某ウイルスの騒ぎが少しずつ収まってきたかと思えばまた感染者急増したり大雨で酷い被害が出たりと大変ですが、皆さんどうかお気を付けてお過ごしください。
では、どうぞ。
Side シノン
傭兵仕事の経験上、突発的な連戦は何度も経験したことがある。
討伐対象の魔物を倒したと思えば戦闘音を聞き付けて別の魔物がやって来たり、盗賊を全滅させたと思えば漁夫の利を狙った他の傭兵から襲撃されたり。
勿論そんな時は体力が消耗して怪我もしているのでとても万全な状態とはいえない。
だが、敵はそんなことお構い無しに襲ってくるのでこちらもどうにかしないといけないのだ。
(今回もそれと似たような状況なんだが……)
心中で呟きながら太刀を振るって振り下ろされた炎を纏う長剣を弾き、即座にバックステップで飛び退いて真上から急降下して来たザフィーラの拳を避ける。
だが、そうして動く度に体の各所から鈍器で殴られたような鈍い痛みが走って思うように動けない。
幸か不幸か痛みには慣れているので耐えることは出来るし表情にも出さないようにしているが、それは問題の解決策にはならない。
ならば逃げれば良いとも考えるのだが、今いる場所は辺り一面砂漠が広がる無人世界。逃げ帰る場所も無ければ隠れる場所まで無いと来ている。
よってオレの取れる選択は増援の到着まで持ち堪えるというモノになるのだが、実際にやってみると中々に綱渡りような状況だ。
2対1の人数差に加えてこっちは足腰のふんばりが効かないので攻撃も正面から受け止めるような防御が出来ないのでひたすら受け流すか避けるしかない。
未だにやられていないのは恐らくオレの魔力を蒐集する為に手加減しているからだろう。
おかげでオレは逃げの一方で有りながらもどうにか持ち堪えられているのだが、少しでも下手を打てば……いや、それ以前に時間が長引くだけでこの均衡は崩壊する。
受け流しと回避に専念しても動くだけでオレの体は悲鳴を上げ、動きも徐々に鈍くなってジワジワと追い詰められていく。
敵対する2人もオレが一向に反撃してこないことから何らかの不調を抱えていると気付いたらしく、攻撃のペースを上げ始めた。
(このままでは保たないか……)
消耗していく自分の肉体と守護騎士達の攻撃のペースを冷静に分析し、このままでは増援の到着まで持ち堪えられないと確信する。
ならば、太刀を使わない攻撃手段で時間を稼ぐしかないだろうと戦術を切り替える。
「吹き荒れよ、制裁を刻みし怒涛の烈風……」
「「ッ……!」」
オレの呟くような言葉に気付いた2人が即座に距離を取ろうと離れるがもう遅い。
「テンペスト」
眼前に持ち上げた右手の指を鳴らすと共に、目の前の2人を中心にした魔法が放たれる。
ほんの数秒で巨大な竜巻が形成され、その中心に出現した球体が凄まじい放電を起こす。
暴風と電撃が同時に襲い掛かる中では逃げ場も無く、シグナムとザフィーラの姿は一瞬で飲み込まれた。
魔法によって引き起こされた現象なので電撃を纏った竜巻は十数秒で消滅し、吹き荒れた砂塵もすぐさま晴れていく。
そこには、多少のダメージを受けながらも砂地の上に立っている守護騎士の姿が有った。
どうやら咄嗟に障壁魔法を展開して今の攻撃を耐えたらしく、ザフィーラが肩で息をしながらシグナムを庇うように立っている。
視界が晴れると共にシグナムはザフィーラの背後から飛び出し、長剣の刀身に炎を纏わせながら真っ直ぐにオレとの距離を詰めてくる。
だが、またしても遅い。次の詠唱までは充分な距離だ。
「穢れ払いし洗礼よ、降り注げ……スプラッシュ!」
虚空に出現した魔法陣から大量の水が凄まじい水圧で放たれ、シグナムの頭上から降り注ぐ。
突然頭から水をかけられてシグナムも少なからず混乱したらしく、突撃の速度は目に見えて遅くなって刀身に纏っていた炎も水蒸気を生み出しながら勢いが弱まる。
「くっ……なんと、デタラメな……!」
「そう言うな。お前らの『魔法』も似たようなものだ」
思わず口に出たようなシグナムのぼやきに軽口で返し、後ろに飛び退いて距離を取る。
「ウオオォォォォァァァ!!!」
ソレを許さんと言うように咆哮を上げたザフィーラが拳を振り上げながら真っ直ぐに突っ込んでくる。
