【霧雨 魔理沙≪きりさめ まりさ≫】
彼女は〝魔法の森〟と呼ばれる場所に住む、自称〝普通の魔法使い〟である。
〝魔法を使う程度の能力〟を有しており、その能力は名前の通りなので説明は省略させてもらおう。
種族は人間。人間の中では魔法を扱う能力が非常に高いらしい。が、それはあくまでも人間の中での話であり、その魔法の最大威力は物を破壊する程度しかなく、多様な魔法が使えるというわけではない。
蒐集癖と泥棒癖があり、物を捨てられず物を奪っていく悪癖を持つ。その癖のせいか、それとも人間性のせいかは分からないがどこへいっても迷惑がられ、上記の癖もあるので実際に迷惑な行為も多い。
魔法を使えるため、魔法を使う妖怪とは相性が良いらしいがその妖怪にはあまり好かれていないらしい。反面、変な者には好かれる。主にバカな妖精とか。
尚、幻想郷では魔法使いは〝魔法使い〟という種族の妖怪という認識のため、魔理沙が言う〝普通の〟というのは自身が人間であることを指していると思われる。
語尾に「~だぜ」「~か?」という男口調が着く特徴的な口調をしており、ウェーブのかかった、金髪のロングヘアーが特徴である。
服装は黒いドレスのような服に白いエプロンを着けただけであり、黒色の先がとがった帽子(魔法使いの帽子)をかぶっている。まさに魔法使い。
魔法使いらしく箒にまたがって空を飛ぶ。
主に魔法実験をしたりいろんなところに行ったりして日々を過ごしており、異変の際には霊夢よりも早く首を突っ込んでいる。が、今のところ霊夢よりも早く解決できた試しはない。
今回のお話は、この普通の魔法使いが子狐の妖怪、氷狐と面白おかしく日々を過ごしていく……ただそれだけのお話。
春雪異変から数日が経ち、幻想郷には遅い春が訪れていた。
私は薄暗い自宅の中で目を覚まし、ご飯を食べて着替える。ちなみに私は和食派だ。パンは今までに13枚しか食べたことがない。
着替えたら自宅を出て箒にまたがり、人里を目指して飛ぶ。
「うーん、今日も暖かくていい天気だぜ!」
ぽかぽかとした春の暖かさをその身に浴びて上機嫌になった私はスピードを上げる。
向かうは人里、目標は……もう来ているであろう子狐の妖怪。
「今日もいるといいな」
私は向かう……甘味処を目指して。
……あ、財布忘れた。
「はぐはぐ♪」
私が甘味処に着いたとき、妖怪は既にそこにいた。
美味しそうに団子を頬張って頬を膨らませている姿は、見る者を癒すに違いない。
まぁ、私の目的は……。
「もーらい」
「う? あーうー!!」
この妖怪……氷狐が買った団子だ。
私はよく氷狐から団子を貰(盗)っている。食べてる氷狐があまりにも美味しそうに食べてるからついつい貰ってしまうのだ。
「いいじゃんひとつくらい」
「や! うー!」
「ちゃんと今度返すって」
「食べた物をどうやって返すつもりかしら?」
口へと団子を運ぼうとした右手が止まる。
私が恐る恐る後ろを見てみると、そこにいたのは……腕を組んでいかにも怒ってますという態度をしている赤い悪魔の姿。
「ほ……宝石ならないぜ!?」
「だれがうっかり魔術師か。その手のお団子を早く氷狐に返しなさい。ていうか氷狐の取るなって何回言えば分かるのかしら?」
今の赤い悪魔……じゃなくて霊夢はめちゃくちゃおっかないので素直に団子を返す。うぅ……財布さえ忘れなければなぁ。
返した団子を美味しそうに頬張る氷狐……無性に団子が食べたくなる。
しばらくして団子を食べ終えた氷狐は私と霊夢の顔を見た後……。
「うー」
「はいはい、どうしたの子狐ちゃん」
「あーうー、うー」
「はい、巫女様ともう一人分のお団子追加ね。ちょっと待っててね?」
「あー♪」
「「だからなぜ分かる!?」」
店の中から店員が出てきたかと思えば、氷狐の言葉を理解したように……多分実際に理解してるんだろう。注文を聞いて店の中に入っていった。
