子狐幻想記   作:d.c.2隊長

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博麗 霊夢 承

 あの子狐の妖怪と出会った日から数カ月が経った。

 

 季節は冬に入り、寒い日が続いている。

 

 私は寒い中境内の掃除をし、寒い中たまに妖怪退治をし、寒い中やってくる魔理沙の相手をする日々を過ごしている。

 

 え? 妖怪はどこにいったのか? まず、私は毎朝人里へ向かう。前にも言ったと思うけど、その妖怪を観察するためにね。

 

 今日も今日とて掃除を終えてから人里へと飛び、目的の妖怪を探す。

 

 しかし、今日はなかなかみつからない。いつもならすぐに見つかるのだけど。

 

 「おかしいわね……どこにいるのかしら」

 

 普段見ているものが見つからないというのは、思ったよりもイライラする。

 

 でもま、見つからないものは仕方ないし……今日は戻ろうかしら。

 

 「あー! うー!」

 

 「悪かったって。そんなに怒らないでくれよ」

 

 「や!」

 

 「や、てなぁ……ハァ……」

 

 帰ろうとした矢先に甘味処から聞こえてきた二人分の聞き覚えのある声。

 

 そこに下りてみると、予想通りの人間と妖怪の姿があった。

 

 一人と一匹は私に気づくとすぐに近寄ってきた。

 

 「霊夢ちょうどいいところに! なぁ助けてくれよ」

 

 「うー。あーうーあー」

 

 「同時にしゃべるな。何があったのよ……ていうか氷狐に何したのよ魔理沙。素直に吐け」

 

 「あれ? 私が悪者だと断定されてる?」

 

 まぁ、氷狐が何かするとは思えないし、怒ってるのは氷狐だしね。

 

 どうでもいいけど、氷狐が〝あーうーひー〟以外しゃべったの初めて聞いたわね。

 

 

 

 で、話を聞くと案の定悪いのは魔理沙だった。

 

 いつもより早くお店に山で採ってきたものを売ってお金をもらった氷狐は甘味処でお団子を食べていた。

 

 そこに偶然通りかかった魔理沙が一つだけ氷狐のお団子を無許可で食べてしまったのだとか。ていうかまた氷狐の盗ったのか。

 

 「あんたが悪い」

 

 「だって団子だぜ? 私だって女の子だし、甘味はほしいぜ」

 

 「だからって人のを盗るな」

 

 「妖怪のだから大丈夫!」

 

 「あー!! うー!!」

 

 「痛い痛い! 悪かった! 悪かったって!」

 

 いい顔で親指を立てた魔理沙に怒った氷狐が文字通り牙をむいた。狐だし、そりゃ牙ぐらいあるわよね。

 

 この白黒魔法使い、とにかく手癖が悪い。なので、借りた本は返さないし氷狐の食べ物は盗る。そのたびにこんな感じで氷狐を怒らせ、時に泣かせる。

 

 で、私か氷狐がお仕置きするのがいつもの流れだ。

 

 しかし不思議なことに氷狐と魔理沙の仲は悪くはない。むしろいいくらいだろう。

 

 というか、氷狐は誰とでも仲がいい。少なくとも、この人里ではこいつを嫌っている存在はいないと思う。

 

 だからこそ、氷狐はこの人里で物を売ってお金を得たり、甘味を食べたり、店員さんと意思の疎通ができるんだと思う。

 

 「で、なんで氷狐のお団子盗ったのよ」

 

 「実は財布を家に忘れて……」

 

 「はぁ……ドジねぇ」

 

 「そんで氷狐があまりにも美味しそうに頬張ってたからつい……」

 

 「ああ……わかる気がするわ。でも盗るな」

 

 その後、魔理沙に財布を取りに行かせ、氷狐にお団子をおごらせた。ついでに私もおごってもらった。

 

 「なんで霊夢の分までおごらなきゃいけないんだよ!?」

 

 「うー」

 

 「氷狐が私の分も頼んだから。ゴチでーす」

 

 「納得いかねぇ!」

 

 

 

 

 

 

 突然だけど、ここで【スペルカードルール】について簡単に説明しておこうと思う。

 

 名前にもある〝スペルカード〟とは、名前と名前を体現する技を契約書形式で記した札のこと。

 

 名前を宣言しながら使用することであらかじめ設定した技を使える……わざわざ名前を宣言する必要はなくて、カードを使用するという意思が相手に伝わればいい。

 

