とある未来の空想余話   作:茶話

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だらだら書いてたら、いつの間にか年超してました。

2013/02/09に一部改稿しました。すみません。


Malleus Maleficarum (マレウス・マレフィカルム)

{とある未来の空想余話}

 

Episode,2 [Malleus Maleficarum (マレウス・マレフィカルム)]

 

 

2014年3月19日

 

 「ナズナ先輩〜助けて〜……。」

 

 

 今日は3月下旬、桜の花は未だ蕾のままだが、早くもウグイスの声が学園都市でも聞こえるようになった。

 

 ユキトがナズナの家に住み始めてから、今日で5日目。始めは何となくよそよそしい感じもしていた2人だったが、家事の分担(驚くことにユキトは洗濯の仕方はおろか、掃除のやり方さえ知らなかった)も決め、2人暮らしは順調にスタートしていた。

 

 この5日間、ユキトは住基登録がまだ完了していないために徒歩以外の外出はできず、ナズナもまた明日に迫った学年末試験の勉強を始めたので、ほとんど学校と家の往復である。詰まるところ、まだユキトは学園都市がどの程度変わったか、等ということは判らず、試験が終わったらナズナに案内して貰うことになっている。

 

 

 ユキトの一件の一応の顛末を、ナズナがトモミに伝えたのは3月15日の夜中だった。

 時間が時間だったので電話は諦めメールで伝えたのだが、如何せんナズナが眠くて文面を端折った所為もあり、トモミは「ナズナがほぼ初対面の男と同棲している」と誤解し(半分事実だが)次の土曜日の朝からナズナの家に押しかけてきたのだが、そこで一悶着あり、トモミは半ばユキトへの当てつけのようにこの5日間、毎日ナズナの家に来ていた。

 

 そんな理由もあり、トモミは勉強に余り手が付けられず最後の最後でナズナに泣きついたのだった。

 

 「なによトモミ。こんな時だけ後輩チャンしちゃって。勉強ならユキから聞けば良いのよ。」

 「うぅ。ナンデそんなこと言うんですかぁ〜。」と若干涙目なトモミ。

 「だいたい、あんたとユキのせいでここ数日五月蝿くて勉強できなかったのはこっちなんだから。」

 「ナズナは良いじゃない。どうせやったってやんなくたって学年一位なんでしょ。……それに比べ私なんて、どうしよう……Aから落ちたら……もうナズナとも会えなくなるぅ〜。」

 

 もう愚痴に歯止めがきかなくなっているトモミ。勝手にマイナス思考で落ち込むのは良いが、こちらを巻き込まないでほしい、とナズナは思った。だいたい、Aクラスから落ちたとしてもナズナとトモミが会えなくなるようなことは無いのだ。

 

 「あァ、もォ五月蝿ェなァ。……ガキみたいに喚きやがって。カルシウム足りてますかァ?」

 「貴方は黙っててください。だいたい、30年前の学園都市1位だかなんだか知らないけど、その頃と今では高校の勉強は格段に難しくなってるんです。今の貴方だって、初見では無理です!!」

 

 そう言うとトモミは、はぁ、と大きなため息をついて机に向かった。ナズナはトモミの愚痴の途中からはもう参考書に目が移っている。聞き手がユキトしか居なければ、愚痴を言ってもストレスにしかならない。

 

 2人がそうして勉強モードに入ると、側で見ているユキトにはやることが無くなる。手持無沙汰なので、興味本位でナズナが読んで無い参考書をパラパラと開いてみる。

 確かに30年前よりは難しくなっている気がするが、大学の一般教養レベルどころか一部はドクターレベルの知識を持っているユキトにとっては、どのみち簡単なものだった。強いて言えば、今まで自分で体系化してきた雑多な計算式や公式が、分かり易くより体系化されて載っていたりするだけだ。

 

 参考書を見るのも飽きて、ナズナが取りかかっている問題をユキトは覗く。

 この5日間でユキトはナズナについて、先ず家事に関しては逆らわない方が良い事と、能力や演算能力に関しては自分に比肩するものを持っている事を感じた。そんなナズナが解く問題の方が参考書の例題よりも有意義そうではある。

 

 (……『ラムダ計算における脳内演算とプログラミング』ねェ。こンな事を高校でやるンなら、行ってもいいンだがな。)

 

 

 常盤台高等学校の学年末試験は筆記試験2日、実技試験1日の計3日間で行われる。筆記試験の対象科目は12科目あり、1日6科目、各科目一時間のテストが行われる。対して実技試験は、実技といってもAIM拡散力場を測定する機材の中に入るだけなので、むしろ体力や精神力と言った面に関してはよっぽど筆記試験の方がハードなのだ。

 

 常盤台に限らず、学舎の園にある御三家は全て実技重視の傾向にある。それは能力という個人差が極めて激しいものを扱う上で仕方ないことだ。

 よって、本来トモミのような能力の希特性、レベルがあれは筆記の結果が芳しくなかろうがほとんどAクラスから落とされることはないし、能力妨害という扱いづらい能力を扱えるのだからバカであるはずもない。

 客観的に見れば、トモミの不安はただの取り越し苦労としか思えなかった。

 

 だからトモミの泣き言にも、ナズナは一言「頑張れ。」としか言わなかった。

 

 

 

§ § § § § § § § § § § § §

 

 

 

2014年3月21日

 

 ようやく筆記試験が終わった日のホームルームでは、伊吹教諭から明日行われるシステムスキャンについての説明が為されている。

 

 「みなさん、明日は実技試験です。内容はもう分かっていると思いますが、体調を万全にするためにも今日は早く寝てくださいね。あと注意事項ですが、遅刻、病欠等の事情は最大限鑑みますが、各個人が常盤台のAクラスの自覚の下に行動するように。…………では、解散。」

 

 そう言うと途端にクラス全体がざわつき始めるが、その前に伊吹教諭はナズナを名指しで呼んだ。

 

 「ナズナさん、ちょっと良いかしら。」

 「何ですか?マヤ先生。……手伝いとかなら嫌ですよ。流石にシステムスキャン前日に書庫整理なんてやりたくありません。」

 「……違います。そりゃあナズナさんに手伝って貰ったらはかどる仕事も多いですけど。」そこで一回伊吹教諭は言葉を切ると、ナズナにA4の用紙を渡した。

 

 「ナズナさんには明日のシステムスキャンを、筑波で別に受けて貰うことになりました。」

 

 その紙を見ると、確かに明日ナズナも受けるはずだった学年末試験の実技科目が筑波研究学園都市内にある超高度システムスキャンセンターでの精密測定に変更になったこと、そのために明日常盤台で行われる実技科目は免除になること、検査は明日から2日間の日程で行われるため、明後日ある終業の行事には参加しなくて良いことなどが書かれていた。

 確かにナズナが最後に精密検査を行ったのは常盤台の高校に上がった2年前の事だったのでそこまで不思議ではなかったのだが、ナズナが注目したのは一番下に書かれていた署名だった。

 

 「マヤ先生……なんでこれ、署名欄が『関東学園都市理事会会長 キール・ローレンツ』なんですか?」

 「さ、さぁ。その事については私も教頭先生に聞いたんだけど、教頭先生も分からないらしくて。」

 

 そこでナズナが、いかにも怪しい、というような視線で用紙をにらめると。伊吹教諭はこう付け加えた。

 

 「でも、引率には赤城博士もついて行くみたいだから、そこまで怪しいことは無いと思うわよ。」

 

 そしてイソイソと書類を纏めると、ナズナに「頑張って。」とだけ残し教室を出て行ってしまった。

 

 何となく昨日のトモミに対する自分の態度をトモミは思い出したのだった。

 

 

 

§ § § § § § § § § § § § §

 

 

 

