最強問題児の妹も異世界から来るそうですよ?―しっかり者だけど兄好き(ブラコン)!?   作:問題児愛

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三ヵ月ぶりの投稿です。遅れてすみません。


第五話 VS魔王ベルゼブブ

 ―――時を少し遡る。十六夜の視界に新たな刺客とおぼしき灰色の髪の少女が現れ、フードの少女に告げた。

 

「ルキ!姫を奪還したのならさっさと撤退するぞ!」

 

「ブブ!はい。分かりました」

 

 ルキと呼ばれたフードの少女は頷き、ブブと呼ばれた灰髪の少女の下へ瞬間移動した。

 それを確認したブブはルキと亜夜を連れて去ろうとすると、十六夜がさせまいと地面を砕く勢いで踏み込み―――

 

「逃がすかよッ!!」

 

 ―――第三宇宙速度を遥かに凌駕した速度で彼女達の下に飛び込んだ。

 

「………フン!」

 

 ブブは焦ることなく十六夜に拳を振るい迎え撃つ。

 ゴッ!!と二人の拳と拳がぶつかり合うと、凄まじい衝撃波が生まれ辺り一面を吹き飛ばす。

 想像以上の力にブブは嬉しそうに笑った。

 

「くく、やるな少年。オレの一撃を相殺されるとは思わなかった!」

 

「は?オマエまさかの俺っ娘かよ。………ってのは置いといて―――ハッ、そういうオマエもな。流石は魔王ベルゼブブってところか?」

 

「何?」

 

 魔王ベルゼブブと呼ばれた灰髪の少女は眉を顰めた。十六夜は気にせず続ける。

 

「ルキとかいうフード野郎にブブと呼ばれてたからもしかしてと思ってな。んで拒絶(シェリダー)って口にしたオマエは―――魔王ルキフグスだろ?」

 

「………ッ!?」

 

 魔王ルキフグスと呼ばれたフードの少女は驚愕に瞳を揺らした。

 ルキフグス―――ルキフゲ・ロフォカレとは、悪魔学における悪魔の一人。

 主として十八世紀から十九世紀のフランスで流布したグリモワールである『大奥義書』やその異本『赤竜』などに登場した悪魔。

 ラテン語風にルキフグス・ロフォカルスを縮めてルキフグスと呼ばれることもある。

『大奥義書』によれば、地獄の三人の支配者―――ルシファー・ベルゼビュート・アスタロトに仕える六柱の上級精霊の一柱であり、首相・宰相を勤める。

 バアル・アガレス・マルバスを配下に持つ。

 そして十六夜が指す〝魔王ルキフグス〟とは、カバラにおける第三の逆セフィロト(クリフォト)拒絶(シェリダー)(またの名を闇のビナー)を守護する悪魔のことだ。

 魔王ルキフグスは驚愕から一転、感心したように十六夜を見つめ笑う。

 

「ふふ、クリフォトの力を使うのは下策だったようですね。まさか正体を見破られるとは思いもしませんでしたよ」

 

「お兄ちゃんカッコいいー!本当に物識りだね!」

 

「ヤハハ、まあな!亜夜が昔あのクソ悪魔に襲われた時以来、悪魔について詳しく調べてたからな―――って我が妹は敵に捕らわれてるのに緊張感がまるでないな!」

 

「う、うにゃぁぁぁ………そうでしたぁ」

 

 十六夜に指摘されて自分の置かれた状況を再認識してガクリと項垂れる亜夜。

 ルキフグスはそんな亜夜の金髪頭を優しく撫でて言う。

 

「大丈夫ですよ姫様。私もブブも貴女様を取って食らう訳ではありませんから」

 

「ああ。サタン様には姫を無傷で奪還してこいと言われてるしな。………姫がお望みなら話は別だが?」

 

「うにゃぁぁぁ、助けてお兄ちゃんっ!」

 

「おう。今すぐ蝿野郎とフード野郎をぶっ飛ばしてやるから待ってな!」

 

