それでは、どうぞ。
今回のお話は、八雲 紫 結で少しだけ書かれた氷狐の親権を巡って行われたバトルロワイアルのお話である。
「絶対に勝つわ……これ以上胡散臭い奴の家に氷狐を置いておくもんですか」
「言うわね貧乏巫女。あなたに力の差というものを教えてあげましょう」
「巫女には同意するが、私も負けるつもりはないぞ?」
「今度こそ、絶対に氷狐と暮らすのよ……今度こそ」
博麗神社の上空にて、博麗 霊夢、八雲 紫、上白沢 慧音、八意 永琳の4人が4つ巴になって自分以外の3人を睨む。さて、異変解決祝いの宴会の中で突然始まったこの戦いの説明をしよう。
この戦い、後に“保護者たちの仁義なき戦い”と呼ばれたり呼ばれなかったりする戦いはスペルカードルールの下に行われる変則的バトルロワイアルである。ルールは簡単、相手を撃ち落として自分1人だけ生き残れば勝利。他は普通のスペルカードルールと何ら変わりはない。
尚、この戦いを制した者は現在八雲家に住んでいる氷狐と暮らす権利を彼に断りなく得ることができる。いつの間にか商品となっている氷狐は下で魔理沙とお酒を飲んでいるが。
「合図は?」
「そうね……氷狐があのお酒を口から離したら、でいいんじゃない?」
「いいわ」
「分かった」
紫の言葉に了承の意を返した3人と紫は、下で酒を飲んでいる氷狐を見やる。その距離はかなり離れているにもかかわらず、その眼にははっきりと氷狐の姿が映っているらしい。
くぴくぴと、霊夢たちに見られているとも知らずに飲み続ける氷狐。やがてそのグラスに入っていた果実酒はその姿を消していき……。
「ぷは♪」
「「「死いいいいねええええ!!」」」
「ええええ!?」
飲み干したと同時に、3方向から慧音に向かって弾幕が殺到した。スペルカードこそ使われてはいないが、博麗の巫女、幻想郷の賢者、月の頭脳の3人が撃ち出す弾幕の量は常軌を逸していた。避ける方法など、上下に動くしかない。
満月の夜になればワーハクタクという存在になれる慧音だが今は昼、月など上っているはずもない。というか、仮にワーハクタク化しても無理な気がする。それはさておき、慧音は目の前に大量の弾幕があるにもかかわらず動かなかった。否、混乱して動けなかった。それはなぜか。
人里で教鞭を振るっている慧音は、紫や永琳程ではないにしろ頭がいい。その頭の中では、霊夢も永琳も紫を狙うと踏んでいた。
理由は、現在氷狐と一緒に暮らしているのが紫だからだ。最初に彼女を落とせば、少なくとも氷狐の住む場所が変わるからである。今となってはそんな考えも無駄になってしまったが。
ぴちゅーん。そんな音が聞こえた時、慧音は色とりどりの煙を体から発生させながら地上目がけて落下していくのだった。慧音脱落。
「ふん、自分の視点すら持たない守護者如きが私たちと肩を並べようなど……片腹痛いわ!!」
「メタなこと言うんじゃないの」
「ていうかあなた本当に巫女?」
などと会話をしながらも、彼女たちから放たれる弾幕や札、矢が途切れることはない。口は言葉を発していても、その眼が落とすべき相手から外されることはない。
3人は空を縦横無尽に飛び回り、弾幕、札、矢を避けながらそれらを放ち続ける。しかし、なかなか当たらない。そこで霊夢は、懐から1枚の札を取り出した。
「さっさと落ちなさい! 特に紫!!」
霊符「夢想封印」
最初にスペルカードを使ったのは霊夢。その札は七色七つの霊弾へと変わり、紫に四つ、永琳に三つ飛んで行った。その霊弾は相手を追いかける誘導弾であり、霊夢が最も多用する博麗の業である。
更には普通の弾幕や札も紫に飛ばすというサービスっぷり。そこに手加減という言葉は一画たりとも存在しなかった。
「多すぎないかしら!? でもこのくらいなら!」
しかし紫も伊達や酔狂で賢者の名を得てはいない。誘導弾の速度や飛んでくる弾幕と札の軌跡を瞬時に計算し、安全なルートを割り出して避け続ける。
だが永琳のことも忘れてはならない。彼女も誘導弾に追われてはいるがその数は紫よりも少ない3つ。霊夢からの弾幕も飛んできてはいないので紫よりも避けることは容易い。さらには反撃として霊夢と紫の二人に向かって弾幕と矢を飛ばすという余裕っぷりである。
「っく!」
その矢が霊夢の顔をわずかにかすり、同時に夢想封印の制限時間が来てその姿も消えてしまう。ここぞとばかりに永琳は懐から札を取り出し、その名を口にする。
秘術「天文密葬法」
放たれたのは幾つもの霊弾。それらは空をある程度飛び回り、霊夢と紫の前で小刻みに振るえながら止まった。