 帰り際にトモミに明日以降家を離れることを伝えたあとナズナは真っ直ぐ帰宅した。突然の2日の外泊が決まり、急ぎ準備しなければならないことがあるためだ。

 

 ナズナが玄関の扉を開け、リビングに入るとユキトがソファーに寝っ転がり本を読んでいた。

 

 「ただいま、ユキ」

 

 「お帰りィ〜、今日は早ェンだな」本を閉じながらソファーに座り直すユキト。

 

 「うん。明日からちょっと忙しくなっちゃって」

 

 「システムスキャンかァ?……昼ぐらいに冥土帰しから電話で明日のシステムスキャンの予定をメールで送るッて言ってたンだけど」

 

 メールとか何処にあるか分からない、と言ってまた寝っ転がるユキト。ナズナはとりあえず着替えのために二階の部屋に上がり、そこでメールもチェックすることにした。

 

 

 

 ベージュのセーターを脱ぎながらナズナは自宅のサーバーにアクセスする。といっても、ナズナの手には携帯端末はない。それどころかナズナはPHSの類を一切持っていないのだ。それは彼女が自力で無線回線を通してデータのやりとりが出来るから。

 その気になれば、ナズナにとって視覚情報を変換し動画データとしてアウトプットする事も朝飯前なのだ。

 

 「なになに……やっぱり、そういうことね。明日のシステムスキャンはユキも筑波で受けるんだ」

 

 目の前に写した仮想ディスプレイの文字を追いながらナズナはソックスを脱ぐ。そしてスキャンの日程の部分を読む。

 

 「全2日の日程で……集合は、へ?

 

 今日の夜、8時!?」

 

 

 

§ § § § § § § § § § § § §

 

 

 夜7時52分

 

 

 二時間程度でなんとか自分とユキトの支度を終え、ナズナが玄関先で待っていると、閑静な住宅街にブォォォンと凄まじい音を轟かせながら一台の黒いSUVが現れた。

 

 常軌を逸するようなスピードを出しながらも、ナズナの家の前に停車する時はショックのないスムーズな停車をした車。その運転手が誰なのかなど、ナズナにすれば火を見るよりも明らかだった。

 

 「ミサトさんたら、また……」

 

 そのナズナのぼやきも、しかし軍用車のような巨大な車 メルセデスベンツG65AMGの前に空しくかき消された。

 

 あんまりな登場にナズナとユキトが呆気にとられていると、車の運転席のドアが開いた。

 

 ガチャ、っと言うよりも、ドゴンと開いたドアから颯爽と飛び降りたのは葛城美里。モデルのようなスタイルを引き立たせるショートスカートと革のジャンパーを纏い、無駄のないきびきびとした動作は彼女の性格を表しているようだ。一見すれば規律正しい軍属の将校だが、実はこれでも彼女はナズナが現在協力している研究所で副室長を勤めている歴とした研究者である。

 

 「こんばんは、ミサト。……良い車ね」とナズナが苦笑する。ミサトは直ぐに、こんばんはと挨拶を返した後、満面の笑みで車を見上げた。

 

 「メルセデスのG65AMG。研究所のVIP用なんだけど今まで所長が貸してくんなかったのよ」とミサト。

 

 「でも今日ナズナを乗せるって言ったら、唯さんが許可してくれたの」

 唯さんとは研究所の副所長だ。ちなみに恐妻家の所長の妻でもある。

 

 ナズナとユキトを置いて車体を眺めだしたミサトから目を外すと、助手席のドアが開いた。しかし搭乗者が中々降りて来ない。

 

 「……ミサト、うっ、ちょっと、手伝いなさい!!」

 

 どうやら車高が高いため上手く降りられないらしい。しょうがないな、とミサトが手伝いやっとの事で出てきたのは、髪をゴールドに染めたミサトと同年代の女性だ。

 

 「リツコさん、大丈夫ですか?」

 

 「ええ。ありがとうナズナ、もう大丈夫。車の中でミサトにミンチにされかけただけよ」

 

 「何よリツコ。わざわざあんたの忘れ物取りに寄り道したから、遅れそうなところを急いだだけでしょ」

 

 ミサトの言葉を聞き流しながらリツコはナズナの隣に居るユキトを見た。先ほどから置いて行かれているユキトはそこで初めてリツコとミサトに視線を合わせた。

 

 

 「こんばんは。人類進化研究所 赤城・葛城共同研究室の赤城律子よ。あなたが例の男の子ね」よろしく、と握手を求めるリツコ。

 

 「どォも」とそれに応じようとするユキトだが、その前にナズナに頭を叩かれる。なんだよ、と言い返そうとユキトが振り返ると、腕を組んだナズナに睨み返された。

 

 「ドォモ、じゃないわよ。挨拶ぐらいしっかりしなさい」

 

 ここ数日でナズナのユキトに対する態度はだいぶ砕けたものになっている。それは家事全般をナズナが仕切っていることが原因だが、自分の家事能力に絶望したユキトに言い返す言葉など無くナズナのペースに飲まれていた。すげなくリツコの方を向いて握手をした後、「……鈴科有希人だ。よろしくゥ」と自己紹介を済ませるのだった。

 

 

 その後ミサトとの挨拶もすまし、荷物を積んでナズナとユキトは車の後部座席に乗り込んだ。無骨な外見からは想像できない高級レザー張りのシートや内装に驚きながらも、車はゆっくり御坂邸を後にした。

 

 

 出発から少し経ち、そろそろ車が学園都市を出ようかという頃、ナズナが運転席のミサトに声を掛けた。

 

 「ところでミサト。マヤ先生からは付き添いはリツコさんだけだって聞いてたけど」

 

 「ん〜、それはね。ちょっち向こうに知り合いが着てるから、顔を出しとこかなって」

 

 ふーん、と聞き流したナズナはそのままソファーの様な座席に深く座る。隣に居るユキトは既に船を漕いでいた。まだ体力的には万全とは言えないのだ。

 

 そんなユキトに備え付けのモーフを掛けたナズナは、どうせならとユキトに寄り添って一緒のモーフにくるまるのだった。

 

 

§ § § § § § § § § § § § §

 

 

 ナズナとユキトが既に熟睡している頃。運転席と助手席の女性二人は缶コーヒーを飲みながら久しぶりに見る学園都市外の風景を眺めていた。

 

 

 「ナズナと彼、ユキト君良い雰囲気じゃない」とリツコ。

 

 「学園都市初、Lev.5.5のカップルね」ミサトは少しつまらなさそうに片手でハンドルを握りコーヒーを飲む。

 

 「あらミサト。まだ彼がLev.5.5ときまった訳では無いけれど?」

 

 「とぼけないで。簡易検査の結果を見ただけでも分かるわ。……それに、30年前のデータが本物なら」

 

 「一方通行(アクセラレーター)ね。興味深い能力だわ」

 

 「今の強度格付け(サードフレーム)では形式美になっているLev.6に一番近い能力者か……無限のエネルギー(スカラー)を創成するナズナに、全てのエネルギー(ベクトル)を操るユキト君ね」ミサトは両手でハンドルを握るとアクセルを少し煽った。

 

 V8エンジンが猛獣のような唸りをあげる。

 

 出来過ぎじゃない、と呟いたミサトの声もまた、エキゾーストノイズにかき消されリツコには届かない。

 

§ § § § § § § § § § § § §

 

 

 四半世紀前の能力開発では技術に対し法整備が著しく遅れていた事もあり、人体実験まがいの危険な能力開発が横行していた。それによって精神障害、発育障害、知能障害等の副作用による合弁症(OACP:OverAbilityComplication)が遅効的に発症し、またそれらの方法によって引き出された能力を多用すると、さらに症状が悪化する等の事例が多くあった。一説によれば“レールガン”御坂美琴は長期にわたりOACPを患い、死因はOACPによる心臓発作だと言われている。

