに気付いたのか、さらに速度を上げて距離を詰めて来る。

 

(……流石にこのままは厳しいか)

 

オレもアルフも追い掛けてくる守護騎士との距離は精々100メートル程。

 

転移陣はもう目と鼻の先だが、このまま飛び込んでも離脱するより先に攻撃を仕掛けられて失敗する可能性が大きい。

 

ならばこの状況でオレはどうするべきかを数秒だけ思考し、これから行うキツイ役割に重い溜め息を吐くと共に腹を括る。

 

(アルフ、フェイトを頼む)

 

(は? アンタ、何言って……)

 

短い念話を飛ばし、返答を待たずに両手に抱えたフェイトの体を急ブレーキと共に転移陣に辿り着いたアルフに投げ渡す。

 

フェイトの体を痛めないように投げ方には気を付けたが、自分の主人を突然荷物のように投げ渡されたアルフは目を見開く。

 

「ちょっ、あんっ、な………!」

 

言葉になっていない声を漏らしながらもアルフはどうにかフェイトを受け止めた。

 

数秒後には転移の開始と共にオレへの文句が始まるのだろうが、生憎と今それを聞くことは出来ない。

 

()()()()()()()()()()()()

 

「っ!? シノ……」

 

気付いたアルフが咄嗟に手を伸ばすが、その声は転移の光に飲み込まれて途絶えた。

 

残されたオレは、鞘に納めた太刀に手を添えてゆっくりと振り返る。

 

そこには、こちらを警戒しながら空中に浮遊しているシグナムとザフィーラの姿が見える。

 

(ちょっとシノン君! なにしてんの!?)

 

(あのまま全員で飛び込んだら誰も逃げられませんでしたよ。殿をやるならアルフよりオレの方が良いでしょう)

 

(っ! あ~~~~~もうっ!! クロノ君達を急がせるから、それまで耐えて!)

 

文句を必死に堪えたような口調でそう言われて通信は終わり、オレはゆっくりと太刀を鞘から抜き放つ。

 

それだけでも体の各所……具体的には腰回りと両足、背中が表情には出さないが軽くない鈍痛を訴えてくる。

 

何処も太刀を振り回す時に負担を掛ける筋肉だが、治療している余裕は無さそうなのでこのまま戦うしかない。

 

オレの行動に反応してシグナムは長剣を、ザフィーラは手甲に覆われた両腕を構える。

 

「さあて、第2ラウンドと行こうか」

 

そう言って、オレは太刀を握り締めて守護騎士達に向かって突撃した。

 

 




ご覧いただきありがとうございます。

仮面の男の強さについては完全に私の想像ですが、原作での強さからしてこのくらいは出来そうだと思いました。

オリ主によってフェイトの蒐集は原作よりも半端な状態で終わりました。と言っても、今後に何か大きな影響を与えるわけでもありません。

たとえ半端でも蒐集されたから魔法コピーされてますし。

そしてオリ主は体痛めた状態でヴォルケンズ相手に1人で殿です。まあ、体痛めたのは完全に自分の判断によるものですけど。

では、また次回。

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