子狐幻想記   作:d.c.2隊長

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こきつねわしゅうき、と読みます。多恋記と同じ短編集形式にしました。

あとがきの方に少し報告がありますので、そこまで呼んで下されば幸いです。


子狐話集記

 これは、幻想郷の住人のいろいろとアレな話をするお話である。

 

 

 

 

 

 

 【恋の白黒魔法使いの話《こいのしろくろまほうつかいのはなし》】

 

 霧雨 魔理沙は自宅で腕を組んでとある現実と向き合っていた。いや、向き合っていたというよりは再認識していたと言った方が正しいのかもしれない。

 

 彼女の頭に浮かぶのは、同じ魔法使いのパチュリー・ノーレッジとアリス・マーガトロイド、半人半霊の魂魄 妖夢、月人の鈴仙・優曇華院・イナバ、そして風祝で現人神である東風谷 早苗。

 

 以前に魔理沙は手癖が悪いせいで他の存在から嫌われていると言ったが、事実はそうではない。むしろこういった人外には博麗 霊夢と同様に好かれている。それは彼女の分け隔てない、人懐っこく明るい性格によるためであろう。それを踏まえた上で。

 

 「……やっぱり、そういうことなのか?」

 

 疲れたようにため息を1つ。しかし表情は満更でもなさそうだ。むしろ嬉しそうである。

 

 魔理沙は机の上にあるいつもの黒いとんがり帽子を被り、家から出て箒に跨り、浮き上がる。目指すのは、霧の湖に聳え立つ紅の館。

 

 「そんじゃ……まずはパチュリーからだな」

 

 

 

 「なあパチュリー」

 

 「なに? 魔理沙」

 

 「あたしのこと好きか?」

 

 「ぶふっ!? ごっほげほ!」

 

 いつもの如く門番をぶっとばし、当然のように図書館の中に入り、自然に子悪魔に出して貰った紅茶やらお菓子やらをパチュリーと共に魔導書を読みながら口にしていた魔理沙がそう言うと、パチュリーは飲んでいた紅茶を盛大に吹き出した。

 

 当然彼女が読んでいた本は吹き出した紅茶で見るも無残な状態……それに対し、魔理沙は読んでいた本を机の下に隠し、自身に飛んでくるものは何も乗っていない皿で防いだ。乗っていたはずのお菓子は全て魔理沙の口の中である。

 

 「いきなり何を言い出すのよ!?」

 

 「もぐもご」

 

 「飲み込んでから話しなさい……っていつの間にかお菓子がない!?」

 

 「ごくん……美味かった。で、あたしのこと好きか?」

 

 いつもはしないツッコミをしたせいか少し疲れた様子のパチュリーに、魔理沙は再び問いかける。その問いを、パチュリーは少し顔を赤くしながらも考える。

 

 なぜ魔理沙が急にこのような質問をしてきたのか。もしや、そういうことなのか? 我が世の春が来たのか? などと考えるが魔理沙の表情は至っていつも通り。何かを期待している様子もなく、目線は手にした本に向いているので本当に純粋に聞いてきたのだろう。という判断をしたパチュリーの返答は。

 

 「そうね……好きよ。友人としてね」

 

 「そっか。あたしもパチュリーのことは好きだぜ。友人としてな」

 

 本当はもっと上の好意なのだとは言えず、当たり障りのない答えを返した。それに対して返ってきた答えに少しがっかりとしながらも、一緒に返ってきた笑顔を見て上機嫌になる。

 

 なぜ急にこのような質問をしてきたのかはパチュリーには分からない。が、その日はいつも以上に楽しい時間を送ることができた気がした。

 

 

 

 次の日、魔理沙は人里にいた。その理由は、寺小屋で行われる、アリスによる人形劇を見るためだ。

 

 その道中で甘味処で団子を食べている氷狐を発見、いつものように団子を貰う(盗む)と運悪く霊夢が登場。いつものようにその身にスペルカードによる七色七つの霊弾を受けた。このようなことを繰り返しているしか、魔理沙はこのぐらいでは気絶しなくなったことは喜ぶべきか悲しむべきか。

 

 「あんたも懲りないわね……ていうか随分としぶとくなったじゃない」

 