 バシンッ!と手を叩いてルキフグスとベルゼブブとおぼしき少女を睨みつける十六夜。

 溜め息を吐いたベルゼブブとおぼしき少女は灰髪を掻き上げて不敵な笑う。

 

「蝿野郎とは聞き捨てならないけど、まあオレは魔王ベルゼブブであってるから否定はしない」

 

「………マジか。ならオマエは蝿野郎で十分だ!」

 

 魔王ベルゼブブと認めた灰髪の少女を見つめ不敵な笑みで返す十六夜。

 ベルゼブブとは、悪霊の君主の一人である。ギリシャ語形ベルゼブルの名で新約聖書『マタイ福音書』などに現れる。

 旧約聖書『列生記』に登場する、ペリシテ人(フィリスティア人)の町であるエクロンの神バアル・ゼブブ(バアル・ゼブル)と同一とされる。

 ヘブライ語で『ハエの王』を意味する。

 近世ヨーロッパのグリモワールではフランス語形ベルゼビュートの名で現れる。大悪魔で魔神の君主、あるいは魔界の君主とされるようになった。

 地獄においてサタンに次いで罪深く、強大なもの。権力と邪悪さでサタンに次ぐと言われ、実力ではサタンを凌ぐとも言われる魔王である。

 ベルゼブブは神託を齎す悪魔と言われ、また、作物を荒らす蝿の害から人間を救う力も持っている。この悪魔を怒らせると炎を吐き、狼のように吼えるとされる。

 かつて、天界では最高位の熾天使で、天界の戦争においては、ルシファーの側近として戦ったという説話が創られた。また、蝿騎士団という騎士団を作っており、そこにはアスタロトなど悪魔の名士が参加しているとされる。

 そして〝魔王ベルゼブブ〟とは、カバラにおける第二の逆セフィロト(クリフォト)愚鈍(エーイーリー)(またの名を闇のコクマー)を守護する悪魔のことだ。

 ベルゼブブは十六夜に〝蝿野郎〟と言われて若干不機嫌そうな表情を見せるが、三日月形の笑みを浮かべて言う。

 

「仕方がない。ルキ!先に姫を連れてサタン様と合流しろ!こいつはオレが足止めする」

 

「分かりました。さあ、行きましょう姫様」

 

「や、離して………!お兄ちゃんッ!!」

 

 暴れる亜夜をしっかりと抱きかかえたルキフグスは、この場から離脱しようとした。

 

「なっ、行かせるかよ!」

 

 十六夜は盛大に舌打ちしてルキフグスに殴りかかろうとするが、

 

「オレが相手だと聞こえなかったのか?」

 

 十六夜とルキフグスの間に割り込んだベルゼブブが十六夜の拳を受け止めた。

 十六夜はベルゼブブを睨みつけると、殴打のラッシュで障害を取り除こうとした。しかしベルゼブブはそれらを殴り返すことで相殺していく。

 十六夜は舌打ちして左脚を軸にした回し蹴りを放つが、ベルゼブブにその脚を掴まれてしまい、

 

「―――〝愚鈍(エーイーリー)〟」

 

「………!?」

 

 ベルゼブブが〝愚鈍〟を口した瞬間、十六夜の動きが鈍くなってしまった。

 十六夜はその事を瞬時に理解し、後ろに跳ぼうとするが―――

 

「遅いな」

 

「な―――ぐっ!?」

 

 ベルゼブブの拳が十六夜の腹部に突き刺さり、後方に吹き飛ばされとある建物に叩きつけられた。

 十六夜は体勢を立て直してベルゼブブを睨みつける。超人的な肉体を持っていたためか、それともベルゼブブが全力じゃなかったためかダメージは致命的ではなく『少し痛い程度』で済んだ。

 だが、

 

「(まずいな。蝿野郎とまともにやり合うには、このままじゃ無理だ。………動作が鈍いままじゃな)」

 

 そう。ベルゼブブのクリフォトの力―――〝愚鈍〟は触れた対象の者の動きを鈍くさせる力を持つ。

 俊敏性を失った十六夜に、ベルゼブブの相手をするのは厳しいものとなってしまったのだ。

 十六夜はふぅ、と息を吐き拳を作ると―――ガッ!

