プリヤ世界にアーチャーがいたら   作:アヴァランチ刹那

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ポケモンにハマりすぎて辛い。


そろそろプリヤヘルツですね。楽しみにしてます!




【1】嘗ての過ち

 

 

嘗て、子どもの頃からずっと思い描いてきた理想を叶えた男がいた。

 

 

親から憧れ、彼が受け継いだ大切な(りそう)だった。

 

 

夢は夢であるからこそ、美しいのだと言ったのは誰だったか。

 

 

今ならばわかる。その言葉は正しかったと。

 

 

確かに彼は英雄になった。

 

 

子どもの頃、養父から受け継ぎ、成りたいと望んだ正義の味方とやらになった。

 

 

誰一人傷つけることなく、あらゆる人を平等に救うという、人ならざるナニカ。

 

 

それに、彼はなった。

 

 

だが、その正義の味方というものの正体は、彼が思っていたモノとはかけ離れていた。

 

 

確かに、彼は幾らかの人間を救ってきた。

 

 

自分に出来る範囲で多くの理想を叶えたし、俗にいう世界の危機というものを救ったこともあったらしい。

 

 

そう、確かに、彼は正義の味方になったのだ。

 

 

その実態が、どれほど理想とかけ離れていたとしてもーーーー。

 

 

理想を叶えた果てに彼が得たものは、抱えきれないほどの後悔だった。

 

 

ーーーー殺して。

 

 

ーーーー殺して。

 

 

ーーーー殺し尽くした。

 

 

己が理想のために、無関係な命を地獄から溢れるほど切り捨て、その数千倍の人々を救った。

 

 

ーーーーーーそんなことを何度繰り返したか。もう彼は覚えていない。

 

 

彼は求められれば幾らでも戦った。

 

 

対価は要求せず、人を救いたいという一心で命を賭して戦った。

 

 

何度も。

 

 

何度も。

 

 

何度も。

 

 

キリがなかった。

 

 

何を救おうと、何を切り捨てようと。

 

 

救えない人間というものはどうしても出てきてしまう。

 

 

何度戦いを収めようとも、人間は新しい戦いを生み出し続ける。

 

 

より多く救うまでに、一を殺した。

 

 

目に見えるものだけの救いを生かし、その陰で多くの願いを踏み潰してきた。

 

 

歯を食いしばりながら。

 

 

今度こそ、今度こそ、今度こそと。

 

 

これで終わりだと。

 

 

これで誰も悲しまないだろうと、つまらない意地を張り続けた。

 

 

残念ながら、彼は器用ではなかったのだ。

 

 

ーーーーだが。

 

 

その願いが聞き届けられることもなく。

 

 

死の連鎖が終わることもなかった。

 

 

彼が生きている限り、争いがないところなどどこにもなかった。

 

 

何も争いのない世界を夢見ていたわけではない。

 

 

ただ彼は、自分の目が届く範囲、知りうる限りの世界では、誰にも涙を流して欲しくなかっただけだというのにーーーー。

 

 

全ての人間を救うことはできない。

 

 

そんなことは百も承知だ。

 

 

だが、彼はその結末を良しとは決してしなかった。

 

 

幸福という椅子は、常に全体より多くなることはなく、むしろ少なく用意されている。

 

 

その場にいる全員を救うことなどはできない。

 

 

ーーーーーーわかっている。

 

 

結局、誰かを犠牲に全体を幸福にするしかない。

 

 

ーーーーーーわかっている。

 

 

被害を最小限に抑えるために、この手は幸福の堰からこぼれ落ちる人間を、速やかに切り落とさなければいけない。

 

 

ーーーーーーそんなことは、わかっている。

 

 

そんな思考の矛盾に心を摩耗させながら、彼は走り続けた。

 

 

嘆き、足掻き、苦しみ。

 

 

そして、彼は一つの道を選んだ。

 

 

"正義の味方が助けられるのは、所詮味方した人間だけなんだ"

 

 

"いいかい?正義の味方というのはとんでもないエゴイストなんだ"

 

 

