「なぁ霊夢」
「何よ魔理沙」
「氷狐の服装……どう思う?」
「すごく……見覚えがあります」
「うー?」
紅魔間でのパーティー当日の昼の博麗神社の境内に、霊夢と魔理沙、氷狐はいた。
ここで待ち合わせ、3人で一緒に行こうと計画してのこと……なんてことはあるはずもなく、魔理沙は特に理由もなく今来たばかりである。
そんな中、霊夢と魔理沙は氷狐の服装を見て固まっていた。
あまり、というか全く触れてはいなかったが、氷狐の普段着は人里の子供と同じような何の変哲もないごく普通の着物である。そんな氷狐の今の服装は、白の動きやすそうな長袖と長ズボンに紫色の対極図が描かれた前掛けのようなもの。つまり……。
「出てきなさい紫……」
「……」
「うおあっ!? どっからでてくるんだお前は!」
「ゆーり!」
霊夢に名を呼ばれて押入れからぬっと冷や汗をかきながら現れた女性、八雲 紫とよく似た服装をしているのだ。
因みに、氷狐は紫がでるなりすぐに抱きついた。
「氷狐! そいつから離れなさい! そしてすぐにその服も脱ぎなさい!」
「霊夢……お前、そういう趣味か?」
「違う! 氷狐が紫のようになるのを防ぐためよ! それに今から紫みたいなのと一緒にいたらあの子の将来に関わりかねないわ!」
「なんという息子の将来を真剣に心配するお母さん発言」
「私みたいなのって……しかも服もだめなの? 私どれだけ危険人物なのよ……」
「~♪」
博麗神社は今日も元気に混沌としている。
霊夢が落ち着いてきたところで4人は一度居間に移って机を囲んだ。囲んだとは言ったが、氷狐は紫の膝の上である。うらやましい人にはうらやましいことだろう。
「で、なんで氷狐は紫と似た服を着ているの? ついでに、なんでそこまで懐かれているのかも教えろ」
「思いっきり命令ね。服装は、氷狐から今日はパーティーがあると聞いたからきっちりとした服を、と思ったからよ。懐かれている理由は……」
「ちょっと待った。氷狐から聞いた?」
聞き流せない言葉が出たのか、魔理沙が紫の語りを止める。
霊夢はいやな予感を感じたのか、たらりと汗を流して紫をにらんでいる。
「ええ。その顔はどこで聞いたのかって顔ね。それも教えてあげましょう」
二人の顔を見て、紫は氷狐の頭を撫でながら勝ち誇ったような笑みを浮かべた。
そしてその口から出た言葉は……一匹の般若を降臨させた。
「だって氷狐……私の家に住んでるんですもの♪」
「死ねぇ!! 夢想封印・瞬!!」
「きゃああああああああ!!」
ぴちゅーん。
母の怒りは何よりも強いものである、とはこの惨劇を見た魔理沙が惨状を見せないように氷狐の目を隠しながら思ったことである。
時間は夜。人間にとっては遅い時間だが、妖怪にとっては今が動き時である。
特に吸血鬼であるレミリアにとっては、夜こそが朝と言っても過言ではない。そんなレミリアは、空に浮かぶ月を外で眺めながら招待した待ち人を待っていた。
レミリアが誘ったのは霊夢とおまけに氷狐。だが、恐らくは魔理沙も来るだろうと予知していた。
「あの魔法使いが来るなら、パチェが喜ぶわね。それに……」
チラッと、レミリアは自身の下にある紅い館……その遥か下に目を向ける。その目は、どこか憂いを感じさせるものだった。
「あの子も……ね」
あの子というのは誰を指しているのか。
その幼き紅い瞳は、誰を想い、何を思うのだろうか。
もしもその想いが現実《カタチ》となるのならば、彼女はいったい何を想う《ねがう》のだろうか。
「……フラ」
「お嬢様、霊夢たちが到着しましたよ」
「さくや。いま。わたしのしりあすぱーと。せりふも。とちゅう。だった」
「それは申し訳ありませんでした。ですが、招待したお客様を待たせるのは当主としてはどうか? と思いましたので」
「……うん」
