子狐幻想記   作:d.c.2隊長

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現在就活中ではありますが、次の試験まで少々猶予ができましたので投稿をば。長らく更新が止まってしまって申し訳ありません。

もうしばらくこの様な速度での更新となりますが、どうかご理解とご容赦のほどをよろしくお願いします。


射命丸 文 起

 【射命丸 文《しゃめいまる あや》】

 

 妖怪の山でブン屋、つまり新聞記者を営んでいる少女の姿をした鴉天狗。幻想郷には1000年前から住んでおり、その力は数いる鴉天狗の中でも最高峰に位置するという。

 

 “文々。新聞《ぶんぶんまるしんぶん》”という新聞を自ら執筆、発行しており、自ら配達しているにもかかわらず購読者はほぼ0に等しいのだとか。彼女の同僚曰く、内容がデタラメとのこと。

 

 記事の為なら東奔西走なんのその、あることからないことまで頑張る姿は非常に楽しそうであるとか。しかし購読者は増えない。

 

 その能力は“風を操る程度の能力”。能力の詳細については名前の通りなので省略させていただく。この能力と鴉天狗としての身体能力故に、そのスピードは“幻想郷最速”の称号を得るほど。

 

 礼儀正しい性格ではあるが、弱者に強く強者に弱いという幻想郷に住む鴉天狗の例を少し持っており、自分よりも弱い存在に対してはやや高慢。

 

 今回のお話は、鴉天狗の少女の文と子狐の妖怪、氷狐がいつもの仲間たちとほのぼのと、時に慌ただしく、そしてまさかの展開になったりならなかったりするお話。

 

 

 

 

 

 

 「うーん……」

 

 妖怪の山にある我が家で椅子に座りながら唸っているのは私こと射命丸 文。

 

 前回起きた異変である“大量の花が一斉に咲き乱れる”という異変……私は先ほどまであの異変の記事を書いていた。しかし、その内容は簡単に言えば“幻想郷の様々な場所で色んな花が咲いていた”というものにしかならなかったので没にしたのだ。

 

 花ということで風見 幽香が怪しいと思って話を聞こうと思ったが相手は幻想郷最強の一角であり、戦闘狂とも聞くフラワーマスター……戦闘にでもなったら目も当てられないので自宅には行っていない。

 

 博霊の巫女に話を聞きに行ってみたけど神社を留守にしていたし、人里に向かう途中で見かければ殺気をばら撒きながら閻魔と弾幕ごっこしてるし、閻魔に勝っちゃうし勝ったらすぐどっかに行っちゃうし……結局話を聞けたのはボロボロになっていた閻魔ただ一人。その閻魔も話を聞こうとしたらいきなり「貴女は少し、好奇心が旺盛過ぎる」と行って説教始めるし……散々な一日だった。

 

 こうなったら宴会に入り込んで自棄酒だ! と意気込んで神社に行ってみれば人影は一切見当たらず、2、3日足を運んでも宴会はやっていなかったので一人寂しく我が家で飲んでいたのが7日くらい前のこと。

 

 部下の椛でも弄って遊ぼうかな……なんて思っても肝心の椛の姿が見えず。溜まりまくったストレスを発散するかのように新聞を書いても結果は先ほど言ったような感じになり、結局没。

 

 ストレスは発散できず、不幸ばかりが続いている気がする。最近は椛と会うこともそうそうなく、面白いことも中々起きない。

 

 「……たまには、人里に行ってみましょうか」

 

 なんとなく、窓の外を見ながら呟いてみる。私は他の鴉天狗達と比べてそこまで人間という存在が嫌いではないし、たまに入っては私が書いている“文々。新聞”の購読者にならないかと勧めるくらいのことはしているので人間との仲もそんなに悪くない。

 

 ここしばらく行ってないし、私の顔を覚えている人間がいるかは分からないけれど、暇つぶしと気分転換には丁度いいかもしれない。思い立ったが吉日、今から行ってみようか。時間帯は太陽が真上あたりにあるくらい……つまりは昼時。ついでに昼食も里で食べてしまおうか。

 

 「そうと決まれば、れっつごーです!」

 

 普段はしまっている黒い翼を出し、家の外に出る。バサッと勢い良く広げてみれば、自慢の艶のある漆黒の羽が宙を舞う。

 

 翼をはためかせ、空を飛び……私は一陣の風になる。その瞬間が、私は何よりも好きだった。

 

 

 

 

 

 

 「到着です」

 

 時間にしてみれば10秒とかかってないけれど、私は人里の門の前に下り立った。中に直接下りてもいいのだけれど、以前やったら里の守護者から「子供たちを怯えさせるな!!」と言われていきなり頭突きを食らったのでそれ以来私はこうして門から入るようにしている。

 