 「いつも喰らってるからな。相変わらずお母さんの怒りは痛いぜ」

 

 「誰がお母さんか白黒。滅するぞ」

 

 「ごめんなさい、笑顔で言うのやめて。マジで怖いから」

 

 にーっこりとした霊夢に思わず土下座する魔理沙。本能が言っている、ここで謝らなければ死ぬと。

 

 なんとか許してもらえた魔理沙は2人と分かれて寺小屋へと向かう。2人も誘ったのだが、氷狐は友達と遊ぶ約束を、霊夢は妖怪退治の依頼を受けていたようでそのまま別れることになった。

 

 そしてやってきた寺小屋。既に人形劇は始まっているらしく、子供たちの楽しそうな声が響き、その中で物語を朗読しているアリスの綺麗な声が、魔理沙にはよく聞こえている。外の世界では紙芝居のときに使うような枠を用意し、その後ろで人形を動かす者が声を出して劇を披露する。が、魔法使いであり、人形遣いであるアリスは朗読も人形の動きも台詞も演出も全て1人で行うことができる。

 

 かくして人形劇は大好評のまま終わりを迎える。そして子供たちに手を振りながら帰ろうとするアリスに、魔理沙は後ろから声をかけた。

 

 「お疲れ、アリス」

 

 「あら、魔理沙じゃない。見てたの?」

 

 「見てくれって言ったのはアリスじゃないか」

 

 「そうだけど、正直見てくれるとは思わなかったわ」

 

 「信用ないなぁ」

 

 などと会話をし、お互いにくすくすと笑い合う。2人の出会いは春雪異変の時でその際には戦った時……といっても霊夢が蹂躙し、魔理沙は落とされたアリスを流石に傷だらけのまま放置するのもなんなので介抱していただけである。その際に彼女が魔導書を一冊ちょろまかしていることを、アリスは知らない。

 

 そうして少し会話をした後、魔理沙は1つ質問をした。

 

 「なあアリス」

 

 「なに?」

 

 「あたしのこと好きか?」

 

 「はあ!?」

 

 いきなり何を言い出すんだとばかりに声をあげるアリス。飲み物を飲んでいたらパチュリーと同じように吹き出していたことだろう。そして、その頭の中では質問の意図を予想する思考が渦巻いている。

 

 もしや、そういう感情を自分に対して抱いているのか? と考えるも魔理沙の表情は至って普通、普段から浮かべている笑みと何も変わらないように見える。魔法の森にある変なキノコでも食べたのだろうかと考えてみるが、幻想郷1キノコに詳しい彼女がそのような失敗をするとは考えにくい。

 

 もしや惚れ薬の類でも気づかない内に飲まされていたのか? とも考えるがアリスが魔理沙に最後に会ったのは人形劇の日程を伝えた5日前、それも彼女の自宅の入り口前で日程を伝えた程度。何かを飲まされたということはありえない。

 

 そうして彼女が出した結論は、ただの友人としての好意の確認だった。

 

 「……ええ、魔理沙のことは友人として好きよ。それがどうかしたの?」

 

 「いや、特に深い意味はないよ。あたしもアリスのことは好きだぜ」

 

 その後は2人で昼食を共にし、そのまま別れた。アリスの“願う関係にはまだまだ遠いなあ”という呟きは、飛び去ってすっかり小さくなってしまった魔理沙には聞こえなかった。

 

 

 

 更に次の日、魔理沙は冥界にある西行寺の屋敷で妖夢と共に昼食をとっていた。珍しく西行寺 幽々子の姿がないのは、八雲 紫の屋敷に遊びに行っているからだという。

 

 「やっぱ妖夢の作る飯は美味いな!」

 

 「あ、ありがとうございます……」

 

 本当に美味しそうに食べる魔理沙の姿を、妖夢は嬉しそうに眺める。妖夢にとって彼女は意中の人だ。その人が自分の料理を食べて美味しいと言ってくれているのだから嬉しくないはずがなかった。

 

 不意に、魔理沙の手が止まった。急にどうしたのだろうか? と妖夢も手を止めて魔理沙の方を見たとき、魔理沙はさらっとこんなことを聞いてきた。

 

 「なあ妖夢」

 

 「なんですか? 魔理沙さん」

 

