子狐幻想記   作:d.c.2隊長

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霧雨 魔理沙 結

 伊吹 萃香とかいう鬼を倒した日から二日が経った。

 

 今日は丁度三日置きの宴会の日だったんだけど、異変は解決したから宴会はしないと思っていたら……。

 

 「そうだよなぁ、異変を解決したら宴会するよなぁ」

 

 「まさか続いてるんじゃないでしょうね……」

 

 異変解決のお祝いということで、宴会が行われていた。

 

 もっとも、鬼の妖力は感じないから普通の宴会なんだろうけど。

 

 「ごくごく……ぷはっ」

 

 「お、いい飲みっぷりじゃないか」

 

 「うー♪」

 

 「「ち ょ っ と ま て !」」

 

 なんとなく辺りを見回してみたら、あまりに馴染み過ぎて今まで気づかなかったがあの鬼がいた。

 

 しかも氷狐に酒を飲ましていた。

 

 「なんであんたがここにいるのよ!? 氷狐、こっちにいらっしゃい!」

 

 「うー?」

 

 「冷たいこと言うなよ。今日は宴会だよ? 浮かない顔の君もいつも陽気なあの人も! ひとたびここに来れば誰もが騒ぎ出す! そういう場だよ?」

 

 「まぁそうだよな」

 

 思わずなんでここにいるのか聞いちゃったけど、別に死んだわけじゃないんだからそりゃ来るよな。

 

 霊夢は納得していないのか、氷狐を抱きしめながら鬼をジト目で見てるけど。

 

 ま、誘拐犯が目の前にいたら敵意も持つか。

 

 「そんなに邪険にするなよお母さん」

 

 「そうだぜお母さん。過ぎたことは水に流せよ」

 

 「誰が誰のお母さんか!?」

 

 「「霊夢が氷狐の」」

 

 「うー? あー♪」

 

 ちがーう! と氷狐を優しく地面に置いてから両手を振り上げて鬼を追いかける霊夢と楽しそうな顔で逃げる鬼……いや、萃香。

 

 氷狐はよく分かっていないのか首を傾げ、何を思ったのか霊夢の後を追い始めた。

 

 「あらあら、萃香とすっかり仲良くなったみたいね」

 

 「うおあ!?」

 

 いつの間にか、八雲 紫が私の隣に立っていた。気配も何もなかったから全く気付かなかったぞ。

 

 八雲 紫の顔を見てみれば、私の顔を見ながらイタズラが成功した時の子供のような顔をしていた……胡散臭くない八雲 紫を初めて見た気がする。

 

 「心臓に悪いぜ八雲 紫」

 

 「紫でいいわよ魔理沙。タクシーの料金をチャラにしてあげるから許してくれない?」

 

 「それで手を打つぜ。ついでにその手に持った大吟醸もくれ」

 

 「ダーメ。これは萃香と飲むためのものだから」

 

 「ちぇっ」

 

 いかにも不満ですという顔をしてみるけど、さほど残念とは思っていない。それは笑っている紫も分かっているんだろう。

 

 紫と話したことは少ないけど、こうして話してみればなかなか楽しい。

 

 「ところで魔理沙……氷狐の能力はわかったかしら?」

 

 「多分な。答え合わせをしてくれるか?」

 

 「いいわよ。言ってごらんなさい」

 

 紫の了承も得たので一昨日考えた思考をもう一度整理する。

 

 そして、私が出した答えは……。

 

 

 

 「氷狐の能力は…願いを叶える程度の能力だ」

 

 

 

 「……概ね正解ね。正確には、〝思考≪オモイ≫を現実≪カタチ≫にする程度の能力〟。事実上、氷狐は純粋な願い、思考、想い、そういったものがあれば何でも現実にすることができるわ」

 

 生物は別みたいだけど……と紫は言ったけど、氷狐の能力は生物にも作用する。

 

 そうでなければ、私の〝鬼の能力を一時的に使えなくする〟という願い≪オモイ≫は現実≪カタチ≫にはならなかっただろう。

 

