氷狐の能力を解き明かすと意気込んだ私は、早速つまづいていた。
どうすれば氷狐の能力を調べられるのか……それを考えていなかった。
本人に聞いてみる……私が氷狐の言葉を理解できないから無駄に終わるな。霊夢に聞いても教えてくれなかったし。
他に氷狐の能力を知っていそうな奴と言えば……スキマ妖怪の八雲 紫かこないだの亡霊くらいか。
「まずは……冥界だな」
「というわけで氷狐の能力を知っていたら教えてくれ」
「いきなり来て要件はそれだけ?」
「おう」
冥界に飛んできた私は、亡霊に早速聞いてみた。妖夢? なんか普通に通してくれた。
その時の妖夢の私を見る目がなんかおかしかったけど、気のせいだと思うことにした。
「ハァ……確かに、私はあの子の能力を知っているわ」
「教えてくれ」
なんでこいつは知っているのに私は知らないんだろう……もしかして、霊夢が教えたのか? 私には教えなかったのに。
「……残念だけど、教えられないわね。あの子の能力は、人に知られてはいけないから」
「じゃあなんでお前は知ってるんだ?」
「そこにいたから、としか言えないわね。私以外に知っているのは……紫と巫女くらいね」
やっぱりスキマ妖怪も知っていたらしい。というか、多分スキマ妖怪が教えたんだろうな。
亡霊の言葉通りなら、スキマ妖怪も教えてはくれないだろうし……やっぱり、自力で解明するしかないらしい。
「邪魔したな」
「あら、もう帰るの?」
「ああ。私は氷狐の能力を解明するのに忙しくなる予定だからな」
「つまり今は暇なのね。ごはんでも食べていけば? 妖夢も喜ぶし」
「んじゃ、遠慮なくいただいていくぜ」
この後食べたごはんは美味かった。聞けば、妖夢の奴が作ったらしい。
美味しいと私が言うたびに妖夢の顔が赤くなっていったけど……うん、気のせいだと思うことにしよう。
翌日の朝、私はどうすれば能力を解明できるか考えていた。
そして思いついたんだ。どうせわからないんだから片っ端から試していこうと。ついでに氷狐の
ことをもっとよく知ろうと。
というわけで。
「氷狐。私と競争しようぜ!」
「う? うー♪」
私が考えたのは競争。飛べない氷狐が地上から冥界に移動していたことを考えると、移動系の能力の可能性が高い。
競争のルールは里の入り口から博麗神社まで。能力の使用は当然あり。
飛べる私と飛べない氷狐じゃ、能力を使わない限り氷狐が勝つことは不可能だ。
「それじゃ、よーい……どん!」
「うー!」
そして、戦いの火ぶたは切って落とされた。
「ぜー……ぜー……」
「あー……お疲れ様氷狐」
結果は私の圧勝だった。
能力を使わなかったのか、それとも私の予想が違ったのか……少なくとも、氷狐の能力は移動系の能力じゃないらしい。
獣道を全速力で走ったのだろう、氷狐は息は絶え絶え、服はドロドロ、負けたことが悔しいのか涙目……なんだろう、ものすごい罪悪感が……。
「ちょっと、なんで氷狐がこんなに泥だらけなのよ」
しかも霊夢に見つかってしまった。
その後、競争のこととした理由を話した私は霊夢からありがたーい弾幕を受けた。
「あんたもドロドロになっちゃったし、氷狐とお風呂に入っちゃいなさい」
そう言われた私は今、お風呂に入っていた。
私をドロドロにしたのは霊夢だろうに……そう思っても口に出さなかった私はマジで偉いと思う。
『やー!』
『やーじゃないの。こんなに汚れてるんだからお風呂に入りなさい』
『や!』
『どれだけお風呂嫌いなのよ。いいから入れ!』
脱衣場からはどたどたと慌ただしい音と声が聞こえてくる。なるほど、氷狐はお風呂が嫌いなのか……新しい発見だ。
やがて外は静かになり……ガラッと引き戸が開いたかと思えば、霊夢が氷狐を振りかぶっていた……なんてことはなくて、裸の氷狐がムスッとしながら入ってきた。湯気で全身が見えないけれど、女同士とはいえ手ぬぐいで前くらい隠せばいいのに。
「そんなに嫌かお風呂」
「や」
初めて会話が成立した気がした。
