子狐幻想記   作:d.c.2隊長

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風見 幽香 起

 【風見 幽香《かざみ ゆうか》】

 

 季節の花が大好きであり、一年中花のある場所を渡り歩いている妖怪。鮮やかな緑色の髪と赤のチェック柄の服装が特徴であり、今までの

幻想郷の住人の例に漏れず、その容姿は美しい。

 

 サディスト的な一面を持っており、自身の生活を邪魔する者、目の前で花を粗末に扱うものには一切の容赦なく、尚且つ無慈悲に攻撃する。また、性格のせいか人間との関係は悪い。

 

 紫や幽々子等と同じく永き時を生きており、自主的に他の存在に襲い掛かるということはしない。

 

 その能力は“花を操る程度の能力”。能力の詳細については名前の通りなので少略させていただく。能力自体は戦闘向きではないが、その戦闘能力、妖力の総量は正しく大妖怪であり、幻想郷においての最強の一角。弱者は相手にせず、強者との戦いが好きな戦闘狂な一面もあるようだ。

 

 現在は“太陽の畑”と呼ばれる広大な向日葵畑の管理をし、そこを中心に季節ごとに花を見に行っているらしい。

 

 今回のお話は、いつものように子狐の妖怪氷狐と幻想郷の住人達がほのぼのと、時に慌しく、それなりに華やかに過ごす……そんなお話。

 

 

 

 

 

 

 季節は秋を越えて冬。冷たい空気と暖かいベッドの中で、私はゆっくりと体を起こした。

 

 寒い……それが今起きた私の正直な感想だ。真冬と呼ぶべきか、寝起きの体にこの寒気は少々辛く、すぐに布団の中に潜り込みたい衝動に駆られる。

 

 が、日課である家の外にある花壇の手入れをしない限り私の一日は始まらない。私は寒さに震えながら外に出て井戸に向かう。中を確認して見ると、幸いにも中の水は凍っていないようだった。幻想郷は極寒と言うほどではないにしろ、冬の妖怪や氷精という奴らのせいでたまに気温がバカみたいに下がる時があるのだ。

 

 以前にもやたらと冬が長く、井戸の中の水や花が凍ってしまったことがあった。その時にはなぜか空から降ってきた冬の妖怪を半殺しにして苛立ちを解消したっけ。

 

 「……うぅ、さむ……」

 

 眠気覚ましに井戸から汲んだ水を浴び、意識をはっきりと覚醒させる。只でさえ寒い中で水を浴びたものだから体が凍ってしまったかのような錯覚を覚える。すぐに家に戻って体を拭き、寝巻きから普段着に着替え、朝食を作って食べ、そして花壇に向かう。

 

 花壇に咲いている子供達は、今日も元気に風に揺られながら私を出迎えてくれる。おはよう。今日も寒いね。お腹すいた。などなどの声が、花を操る力を持つ私には聞こえてくる。

 

 「ええ、おはよう。それじゃあ、朝ごはんにしましょうか」

 

 咲いている“アサガオ”の花達に微笑みかけ、日課である水遣りを始める。

 

 この私、“フラワーマスター”の風見 幽香の一日はこうして始まるのだ。

 

 

 

 

 

 

 冬の花と言えば、有名なところではヒイラギかしら。幻想郷には元々色々な花が咲いていて、私も能力を使って咲かせたりするので数え切れない種類の花がある。

 

 今日はそのヒイラギが咲いている場所まで行ってみようか……そう思いながら自慢の向日葵畑を歩いていると、見慣れた黄色の中に混じって見慣れない青色が映った。その青から僅かに妖気を感じられるということは、あの青は妖怪なのだろう。

 

 感じる妖力は精々小妖怪程度……つまり弱者。本来ならそんな弱者は放って置くのだけれど、場所が場所なだけに無視することは出来ない。もしも私の大切な向日葵達に傷を負わせたりしていたならば……。

 