その言葉が脳裏を過ぎり。

 

 

ーーーーーー全てを救おうとして、全て失ってしまうなら、せめて。

 

 

一つを犠牲にして、より多くのモノを、助けることが正しい道だとーーーー。

 

 

その瞬間、彼は理想を叶え、同時に理想とは最も遠い場所に辿り着いた。

 

 

それからも彼は、理想を守るために理想に背を向け続けた。

 

 

だが、彼は終生の時に、世界と契約を交わした。

 

 

"契約しよう。我が死後を預ける。その報酬を、ここに貰い受けたい"

 

 

その後、彼は何かに取り憑かれたかのように様変わりして、本来救えるはずのない人々を助け出していた。

 

 

彼が救った命は、百にも届かないほど少なかった。

 

 

だが、彼らは間違いなく、世界に死の宣告を突きつけられた助けられるはずのない人々だった。

 

 

世界との契約の報酬。

 

 

つまりは、死ぬべき人々の救済を、報酬としたのだ。

 

 

"それで、誰も涙しないのならーーーー"

 

 

そんな想いを、胸に秘めて。

 

 

その対価は、死後も世界の抑止力となり、争いを治める体裁の良い奴隷のサイン。

 

 

だが、彼はそれでもいいと笑って受け入れた。

 

 

自身が死した後も人々を救えるのなら、それは願ってもない事だと。

 

 

生前の、人間であった頃の自分には救えなかったものが、世界の抑止力となりえればあらゆる悲劇を消し去れると。

 

 

そんな事を思って、彼は死後の安らぎを売り渡し、百人の命を救った。

 

 

これからは、もっと多くの人間を救えると信じて。

 

 

だが、それすら裏切られた。

 

 

失念していたのだ。

 

 

抑止力が呼ばれるということは、即ちそれは。

 

 

すでに救いようがない、死の匂いが充満する地獄だと。

 

 

人を誰よりも愛して、そのためになろうとして抑止力を受け入れた彼は、死んだ後も生前と同等、いやそれ以上に酷い人の醜悪さを見せ続けられたのだ。

 

 

そして。

 

 

ずっと色々なものに裏切られてきた彼は。

 

 

結局、受け継ぎ育んできた何物よりも尊いと信じた理想にすら、裏切られた。

 

 

 

 

 

 

 

 

☆★☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ん」

 

 

部屋に簾から零れ落ちた、暖かい春の日差しが入ってくる。

 

 

それを感じて、オレ(・・)は鉛のように重い瞼を開く。

 

 

途端、淡い光が目に差し込んできて、思わず再度瞼を閉じようという欲求に駆られる。

 

 

時刻はすでに5時過ぎだ。

 

 

今起きなければ、日課に間に合わないだろう。

 

 

スゥ…、と深呼吸をする。

 

 

朝特有の、澄んだ空気が肺に流れ込み、今までの空気を邪魔だと言わんばかりに押しのける。

 

 

それと同時に脳が覚醒を果たす。

 

 

今まで緩く回っていた歯車が、ガチリと噛み合わさる音と共に、体を布団から起こした。

 

 

「ん………ふぅ」

 

 

淀んだ空気を吐き出して、体の凝り固まった筋肉を適当に解す。

 

 

最後に手のひらを開閉させ、連結(・・)に異常がないか確かめる。

 

 

………よし、いつも通りだ。

 

 

ハンガーに予め掛けてあったジャージをササッと着替えると、部屋を出た。

 

 

手始めに洗面所に行き、蛇口をひねり洗面器に水を貯める。

 

 

ふと、オレは水に映った自分の顔を見つめた。

 

 

守護者の時となんら変わりない浅黒い肌。

 

 

昔の赤銅色の髪は見る影もなく、全て灰色に近い白髪に成り代わっている。

 

 

そこにいたのは、本来ここにいるべき衛宮士郎ではなく、英霊と成り果てたエミヤシロウ。

 

 

第5次聖杯戦争に於いて、遠坂凛の相棒(サーヴァント)を努めたアーチャーその人だった。

 