 門番であろう男性は私の姿を見ると警戒するように目を鋭くさせた。が、何かを思い出したかのように目を見開くと私から視線を外した……私のことを覚えていたのかもしれない。

 

 「文々。新聞、試しに読んでみませんか?」

 

 「“以前”にも言いましたが、読んでも購読はしませんよ。清く正しい射命丸さん」

 

 試しに門を通る際にそう呟いてみると、クスリと笑うような声と共にそんな言葉が返ってきた。少し前、こんな会話を人間の“少年”とした覚えがある。因みに、“清く正しい射命丸”というのは外の世界で言う“きゃっちこぴい”とか言うものだ。

 

 あの時の少年が、今では妖怪相手に睨む事ができるほどの屈強な男性になっていたなんて……妖怪という種族ながら、感慨深いものがありますね。……ていうか私はどれだけこの里に来ていなかったのか。

 

 それはさて置き、お腹もすいてきたのでそろそろ里の中に入るとしましょうか……そう思っていざ足を踏み入れてみると、私の隣を小さな妖気を持った青い何かが走り抜けていった。

 

 何となく、私はその青が気になったので追いかけるように青の背を追い、そのついでに青の観察をする。

 

 頭に見えるのは何かの獣らしき青い毛並みの耳、お尻の部分からはこれまた何かの獣らしき同色の尻尾が生えている。その姿は、どこか私の部下を髣髴とさせた。

 

 耳と尻尾と同じく青い髪はうなじが見える程度に短く、着ている服装は……後ろからではよく分からないが紫色の対極図が描かれた布に、恐らくは白い服を着ている。なぜかその服装に見覚えがあるけれど、何となく気づかない方がいい気がしたので気にしないことにした。

 

 そして、アレから妖気を感じるということは……まあ獣耳が生えている時点で分かっていたことではあるけれど妖怪だということを意味する。それは特に問題ないのだけれど……なぜだろうか。私は、あの妖怪が気になった。

 

 付かず離れずの距離を維持しながら追いかけること数分、妖怪がたどり着いたのは人里唯一の寺小屋。妖怪が寺小屋に何のようなのか……と疑問に思ったのもつかの間、私の目に信じられない光景が飛び込んできた。

 

 「行くぞひこー!」

 

 「うー!」

 

 私の目の前にあるのは、人間の子供と子供の妖怪が仲良く蹴鞠をしている……つまり、楽しそうに遊んでいるという光景。それは、妖怪である私にとっては信じられない光景だった。

 

 妖怪とは、人間の恐怖などの感情から生まれ、そして人間を食らう存在である。この幻想郷では里の中の人間を食らう、殺すというのはご法度だけれど、里の外ではその限りではない。つまり、決して人間が妖怪に恐怖を抱いていない訳ではなく、妖怪は昔に比べれば減ったとは言え人間を食料であると思っている者も少なくはない。

 

 妖怪に見た目は関係ないし、子供のような見た目でも人間の大人以上の力を持つ存在も少なくはない。見た目で判断してはいけない、というのは人間の中での妖怪に対する共通の見解のはず。ならば、目の前の妖怪と楽しそうに遊ぶ人間の子供たちと……それを寺小屋の中から優しい目で見ている里の守護者はどういうことだろうか。

 

 そんなことを考えていると、守護者と目が合った。途端に、守護者の目が鋭くなり、私を警戒しているのが見て取れた。いや、私を警戒するのに目の前の妖怪に無警戒というのはどういう了見なのか……少しだけ、納得がいかない。

 

 そもそも、私よりも弱いくせに私を睨んでいるというのが気に入らない。先の人間である門番は……まあこの際置いておくけれど。

 

 少しイタズラでもしてその顔を驚愕に染めてやろうかしら……なんて思ったのが不味かったのかもしれない。

 

 

 

 「不用意なことをすれば……滅するわよ」

 

 

 

 ゾクリ、と背筋を嫌な感じが通り抜けた。同時に、イタズラの為に動こうとしていた私の体が石のように固まって動かなくなる。

 

 この感じを、私はかつて感じたことがあった。そう、それはまだ鬼が妖怪の山の頂点として君臨していたはるか昔の話。初めて鬼と出会い、その力を恐れ、姿を見ただけで生きた心地がしなかった、常に命を握られているかのような感覚。

 

 いったい誰なのか……その疑問は、すぐに解決した。

 

 私の横を通り抜け、視界に映ったのは紅白の巫女服。頭には大きな赤い布が蝶のようになって髪を縛っており、その身から溢れる霊力と一瞬感じた怒気は……紛れもなく博麗の巫女。その巫女は真っ直ぐに青い妖怪の元へ行き……信じられないことにその妖怪を抱き上げた。

 

 「う? れーむ!」

 

 「氷狐ー、今日はなかなか神社に来ないから探してたのよ?」

 

 「うー、うーあー」

 