 WAOはこの事態を重く考え危険な薬物の多用や手術、精神操作を国際法によって禁止し、それによって見境のない野放図な能力開発は収束していった。

 

 2014年現在、公式に存在する能力者の数は増加の一途をたどっている。それは能力開発のシステム自体が成熟し、能力開発におけるリスクが大幅に減った事が大きな要因だ。

 

 

 ただし、安定した開発が出来るようになった裏でもやはり問題が起きている。それは能力開発の初頭期と比べ明らかに能力のバリエーション(指向性)が減ってきている事だ。千差万別存在した能力は、大まかに4種のカテゴリに分類出来るくらいに減った。しかも能力の強さにおいても下位の能力者が減ると同時に、Lev.5のような超能力者の発現率も減少してきている。

 

 能力開発の安定と画一化は、同時にその可能性や行く末を或る限界に制約することになったのだ。

 

 その現状を打破しようと、今この時でも世界の様々な研究施設で様々な方面からの研究が行われているが、能力バリエーションの研究で権威があると言われているのが筑波研究都市である。

 

 

 

§ § § § § § § § § § § § §

 

 2014年3月22日 午前7時

 

 「ふぁぁ……」とユキトはナズナによる筑波研究都市の説明を聞きながら欠伸を一つ。

 

 「ちょっと。聞いてンの!?」とナズナがユキトの口調を真似て野次る。

 

 

 現在二人はリツコの運転で筑波研究都市の能力実験施設に向かっている。ミサトは別件で朝食の後直ぐにどこかへ行ってしまった。

 

 「それにしてもよォ、よく考えたらナンデわざわざ学園都市外で能力測定なんてやンなきゃナンねェンだ?」と説明に飽きたユキトが話題を変える。

 

 するとさっきまで聞きもしていないことをペラペラ喋っていたナズナは答えに窮した。ユキトは、ナズナがただその事を知らないだけなのかと思ったが、目を反らし急にしおらしくなったナズナに疑問を感じた。

 

 「えぇ〜っと……」とお茶を濁そうとしているナズナだが、それを差し置いて質問の回答は運転席から聞こえてきた。

 

 「それはこの前のシステムスキャンで、ナズナが学園都市に一台しかない超高価なサミュエル空間受動式能力測定器を壊したからよ」

 

 「ぐっ……」と唸りナズナが頭を抱える。

 

 「サミュエル……なんだそりゃァ」

 

 「サミュエル空間受動式能力測定器、第3世代強度格付け(サードフレーム:3rd Frame) に対応した世界最大級の空間受動式能力測定器よ。能力者によるAIM力場の歪みを測定して、能力の強度を測定するのだけれど、Lev.5以上の能力を細かく測定できる物が一台しかないの」とても高価なの、と更に念を押すことを忘れないリツコ。

 

 「うぅ……」耳を塞いでイヤイヤとでも言うように頭を振るナズナ。

 

 へぇ、と感心するユキト。30年前は能力の強さなど研究者の適当な格付けでしかなかったが、だいぶ進歩したらしい。

 

 「でも、そのサミュエル空間受動式能力測定器はナズナがこの前壊してしまったの」

 

 「あぁ……」と、とうとう脱力してシートに横たわったナズナ。ナズナは測定器を壊した際にリツコやミサトに散々絞られ、所長や副所長にまで小言を言われている。

 その時のトラウマが今も残っているのだ。

 

 リツコはそう言うとまた運転に集中した。

 

 後10分ほどで目的地に着くとのことで、ユキトも黙って窓の外の巨大な施設群を眺めることにする。隣でシートに転がって唸っているナズナの事は、取りあえず無視することに決めたらしい。

 

 

 目的地に到着するまでの10分、車内にはナズナの嘆きの声が木霊していた。

 

 

 

§ § § § § § § § § § § § §

 

 2014年3月22日 午前7時

 

 惣流・明日香・ラングレーは朝のコーヒーを飲みながら、低血圧でボーッとする眠気を散らしていた。筑波研究都市に着いたのが昨日の夜中、ベルリンからのファーストクラスだったため空路の移動にストレスはなかったが、その後の陸路で日本名物の渋滞に巻き込まれた事が疲れの原因だ。

 目の前で同じように眠たげな目を擦っている綾波零も同じだろう。モーニングのクロックムッシュも半分しか減っていない。

 

 旅にトラブルは付きものだが、本来ベルリンから関東学園都市に直行できるところを、わざわざ羽田から遠回りして筑波に寄り道しなければならなくなった。その原因を考えると納得できない物がある。

 

 「測定器の故障って……天下の学園都市がなにやってんのよ」

 

 もう冷めてしまったコーヒーから手を離すと、アスカはホテルのロビーに掛かる時計に目をやった。もうすぐアスカ達の待ち人が来るはずである。

 

 時間は7時5分。待ち合わせが7時丁度なので遅刻であるが、生憎欧州育ちのアスカにとって5分や10分は誤差の内。コーヒーを淹れなおして貰おうかとスタッフを探すと丁度待ち人がやって来た。

 

 

 「Guten Morgen ミサト、久しぶりね」

 

 「おはよう、アスカにレイ。ちょっち遅れちゃってゴメンね」

 

 「気にしてないわ。それよりミサト、早く行きましょ」そう言ってアスカはテーブルに置いてあった帽子をかぶる。

 

 アスカの今日の服装は臙脂色(えんじいろ)のジャケットに黒のパンツ。3月と言ってもまだ寒いドイツに合わせた服装だが、今日の日本にも丁度良い。対してレイは白いワンピースにブルゾンのアウターと少しミスマッチな組み合わせだが、美少女が着れば何を着ても似合うものだ。

 そんなレイは、ミサトを認識したともまだボケーッと座ったままだ。

 

 「ほら!!レイ、何時までボーッとしてんの。置いてくわよ!!」

 

 仕方なくアスカがレイの手を引き立ち上がらせると、そのまま手を繋いで会計を済ませたミサトのところに向かうのだった。

 

 

§ § § § § §

 

 「どう?アスカ、久しぶりの日本は」

 

 能力測定施設へと向かう道中、ミサトの運転するアルピーヌ・ルノーA310は筑波の街を通勤時間にも関わらず縫うように走っている。

 

 「ん? 相変わらずゴチャゴチャしているわ。しばらくここで暮らすと思うと、やんなっちゃう」

 

 「学園都市はこことは違うわ。車も規制されているから渋滞もないし、交通網がもっと発達してるからストレスもない。……ただ、私のルノーを排ガス規制で弾いたのは未だに許せないけど。おかげでこんな時にしか運転できないわ」

 

 「アイツは元気でやってる?」

 

 「アイツって、伸司くんのこと?」

 

 「そ。一応幼なじみなんだし、どうしてるのかなって。……って、別に心配してたとかじゃないんだからね。最近メール寄越さないから一応気に掛けてやろうかなって、一応」

 

 「ふふ。シンちゃんねぇ……最近はアスカからメールが来なくなった、ってよく泣き言いってるわ。まあでも 霧ヶ丘で頑張ってるみたいよ。最近は常盤台のエースとも仲良くしてるみたいだし」

 

 そうミサトが言うと、アスカの顔が少し曇る。ふーん、という返答の裏にある物を読み取りミサトはしたり顔をした。しかしアスカはそれに気づかない。

 

 「常盤台のエースって、あの学園都市一位の御坂薺?」

 

 「そう、今人類進化研究所に協力してくれているの。唯さんや碇所長も彼女のおかげで大分研究がはかどるって」

 

 「へぇー。でシンジもその娘にデレデレってわけね」素知らぬ振りをしてジャケットのポケットに両手を突っ込むアスカ。それは彼女が不機嫌なときにするポーズでもある。

 