私は湯船から出て風呂桶に湯を汲み、氷狐に頭からかけた。
氷狐は耳にお湯が入らないようにちゃんと耳をたたんでいた。ちなみに氷狐の耳は頭の狐耳だけで顔の横に人間の耳はない。
私は椅子に座る氷狐の体をを手拭いで洗ってたんだけど……。
「ひゃう!?」
「え?」
下半身を洗ったあたりで氷狐が甲高い声を上げ、手になにやらくにゅっとした感触がした。
私はいったい何を触ったんだろうか……と恐る恐る感触がしたところを覗き込んでみると……。
小さなキノコ……いや、タケノコ? がありました。
「ーーむ!れーいむー!!」
「なにようるさいわね……って魔理沙!? なんで裸なのよ!?」
「氷狐にキノコっていうかタケノコみたいなのが生えてた!!」
「は?」
衝撃の事実を知ってしまった。
氷狐は実は……。
「氷狐はオスだったんだ!!」
「いや、最初から知ってたけど」
「なん……だと……?」
私にとって衝撃の事実を知った日の翌日、私はリンゴと油揚げを持って人里に来ていた。
目的はもちろん氷狐。もうこの際能力とかじゃなくて氷狐がどんな奴かを調べることにしたのだ。
歩くこと数分、山菜やら何やらを売っている氷狐を見つけたので早速近づいて声をかけてみる。
「ひーこ」
「う? まーさ!」
誰が桃太郎侍の娘か、ってこれは前にやったな。
氷狐はどうも人の名前を呼ぶ時は真ん中を伸ばすクセがあるらしい。
こないだ慧音と会話しているのを見たが、こんな感じだった。
『おはよう氷狐』
『う? けーね!』
『ああ、慧音だ。今日も売りに来たのか? いつも偉いな』
『うー♪』
という感じだった。霊夢とか慧音とかは伸ばして呼ばれてもあんまり違和感がないからなぁ……そう考えると、妖夢もか。名前が二文字の奴はどうなるんだ? そのまま呼ぶのか? それとも伸ばすのか? って今はそんなことはどうでもいい。
「氷狐、ここにリンゴと油揚げがある」
「う?」
右手にリンゴ、左手に油揚げが入った袋を持って氷狐の目の前に持っていく。
「どっちか一つだけお前にあげるけど、どっちかはダメだ。どっちが欲しい?」
これは単純に氷狐の好みが知りたかっただけ。
氷狐はよくリンゴを食べているけど、子狐の妖怪なんだからきっと油揚げも好きなはず。
かくして氷狐が取ったのは……リンゴだった。
「リンゴが! そんなに好きかぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「あー♪」
コクリとはっきり頷く氷狐。しかも氷狐は取ったリンゴを真っ二つにして半分を私に差し出した。
この子いい子だ……私は受け取ったリンゴと氷狐を交互に見ながら改めてそう思った。
……それにしても。
「どうやってこんなにきれいに真っ二つにしたんだ?」
「うー」
「なるほど、わからん」
また氷狐の能力の謎が増えてしまった。
「ああ、氷狐は油揚げが嫌いみたいよ? 味噌汁の油揚げいつも残すし」
「本当に狐か?」
「うーあー」
その後寄った神社で霊夢にそう教えられた。本当に私は氷狐のことを何も知らないようだ。
私たちは今、いつものように縁側で氷狐が持ったきた団子を食べながら霊夢の入れたお茶を飲んでのんびりとしている。
「で、氷狐の能力はわかったかしら?」
「全っ然。冥界にいたから移動系かとおもったけど違うみたいだし、リンゴは真っ二つにするしでもうわけがわかんないぜ」
風を操る能力なら空も飛べそうだしリンゴも切れそうだけど、だったら風が起きなきゃおかしいし音もするはずだからこれは違う。そもそも氷狐は飛べない。
霊夢と同じ空を飛ぶ能力? だったらリンゴのことが説明できない。
もしかして複数の能力をもってるのか?
「ま、そう簡単にはわからないわよね。氷狐の能力は、ある意味誰もが思いついて、誰も思いつかないから」
「うー?」
氷狐の頭をなでながら、霊夢はそうつぶやいた。
誰もが思いついて誰も思いつかない……? どういう意味だ?