 「あたしのこと好きか?」

 

 「……はいっ!?」

 

 食べる手を止めていてよかったと妖夢は思わずにはいられない。食べながら聞いていたら、とても恥ずかしいことになったであろうことは簡単に予測できるから。少なくとも、意中の相手に見せられるような状態ではなくなってしまう。

 

 その未来をなんとか回避することに成功した妖夢は、魔理沙の質問の意図を考える。彼女の質問は、自分のこと好きか? これだけ。自分のこと“が”という質問だったなら、彼女は自分の気持ちに気づいているということになる。が、自分のこと“は”という質問なら、友人や親しい者に聞くような軽いものになる。どちらも抜けているのはわざとか、それとも彼女の性格ゆえか。

 

 魔理沙の表情は至って普通、普段と変わらない笑みを浮かべている。その表情から少し落胆しつつ、妖夢は軽い方だと思った。

 

 「えっと……魔理沙さんのことは好きですよ? その……友人として」

 

 「そっか。あたしも妖夢のことは好きだぜ。友人としてな」

 

 にひひっ、と子供のように笑う魔理沙を見て顔が赤くなることを自覚しながら、妖夢は昼食を再開する。

 

 いつになれば自分の想いを伝えることができ、望んだ関係になれるのか……そんなことを思いながら。

 

 

 

 「なあ鈴仙」

 

 「はい?」

 

 「あたしのこと好きか?」

 

 「はい!?」

 

 妖夢と会った同日、魔理沙は偶然にも人里で置き薬の集金をしている鈴仙と出会った。これ幸いとばかりに魔理沙は鈴仙に同行し、4件ほど回った時に4回目となる質問を投げかけた。当然、いきなりそのようなことを聞かれた鈴仙は驚く。思わずその場で飛び上がってしまうくらい盛大に。

 

 そして他の3人と同じく、その質問の意図を考える。鈴仙自身、魔法使い2人と同じくらいか、もしくは訳の分からない思考回路をしている主の相手をしている半人半霊以上の思考力を持っている。師が師なのでそれは当然なのだが。

 

 その思考力と今までの魔理沙の行動や言動から考え付いた意図は、いつもの悪ふざけか冗談という結論に至った。

 

 「んーっと、好きですよ」

 

 「友達として?」

 

 「はい」

 

 「そっか。あたしも鈴仙のことは好きだぜ。友達として」

 

 無論、鈴仙が抱いている“好き”とは本来なら異性となる関係に必要なものなのだが。故に彼女が魔理沙の返答を聞いて残念そうに苦笑を浮かべるのは仕方のないことだろう。

 

 ただ、その日の集金が終わるまで魔理沙がずっと一緒だったのは彼女にとって嬉しいことだった。

 

 

 

 次の日、魔理沙がやってきたのは妖怪の山の頂上にある守矢神社。その目的は、当然ながら早苗に先の4人と同じ質問をするためである。なぜ魔理沙がこのような行動に出るのか。それは、今までの魔理沙に対する彼女達の行動の真実を確認するため。

 

 彼女たちは魔理沙に対して、他の存在よりも好意的過ぎる。恋の魔法使いを自称する魔理沙は、その行動の理由が“彼女たちは自分に恋している”と、誰かに聞かれれば自意識過剰だと言われかねない理由であると判断したのだ。そして、確認すべき最後の人物が今、魔理沙の目の前に箒を持って立っていた。

 

 「あ、魔理沙さん。おはようございます」

 

 「ああ、おはよう早苗。なあ、早苗。お前に聞きたいことがあるんだ」

 

 「なんですか?」

 

 「あたしのこと好きか?」

 

 「好きですよ?」

 

 いきなりの魔理沙の質問に対して、早苗はあっさりと、特に驚いた様子もなく答えた。魔理沙がじっと彼女を見てみるも、その表情は至って普段と変わらない穏やかな笑みを浮かべている。

 

 こうして即答されてしまえば、それはどういう意味で? とは聞きづらい。しかしそれをやってのけるのが白黒魔法使いである。そこに痺れもしなければ憧れもしない。

 

 「それは友達として?」

 

 「ライクかラブならライクですね。私としてはラブでも……」

 