 ミサトもそれを見てアスカいじりを一旦止め、そろそろ目的地へ着くことを後ろで寝ているレイにも告げる。

 

 心地よく回るV6ターボエンジンのサウンドを聴きながら、久しぶりに愛車を運転した所為か、はたまたこれから起こることを想像してかミサトの気分は上々だった。

 

 

§ § § § § § § § § § § § §

 

 

 サミュエル空間受動式能力測定器による能力測定は、能力者のAIM拡散力場による空間の“歪み”を測定することによって能力の強さを測定する。イメージとしては山の等高線や点電荷の電場や気圧配置の図が近い。より強い能力は、当然空間の歪みも強いが、それだけではなく、能力の瞬発力、歪みの加速度もまた高くなるのだ。

 

 まあ、そんな偽学的な事はおいておいたとしても、サミュエル空間受動式能力測定器を用いた精密測定には、被験者もそれ相応の格好をしなければならない。僅かな金属、電波、果てはバクテリアレベルでの誤差を極限まで小さくするために、ナズナとユキトは病院服のような服と清潔な下着を着用し、一緒にエアーウォッシュのブースへと進んでいた。

 

 

 ナズナがブースの扉を開くと、そこには既に先客がいた。

 

 「あ。レイじゃない」と蒼い髪の少女を見たナズナが声をかけた。

 

 声を掛けられた少女は振り返ると、ナズナの顔を見て眠そうだった顔が一気に笑顔になる。

 

 「ナズナっ!! 久しぶり。ナズナもここでシステムスキャンだったんだ」

 

 「ええ。……もしかしてミサトが言ってた知り合いって、レイの事だったの?」

 

 「ミサトさんなら、さっきまで一緒にいたけど……」

 

 そしてしばらくナズナとレイが会話を交わすが、そこにナズナの名前を聞いた辺りからイライラしている少女が一人。

 

 「チョット、何よあんた達。今日のシステムスキャンは私とレイだけじゃなかったの?!」

 

 ナズナとレイの会話に横から割り込んできたアスカは腕を組んで横目でナズナとユキトを睨む。

 

 「自己紹介も無しなんて、良い態度してるわ。流石学園都市一位ね」

 

 明らかに喧嘩を売るアスカの言に、ナズナもムッとした態度をとる。

 

 「何?あんた。それを言うなら自分もでしょ!?」と腰に手をあてアスカに突っかかる。

 

 なまじ二人とも美少女で陽の気が強い性格だけに、ピリピリした空気が一気に熱を持つ。張り合って引き際を見失った両者は意地の張り合いを続ける。レイもアスカの機嫌が悪い理由に心当たりが無く、いきなりの展開にあたふたしている。

 

 しかし。

 

 「なァ。さっさと終わらせてェンだけど」

 

 スッっとナズナの前にユキトが割り込んだ。言葉としてはナズナとアスカに向けてだが、ユキトの視線はアスカに向けられている。

 客観的に見て喧嘩を売ったのはアスカであるし、ユキトとしてはナズナの見方をするのは当然だった。 

 

 急にユキトが割り込んできたことに対し、一歩引いたのはアスカだ。体格は別としてもユキトの身長は175cm程度有り、四人の中では一番高い。それにレイと同じアルビノの容姿と、何となくヤバそうな雰囲気とが合いまり、今まである程度の修羅場を経験した事もあるアスカもここは一旦引くことにしたようだ。

 

 「ムゥ。……私は惣流・明日香・ラングレーよ。ベルリン能力総合研究アカデミーから今度関東学園都市の長点上機に転校することになったの。よろしくッ」フンッ!!と言い放つアスカ。

 

 「あなたが、ベルリンの能総研の……。申し遅れました。私は御坂薺。常盤台高校3年だから貴方がレイと同年ならタメって事になるわ。よろしくね」

 

 アスカはそこでユキトにも自己紹介するよう視線を向ける。

 

 「オレは鈴科有希人だ」

 

 だが名前以外の情報のない紹介に面食らい、追求しようとするが、その前にレイが唯一面識のないユキトに対し自己紹介をした。

 

 「私、綾波零。レイって呼んで。ユキト」

 

 そこで丁度タイミング良く(タイミングを合わせたのかも知れないが)リツコの声でエアーウォッシュが始まるアナウンスが有り、四人は指示に従うのだった。

 

 

 

 

§ § § § § § § § § § § § §

 

 

 

 測定が一通り終了したのは丁度正午だった。まだ結果が出てはいないが、四人とミサト、リツコも含めた一行は昼食をとるため近くのレストランに来ていた。

 

 「だいたい、ナズナの能力はエネルギー放出の系統に偏向しすぎなのよ」

 

 モグモグとハンバーグステーキ定食を頬張りながらアスカが話す。初対面での刺々しさはなりを潜めたが、それでもまだナズナに突っかかっている。システムスキャンの時から、アスカの心はさざ波が立ったように落ち着かなく、それがナズナに当たるという行為につながっていた。

 

 「それはしょうがないわ。能力特性上の問題だもの。だから、私は小手先の技でもより多くの攻撃手段でそれをカバーしようとしてるの」

 

 ナズナも先ほどから投げかけられるアスカの振りに対して的確に言い返している。アスカが何故かイライラ(?)していることは何となくナズナも分かっているが、レイがどうすることも出来ないのに知り合ったばかりのナズナにはどうもしようがない。

 

 「でも、それならアスカの能力、絶対恐怖領域(ATフィールド)だって応用性に欠けるじゃない。最強の矛と盾と言っても、所詮対人戦レベルでしょ」

 

 ただ、アスカはバカではない……と言うより寧ろ、同年代の中で穎脱(えいだつ)した頭脳を持っている。よって普段にはない高度な言い合いが出来るという点でナズナはこの議論を楽しんでいた。

 

 「確かに、私の遠距離攻撃手段は少ないけど……別に無い訳じゃないわ」

 

 「私だって同じよ。防御が薄いのは認めるけど、全く手がない訳じゃない」そう言ってナズナは隣で面倒くさそうにステーキを切り分けていたユキトの最後の一切れにフォークを刺し、そのまま自分の口に運ぶ。

 

 「……オイ」

 

 「そもそも、個人差が激しい能力においてバランスを追求することがナンセンスだと私は思うの。アスカやレイの絶対恐怖領域(ATフィールド)はそう言う意味で希有な能力だと思うわ。霧ヶ丘学院の渚薫くんの発火能力(パイロキネシス)は防御という点ではLev.2の水流操作に劣るし、同じ碇伸司君の形質変化(メタモルフォーゼ)も攻撃という点において同様。能力者の優劣なんて視点によっていくらでも上下するじゃない」

 

 シンジの名前がナズナから出てきたことでまたムッとするアスカだが、そこですかさずレイが話題を変える。

 

 「そ、そういえば、ユキトの能力って何なの?」

 

 ナズナのトンカツを奪っている所に急に話を振られたユキトは、それを食べてからレイに答える。

 

 「一方通行(アクセラレーター) ベクトル操作で大抵の事は出来るンだぜ」

 

 「大抵の事?」

 

 「アァ」

 

 そう言うとユキトはお茶を飲んで一息吐く。

 

 「ツーか、俺以外に一方通行(アクセラレーター)の能力者ッて居ないのかよ」

 

 そう言われてレイは少し考えるが、答えが出なかったのかその方面についてのスペシャリストに意見を仰ぐ。

 

 和風定食を食べ終えたリツコは食後のコーヒーに丁度手を付けたところだった。

 

