子狐幻想記   作:d.c.2隊長

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博麗 霊夢 転

 結界の上を通り越し、冥界に入った私たちを待っていたのは……長い長い階段。

 

 その階段の上からひらひらと落ちてくる桜の花びらを見て、間違いなくこの場所に異変の原因がいる。もしくはある。

 

 「ここに入った瞬間一気に暖かくなったな」

 

 「そうね……早く氷狐を見つけて縁側でお昼寝でもしたいわ」

 

 「……霊夢、本当に変わったよな。お前がそんなに同じ奴の名前を言うことなんてあったっけ?」

 

 「さぁね」

 

 魔理沙の言葉に適当に返し、歩いて階段を上るのも面倒なので飛んで頂上を目指す。

 

 後ろから魔理沙が何か叫んでる気がするけど、聞く気もないので無視する。

 

 長い階段を飛びきった私たちの目に映ったのは、石造りの道に綺麗に左右対称に置かれた灯篭、冥界らしく飛び回る人魂、美しく桃色に彩る花を咲かせている桜並木。

 

 そして……。

 

 「生きた人間がこの冥界に何の用ですか?」

 

 「幽霊がずいぶんと物騒なモン持ってるのね」

 

 「私は半分は幽霊じゃない!!」

 

 「そっちを訂正するのか?」

 

 腰に二本の刀を差した、周りにおまんじゅうみたいなものが浮いている女の子の幽霊……半分は違うらしいけど。

 

 「まぁあんたのことはどうでもいいのよ。あんた、ここで狐の妖怪を見なかった?」

 

 「どうでもって……狐の妖怪なら見たわ。幽々子様がずいぶんと気に入ってたみたいだけど」

 

 「そう、ここにいるのね」

 

 そうと分かればこんなところで半分は幽霊と喋っている場合じゃないわね。

 

 そう思って私が半分は幽霊の横を通り過ぎようとした時、私の目の前には抜かれた刀があった。

 

 「悪いけど、ここは通せません。あなたたちからなけなしの春を奪えば、きっと西行妖《さいぎょうあやかし》は満開になる……あなたたちの春、頂いていきます」

 

 「その西行妖ってのが何かは知らないけど、春を渡すわけにはいかないわね。相手をしてあげるわ……魔理沙が」

 

 「私!? まぁ霊夢に言われなくても私が相手するつもりだったけどな!」

 

 「なんびとたりとも通しません! 妖怪が鍛えたこの楼観剣」

 

 半分は幽霊が抜いた刀を握りしめ、わたしたちに切っ先を向けてくる。

 

 そして目を瞑っ……。

 

 「斬れぬものなどあんま……きゃあああああ!!??」

 

 た瞬間に私の方から弾幕を飛ばしてやった。

 

 まぁ目くらまし程度にしか飛ばしてないから無傷でしょ。多分。

 

 「……決め台詞くらい言わせてやろうぜ」

 

 「急いでるんだからそんなもの聞いてる時間はないわ。じゃ、後よろしく」

 

 お、おい! なんて叫びが後ろから聞こえてきたけど無視。

 

 私は氷狐を目指して勘を頼りに先へと進むのだった。

 

 「ぐすっ……どの作品でも最後まで言わせてくれたのにぃ~うぇ~ん」

 

 「あ~ほら、メタ発言しながら泣くなって……はぁ……」

 

 

 

 

 

 

 飛び続ける私の前に見えてきたのは、大きな屋敷。そして、きれいな天の川のような光。

 

 光の先を見てみれば、そこには巨大な桜の木と思わしき大木……桃色の花を咲かせているあたり、桜で合ってるでしょ。

 

 恐らく、あの光がさっきの半分は幽霊が言っていた春。あの桜に春が集まっているところを見る限り、春を集める理由はあの桜を満開にするためね。

 

 「どうでもいい……ってわけにもいかなさそうね」

 

 あの桜からは嫌な感じがする。

 

 あれは満開にしてはいけない。そう私の勘が囁く。なら、私はその勘に従うだけ。

 