どうやらオレの魔法の威力が溜めと詠唱の時間に比例すると予想したらしく、その突撃には多少のダメージを覚悟したように迷いが無い。
確かに、今の距離では詠唱時間を含めて中級魔法を1つ使うのが限界だろう。
そして、右腕のブーストを加えたとしても中級魔法1つの威力ではザフィーラの防御を突破するのは難しい。
ならば、今目を向けるべきは魔法の威力ではなく、その使い方をどう工夫するかだ。
「色彩宿さぬ地上の縛鎖、反転せよ……トラクタービーム!」
オレの詠唱が終了し淡い光のサークルが形成されると共にザフィーラは即座に自分を包むように防御魔法を展開する。
しかし、残念ながらこの魔法は攻撃の為のものではない。
「むっ……!」
拳を振り抜こうとした瞬間、違和感を感じたザフィーラが視線を下げた。
その直後、飛行魔法による推進力を丸ごと上書きするかのように上方から凄まじい引力が発生し、ザフィーラの体が浮かび上がっていく。
本来この魔法はサークル内の敵を空中に浮かび上がらせて地面に叩き付けるというもので単独で飛行可能な敵にはあまり効果が無い。
だが、それでも強制的に浮かび上がらせることは出来るのでザフィーラの突進はその勢いを完全に殺されて実質無効化された。
「おのれっ……!」
無念だと言うようにザフィーラは低い声で呟きながら地面に着地する。
どうにか目の前の2人の射程範囲から一時的に逃れることに成功し、オレは軽く息を整えながら次の攻撃を警戒する。
しかし、距離が開いたからか、それともオレの魔法を警戒してか、シグナムとザフィーラはその場からすぐに動かなかった。
「手負いの身で有りながら私とザフィーラの2人を相手にしてここまでやるか。並の胆力ではないな。侮っていたつもりはないが、正直驚いた」
「……言い訳しようが泣き叫ぼうが誰も助けてくれないし何も変わらない。だから
自然と返したオレの言葉にシグナムが息を呑む。
まあ、見た目十代の子供が平然と口に出す言葉ではないだろうが仕方ない。今のオレの中ではこの考えが基盤なのだから。
そりゃあオレだって本当に子供だった時は自分ではどうしようもない理不尽な出来事や立て続けに起きる災難を前に絶望して嘆いて怒りも湧いた。
だが、そんなことを何度も経験すれば期待なんて持たなくなる。
結局、問題を解決出来るか否かで一番重要なことは自分自身の強さなのだとオレは思うようになった。
誰かに助けてもらうのが決して悪いわけではないが、本当に大切なのは心の強さにせよ力の強さにせよ自分のものだということだ。
だから今も昔も、この状況でオレがやることは変わらない。
痛かろうが苦しかろうが死ぬ気で何とかする。それしかない。
「なるほど……強いのだな、お前は。その歳でそこまで言い切れるのは、並のことではない。ならば、こちらも相応の覚悟を持って相手をしよう」
「主の為に、か?……どれほど立派な人物なのか知らないが、そこまで大事に思っているならその主の為に
「……無理、だろうな。そこまでお前達を信用出来ないというのも有るが、何よりもそうなれば我等の罪が主にも向けられる。ソレを我等は望まない」
僅かに迷いながらもシグナムの返答には、明確な否定の気配を感じた。
快く応じてくれるなどとは思っていなかったが、どうやらゲーデが言っていた通りの状態らしい。
冷静に見えて余裕が無いというか、最悪の事態を恐れて他に目を向けていない。
現状でシグナム達が望まない最悪の事態とは八神はやての死、次に八神はやての存在が露見して今の生活を追われること。
もしくは……いや、ほぼ確実に守護騎士達の内心ではコッチが重要なのだろう。
「……本音を言ったらどうだ。本当は今の生活を失うのが嫌なだけだとな」
「ッ!? なにをっ……!」
オレの言葉にシグナムとザフィーラは怒りを露にして一歩踏み出すが、その直前に走った動揺を見逃しはしなかった。
予想が半ば当たったことを確信して、オレは焦らず言葉を続ける。
「確かに主の為を思って行動していることに嘘は無いんだろう。だが、自分達の罪が主にも向けられるから管理局との話し合いに一切応じないのは理由としては弱い。それなら尚更話し合いに応じて主に罪が降りかからないよう交渉するべきだ」