 「そうね、現在ユキト君以外でベクトル変換系統の能力が使えるのは、彼を含めても数人しか居ないわ。それも後の全員はLev.3以下。さっきの測定結果がまだ出ていないと言っても、ユキト君がLev.4以下とは考えられないから、ユキト君がその方面ではトップと言うことになるわ」

 

 「へぇ、凄いじゃないユキ」とナズナ。

 

 「うるせェ」ユキトはからかわれた事に対し素っ気なく応える。

 

 「でも一方通行(アクセラレーター)って何が出来るの?」と更にレイが尋ねる。

 

 

 そして会話の流れはそのままユキトの能力についての話題になるのだが、アスカだけはユキトの名前を聞いて別のところに思考を飛ばした。

 

 

 ——鈴科有希人、17歳。学校には通ってなくて現在御坂薺と同居中、か。学園都市で学生じゃない事も不思議だけど。そもそも何で急にナズナと一緒に住むことになったの?それに……さっきの測定でのAIM拡散力場の強さ。あんな力場を見たのなんて初めて……——

 

 アスカが思い出していたのはシステムスキャンでのユキトの測定だ。

 

 

§ §

 

 

 サミュエル空間受動式能力測定では、被験者は無音室のような360°を特殊なタイルで囲まれた部屋の中央でAIM拡散力場を限界まで出力する。その様子はモニターされており、控え室にいたアスカ達も中の様子を確認できる。

 

 先ほど、ナズナの測定も終わった。部屋の外からでも関知できる強力なAIM拡散力場には、アスカもナズナの能力を認めるしかない。サミュエル測定器の室壁はAIM拡散力場を外からも中からも通しにくい。唯でさえショートレンジのアスカの力場では出来ない芸当だ。

 

 最後はユキトの測定だった。ただ、正直アスカはユキトに興味はない。それは高レベル者はどうしても名前が知れ渡ってしまうし、能力のレベルに急激な上昇は無いからだ。ポッと出てきたようなユキトの能力などたかが知れている、そうアスカは思っていた。

 

 しかしユキトが測定に移ったとき、最初アスカは空調の設定を誰かが誤って変えてしまったのかと錯覚した。

 

 ——急に寒気が襲ってきたのだ。

 

 首の根本を押さえつけられるような、不可視の両腕で心臓をわしづかみにされるような、今にもそこに跪きたくなるような圧力を持った寒さ。

 

 アスカが、それがユキトのAIM拡散力場の余波だと分かったのは其れから一瞬後だった。

 

 

 そこからのアスカの記憶は曖昧だ。気づけばユキトの測定は終わり、四人そろって部屋を出ていた。

 

 

 しかし、アスカはこれだけは覚えている。

 ナズナとレイに続き測定室を出るとき、横に並んだユキトが言った言葉を。

 決して大声というわけでもないが、しかしそれはアスカの耳に良く届いた。

 

 彼は言ったのだ。

 

 「知ってッか? オレにとっちゃあAIM拡散力場のベクトルすら、唯の変数でしかネェ」あんまりオレを不快にさせるな、と。

 

 

§ §

 

 

 …………「アスカ」

 

 「アスカ!!」

 

 「!!」

 

 「どうしたの?アスカ、気分悪いの?」

 

 アスカが顔を上げると、レイやナズナが心配そうな表情でアスカを覗き込んでいた。ミサトとリツコも不思議そうな顔をしてアスカを見ている。

 

 しかし、アスカが真っ先に確認したのはユキトの表情だった。

 

 コーヒーを飲みながら窓の外を眺めているユキトの表情に変化は見られない。それを見た瞬間、アスカの心が何故か憤る。

 

 ——私が、こんな思いをしているのにッ!!——

 

 我関せずと、まるで人形のように。私の事は眼中にすらないのか。と、アスカの心の中の誰とも知れない自分が叫ぶ。

 

 それはユキトにとってみると、謂われない曲解だろう。そもそもユキトはまだ自分の能力の成長を把握できていない部分がある。彼にとって先ほどの出来事は「チョット悪戯してやった」程度でしかない。

 

 しかしドイツのアカデミーでアスカは常にトップの中の一人だったのだ。事、能力戦闘の分野においては、そのトップの中でもアスカとまともに戦えるのはほんの数人だ。アカデミーの生徒、教師だけでなく、出会う全ての人間がアスカに、アスカの能力に一目置いていた。だから……。

 

 だから、注目どころか意識すらされないという状態に慣れていない。それはアスカの矜持が許さない。

 

 そしてアスカの心はこうとも叫ぶ。

 

 ——いや、初めてじゃないわ。お母さんもそうだった——

 

 そう、慣れていない訳じゃない。忌まわしいだけ。母を思い出すから。

 

 ——忌まわしいんじゃないわ。怖いだけ——

 

 なのに……!!

 

 「アスカ!! もうホント変よ。どうしたの」

 

 また思考に捕らわれそうになったアスカは、レイの声で正気づく。

 

 「ゴメン、チョット考えごとしてた……それより、ミサト時間は良いの?」

 

 ごまかすようにアスカはミサトを急かす。確かに四人は昼食の後、後半のシステムスキャンがある。

 

 「そうねぇ、じゃそろそろ移動しましょうか」

 

 そして一行は次の試験場に移動し始める。レイの追求を躱すことの出来たアスカは一旦思考を止め、気分を入れ替えるためにさっさと外に出て行った。

 

 

 だが、アスカは気づかなかった。ふらふらと店を出るアスカの後ろ姿をユキトが目で追っていたことを。

 

 

 

§ §

 

 

 アスカが催していた不安という気持ちは、本来人間であれば誰しも持ち合わせる物だ。普通の人間は、いくら自分の力に頼ろうとも直ぐに自分ではどうすることも出来ない問題に直面する。そこで自分以外の他の誰かの力に助けられ不安と対峙するのだ。

 

 しかしアスカの場合、その不安の解決方法は自分の能力に依存することしかない。自分の力だけで問題を解決できてしまうからだ。そうして生きてきたアスカにとって、自分の能力を否定する要素、自分自身でどうすることも出来ない不安という物は、正しく死に至る毒だ。

 

 だが同時に、その毒は誰もが一人で克服しなければならない。

 

 ナズナやレイではアスカの不安に気づけない。なぜなら彼女たちの側には常に頼れる大人が存在したからだ。

 

 ミサトやリツコはそれを知っていて口を出さない。アスカを信じているからだ。

 

 そしてユキトは、知っている。強者として君臨し続け、誰にも頼らず不安を能力で抑圧し、そして誰にも頼れず一人の少女を救った先に破綻した彼なら。

 

 信頼し頼れる人がいるということの強さに気がつけるのは強者の特権だ、とユキトは思う。弱者は人に頼らなければ生きていけない。だから逆に何時も身近にいるその人達の恩恵に気づけない。人に頼らずとも何とかなってしまう強者こそ、人に頼るという行為から一番遠い分、その有り難さに気がつけるのだ。一度は破綻したユキトにそれを教えてくれたのはナズナだった。

 

 アスカはユキトから見ても強者の部類に入る。だからユキトは気づいてほしいのだ。アスカの周りには彼女を心配する人間が多くいることに。人に頼る為に自らの力を否定しなければならないジレンマ。二律背反のようで実に簡単なパズルの答えに。

 

 

 

§ § § § § § § § § § § § §

 

 

 2014年3月22日 午後2時

 

 筑波第一野外演習場北、試射場。だだっ広い草も生えていない不整地に、とってつけたようなプレハブの観測室。その外のテントにナズナ達四人とリツコはいた。

 

 

 システムスキャンは現在二本立ての試験内容で実施されることが多い。より高い精度での測定をするためには、能力自体の出力の強さと能力の種類を別にして測定した方が良いのだ。

 

 通常後者の能力の種類は省く事が多い。なぜなら能力の種類はそうそう変質する物ではないし、学校など多くの人間を検査するときには個別の測定方法が必要なので手間が掛かるからだ。