霊夢ですら何が言いたいのかを勘でわかる程度なのに、なぜ今の店員ははっきりと理解しているのか……謎だ。
それに、氷狐は私と霊夢の分の団子を頼んでくれたらしい。
「……魔理沙」
「なんだ?」
「私、すごく情けない気分なんだけど」
「奇遇だな、私もだぜ。しかも私の場合、罪悪感もプラス」
決して大人とは言えない私たちだけど、やっぱり自分たちよりも年下に見える氷狐に奢ってもらう形になったのはこう……クルものがあるな。
……次は、私が氷狐に奢ってやろう。
「でも霊夢がお金をだしても賽銭を入れてるのは氷狐だから、結局は氷狐の金になるんじゃ……」
「失礼な、ちゃんと妖怪退治とかで稼いだお金を使うわよ」
「じゃあ氷狐の入れた賽銭は何に使ってるんだ?」
「……生活費」
「お前、氷狐に足を向けて眠れないな」
「向けないわ!! むしろ抱きしめて寝る」
駄目だコイツ早くなんとかしないと。
そんな会話をしていると団子が運ばれてきたので3人……2人と1匹? で長椅子に座って団子を食べる。
私と霊夢は氷狐を挟むようにして座り、氷狐はにこにこしながらまた団子を頬張っていた。
人間と妖怪が人里でこうして仲良く、笑いあって甘味を食べるなんてなかなかない。
だけど氷狐と霊夢を見ていると、それが自然なことのように思えるんだよなぁ。
そんなことを考えながら、私は氷狐の頭を撫でていた。
「う!? う……う……!?」
「ちょ……氷狐!? 大丈夫か!?」
「店員さん! お茶!! お茶持ってきてー!!」
「はい!」
甘味処でちょっとした出来事が起きたが、まぁそれはさておいて。
私たちはいつも通り、博麗神社の縁側で寝ころんでいた。
隣を見てみれば、同じように寝ころんでいる霊夢と霊夢に腕枕されて私の帽子を抱きしめて寝ている氷狐の姿がある。
「……なぁ霊夢」
「なによ」
「なんで氷狐は飛ばないんだ?」
ずっと気になっていたことだ。この神社に来るとき、氷狐は空を飛ばずに地上から来る。
この神社に飛ばずに来るには、見通しが悪く、妖怪が襲ってくる獣道を通る必要がある。
氷狐も妖怪だけど、知能が低い妖怪は人間も妖怪も問わずに襲うやつもいるから氷狐も決して安全なわけじゃない。
「ああ……氷狐って飛べないみたいなのよ」
「へぇ、飛べないのか……ん? じゃあどうやって冥界に行ったんだ?」
飛ばない奴が冥界にいたのはおかしい。なぜ飛べない氷狐が冥界で……んん、冥界にいたのか。
もしかして、氷狐には何か能力があるのか?
「……さぁね」
「なぁ、ひょっとして氷狐って能力持ちなのか?」
「……さぁね」
この反応は間違いない。氷狐は能力持ちで、霊夢はその能力がなんなのか知ってる。
なんで私には教えてくれないのかな。
「なぁ、氷狐の能力って」
「知らないわ」
「……いいじゃん教えてくれても」
「じゃあ氷狐に聞きなさいよ」
「無茶言うなって」
私は霊夢みたいに勘が鋭いわけでもないし、店員さんみたいに氷狐の言ってることを理解できるわけじゃない。
うーはうーとしか聞こえないし、あーはあーとしか聞こえない。表情と行動で喜怒哀楽が分かる程度だ。
そんな私が氷狐に聞いたところで、氷狐の言ったことを1割も理解できるはずがない。
「なんで教えてくれないんだ?」
「……それだけの能力ってことよ」
余計に分からない。
危険なのか、強力なのか、弱小なのか、気にするほどでもないのか。
でも霊夢が言った限り、強力か危険な可能性が高い。……余計に知りたくなった。
「どうしても教えてくれないんだな?」
「……」
「分かった。なら、私は自分で解き明かすぜ!」
私は起き上がり、箒にまたがって空を飛ぶ。
霊夢は変わらず寝ころんでいるみたいだけど、今は放っておく。
「氷狐の能力……絶対知ってやるからな!」
そう意気込んで、私は特に当てもなく空を進んでいくのだった。
「なんで戻ってきたのよ」
「いや、帽子忘れてて」
「すー……くー……」