 

「痛っ………!」

 

 ―――()()()()()()()()。己にかかっている〝愚鈍〟のギフトを()()()()()

 それを見ていた三人は「は?」と間の抜けた声を漏らし、十六夜はその場で屈むと、全力でベルゼブブの懐に飛び込んだ。

 

「何!?」

 

「ハハッ!お返しだ蝿野郎!」

 

 第三宇宙速度で繰り出した拳がベルゼブブの鳩尾に突き刺さり、第三宇宙速度を遥かに凌駕した速度で吹き飛ばし壁に叩きつけ返した。

 体勢を立て直そうとしたベルゼブブに向かって跳躍し追撃をしかける十六夜。ベルゼブブは二対の黒い翼を広げて飛翔することで回避した。

 先程彼女がいたところに着地した十六夜は空を見上げてベルゼブブを挑発した。

 

「どうした?かなり苦しそうだが俺の拳がかなり効いたか?」

 

「ああ。正直言って凄く痛い。そういえば姫はお前の妹でもあるんだったな。容赦しなかっただろ?」

 

「当たり前だ。亜夜は俺の大事な妹だからな。オマエらの姫だろうが妹を狙うなら容赦はしねえ!」

 

「そうか。ならオレもそれに応えてやらないといけないな………!」

 

 ベルゼブブは口元を歪ませて両手を広げた。その刹那、彼女の周りに黒い嵐のようなものが発生した。

 それを凝視した十六夜は、驚きの声を上げた。

 

「………おいおい。まさかその黒いの全部―――()()()()()だってのか!?」

 

「ご明察。だが分かったところでお前にこれらを防げるか?」

 

 ベルゼブブは指揮者のように腕を振り上げると、ハエの大群は瞬く間に十六夜を包囲した。

 十六夜は周囲に群がるハエの大群を見回して、

 

「なら、こうするまでだ!」

 

 十六夜は笑ってベルゼブブのいる方角に超跳躍して障害になっていたハエの大群を吹き飛ばし、そのまま殴りかかる。

 しかしベルゼブブはそれを読んでいたように笑い、

 

「残念だが―――ハズレだ」

 

「………何!?」

 

 十六夜がベルゼブブを殴りつけると、彼女は無数のハエへと変わり彼の全身を覆い尽くしてしまった。

 空中では為す術もなく、視界と動きを封じられた十六夜は地面に落下していった。

 着地と同時に体中に纏わりついたハエを振り払うと、眼前にはベルゼブブの拳が迫っていた。

 十六夜はその拳を間一髪で回避するが、

 

「それは囮だ」

 

「何?―――がっ!?」

 

 本命は蹴りだったようで、ベルゼブブの鋭い蹴りを腹に受けた十六夜は空中高く打ち上げられた。

 ベルゼブブは獰猛に笑って十六夜に向かって超高速で飛翔し―――

 

「やらせると思うか!?」

 

 ―――女の怒号と共に巨大な水柱が二人の間に立ち昇り、遮った。

 ベルゼブブは振り返り、不快そうな表情で乱入者を睨みつける。

 

「邪魔するなよお前。せっかくいいところだったのによ」

 

「フン。我が主がピンチだったもので―――な!」

 

 話の途中でベルゼブブに水柱を放つ白雪姫。しかしベルゼブブは難なく回避しハエの大群を白雪姫に向かわせる。

 白雪姫は水流でそれらを撃ち落としていくが、数が多すぎたため背後を取られてしまう。

 

「………ッ、しまっ―――」

 

「しゃらくせえ!」

 

 だが、それらを白雪姫の下へ駆けつけた十六夜が腕を振るうことによって纏めて薙ぎ払った。

 

「油断するな白雪!相手はクソ悪魔に匹敵する魔王ベルゼブブだ!気を引き締めろ!」

 