 それともう一つ……氷狐の能力は、恐らく無から有を生み出せない。

 

 もしも無から有を生み出せるなら林檎を真っ二つにする必要はないし、わざわざ山から山菜を採ってきて売ったりしないだろう。

 

 「あら、紫いたの」

 

 「いった~……あ、紫」

 

 「はぐはぐ♪ う? あーうー♪」

 

 「こんにちわ霊夢、萃香、氷狐」

 

 そんなことを考えていると、走っていた霊夢たちが戻ってきた。

 

 萃香の頭にはたんこぶができており、氷狐は林檎を食べている…かと思いきや、氷狐は紫を見るなりいきなり抱きついた。

 

 「ちょっと氷狐!? そいつから離れなさい! 性格が胡散臭くなるわよ!」

 

 「そうだよ氷狐。そいつは氷狐が近付いちゃいけない奴なんだ」

 

 「紫……氷狐に何を吹き込んだんだ?」

 

 「あなたたちは私をなんだと思っているのよ……」

 

 「「「幻想郷で最も胡散臭い妖怪」」」

 

 「さすがに酷くないかしら!?」

 

 よよよ……と泣き崩れる紫……普段から胡散臭そうな笑みを浮かべているからそういう目で見られても仕方ないと思うんだけど。

 

 そんな紫を心配してか、氷狐が紫の頭をなで始めた……あ、霊夢が羨ましそうに睨んでる。

 

 「くすん……私に優しくしてくれるのは氷狐だけよ……藍は橙の相手ばっかりしてかまってくれないし」

 

 「ゆーり。いいこいいこ♪」

 

 「うわああああん!」

 

 あ、感極まって紫が泣き出した。ていうか氷狐が単語を発した……だと?

 

 にしてもこれは……小さな子がいいこいいこと言って頭を撫でるというのは……。

 

 「なんか危険な香りがするね」

 

 「激しく同意だぜ」

 

 「……いいな……私も氷狐にしてみようかしら……むしろされてもいいかも。ていうかされたい」

 

 「「ちょっと自重しようかお母さん」」

 

 

 

 

 

 

 「ねぇ魔理沙」

 

 「んー?」

 

 あれからしばらくして日も暮れ始めた頃、眠ってしまった氷狐に膝枕をしながら霊夢が声をかけてきた。

 

 紫と萃香は、今頃違う場所で飲んでいるころかな。

 

 「氷狐の能力……分かったんでしょ?」

 

 「ああ」

 

 「そう……それで、魔理沙は氷狐をどうしたいの?」

 

 氷狐の能力を知った今なら、霊夢の言葉の意味が分かる。

 

 氷狐はほとんどの願いを叶えることができる……それを知って、私利私欲に利用しようと考える奴も出るだろう。

 

 しかも必要なのは氷狐の意志ではなく体。後は自分の純粋なオモイさえあればいいのだから。

 

 霊夢は、私がそういう存在になるかも知れないと危惧しているんだろうな。

 

 だけど、私は……。

 

 「当然、どうもしないさ。簡単に願いが叶ったらつまらないじゃないか」

 

 願いは、簡単に叶わないから願いなんだ。

 

 自分で長い時間をかけてでも叶えるからこそ、それは自分のものになるんだ。

 

 私は普通の魔法使い……だからこそ人一倍努力をして、強くなって、知らないことを知るのが楽しいのさ。

 

 「氷狐とも霊夢とも、私はずっと親友だと思ってるぜ? 利用することなんか思いつかないくらいには」

 

 「……そう」

 

 霊夢から帰ってきた言葉はたったの一言。それでも、私は霊夢が私を信用してくれたのだと思うと嬉しかった。

 

 何よりも……霊夢は私たちが〝親友〟だということを否定しなかった。それが、本当に嬉しかったんだ。

 

 「……へへっ」

 

 「っと……どうしたのよ、急に抱きついてきて」

 

 「いいじゃんいいじゃん♪」

 

 今はただ……赤いであろう顔を霊夢に見られたくなかったから。

 

 

 

 

 

 