 

 しかし今回はユキトの能力測定に乗じてナズナ達も能力の指向性の検査を受けることになった。

 

 

 「それでは、貴方たちにはこれから指向性の測定をして貰うのだけれど……」試験実施についてリツコが説明するが、ナズナとレイとアスカは今まで何度もやっているので問題ない。よって説明はユキトに対しての物だ。

 

 「能力の指向性(directivity)は5つの系統に分類されます。Dir.A エネルギー系統、Dir.B 身体操作系統、Dir.C 精神感応系統、Dir.D 空間受動系統、Dir.E ケイオス系統。それぞれの系統への分類は主にその能力で何が出来るかによって分けられますが、優劣はありません。ナズナの能力、陽電子砲(ポジトロンライフル)ならDir.A Lev.5.5。アスカとレイの絶対恐怖領域(ATフィールド)はDir.E それぞれLev.4.5とLev.4。ユキト君のベクトル変換もおそらくDir.Eだと思われるけど、こればっかりはやってみなければ分かりません」

 

 そこで一旦言葉を切ると、リツコは無線を取り出した。

 

 「ミサト、準備は良い?」

 

 『オッケー。準備ばっちりよん』

 

 無線の相方はどうやらミサトらしい。試験に似つかない軽いノリが受信機から聞こえる。

 

 「何か質問は?」

 

 最後に確認と、ナズナ達も含めた四人に確認するリツコだが、質問が無いと分かると早速準備に取りかかる。

 

 

 先ず始めに測定するのはレイだ。

 

 レイの能力は絶対恐怖領域(ATフィールド)Lev.4。全世界にも数人しか居ない能力であり、レイは特に一番展開範囲が広い。その為この測定ではATフィールドの展開範囲を測定する。

 

 色々な観測器具が置かれた前にレイが立つと、レイは胸の前で手を組み目を閉じる。

 

 数瞬後、半球状の視認できる程強いATフィールドが、彼女を中心として半径10m程度に広がりレイを覆う。レイのATフィールドは彼女の髪のような碧瑠璃の色(へきるり、澄んだ空や水の色)をしている。

 

 しばらくしてATフィールドが消えると、次にレイは目を開き右手を高く翳す。すると開いた掌の中に一瞬にして構築された、ATフィールドによる構造体の槍が現れる。

 1.5mほどもあるその槍をレイは器用に数回取り回すと、次に槍投げの選手のようにATフィールドの槍を地面とほぼ並行に投擲した。

 

 槍は地面すれすれを重力に逆らうように進み、300m以上先にある的のど真ん中を射貫いた後、爆発し的もろとも木っ端微塵になった。

 

 「『……絶対恐怖領域(ATフィールド)発現範囲 10.2m……維持限界時間 11.4秒……射程 312m……初速 115m/sec……着弾速度 120m/sec……総合評価 Lev.4 Dir.E…………試験終了』」

 

 

 「ふぅ……」とレイが息を吐き出す。これで試験は終了だ。

 

 初めて見る能力をユキトも興味深そうに観察している。レイが戻ってきたところにナズナがタオルを渡すと、それを受け取りベンチに座る。

 

 続いてリツコはアスカを指名する。アスカの機嫌はまだ良いとは言えないようだが、それが試験の結果に左右するほどアスカの器量は小さくない。ジャンパーを脱いで丁寧に畳んでベンチに置き、指定の場所に行く。

 

 アスカの能力もレイと同じ絶対恐怖領域(ATフィールド)Lev.4.5。レベルの“.5”は特に殺傷に転化できうる能力に対してつけられる。

 

 アスカの試験内容はワンボックス車程度はある鉄の塊を使って行われる。先ずアスカは直方体の鉄塊の前に立ち、先ほどのレイと同じように手にATフィールドの構造体を創り出す。アスカが創ったのは大型の日本刀状の刀。レイ曰く「マゴロックス」という愛称らしい。赤みがかった刀身に同色の柄は、それだけで禍々しい。更にアスカから発される“気”とでも言うべき威圧感がその場を支配する。

 

 アスカは自身の身長よりも長い刀を、まるで重さなど感じさせない様に軽やかに取り回す。あまりの早さにナズナやユキトには何をしたのか分からなかったが、次の瞬間には鉄塊は中央で縦に両断されていた。

 

 「なッ!!」あまりの光景に思わず立ち上がりそうになるナズナ。隣のユキトですら目を見張っている。

 

 音を立てずに真っ二つになった鉄塊の一方を、アスカは刀を持っていない素手で殴る。しかし半分でも10トンは下らない重さの鉄塊だ。通常ならば動くどころか拳を痛めるだけで終わるだろうが、果たして、アスカが殴った(寸止めした?)鉄塊の片割れは、まるで巨大なハンマーに殴られた様に凄まじい音を立て吹き飛び、数十メートル先にズドンと落下した。アスカが鉄塊を殴る瞬間に明らかに周囲の空間が歪んでいたことからも、ATフィールドを応用した事は分かる。

 

 これには、先ほどの光景に驚いたナズナも更に度肝を抜かれる思いだ。あんな攻撃を食らえば、ナズナには対処のしようがない。欧州一の白兵戦力との噂は度々聞いたことはあったが、まさかこれほどとは、というのがナズナの感想だ。

 

 一方ユキトも未知の能力に対する対応を頭の中で巡らし楽しんでいる。30年前はユキトに対抗出来たのは、良くて当時第二位だった垣根帝督位だが、いやいやどうして面白い時代になったもんだとにやける顔は、ヤバい薬でも極めたように歪んでいた。

 

 

 そんな外野のことはなんのその、アスカは結果を確認することなく颯爽と戻ってきた。さっきより幾分機嫌が良さそうなのはストレスを発散できたためだろうか。

 

 

 「『……絶対恐怖領域(ATフィールド)発現範囲 1.7m……維持限界時間 1.1秒……強度 312KN……爆縮 421.2m/sec……総合評価 Lev.4.5 Dir.E…………試験終了』」

 

 

 アスカにはレイがタオルを渡した。ナズナは試験の準備に鞄から掌大の金属ケースを取り出す。そしてケースを開けるとそこには一対のイヤリングがあった。イヤリングの先には青い宝石が付いており、ナズナはその片方を取り出すとケースを鞄にしまった。

 

 「ナンだそりゃァ?」とそれを見たユキトが声を掛ける。

 

 するとナズナは、意味ありげな笑顔でユキトの質問をはぐらかし、まあ見ていなさいって、と言ってベンチを立った。

 

 

 ナズナの能力は応用性が高い。確かに防御面ではアスカの指摘通りのところがあるが、電子戦から戦略戦までこなせる能力は中々無い。バリエーションが多い分測定にも時間が掛かるが、今回の測定では特に戦略面での能力評価が行われる。

 

 

 ナズナが立つのは観測室から200m以上も離れた荒野だ。一人ぽつんと立っているその姿からは、この後何が行われるのかを想像するのは難しい。

 

 しかし試験開始の合図と共に、ナズナの周囲の様子が一変した。

 

 

 まるで太陽でも掴んだかのように、ナズナが胸の前で合わせた両手の平からは目映い白色光が迸る。それに伴ってナズナの周囲にはパリパリと電気が帯電し、現実離れした光景が広がった。

 

 あまりの眩しさにアスカとレイは手を翳すが、光のベクトルすら容易に偏向できるユキトは、ナズナの見せる光景を唯一人直視していた。

 

 ユキトの目には、ナズナの手の中に先ほど彼女が金属ケースから取り出したイヤリングの宝石が在ることが分かった。

 

 

 「エンゲルス・ツィマー(天使の部屋)よ」

 