 早苗の返答に困ったのは魔理沙。後半の部分は聞こえていないが、そもそも“らいくって何?”という心情だ。

 

 魔理沙とてラブという言葉も意味も知っているがライクという単語は聞いたことがなかった。ただ、早苗の言い方とラブの前に出てきた言葉という点から友人かそれに近い言葉ということは予想できたのは幸いか。

 

 「ん、そっか。あたしも早苗のことは好きだぜ」

 

 「それはどういう意味でですか?」

 

 「勿論、らいくさ」

 

 お互いににっこりと笑い、しばらく談笑した後に魔理沙は去っていった。その後姿を、早苗はどこか熱のこもった視線で見送るのだった。

 

 そんな視線など露知らず、魔理沙は空を飛びながら今までの問答から自分の考え、及びその答えを導き出す。

 

 

 

 「うん、あたしの勘違いだな。流石に女の子同士っていうのは幻想郷でも非常識だよな!」

 

 

 

 神は言っている……常識は幻想郷では捨てるものと。少女たちの恋路は、まだまだこれからである。

 

 

 

 

 

 

 「なあ霊夢。あたしのこと好きか?」

 

 「嫌い」

 

 「即答!? ひ、氷狐は?」

 

 「うーあー♪」

 

 「痛い! ちょ、霊夢!? なんで叩くんだ!?」

 

 「うるさい! 嫉妬の霊弾で滅しろ!!」

 

 

 

 

 

 

 【祟り神の見た夢《たたりがみのみたゆめ》】

 

 洩矢 諏訪子は誰かに頭を撫でられる感触を感じながら目覚めた。ゆっくりと開く視界に写ったのは、自らが着ているものと同じ白い寝巻き、住んでいる神社の見慣れた縁側。

 

 まだ少し眠っている頭で顔を動かし、視線を彼女の感覚で左へと向ける。その先に見えたのは、愛しい青色。

 

 「……うー……おはようひこ……」

 

 「うー、すーこ」

 

 諏訪子の髪を撫でながら微笑んでいる氷狐がそこにいた。

 

 

 

 段々覚醒してきた頭で、諏訪子は今の状況はどういうことなのかと考える。時間帯は、朝か昼前。寝すぎたのか早いお昼寝なのかは判断できないが、氷狐に膝枕をされた状態で目覚めたのは心地よい。

 

 一番の疑問は、腹部の重み。ちらりと目を向けてみれば、そこにあるのはぽっこりと膨らんでいる自身の腹。何があったと一瞬疑問に思ったものの、すぐにこの中に新たな生命が宿っているのだと理解する。なれば、これは誰との子か?

 

 「言わせないでよ恥ずかしい」

 

 「う?」

 

 「あーうー、気にしないで」

 

 「うー」

 

 こくりと頷いた彼を見て、諏訪子は満足そうに笑った。早い話、宿った生命の片親は氷狐なのだ。そうなった経歴は、まあぶっちゃければこのカエル神の夜這いである。そうしていたした結果がこの腹である。

 

 最初こそ憤りを顕にしていた霊夢や紫、八意 永琳たちであったが、流石に子を宿されてはぐうの音も出ない。降ろせなどと残酷なことも言えず、最終的に氷狐本人が理解できぬままに責任を取ることとなった。

 

 新たな生活は、かつて諏訪子が土地神として在った古代と同じ彼との生活。そこに八坂 神奈子と早苗も加われば、ある意味で古代の生活そのままである。それが、諏訪子にとって何よりも嬉しかった。

 

 「今日はいい天気だねえ」

 

 「あーうー」

 

 ぼんやりと、縁側から見える空を見上げる小さな影2つ。昼食を取るには少し早く、朝食は既に取ってしまっている。記憶を辿れば、神奈子は伊吹 萃香と飲みに行っているらしいし……朝から飲むなよとは無論言ってある。聞いている様子はなかった。早苗は信仰を得る為に人里へ、ついでに買い物や魔理沙に会いに行っている……明らかに後者が本命である。分かっているが突っ込まなかった。

 

 つまり、今は2人きり。しかも膝枕をされ、頭を撫でられ、涼しく心地良い風が2人の体を撫でる。

 

 「なんて甘美なシチュエーション……っ!」

 

