子狐幻想記   作:d.c.2隊長

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藤原 妹紅 承

 “ひこ”という人物を探し初めてもう1週間が経ってしまった。

 

 人里は隅から隅まで探したし、ひこが行っているという山にも入った。門番の真似事はこの1週間続けていたけど結局ひこと出会うことはなかった。

 

 にも関わらず、毎日ひこは八百屋に顔を出し、甘味処で団子を頬張っているという。

 

 そこで私は考えた。ならば今度は八百屋と甘味処で待っていようと。

 

 「おはようございます」

 

 「あら、妹紅ちゃんじゃない。おはよう。今日は何か買っていくのかい?」

 

 「いえ、今日は日頃からお世話になっているこちらでお手伝いでも……と思いまして」

 

 「本当に? 助かるわ。じゃあお願いしようかしら」

 

 この八百屋には本当にお世話になっている。なぜかは分からないが、他の八百屋よりも山菜、特に果物がとても美味しいのだ。更にこのおばちゃんは私を娘のように扱ってくれるため、よくおまけしてもらっている。

 

 ひこを待つためとは思ったが、ここで日頃のお礼をするのもいいだろう。因みに、私が敬語なのは門番の人と同じ理由である。

 

 さぁ来いひこ。今日こそお前の顔を拝んでやる。

 

 

 

 

 

 

 「ありがとうございましたー」

 

 「お疲れ様妹紅ちゃん。今日はこれで店じまいにするから……よかったら、晩御飯食べてくかい?」

 

 「じゃあ、お言葉に甘えさせていただきます」

 

 「はいはい、ちょっと待っててね」

 

 朝から手伝っていたけれど、いつの間にか空は茜色に染まっていた。焼き鳥屋をしてるからそれなりに接客には自身があったけれど……玄人というのか、おばちゃんの接客は凄かった。

 

 というか売れ行きが凄かった。おかげで昼食を食い損ねてしまったくらいだ……途中であの青い髪の妖怪が果物をくれなければ、途中で倒れていたかもしれない。空腹で。因みに貰ったのは柿だった……もうすっかり秋だね。

 

 ……ん? 何か忘れているような……。

 

 「……あ!? ひこのこと忘れてた!」

 

 しまった……おばちゃんとする八百屋の仕事が楽しかったからすっかり失念してた。もしかしたら、今日来た客の中にいたかもしれないのに。

 

 でも、私が想像するような人間はいなかったし……もしかして、今日は来てないのか?

 

 「妹紅ちゃん。晩御飯はちょっと時間がかかるから、それまで梨《なし》でも食べててくれないかい?」

 

 「あ、はい」

 

 「これは子狐ちゃんが採ってきてくれた梨でね、あの子の採ってくるものはみんな美味しいから、きっと美味しいよ」

 

 そんなことを考えていると、おばちゃんが皿の上に剥いて6つに切り分けた梨を持って来てくれた。

 

 その梨はあの青い髪の妖怪が採ってきたものらしく、爪楊枝が刺さっているものを取って食べて見る。

 

 シャリシャリとした梨特有の食感と秋にしか味わえない甘味。瑞々しく程よく熟れている果実は、正しく秋の味覚。

 

 「うまい!!」

 

 「それはよかった」

 

 本当に美味かった。そういえば、あの妖怪が持ってきたリンゴも美味かった。今まで食べてきたものはなんだったのか言うほどの味の差。妖怪恐るべし。

 

 それはさておき、私の問題はひこだ。毎日顔を出していると聞いたのに、今日は来なかった。それはなぜだろうか。もしかして、こことは違う八百屋に売りに行っているのか? でも他の八百屋はどちらかといえば万屋《よろずや》に近いため、人里で“八百屋”と聞けばこの店が出てくる。ならば普通に考えて売りに来る店はここしかないはず。

 

 いや、売るだけならどこでも売れるけど……でも甘味処が一番近い店もここだしなぁ。

 