しかし、管理局と話し合いのテーブルに着く以上、主である八神はやての出席は絶対条件だ。
そうなれば、彼女は自分が知らなかった真実を聞くことになる。
自分の家族である守護騎士が多くの人を傷付け魔力を奪ったことを、その行為が全て自分の命を救う為のものだったことを。
オレは八神はやてと言う人間のことを全く知らないが、守護騎士達がここまで身を削って頑張っているのだから良い心を持った子なのだろう。
そんな優しい人間が真実を知れば、間違い無く今までのようにはいかない。
守護騎士達を責めるかもしれないし、一緒に罪を償おうとするかもしれない。どれを選ぶかまでは分からないが、これまでと同じ日常には戻れないだろう。
オレが言ったのはそういうことだ。
「この際だからハッキリ言ってやる。そんな虫の良い話が通るなんて思うな。
お前達は既に『身勝手な暴力』で他人を傷付けた。その人達が痛みで泣いている間、お前らは笑ってお前達の守りたい日常とやらを過ごしていた」
「それ、は……」
「どんな理由が有ってもそれは変わらない。どんな美談を聞かされようが、被害者からすればお前達は有無を言わさず自分を襲った悪魔と同じだからな」
どんな人間だろうが理不尽には怒るものだ。
例え傷付けてきた相手が同じように理不尽な経験をしたとしても、傷付けられた側は納得など出来るわけがない。
「ならば……ならば我等はどうすれば良かったのだ……!」
「シグナム、待て!」
「日に日に死に近付いていく主を!! 苦しんでいるのを隠しながら笑顔を浮かべる主を黙って見ていれば良かったのか!!!」
ザフィーラの制止の声も聞かず、溜め込んでいたモノを吐き出すようにシグナムは声を荒げる。
血が流れるほどの強い力でデバイスを握り締め、歯を食い縛りながらオレを睨むその姿からは何かを偽り隠すような気配は微塵も無い。
自分達だって好きでこんなことをしてるわけじゃない、何も知らないくせに好き勝手ほざくな、とでも言うように今の彼女は本音を叫んでいる。
ああ、そうだ。確かにその通りだ。
オレはお前達じゃない。八神はやてと会ったことすらないオレにお前達の気持ちなど分かる筈も無い。
だからこそ、オレはオレがそうするべきだと考えた答えを口にする。
「助けてもらえば良かったんだよ。誰かを傷付けるって選択をするより先に、お前達は助けを求めるべきだった」
「…………は?」
すんなりと答えたオレの言葉に、シグナムとザフィーラは一瞬で怒りを忘れて呆然としていた。
数秒後には立ち直ってまた怒鳴り声を上げるだろうなと考え、オレは言葉を続ける。
「おかしなことではないだろう。必死に考えてやれることを全部やって、それでもどうしようもないことなら誰かに助けてもらうのは悪いことじゃない。本当にその主を死なせたくないなら、例え過去の罪を問われることになっても管理局に助けを求めるべきだった」
「……それこそ、無意味だ……既に我等は罪を犯した……こんな身で今更救いを求めて、一体誰が手を差し伸ばす……」
「いただろう。少なくとも2人……お前達に傷付けられても、戦いながら何度も話し合いを求めてきた人間が」
俯きながら弱々しい声で呟いていたシグナムが、オレの言葉にハッと顔を上げた。
嫌でも心当たりが有る筈だ。底抜けにお人好しな2人の少女が。
「もう止まれない、もう手遅れだと決めつけて諦めるな。少しだけで良い、ほんの少しだけ立ち止まって話し合って考えてみろ。本当にこのままで良いのかをな」
「「シノン(君)!!」」
背後から聞こえてきた声に振り向くと、なのはとクロノが上空から降りて来てオレを背中に庇うように立ってデバイスを構えた。
だが、それに対してシグナムはデバイスを構えることもしない。
それどころかなのはの姿を見てビクリと肩を震わせ、弱々しく力を失ったデバイスの矛先が砂地に刺さる
その姿を見て明らかに様子がおかしいと察したなのはとクロノは構えたデバイスをゆっくりと下げ、戸惑うようにシノンを見る。
(シノン君、これって……)
(少し話をした。クロノ、無茶を承知で頼む。此処は退いてくれ……体もあちこち痛いしな)
(容易に確保出来そうな敵を前に確かに無茶な注文だな……確認するが、ソレは必要なことなんだな?)