 「う?」

 

 「うーあー、気にしないで」

 

 「うー」

 

 思わず声に出してガッツポーズをする祟り神が1柱。キョトンとした子狐のなんと愛らしいことか。そう思いつつ、諏訪子は膨らんだ腹を撫でる。

 

 膨らみの度合いからして、おおよそ10ヶ月と言ったところだろうか。時折生きていると知らせるように腹を蹴る振動があることが、生命の息吹を感じさせる。生命を生み出すことが出来るとは、まるで神様みたいだ。あ、神だった、などと脳内で1人漫才を繰り広げる。

 

 かつて生んだ娘とは違う、本当の意味での彼とだけの子。娘が生まれた時は当然嬉しかったが、今ある命を生み、彼とともに育むことが出来たすれば、それはどれほど幸せなことだろうかと、彼女は思う。その幸せな未来は、もうすぐそこまで近づいている。

 

 

 

 気がついた時には諏訪子が見ている景色が変わっていた。先ほどまで空を見上げていたのだが、縁側という場所こそ変わらないものの、今見ているのは自身の膝を枕に眠る青い髪と、その青に抱きしめられている自身と同じ金の髪。その金の髪には、青と同じ獣の耳が生えていた。

 

 一瞬の疑問の後、この金が自身と彼との子なのだと思い出す。この子を産んでから、もう3年ほど経っているのだ。

 

 ゆっくりと、諏訪子はさらさらとした金の髪を撫でる。あどけない寝顔は、両親譲りのものだろう。髪色は間違いなく自分のもので、獣耳は言わずもがな彼からの遺伝。神と妖怪の間に生まれた愛し子。生まれた当初は、やはり色々と大変だったと、彼女は思い返す。

 

 夜泣きは、それほど煩くはなかった。というのも泣き声が人間とは違うし、そもそも獣に近かったのかか細い鳴き声しか上げなかったからだ。しかし、当然ながら部屋は同じなので寝ている時に鳴かれれば煩わしく感じることも多々あった。それも経験済みなのでそれほど苦ではなかったが。

 

 問題だったのは、この子自身ではなく神奈子の存在だった。早い話、親バカだった。親ではないがそれしか言い様がないくらい猫可愛がりしていたのだ。酷い時は一日中手放さないくらいだ。無論、諏訪子と氷狐、早苗に矯正されたので今はそれほどでもない。何をしたのかは言えない。

 

 今ではこうして彼より少し小さいくらいにまで大きくなり、親子仲良く昼寝を楽しんでいる。寝る子は育つと言うが、もしも彼よりも背が高くなったら彼はどういう反応をするのだろうか。諏訪子はそれが楽しみで仕方がない。

 

 「すわこ……?」

 

 「あ、おきた?」

 

 「うー……」

 

 何も変わらない彼が変わったことと言えば、こうしてちゃんと名前を呼んでくれるようになったことだと諏訪子は思う。子育てをしながら呼び方を矯正してきた甲斐があったというものだ。と言っても、その他はあまり変わらないが。

 

 少し眠そうに目を擦りながら起き上がった彼は、抱きしめていた我が子の頭を自分の代わりに諏訪子の膝の上に乗せる。その光景を、諏訪子は幸せそうな顔で見ていた。

 

 穏やかな、それでいて心地の良いゆっくりと流れていく時間。それは、この世界で最も得難く、同時に最も身近な時間。故に尊く、故に心地良く。

 

 「ねえ氷狐」

 

 「う?」

 

 「わたしね……今すっごく」

 

 故に、人はそれを幸福と呼ぶのだ。

 

 

 

 「幸せなんだ」

 

 

 

 もぞもぞと、膝の上の愛し子が体を起こす。寝ぼけ眼で親の顔を交互に見る姿の愛らしさは、間違いなく父親譲りのものだろう。そんな愛し子は数秒両親の顔を見つめ……にっこりと笑みを浮かべる。それだけで、2人の顔に笑顔が宿るのは当然のことだろう。

 

 「まぁま」

 

 「はうっ!!」

 

 何かを撃ち抜かれた音がした。声を上げた相手は無い胸を抑えながらうずくまっている。傷はかなり深いようだ。色々と台無しである。

 