 「ねぇおばちゃーん」

 

 「はーい。なぁに? 妹紅ちゃん」

 

 すっかり敬語とかなくなった私だけど、もともと敬語で話すような人間……蓬莱人じゃないし、おばちゃんも受け入れてるみたいだから大丈夫だろ。

 

 おばちゃんは今は台所で料理をしているので必然少し大声になる。近所迷惑を少し考慮しつつ、梨を食べながら私はおばちゃんに確認してみた。

 

 「今日ってさ、ひこ来なかったよね。なんでかな」

 

 「うーん? “ひこ”なら来てたよー?」

 

 「そっかー……ってえぇ!? 来てたの!?」

 

 「来てたよー。妹紅ちゃん、しっかりと相手してたじゃないか」

 

 え? 来てたの? 私相手してたの!?

 

 ってことは今日来た人間のうち誰かが“ひこ”なのか……私の想像してたような人物はいなかったけど所詮は想像でしかなかったってことか。

 

 こんなことなら慧音に姿形を聞いておけば良かったな……しかし今日見た人間のうちの誰かだとすれば、容姿は想像できる。

 

 今日見た人物は……黒髪黒目がほとんどだったな。服はみんな和服で、髪型は短髪だったり坊主だったり白髪だったり……最後のはおじいさんだから除外。

 

 つまり、ひこの容姿は黒髪短髪黒目の和服を着た男性……ってんな奴多すぎて絞れるかぁぁぁぁ!!

 

 いや、よく考えるんだ私。今日来た男性は確かにそんな奴ばっかりだったけど、何も来た客全員が男性だったわけじゃあない。中にはさっき言ったようにおじいさんもいたし、女の人も当然居た。ならば、まだある程度は絞れる。

 

 今日来た若い男性は……そう、大体10人ちょい。これなら一日、いや半日もあれば誰が“ひこ”かを特定できる。見えた、見えたぞ。ひこへと続く光の道が!

 

 ひこ! もう少しで私はお前に手が届くぞ!

 

 「妹紅ちゃん、ご飯できたよー」

 

 「はーい!」

 

 まぁそれは明日にするとして……今日は久々に慧音以外の人の家で食べる晩御飯だ。しっかりと味わって食べよう。

 

 久しぶりに食べた誰かの手料理は、とても暖かかった。

 

 

 

 

 

 

 「な……なぜだ」

 

 翌日、私は昨日来た男性客を捜し歩き、1人1人にひこかどうかを訪ね歩いた。

 

 結果は……全て空振り。まさかおばちゃんが嘘をついていた? いや、そんなことはないはず。

 

 誰かを見逃している? いや、記憶にあった男性客は全員回ったハズ……。

 

 「いや……もしかして、それが間違いだったのか?」

 

 もしかしたら、私はとんでもない思い違いをしていたのかもしれない。そう、ひこは実は……。

 

 

 

 若い男性ではなかった!

 

 

 

 私が慧音から聞いたのは“ひこ”という名前だけ……その名前だけで私はひこが若い男だと決め付けていた。

 

 もしかしたら、おじさんと呼べるような男性かもしれないし、最悪と言ったら失礼だけど老人かもしれない。

 

 いや、もしかしたら相手は……お、女かもしれない。そう考えれば、私が今まで見逃していたのも仕方ない。だって私は若い男性しか見ていなかったのだから。

 

 しかしそうなれば対象は人里の人間全てが対象となってしまうし、1人1人訪ね歩いていたら時間がかかりすぎる。いや、私の時間は無限だから大丈夫だけど、何年もかかってしまったら慧音の心の傷が広がってしまうかもしれないし、ひこが死んでしまうかもしれない。

 

 「というわけで、何かいい方法はないか?」

 

 「あんたが私にそんなことを聞くなんて世も末ね」

 

 今は夜。私が焼き鳥屋をやっているこの時間帯にやってきた最初の客は、もう常連となっている輝夜とその従者の永琳だった。

 