 屋敷を超えてあの桜へと飛ぶ……その時、私の視界に入った屋敷の縁側に見慣れた青が映った。

 

 あわてて見つけた青を目指し、私は屋敷の縁側へと降り立つ。そこで見たのは、三日も会えなかった妖怪が眠っている姿と、薄い青色の寝巻のような服を着て、妖怪を膝枕している女……否、亡霊。

 

 「勝手に人の庭に入ってくるなんて……何のようかしら、博麗の巫女さん?」

 

 「あんたに用事はないわ。集めた春と、そこの妖怪を返してくれればね」

 

 「春はダメだけど、この子なら別にいいわよ?」

 

 「そっちはいいのね」

 

 「ええ、いいわよ。この子は突然私の前に現れてね? かわいいし、気に入ってたんだけど……」

 

 そう言って亡霊は氷狐の頭を優しく撫でる。撫でられている氷狐はピクリともしないけれど。

 

 ……ピクリとも……しない。呼吸による体のわずかな上下もない。まさか……と嫌な考えが頭に浮かぶけど、首を振って否定する。

 

 だけど……亡霊の言葉は、無情にも私の考えを言い当ててしまった。

 

 

 

 「私の能力か、あの西行妖のせいかは知らないけれど……もう、死んじゃったしね」

 

 

 

 無意識に、私は亡霊に向かって弾幕を放っていた。

 

 亡霊は氷狐を置いて避け、空を飛んだ。

 

 「あの桜、西行妖で待ってるわ、博麗の巫女さん?」

 

 そんな声が聞こえたけれど、私は氷狐のことで頭がいっぱいだった。

 

 いきなり過ぎる死亡宣告……そんなもの、信じられるわけがない。

 

 でも、私の勘が言っているのだ……あの言葉に嘘はないと。

 

 「氷狐……」

 

 猫のような体勢で眠っている氷狐を抱き上げる。

 

 その体からは、名前の通りの氷のような冷たさしか感じられない。

 

 「氷狐……」

 

 うーあーの言葉だけで何が言いたいかを理解し始めたのはいつからだったっけ。

 

 持ってきてくれた山菜や果物は、美味しくないものなんてなかったっけ。

 

 そんな思い出が頭をよぎる……違う、そんなことを思い出すな。

 

 これじゃ、まるで……。

 

 「氷狐、起きなさい。あんたしばらくお店に顔だしてないんだから。それに、あんたの持ってきてくれるお団子、三日前から楽しみにしてるんだからね?」

 

 頭を撫でながら話しかけても、返事はなくて。

 

 「お賽銭もあんたが便りなんだからね? 最近はあんた以外に神社に来る奴なんて、魔理沙とかくらいしかいないんだし」

 

 頬を引っ張っても、微動だにしなくて。

 

 「あんたが隣にいないと、お茶を飲むときも寂しいんだから……」

 

 なんで氷狐が冥界(こんな場所)にいて、どうして亡霊と一緒にいて、どうして私がこんなに悲しい思いをして。

 

 どうして、どうして、どうして。

 

 「どうして! あんたがこんなところで死んでるのよ!! 意味が分からない!! 私はこんな展開も! こんな気持ちも!! 望んでなんかいないのに!!!」

 

 強く、氷狐の亡骸を強く抱きしめる。どうしようもなく冷たくて、意味が分からなくて。

 

 ただただ、私は泣きながら抱きしめながら啼いていた。

 

 

 

 

 

 

 「ようやく来たのね。待ちくたびれたわ」

 

 西行妖とかいう桜の前にいる亡霊は、私の姿を見て扇子を取り出しながらそう言った。

 

 「この西行妖は、もう少しで満開になる。その時、この桜の下に封印されている何者かが復活するらしわ」

 

 「あっそ」

 

 「……それだけ? もっとこう、な、なんだってー!? みたいな反応はないの」

 

 「悪いけど、私にそんな反応を期待されても困るわ」

 

 つまらないと言いたげな亡霊の表情を見ながら、私はため息を一つ吐く。

 