 そうは思ってはいるものの、向日葵達からは危機感を感じられない。どちらかと言えば楽しんでいる……いや、その青を歓迎しているようだ。

 

 一体何者なのか……そう思って向日葵達のスキマから覗いてみる。

 

 「うー。あー。うーあーうー」

 

 揺れていた、そうとしか言えない。

 

 獣の耳と尻尾を生やした青い髪の子供が、風に揺れる向日葵達に合わせてゆらゆらと揺れていた。一般的にはカエル座りと呼ばれる座り方で、その妖怪は右に左に楽しそうに揺れていた。一体何が楽しいのかしら。

 

 それに、向日葵達も楽しそう……それだけで、少なくとも花に危害を加えるような妖怪ではないことが分かる。それだけで、私にとっては信用するに値する。

 

 「ここで何をしているのかしら?」

 

 「う?」

 

 気がつけば、私は妖怪の前に姿を現していた。私を知る者なら、すぐさま逃げ出すか攻撃をしてくる。知らないなら、私と言う見た目は完全に人間の女性が現れたことを不思議に思う。中には下種な視線を向けるような人間もいたわね。

 

 さて、この妖怪はどんな反応を見せてくれるのか……。

 

 「……ゆーか?」

 

 「あら、私を知ってるのね」

 

 「ゆーり、うー」

 

 何を言っているのか全く分からない。しかし、向日葵達は何を言っているのか分かるらしい……なぜ分かる?

 

 向日葵達に訳してもらうと、私と言う存在のことは“紫”という人物から聞いていたのだとか。私が知る限り、この幻想郷で紫という名前の存在は1人しか知らない。

 

 幻想郷の賢者“八雲 紫”……恐らく、この妖怪はその賢者の身内みたいなものなのだろう。ならば、私がどういう存在か、どれほどの危険性かを教えているはず。ならば逃げ出すのが普通だし、妖怪である以上私の妖力がどれほどの大きさかも分かるはず。

 

 しかし、この妖怪は私の顔を見つめるばかりで逃げ出す様子はない。それどころか、恐怖心すらも抱いていないようだ。強い妖怪ならまだしも、弱い妖怪にこのような対応をされたのは初めてだ。

 

 「そう。なら私がどんなにこわーい妖怪かも知っているでしょう?」

 

 「う?」

 

 舐められているわけではなく、本当に不思議そうにされてしまった。首を傾げられても困るのだけれど。

 

 確かに私は弱いものイジメは好きではないし、戦いを楽しんでも自分から吹っかけるようなことはあまりしない。この妖怪は花を粗末に扱うような存在ではなく、花からも好かれるような存在なので攻撃する意味も意義もない。

 

 しかしだ。大妖怪である私を前にしてこの態度……どうにも私が眼中にないと言われているような気がしないでもない。いや、どちらかと言えば危険じゃないと思われている気がする。

 

 別にプライドだなんだと言うつもりはないけれど、このまま帰すというのも味気ない。ここは一つ、私がどれだけ怖い妖怪かを教えてあげましょうか。攻撃ではなく怯えさせる程度で。

 

 そう思い、私は右腕に妖力を……。

 

 「こんなところにいたのね氷狐。探したわよ」

 

 「ゆ-り!」

 

 込めようとしたところで、第三者の声によって気を逸らしてしまった。

 

 いつの間にか。妖怪の隣には日傘を持った金髪の中華風の服装をした女性が立っていた。その女性は、この幻想郷において知らないものはいないであろう存在。

 

 八雲 紫……そいつは妖怪に抱きつかれ、とても嬉しそうな顔をしていた。

 

 「あら……ごきげんよう、フラワーマスター」

 

 「ええ、ごきげんよう賢者。あなた、子供がいたのね」

 

 「残念だけど、実の子じゃないわ。この子には、私を含めて2人のお母さん候補ともう2人の家族候補がいるけれど」

 

 何その状況。何がどうなってそんな状況になったのかを、不覚にも問い詰めたくなった。

 