 「アァン?」

 

 ユキトが横を見ると、サングラスを掛けたリツコがナズナを見ながらユキトの疑問に答えた。

 

 「御坂薺の能力、陽電子砲(ポジトロンライフル)は唯単に陽電子(ポジトロン)の対消滅を利用してレーザーを打ち出す事だけじゃないわ。彼女の神髄はその機械より精密なコントロールにある。今彼女がしているのは、手の中の球殻燃料ペレットにレーザーを照射してそれをプラズマ化の上爆縮、固体密度の数100−1000倍以上の超高密度状態を作り、そこからエネルギーを取り出す作業よ」

 

 いきなりの説明において行かれそうになるユキトだが、そこは彼、理解力の早さは常軌を逸する。

 

 「高圧プラズマの加速によるエネルギー抽出ッて……オイ、それレーザー核融合じゃネェか!!」

 

 「そう。彼女は単身で慣性核融合が可能なの。信じられないことに。……一回の核融合で彼女が抽出できるエネルギーは約50テラワット。核融合の最中のあまりにも現実離れした光景から、ナズナは別の呼称が幾つかあるわ。『Bluet(トキワナズナ)』、『Innocence』、『エンゲルス・ツィマー(天使の部屋)』はどれも彼女を表す言葉よ」

 

 「さすが学園都市一位ね。こうでなくちゃ」アスカがベンチから身を乗り出し呟く。

 

 「ナズナ……前よりも凄くなってる」レイも眩しそうに目をしばたたきながら注目する。

 

 「学園都市一位ネェ……クヒャ」ユキトは予想を上回るナズナの実力にニヤニヤが止まらない様だ。

 

 

 ナズナの核融合開始から約5分後、ナズナの周囲の電気と白色光が収束し始める。核融合を中断したのだ。

 

 そのままナズナは右腕を前に伸ばし、指先をピストルの形にする。

 

 

 そして。

 

 

 「……バン」ユキトの目にはナズナがそう言ったように見えた。

 

 

 しかし、その声はかき消される。ナズナの指先から伸びた青白い、レーザーと言うにはあまりに極太の光柱は、千の雷が同時に落ちた様な音を轟かせながら一気にターゲット群のある丘へ伸びた。

 

 レーザーが丘に達した瞬間、丘は蒸発。レーザーはそのまま減衰し、春の空に消えた。

 

 

 「…………ッ!!」

 

 「…………」

 

 「…………クヒャヒャ」

 

 

 アスカ達は言葉にならない圧倒的なナズナの能力に絶句する。リツコは既に計測モニターに齧り付きながら、助手達に檄を飛ばしている。

 

 

 数分後、ベンチへ帰ってきたナズナを迎えたのはアスカ達の人怖じした視線だった。まるで異物を見るような視線だが、ナズナはそれについては慣れっこだ。あの実験を見れば当然の反応だと思っている。

 

 だが一人、ナズナに物騒な笑顔を向ける人物が居た。

 

 「クック最高だったゼェ、ナズナ」と言ってナズナにタオルを渡したのはユキトだ。そして、彼は心底楽しそうにこう続けた。

 

 

 「だけどよォ。ホントの最強ッてのには、チョット足りネェなァ」

 

 

 ナズナの肩を叩きベンチから出て行くユキトを、ナズナは呆気にとられた目で追う。しかしユキトが少しでも自分を気遣ってくれたのだと思い、そしてそのぶっきらぼうな表現に、無意識に苦笑するナズナだった。

 

 

§ § § § § § § § §

 

 2014年3月22日 午後6時

 

 

 

 結論から言えば、ユキトはリツコにこっぴどく絞られる事になった。

 

 

 何せユキトが創った巨大な季節外れの積乱雲は、最終的に台風並みの暴風と多数の落雷を筑波全域に引き起こし、それに伴い筑波の高速データ回線が一時不通になるという災害をもたらしたのだ。

 

 責任追及のお咎めこそ無かった物の、研究者にしてみれば犯罪と言うか戦犯物だ、というのはリツコの言だ。実際落雷によりデータが飛んだ研究所も在るという。

 

 またミサトは未だに関連諸施設で復旧への対応に四苦八苦しているし、リツコも直ぐにそちらに向かわなければならない。

 

 という事で、今日ミサトの運転で帰る予定だったのが、アスカとレイも含めた四人で電車で帰ることになったのだ。

 

 

 「いやぁ〜ユキも気をつけなきゃあダメだよ〜」

 

 何故か上機嫌にユキトの背中をバシバシ叩くナズナ。自分も測定器を壊しているため親近感が沸いたのかも知れない。

 

 「ホント。男子ってがさつだわ」それに便乗するアスカ。どうやらナズナとユキトのことで悩むのは止めたらしい。今は付きものがとれた様に筑波のショッピングモールではしゃいでいる。

 

 「別にユキトが悪いだけじゃないと思うんだけれど。…………ごめんなさい、こんな時どういう顔して良いか分からないの」

 

 「も〜レイったら。笑ってやれば良いのよ、こんな奴!!」レイのフォローもナズナが全て潰して行く。

 

 「……チッ」当の本人は、ズボンのポケットに手を突っ込んでふて腐れている。リツコに絞られたことよりも、急に強力になった自分の能力を制御しきれなかったことに苛ついているのだが、周りの女子どもはそんなことお構いなしに騒いでいる。

 

 女三人集まれば、というやつだ。

 

 

 その後もあーだこーだとナズナ達は喋りながらショッピングモールの店を冷やかす。そこへどこからか10歳くらいの女の子がナズナのところに駆け寄ってきた。

 

 

 「おねぇちゃん。おねえちゃんは、みさか、なずなさん、ですか?」

 

 辿々しい言葉でナズナに話しかける女の子。髪をツインテールにした可愛らしい子で、熊のぬいぐるみを両腕に抱えているところはとてもチャーミングだ。

 

 思わずナズナやレイはほほえみ、アスカもしゃがんで女の子と視線を合わせる。

 

 「どうしたの?私がナズナだけど」とナズナが返答すると、女の子は途端に嬉しそうな顔をして、何か言おうとした。

 

 しかし、女の子が何か言う前に、急にナズナ達の前の人だかりが騒がしくなり、人をかき分け一人の男がナズナ達の方へ駆け寄ってきた。

 

 

 その男の手には「ピストル!!」レイが叫ぶ。

 

 レイが叫ぶよりも早くアスカは男を取り押さえるために腰を低くして走り出す。

 

 ——パン!パン!

 

 二発の弾丸がアスカに向かう。ショッピングモールはその銃声で一瞬にして阿鼻叫喚と化した。

 

 

 アスカに放たれた弾丸はアスカの頭部と腹部に向かって正確に打ち込まれた。

 相手はプロだとアスカは判断するが、アスカの足は止まらない。

 

 なぜなら——弾丸がアスカの前で不可視の壁に激突したように弾かれる——

 

 「私だってプロなんだからっ!!」

 

 アスカの右拳が男の腹に吸い込まれる。

 

 「ガァハッァ!!」

 

 どうやらATフィールドは使わなかったらしい。数メートル飛んだだけで男は生きて原型を留めている。しかし、内蔵を損傷したらしくもう戦闘は出来そうにない。

 

 男に注意深く近づくアスカ。そしてその後ろにバックアップを兼ねレイが付く。

 

 アスカは男の両腕を押さえ、レイがそこにATフィールドの手錠を掛ける。これで男はもう何も出来なくなった。

 

 ほっと一安心するレイだが、アスカは少し引っかかりを感じた。

 

 

 ——妙に上手く行きすぎだ——

 

 咄嗟の判断で急所を狙えるようなプロならば、もう少しスマートなやり方もあったはずだ。

 

 そう思いアスカが男を注視すると、男はナズナ達の方を見て確かに笑った。

 

 正確には、ナズナと一緒にいる、女の子を見て。

 

 

 「!!  ナズナァ!!」

 

 咄嗟に叫んだアスカだが、既に、女の子の持つ人形が周りの空間ごと歪んでいく。

 

 「ッ!!」瞬時に判断を行動に移し、女の子の人形を取り上げ投げ捨てようとするナズナ。

 

 

 しかしもう遅すぎた。

 

 ——間に合わないッ!!——

 

 

ナズナの目の前の熊のぬいぐるみは、一気に小さくなったかと思うと、次の瞬間。

 

 ——母さんッ!!——

 

 

 …………!!!!