念話を飛ばしながらチラリと視線を向けてきたクロノの目は、真剣そのものだった。
オレはチラリと視線をシグナムの隣に黙して立つザフィーラに向けると、視線を気付いたのか相手もこちらを見る。
「…………」
変わらず口を開くことも念話を飛ばすこともせず、ザフィーラは口を閉じている。
だが、傍に立つシグナムの背中を一瞥すると、ザフィーラは再びオレと視線を合わせて一度だけコクリと頷いた。
ソレが何を言いたかったのか正確に把握したわけではないが、一先ずこの場でこれ以上の戦闘の意思は無いということは分かった。
(……そう思ってくれて良い。もしこれでもまだ連中が止まらないなら……その時はオレが責任を持ってケリを付ける。なのはも良いか?)
(……うん、わかった)
未だ現状に戸惑いを残しながらも、今のシグナムと戦うのはなのは本人も本意ではないのだろう。
微笑を浮かべながら頷きを返すなのはに礼を言って、オレはクロノの肩を借りて体を預ける。
出来るだけ負担を掛けないよう努力したが、流石に背中と腰回りの痛みが厳しくなっていた。もしこのまま戦闘が続けば、オレは即座に戦力外通知だったろう。
ゆっくりとした飛行速度でその場から離脱し、ある程度離れてすぐに足元に大型の転移魔法陣が展開される。
魔法陣の中に光が満ちる中でチラリと視線をシグナム達のいる方向へと向けると、そこには変わらず砂地の上に立ち尽くす2つの影が見えた。
(かなり強引なやり方だったが、一先ずアイツ等の心の中の焦りを落ち着けることは出来た……この先は、アイツ等とゲーデ次第だ……)
後で連絡を入れないとな、と心中で呟くと共に、今回の行動で稼ぐことが出来た時間をどう生かすか考える。
色々な候補が思い浮かび、その中から最も優先順位の高いモノを選ぶ。
(やっぱり無限書庫だろうな。まだまだ夜天の書の情報が足りない。治療が終わったらすぐにでもユーノと合流だ……必ず手がかりを見付けてやる)
このまま悲劇では終わらせないと改めて覚悟を決め、オレ達は魔法陣の光に包まれて無人世界から離脱した。
ご覧いただきありがとうございます。
殿を務めて時間稼ぎに徹して不利になった筈なのに気が付けばオリ主が言葉の精神攻撃でマウント取る流れになりました。
管理局に助けを求めるべき云々のくだりは原作アニメを見た時もちょっとは思ったことです。
まあ、アニメ3期で管理局の深すぎる闇を知った今では少々躊躇いますが。
実際、管理局に交渉を持ちかけたら多分助けてはくれると思うんですよね。
聖王教会は古代ベルカの遺産を確保したいだろうし、管理局は暴走の危険が有る力を監視出来る。それと上手く八神ファミリーを助ければオーバーSの戦力が最低でも5人手に入る。
人情抜きにして見れば良いこと尽くしです。
まあ、あくまで私の予想です。この小説でそう言う流れにするつもりはありません。
では、また次回。