 戦う前にこのスペルカードの使用回数を決め、体力が尽きる、もしくはカードの技をすべて攻略されたら敗北となる。

 

 技の美しさにも気をくばられており、精神的な勝負である場合もある。

 

 さて、なぜ私が今この【スペルカードルール】のめんどくさいな説明をしたかと言うと……。

 

 「というわけ。わかった?」

 

 「うー」

 

 「よろしい」

 

 今まさに氷狐に説明をしていたから。

 

 氷狐はスペルカードを持っていなかった上に、このスペルカードルールを知らなかった。

 

 その事実を知ったきっかけは、〝紅魔館〟という場所に向かう途中の湖を通りかかった時。

 

 なんたらというバカの妖精が氷狐に向かって弾幕を飛ばしているのに対し、氷狐は逃げるだけだった。

 

 なぜ反撃しないのか……そう思っていた時に聞こえてきた会話が。

 

 『なんで反撃しないのよ!? あ、わかった! あたいがあんまりにも強いからできないのね? あたいったらサイキョーね!』

 

 『うー!』

 

 『え? いきなりなにするんだって? 〝弾幕ごっこ〟よ。知らないの?』

 

 『あー』

 

 『あー……悪かったわね』

 

 意外にも謝ったバカにも驚いたけど、スペルカードルールを知らない氷狐に驚いた。

 

 とりあえず氷狐を攻撃していたバカをぴちゅらせ、その翌日の今日にこうやって説明しているわけ。因みに、〝弾幕ごっこ〟はスペルカードルールの別名ね。

 

 ……まぁ、なんであの湖にいたのかとか、あのバカが氷狐の言葉を理解しているのかとか気になることはあるけど。

 

 そんなことはどうでもいいので、今は氷狐のスペルカードを作るのが優先ね。

 

 

 

 

 

 

 あれからさらに数カ月ほど経った。

 

 氷狐のスペルカードも完成し、最近はよくあの湖でバカとほかの妖精、たまに魔理沙と弾幕ごっこをしているみたい。

 

 それでも毎日欠かさず人里でものを売り、神社へとやってくる……私よりも働き者じゃない?

 

 ……まいっか。と思考を終え、今日も私は人里へと飛ぶ。全く、あいつと出会ってからよく動くようになってしまった。

 

 ま、悪い気分じゃない。と少し笑みを浮かべたことを自覚しながら里の中に降り立ち、いつも通り氷狐の影を探す。

 

 最近では観察じゃなくて接触になっているけれど、氷狐と一緒に歩くのは楽しいのでよしとする。

 

 周りをキョロキョロと探してみるけど、氷狐の姿はない。こんな時はあいつがいつも向かうお店に行くと出会う可能性が高い。

 

 というわけでいつものお店へと向かい、着いたので店員さんに声をかける。

 

 「すみませーん」

 

 「はーい! あら、巫女様じゃないですか。今日は子狐ちゃんは一緒じゃないんですか?」

 

 「ええ。まだ来てないの?」

 

 「今日はまだ見てないですね」

 

 珍しいこともあるものね……そう思いながら店員さんにお礼を言い、甘味処へと足を向ける。

 

 そこで同じ質問をしてみたけど、店員さんは首を横に振った。

 

 仕方ない……と空に上がり、人里の中をよく探してみる。が、氷狐の姿はない。

 

 もしかしたら、もう神社にいるのだろうかと思い、神社に戻ってみる。

 

 しかし予想通りというか、氷狐はいなかった。その日は、氷狐に会うことは一度もなかった。

 

 

 

 

 

 

 次の日も、その次の日も、人里にも神社にも氷狐が姿を現すことはなかった。

 

 さすがに三日も見なければ心配になる。里の人も心配そうにしていたし……何よりも、私自身が心配していた。

 

 全く、いつから私はこんなに心配性になってしまったのか……。

 

 それ以外にも厄介なことがあった。

 

 今年の冬は長い……そう思っていたけど、あまりにも長すぎる。

 

 もう五月……にもかかわらず、幻想郷に春が訪れる気配はない。

 

 つまり、これは〝異変〟。それもかなり迷惑な。

 

 氷狐のことで頭がいっぱいだったので気づくのが遅れてしまった。そして気づいたなら、解決しないといけない。

 

 「……そうだ、氷狐を探すついでに異変を解決すればいいじゃない」

 

 炬燵に下半身を突っ込みながらぽむ、と握った右手を広げた左手に乗せ、名案だとつぶやく。

 

 その時、閉めていた障子が開いて冷たい風が居間の中に入り込んだ。

 