 輝夜が言うように私がこいつに相談事を持ちかけるなんて少し前までには考えられなかったけど……。

 

 「友達に相談して悪いか?」

 

 「……」

 

 私がそう言うと、輝夜は信じられないものを見たような顔をして持っていた、まだ肉が刺さっていた串をポロッと落とした。

 

 隣にいる永琳が落ちた串を地面に落ちきる前に取ったのは流石だと思う。いや、屋台で見えなかったから予想だけどさ。

 

 「あんた、頭大丈夫? どこをどう考えたら私とあんたが友達になるのよ」

 

 「私の頭は至って正常だよ。私とお前はよく殺し合いと言う名の喧嘩をする。こうして話もする。今みたいに相談しようと思える……こういうのを“友達”って言うんだと思うんだけど?」

 

 私は蓬莱人……死なない存在。仮に世界が滅んだとしても、私や目の前の2人は死なない。

 

 だけど回りはみんな死んでいく。老衰、事故、殺害、理由はそれぞれだけど、でも……死ぬ。

 

 だから、私は同じ存在であるこいつらがいなくなることがとてつもなく怖い。嫌われることが怖い。逢えなくなるのが怖い。言葉を交わせなくなるのが怖い。

 

 そう思ったら、もう輝夜を殺そうとか怨むとか、そんなことは思わなくなった。むしろ同じ存在であることに共感を覚えた。親近感、親愛のようなものさえ抱いた。

 

 

 

 だから……友達になりたいと思った。

 

 

 

 「……あっきれた。それであんたの今までの迷惑な恨み言やら殺し合いやらを忘れて友達になれって言うの?」

 

 「……嫌……かな」

 

 輝夜の言うように、私の中にあった怨みつらみや殺意はこいつにとって迷惑でしかない。それに友達になりたいって思ったのはあくまでも私……こいつがそう思うかは別の話。嫌だって言われても仕方ない。

 

 でも……やっぱり、悲しくはあるかな……。

 

 「……で、あんたは誰を探してるのよ」

 

 「……え?」

 

 「だから! あんたが誰を探してるのかって聞いてるのよ! いきなり“探してる人がいる”って言われた後に脈絡なく“いい方法はないか”って聞かれても困るのよ!」

 

 あ、そういえば誰を探すかまでは言ってなかったっけ。いや、だって客には焼き鳥を出さないとって思ってたし、酒の用意もあったしさ。

 

 っていうか今の口ぶりだと、輝夜は私の相談事を聞いてくれるように聞こえるんだけど……。

 

 「仕方ないから手伝ってあげるわよ……“友達”である私に感謝しなさいよ?」

 

 「……うん。ありがとな、輝夜」

 

 友達……簡単に出来るようでとても難しく……だけど気づいたらなっている……そんな不思議な関係。

 

 今日、こうして輝夜と友達になれたのも、“ひこ”というきっかけがあったからこそ。

 

 こじ付けかもしれないし、私が勝手にそう思っているだけだけど……でも、ひこという存在にお礼が言いたくなった。

 

 そんな私が“本当のひこ”のことを知るのは……3日後のことだった。

 

 

 

 

 

 

 「で、誰を探しているのよ」

 

 「ああ、ひこって奴なんだけどさ」

 

 「氷狐……あの賢者や巫女なんかには渡さないわ……次こそは私が勝って……」

 

 「え、なに? 永琳の奴いきなり泣き出してどうしたの?」

 

 「ああ、気にしなくていいわ。これはある意味病気だから。さて、ひこを探す方法を話し合いましょうか」

 

 「あ、ああ。(永琳もひこって奴のことが好きなのかな……?)」




予めキャラ崩壊の注意をしているので何も言いません。

最近タグにガールズラブ注意を入れるべきか悩んでおります。というかタグに悩んでおります。何かいいのはないものか……。
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