 「ぱぁぱ」

 

 「うー♪」

 

 そんな妻に対し、夫はにっこりと笑いながら我が子を抱きしめる。頭を撫でられる金の神の子は嬉しそうに抱きしめ返し、甘えるように頭を父に擦り付ける。

 

 隣で震えながらうずくまっている母を不思議そうに見ながらも、両親を見ながら愛し子が一言。

 

 

 

 

 

 

 「だいすき♪」

 

 

 

 

 

 

 「という夢を見たんだ」

 

 「台無しですよ諏訪子様」

 

 「ところで早苗」

 

 「話を逸らさないで下さい」

 

 「叔父と叔母、どっちが欲しい?」

 

 「弟と妹じゃなくて!?」

 

 

 

 

 

 

 【遥か遠き記憶《はるかとおききおく》】

 

 ゆっくりと、視界が黒から色取り取りの世界へと変わる。その青い瞳に映るのは、樹木の緑と茶に果実の赤。そして、暗くも明るい夜空。

 

 むくりと、目を開けた小さな存在は起き上がる。自分が今いる場所はどこなのかを判断するべくきょろきょろと辺りを見回すが、分かったのは森の中という大雑把な現状。それはいつものことなのか、存在は特に何をするでもなく立ち上がり、実っている赤い果実を手にしてかじる。

 

 瑞々しく、程よい酸味と甘味のあるそれは一般的に言うリンゴという木の実に酷似している。が、存在はその果実の名を知らない。知る必要もない。知っているのは、その果実がとても美味しいものであり、自身の好物であるということだけだ。

 

 今日は何をしようかと、存在は考える。この森にいるのは自身を除けば、獣としか言いようの無い存在や俗に言う妖怪といった存在くらいである。襲われたことは無い。出会うのは、皆危険の無い存在ばかりだ。まるで誰かが守っているかのように、何かが選別しているかのように、この存在は危険な目にあったことがなかった。

 

 そして、存在はその何か、誰かをぼんやりと、本能的な部分で理解し、それを愛していた。それを愛だという名の感情だとは知らず、理解もしていなけれど。存在は愛し方を理解し、自身の周りの全てを愛している。

 

 何か、誰かとは即ち、世界。世界から何よりも愛された存在。そして世界を愛した存在。いつの頃からか、その存在は世界から神に等しい能力を与えられた。我が子を守るように、恋人に贈るように。それが、遥か未来でその存在を傷つけるとも知らずに。

 

 

 

 彼の存在の日常は至って不変だ。起きる、食べる、遊ぶ、食べる、遊ぶ、食べる、たまに水浴び、寝る、起きる。そういったことを飽きることも無くひたすら繰り返し、ただただ日常を謳歌する。与えられた能力のせいで成長することもなく、時に1人で、時に友人と共に日々を過ごした。

 

 この存在がいつ、どうやって生まれたのかは誰も知らない。いきなりそこに現れたと言うモノがいれば、自分よりも前にいたというモノもいる。分かっているのは、彼の存在が妖怪という存在であり、何かしらの獣が元になっているということだけ。

 

 獣が元というだけあって、彼の存在には知性や知識と言ったモノはない。眠くなったら寝る。目が覚めたら起きる。お腹がすいたら食べる。体を動かしたいから遊ぶ。そんな本能だけで日々生きていた。

 

 そんな存在がある日、1つのことに興味を持った。それは、彼の存在が住む森の近くにある不思議な森とは違う場所。遥か未来で広がる“町”という場所を偶然見つけた彼の存在は、それに興味を持ち、たびたび入り込んでいた。

 

 そこは、彼の存在にとって別世界と呼ぶべき場所だった。見知らぬ存在、見知らぬ物体、見知らぬ様々なモノ。好奇心旺盛な彼の存在が夢中になるのは仕方ないというものだろう。しかし、見知らぬ場所なだけあって危険もあった。

 

 彼の存在とよく似た見知らぬ存在は、彼の存在を見つける度に奇妙な筒や獣の爪のように鋭い物……後に銃や刃物と呼ばれるものを用いて襲い掛かってきたことは一度や二度ではない。しかし、好意的に接してくる存在もいたのだ。そういった存在から知識を、言葉を教えてもらう日々が、次なる存在の日常となった。残念ながら言葉は“あー”や“うー”などしか口に出来なかったが。