レミリア・スカーレット、今日も元気にカリスマブレイク。涙ながら頷く彼女を見て、従者は危険な目を向けた。
紅魔館の主従、今日も平常運転である。
レミリアが霊夢たちを迎えるためにロビーに降りてみると、そこには予想を超えた大人数がいた。
霊夢と魔理沙と氷狐は誘ったor予想通りなので良しとするが、問題はそれ以外のメンバー。
幻想郷の賢者の八雲 紫、鬼の伊吹 萃香、人形使いのアリス・マーガトロイド、冥界に住む亡霊の西行寺 幽々子にその従者、魂魄 妖夢。このメンバーはレミリア自身は誘った覚えも誘う気も一切なかったメンバーである。
「よく来てくれたわね霊夢に氷狐。ところで、この大所帯はなにかしら?」
「いざここに向かおうとしたら次から次へと現れてね……」
呆れたような口調のレミリアに、霊夢はため息を吐きながら答え、後ろのメンバーを見やる。
すると、口々に理由を話し始めた。
「氷狐にとって初めてのパーティーだもの。保護者がついてくるのは当然でしょ?」
「ぱあてぃって要するに宴だろ? 酒も出るだろ? 私が出ないわけにはいかないね」
「私は魔理沙がいたから……じゃなくて、えっと……」
「美味しいもの沢山食べられるんでしょう? それに、妖夢にも楽しい思いをさせてあげないとね」
「わ、私は……その……幽々子様の付き添いです」
次々出てくる理由に、レミリアは内心で大きくため息を吐く。というか、内心でツッコミまくっていた。
まず、賢者と氷狐はどういう関係なのか? 保護者は霊夢だと思っていたのだが。次に、鬼はどこから情報を得たのか。間違ってはいないが酒……主にワインだが、その全てを飲み干されそうなので帰ってほしい。
人形使いは魔理沙を見ながら頬を染めて理由を考えるな、もう言ってるから。亡霊は真面目に帰れ。食料が根こそぎ食われかねない。それから従者、お前も目線が魔理沙にいってるぞ。それでいいのか冥界組。
しかし思っても口にも表情にも出さないのが紅魔館当主のレミリア・スカーレット。500年の時を生きた吸血鬼のカリスマは伊達ではないのだ。
「まぁ……みんなよく来てくれたわね。今宵は紅魔館の当主、レミリア・スカーレットが精一杯持て成させてもらうわ」
両手を広げ、レミリアは自らの視界に今いるメンバー全てを入れながら話す。
そして、楽しそうに笑みを浮かべた。
「こんなにも月がきれいだから……楽しいパーティーになりそうね」
そして始まった紅魔館主催のパーティー。料理は全て咲夜と妖精メイドたちによるものであり、ワインは全て上等なものだ。
ゆっくりと味わえば、それはそれは煌びやかなパ-ティーとなったことだろう……しかし、実際は。
「氷狐、紫の家なんかよりも私の神社に住まない?」
「あら、貧乏神社よりは確実にいい暮らしのはずだけど」
「言うわね紫ババア。お揃いの服を氷狐に着せるとか正直引くんだけど」
「白昼堂々〝脱げ〟と言ったあなたには負けるわ小娘」
「うー?」
霊夢と紫が氷狐の親権(?)をかけて醜い言い争いを繰り広げていたり。よく分かっていない氷狐に癒されたり。
「うーん甘いなぁ……もっときついのないの?」
「あ、これ美味しいわね」
鬼と亡霊が物凄い勢いと速度でワインと料理を胃の中に消していったり。
「ねぇ魔理沙、これ美味しいわよ? 食べてみなさいよ」
「あら、これもなかなかよ。魔理沙もどう?」
「ま……魔理沙さん……これ、どうぞ」
「いや、私は自分のペースで食べるからな?」
魔法使い3人と半人半霊がゆりゆららららゆるゆりしていたりと慌しいことこの上ない。
もはやパーティーなどという上等なものではなく、完全に宴会と化していた。
「……まぁ分かってたことだけどね」
「楽しいからいいじゃないですか」
「……まあね」
隣で笑う門番の美鈴の言葉を聞いて、レミリアは小さく笑う。