 「そうだったの? それなら邪魔して悪かったわね。でももうすぐお昼休みも終わる時間だし、今日はこのまま一緒に神社に行くわよ」

 

 「あーう♪」

 

 「まて巫女、もう少し氷狐を生徒たちと遊ばせてやっても……というか、もう少し私に氷狐という癒しを」

 

 「仕事しろ」

 

 思わず笑ってしまいそうな会話だけど、笑うどころか身動きひとつ取れないのが私の現状。先ほど感じた巫女の力が怖くて、とてもではないが口を開くことはできない。

 

 しかし、私は口元に笑みを浮かべていた。理由は単純……嬉しかったから。

 

 妖怪と人間が楽しそうに遊んでいる? 巫女が妖怪をさも当然のように抱き上げている? これほど信じがたい光景を、私は今まで見たことがない。それすなわち……“すくーぷ”です!

 

 ああああ、本当なら今すぐカメラにこの現場を収めて自宅に帰って現像して新聞を書き上げて幻想郷中にばら蒔きたいです! でも動かない私の体。なんて歯痒いのですか!

 

 やがて巫女は妖怪をなぜか横抱きしたまま空へと上がり、博麗神社の方角へと飛び去っていった。私は体が動くようになった瞬間に素早くカメラを構え、飛び去る瞬間の巫女を収めることに成功した。

 

 「……え?」

 

 気のせいかもしれないけれど……その僅かな時間で、あの青い妖怪と目があった気がした。……いや、さすがに気のせいかもしれない。巫女はもうある程度離れていたし、あの妖怪の目がそれほどいいとは思えない。

 

 ただ……本当に何となくではあるけれど……あの妖怪は、私に向かって小さく手を振っている気がした。

 

 「……気のせい……ですよね」

 

 そう、気のせい。寺小屋の方を見てみれば、巫女が飛んでいった方角に向かって手を振っている人間の子供たちと、ものすごく悲しそうな顔をしている守護者の姿。あっちに向かって手を振っていたのだと、普通に考えれば分かることだ。

 

 だけど……なぜだろうか。私に向かって手を振ったわけではない……そう思うだけで、少しだけ寂しく感じてしまったのは。向こうは私を認識しているかも怪しく、私はあの妖怪を今日初めて見たというのに。

 

 結局私は昼食を取ることもなく、自宅に戻って写真の現像と新聞の執筆に取り掛かった。その際、私はなぜか撮った写真を目に見える位置に置きながら新聞を書いていた。

 

 「……あなたの名前は、何ですか?」

 

 誰も答えるはずのない部屋の中で、写真に向かってそう問いかけてみる。そこに映っているのは、巫女の背中と、顔と両足だけが映っている青い妖怪。心なしか、その視線はこちらを向いているような気がする。

 

 人間に畏怖されず、人間に恐怖を抱かせず、人間とともに……それが当たり前のように遊んでいた、この目で見ても信じがたい光景を作り出していた不思議な妖怪。

 

 あんな妖怪は、今まで見たことがない。人間に友好的な妖怪は見たことがあるが、人間と遊ぶ姿なんて見たことがない。

 

 だけど、見てしまった。その光景を、楽しそうな人間と妖怪の姿を。

 

 見たならどうする? 当然、こんなすくーぷは頬って置かないのがブン屋である私、射命丸 文である。すぐに書き上げ、幻想郷中にこの事実を知らしめなくては! 少し誇張も入れたほうが購読者も増えるかしら……なんて考えは見ない振り。

 

 「さあて、かきあげますよー!」

 

 退屈な日々で溜まっていたストレスは、いつの間にか何処かへと消えていた。里へと行ったのは、いい気分転換になったみたいです。

 

 この妖怪を追えば、きっと新鮮で誰もが見やるすくーぷを得ることができる……私は、どこかそう確信していた。

 

 

 

 

 

 

 「なぜ……なぜですか!?」

 

 「文様? 一体どうしたのですか?」

 

 「あや、椛じゃないですか。随分とお久しぶりです……じゃなくて! 新聞ですよ新聞!」

 

 「新聞?」

 

 「そうですよ! なぜ購読者が増えないのですか!? 妖怪と人間が笑いあうという素晴らしい場面を収めた記事だというのに! 珍しく他の天狗を驚愕させたという会心の出来だというのに! 一体なぜですかああああ!?」

 

 (ああ、この山の住人はあんまり山から出ないから知らないんだ……今の人里では氷狐や私等限定でその光景が日常だということを。これだから引きこもりは)




というわけで、今回からは射命丸 文のお話となります。wikiで書かれている射命丸とはかなり性格が違いますが……今更感がありますね。

今年中に完結できるかかなり微妙な領域になってしまいましたね……まあ年を跨ごうが完結させますが。

今回も楽しんでいただければ幸いです。感想、評価、批評等を心よりお待ちしております。
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