 

 

 ナズナの頭の中を走馬燈が巡る。幼い頃の記憶。母の臭い。目覚めたときに見つめる手。初めて能力を使ったあの日。そしてユキトとの出会い、ユキの顔……ああ以外とまつげ長いんだ。肌も私より白いし、赤い瞳もコレはコレでなかなか。ってなんでちょっと泣きそうな顔してるの?

 

 そう思いユキトの頬に手を伸ばすナズナ。

 

 ——あれ?走馬燈長くない? ていうかなんでユキの顔がこんなに近いの? え? えっ!?——

 

 「オイ」

 

 「…………」

 

 「オイ」

 

 「…………」

 

 「無視スンナ」とユキトはナズナのおでこにデコピンする。

 

 「イタ。何すんのよ」ナズナも同様にデコピンをする。

 

 「勝手に俺の前から消えンじゃねェぞ。ナズナ」

 

 「何よ、一人で生活できないくせに」偉そうだわ、とナズナは言う。

 

 先ほどの爆発の瞬間、絶望的な距離での爆発にナズナは思考停止になっていた。だが、ユキトはその一瞬で何とかナズナと爆発物との間に反射障壁を構築することに成功したのだ。

 

 

 直ぐに爆塵が晴れ、アスカとレイが駆けてくる。

 

 「ナズナッ!! 大丈夫!?」

 

 「ユキト!ナズナは?」

 

 アスカもレイも必死だ。何せ爆発の余波で周辺は滅茶苦茶になっており、爆心周辺は地面が抉れるほどだった。幸い周辺の人はレイのATフィールドで無事だったが、爆弾を持って投げ捨てようとしたナズナは庇いきれなかった。

 

 特にレイはナズナが咄嗟の防御の手段を何も持ち合わせていない事をよく知っている。それ故、いくらナズナの能力が秀でているとは言え背筋が凍る思いだった。

 

 

 「レイ、アスカ! あなたたちこそ大丈夫? 私はナンデか知らないけど生きてるわ」

 

 ナズナは今になって震えが来たのか、声に元気がない。しかしナズナの声を聞き、大事はないことが分かると、レイもアスカも一先ず安堵のため息を吐く。

 

 「それにしても、あんたバカァ? 防御の手段も無いのによく爆弾抱えて走り出すわね」全く信じらんない。とアスカが愚痴る。

 

 「なずなぁ……。うぅ」レイは既に半泣きでナズナの手を取る。

 

 しょうがないなぁ、とナズナがレイの頭を撫でていると、ふと、自分の今の体勢の事が気になった。

 

 先ほどからどうも身体の力が入らない。それはさっきのショッキングな体験で腰が抜けたのだろうが、それならば何故自分はレイの頭を撫でていられるのか。そもそも今自分の腰と頭を支えてくれているのは何なのか……いや、誰なのか。

 

 そんな事など、右を振り返れば直ぐ分かる。

 

 ナズナがレイから視線を外し右を向くと、そこには自分をお姫様抱っこのように抱くユキトがいた。

 

 

 「ッツ〜〜〜!!」

 

 思わず赤面するナズナだが、腰が抜けているので離してという事も出来ず、警察や救急車が来るまで結局ユキトに抱かれていたナズナだった。

 

 

 

 

§ § § § § § § § §

 

 

 関東学園都市理事会。それは学園都市を束ねる最高機関にして、同時に世界に数ある能力団体のトップでもある。WAOですら学園都市理事会の承認無しでは物事を進められないのだ。

 

 その関東学園都市理事会の会長、会長の中の会長とも言うべき存在がキール・ローレンツその人である。

 

 彼はアレイズター亡き後、理事長職を継ぎ『学園都市運営の透明化』『暴力組織一掃』をマニュフェストとしその後20年余理事会長を勤め上げた凄腕である。

 

 

 そのキール・ローレンツを筆頭に今、学園都市内のどこかの会議室で理事が集まり極秘の会議が執り行われていた。

 

 

 「今回の御坂薺をターゲットとして行われたテロは、その工作員を尋問した結果、やはりMalleus Maleficarum(マレウス・マレフィカルム)主導である事が分かった」

 

 「やはり奴らか。Malleus Maleficarum(マレウス・マレフィカルム)、『魔女に与える鉄槌』等と仰々しい名前のくせに、爆弾テロとは……正気を疑うな」

 

 「疑ったところで、奴らは元々正気ではない。数ある反能力集団の中でもずば抜けて危険な過激派だ。先日のキューバでの大規模デモも奴らが裏で糸を引いてる事は明白だ」

 

 「議論を戻そう。今回皆に集まって貰ったのは、他でもない。マレウスのターゲットとして学園都市の生徒が狙われた事だ。今までマレウスのターゲットに学園都市の生徒は含まれていない。彼らの理論では、子どもに責任はないという事だ。それが何故明確に狙いの分かるテロを仕掛けてきたのか」

 

 「状況からも、奴らは御坂薺を本気で殺そうとしている。ユーロのエースである惣流明日香と綾波零を計画的に引き離し、彼女に防ぎようのない距離で爆弾を仕掛ける。それも、少女を庇うという行動まで計算してだ」

 

 「このテロで死傷者が出なかったことは奇跡に近いですわ。否、奇跡としか言いようがないでしょう。結果的に薺さんは一方通行(アクセラレーター)……鈴科有希人により助けられていますが、後一歩で私たちは、学園都市だけでなく国際能力者集団の中でも名だたる御坂家を失うところでした」

 

 「彼女が死ねば、黙っていない奴らは多いだろう。後見人である垣根帝督氏を始め、人類進化研究所の有象無象どもやマスコミ、そして御坂美琴の関係者は余りに顔が広すぎる。ƒ(ファースト)時代の英雄達は、彼の上条当麻を筆頭に大きな影響力を持っている。彼亡き後もそれは変わらん」

 

 「今回のテロはおそらくマレウスの幹部であるMatthew Hopkins(マシュー・ホプキンス)の手の者でしょう。やり口が過去の彼のやり方そっくりですわ。子どもを使っただまし討ち。人の多い市街地で一般人の犠牲を考えないやり方。『魔女狩り将軍』のやりそうな事です」

 

 「ともかく、今後このようなことが無いよう都市内部の警備は強化せねばならん。そして、鈴科有希人の事だ。30年前のデータは少ないが、彼の強さは本物だ。何とかして取り込めないものか」

 

 「それに関しては次回の議題としよう」

 

 「それではごきげんよう」

 

 

 「ごきげんよう、諸君」

 

 

...to be Continued




アスカ=明日香の設定としては、やはりエヴァの様に完璧主義でそれ故不安定なメンタルを持ったナイーブな女の子という様なイメージです。

逆にレイ=零は完全に違う人と化しています。何処にでも居る一般的な感性を持った女の子という設定。

コレからもチラホラ出てくるかも知れません。貞本さん好きなので。

ベンツのNewA-Classでも出したろか。それとも士郎正宗さんも好きです。


一応作中で矛盾の少ないように頑張るつもりですが、変なところが在れば補完しておいて下さい。
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