咲夜と小悪魔は料理の追加やワインの追加で忙しいので今はこの場にはいない。それでも、きっとこの宴を楽しんでくれていることだろう、とレミリアは思う。
「後はフラン様がいれば……」
「……そうね」
美鈴の顔が暗いものに変わる。それはレミリアも同じだった。
本当なら、今回のパーティーには妹であるフランも参加しているはずなのだ。
しかし、フランはいつ暴走するか分からない状態……とてもではないが、参加させることは難しかった。
「れーあ」
「氷狐? どうしたのかしら?」
「うー……あーうー……」
不意に、氷狐がレミリアの腕を引っ張った。
レミリアがそちらを見てみれば、なにやらもじもじと両足をこすり合わせている氷狐の姿。
「……トイレ、かしら?」
「うー」
レミリアの言葉に、氷狐は恥ずかしそうに頷いた。
こんな騒がしい、もはやパーティーともいえない宴の中でも癒しはある……吸血鬼と門番はそう実感した。
「美鈴、お願いね」
「はい。いきましょうか」
「うー……」
美鈴は氷狐を抱き上げ、すぐさまトイレへと向かうのだった。
あれからしばらくの時が過ぎた。
流石に大騒ぎからは騒ぐ程度に落ち着いており、料理やワインの減る量も少なくなってきたので今は咲夜に小悪魔、メイド妖精たちも参加している。
不意に、霊夢がレミリアに問いかけた。
「ねえレミリア」
「なに? 霊夢」
「氷狐はどこにいるのかしら?」
レミリアには霊夢がなぜ冷や汗を流しているのか分からなかった。
だから、普通に答えるのは仕方のないことだった。
「氷狐なら、さっき紅魔館の中を探検したいって言ったから許可したわよ?」
深く、地下深くに伸びる階段を氷狐は下りていた。その顔は実に楽しそうだ……子供ゆえの好奇心が、さらに深く氷狐の歩みを進ませる。
やがてたどり着いた、とある部屋の大きな扉。氷狐が触れるとバチッと音が鳴り、何か不思議な力で封印されていることが分かる。
そして氷狐は自身の好奇心に任せ……思ってしまった。
〝このおへやにはいってみたい〟
「っ!? レミィ! 封印が!」
「え!?」
「まさか!!」
ギィ……と重い音を立てながら開く扉。その奥に動く人影に、氷狐はゆっくりと近づいていく。
人影もゆっくりと近づいてきており……やがて氷狐と人影はお互いを確認できるところまできた。
氷狐よりもわずかに大きな背に金髪の髪、枯れ枝に7色の宝石がついたような羽。
それらの特徴を持つこの少女こそ、地下のこの部屋に封印されていたレミリアの実妹。
「あなたはだぁれ?」
「うー? ひー♪」
「そう、氷狐って言うんだ。私はね……」
フランドールっていうんだ。
悪魔の妹は無邪気に笑う。子狐の妖怪も無邪気に笑う。
不意に、フランの視線が氷狐の右手に向いた。
「大丈夫? 血……出てるよ?」
「うー?」
氷狐が自分で右手を見ると、人差し指から血が滴っている。
どうやら扉に触った時の封印のせいで切ったような状態になったらしい。
「……アハ♪ 赤い……あかぁい♪」
おもむろに、フランが氷狐の指をくわえた。
流れる血を舐めとり、小さな口からは時折ちゅぷ……とどこか艶めかしい音が漏れる。
「うひゃ……あ……うー……」
「甘い……あまぁい♪ ふふっ……うふふ……あはははは!」
熱っぽく声を漏らす氷狐の反応を見ながら熱に浮かされたような表情で指から口を離すフラン。
そして…狂ったように笑いながら赤い眼を氷狐にむけながら言い放った。
「壊≪ころ≫してあげる!!」
狂気が、室内に充満した。
「咲夜! 咲夜はどこ!?」
「メイド長なら追加の料理を作りに行ったぜ。霊夢はどこに行ったんだ?」
「ああもう肝心な時に! 霊夢なら地下に行ったわ!!」
「は? フランのとこ? なんで」
「氷狐がフランの所に行った可能性があるからよ!!」