 こっちは別にあんたを楽しませるために来たわけではないのよ。

 

 「奪った春を返してもらうわ。花見は神社って決めてるのよ」

 

 「冥界の花見もなかなか乙なものよ? 暗いけど、それもまた幻想的で。幻想郷だけに」

 

 「上手くもないし、花見は明るいほうが好きなのよ。こんなところでしたって気が滅入るわ」

 

 「ざんねんねぇ、こんなにも夜桜はきれいなのに」

 

 「夜でもない暗いだけの世界の桜を夜桜とは言わないわ」

 

 「失礼ね、冥界にも夜月くらいあるわよ」

 

 別段楽しいわけでもない無駄な会話。

 

 時間稼ぎなのかはわからないけど、あまりぐずぐずしてると本当に桜が満開になってしまいかねない。

 

 「冗談はここまで。幻想郷の春を返してもらうわ」

 

 「最初からそう言えばいいのに」

 

 「言ったわ、10行前に」

 

 「細か……まぁいいわ。春は返さないけど」

 

 亡霊が扇子を広げ、その背後からはおびただしい数の弾幕が現れる。

 

 力は大妖怪と呼ばれる存在と同等かそれ以上……私には関係ないけど。

 

 「西行寺 幽々子《さいぎょうじ ゆゆこ》……冥界の管理をしている亡霊よ」

 

 「博麗 霊夢……博麗の巫女をしてる人間。ああそうだ、あんたに聞きたいことがあったんだった」

 

 「あら、なにかしら?」

 

 亡霊は余裕の笑みというのを浮かべていると思う……私は俯いているから見えないけど、勘で分かる。

 

 私は札を指に挟んで取り出し、亡霊の顔を見るために顔を上げた。その時、亡霊の顔が一瞬恐怖に染まった気がした。

 

 「亡霊ってもう一度死んだら……どうなるのかしらね?」

 

 

 

 

 

 

 「スペルカードブレイク……残り二枚ね」

 

 おかしい。

 

 博麗の巫女は今のところ、一度も私を攻撃していない。

 

 そして、一度も私の弾幕は当たらない。というよりも、あの巫女に弾幕が当たる気がしない。

 

 いまこの瞬間も私は弾幕を打ち続けているというのに、巫女は最小限の無駄のない動きで避けている。私に攻撃することなく……。

 

 「……っ」

 

 ゾクリと、悪寒が背筋をよぎった。

 

 さっき見た巫女の顔は、一切の感情を感じられなかった。紫からは、〝喜怒哀楽がはっきりしてる〟と聞いていたのに。

 

 実際、屋敷で会った時には感情は感じられた。では、なぜ?

 

 「……あの子狐……ね」

 

 3日前に突然現れた子狐の妖怪。

 

 そして、つい先日に眠るように死んだ……否、私が“殺した”あの子狐を見たときから、巫女の様子は変わった。

 

 ここから予想できることは、あの子狐は巫女にとって特別な何かだったということ。

 

 だとすれば、あの感情が抜けたような顔は……それほどまでの怒りの表情だったのではないか?

 

 「幽曲「リポジトリ・オブ・ヒロカワ -神霊-」っ!」

 

 蝶の形をした、巫女を狙う大量の弾幕。

 

 十秒、二十秒と時間が過ぎていき、あっという間に制限時間がきて弾幕の終了を告げた。

 

 「あら、もう終わり?」

 

 変わらず、巫女の体には外傷もなく、汗ひとつかいていない。それどころか、余裕の声が返ってくる始末。

 

 勝てない。そう思ってしまった。

 

 だけど、私にも矜持というものがある!

