プリヤ世界にアーチャーがいたら   作:アヴァランチ刹那

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コンスタントに書いていく系作者


だけど全然前に進みませんね!なんででしょうね!(キレ気味


ちょっと説明多すぎですかね…?


まぁ、ライダー戦はまだまだ先になりそうですな


気長にお待ちください




【2】彼女だけの

洗面器に溜まった水を一掬いして、顔にバシャとかける。

 

キンと冷えた水に当てられ、脳が潤滑油を得た駆動系が如くフルスロットで動いていく。

水に濡れた顔を隣に置いてあるタオルで拭いて、玄関へ向かう。

 

そしてその途中、リビングを通った際にふとキッチンを見た。

 

 

『おはようごさいます、先輩』

 

 

何故か、そんな幻聴が耳にした気がした。

 

「………どうかしてるな、今日のオレは」

 

こめかみに手をやってかぶりを振る。

 

一体何を思ってあの少女を幻視したのだろうか。

そこにはいつも朝食を手伝ってくれた、紫髪の甲斐甲斐しい後輩はもういない。

 

あの懐かしい笑顔も。

 

桜柄のエプロンも。

 

姉から譲り受けた紅い髪留めも。

 

 

なにせこの身は弓道部にも入ってはいないし、喋ったことすらないのだ。

オレと彼女に接点など、欠片ほども存在はしない。

 

彼方はオレなんか露ほども知らないはずだ。

 

こんな幻を見る方がどうかしている。

 

自分がまだ衛宮士郎であったころ。

 

己の理想のために、殺した少女。

 

自分がどうなっていたとしても、どんな絶望の淵にいたとしても。

 

オレの前だけでは笑えた少女。

 

 

『よかった……。先輩にならーーーーいいです』

 

 

「……クッ」

 

 

ーーーー本当に、どうかしている。

 

いつまでも未練を拭えない自分の不甲斐なさにため息を吐いて、外へ出た。

 

未熟者にも程がある、いつまで後悔に身を囚われている。

自身の意志で殺したのだ。恨むことこそされ後悔するなど最早それは冒涜にすぎる。

 

…………いかんな、これでは。

 

気持ちを切り替えるように、深呼吸をしていつもと同じように、家の周りをグルリと一周するように走り始めた。

 

あの武家屋敷は、自身が切嗣から貰ったものだ。

 

 

拾われた当初、オレはてっきりあの無駄に広い武家屋敷に連れて行かれると思っていた。

 

しかし、実際に連れて行かれたのは想像していたのとは随分小さい、普通の一軒家。

 

 

『さぁ、今日からここが士郎の家だよ』

 

そんなことを言って切嗣は玄関の扉を開けた。

 

 

『おかえりなさいませ、旦那様』

 

 

玄関先には、白い頭巾とモノトーンのメイド服を着用した赤い目の女性がいて、スカートの裾を少し上げて礼をする。

 

衛宮士郎だったころ見たことがある。

 

確かイリヤに付いていたアインツベルンお抱えのホムンクルスのメイドだ。

 

そしてその後ろには、赤子を抱いた、白髪を長く伸ばした女性がいた。

 

淑やかさと中にどこか隠しきれない活発さが顔を出していて、どこか子供の心を残したまま大人になった人、という印象が湧いた。

 

だからだろうか。

白銀の女性を見たその刹那。

 

雪の少女をその影に見てしまったのは。

 

『おかえりなさい、切嗣』

 

『ただいま、アイリ』

 

そんな応答を、目の前の光景はさも当然のように済ませている。

 

そこで、一つの疑問が浮上した。

 

生前、あまり自分のことを話そうとしなかった切嗣から、自分には妻がいた《・・》と聞かされていた。

 

なぜ過去形なのかは、当時子供だったオレでも容易に理解できた。

 

死んだのではなかったのか?

 

それともあの世界とは別の運命なのか?

 

頭の中が掻き回されたように混乱していく。

 

そんなオレを尻目に、アイリと呼ばれた女性はにこやかに笑い

 

 

『これで2人目の子どもが出来るのね。私嬉しいわ』

 

 

その一言で。

 

後頭部にハンマーで殴られたような衝撃が走った。

 

体が硬直する。

 

意識が、思考が、頭が回らなくなる。

 

喉と唇が急速に水分を失い、干上がる。

 

『な、なぁ爺さん…。2人目って………どういう』

 

掠れた声で切嗣に問いかける。

 

嘘であって欲しいと。

 

そんな現実が存在するのかと。

 

少し様子がおかしいオレに首を傾げながら、切嗣はこう答えた。

 

『あぁ、そういえば士郎にはいってなかったね』

 

普段と変わらず、飄々とした態度で。

 

その言葉が、どれほどの重みを持っているかも知らず。

 

女性の腕に抱かれて眠る赤ん坊に目を向け、

 

 

『この娘が、士郎の妹になる女の子。イリヤだよ』

 

 

そう、心底幸せそうな顔で、答えた。

 

吐き気がする。

 

頭がガンガンして、意識が保てなくなる。

 

微熱が高熱になり、自然と息が早くなる。

 

手が、足が、体が震える。

 

こんな苦痛、初めてだ。

 

悪い夢を見てる。

 

ーーーーーー彼女が、生きている?

 

 

『……そう。結局、シロウはキリツグと同じ方法をとるんだ。顔も知らない誰かの為に、一番大事な人を切り捨てるのね』

 

愚直に理想を貫いた故の犠牲。

 

彼女の心を分かった上で、その思いを切り捨てた。

 

救えなかったものの為にも、これ以上、救われぬものを出してはならないと。

 

そう、心に言い聞かせて。

 

少女は悲しそうに目を伏せ、

 

 

『かわいそうなシロウ。そんな泣きそうな顔のまま、これからずっと、自分を騙して生きていくのね』

 

 

雪のように儚く、消え入りそうな笑顔で、自身が信じていたものに二度も裏切られた少女は静かに月下の公園を去った。

 

 

ーーーーーーイリヤが生きてる?