 「ちょっと紫、どこに行くんだよ。どんどん宴会場から離れていってるぞ?」

 

 「いいからいいから♪」

 

 「語尾におんぷなんてつけるなって。歳を考え」

 

 「今なんて言おうとしたのかしら? 返答次第では……シバくわよ」

 

 「なんでもないです!!」

 

 紫に手を引かれながら歩いてしばらくが経った。

 

 私たちは宴会場からどんどん離れていき、人気がない森の中を進んでいる。……紫がスキマを使わないなんて珍しいこともあるもんだ。

 

 更に歩くこと半時(約三十分)、私たちは開けた場所にいた。

 

 そしてその場所には、多くの影もあった。

 

 「……え?」

 

 その影の正体を見たとき、私は信じられない気持になった。

 

 だって目の前の奴らは……地上にはいるはずがない奴らだったから。

 

 「お? 萃香じゃないか」

 

 影の内の一人に名を呼ばれ、肩がびくりと跳ねた。

 

 聞き覚えのある、それでもしばらく聞いてなかった声。

 

 「どうしたんだい?そんなところに突っ立ってないで、早くこっちに来なよ」

 

 「あ、ああ……」

 

 一歩、また一歩と近付くたびに心臓が鼓動を早める。

 

 そうして影の姿をはっきりと認識した時……私は、そいつの名前を口にしていた。

 

 「……勇儀?」

 

 「おう。どうした? そんなアホみたいな面して」

 

 「アホ言うな。なんで地上≪ここ≫に?」

 

 「あん? 今日は宴会らしいじゃないか。妖怪の賢者の奴が、今日だけは地上で飲んで行けばいいって酒と料理と場所をくれたんだよ。正直胡散臭いが、こうまでしてくれちゃあ邪険にも扱えないしな」

 

 紫が? 地底と地上の接触を好まないあいつが? そういえば、いつの間にか紫の奴がいないことに気づいた。あいつは、どうして急にこいつらを地上に招待したんだろうか。

 

 それに、勇儀やこの場にいる他の鬼たちも地上に来るのは嫌がってたのに……。

 

 そこまで考えて、私は一つの可能性に気がついた。

 

 氷狐だ。でも、私は能力を発動させることはできなかったハズ……。

 

 「なにぼーっとしてんだい! ほらほら飲めや歌え!」

 

 「わわっ!?」

 

 考えてる途中に勇儀に首に腕を回され、無理やり隣に座らされる。

 

 周りの鬼はみんな楽しそうに飲んで、歌って、踊って……まるで……。

 

 

 

 昔に戻ったみたいで。

 

 

 

 「……ははっ」

 

 「ん? どうしたよ急に泣きながら笑いだして」

 

 「うるさいよ馬鹿勇儀。私は泣いてない」

 

 「誰が馬鹿だってぇ? 久々にやるか!?」

 

 「やらいでか!!」

 

 すっごく楽しいんだ。それこそ涙が出るくらいに。

 

 すっごく嬉しいんだ。それこそ笑みがこぼれるくらいに。

 

 きっと今日という日が終われば、こいつらはもう地上にはいないだろう。

 

 だから私は、今のこの時間を噛み締める。殴って、殴られて。そのあとは酒を飲んで、笑いあって。

 

 私が戦った人間の話をしたら、こいつらはどんな顔をするだろうか?そんなことを考えるだけで、時間は過ぎていく。

 

 嗚呼、私は今、すっごく幸せだ。だって、願いが叶ったんだから。

 

 花見ができないのは残念だけど、一番叶えたいことを叶えてくれた。

 

 ありがとう……小さな小さな子狐の妖怪。

 

 ありがとう……氷狐。

 

 

 

 

 

 

 「すー……くー」

 

 「いつになったら離れるのかしら?」

 

 「まだいいだろ? 親友」

 

 「いいけどね(ちょっと殺気を感じるけど)」

 

 「「「……」」」

 

 「咲夜ー! パチェが……パチェがー!」

 

 (嗚呼……うろたえるお嬢様も……イイ)

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