 

 「桜符「完全なる墨染の桜 -開花-」!!」

 

 これは、時間が経つことに弾幕の数が増えていき、次第に避けることが困難になっていくスペルカード。

 

 余裕のあるうちに私を倒さないと、いくらあの巫女でも避けきることはできない。

 

 

 

 …そう、思っていた。

 

 

 

 「スペルカードブレイク……五枚目ね」

 

 嗚呼、これも避けられてしまったのか。一度も攻撃を受けず、ボムの一つすら使われることもなく。

 

 そして……かすり傷ひとつつけることもなく。

 

 だけど、避け続けてくれたおかげで西行妖は満開に近い。

 

 戦いには負けても、異変を起こした側として勝負には勝ったということだろう。

 

 「さて、そろそろ桜が咲きそうだし……終わらせるわよ」

 

 「えっ?」

 

 今この瞬間で?

 

 そう思って呆ける私を余所に、巫女はいくつもの札を取り出し、私に向かって投げつけた。

 

 そして……そのカードの名を告げた。

 

 「氷狐と一緒に作ったカード……受けなさい」

 

 

 

 狐霊符「夢想封印・絶」

 

 

 

 私のカードに引けを取らない数のおびただしい弾幕がきれいな円を描く。

 

 その円が二つ、三つと増え、私を囲んでいく。

 

 やがて円は十に達し、もはや逃げることは叶わない。

 

 「……私の……負けね」

 

 その呟きを最後に、私はすべての弾幕を同時にその身に受けた。

 

 

 

 

 

 

 あの妖怪桜が散ったことを確認した私は、氷狐を抱きかかえながら冥界から出ようとしていた。

 

 その途中で、寝ている半分は幽霊とそいつに膝枕をしている魔理沙を見つけた。魔理沙も私を見つけたのか、勢いよく立ちあがって近寄ってくる……後ろで半分は幽霊が頭を抑えて痛がっているけど、いいのかしら?

 

 「やったな霊夢! 春が幻想郷に戻っていくぜ! お、氷狐も見つかったんだな」

 

 嬉しそうな表情を浮かべた魔理沙が氷狐の頭を撫でる。すると、不思議そうに首をかしげた。

 

 「なんだ氷狐、寝てるのか? こんなに体を冷やしてたら風邪引くぜ? あ、妖怪って風邪引くのかな」

 

 「さぁね。少なくとも、氷狐は風邪を引くことはないわ。……起きることも、しゃべることも……ね」

 

 「霊夢……どういう意味だよ」

 

 私は言葉を返さず、冥界に入るときに使った結界を目指す。

 

 長い長い階段を降りるのは面倒だけど……今は、少しでも長く氷狐といたかった。

 

 「霊夢!」

 

 「冷たくて動かない体……これで察しなさいよ」

 

 「わかんないよ! 分かりたくない!」

 

 泣いてるかのような魔理沙の声。

 

 それにわずかな苛立ちを感じながら、私は長い長い階段を降りていった。

 

 どうせ、数日後には異変解決のお祝いとかいって妖怪たちが神社で宴会を開くんだ。

 

 その宴会のために、私はお酒やら何やらを用意しないといけない。

 

 「……わかりたくない……かぁ」

 

 私も……わかりたくなかった。

 

 どうしてこんなにも悲しいのかしらね。

 

 誰に対してもそんなに関心がいかなかったくせに。

 

 大切なのはお賽銭と……口には出さないけど幻想郷くらいだったのに。

 

 いつの間にか心に入ってきて、いつの間にか一緒に過ごすのが当たり前で、いない時は寂しいと感じるようになって。

 

 「……なんでよ」

 

 〝腕の中《ここ》〟にいるのに、〝存在を感じ《ここにはい》〟ない。

 

 こうして抱いていても、感じるのは寂しさばかりで。

 

 「なんで死んじゃったのよ。私と生きるのは嫌だっての?」

 

 視界がぼやけて、足が止まった。

 

 なのに、舞い散る桜の花弁はやけにはっきりと私の眼に映っていて。

 

 「起きないと怒るから。あんたの大好きなお団子も私が食べてやるから」

 

 子供のわがままみたいな言葉を震える声でつぶやく。

 

 だけど……それは、私の心からの願いで。

 

 「だから……おきてよぉ……ひこぉ……」

 

 心の底から……〝生きてほしい〟と想った。

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