 

 そんな日常が数10年も過ぎた頃に、彼の存在に転機が訪れる。いつものように町に入り込み、いつものようにそこに住む存在……人間に気を付けながら町中を歩き回った。

 

 そして、たまに同じくらいの大きさの人間と共に遊ぶ公園と呼ばれる場所で1人で遊んでいた時、その人間……少女は現れた。

 

 「ねえねえ」

 

 「うー?」

 

 「あなた、かわったおみみをしてるのね」

 

 「あーうー」

 

 「うーん……なにいってるのかわかんない。ねえ、あなたのおなまえはなあに? わたしはね……」

 

 

 

 不意に、頭を撫でられる感覚を感じながら、氷狐は目覚めた。その瞳に最初に映ったのは、先ほどまで一緒にいた少女……ではなく、その少女がそのまま大人になったような女性。なったような、ではなく紛れもなく本人であるのは、今は氷狐と女性……永琳のみであるが。

 

 「おはよう氷狐」

 

 「あーうー、×ー×」

 

 「あらあら……その名前で呼んでくれるのは嬉しいけど、今の名前は永琳よ」

 

 「うー、えーり」

 

 「よろしい」

 

 氷狐が呟いたのは、かつて少女だった時の永琳の名前だ。現代では発音できず、聞き取れもしないそれは、遥か古代を生きた月人にしか伝わらない。それほど昔の名前を覚えていることが、永琳にとってはとても嬉しい。

 

 永琳は、氷狐がどんな夢を見ていたかを知らない。きっと、今の発言も寝ぼけているからだと思ったことだろう。まだ少し眠そうな愛しい存在を、彼女は優しく抱きしめた。

 

 今までのことは夢であり、同時に過去に起きた事実である。しかし、その事実を知る者は……恐らく、世界しかいない。

 

 しかしそんな夢など関係なく、氷狐は彼女を抱きしめ返した。そして、自身を愛しく思い、自身にとっても愛しい存在の名を呟く。今の彼が抱く想いを、心の底からの本心で。

 

 「えーり」

 

 「なあに?」

 

 

 

 「あーう♪」

 

 -だいすき-

 

 

 

 

 

 

 「永琳、入るわよ……って何この血だまり!? うどんげ! ちょっときてー!!」

 

 「なんですか姫様……師匠!? どうしまし……ああ、そういうことですか」

 

 「何に納得したの!? ん? 何を指差して……ああ、なるほど」

 

 「わかりましたか?」

 

 「ええ、わかったわ。だからもう行きましょう。心配して損したわ」

 

 「ですね」

 

 「えーり? えーりー?」

 

 (だいすきだいすきだいすきだいすき……)




今回のお話は

魔理沙ハーレムについて

氷狐と諏訪子の子育てとか

氷狐の誕生(というか永琳と出会う更に前の話)

のアンケートを採用させていただきました。しっかりと実行できたかどうかはともかく、楽しんでいただければ幸いです。

さて、前書きにも書きました報告の件ですが……次回は質問疑問にお答えするラジオ形式(全会話文)か別の希望されたお話を書こうかと思います。頂いた質問、疑問の数が一定数に満たない場合は希望の方を、一定数超えた場合はラジオ形式を採用するということですね。10件ほど来れば、1話分くらいの話になるでしょうか。

質問疑問はなんでも構いません。が、あまりに答えにくいものや設定のみで話にできないものはお答えすることが出来ない場合がございます。

尚、質問疑問を送る場合は【必ずメッセージで】お願いします。感想や活動報告に書かれた場合は無効とします。そもそも質問疑問が来るかも分かりませんが^^;

ハーメルンでメッセージを送ることが出来ない方は、小説家になろうでメッセージを送ってくださっても構いません。

名前を出すことが憚られる場合は、ラジオネームやら匿名希望やら自身の作品のキャラ名やらで送ってくださっても構いません^^

期限は2月4日(月)までとします。その日から書き上げていきますので。尚、土日はこちらから返信が出来ませんのでお気をつけ下さい。

それでは感想、評価、批評、質問疑問をお待ちしています^^
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