 

 

自分が見殺しにしたイリヤが?

 

それも、こんな幸せな家族に囲まれて?

 

 

なら。

 

 

『さよなら、シロウ』

 

 

ならば、あの死はなんだったのだ。

 

あの世界にも、こんな結末が。

 

こんな幸福があって良かったはずだ。

 

自分が家族を奪ってしまったあの少女。

 

 

あの、儚い笑顔は、何の為にーーーー。

 

 

腹の奥底から胃液がせり上がってくる。

 

胃が捩切れて今にも死にそうだ。

 

口元を手で押さえて切嗣を、メイドを、イリヤの母親を押しのけて、一直線にトイレに向かった。

 

そして、胸に溜まった全ての泥を出すように、便器に向かって吐き出した。

 

後ろで戸惑いの声が聞こえる。

 

 

ーーーーどうでもいい。

 

 

赤子の泣き声が耳を打つ。

 

 

ーーーーどうでもいい。

 

 

こんな幸福があるのなら、どうしてあの世界にあってくれなかった。

 

そうすれば、あの少女は幸せに生きられた。

 

たとえ寿命が極僅かでも、暖かい幸せを享受出来たはずだ。

 

 

ーーーーーー自分が、オレが殺してしまった、あの銀色の少女が。

 

 

それからしばらく、オレはその一軒家で過ごした。

 

切嗣とアイリスフィールは海外に出張という名目で家にいなかったが、メイドのセラとリーゼリットがいたお陰で生活には困らなかった。

 

 

ーーーーただ。

 

 

イリヤとだけは、オレが家を出るまでついぞマトモに喋ることすらなかった。

 

10年間そうだった。

 

あの銀髪とルビーのように紅い目を見ていると、どうにもあの少女と重ねてしまい罪悪感と自己嫌悪に苛まれる。

 

最初の一年間などそれはもう酷いものだった。

 

常時吐きそうな青褪めた顔で出歩き、ことあるごとに頭痛と眩暈がやってくる。

 

その頃の友人曰く、眉を顰めて如何にも機嫌が悪いです、と言わんばかりだったらしい。

 

自分のメンタル面にため息が出る。

 

だが2年も経つとだいぶ落ち着いては来るもので、最初に周りの状況を把握することから始めた。

 

やはりこの世界とあの世界はまったくの別物であり、ゼルレッチ卿が定義して行使していた第二魔法の根幹ーーーー数多ある合わせ鏡の一つなのだろう。

 

証拠に、イリヤを遠目から見ていた様子では、あの雪の少女のように成長が著しく阻害されているということはなく、むしろ極普通の小学生として育ってはいる。

 

性格も、あの天使と悪魔を足して2で掛けたような気難しいものではなく、まさに天真爛漫といった明るいもののようだった。

 

しかしそのイリヤでさえ、オレに自分から話しかけることもなかったし、此方から話すこともなかった。

 

思い返せば10年間同じ屋根の下だったというのに、簡単な挨拶ぐらいしか交わさなかった兄妹というのも珍しいだろう。

 

どこかイリヤを遠ざけているかのような振る舞いを見せていたオレと、そんな兄に苦手意識を持っているであろうイリヤ。

 

そして、そのギクシャクしていた関係に拍車を掛けていたのが、投影魔術の鍛錬による肌と髪の変質だろう。

 

我ながらなんとも融通の利かない性格だと思うが、最早習慣になってしまってるので鍛錬をやらないと落ち着いて眠れすらしないという、なかなかどうして困ったものだ。

 

徐々に肌と髪が変色していき、そこら辺の路地裏で屯している不良のようになりつつあったオレに、イリヤは益々苦手意識を持ったようで、ついぞ食卓以外では顔を合わせることすら少なくなった。

 

そして、高校生になり穂群原に入学が決定した時に一人暮らしをすると遠方への仕事から少しだけ帰ってきていた切嗣に呟いた。

 

当然止められたし、セラやリズ、挙句アイリスフィールは終始にこやかだったが目が1ミリたりとも笑ってはいなかった。

 

 

あれほど背中に怖気が走ったこともあるまい。

 

 

だがついには切嗣が根負けして、あの武家屋敷を当てがってくれた。

 

そして、オレは今ここにいる。

 

時々セラが一人暮らしはちゃんと出来ているか?などという名目で、料理の腕や掃除、整理整頓などをキチンと見にくるし。

 

リズはリズで時たま貯蔵庫から大量のお菓子を取り出して、我が物顔で食べていたりする。

 

きっと彼女らなりにオレを心配してくれているのであろう。

 

…………リズに限っては断言はできない。

…………そういえばセラも、オレの料理を食べてギリギリと歯噛みして恨めしげにこっちを見てたような…。

 

…………まぁ深くは考えなくていいだろう。

 

 

だが。

 

 

あの時からーーーーイリヤが生きているとわかった時から、心に誓ったことがある。

 

この日常は何人たりとも壊させない。

雪の少女が、生涯口にしなかった理想がここにあったんだ。

 

もう、彼女から何かを奪うような真似はさせない。

 

その結果、この体が砕け散ろうとも。

 

必ず。

 

オレだけは、最後まで彼女の味方でいよう。

 

 

ーーーー彼女だけの正義の味方になる。

 

 

世界にとって悪になろうとも、彼女を守れるのなら何度でもこの手を血で染めよう。

 

それが、何もかも奪い去ってしまったオレに出来る唯一の償いだ。

 

 

 

 

 

 

 


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