 というか、賢者がその妖怪の母親になりたがっているのが信じられない。妖怪に笑顔を向ける賢者には、いつもの胡散臭さがない。が、それが逆に胡散臭い。

 

 一体何を考えているのか……相変わらず心のうちが読めない相手ね。

 

 「ていうか貴方、母親って言えるような歳じゃないでしょう」

 

 「言ってくれるわね独り暮らし。相変わらず花だけが友達でマトモに話せる相手がいないくせに」

 

 「うるさいわね、喧嘩なら買うわよ?」

 

 私と賢者が同時にスペルカードを取り出して構える。

 

 花だけが友達の何がいけないのよ。ちゃんと話し相手になってくれるし、中には私のことを母として見てくれる花だっているのよ。そりゃあまあ、こんな寒い時期には人肌が恋しくなるし、たまに人の声が聞きたくなって人里に向かうこともあるし、宴会があることに気づかないで気づいたときには終わっていて拗ねたりもするけれど。

 

 正直、さっき賢者が妖怪に抱きつかれて羨ましいなーなんて思ったりもしたけれど……誰かに言われる筋合いはないわ。

 

 僅かに募った怒りに負かせ、私と賢者は同時にスペルを……。

 

 

 

 「め」

 

 

 

 宣言しようとしたところで、間に入ってきた妖怪に止められた。両手を目一杯広げていかにも“いけません”と主張している姿は、見ていて微笑ましい。

 

 同時に、先ほどまで感じていた僅かな怒りが沈静化していく。それは賢者も同じのようで、いつの間にか私達はスペルカードを持つ手を下ろしていた。

 

 「……やめましょう。私と貴方が戦ったら花達にも被害が出るし」

 

 「ええ、そうね。氷狐も巻き添えにしちゃうかもしれないし」

 

 お互いにスペルカードをしまい、完全に戦意がないことを示す。そうすると妖怪……氷狐と呼ばれていたわね。氷狐は満足そうに笑い、賢者と手を繋いだ。

 

 その手を見ていると、賢者が私の顔を見ていることに気づいた。その顔は、羨ましいかしら? と言っているようだ。殺意が沸いたが戦意がないことを示したばかりなので後で発散しようと誓った。

 

 「さて、霊夢が待ってることだしそろそろ行きましょうか。もう勝手に動いちゃダメよ?」

 

 「あーう」

 

 「何しに来たのよ」

 

 「氷狐を迎えに来たのよ。それじゃあね、フラワーマスター」

 

 「ゆーか。あーうー♪」

 

 「あ……」

 

 賢者がスキマと呼ばれる異空間への出入り口を開き、氷狐を連れてこの場から去る。その際、氷狐は私に笑顔を向けて手を振ってくれた。

 

 そんなことをされたのは、生まれて初めてかもしれない。少しの唖然、遅い理解、僅かな歓喜。向日葵達が教えてくれた氷狐の言葉は、“またね”の一言。

 

 また来るというのか。美しい向日葵が年中咲くこと以外には、私という危険な妖怪しかいないこの場所に。どれだけ命知らずで、どれだけ無邪気なのか。

 

 ただ、またねという言葉を嬉しく思う私がいて。また来てくれると思っている私がいて。

 

 「……次は、お菓子でも用意してあげようかしら」

 

 人間の少女の様に笑う……私がいた。

 

 

 

 

 

 

 「それはさておき、そこに隠れてる冬の妖怪出てきなさい」

 

 「ひい! ばれてる!」

 

 「丁度いいところに来てくれたわ……おかげでストレスの発散が出来る」

 

 「わ、私は今年は特になにもしてないわよ!?」

 

 「偶然ここに通りかかってしまった自らの不運を呪いなさい……さあ、イイ声で鳴いてちょうだい?」

 

 「い、イヤアアアア!!」




というわけで、今回から風見 幽香編に入ります。

因みに冬の妖怪というのは誰か……お分かりですよね? あの人ですよあの人。
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