二人がなんだ? と首を傾げたのも束の間、霊弾は一つずつ赤く染まったかと思えば大量の弾幕へと姿を変えて二人に襲いかかった。時折永琳自身からも大きめの単発の零弾も放たれている。
次々に赤く染まり、大量の弾幕へと姿を変えていく霊弾。しかし、霊夢と賢者は弾幕を放つことをやめて避けることに専念することで被弾することを回避していた。
「くっ……流石は巫女と賢者ね……」
なかなか当たらない現状に永琳が冷や汗を流す。このスペルカードは大量に弾幕を放つのでスキマも小さく、一度霊弾が止まるので心理的な隙も付きやすいカードである。しかし、弱点も存在する。
最初に放つ霊弾の数は有限であり、全てが弾幕になってしまうと制限時間が切れるまで大きめの単発の霊弾しか撃てないのだ。この時の永琳はほぼ攻撃を当てることは出来ないといっても過言ではない。
そしてその時は来てしまった。霊弾は使い果たしてしまい、時間制限はまだ少し残っている。もう大量の弾幕はないと気づいた霊夢と紫は今までのお返しとばかりにありったけの弾幕を永琳に注いだ。
無論、霊弾を使い果たしたとはいえそう簡単に被弾する永琳ではない。紫がしたような計算は、むしろ永琳の得意分野である。氷狐の能力によって得た頭脳ではあるが、長きにわたる時の中で更に研磨され、その知識と演算能力は他者の追随を許さない。
躱し躱されを繰り返し、ようやく制限時間が来たことで永琳の攻撃が最初の弾幕と矢に変わる。拮抗する戦況と落ちない相手……3人の体力と余裕は少しずつなくなっていく。
下にいるギャラリーも最初こそ騒いでいたが、今では逆の意味で騒いでいた。
「誰かあの3人を止めろ! レミリアとか幽々子とか鈴仙とか!」
「私!? 魔理沙は私に死ねっていうの!?」
「私もあの3人の中に入るのはちょっとねぇ~」
「巫女に瞬殺された私があの中に入って生き残るのは無理かと……」
なぜこんなに魔理沙が慌てているのか……それは、今の宴会の惨状にあった。
一言で言うなら、地獄絵図。上空から降り注ぐ大量の“流れ弾”により、地面は抉れ、酒樽は割れて中身をまき散らし、何名か被弾し、慧音がへこんだ地面の上で横たわっている。ヤ無茶しやがって。
もはや宴会を楽しめる状況ではない。フランや萃香などの戦い大好きお祭り大好きな存在は未だに楽しんでいるようだが。
かと言ってあの3人を今生き残っているメンバーで止めることは出来ない。いや、止めることは出来るだろうが後々の復讐が怖くて手が出せないのが魔理沙達の心情だった。そして、下にいる人妖が思うことはただ一つ。
【早く終わってくれ……】
下が大変なことになっているとは露知らず、3人の戦いは激化していく。と言ってもあまり状況は変わってはいないが。
一枚ずつスペルカードを使った霊夢と永琳だが、まだ体力に余裕はある。が、このまま拮抗が続けば霊力の問題で紫に負けることになる。逆に紫は妖力に余裕はあるものの体力に余裕がなくなってきていた。普段運動をしないのがこんな時になって仇になってしまった。
誰も顔には出さないものの、自分が落ちるというビジョンが頭から離れない。だが、慌てればそれこそ落とされるだろう。そこで動いたのは霊夢だった。
「これで終わらせるわよ!!」
狐霊符「夢想封印・絶」
使用したのは氷狐とともに作り出したスペルカード。春雪異変以来となるその札から放たれた数多の霊弾は2人の周囲で円を描くように集まる。その円は時間が経つごとに数を増やし、やがて2人の周りには5つの霊弾の円が出来上がった。
そして霊夢が右手をギュッと握りしめると、その動きと連動するように円が一瞬にして中心に向けて収縮した。
このスペルカードは、氷狐の動きを表したものだ。霊弾が相手の周りで円を描くのは氷狐が相手の周りを楽しそうに動き回ることを表し、最後に相手目がけて収縮するのは抱きついてくる姿を現している。故に、霊符ではなく狐霊符。かつて幽々子を下したそのスペルカードは……残念ながら2人に命中することはなかった。
「っ!? いない……いや、上!!」
「落ちなさい!」
禁薬「蓬莱の薬」
収縮する瞬間に上空に向けて動くことで霊夢のスペルカードを避けた永琳が新たにスペルカードを宣言する。それは伝説の霊薬の名を冠したスペルカード……宣言と同時に永琳を中心に夥しい数の弾幕が360度方向に放たれた。
制限時間が過ぎるまで弾幕は終わらず、相手は反撃をすることが出来ずひたすら避けて耐えるしかない“耐久スペル”……このカードが発動した時点で、霊夢と紫は避けることしか出来ない。