「すまぬ、助かった我が主―――って魔王ベルゼブブだと!?大悪魔が下層にいるなど聞いてないぞ!?」

 

「んなこと俺に聞かれてもな。それより御チビがお前に抱えられた状態で気絶してるようだが………何があった?」

 

「む?………あっ、」

 

 十六夜に言われて白雪姫が視線を下に落とすと、

 

「…………………………きゅぅ」

 

 ジンが目を回しながらぐったりとしていた。

 白雪姫は慌ててジンをグラグラと揺らして声をかける。

 

「ジン殿!?しっかりしろ!ジン殿ッ!!」

 

「………ぅ………ん?白雪姫さん?」

 

「起きたか!すまぬジン殿!おぬしを問答無用で拉致してしまって」

 

 ジンを降ろした白雪姫はすぐさま頭を下げて謝罪した。それにジンは思い出したように怒った。

 

「ほ、本当ですよ!危うく死んでしまうかと思いましたからね!?」

 

「ああ。本当にすまなかった………ジン殿」

 

 何度も頭を下げて謝罪する白雪姫。これには流石にジンも責めることを憚れてハァ、と溜め息を吐いて止めた。

 

「もういいですよ白雪姫さん。ですがこれっきりにしてくださいね!僕の命が幾つあってもたりませんので………!」

 

「ああ。肝に銘じておく」

 

 ジンの言葉に頷く白雪姫。それを確認した十六夜は二人に注意を促した。

 

「話は終わったか?悪いが今はあの蝿野郎と戦闘中だ。ふざけている場合じゃねえん―――だ!」

 

 話の途中で迫ってきたハエの大群を蹴散らす十六夜。白雪姫は頷いて水流を奔らせて加勢する。

 十六夜達がベルゼブブと睨み合っていると―――

 

 

『ルキ、ブブ、聞こえるか?』

 

 

「………!サタン様!はい、聞こえますが」

 

「何だサタン様?」

 

 ルキフグスとベルゼブブは何処からか聞こえてきた声の主・サタンに応答する。

 一方、サタンと聞いて何処から見ているか掴めないその悪魔に対して十六夜達は緊張が走った。

 そしてサタンは二人の悪魔に指示を出す。

 

『………姫をその場に置いて今すぐ撤退しろ』

 

「え?何故ですか?姫様は我々の手中にありますよ?」

 

『ああ。アシュが白夜王に見つかった。我はつい先程アシュを回収したところでな。お前達も奴が来る前に今すぐそこを離れろ』

 

「「白夜王が………!?」」

 

〝白夜王〟と聞いて表情を強張らせる悪魔二人。ベルゼブブは舌打ちして十六夜達に告げた。

 

「お前達と遊んでる暇はなくなった。悪いが退かせてもらう!」

 

「あん?」

 

「そういうわけですから姫様。改めて後日迎えに参ります」

 

「え?」

 

 ルキフグスが亜夜を降ろすと同時に微笑み、ベルゼブブの下へ瞬間移動した。

 ルキフグスは十六夜達に一礼すると、ベルゼブブの手を取り瞬く間に消えていった。

 十六夜達は首を傾げて悪魔二人がいた場所を見つめたが、十六夜はすぐに亜夜の下へ駆けつけて保護した。

 

「無事か亜夜!?」

 

「う、うん。ありがとうお兄ちゃん!」

 

 亜夜が十六夜に飛びつくと、十六夜は亜夜の金髪頭を優しく撫でてあげた。

 それからすぐに、飛鳥と黒ウサギの二人が血相を変えて駆けつけて来たそうな。




〝愚鈍〟―――判断力・理解力が鈍いこと。頭が悪くのろまなこと。また、そのさま。

これが本来の〝愚鈍〟の意味ですが、十六夜がお馬鹿様になる様は想像出来なかったので『動きが鈍くなる』にアレンジしました。
解除方法は自分にかけられた〝愚鈍〟のギフトを破壊すれば元の速さに戻れる。
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