 

あの頃となんら変色のない顔に、思わず皮肉めいたため息がでる。

 

 

今から約10年前のことだ。

 

 

この冬木市で原因不明の大規模火災があった。

 

 

当時、この冬木市に住んでいた士郎はこの火災に巻き込まれ、そして衛宮切嗣という男に拾われた。

 

 

それが、本来辿るべき衛宮士郎の道だ。

 

 

だが、その時その場所にはイレギュラーが混ざっていた。

 

 

10年前の火災の日。

 

 

燃え上がる死の炎と、それに当てられて舞い上がる屍の臭い。

 

 

地獄とも言えるあの場所に、何故かはわからないがこのオレーーーー英霊エミヤが守護者として現界したのだ。

 

 

あの聖杯戦争が終わってからすぐの出来事であり、その時のオレはまだどんな状況に自分が立たされているのか把握できなかった。

 

 

ただ。

 

 

目の前には、今にも死にそうな衛宮士郎になるべき男がいた。

 

 

光を失った虚ろな目。

 

 

伸ばすところがわからない救いを求めようとする手。

 

 

誰かを助けようとして、結局自分も死にかけている、無様な嘗ての自分。

 

 

困惑した。

 

 

なぜこんなところにオレは呼び出された。

 

 

あの剣戟で、自分は答えを得た。

 

 

もう過去の自分を殺そうなどという考えはない。

 

 

なら何故、オレはこんなところにいるーーーー。

 

 

思考の迷路でグチャグチャになった頭で、もう一度少年を見る。

 

 

そこで、一つの疑問が生まれた。

 

 

その少年は、今にも目を閉じそうなほど弱っていた。

 

 

周りにはあのヨレヨレのスーツを着た虚ろな目のあの男はいない。

 

 

このまま放っておけば、この少年の命はあと数分もせずに霧散するだろう。

 

 

なら、この世界の衛宮士郎はどうなる……?

 

 

消えるのか?

 

 

正義の味方という、苦痛の道しかない理想を、切継から貰わず、ここで死して果てるのか。

 

 

それもいいだろう。

 

 

いや、むしろその方が少年のためだ。

 

 

嘗ての自分も思ったことだ。

 

 

もし、ここで切嗣に助けられなければ、こんな苦痛を味わわずに済んだのではないか、と。

 

 

そんな考えが、少年の元に行こうとする自分の歩を緩めようとする。

 

 

ーーーーーーいや、それは違う。

 

 

しかし、歩を完全に止めることはなかった。

 

 

一歩、一歩ずつ、ゆっくりとだが少年の元へ向かう。

 

 

確かに、ここで死した方が少年にとっては楽だろう。

 

 

自分のように、滅びの道を歩まずに済むのかもしれない。

 

 

だが、それは結果論にすぎない。

 

 

ーーーーそうならないと、そういう道をオレは前に見せられたのではないか。

 

 

この衛宮士郎がどの道を歩むのかなどしらない。

 

 

ただ、間違った道を歩むのなら自身が正そう。

 

 

死の危険が訪れるのなら、自身が身を賭して守ろう。

 

 

『決して…間違いなんかじゃないんだから……!』

 

 

そうだ。

 

 

決して間違いなどではない。

 

 

それが、何物よりも尊いと思い守りきってきた、衛宮士郎のたった一つの道なのだから。

 

 

そして、オレは自身の魂、霊核をその少年に写した。

 

 

しかし、そこで一つの誤算が起きてしまった。

 

 

すでに死を受け入れてしまっていた少年は、新しく入ってきたエミヤシロウの魂に体の中心を譲り渡してしまったのだ。

 

 

結果、元の衛宮士郎の魂は深層意識の奥底に眠りへ着き、エミヤシロウの魂が意識の中心に座った。

 

 

それからは、かつての自分と同じ道を辿った。

 

 

切継に拾われ、衛宮の性を貰い、そして。

 

 

このただっ広い武家屋敷に住んでいる。

 

 

 

 




次回は今週中に投稿したい、と思いたいです。


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