 「普通は異変解決が優先じゃないのか?」

 

 「私は巫女だもの」

 

 「意味がわかんないよ。ていうか巫女ならなおさら異変解決優先なんじゃ?」

 

 「解決はするわ。めんどくさいけど」

 

 「あ、そう……まぁいいや。早く行こうぜ」

 

 どこに、なんて聞かなくても分かる。どうせ原因なんて分かってないんだから、また何かを頼りに動くのでしょうね。

 

 私は私で自分の勘の通りに動くだけだし。それに……。

 

 (氷狐がその原因の場所にいる気がするのよね……勘だけど)

 

 

 

 

 

 

 「あ~さむい」

 

 「ほんとにな」

 

 神社を文字通り飛び出し、魔理沙と並んで空を飛ぶ。

 

 いつもなら既に春、暦的には夏の準備が入る頃。

 

 全く、こんな異変を起こした奴にはお礼に夢想封印をお見舞いしてやろう。

 

 「だいたいねぇ、こんなに吹雪いてちゃあ氷狐が見つからないでしょうが!!」

 

 「あ、やっぱり氷狐が優先なのか」

 

 うがー、と怒鳴ってみるけど吹雪きは止まないし寒い。

 

 本当に異変の犯人には感謝してもしたりないので見つけたら私の気が済むまでぴちゅらせてあげよう。

 

 「あら、こんなところに人間が」

 

 「あら、こんなところに一人ぼっちの妖怪が」

 

 「大きなお世話よ!!」

 

 突然目の前に現れた妖怪。

 

 妖怪は一人とか気にしない奴が多いけど、こいつは気にするらしい。

 

 「まぁいいわ。あんた、子狐の妖怪を見なかった?」

 

 「子狐の妖怪? 見てないわね」

 

 「あっそ。じゃ」

 

 「「まてまてまてまて!!」」

 

 飛び去ろうとした私を止めたのは妖怪と魔理沙。正直、氷狐のことを知らない妖怪と話す時間なんて1秒たりともないんだけれど。

 

 「なによ」

 

 「もしかしたらこいつが異変のことを知ってるかもしれないぜ? 知らないかもしれないけど」

 

 「こいつとか異変とかどうでもいいからあんたが聞いといて」

 

 「え~私が? こいつ寒いからイヤだ。あと、こいつはどうでもいいけど異変はどうでもよくないからな?」

 

 「あんたらよく初対面でそこまで言えるわね!?」

 

 なぜか妖怪が涙目だけど、どうでもいいので無視する。

 

 ……まぁ名前くらいは聞いてあげてもいいけど。

 

 「で、あんた誰よ」

 

 「ぐすっ……レティ・ホワイトロック」

 

 「ふぅん。じゃ、さようなら」

 

 「聞いといてそれだけ!? きゃああああああああ!!」

 

 名前だけ聞いて弾幕を飛ばして即撃墜、はいぴちゅーん。

 

 全く、無駄な二分だったわ。

 

 「……お前、容赦ないな」

 

 「なにそれおいしいの?」

 

 

 

 

 

 

 あれから化け猫に会ったり、七色魔法莫迦と会ったり、演奏騒霊三姉妹と会ったりしたけれど……氷狐の情報は何一つ手に入らなかったので省略。

 

 その代わり、異変の原因がどこにいるのかは分かった。

 

 「冥界……ねぇ」

 

 冥界。死者が訪れる生のない世界。

 

 私と魔理沙は今、その冥界とこの世の間にある結界の前にいる。

 

 生者である私たちが入っていいような場所ではないことは分かっている…けれど。

 

 (氷狐がここにいる)

 

 もちろん、根拠なんてないただの勘。

 

 いなかったら、それでもいい……いや、よくはないけど。

 

 もしもいるなら……なぜ冥界なんて場所にいるのだろう。

 

 「嫌な予感しかしないわね……」

 

 「なんだ? 怖いのか?」

 

 「さぁね。魔理沙はどうなのよ」

 

 「怖い」

 

 「素直でよろしい」

 

 さぁ、行きましょうか。

 

 この冥界に氷狐がいるのか……をね。

 

 

 

 

 

 

 「ところで魔理沙。その手の魔導書はどうしたのよ」

 

 「さっきの人形だらけの家から借りてきた」

 

 「ちゃんと返しなさいよ?」

 

 「返すぜ? 私が死んだらな」

 

 「それは借りたじゃなくて盗ったっていうのよ」

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