規則正しくレーザーのような長細い霊弾が飛び交い、永琳を中心に放たれる弾幕は途切れることなく、本当に僅かな隙間を残しつつ周囲を蹂躙する。チッチッと体に掠らせながらも、霊夢と紫は細心の注意を払って避け続けた。
「まだ……落ちないのっ!?」
「落ちてたまるか!!」
スペルもラストスパートに入り、唯でさえ多い弾幕の数がさらに増えた。それでもルール上、必ず逃げ道はあるので霊夢は勘で、紫は計算で避け続ける。焦りながら叫ぶ永琳に、冷や汗をかきながら叫び返す霊夢。先ほどまで余裕だった体力はかなりの勢いで消耗していき、永琳に至っては二回目のスペルカード、それも耐久スペルを使ったことで霊力の消費も激しい。
やがて、制限時間がやってきた。弾幕は一瞬で消滅し、後に残ったのは方で息をする霊夢と永琳。
そして……スペルカードを手にした紫の姿だった。
「深弾幕結界 -夢幻泡影-」
「「な……あ!?」」
「後手必殺……ごめんなさいね?」
スペル宣言と共に二人の周囲に現れる、永琳のスペルカードに引けを取らない数の弾幕。円を描くように次々と弾幕が現れ、中心の二人に向かって飛び、再び弾幕が現れ……ただそれだけが続けられる。
その軌跡は見るものを魅了するには十分な美しさであり、しかしそれに見とれてはあっという間に被弾するだろう。そして、これもまた“耐久スペル”……霊夢と永琳はひたすらに避け続けるしかなかった。
しかし、如何せんコンディションが悪い。霊夢は二連続の耐久スペルであり、体力も精神力もほとんどないに等しい。永琳は先ほどのスペルで霊力を大量に消費しており、落とせなかったという事実もあって焦りが大きい。
体力、霊力、冷静さ、精神力……それらが尽きた二人に残されたのは……大量の弾幕に蹂躙されるという悲惨な結末だった。
「ふう……なんとか勝ったわね」
落ちた二人を見届け、紫は安堵の息を吐く。今回紫が勝てたのは、このバトルロワイアル形式という戦いだったことが大きい。霊夢はその能力ゆえに被弾する確率はほぼ0に等しく、永琳は紫とそう変わらない実力の持ち主。一対一だったなら、どちらが勝ってもおかしくない。
しかし、今回のようなバトルロワイアルなら話は変わってくる。回り全てが敵である事実は精神力を削り、攻撃が当たらなかったり当たりそうになったりすれば焦りを生み、動き続ければ体力がなくなっていく。
結果、動き回りながらスペルカードを2回使用した霊夢と永琳が先に体力と霊力を使い果たし、温存していた紫が勝利を得たのだ。
「さて……そろそろ宴会の続きで……も……」
強敵二人とさほど視界に入らなかった1人を下した勝利の美酒に酔いしれようと神社に降り立った時、紫の目に飛び込んできたのは死屍累々という言葉が合いそうな現状だった。
地は抉れ、人妖問わずに倒れ伏し、立っている者は紫以外に存在しない。宴会場は戦場のようになってしまっていた。
流石にこの状況で勝利の美酒を……などと考えられるほど紫は図太くはない。考えるのは、どうしてこうなってしまったかということ。そして、その答えはあっさりと出た。
(どう考えても……私たちのせいよねぇ……)
大きなため息を一つ吐き、紫はスキマを開く。氷狐と橙を庇うようにして倒れている藍の下から二人を引きずり出して抱きかかえ、藍の襟首を掴んで引きずりながらスキマの中へと入っていく。体力はないが、人間よりは遥かに力はあるようだ。
そして背後の地獄絵図を見ながら一言。
「……じゃあね~♪」
そんなふざけた言葉を残し、八雲家は神社より立ち去るのだった。
これは、後に保護者達の仁義なき戦いと呼ばれたり呼ばれなかったりする戦いのお話である。
この戦いを見ていた人妖達は、ただ一つだけを願った。
もう二度と巻き込まないでくれ……と。
「紫様、晩御飯は抜きでよろしいですね」
「え!? 決定なの!?」
「ええ。ああ、今日は氷狐と橙が作ってくれるそうです。きっと美味しいですよ? 二人が作ってくれる晩御飯は……二人には3人分でいいと言っておきましたのでご安心ください。ていうか反省してください」
「そ、そんなぁ……」
「氷狐~紫様泣いてるから後でおにぎり作ってあげようね」
「うー♪」
というわけで、今回のお話は八雲 紫 結の戦いの詳細でした。実際はこんな感じでした。紫マジ漁夫の利。
番外編orIF話も残り2話。沢山アンケートが寄せられていますのでどれを書こうか非常に悩んでいます。
どれも書くのが面白そうなので……本当に悩みます。まだアンケートは募集中ですが、他の方のアンケートに投票してくださるのも全然かまいません!
あなたの意見、お待ちしております!