「優しいじゃないか、ヒントをくれるなんて」
「当てられるものなら当ててみなさい。だけど、これだけは言っておくわ」
魔理沙が氷狐の能力を知った時、氷狐への接し方を変えるようなら……私はあんたを全力で氷狐から引き離す。
霊夢にそう宣言された日からしばらく経った。
あれからずっと能力を考えていたけど、まったくわからない状況が続いている。それに、最近は考える暇もなくなってきた。
なぜなら私は今。
「ほら、飲めよ霊夢」
「言われなくとも飲むわよ」
神社で開かれている宴会の幹事をしているからだ。
しかも、なぜか三日に一度というペースで。
桜の花は散って既に葉桜になっているのに、私を含めたみんなは花見だと言って宴会を楽しんでいた。
里の人やレミリア達、アリスに妖夢達も参加している宴会は始まったばかり。
だけど、私はあることに気づいていた。
宴会を行うたびに、幻想郷に得体の知れない不穏な妖気が高まっていることに。
これは間違いなく異変。だけど、まだなにも起きていない。
犯人も目的も一切わからない……わかっているのは、なぜか三日に一度宴会が起きるということだけ。
「あーうー……」
「あれ? 氷狐ってお酒飲めたのか?」
いつのまにか、私の隣には氷狐がいた。
手にはお酒の入った器があり、くぴくぴと可愛らしく喉を鳴らして飲んでいる。
その顔は赤い……間違いなく酔っている。
「くー……すぴー……」
しかも寝てしまった……私の膝を枕にして。
「……まぁいいか」
たまには、こんな風にのんびりするのも。
私はそう考えながら氷狐の頭を撫で、こちらに向かってくるアリスと妖夢を見ながらお酒を口にした。
その時の私は、氷狐の右手が何かを握っていることに気づかなかった。
私は、こいつのことをよく知っていた。魔理沙は宴会でもそうでなくとも賑やかだが、一人のときは静かであり、宴会の幹事に適役だ、と。
なのに、こいつは今日はこんなにも静かに飲んでいる。膝に妖怪、右隣に金髪の魔法使い、左隣に半人半霊がいるにもかかわらず。……いや、たまにはこういうこともあるだろう。
だが、私はこいつをよく知らなかった。魔理沙の膝を枕にして眠る、この妖怪のことは。
知っているのは、名前は氷狐、性別はオス、リンゴが好きで油揚げは嫌い、風呂も嫌い、酒に弱い。
そして、能力は〝思考≪オモイ≫を現実≪カタチ≫にする程度の能力〟。
更には霧状になっている私の手を握っているということ。霧状のはずなのに、なぜこうもがっしりと私の手を握れるのか……恐らくは、能力。
……そうだ、こいつの能力≪チカラ≫を借りれば……きっと、仲間たちが戻ってくる。
人間に失望し、絶望し、見限った私の仲間たちが。
「氷狐……あんたのチカラ……貸してくれ」
-私の願い≪オモイ≫を……叶え≪カタチにし≫てくれ……ー
「……んあ……?」
いつの間にか眠ってたみたいだ。隣にいるアリスと妖夢も、なぜか私の肩にもたれかかりながら眠っている……私たちにかかっている毛布は、多分レミリアのところのメイド長がかけてくれたんだろう。
空はオレンジ色に染まり、夕暮れ時だと教えてくれている。
不意に、氷狐がいないことに気づいた。
「……霊夢のところかな?」
と考えた時、私の目にこちらに向かって歩いてくる霊夢の姿が見えた。
「魔理沙。氷狐知らない? あんたと一緒に寝てたんだと思ったんだけど」
「いや、私が起きた時にはいなかったぜ?」
「そう……なんか嫌な予感がするわね」
「やめろよ、霊夢が言うとシャレにならないぜ? きっと帰ったんだよ」
「そうよね……」
私たちが氷狐が再びいなくなったことに気づき、探すために動き始めるのは……翌日の昼のことだった。
「ン……魔理沙ぁ……」
「魔理沙……さん……すー……」
「……どうやって帰ろうかな……」
「……」
「パ……パチェ? 顔が怖いわよ?」
「レミィは黙ってて」
「はい!」